遺跡のスイーパー



<オープニング>


●遺跡のスイーパー
「先だってより我々の前に姿を現したばかりのこの地に、住居型の遺跡がいくつも見つかっているのは知っての通りだ。そして今回分かったのは、その中の1つにモンスターが棲みついているという事実。だからと言ってすぐにどうという訳ではないが、今後の探索を進める上でも安全なエリアを確保するメリットは少なくない。速やかに片付け、遺跡の1つを確保してもらいたい」
 フラウウインドの霊査士・フライドが簡潔に語った。
「モンスターは2体。遺跡から外へは決して踏み出す事なく、ただ中に入った者を駆逐する存在のようだ。主に居住スペースの部屋同士をつなぐ回廊部を徘徊しては、侵入者を挟んで圧殺するらしい」
「圧殺!?」
 それまで黙って聞いていた、レア物ハンター・ユイノ(a90198)が驚いて声を上げた。
「うむ。廊下いっぱいの体格の巨人の如き外観だが、拳などで攻撃するでもなく、その巨体を震わせながら突き進ニクい奴だ。生半な攻撃を通さぬぶ厚い外皮と凄まじい回復力に裏打ちされ、厚い抱擁を交わすソイツらは、恐怖以外の何者でもない。だが……もちろん弱点はある。表面に比べると背後が脆い上、背中の傷は何故か回復できないらしい。それを上手く使えれば勝利を得ることも難しくはないだろう。一方だけでも倒せれば、もう一方の背後を取る手はあるだろうからな。検討を祈る」
「えっと……私、帰ろうかな!? どうせなら新種の生物探しとかの方が、合ってる気がするし……」
 ―――。
 ゆっくりと後ずさるユイノの言葉は、誰の耳にも届かぬことになったのだった……。


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参加者
天舞光翼の巫女姫・ミライ(a00135)
紫眼の魔人・アムリタ(a00480)
朽澄楔・ティキ(a02763)
業の刻印・ヴァイス(a06493)
泰秋・ポーラリス(a11761)
初代破壊神王・ネメシス(a15270)
霖雨蒼生・ユシス(a61834)
鉄血軍徒・サラ(a65060)
NPC:レア物ハンター・ユイノ(a90198)



<リプレイ>

●遺跡のスイーパー
「ひゃっは〜〜。やってきたぜフラウウインド大陸よ〜」
 遥かなる新大陸フラウウインドに降り立ったところで、超級破壊大公・ネメシス(a15270)が無邪気にはしゃぐ。
 が、それに追随するものはなく、天舞光翼の巫女姫・ミライ(a00135)は、静かに今回の遺跡に思いを馳せる。
「遺跡から出ることのないモンスター、ですか。この敵はここに住んでいた人達を外敵から護る為に作られたモノなんですかね……」
「……それとも、かつての住民のなれの果て、なのだろうか?」
 ちょうど似たようなことを考えていたからか、業の刻印・ヴァイス(a06493)がすぐに言葉を紡ぐと、継いで鉄血軍徒・サラ(a65060)も、
「案外ここに縁の者だったのかも知れんね。何しろやることが番人じみているようだしな」
 と続けた。するとユイノがすかさず……、
「番人でも何でも良いけど、圧殺はイヤ! 誰かに任せるわ」
 と言えば、
「俺様も圧殺やら窒息死やらはゴメンだ。気が合うな」
 との返し技に、思わず絶句。
「………さてと。作戦、作戦」
 かなり苦しい逃げであった。

 そんなやり取りの挙句、結局は2班に分かれて一方が囮……と言う案に落ち着いた一行は、まず黒魔・アムリタ(a00480)と朽澄楔・ティキ(a02763)がひとつまみの塩からインセクトを召喚。遺跡の構造と敵の動きを見極めるために。
 だが、事はそう単純ではなかった。遺跡は話から想像していた以上に広く、部屋と部屋とを結ぶ回廊部も結構な長さ。
 その上、単純に一本の線で環状に繋がっている訳でもないため、一通り回り切るのに相当な時間を費やすこととなった。
「しかし……インセクトに手を出さないのはまだしも、2体目にすら出会えないとはな」
 アムリタの暫く後に放ち、わざと離して遺跡を回らせたティキが吐き捨てるように呟いた。行き違ったにしても、姿すら捉えられないのでは……。
「ど〜やら、向こうにとっての『獲物』が入んなきゃ、出てこね〜みたいだな。いや、待てよ!?」
 ネメシスがマジな顔で告げた。瞬時に集まる皆の視線……。
「向こう、ってのは呼び難いな。俺様が命名してやるぜ。ん〜、胸板圧殺☆漢モンスター『タフガイ』と『ナイスガイ』だな」
 せっかくのマトモな雰囲気が台無しの瞬間であった。

●挟撃 VS 挟撃
「やむを得ないな。それに1体しか居ないのなら、それはそれで好都合……予定通り2班に分かれて入るとしよう。敵を排除するのは此方側だ」
 冬鐙・ポーラリス(a11761)が決断を下す。遺跡の番人たるモンスターに対すべく『排除』という言葉を以って。
 じゃあ頑張って……と手を振って見送ろうとするユイノの両脇を、霖雨蒼生・ユシス(a61834)とネメシスが、がしっと捕らえて入ってゆく。
「ユイノさん。頼りにしています。よろしくお願いいたします」
 と。穏やかに湛えたユシスの笑みは、実は悪魔の微笑みらしい。
 いずれにせよ、そこにサラとヴァイスを加えた5人が先行し、回廊へと入ってゆく。モンスターの徘徊経路で待ち受け、モンスターが回廊に入り、戻りようのないところで挟み撃つために。
(「……準備は良いか?」)
 焦れたように尋ねるティキ。言葉ではなく、牙狩人アビリティによる副次効果の心話。焦れる原因はインセクトによる監視を続けているアムリタの声。
「来るわよ。もう、1つ隣りに入ったわ」
 部屋の隅に潜み、息を殺す4人。ここまでくれば成り行き次第か!?
 次第に、空気が圧し出されるかのような嫌な気分と共に、部屋が振動に揺れる。そして、振動の正体を目にしたとき、あまりの異様さに4人が瞳を見開く。
 ――霊査の通り、回廊いっぱいに広がった巨人のソレは、まさに分厚い肉の壁。不気味を超え、1つの脅威だった。
 ユイノによるOKの声が脳裡に響く。直後、安堵の息つく間もなく、巨人が回廊へと入ってゆく。
(「入ったぜ」)
「ん……」
 その報せを受け、最初に動いたのはヴァイスとサラ。モンスターの元へ向かい、排除すべき敵であることを認識させる。すると、奴は怒りをみせるかの如く戦慄き、重厚な振動音が響く。
「さて、戦闘開始だ。テンション上がってきたぜー!」
 叫びながらネメシスが黒き炎に身を包み、ユシスは全員の防具に強化を施す。そして回廊の中央付近に達すると同時に戦端が開かれる。
「ひゃっは〜」
 いきなり虚無の如き闇色の手が巨人を襲う。そして僅かに怯んだところへ、ヴァイスが呪痕を放ち、巨人の腹に刻印を刻んだ。
「少しは効いてくれ……」
 次いで、最前列に残ったサラが両手に構えた軍刀を閃かせる。宙に描く光は薔薇の軌跡を生み、敵を切り刻む。そして自らの闘いを求む血を喚び起こしたユシスが、彼に並び立って刀を振り切った。
 それでもモンスターの前進は一向に止まる事を知らず、ユイノの禍つ牙の如き矢が喰い込んでゆくのが見えたものの、効果のほどは疑わしい。
 なぜならその直後、モンスターの表皮に刻んだ筈の傷が呪痕ともども見る見るうちに塞がってゆくのが窺えたから。
「くっ……さすがは番人、といったところか」
 だが、その直後、一気に形勢は変わる。巨人の背後に仲間たちが到達するところだったから。
 アムリタのホーリーライトの明かりの下、ミライの『聖龍牙』が神速を以って巨人の背に朱を刻む。剣は光となりて薔薇の紋様を描いていた。そしてその中心に花弁の如く刻み付けるは、ポーラリスの呪痕。そしてティキの禍つ力を込めし牙の一矢。背後から刻むそれらは効を奏することが出来るのか!?
 が、その答えが見えるよりも先に、もう1つの疑問が判明する。そう、もう1体の巨人は何処へ!?
 ――ソレは、先の巨人の戦慄きに呼応するかのように、少し高い音を伴う戦慄きと共に、サラたちの背後に姿を見せた。
 既に部屋への退路は巨体で塞がれ、人が通る隙間も無い。あとは2体に挟まれ終焉を迎えるか、それとも倒すか。
 冒険者たちには、時間も選択肢も、あまり用意されてはいなかった……。

●タイムリミット
「もってあと2回りって所ですか?」
 自分たちの命運を、悲壮感なく冷静に分析するユシス。
「十分だ。勝負は次か……」
 ヴァイスが意を決してカードを投げつけた。闇に覆われる様が描かれた不吉なカード。
 同時にサラは、刀の切っ先より闘気の刃を放つ。音速の衝撃が巨人のカードへの反応を遅らせ、先のカードが奴を不幸に堕とした。
 その不幸に乗じるようにネメシスが、哄笑と共に黒い炎で巨人の顔面を灼くと、ユシスの太刀が、ユイノの弓が続けざまに巨人の力を正面から削いでゆく。
 先程までの凄まじい回復量は、不幸と忌まわしき牙との相乗効果で無へと帰し、巨人はただただ巨躯を揺るがせながら、冒険者諸共、前進するのみ。
「このままだと、待つのはアツい抱擁ね。見るのも……まぁ、微妙か」
 アムリタが遠い目をしながらも、業火で巨人の背を灼き焦がす。
 だが、防御を失ったはずの事態にあっても、強大な体力に未だ底は見えず……。
 ――それでも次が、ラストチャンスだった。 

「行きますよ!」
 気持ちを一新させ、ミライの太刀が宙に舞う薔薇を描く――無論、花弁の赤は巨人の血飛沫。
 そしてポーラリスが大地を蹴って跳んだ。大いなるものを蹴った衝撃をそのままに巨人に叩き込む。壁そのものであった巨人の背に大きな歪みが生まれた。
 そして歪みの中心に立て続けに無数の矢を射掛けるのはティキ。渾身の矢が1点を集中的に穿ち続けた。
「まだ終わらないのか?」
 そう、そんな言葉が自然に沸くほどの集中砲火。だが、更に剣戟が2筋閃き、矢と黒炎が続く。
 だが、前進は止まらない。それどころか呪痕すらも消えかかっていた。
 もう間に合わないかと思ったその瞬間、諦めてなどいないヴァイスの手から、糸が花開くように前面に広がり、巨人の前進を阻害した。
 とは言え、長くは保ちそうにない。
「今のうちに……」
 既に内側の5人が肌と肌を触れ合わせねば居場所もない。嫌でも次はもう1体が前進して万時窮す。本当のラストチャンス!!
 そして本当に最期の攻勢。
 薔薇が舞い、炎が躍る。刃が閃き、蹴りが空を裂き、そして矢が乱れ飛ぶ。 
 そんな全力の攻撃の果て……ついに戦慄きに似た振動を遺跡全体に伝えながら、巨人は前方に倒れ込んでゆく。
 まさに、あと僅かに届かなかった抱擁を叶えるが如く! 

●勝利の余韻!?
「待てっ! 勝利は我らのはずっ! 待てーっ!!」
 ネメシスが叫んでいるが、時既に遅し。寸前で股抜きを敢行したヴァイス。冷静に倒れてくる時の天井との透き間に体を滑り込ませたサラを除き、防御を固めたユシスや狼狽えるのみのユイノらと共に2体の巨人の躯に押し潰され、呑み込まれてゆくのが見えた。
 残るものたちは皆、助けてやりたいと思いつつも、手出しすら能わず。
 その上、もう1体は通常であれば引き返しそうなものだが、今は違った。
 相方を殺された怒り、だろうか。倒れた片割れ諸共押しながら、回廊を真っすぐに突き進む。視線を冒険者にのみ注ぎつつ……。

 しかし、もう既にそれは敵とは呼べなかった。何故ならもう、挟まれる恐怖は存在せず、多少なりとも広い部屋に戻れば背後をとるのも難しくない。
 くるくると方向転換を繰り返しながらも冒険者たちに翻弄される巨人。
 ミライに向けられた巨大な拳は、軽快に舞うようなステップで躱し、逆に回り込んで薔薇の軌跡を描く。代わりに正面からはアムリタの放つ銀色の餓狼。巨人を組み伏せるには心許ないが、それでも時間稼ぎにはなる。それがヴァイスによって不幸に陥れられていれば尚更。
 そしてサラの放つ音速の衝撃とポーラリスの凝縮された闘気の塊が巨人の背で爆ぜた。
 そんな一連のコンビネーションが幾度も繰り返された挙句、最後に勝負を決めたのは、ティキが一瞬のうちに射掛けた無数の矢。
 そうして巨人の命運は終わりを告げたのだった……。

 その後、肉壁に挟まれたままの3人を救い出し、辛うじて命があるのを確認すると、改めて倒したモンスターを観察する。
「モンスターになる前は、一体どんな人間だったのだろうな?」
 と。だがその問いに答える術を知る者はいない。もしかしたら未知なる種族か?
「大陸ごと封印するような何か……ドラゴンとも関わりがあったのだろうか?」
 深く考えを巡らせて見るも、同じ。
「……外が異常環境とはいえ、外で活動する魔物は今の所、無し、か……。ただの偶然かね!?」
 などと現状の関係性にも目を向けながら、遺跡を隅々まで探って見るも、やはり答えはおろか、手掛かりすらも見当たらず。
 まだ、この大陸の謎を説き明かすのは、先のことになりそうだった……。

 【終わり】


マスター:斉藤七海 紹介ページ
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参加者:8人
作成日:2008/08/25
得票数:冒険活劇8 
冒険結果:成功!
重傷者:レア物ハンター・ユイノ(a90198)(NPC)  初代破壊神王・ネメシス(a15270)  霖雨蒼生・ユシス(a61834) 
死亡者:なし
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