カチカチのぷにぷに包み



<オープニング>


「えー、微妙な外見のモンスターが現れたのですが、どなたか退治に行ってくれませんか?」
 百聞の霊査士・レグリア(a90376)は申し訳なさそうな表情でそう言った。
「このモンスターは石っころのようなカチカチのまんまるぼでぃをぷにぷにの透明な物で包んだような姿をしています。いったい元はどんな冒険者だったんでしょうね……」
 レグリアは首を傾げながらも説明を続ける。
「このモンスター、厄介なことに非常に頑丈でちょっとやそっとの攻撃ではびくともしません。おまけにどっちが前なのかすら分からないような外見でどこから攻撃していいのか、どこから攻撃してくるのかもわかりません。ただ、このモンスターは凍らせたり燃やしたりするのはそれなりに効果があるようで……ぷにぷに部分も身体の一部らしく毒や普通なら出血するような傷をつけたりすると意外に効果的なようです。その外見ゆえに単純に真正面からぶつかることは難しく、大変危険ですが……皆さんであれば何とかできると信じています」
 レグリアは一礼して冒険者達を送り出した。


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参加者
黒猫の花嫁・ユリーシャ(a26814)
全開・バリバリ(a33903)
吟遊詩人・アカネ(a43373)
言いくるめのペ天使・ヨウリ(a45541)
ゴロゴロ・サーディーン(a57418)
紫燕奏魅・レイ(a61133)
えきぞちっくますこっと・トミィ(a64965)
恋蒼の焔・トール(a68949)


<リプレイ>

●黒くて丸くて艶やかな
「丸いなぁ〜ん」
 全開・バリバリ(a33903)は極々当たり前の事実をそのまま告げる。荒野の真ん中に佇む黒い丸。艶やかに光るその球体はとにかく丸かった。
「堅固な身体に身軽な外幕、防御困難な攻撃ですか……生前は、翔剣士か重騎士と言ったところでしょうか?」
 小首を傾げ、無垢なる茉莉花・ユリーシャ(a26814)はそんなことを思う。
「……丸いなぁ〜ん」
 バリバリはゴロゴロ・サーディーン(a57418)の姿を見て呟く。両腕を組み、威風堂々とハードボイルドに佇むサーディーンの姿は黒く艶やかなカラスの濡れ羽色。
「なぁ、ゴロゴロ、ひょっとしてあのモンスター、お前の親戚か何かなぁ〜ん?」
「フ、モンスターが元はどんな冒険者だったか、などと考える事に意味は無い。昔がどうであろうと、今あるのは民に有害な存在である事実だけだ。そこに同情も感傷も入る余地は無い、ただ斃す、それだけだ」
 バリバリの言葉に眉一つ動かさず、サーディーンは真っ黒になるまで煮詰められた卵のようなそのひたすらに丸い身体で、ハードボイルドに呟いた。滝のような汗が全身を覆いつくしているのは暑さの為である。
「以前は同じ冒険者だったのにこんな形で戦うのは何処か遣る瀬無いですね。モンスター退治、というのは何度やっても慣れないものです」
 紫燕奏魅・レイ(a61133)はどこか影を含んだ表情で告げる。標的に向けてサーベル深い感情はその場の誰にも読み解くことは出来ない。
「ま、冗談はさておき、見た目が冗談でもモンスターだから油断は禁物なぁ〜ん」
 バリバリは黒くて丸い物体に対して構えを取る。
「……以前とはいえ同じ冒険者として、終わらせましょう」
「生前がどうであれ、お覚悟を」
 レイとユリーシャも同様に黒くて丸い物体に対峙する。
「どっちを向いてるか分からないってのも、逆に常に正面だって考えるなぁ〜ん」
「……と言うか、あの丸さ、もし万が一にでも、実はうちの親族の誰かがキマイラになった挙句モンスター化してた、なんて話だったりしたら面倒だからな、さっさと片付けてしまおう」
 バリバリとサーディーンは互いに向き合い、そんなことを思う。
「想定範囲内だ、任務遂行に支障は無い……が、敵は向こうだ」
 自分に向けられた武器の向こう側を指差し、サーディーンはあくまでもハードボイルドに言い放った。
 その指先では荒野の真ん中で丸々とモンスターが佇んでいた。

●硬くて速くてぷにぷにな
「今回の敵は……ぷにぷに流動しててきしょい」
 えきぞちっくますこっと・トミィ(a64965)はぼそっと呟く。ふわもこであればいろいろと考えもするが、ぷにぷにで不気味に流動するモンスターには嫌悪感くらいしか湧いてこない。
「変なモンスター……とはいえ、強敵ですね」
 永焔の・トール(a68949)は静かに告げる。
「真っ向から叩き潰す心構えでぶつかれば不意を打たれる事も無いなぁ〜ん」
「硬そうに見えるけどそんなの関係ない」
「『単純に真正面からぶつかることは難しく、大変危険』って言うけど、寧ろどこが前かも分からないのに変に小細工を弄しようとする方が中途半端に危険なぁ〜ん」
「どっち向いてるかわからないけど小細工なんて不要、真っ向に正面から攻撃です」
「だったら半端な事はせず、漢なら真っ向勝負なぁ〜ん」
 バリバリとトミィはそう言いながら配置につく。バリバリは正面に、トミィはその後ろに陣取る。
「油断と容赦は切り捨てて全力で退治出来るよう働きます」
「油断せずに、ぶちのめしに行きましょう」
「もし自分がモンスターになってしまったら理性が無くともそれを望むから」
 レイは前にトールは後ろに移動する。同時にレイはイシュージョンステップを踏み、トールは黒炎覚醒してその力を我が物として制御下に置いた。
「攻めは最大の防御なり、じゃ」
 言いくるめのペ天使・ヨウリ(a45541)はディバインヒールを使い、仲間達の武器を強化していく。
「高らかなぁ、凱歌でぇ、がんばるのですぅ」
 吟遊詩人・アカネ(a43373)はそう宣言し、黒炎覚醒をする。黒き炎がその身を包み、ディバインヒールの光と混ざり合う。
「前衛の方々は頼みますよ。みなさん強いですし平気ですよね」
「返せぬまでも、受け流すくらいは……」
 トミィの言葉にユリーシャはそう答え、ヨウリと自分に鎧聖降臨を使ってから無風の構えを取る。
「永遠と無限をたゆたいし……全ての心の源よ。尽きる事なき黒き炎よ。我が魂の内に眠りしその力……無限より来たりて……今、ここに解き放たんッ!」
 トミィも黒炎覚醒し、戦闘準備を整える。キルドレッドブルーの力も加わり、魔炎と魔氷を身に纏った。
「漢なら拳で語るなぁ〜ん!」
 最初に動いたのはバリバリだった。破鎧掌が当たるが、モンスターは吹き飛ぶこともなくその場でその一撃を受け止めていた。
 ユリーシャはスーパースポットライトの光を放つが、正面ではなかったのかまったく効果がない。反撃とばかりに体当たりしてきたモンスターの一撃は巨大な隕石にぶつかった様に感じるほど重く鎧聖降臨で強化されているというのに深手を負わされる、無風の構えで跳ね返すことも出来なかった。
 アカネの放った偉大なる衝撃やレイのソニックウェーブ、サーディーンの貫き通す矢も流動する身体に阻まれ、受け流される。バリバリの一撃こそ僅かにダメージを与えはしたが、それ以外はほとんど通じていない。
「いくら硬そうでもこれは防げないよね」
 トミィは無邪気に告げると、詠唱を始める。
「凝縮されし虚無の手よ敵を砕け」
 虚無の手がモンスターの身体に触れると、そこがごっそりと抉られた。すぐに流動している部分がそこを覆うが、その向こう側の黒かった部位がさらにどす黒く変色している。
「喰らいつけっ!」
 トールの放ったスキュラフレイムが変色した部位に喰らいつくと、流動体が不気味な色を伴って流れ出し、その身を炎が包み込んだ。
 ヨウリのヒーリングウェーブがユリーシャの傷を僅かに癒すが、完治には程遠かった。
 バリバリの指天殺が吸い込まれるようにモンスター触れ、そのまま連続で攻撃を叩き込む。どうやらこのモンスターは心技体のバランスで言うところの心が無意味なまでに低いようだ。それも致命的なほどに。
 ユリーシャは森羅点穴で自らの傷を癒し、再び一撃を受けて傷を負う。
「揺らぐ大地をぉ、冷ます豪雨ぅ、そしてぇ、白い光がぁ、雲間から伸びるとぉ、涼を運ぶぅ、風が通るぅ……」
 アカネの高らかな凱歌がユリーシャの傷を癒す。僅かばかり追いつかないが、それでも一発程度なら十分耐えられるくらいには治っている。
 レイのソニックウェーブはやはり流動する身体に阻まれて逸らされ、サーディーンのガトリングアローもその無数の矢の全てが体外に受け流される。
「これでもくらえ」
 トミィの放ったブラックフレイムが氷と炎でモンスターを包み、トールのスキュラフレイムが追い討ちをかける。流れ出る流動体の勢いが増し、その身を包む炎がさらに火力を増していく。
 ヨウリは地道にユリーシャの傷を癒す。
「毒や出血は効果的って事だけど、マヒはどうかなぁ〜ん?」
 バリバリそう言いながら剛鬼投げを試すが……当たらなければどうということはないとでも言うように掴まれた部位を流動させ、回避する。
 ユリーシャは構えなおし、モンスターの攻撃を衝撃波に変えて今度こそ跳ね返す。
 アカネの眠りの歌がモンスターの動きを止め、レイのソニックウェーブがモンスターの身体を貫く。
 これまでの攻撃で当たりにくいことを悟ったサーディーンはホーミングアローに切り替えて攻撃する。通常であればありえない曲がった軌道を取った矢は吸い込まれるようにモンスターに命中した。
 トールとトミィの炎がさらに勢いを増し、モンスターを包み込む。
「暑くなってきましたわね」
 冗談交じりに呟いたユリーシャの破鎧掌がモンスターを吹き飛ばした。
「こいつ、どっちが前か分からないけど、上下の区別はどうなぁ〜ん?」
 バリバリは仲間の影から肩を借りて飛び上がり、太陽を背にして上空から疾風斬鉄脚を打ち落とす。だが、流動する身体で滑ってそのまま地面に激突。目を覚まし、炎を鎮火したモンスターの一撃をもろに受ける。
 すぐさまアカネが高らかな凱歌で治療する。だが、やはり一人では治療が追いつかない。
 バリバリやレイ、サーディーンは地道に削り、トミィやトールはヴォイドスクラッチでアーマーブレイク状態にしてから炎でモンスターを包み込む。
 ユリーシャやヨウリ、アカネの治療が受けた傷を癒していく。
 一行の攻撃は確実にダメージを与えている。だが、モンスターがタフすぎるために中々決着はつかず、アビリティの打ち止めが始まっていた。
 トールはヴォイドスクラッチの変わりに腐食の呪いをかけようとしたが、まったく当たる気配すらない。
「お早めにぃ、倒れてくださいなのですぅ」
 アカネもブラックフレイムで援護し、火力を維持する。
 トミィのブラックフレイムは未だにその火力を損なうことなく猛威を振るっていた。
 ヨウリは回復手段が尽き、投網でモンスターを捕らえて手持ちの油で燃やそうとしたが……気付かれて即座に一撃を受け、あっさり撃沈。
 レイがモンスターをひきつけている間にユリーシャ達に運ばれ、ヨウリは戦闘区域外へ。
「大丈夫なのですか」
 トミィは当たり前の結果を目の当たりにしてそれを実行したヨウリに恐怖した。
「これが楓華武士の意地でござる」
 まだ息があった。とりあえず止めでも刺そうとしたのか、サーディーンの矢がぷすりと刺さる。ヒーリングアローの効果で傷は塞がっていくが、何度見ても見た目が怖い治療法だ。
 注目を受けていたユリーシャが倒れ、真正面(?)から戦いを挑んでいたバリバリも倒れた……おまけに特攻を仕掛けたヨウリも倒れた。だが、サーディーンには引くに引けない訳があった。
「それにしても、フェザーを使うからには翔剣士ベース、加えてこの丸さ……、うちの愚兄を彷彿とさせる……そう思うと、攻撃の手にもより一層の熱が入るというものだ」
 単なる私怨である。
 レイは何とかモンスターの攻撃をかわし、アカネも手薄になった前衛に移った。
 あと一人でも欠ければ撤退するしかない。そんな状況の中。
 アカネに特攻を仕掛けたモンスターの身体が炎と氷に包まれたままで崩れ落ちた。

●強くて不思議で不可解な
「当然の結果ですね」
 トミィはそう言ってからモンスターを興味津々といった様子で見つめる。
「やっぱりぃ、ウーズさんみたいにぃ、液体かぁ、ゼラチンだけがぁ、詰まっているのでしょうかぁ」
 アカネは最後の一撃を受けて痛む身体を押して、その辺りに落ちていた棒で突付いてみるが、予想と違ってゼラチン質なのは表面だけだったらしい。
「さようなら、次に会う時は同じ冒険者であることを祈ってます。……今度こそ、安らかに」
 半ば炭化したモンスターを埋葬し、レイは黙祷を奉げる。
「愉快な外見の癖に中々の強敵だったなぁ〜ん」
 バリバリも傷付いた身体でありながらも直立不動で立ち、モンスターの強さを称える。
「不思議なモンスターでした……固いんだか、柔らかいんだか……まあ、世の中広いということなのでしょうか」
 トールは首を傾げ、世の中色んなのがいるものだと改めて痛感した。


マスター:草根胡丹 紹介ページ
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重傷者:黒猫の花嫁・ユリーシャ(a26814)  全開・バリバリ(a33903)  吟遊詩人・アカネ(a43373)  言いくるめのペ天使・ヨウリ(a45541) 
死亡者:なし
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