<リプレイ>
●星灯す 灯火は点々と山まで続き、緩やかに流れる川面を照らす。 この夜空のはるか上、文字通り天上の国から落ちた星の半分が炎となって夜空を彩った――という伝承にならってか、置かれたランタンや飾り布のあちこちに星の意匠が見て取れた。 寂しがりな月を慰める為の祭事は、星の決意と成した事を讃える為の神事でもあるのだろう。 そして当然と言えば当然ではあるが、川べりは祭に参加する人々で賑わっていた。 「……どうしようかしら」 スノゥは困り顔で辺りを見回す。のんびり川に足を浸して楽しむという雰囲気ではないし、少しでも足を伸ばそうものなら川を遡る人々の邪魔になってしまう。悩みつつ通りかかった村娘に事情を話してみると、親切な娘は「すぐ近くにも宴会場があるから、川が空くまであっちにいればいい」と教えてくれた。いつ生まれるの、ときらきらした目で尋ねる娘に笑って答えながら、スノゥはそっと膨らんだ腹を撫でる。 はしたなくない程度にスカートを摘まみ、イエンシェンは一歩、二歩と川の流れに逆らい歩きだす。夜空を仰げば未だ月の姿は木々に隠れ、星の零すささやかな光だけが目に映った。 (「月はずっと傍にいた兄弟の星々がいなくなって、寂しいとは思わなかったのでしょうか……」) 本当に大事だったのは気を紛らわせてくれる村人ではなく、ずっと傍にいてくれた兄弟であって欲しいと思うのは、自身が後者に近いと感じるが故か。あるいは、心寄せる人がそうした性質ではないからだろうか。歩くたび頬にかかる飛沫をそっと拭い、少女は黙したまま川を行く。 手にした大徳利を時折口に運びながら、ミミックはゆったりした速度で川を歩く。色鮮やかな花の列は、か細い一筋の流れになって途切れることなく続いていた。 (「風情に酔ったのかな、ううん」) お酒は得意ではないけれど、携えていたくなった。少しずつ顔を覗かせ始めた月に思わず目を細めると、同じようにして天を仰ぐ人々の姿が目に入った。言葉にせずとも同じものを見ている、感じていると肌で分かるのが不思議で、そして暖かかった。 水に抗い進むのには体力がいる。けれど肌を冷やす夜風がひんやりと心地良く、汗と疲労を拭ってくれる所為か思うほどの疲れは感じない。足腰の良い鍛錬になりそうだと思いながら、ガルスタは尾を濡らさぬよう慎重に歩いた。ふさふさした彼の尾は、濡れるとなかなか乾かないのである。 (「人を集めて宴を催したくなるほどの月、どれほどのものであろうな」) 途中、目に入った宴会場で切り上げて酒でもと思ったが、頂で飲む酒は旨かろうと思い直す。楽しみができれば尚更、頑健な彼の足は軽快に進んだ。 シャオルーンは主にはしゃぎまわる子供達に手を貸しながら――と云うより半ば振り回されながら、転びそうになる子らを両手に抱えて川を行く。リザードマンが珍しいのか子供達は彼の鱗や尻尾に興味津々で、川岸からずっと追いかけてきていたのだ。 (「けど……これはこれで楽しいから、いいかな?」) 声を立ててはいけない決まりだが、シャオルーンに抱きかかえられた子供達はこらえきれずにくすくす笑う。身振り手振りで静かに、と示しつつも、無垢な笑顔につられてシャオルーンも目元を緩めた。
●花流る 頂上まで歩いていく気満々らしいエルに、マルガレーテがもの問いたげな視線を向ければ男は常のような笑みで返す。 「あぁなんかあれだよ、俺ぁここんとこどーも夜型んなっちまってよ……まぁ元気なんだわ」 「……そうか。いや、何にしろ、意欲的なのは良いことだ」 自分なりの感想を返し、手を引かれて踏み入った川には秋の気配が漂っていた。川岸の灯火や川面に流れる花を眺め、昔語りに思いをはせる。水は少し冷たいけれど、寄り添う温もりがあれば何ら気になる事はない。知らずマルガレーテの唇を笑みが彩る。 川岸にいた飛藍の霊査士・リィ(a90064)に誘いへの感謝を述べてから、ティルタは目当ての人物が見当たらない事に気づいた。 考えてみれば特に誘いをかけてあった訳でもないし、先に行ってしまったのだろう。こんな日もあるわよね、とティルタは肩をすくめて霊査士と別れ、輝く月と色綾なす星の花を眺めながら歩き始める。内へ内へと沈む思念はやがて、不思議な感覚となって亡き友人の記憶を呼び覚ました。 (「綺麗過ぎるものの中にいると、不思議と壮絶に切なくなるって……こういう事、ね」) 自分は感じ得ないと思っていたもの。形ないそれは重みを伴い、吐き出す息に幽かな色を滲ませる。 流れる花を目で追いながら、ソアは手近な岩に腰をおろして休憩を取っていた。精一杯に探し出したそれが痛みを伴うものでも、躊躇わず決断した花達の前身を思えば、優しく勇気ある彼らのようになりたいと柔らかな気持ちを抱く。 (「お星様はとても優しいね、お月様。お月様もきっと気づいているですよね」) 暫し空を見上げた後、ソアは再び月の優しいきょうだいの導きを追うべく立ち上がる。 足に絡む水と花からは微かに甘い香りがした。 唇に人差し指を当て、控え目な笑みを浮かべながら距離を置こうとするセライアの手を、シズハはわざと気付かない振りをしてそっと掴んだ。 「……」 戸惑いを含んだ視線に笑み返し、シズハはそのまま歩を進める。たとえ何があっても、どんなに離れていても想いは変わらないのだと示すように。 伝わる温もりに縋りたくなる弱さを堪えて、セライアは小さく吐息を零す。今はどうすれば以前のように笑えるのかも分からない。けれど、少なくとも二人が頂上につくまでの間、繋がれた手が離れる事はなかった。 「あの、これ、どうですか?」 宴会場で一休みしていたルイは、頬を染めながら新しい浴衣の感想を求めた。問われたジュダスは淡く笑って「可愛い、可愛い」と告げる。川も花も彼にとっては文字通りの存在でしかなく、他人の感情を揺らす事は理解しているが実感は薄かった。が、利用する事は忘れない。 これからの事や景色の美しさを楽しげに語り、二人でいられる事が嬉しいとはにかむルイを抱き寄せる。そのまま耳元で「私にはよく分からないな、近くにもっと綺麗なものがあるし」と囁けば、ルイは真っ赤になって俯いた。
●夜滲む 木々の影に覆われた長い長い道を遡り、頂に辿り着けば俄かに視界が広がる。 次第に狭まる流れはやがて源である大岩の下で途切れ、その周囲を囲むように開けた広場に煌々と光が降り注ぐ。 「お疲れさん、流石冒険者さんだねえ」 スヴェンが頂に辿り着くと、村人が笑いながら足を拭う為の布を持ってきてくれた。礼を言って受け取り、ふと見上げた月の眩さに目を細める。 星に敬意を示すのは、身を挺して月の寂しさを伝えに来たから。星も月も寂しくて悲しいままにならぬよう、スヴェンは大きく声を張り上げる。 「おーい! これで少しは寂しくないかー!」 呼びかける声に人々が一斉に振り向くも、微笑ましい内容に頬を緩める者が殆どだった。ようやく森から抜け出た月は喜びに頬染める乙女のように、仄かな赤みを帯びた金色を地に降らす。天と地に散る炎の彩は、人と月が得たささやかな温もりの証にも見えた。 ケイカが川から上がるのを手伝った後、体温の低い掌はするりと離れる。滑り止めの役目は果たせたかな、と笑うセレノにむぅと唸りつつ、ケイカは炎と星に彩られた景色を見つめた。 「月と星のお話、とても好きになりました」 何が違っても届かなくても、傍に居れば分かる事も出来る事もあるのだと思えた。自分も大切な人たちの、星になれたら嬉しい――そこまで話した所で、ふと違和感を覚えて隣を見る。 気付いた男は笑ってケイカの髪を一房すくいとると、潜めた声で低く笑った。 「……そうだね。分かるからこそ、傍にいるのが辛い事もあるのだろうか」 身を削るほど愛しても尽くしても、何ら癒せないと知れば絶望すると。微笑みながら他人事のように零された呟きは酷く、穏やかに耳に届いた。 一方、霊査士と物語の星の事や冒険者になった時の事で談笑していたハーシェルは、ふと気になっていた事を問うた。 「リィさんはどうして霊査士さんになったんですか、なぁん? 正解でしたなぁ〜ん?」 何気なく問うた事に、リィは戸惑ったような逡巡の後にどうして、と問い返した。 「えっと、正解だったら嬉しいなぁって…、…なぁ〜ん」 珍しい反応に、プライベートな質問すぎたかとハーシェルが慌てると「ううん、いいよ」とリィはいつもの笑顔を取り戻す。 「具体的にこれ、って挙げるのは難しいんだけど……絶対後悔しないと思ったからかな」 霊査士の力は揺るぎない決意の上に在る。自分の選択が正しいかは分からないけど、この仕事は好きだよ、と霊査士は笑った。 一瞬、ほんの少しだけ遠くの何かを思うように伏せられた目は、幻のように笑みに紛れた。
●月笑う ――本当は一人ぼっちじゃなかったのに、たくさんのきょうだいがいたのに、それでも寂しくて泣いたお月様。 フィードは酒で満たした杯を傾けながら、心の中で空に輝く月に語りかけた。 少しだけ、気持ちが分かるんだ、と。絆は確かに繋がっていようとも、交わせる温もりも声もないのは寂しいことだから。 「……だからこそ、今日はたくさんお祝いしよう」 月を映した杯に微笑みかけ、フィードは一人空を見上げる。月も、星も、彼自身も、寂しさを忘れるくらいに祝おうと囁く。 いつかまた寂しくなった時、この煌きを思い出せばほんの少しの勇気と安らぎが蘇るように。 光があれど夜は夜。ともすれば闇色の不安が忍び寄る視界に知己の顔を認めて、メリーナはほっと息を吐いた。駆け寄って笑顔で挨拶を述べれば、振り向いたセレノもやあ、と笑って応じる。 「お月様にはこんなに素敵なご兄弟がたくさんあられるのに、それでもお一人で寂しいと嘆かれたのですよね……」 言葉を持たぬが故に、伝わらなかった想い。とても切ないと思うのですと呟いて、メリーナは愛しいランドアースの夜空を、景色を目に焼き付けようと周囲を見回した。 ――胸に誓う。これから待ち受ける幾多の困難を乗り越えて、必ずこの愛しい場所に帰ってくる。 ふと、何かが動く気配に視線を動かすと、いつの間にかセレノが目の前で片膝をついていた。少女が目を瞬かせれば男は笑って、片手を背に回すだけの軽い抱擁を贈る。 「凍てた地で、陽光を受けて咲く花には辛い事もあるだろうが――君の笑みが萎れる事のないよう、祈っているよ」 最後にくしゃりと、幼子にするように髪を撫ぜられる。 空は、次第に白みつつあった。 ナオが見つめるその先で空はゆっくりと濃紺の衣を脱ぎ捨て、再び森に隠れかかっている月に似た白さが世界を染めていく。変化はあまりに静かで、静まり返った心に心配や不安がふつりと湧いた。けれどそんな涙が零れそうな気持ちよりも、何かを信じる心と前を見据える心とを胸の中心に据えて、ナオは沈みいく月に向って小さく笑う。 その方がきっと、月も寂しくない。
――やがて朝が来て、お月様は空のむこうの世界へと帰って行きました。 ひとを呼ぶため身を投げ続けた地の星たちは、水に飲まれて流れていきました。 ひとが迷わぬよう照らし続けた天の星たちは、燃えつきて空に溶けていきました。
星は最後に笑いました。 また、あえるよ。 星は最後に泣きました。 また、あえるよ。 そういって彼らはまばゆく光る世界に帰って行きました。
こうして、すべてが光る夜のすばらしい宴の記憶は村人たちに語り継がれ、今年もまた月が空に昇るのです――。

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参加者:19人
作成日:2008/09/16
得票数:ミステリ1
ほのぼの23
えっち1
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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