花嫁を奪取せよ!



<オープニング>


 あるところに、二人の男女がおりました。
 二人の仲は睦まじく、近所でも評判の似合いの二人です。二人を知る誰もが、二人は結婚するものだと思っていましたし、また当の二人もそのつもりでした。
 しかし、いつの世も順風満帆にはいかないもの。街を護る警護団の団長ソーマが、娘を一目見て気に入ってしまったのです。
 警護団は、元はならず者の集団だったのが、いつまでも盗賊団ではそのうち冒険者に成敗される、と考えたソーマが一計を案じ、「この村を外敵から護ってやる」と半分無理矢理、村の警護団に収まっている者達です。夜盗や少数のグドンが出たときなどには確かに頼りになるのですが、平時は傍若無人に振舞う荒くれ者なので、村の人たちが彼らに抱いている感情は、頼り半分恐れ半分といったところです。
 そんな荒くれ者達のボスですから、当然、娘に思い人がいることなんて関係ありません。
「おい、貴様の娘を俺によこせ」
 いきなり娘の父親のところへ行って、直接交渉です。なんとか断ろうとする父親に、
「ええいやかましい。嫌だというなら、もうこの村を守ってやらんぞ」
 明らかに脅しですが、村を盾に取られては、父親も首を縦に振るしかありません。
 そんな訳で、ソーマと娘との婚礼の段取りを大雑把に決めて、ソーマは高笑いと共に去っていきました。

「という話なんですよ」
 ざっと状況を説明し終えたメリルが息をつく。
「愛し合う二人を引き裂く悪者なんて、ノソリンに蹴られて死んじゃえってもんなんですけど」
 ノソリンのキック? 集まった冒険者たちの何人かが、想像しようとして果たせずに頭を抱えた。
「娘さん──シャロンさんって言うんですけど──の元恋人のルロイさんが、悪党とシャロンさんの結婚式に乱入して、シャロンさんを奪い返そうって計画を立ててるみたいなんですよ」
 ルロイは冒険者というわけでもないし、普通の農民である。多数の荒くれ者達を振り切ってシャロンを奪い返せるはずも無い。万一うまく連れ出せたところで、逃げた二人は良いとしても、残された二人の家族に報復がいくのは火を見るより明らかだ。悪くすると、怒ったソーマの命令によって、村が蹂躙されてしまう可能性も捨てきれない。
「そんなわけでですね、ルロイさんを手助けしてあげて、その上で、八方丸く収まるようにしてきてほしいんですけど」
「要するに、その警護団とやらをやっつけてくればいいのか?」
 単純に考えた冒険者の一人がそう口にすると、メリルが「とーんでもない」と声を上げた。
「そんなことをしたら、村を守ってくれる人がいなくなっちゃうじゃないですか」
 つまり、ルロイとシャロンをくっつけて、尚且つ警護団を壊滅させずに、報復行為に出ないようにする必要があるわけだ。ただ痛めつけただけだと、冒険者が帰ってから報復行為に及ぶ恐れもあるので、注意が必要だ。
「出来れば、警護団の人たちがまじめに働くようになってくれれば、もっと良いんですけど」
 さらっと無理難題を突きつけるメリルだった。

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参加者
蒼奏・キリ(a00339)
フレッツ・ヒカリ(a00382)
緋の剣士・アルフリード(a00819)
エルフな紋章術士・サリナ(a01642)
偽月・カラ(a03200)
鉄芯・リジュ(a04411)
無造作紳士・ヒースクリフ(a05907)
緑薔薇さま・エレナ(a06559)
アフロ凄杉・ベンジャミン(a07564)
永遠に旅行く人・ヒィゴ(a09366)


<リプレイ>

●結婚式まで、あと数日
「いやぁ〜、のどかそうな良い村じゃねぇですかい」
 背中に大きな籠を背負い、いかにも旅商人といった装いのヒトの武人・ヒィゴ(a09366)が、家々の並びや道行く人々を見て、そう口にした。
「そう……でしょうか?」
 蚊の鳴くような細い声で答えたのが、夜闇偽月・カラ(a03200)。
「あたしぁ、まったりと空を眺めて暮らしたいってのが、昔からの夢でしてねぇ」
「……『あたし』ですか?」
 どうして冒険者に? という喉まででかかった疑問よりもしかし、さらに気になったことを思わず追求せずにはいられないドリアッドの舞踏家・エレナ(a06559)である。いつもマイペースの彼女だが、ヒィゴの聞き慣れない言葉遣いに、少々戸惑い気味だ。
「あたしの故郷の方じゃぁ、こういう喋り方が粋なんですよ」
「はぁ……さようでございますか」
 これ以上質問を重ねても理解できないと考えたか、エレナはそれ以上の追求はせずに、情報収集のために村人へと話しかけていった。

「親戚ぃ?」
「えぇ」
 コクン、と蒼夜・キリ(a00339)が頷いた。
「見慣れねぇ奴だな」と誰何の声を受け、どこの誰だという問いに「シャロンの親戚です」と答えたところである。どうやら、問題の自警団の一人らしい。なるほど自警団とは名前だけで、どこからどう見ても野盗崩れな顔をしている。
「ふん……で? そいつが何しに来たってんだ?」
 思いっきり疑いのまなざしを向けてくる男に、涼しい顔でにこにことその視線を受け止めるキリ。
「シャロンさんが結婚されるとお伺いしましたので、お祝いにとかけつけたのです」
とキリの隣でとまとの・ヒカリ(a00382)が答えた。
 一応は筋の通った説明に、男は「余所者は大人しくしてるんだぜ」と捨て台詞を吐いて行ってしまった。

「──ということですので。よろしくお願いします」
 さほど広くも部屋の中、机の向こう側で椅子に腰掛けた村長に向かって頭を下げるヒカリ。
 シャロンの家へ向かい、シャロンと話をしたキリとヒカリは、返す刀で村長の家を訪ねていた。
 自警団を粉砕し、シャロンをルロイの下へと返す──それだけのことなら容易いが、それでは冒険者が去った後に禍根を残すことになりかねない。そこで、ここは村人と自警団の崩れたパワーバランスを修正するべく、冒険者は裏方として一幕演じる──冒険者達の話し合いの結果、そういうことになったのだ。
 そんなわけで、あらかじめ村長に話を通しておこうということで、現在に至る。
「話はわかりました。彼らにはわしらもほとほと手を焼いておったところです。どうか、よろしくお願いします」
 涙を流さんばかりに喜ぶ村長と固い握手を交わし、二人は表に出た。
「じゃ、僕はルロイさんのところへ行くから」
「頑張ってくださいね」
 にこりと微笑み、手を振ってキリを送り出すヒカリだった。

●結婚式まで、あと二日
「酒宴だぁ?」
「はい」
 にっこり微笑むヒカリに、自警団の団員がうろんな視線を投げつける。
「そんなもん、明後日の式でいくらでも呑めるじゃねぇか」
 と、自警団団長のソーマが声をかけた。
「まぁいいじゃねぇか。おおっぴらに呑めるんなら、俺は歓迎だぜ」
 そう言うソーマの手に握られているコップには、酒が注がれているわけだが。
「お頭っ!? でもこいつ」
「団長と呼べと言ってるだろうがっ!」
 反対の声を上げようとした団員が、ソーマの恫喝で首をすくめる。
「では、今晩八時からということで。準備は、村長さんにしていただきますので」
 そーゆーワケで酒宴になった。

「団長さん団長さん」
「あぁん? なんだぁ?」
 酒宴が始まって数時間。すっかり宴もたけなわ、何人かは壁にもたれたり床に寝転んだりして居眠りを始めている。ヒカリがソーマに声をかけたのは、そんなときである。
「実は、少しお耳に入れたいことが」
 といってヒカリが話したのは、ソーマが無理やりシャロンを娶ろうとしているので、一部の者が不快に思っている、という話である。もちろん筆頭はルロイだ。
「というわけで、ここはひとつ、シャロンさんを賭けてルロイさんと決闘、というのは」
「ルロイだぁ? あいつなんざ相手にならんならん」
 がははと笑ってひらひらと手を振るソーマに、
「……もしかして、自信がないとか?」
 この一言は酔ったソーマには効果覿面、にわかにソーマは立ち上がると、
「そこまで言うならやってやる。今すぐルロイを連れて来やがれっ!」
 一気に場は騒然となった。

「えぇっ!? ど、どうしてそんな話に?」
 ヒカリの話を聞いてあわてたのは、ルロイよりもむしろキリだった。作戦決行までに、少しでもルロイの剣技を──見た目だけでも──まともなものにしようと、彼の家に泊まりこんでヒミツの特訓を続けていたのだが。
「……ダメ、ですか?」
 じっと上目遣いに瞳をうるうるさせつつこちらを覗きこんでくるヒカリに、キリは一瞬うっと言葉を詰まらせる。
「ダ、ダメも何も、まだ二日だよ? 勝てるわけないよ」
「……そんなこと言われても……もうソーマさんは待ってますし。酔っ払いですから、何とかなりますよ。きっと」
 いざとなったら私がこっそりソーマさんの足元に酒瓶を転がして、と変な意気込みを見せるヒカリに、どこまでも不安な思いを隠せないキリ。
 で。
 案の定、ルロイはこてんぱんにのされてしまった。右足骨折というおまけ付きで。

「な……」
 物陰から酒宴の一部始終を見守っていた無造作紳士・ヒースクリフ(a05907)は、言葉を失ってしまう。
 この数日間村内へ潜入した仲間との連絡役を担っていたのが、ヒースクリフである。うまくハイドインシャドウを使って気配を絶ち、村長の家へ潜り込んで連絡しあったり、今日のように酒宴に潜り込んで様子を伺ったりと、地味に活躍していた。
(「明日の主役がここで重傷負って……どうするんだ?」)
 予定外の展開に一瞬呆然としたが、すぐに気を取り直す。こんなところで様子を見ている場合ではない、さっさと仲間のところへ戻って善後策を話し合わねば、と主宴会場を抜け出したヒースクリフは、急いで村の外で待つ仲間の下へと駆けていった。

「……というわけだ」
 ヒースクリフの説明が終わっても、発言する者はいなかった。
 沈黙が場を支配すること数十秒、ようやく緋の剣士・アルフリード(a00819)が口を開いた。
「ど……どーするの? それ」
 全員の正直な気持ちだっただろう。
「……俺に聞かれてもわからん」
 ヒースクリフのにべもない返答で、再び場に沈黙が訪れる。
「まぁ……起こっちまった事はあれこれ言っても仕方ない。多少不自然になっても、最初の予定通りやるしかないだろうね」
 半ば投げやりとも聞こえる口調で、疾駆鉄塊・リジュ(a04411)がようやく沈黙を打ち破った。一応建設的な方向の発言と言えよう。
「え……でも、ルロイさん、足を骨折してらっしゃるんですよね?」
 味覚の放浪者・サリナ(a01642)の言葉は、直接的な疑問というよりは、作戦をどう修正するか、という意味でのそれである。
 冒険者たちの作戦では、もともとこうなっていた。野盗に扮した一団がソーマ率いる自警団をぶちのめし、戦利品としてシャロンをさらっていこうとするところへ、ルロイが颯爽と登場し、野盗の頭と一騎打ち。見事討ち果たしたところで、村に潜入していた一団と村長が煽動して、村人総出で野盗を返り討ちにすることで、自警団に反省を促す。
「仕方ないさね。ルロイには、松葉杖ついて闘ってもらうさ」
 そんな無茶な、と誰もが思ってはいるが、他に代案はない。
 冒険者たちが頭を抱えている間に、夜は更けていった。

●結婚式まで、あと一日
「たっ大変だお頭っ!」
「団長と呼べっつってるだろーがっ!」
 間抜けなルロイもぶちのめし、結婚式の前祝と昨日に引き続き昼間ッから酒宴を開いていたソーマの下へ、貧乏くじを引いて見回りに出ていた子分──もとい、団員が駆け込んできたのを一括する。
 すいませんっ、と直膣不動の部下を欠片も気にかけず、コップを口に運び──既に干した後だったことに気づき、傍らで酌をさせているシャロンに向けてコップを差し出す。注がせた酒を一口飲んでから、ようやく部下に視線を移した。
「──で? 何だ?」
「や、野盗です! しかも、恐ろしく強ぇ!」
 村の娘たちに紛れ込んで、シャロンと同じく団員たちに酌をしていたエレナとカラの目がキラリと光った。
 何だとぉ? と意気込んで立ち上がる自警団員たち。当然のごとく、酒宴はお開きとなる。
「行くぞ、野郎ども!」
 というソーマの声で、団員たちは一斉に表へと駆け出していった。
「シャロン、お前も来いっ! 俺の力、見せてやる!」
 有無を言わせず、シャロンの腕を引っ掴み歩き出すソーマ。その後を、カラとエレナがこっそりついていった。

「てめぇら! 俺様の村で何してやがる!」
 かけられた声に、アルフリードは振り返った。彼の足元には、自警団員と思しき男が二人、気を失って倒れている。同様にリジュの足元には、三人倒れていた。二人のやや後方にサリナが控えている。
「ふぅん? キミ……じゃない、貴様がここの自警団の団長か? 団員はもう少し鍛えたほうがいいと思うぜ。ま、その方がこっちは楽で良いがな」
 慣れない言葉遣いに多少戸惑いながらも、必死に演技をする。
「……まぁ、そんなことはどうでも良い。あるだけの金品と食糧を出してくれれば、おとなしく帰ってやろう」
「ふざけるなよ、たった三人で何ができる。野郎ども! たたんじまえ!」
 アルフリードの挑発にあっさりと乗ったソーマの一声で、十数人の自警団員が一斉に野盗(に扮した冒険者)に踊りかかっていく。
 自分は腕を組んでその場に佇み、余裕の表情で様子を伺っていたソーマの表情が、しかし徐々に引きつってきていた。
「よっと」
 片やたくみに攻撃をかわし、鯛が泳いだところを、鞘に入れたままのサーベルで後頭部や鳩尾への一撃で確実に団員を気絶させていくアルフリード。
「オラオラどうした!? 最近の若いモンは情けないねぇ!」
 片や顔は老婆のくせに、男顔負けの巨大な棍棒を振り回し、豪快に団員をぶっ飛ばすリジュ。
「きゃっ」
 耳に入った場違いな悲鳴へ視線を向けると、野盗の最後の一人の女に、手下が襲い掛かっていた。その女だけは武器を持たず、動きもぎこちない。
 あいつを人質に取れば勝てそうだ、とソーマが考えたとき、女が何もない宙に向けて腕を振った。と見ると、何もなかった空間からいきなり銀色に輝く狼が出現するや、手下に逆に襲い掛かった。
「ぎゃああ」
 肩口に噛み付かれ、そのままのしかかられて倒れた手下が、断末魔の悲鳴をあげる。
 驚愕に、ソーマの口があんぐりと開く。
「てっ……てめぇら! 冒険者かっ!!」
 ランドアース大陸広しといえど、あんなことができるのは冒険者くらいである。
 その言葉を聞いて、ぎょっという驚きと共に自警団員たちの動きがとまる。
 冒険者たちの動きも止まる。こちらは「しまった」という顔で。
「ちっ。付き合ってられるかよ!」
 言うなり、ソーマはきびすを返して駆け出した。自警団員たちもあわてて逃げ出す。
 逃がすか、と村人に紛れ込んでいた冒険者たちも合流して後を追ったが、下っ端を数人捕まえるにとどまり、ソーマ以下数人には逃げられてしまった。
「ま、まぁ……しばらくは仕返しにも来ないでしょうし、これで二人も晴れて結婚できるってことで」
 ヒィゴのフォローが、果たして村の人たちに慰めになったかどうか。

 一方、ソーマたちは、村から程近くにある山へと駆け込んでいた。休みなく走り続けたため、全員例外なく肩で息をしている。ここまでくればとりあえずは大丈夫か、とようやく一休みにはいったところ。
 そこへ、ざっ! と一人の男が彼らの前に立ちはだかる。
「ユーがソーマね?」
「なっ、なんだキサマっ!?」
 あわてて立ち上がったソーマが、男の異常な髪型にまたもやあんぐりと口を開ける。
 それはアフロのかつらをかぶったリザードマン、アフロ凄杉・ベンジャミン(a07564)である。
「問答無用! とにかく踊るねー!」
 言うや否や激しく踊りだすベンジャミン。そしてなぜか、同じように踊りだすソーマ。
 疲労困憊して立てない手下たちは、何が起こっているのか理解できない。いや、ソーマの表情も、なぜ自分が踊っているのか理解できていない顔だ。ベンジャミンのアビリティ「フールダンス♪」の力なのだが、当然わかるはずもない。
 激しいリズムで踊り続ける二人のダンスは、延々と一時間以上にわたり続けられた。
 アビリティを使い切ったベンジャミンがその動きを止めると、糸の切れた人形のようにソーマが崩折れる。全力疾走で疲れきったところへ、さらに無理やり、激しいリズムでダンスを一時間以上。死んでもおかしくない。
「ユーはリザードマンの極秘アビリティ『アフロの呪い』に……アレ?」
 ベンジャミンが気づくと、周囲をすっかり、殺気をみなぎらせた手下たちに囲まれていた。ベンジャミンが気持ちよく踊っている間に、手下たちは十分休んで体力を回復させていたのだ。何が起こるかわからなかったので、ソーマが踊っている間は手を出せなかったのである。
「ちょちょ、ちょっと待つね!? 今ミーを傷つけると、このカレにかかった『アフロの呪い』が発動するねー!」
 何ィッ!? と手下たちが一瞬ざわついた隙を逃さず、ベンジャミンは一目散に逃げ出した。休んで回復したとはいえ、それを追いかけるほどの体力は手下たちにはまだなかった。
「……なんだったんだ? アレ」
 何をしに出てきたのかわからない、謎のアフロ怪人に首をかしげていた手下たちだったが、ソーマのうめき声で我を取り戻し、団長──否、首領に駆け寄った。


マスター:結城龍人 紹介ページ
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