<リプレイ>
●夏色森の中 晩夏の日差しの中、霊査士に指定された場所へと向かう冒険者たちがいた。 森の木々は光を浴び、木漏れ日が降り注ぐ。 「はやく、熱を下げてあげたいですね」 翠玉の雫・シェアラ(a05715)が言うと各自が同意の言葉を続ける。 「高熱続いていると辛いですよね」 玉響・イルディス(a75084)が不安そうに頷いた。医術士ゆえに治してあげたい気持ちも強いのだろう。弱鱗の仔・ラク(a75310)も気持ちは同じようだ。 「子どもの夏風邪……往々にして酷くなりやすいですし……」 「ラクちゃんも子どもなんだなぁ〜ん」 壁に耳あり障子に・メアリー(a14045)が下草をスキップで進みながら笑った。時折くるりと回転する。まるで遠足にきたような足取りだ。その様子に全員が和やかな気分になる。 「それにしてもジュースみたいな解熱剤……医術士としても興味がありますね」 鈍色の影・ジェス(a68898)が呟くと、 「しっかりと飲みに、もとい汲みにいきましょう〜♪」 極楽鳥・ジンジャー(a75281)がつい本音を漏らした。飲みたいと思っていた仲間は多いらしく、ジンジャーの言葉に笑いながら賛成の声がいくつか上がる。 「ああ、湧き水の小瓶は後衛の誰かがもっていたほうがよろしいですね」 断章・グリフォス(a60537)が思い出したように霊査士から預かった小瓶を懐から取り出す。 「それでは僕が預かります。布を巻いて割れないように注意しますね」 イルディスは小瓶を預かると布でそっとそれを巻いた。懐へとしまいながら、周囲の物音に気を配る。まだ異常は感じられない。 「さて、早く届けてあげないとね」 北の一刀・カルー(a42439)がそう言って一際高い草を掻き分けると、八人は木々のない、開けた空間へと出た。 中央に人の膝丈程度の石があり、その上からこんこんと噴水のように湧き水が溢れている。溢れた湧き水は八人が通ってきた方向とは逆の方向へ流れた跡がうっすらと付いている。 ちょうど一匹のウサギがその湧き水を舐めているところだった。平和な光景だ。 「あれ〜? カブトムシいませんねぇ?」 ジンジャーがきょろきょろと周囲を見渡したときだった。 不意に頭上を黒い影が覆った。全員が上を見上げる。 霊査士が言っていた大きさ4メートルほどのカブトムシがそこにいた。
●夏色説得作戦 「幼い頃、カブトムシに憧れたものです」 グリフォスが上を見ながら呟く。 「大きく力強い……大きすぎると、ちょっと怖いですね」 思わずいい笑顔になってしまうほどである。 「虫かごに入らないサイズじゃ、可愛げもないです……」 ラクも同意の言葉を告げるとくるくる回っていたメアリーが不思議そうな顔になった。 「メアリー、小さいと思うのなぁ〜ん」 ワイルドファイア基準では4メートルは小さいほうだろう。そう言いながらもシェアラの背にこっそり隠れているあたり、怖いのは怖いらしい。 カブトムシは羽をぱたぱたさせると、不意に角を下に向けて急降下してきた。 角が狙っているのは湧き水を舐めているウサギだ。 「危ない!」 カルーが跳んだ。驚いているウサギを小脇に抱えるようにするとカブトムシの角から逃げるべく、身を捻る。 カブトムシの角は空をかき、ずん、とその場に着地した。同時にウサギは驚いたようにカルーの腕から逃げていく。 「被害というのはこういうことですか……」 同じように身構えていたシェアラがカブトムシを見上げた。 「とりあえず、カブトムシさんを説得してみましょう」 ジェスが言うと魅了の歌を歌えるグリフォスとジンジャー、メアリーが甘い歌を囁くように奏でる。 やがてカブトムシはやや角を下げるようにして八人に向き直った。 「湧き水を汲む間、どいてもらえますかぁ〜?」 ジンジャーが尋ねるとカブトムシは角を振った。 「ワキミズ、オレノモノ」 「喧嘩はよくないのなぁ〜ん。お友だちと仲良くするのなぁ〜ん」 メアリーが説得にあたるが、カブトムシは角を振るばかりだ。 「ワキミズ、オレノモノ」 「んー……どうして『おれのもの』なのかな」 カルーが通訳をジンジャーに頼む。カブトムシの答えは簡潔だった。 「モリデイチバン、ツヨイカラ」 「本当に強ければ、弱いものと分け合うのが大事なのではないでしょうか」 ジェスが懸命に言葉を紡ぐ。だがカブトムシには理解できなかったようだ。 「ワキミズ、オレノモノ。ダレニモアゲナイ」 「――残念、交渉決裂ね」 カルーが溜息をついた。その言葉に前衛陣が身構える。 「た、退治しちゃうのなぁ〜ん!?」 メアリーがショックを受け、くるくるどーん、とへたり込んだ。 「戦うのは怖いからキライなんですけど」 ジンジャーも失望を隠せない。 「出来るなら争いはしたくないのですが……せめて一思いに終わらせて差し上げましょう」 グリフォスはゆるりと首を振ると、先陣を切った。 カブトムシを挑発するように大きな音を立てる。同時に湧き水からやや離れた開けた位置へと駆け出した。大挑発だ。カブトムシがゆっくりグリフォスを追いかける。 全員がそれにならうように走りだした。
●夏色強者決定戦 「飛ばれると面倒ですね……ラクさん!」 「うん!」 前衛の右と左にわかれていたシェアラがラクへと鋭い声をかけた。陣営が整ったところで、左右からカブトムシの体に手をかける。 シェアラがラクを補佐するような形でカブトムシの前を一気に持ち上げひっくり返す。剛鬼投げだ。左にいたシェアラのほうが力が強い分、カブトムシの体は右に傾くようにして転がる。どすん、と振動が走った。麻痺もしたが、起き上がるのも困難なカブトムシにカルーの粘り蜘蛛糸が飛ぶ。動きを完全に封じた形だ。 ジェスが護りの天使達を全員に飛ばす。 「回復は僕が」 イルディスは全員にヒーリングウェーブを飛ばせる位置で構えた。時々預かっている小瓶が割れていないか、懐に手をあて確認をする。 ジンジャーが華麗に腕を広げ、儀礼用の短剣の先から七色の光をカブトムシへと放った。動けないカブトムシに当たると高らかにファンファーレが鳴り響く。偉大なる衝撃だ。それにあわせてメアリーがくるくる踊る。 カブトムシは起き上がろうと角を地へと突き立てる。だが、巨体ゆえにその体を戻すのは難しいようだ。六本の足が宙をかく。 カルーはその様子を注意深く眺めながら鎧聖降臨を発動した。誰かへ攻撃が集中したとき即座にカバーに入れるように、やや腰を低くして身構えるとその左のグリフォスが軽やかな足捌きで動く。イリュージョンステップだ。 まだカブトムシが動けないと見て取ったシェアラはとん、と飛び上がると素早い蹴りをカブトムシの硬い殻へと放つ。疾風斬鉄脚奥義。殻が壊れるような軋む音が響く。その逆側から今度はラクの蹴りが放たれた。軋む音が続き、カブトムシの六本の足がばたばたと動く。 後方から銀の狼の影が飛び出し、カブトムシを組み伏せて消えうせた。ジェスの気高き銀狼だ。イルディスはいつくるかわからぬ攻撃に備え、カブトムシの様子を伺っている。 もう一撃、ジンジャーの高らかなファンファーレが鳴った後に、カブトムシがようやくその拘束や麻痺を解いて、起き上がった。挑発をしたグリフォスへと角が突っ込んでいく。カルーがカバーに入ろうと動く前にグリフォスは軽やかにそれをかわし、細身の剣を目に見えぬ速さで動かす。そこから生まれた衝撃波がカブトムシの殻を傷つけていく。カブトムシの体液がじわりと滲み、零れた。 シェアラがもう一度、剛鬼投げ奥義を使おうと身構えたときだった。 「カブトムシの様子がおかしいなぁ〜んよ」 メアリーが指摘した。カブトムシが角を何度か上下に動かすようにして後にじりじりと下がっていく。 「警戒は解かないで話をもう一度聞いてみようか」 カルーの言葉にジンジャーとメアリーが同時に魅了の歌を歌いだした。前衛の四人は後衛の四人、特に歌っている二人に注意して身構える。 「どうしたんですかぁ〜?」 ジンジャーが尋ねるとカブトムシは苦しそうに答えた。 「オマエタチ、ツヨイ。モリデイチバン。ワキミズ、オマエタチノモノ」 八人は顔を見合わせた。 「メアリーたちがワキミズを汲んでもいいんなぁ〜んね?」 「ワキミズ、オレノモノジャ、ナクナッタ」 「それじゃあ、他の動物とも仲良く飲んでくれますかぁ〜?」 「オレノモノジャナケレバ、ミンナトノム」 メアリーとジンジャーの言葉に頷く巨大カブトムシ。 「口約束かもしれませんが……」 シェアラが不安そうに全員の顔を伺う。とは言え巨大カブトムシが八人のほうが強いと認めたのは事実のようだ。すっかり萎縮したように後ろに下がってしまっている。 「とは言え、無意味に殺さないのはいいことですし」 ラクが言えば、頷いてジェスが前へと進み出た。 「水を汲み終えたら怪我を治しますね。それまでこちらを食べていてください」 差し出したのはスターフルーツのシロップ漬け、少量。 「アリガトウ」 表情の見えない巨大カブトムシが笑ったような気がした。
●夏色ソーダ水 まず湧き水の確保を行うことになった。 イルディスがそっと小瓶を取り出す。大きな戦闘ではなかったせいで、小瓶は割れていない。ほっと安堵の息を零した。異物が入らないよう注意しながら湧き水を汲む。瓶の蓋を閉めて、イルディスはもう一度小瓶を布で包んだ。今度こそ大事に仕舞いこむ。 そうなると湧き水の周囲に集まった者たちの希望は一つだ。 「……ちょっと味見してみたいかも、です」 イルディスが恐る恐る言うと口々に声が上がった。 「メアリー、喉が乾いたのなぁ〜ん」 イルディスが指に湧き水をつけ舐めている横でメアリーはこくりと一口。目を白黒させてからぷーっと吐き出して、盛大にむせかえった。 「けふんっけほっけほ! び、びっくりしたのなぁ〜ん……」 「大丈夫ですか?」 グリフォスが味見をしながら覗きこむとメアリーは放心したように呟いた。 「お口の中が弾ける変な飲み物なぁ〜ん……」 「本当に甘いですね……!」 その横で一舐めしているのはジェス。水袋を用意して汲んでいる周到さだ。 「さて、次はひまわりね」 カルーが言うとジェスは巨大カブトムシに約束どおりヒーリングウェーブをかけてやる。 巨大カブトムシは嬉しそうに湧き水を舐めると羽を広げて飛んでいってしまった。 「今度は仲良く使えるといいですね」 ジェスがそれを見送りながら言う。 八人はひまわり畑へと移動した。一面の黄色が風に揺れている。 「畑の南側にある、茎が太くて葉の色が濃い、大きいひまわりがいいですね」 シェアラがさわさわ揺れるひまわりを見ながら選定に入る。 「あの、僕は畑の周りを探しますね……」 ラクが恥ずかしそうに言う。 「真ん中に入ってしまったら身動きがとれなくなってしまいそうですので……」 確かにラクはひまわりよりも小さい。 「じゃあみんなで南へ回り込みましょ。ばらばらに探すよりはずっといいわ」 カルーの一言でぐるりと大回りをして南へと回りこむ。 シェアラの条件に叶うひまわりは何本かあったが、一本を選ぶとそれを茎から斬る。 シェアラは手早く湧き水に浸しておいた布でひまわりの切り口を包んだ。 とは言え、一人で持つにはひまわりは大きすぎる。 交代で二人ずつで持って帰ろうと決めた頃には日差しも傾きかけていた。 「ひまわり〜♪ ひまわれば〜♪ ひまわるとき〜♪ ひまわれ〜♪」 ジンジャーがご機嫌で歌うように言う。 「ひまわり綺麗なぁ〜ん」 メアリーもくるくる踊るように歩きながら晩夏の森を抜けていく。 夕焼けに照らされたひまわりはなお一層黄色を濃くし、夏の終わりを告げているようだった。

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参加者:8人
作成日:2008/08/30
得票数:ほのぼの10
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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