≪腐敗の森ナビア先遣隊≫Defenser M



<オープニング>


●降下!
「くれぐれも、お気をつけて。活躍をお祈りしております」
 エル・メトラ・カリスでの歓待から一夜明けて。貪狼紳士・サイフォンから見送りを受けたナビア先遣隊は、第三層より第四層への移動を開始していた。
「……最初からあるなら出せってんだ」
 降下エレベーターの中で阿蒙・クエス(a17037)が苦笑いを浮かべる。
 実に百階分にも相当する深い深い穴蔵を一直線に降りる装置。よくよく考えれば当たり前だが、幾らノスフェラトゥがアンデッドを使役出来るからといって、毎度毎回あの長い道程を通過していた筈も無い。
「……ま、サイフォン卿とデスバリア卿の差……でしょうかね」
 紅焔揺白盾・ヨイク(a30866)はそんな風に呟いた。類推するにやはり最初のは何らかの『意地悪』であった可能性が高くなってきた。
「まぁ、言っても始まりませんけど……」
 月のラメント・レム(a35189)は曖昧で微妙な表情のまま続けた。
「……仮にこれがサイフォン様の『好意』だけを発端にしないとなると。
 この下で待っている相手は、余り楽しくない感じかも知れませんわね……」

●腐敗の森
 ノスフェラトゥの案内が前を行く。
「凄いね……」
 燬沃紡唄・ウィー(a18981)は、幾度とも知れない言葉を漏らしていた。
 第四層ナビア。陽が差し込まずどちらかと言えば荒涼とした地獄三層までの光景とは全く異なり、そこは動植物の宝庫であるようだった。どういう仕組みでそれらが生を保てているかは知れないが、『見た事も無い』、『ある意味不気味な』植物達が辺りを覆い、鬱蒼とした樹海を作り出している。
「それにしても……」
 辺りを油断無く見回しながら暁の幻影・ネフェル(a09342)が一人ごちた。
 その言葉の先を察して一同の誰からともなく苦笑いが漏れた。
 彼の言いたかったその先は――「マルヴァスですか」。
 案内役のノスフェラトゥによれば、これから先遣隊は天恵暗鬼・マルヴァスの元へ案内されるらしい。
 同盟冒険者にとっては、流石に因縁の相手である。自信に満ちたあの笑みと、術扇を自在に振るって敵軍を動かした彼の姿を思い出す程に複雑な感情は禁じ得ない。確かに友軍としてならばその能力に抜群の信頼のおける人物ではあるのだが。
「間もなくです」
 案内役が小さく声をかけた。
 鬱蒼とした樹海に切れ目のその先には、整地された数百メートルに及ぶ平地が広がっていた。
「何から何まで……」
「……懐かしい、と言うべきなのかナ」
 抜剣者・コウ(a38524)の言葉を黎旦の背徳者・ディオ(a35238)が繋いだ。
 彼等の目前には超ド級とも言うべきサイズの――『あの骨の城』が鎮座していた。

●マルヴァスの堅陣
「ナビア先遣隊です。只今、其方からの要請を受け到着しました」
 骨の城の奥深く。備えられた机に向かうマルヴァスを前に舞朱色・ベージュ(a90263)が頭を下げた。
「善哉、善哉。長旅、まずは御苦労。
 我が陣は諸君等一同を心から歓迎するもの也」
 書面より顔を上げたマルヴァスは恰幅の良いその体を一応正して先遣隊を眺め回した。値踏みするような調子である。
「ありがとうございます。
 それで……この後、我々はどうすれば?」
「ほほぅ、ほほぅ、ほほぅ。気力充実、戦意戦力――万事十全。素晴らしき哉。
 なれば、我が策達成が為に早速一つ頼まれていただこう」
 早々に本題を切り出したベージュの言葉にマルヴァスは満足そうに頷いた。
「我が陣はナビア戦線を後方より支える要衝也。
 前線、ペヨーテめに常戦力を送り届ねばならぬは必定なれど。敵もさるもの、その補給を滞らせんと執拗に強襲をかけてきよる。我が堅陣、惰弱な攻撃によって陥落する筈もなし。撃退するは容易けれど――消耗重なるも又事実。
 なればこそ、主等には我が陣の警戒防御を願いたい」
 マルヴァスの説明によればこの陣地では前線に派遣する為の強力な死霊兵の生産を行っているとの事である。謂わば『工場』に当たるこの陣地は、ノスフェラトゥの中核戦力の存在する前線より離れている。その為、マルヴァスが続ける決戦の為の戦力の蓄えは、都度発生する敵の妨害に悩まされているらしい。折角生産した死霊兵が消耗されるという不毛な繰り返しが続いているとの話であった。
「勇猛果敢、獅子奮迅、鉄壁堅牢、即ち無敵。
 我が堅陣とかかる精鋭重なれば、永劫不落は間違いなき也」
 術扇を開きひとあおぎ。
 底冷えする瞳のマルヴァスは、そう言ってかんらと笑っていた。


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参加者
赫風・バーミリオン(a00184)
暴風の・オーソン(a00242)
壊れた弱者・リューディム(a00279)
ファイエリィ・シエヌ(a04519)
浄火の紋章術師・グレイ(a04597)
風の・ハンゾー(a08367)
白骨夢譚・クララ(a08850)
暁の幻影・ネフェル(a09342)
獅天咆哮・デューク(a10704)
白鴉・シルヴァ(a13552)
紅焔揺白盾・ヨイク(a30866)
月のラメント・レム(a35189)
黎旦の背徳者・ディオ(a35238)
大図書館・エクストラ(a37539)
伐剣者・コウ(a38524)
太陽抱く光の乙女・ミレイナ(a39698)
四天裂く白花・シャスタ(a42693)
濃藍の鷲・キースリンド(a42890)
赤髭重騎士・ウィンストン(a53335)
ラトルスネーク・ングホール(a61172)


<リプレイ>

●嵐の前の……
 僅かな圧迫感を感じる事を禁じ得ない――高いようでいて低いソラ。
 地上とは異なるぼんやりとした光に照らされて、その巨城は佇んでいた。
「……まさか死霊工場を防衛する日が来ようとはな」
 威容の光景を一瞥した赫風・バーミリオン(a00184)の一言には、万感が篭っていた。かつてあの荒野で見た光景――忘れ得ぬ埃っぽいあの戦場を思い出した彼の口元には、苦笑いともそれ以外とも言い切れぬ曖昧な何かが浮かんでいる。
「こんな事になるとは、二年前には予想もしなかったな」
「……材料になるのだきゃ御免被りたいがなぁ」
 四天裂く白花・シャスタ(a42693)が、豪放な暴風の・オーソン(a00242)が頷いた。
 第四層ナビアに到着した先遣隊――彼等をはじめとした三十数名が今臨むのはこのアンデッド生産拠点、天恵暗鬼・マルヴァスが居城『白骨八陣』の防衛任務だった。
「しかし、まさか骨の城を背にして戦う日が訪れるとは。
 ……正直、不思議な気持ちですホネー」
(「ええ。抵抗はあります。抵抗はありますが――」)
 読めない表情で言った白骨夢譚・クララ(a08850)の横で、紅焔揺白盾・ヨイク(a30866)がそっと目を閉じた。
 城内をくまなく案内された訳では無い。城内の敷地に幾つか点在する小さめの骨城の中で行われている『何か』を彼等は目撃した訳では無い。だが、それが概ね同盟の倫理観と相容れない行為であるのは容易に予想が付く。なればこそ、そんな彼等の行為を守るのは少し奇妙な感じがするのも否定出来難い事実である。
(「――得意な防衛戦で踏ん張れずに存在意義はあるだろうか? 
 いや、ない! 今はその防衛を目指し、全力を尽くすまでです――」)
 だが、それでも。このヨイクと同じく、概ね先遣隊員の意志は統一されている。ノスフェラトゥのやりようを賛美する気は無いが、ここに居る理由を考えて当然の如く任務を果たす――どういう形であれ同盟の代表たる彼等には、この期に及んでの迷いは無い。
「準備は大丈夫?」
 抜剣者・コウ(a38524)の言葉に何名かの仲間達が頷いた。
 白骨八陣、その防衛の為に先遣隊はそれぞれ警戒人員を割り振っていた。東西南北にそれぞれ朝昼夜の時間帯毎に三名ずつ。ローテーションを組んで固まって城壁の上に立ち、間断ない警戒に当たろうという寸法だった。
「状況はともかく、『守る』ことに変わりは無い。がんばらないとっ」
「相手の実力も数も、よくわからんままの戦いだが……
 ま、テメェらの力を信じてやるしかないわな」
 太陽抱く光の乙女・ミレイナ(a39698)、ラトルスネーク・ングホール(a61172)が言う。
 ングホールが言う通り、今回の話には余りに不明が多い。確実なのは、敵種の名が『ディアブロ』であることと、彼等が強力な膂力を武器にする個体である事。それ以外の情報は、最低限の知識として得られる程度のあくまで部分的なモノに留まった。
「いきなりの持久戦、かあ……」
 ファイエリィ・シエヌ(a04519)は、母のチャクラムにそっと触れる。
 何より、ある程度の『試し』を兼ねていないとは言えないだろうが、『あの』マルヴァスが助力を願う局面である。正直に言えば厳しい戦いには違いなかったが、マルヴァスより待機人員の待機する場所も借り受けた彼等はこの三日という長丁場を乗り越える為の覚悟を既に済ませていた。
「静か」
 少しのざわめきも伝えてこない周囲の森。
 見慣れない木々をぼんやりと眺め、壊れた弱者・リューディム(a00279)は息を吐くように呟いた。
「……静かね、奇妙な位」
 見上げたソラを、哨戒の骨の鳥が滑っていた。
 有り触れた穏やかさは、有り得ない位に似合いの風情でそこに在る。
「一ヶ月程経つが、未だ踏み出したばかり。この先は、どこに――どこまで続くのか」
 黎旦の背徳者・ディオ(a35238)の指先がくるくるとクローバーを弄ぶ。
 願わくば、その幸運をこの手に。この城に――
 それは、そう。殆ど間違いないと確信出来る位に――嵐の前の静けさだった。

●3Days―1st―
 まさか空気を読んだ訳ではあるまいが。
 結果から言えば、先遣隊の到着は実に最高のタイミングでのモノになった。彼等がマルヴァスより任務を要請されたその日の夕刻に――それは始まったのである。
「どうやら、早速来たようだぞ――」
 第一声を発したのは、南の城壁を守る獅天咆哮・デューク(a10704)。傍らには同班のリリスとヨイクの姿も見える。
「――防衛戦か。難題を申すなぁ、天恵暗鬼殿は。はっはっは」
 薄暗い森に蠢く複数の気配。よくよく注意しなければ見落としたやも知れぬそれをも、彼のエルフの瞳は見通していた。数は二十近くは居るだろうか。
「……♪」
「いよいよ――ですね」
 リューディムの唇から弾んだ微かな声が漏れ、レオンハルトはその表情を無意識の内に強く引き締めていた。
「あれが……ディアブロ……」
 吹いた合図の角笛から口を離し、ホーリーライトの明かりを警戒色に染め。ミレイナは呟いた。彼女の立つ東側の城壁の向こうにも敵影がある。
 そしてそんな空気は――
「やれやれ。どうも長い三日間になりそうだな……」
 嘯いた西城壁上の濃藍の鷲・キースリンド(a42890)、
「最初の山だ。油断するなよ――!」
 更には、北城壁上のバーミリオンへと伝播する。
 つまりは、事態は圧倒的に単純だった。マルヴァスが堅陣は、四方より敵に囲まれていた。先遣隊に数倍する敵冒険者の軍勢に。
「早速、こう来ましたか。これは、仕方ありませんね――」
 合図は四方より訪れた。状況上、各員それぞれの持ち場で戦力を均等に割り振る事を至上と考えた浄火の紋章術師・グレイ(a04597)は短く簡潔な指示を飛ばす。
(「少なくとも、この緒戦は落とせない――」)
 三日の警戒。マルヴァスが何故それを請うたかを彼は考えていた。先遣隊の滞在が数日ならば、敵軍の脅威を除く本質的な解決には成り得ない。だが、本質的解決に成り得ないそれを何故あの神算鬼謀の知略家が望んだかを。
(「つまり、牽制。ディアブロは、我々の戦力をまだ知らない――」)
 三日間。仮に先遣隊が実力を発揮して堅陣を守り通したならば。『新たな敵の脅威と戦力』を知ったディアブロはその後の攻撃に二の足を踏むだろう。仮に先遣隊が密かにこの陣を離れたとて、その心理的障壁は残る筈だ。あのマルヴァスの事である。配下やアンデッドを駆使して、『先遣隊があたかもまだそこにある位の偽装』はしてみせるだろう。そして、『戦力を蓄えるのが目的』なのだ。彼にはその時間を稼げるだけで十分なのである。
「交戦規定は唯一つ。生き残る事です」
「遂に始まる……未知を切り拓く会戦の刻」
 誰にともなく「死ぬなよ」と告げた半死・ハンゾー(a08367)は、西の城壁目指して走る。
 一方で慌しくなった城内に気付いたのだろう。周囲を取り囲んだディアブロ達は、各々に無骨な得物を携えて猛烈に城壁に突っ込んで来ていた。
「こういう状況、割と慣れてる筈なのですけれど……」
 詠唱兵器・エクストラ(a37539)は苦笑い。
「何故ですかねぇ、いつも怖くて震えが止まらないのは」
「――――」
 暁の幻影・ネフェル(a09342)は、思わず息を呑んでいた。
 薄闇にぼんやりと浮かぶ敵の全容。
 青黒い肌に筋骨隆々。異常にとも呼んで良い程に発達した肉体は、はちきれんばかりに力に漲り、ハッキリと恐るべき獰猛さを伝えてくる。ねじくれた角とギザギザの牙。巨躯を歪めた奇妙な低い猫背が逆に獣めいていて恐ろしい。
(「いや――!」)
 だが、空隙は一瞬。気を取り直した彼は、来迎図を一閃、振り切った。
 薄闇の間合いを裂く苛烈な光。
「ノスフェラトゥ……? いや……」
 鋭く突き刺さった気刃に、先頭を駆けたディアブロの動きが止まる。覆面をして姿を隠した先遣隊の姿に、彼は怪訝な声を漏らしていた。ギロリと視線を向け、城壁の上の敵を認めたソレの瞳は気のせいか。爛々と赤く輝いている。
「殺せ!」

 コロセ、コロセ、コロセ――

 それが、号砲。
 ディアブロと、同盟冒険者が矛を交えた一番初めの瞬間だった――

●3Days―2nd―
「まだこれから! 焦らず行きましょう!」
 響き渡るのはネフェルの声。
 白骨八陣、南側城壁。
 地獄の日中を、耳を裂くような破壊音が激しく揺する。
「やはり、甘くありませんね――!」
 即座にフォローする為に崩された地点へ走りながらマイアー。夜の包囲こそ、ボーンウォールの防御力と城壁の上からの集中射撃で凌いだ白骨八陣ではあったが、敵もさるもの。見た目の獰猛さからはにわかに信じ難い位の狡猾さを見せたディアブロ達は、無理な攻めをしなかった。ほとんど被害を受ける事無く、即座に体勢を立て直した彼等は、時間を置いて今度は『敵戦力想定を上方修正した上で』攻め込んできたのである。
「守り切るのじゃ――!」
 今度は南北よりの挟撃である。緒戦より集中された戦力は、実に箇所で見れば倍近い。強烈な爆音と共に城壁の一角が崩されれた以上、敵がすぐにその綻びに雪崩れ込んで来るのは必然だった。
「気をつけて……!」
 刃を弾き上げたレオンハルトが叫ぶ。
「いきなり、大当たりですね」
「まったく、大した籤運だぜ!」
 月のラメント・レム(a35189)の呟きに軽口を叩き、ングホールが向かってくる敵を迎え撃つ。繰り出された蛮刀の一撃を紙一重で避けた彼は、鋭い呼気と共に強烈な掌撃を繰り出していた。
「〜〜〜〜っ! たまんねぇな……」
 鈍い手応えにングホールは苦笑いを浮かべる。一撃は幾らか敵を押し戻したが、数は一や二では効かない。次々と現れる敵影を食い止めるには、彼等自身が壁になる他は有り得ない。
「止めるよ、悪いけど」
 並べた前衛が生きる瞬間。
 マイアー、ラピス、レオンハルト等と共に文字通りに壁を作ったリリスはその得物で繰り出された刃を受け止めた。
「……っ!」
 小柄な彼の肩に圧し掛かる強烈な圧力。押し止める彼の膂力も大したモノだが、その威力は十二分で、消耗を感じずには居られない。
 至近距離で向かい合うディアブロの巨大な口からは、何処か血生臭い『嫌な臭い』が漂ってくる。
(「こういう臭いも……嫌いじゃ、ないけどね――」)
「離れろっ!」
 リリスの膝が落ちかけた時、裂帛の気合が轟いた。
 強引に踏み込み、天藍を横薙ぎに振るったキースリンドの斬撃に傷を受けたディアブロから怒号が漏れた。
「く……!」
 後から後から現れる新手。
 間合いに迸った大量の蜘蛛糸に絡め取られ、重騎士達が動きを失う。
 させじと即座にその苦難を救ったのはニューラだった。彼等より後方に陣取った彼女は、間近に迫る圧力にも引かず、静謐と祈りを紡ぎ上げる。
「伊達に、戦い慣れている訳ではないんですよ――」
 同盟冒険者は対冒険者戦闘を至極良く知る。
「そういうこと」
「癒しの光よ……っ!」
 連携良く回復の力を降らせたライカ、ミレイナは、城壁の方へ合図する。
「分かっています」
 エクストラより幻惑の胡蝶が舞い飛ぶ。
「はいっ!」
 応えたチグユーノの虚無の手が巨体を引き裂いた。
「今です――!」
「サンキュー!」
 乱れた敵目掛けて白鴉・シルヴァ(a13552)が切り込んだ。闇鴉を大上段に構え、らしい豪快な斬撃で敵列を一閃薙ぎ払う。文字通り狂戦士の極意を思わせる暴風の攻勢は、瞬間確かに敵の勢いを押し止めた。
(「さって、何時までいけるかな――」)
 滾る血の疼きにも似た衝動と、奇妙な冷静さがシルヴァの中に同居していた。肌をしつこく突き刺す殺気は、そこが『紙一重』の場所である事を嫌気が差すほどに告げている。だが、退かない。ここは退かずに――

 ――ギン……!

「まだまだっ!」
 彼は自分の場所を守り切る。
「さてさて、決して色気は見せるなよ?」
 防戦。目的は、あくまでこの場所を守り切る事。
 だが、それを忘れず、その範囲で敵軍を効率良く傷付ければ――その出足は必ず鈍る。
 デュークの視線は、態勢を整えさせようとした敵癒し手の姿を捉えていた。彼から伸びる黒色の御手は万全なその存在を赦さない。
「おっと、させねぇぞ」
 敵は城壁付近に侵入した相手だけでは無い。城壁上のエクストラに向けて後方で強弓を構えたディアブロにクエスの鑚心釘が放たれた。
 だが、それでも――
「……しかしまぁ……」
「わきゃっ!?」
 半ば押し倒されるような状態でころんと転んだエクストラの頭上を輝く一矢が通り抜けていく。
「……やっぱり、冗談じゃない感じですかねぇ?」
 エクストラの頬は引きつっていた。敵の数は、先遣隊に二倍する。
「――――っ!?」
 そんな彼女の言葉を肯定するかのように、知った誰かの悲鳴が響く……。

●3Days―2nd―II
「……っ、突破されるよ!」
「悪ぃ――崩されたっ!」
 城壁の上のシエヌ、シャスタが鋭い警告を飛ばした。
 間断なく続けた攻撃と牽制、更には防御塔から援護を繰り返すノスフェラトゥの攻撃はそれなりに奏功すれど、敵の勢いはそれを完全に上回っていた。
 軍師マルヴァス曰く。

 ――堅城を寡兵で攻むるは愚か也。
 精兵防御せし其を落とさんとするなら、必要なるは最低限度で三倍也。

 そう、落とすなら三倍也。
 だが、ディアブロの狙いはそこには無いのだろう。被害を出す事が許されぬ――制約があれば防御の骨はますます折れる。
「気楽に言ってくれるよな……!」
 肩で息をしながらマージュは敵の刃を跳ね返した。
 時、ほぼ同じくして。
 乱戦の様相を呈しているのは、北側城壁も同様であった。
「この波を凌いだら、将軍には酒宴位には付き合って貰わねばな……!」
 赤髭重騎士・ウィンストン(a53335)の白刃が、激しく砂礫を巻き上げる。更に閃いた斬撃はディアブロの胸甲を掠め、そのままやや前方に流れていく。
「ちっ……!」
 舌を打ったディアブロの豪腕が唸りを上げる。
 短い距離から叩きつけられた強烈な拳の一撃に重装に守られた強靭なウィンストンの体がくの字に折れた。
「む、いかん……!」
 ドクターはそれを見て即座に回復にかかろうとするが……
「死ね――!」
「く……!?」
 大振りの槍斧を構え、ウィンストンに襲い掛かる敵兵の前進はそれより速い。動きを失ったウィンストンが僅かに呻く。
「――――っ!」
 緊迫の一瞬。
 だが、それ以上そのディアブロが進むよりも早く――彼の足元に爆炎の花が咲く。
「……!」
 ウィンストンが振り向けば、後方マルヴァス本陣の方よりノスフェラトゥの弓手達が数名駆けてくるのが見えた。

 ――我が采配、未だ些かの揺るぎも無し――

 あの軍師ならばそう言わんばかりのタイミングに、ウィンストンは一瞬で態勢を取り戻した。
「恩に着る!」
「これ、そっちは使えないはず。綺麗な蝶でしょ?」
 シエヌの胡蝶が舞い踊り。
「止まりなさい」
「……数を頼みに、しゃらくさい」
 グレイの銀狼が足を止め、カナードの放った針の雨が弾幕と降り注ぐ。
 敵兵の数は多けれど、崩された城壁はあくまで一角である。侵入口を人数で固め、城壁の上、城内外より集中攻撃を加える先遣隊は効率よく敵を痛めていた。
「ぐるあっ!」
 咆哮を上げ、巨大剣を振りかぶるディアブロに、
「其処までよ」
 ハンゾーの蜘蛛糸が襲い掛かる。
「……っ、倒せっ!」
 糸を引き千切らんとする強烈な膂力に僅かにたたらを踏みながら、ハンゾー。
 強引に作り出された隙にオーソンが飛び込んだ。
「おらぁっ!」
 ……その単純さは、殆どディアブロとも変わりが無い。
 こと目前の『何か』を薙ぎ倒す事に関して、この男のメンタリティはそれそのものだった。
「いいぜ、どんどん来いよ!」
 大振りに振り抜かれた無骨な剣が爆音を立てた。
 炎に咽び崩れ落ちる巨体にそれ以上構う事をせず――赤々と染まるその表情を喜色に歪めた彼は、城壁の向こうを挑発した。
 伝播する怒りの気配。それを笑い飛ばす圧倒的な傲慢さ。
「――っぐあ……!?」
 そして、その反面の狡猾さ。
「今の内に、距離を詰めて。防衛線を――」
「了解!」
 前衛の作り出した意識の空隙を縫うようにして、ウィーの針の雨が降り注いだ。更にはそこへギルガメッシュが駆け込んで、流麗なる剣技で翻弄する。
 この瞬間、確かに前衛は後衛の為に、後衛は前衛の為に動いていた。
「ここは、私が――」
 後方よりウィーを狙った一撃が、護衛を果たすヴィクトリーの盾の前には届かない。
 倒した者も早数名。傷付けた者は、それに倍する。
 しかし、しかし――である。
 戦いはあくまで消耗戦のそれだった。敵の撃破の代価に、味方の余力も次々と奪われている。
 激突が本格化すれば想定された事態ではあるが――敵の数は、味方より多いのだ。
「……冗談じゃ……済まねぇな……」
 城壁上のシャスタの声が乾いていた。
 見下ろす眼窩の戦場では、知った顔が次々消耗しては倒されていた。流石にマルヴァスが消耗を嫌がった戦闘である。つまり、彼等は作り出した兵をその都度使い切る勢いでこの猛撃を止めていたのだ。
 そんな事実を遅れて思い知れば冷や汗も落ちる。
「……ま、そうも言ってられねぇけど、よっ!」
 引き絞った弓がビンと空気を振るわせる。戦場の空気を闇色の矢が切り裂いた。

●3Days―3rd―
 三日目。
 防衛線は完全に緩んでいた。
 二日目、何とか死力を尽くし城壁の水際で食い止めた先遣隊だったが、隊員の脱落はその戦闘能力を確実に落としていた。
 勿論、ディアブロ達も無傷では無い。討ち取った者、七名。傷付き退いた者まで含めればもっと数は多いだろう。彼等の戦力も相当減じてはいる筈なのだが……そこは矜持か、意地なのか。三度攻め入った彼等は、既に城内の敷地に侵入している。怪我人をも収容するマルヴァスの本陣――取り分け防御の硬い骨の中央塔に向かう命知らずは居なかったが、敷地内では死霊兵の運用をせざるを得なくなったノスフェラトゥ友軍の姿も散見出来る。
「こんにちは、ディアブロさん――」
 そんな乱戦めいた戦場で、まるで友人に「また逢ったわね」と問い掛けるような気楽さで、ディオは微笑んだ。
「ねぇ……私と一緒に、遊びましょう?」
 彼女の杖の先が示すのは、敵ツーマンセルのその後ろ側。術士らしきその姿。
「貴様っ!」
「まあ、待て」
 殺気立ち前に出掛かった前衛に横合いから斬りかかったのは、セレナードである。
「誰にも相応しい相手は居るものだ。お前の相手は私がしよう――」
 鋼が噛み合い、幾度も剣戟が泣き喚く。
 乱れに乱れたその戦場でも、二人の距離は離れない。互いに背後を守り合うように連携して、敵一組に対抗する。
(「これ以上は、何とか――」)
 ディオの視界の隅に、崩れ落ちるゾンビジャイアントの巨体が映っていた。

 苦しい戦いを続けるのは彼女達ばかりではなかった。
「工場の材料になるのもさせるのも、全力で断るってんだ」
 得物を振るうバーミリオンの肩は常に激しく上下に動いている。汗と血、埃に塗れたその顔を見れば、彼がどういう戦いを続けてきたかは容易に想像がつく所。
「――っ!?」
(「必要とあらば、自らの殺意だって殺せるわ」)
 死角から襲われた彼を半ば突き飛ばすようにして庇ったのは、リューディムだ。入れ替わるように敵に向かい、その切っ先を紙一重で避ける。はらりと舞った自らの金糸に獰猛とも呼べる赤い切れ長の目を細め、彼女は笑っていた。
「でも」
 後ろ脚に力を入れ、踏ん張る。
 体重を強引に前に移し、その余勢をかって円刃を投げ放つ。
「でも、こうなったら――もう自由よね?」
 こうなれば是非もなし。望んで止まなかった『直接的な』殺し合い。

「後ろと、援護は任せた」
「はい。任されました」
 死霊兵工場――ドーム型の小さな骨の城を背に、ハンゾーは振り向かないでそう言った。応えるのは平素のその表情と幾らも変わらない微笑を湛えたクララである。
(「これが死期、は勘弁願いたいのう……」)
 後ろに跳ぶハンゾーは、幾らかの自嘲と共に目前の敵を見据えた。
 数は、四。味方は一。堪えられるのは、何秒か。局地的に見れば半ば絶望的な戦力差だが、不思議と怯む気持ちは沸いてこなかった。
「時間稼ぎと、笑いたくば笑え!」
 ハートクエイクナパームが敵軍の中央で炸裂する。
 乱戦の局地的な戦力差は、一瞬で逆転する事もある。援軍を信じるハンゾーの目は、あくまで厳しい状況にも諦めず鋭い光を放っていた。
「……っ!」
 それはクララも同じく。
「……医術士だからって、戦えない訳じゃないんですよ……!?」
 横合いから現れた新手の刃を術手袋で何とか弾き、彼は内心で呟いた。
「このホネ、壊させはしませんから――!」
 二対五。諦めるには、まだ早い。
「今行きます! しっかり――」
 待望の声がする。その重装の音を立て、ヨイクが駆け寄ってくる。
「おおおおおおおおっ!」
 タイラントピラーの圧倒的な存在感すら霞む位に、ヨイクは吼えた。
 一気に近距離まで駆け寄って、振り向きかけたクララの前の敵兵をばっさりと袈裟斬りに切り倒す。
「助かりました。もう少し早ければ最高だったんですけど……」
 ぱたぱたと降りかかる血に全身を汚し冗句めいたクララに、同じく返り血を浴びたヨイクはウィンクを一つ。
「御存知ありませんでした? 主役は遅れてやって来るものですから」
 ――四対三。

(「次に――絶対に次に繋げる為にも――!」)
「もう少し、堪えて下さい!」
 レムは、ミレイナは全力で回復に当たっていた。我が身の非力がこんな時は恨めしい。矢面に立つコウが、ウィンストンが、ングホールが、キースリンドが、マージュが、マイアーが。酷く痛む度に、彼女達は祈るような気持ちで幾度も死力を振り絞っていた。
「……大丈夫ですか?」
 酷く消耗し、疲れ果てて居るのは前衛達だけでは無い。僅かによろめいたミレイナにレムは小さく声を掛けた。
「ええ。……レムさんは?」
「全然。これから三日だって戦える位」
 蒼白な顔色で、誇りを歌う――それは実にレムらしい返答だった。

 ――――♪

 ニューラの奏でる矜持の歌に乗って、先遣隊は最後の力を尽くす。
「は――!」
 後衛を守ろうとするように前に出たコウの刃が敵の一撃を跳ね上げた。
 シエヌのチャクラムが間合いを切り裂き、カナードの黒炎が空気を焦がす。レオンハルトの白刃は些かも曇りを見せず、マイアーの前進は止まらない。
「……負けねぇよ」
 シルヴァの額を赤い血が流れ落ちた。
「いや、負けるな。皆が、無事で終われるように――!」

 ……マルヴァスが堅城『白骨八陣』。
 この地で行われた三日の戦闘は、実に激しいモノになった。
 双方の被害は甚大。結果的にマルヴァスの求めた死霊兵の万全な温存は叶わなかったが、ディアブロ達がこの地で受けた損害としては過去最大のモノになった事は付け加えておく。


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冒険活劇 戦闘 ミステリー 恋愛
ダーク ほのぼの コメディ えっち
わからない
参加者:20人
作成日:2008/08/11
得票数:冒険活劇1  戦闘30 
冒険結果:失敗…
重傷者:暴風の・オーソン(a00242)  ファイエリィ・シエヌ(a04519)  風の・ハンゾー(a08367)  白骨夢譚・クララ(a08850)  白鴉・シルヴァ(a13552)  黎旦の背徳者・ディオ(a35238)  大図書館・エクストラ(a37539)  伐剣者・コウ(a38524)  赤髭重騎士・ウィンストン(a53335)  ラトルスネーク・ングホール(a61172) 
死亡者:なし
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