ドラグナーガール!:DANCER



<オープニング>


●ワイルドファイアとドラグナーガール
「皆、集まってくれ。緊急事態だ」
 紫猫の霊査士・アムネリア(a90272)は、こほんと咳払いすると話し始めた。
「先日発見されたマリンキングボス沖の動く島だが、調査の結果、七大怪獣の最後の1体『飛天大王ガルベリオン』である事が確認されたんだ。
 飛天大王ガルベリオンは、全長数kmもある巨大な亀の大怪獣で、その名の通りに天高く飛べる、とんでも無い奴だ。これだけでも大事件だが、さらにこの大怪獣の腹に『ドラゴン界』が発生していたことまで分かった」
 それは、冒険者達にとって、最悪の知らせの一つだったかもしれない。
 新たなドラゴン界の主の名は、ドラゴンロード・パラダルク。
 幸い、パラダルクは慎重な性格のようで、ブックドミネーターを倒した『不気味な力を持つ』冒険者達に対して、直接攻撃はしてこなかった。
「もしかしたら、冒険者を殺すと呪われて死ぬとでも思っているのかもしれないな」
 アムネリアはそう推測を口にして、説明を続ける。

「ドラゴンロード・パラダルクの目的は、他を圧倒する絶対無敵の力を得る事だ。その為に、この世界で最も強大な存在、大大怪獣ワイルドファイアを支配して、その力を取り込もうとしている。
 もしパラダルクが大大怪獣ワイルドファイアの力を取り込めば、もはや、ドラゴンウォリアーであっても対抗できない強力な存在になってしまうだろうな」
 だが、絶望する必要は無いとアムネリアは言った。
 このドラゴンロードの『支配』の力については、調査隊からの報告もあり、対応する方法が判明しているのだ。
 まず、パラダルクが支配の力を使うには、『ドラグナーガール』達による儀式が必要となる。
 ドラグナーガールはパラダルク配下のドラグナーで、全員が全く同じ外見の、美しい少女の姿をした存在だ。ドラグナーガールたちは自分自身の戦闘能力は弱いものの、いずれも歌や踊りを行う事で、周囲の『モンスターや怪獣』を支配する能力を持っているという。
 彼女たちの儀式で大大怪獣ワイルドファイアを目覚めさせ、そして支配下に置くのが、ドラゴンロードの戦略なのだ。

 よって、ドラゴンロードの狙いを阻止するポイントは2つ。
 1つは、儀式を行うドラグナーガールを撃破する事。
 もう1つは、大大怪獣を目覚めさせない事だ。
 眠っている相手には、ドラゴンロードの支配能力も効果が無いのである。

 そして、大大怪獣を眠らせる方法は既にわかっている。
 そう、ワイルドファイア大運動会だ!
 目覚めかけた大大怪獣ワイルドファイアを、ワイルドファイア大運動会を行う事で再び眠らせれば、ドラゴンロード・パラダルクは『支配』の力を使うことができなくなる。
 さらに送り込まれたドラグナーガールを撃破すれば、完全にパラダルクの野望を挫けるだろう。

「ドラグナーガールが儀式を行う場所の周囲には、『魅了の力』で集まった怪獣の群れがいる。皆には、この怪獣の群れを突破して、儀式を行っているドラグナーガールを撃破して欲しい」
 アムネリアはそう言うと、詳しい事は担当の霊査士から話を聞いて欲しいといって、冒険者達に頭を下げた。

●DANCER
 これが、よこしまな意の介在しない祭りであったなら、どんなに良かったか。
「っとに、無粋な野郎だぜなぁ〜ん」
 ぎちり、と。肉食獣じみた八重歯を剥き出し、霊査士は取り出した葉巻を噛み締める。
 その色眼鏡越しの視線は……簡素な、位置関係だけを示した紙へと注がれる。
「貴様らの討伐対象の周囲にァ、植物怪獣が集まってやがるなぁ〜ん」
 植物であるのに、集まる。それはつまり、自走や自動できる種の怪獣であるということ。
「それも、殆ど『きのこ』だ、なぁ〜ん」
 ある者は跳ね。
 ある者は転がり。
 ある者は二又に別れた根で歩くかのように。
 きのこ怪獣達は自由自在に動き回り、ドラグナーガールの周囲に群生し、くねくねと奇怪な動きをしながら一緒に踊っている。
 このきのこ達、元々はドラグナーガールが儀式を行なっている場所から程近い湿地に生えており、本来は『捕食者から逃げる為』に動き回るのだという。
「っても、モノによっちゃァ逃げるだけじゃねぇ。胞子を飛ばして消沈だの混乱だのさせる奴も居りゃァ、傷口から毒の胞子を撒き散らす野郎もいる……そーやって、食われねぇようにするってな寸法だ――本来なら、なぁ〜ん」
 だが、ドラグナーガールの『魅了の力』に支配された今、それらの防衛力は向かい来る冒険者達への純粋な攻撃として用いられる。胞子による攻撃は勿論、単純な構造のきのこ怪獣であれば体当たり、木枝のような形状のきのこ怪獣であれば、その姿を利用して投げ技を駆使してくる場合もあるだろう。
 そんなきのこ怪獣の数は……もう数えるのが面倒だ、といった素振りで、霊査士は嘆息と共に煙を噴き出す。もっとも、きのこであろうと怪獣は怪獣。相当の大きさがある。どんなに群れて襲い掛かっても、最前線で一度に相手できるのは、三体か、精々四体が限界だろうと、霊査士は言う。
「くれぐれも言うが」
 告げて、おもむろに。伸ばした指先で色眼鏡を押し上げ、紙へと落としていた視線を、目の前の冒険者達へと巡らせる。
「貴様らの目標は『ドラグナーガール』だぜ。まァ、どのみち、群れのど真ん中に居やがっから、きのこ共どーにかしなきゃなンねぇが……例の『魅了の力』っつーのも、バッドステータスじゃねぇしな、解けやがらねぇ。かっつて、怪獣殲滅に気ィ取られてっと、奴等賢いかンな、間違いなく逃げやがるぜ。気ィつけろなぁ〜ん」
 無論、相手はドラグナー。逃走の手段も、単純なものでは済まないかもしれない。
「他に手がねぇとなりゃァ、命乞いの手段も選ばねぇだろなぁ〜ん」
 泣き落としだの色仕掛けだの……考えうる手はたんとある。
 だが。
「利く耳持つな。殲滅しろ。それが今回の貴様らの仕事だぜなぁ〜ん」
 がつん、とやや強く。霊査士は拳で、卓とそこに置いた紙の中央を小突いた。


!グリモアエフェクトについて!
 このシナリオは同盟諸国全体に関わる重要なシナリオ(全体シナリオ)ですが、『グリモアエフェクト』は発動しません。


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参加者
聖砂の銀獅子・オーエン(a00660)
朽澄楔・ティキ(a02763)
無邪気な笑顔の・エル(a08082)
ささやき謡う夜風とながれる・グレイ(a31632)
儚幻の対旋律・ゼナン(a54056)
バカサバイバー・グレッグストン(a63039)
樹霊・シフィル(a64372)
豪火剣欄・オウル(a72556)
重鎧・トビー(a72634)
陽炎稲妻水の月・フォンゼイ(a74521)


<リプレイ>

●GATHER
 折角の祭りに水を差されては良い気はしない。
 その気持ちは、陽炎稲妻水の月・フォンゼイ(a74521)に限った事ではない。
 水着を新調しようか、他にも色々、楽しみにしていたのに……
 その前に一仕事。
 張り切っていこうと、無邪気な笑顔の・エル(a08082)は気を新たに。
 とにかく、パラダルクの狙いを阻止する為にも、しっかり儀式を潰しておきたい所だと、儚幻の対旋律・ゼナン(a54056)は踊る茸へ目をやる。
 全く、とんだ怠け者が居たものだと、豪火剣欄・オウル(a72556)はからからと笑う。
「可愛い子には棘があるって言うけど、棘じゃなくて毒だねー、これは」
 その言葉に、実は怪獣にしか判らない良さでもあるのだろうかと俄に思考を巡らす、聖砂の銀獅子・オーエン(a00660)。
 もっとも。
 朽澄楔・ティキ(a02763)にしてみれば、操られるとか以前に、植物の怪獣がこういう生態を持っていた事の方が衝撃的だったりするのだが。
 一方。
 一足先に秋の味覚を独占とは……! と、樹霊・シフィル(a64372)は既にきのこを食材としてロックオン完了。
 確かに、きのこは美味しいからお土産にできるとして……と、ささやき謡う夜風とながれる・グレイ(a31632)は鼻と口に胞子避けのバンダナを巻きつつ考える。
 ……見た目だけ可愛くて男かもしれないなんて。
 過ぎった思いに、思わず手の中の矢を圧し折る。
 確かに、ドラグナーやなかったら仲良くなりたい女の子なんやけどねー。
 などと、心を読んだかのように考える、孤独の太陽・グレッグストン(a63039)。
 それでも、視覚的にはやりにくい相手だと、ヒトの重騎士・トビー(a72634)は集う茸の群れ……の中心へと、視線を飛ばす。
 その先で。
 ころりころりと。
 気配を察したきのこ達が、動き出す。

●MUSHROOM
 敵だから斬る。それでよい。
 きのこを迎え撃つ騎上で、オーエンが漆黒の魔剣を抜き放つ。
 突破口が開くまで……先ずは順当にきのこ狩りならぬ、きのこ刈りだと、同じく前衛集団の中で、黒一色の召喚獣に跨るグレッグストンが、握る鎌の黒い柄を握る。
『行くぞ』
 響くタスクリーダー。
 刹那、眩い光の雨が、向かい来る巨大なきのこ達へ!
 そっと空気を撫で付けてシフィルの描き出した紋章に、白い蛇から吐き出された黒い息が混じる。今はその恩恵を受けることはないが……花開くエンブレムシャワーは、ゆく手を阻むきのこ上に、容赦成しに降り注ぐ。
 その光に被さるように、それでいて尚遠く。
 常夏の真昼には不釣合いな三日月。蝕が被った様なその輪郭が一層に歪み……引き絞った弦へと現れるのは、太陽にも似た光。
 盾弓の弦が鳴った。
 ティキにより解き放たれた矢は天へ吸い込まれ、ジャスティスレインとなってより広く、より遠く。
 ……普通の雨ならば、きのこは喜んだかも知れない。
 が、これから降るのは、魔法の光。
 雨乞いでもするかのように。さっと天へ差し向けられる、金色。広がる金の枝葉に、紅い宝石の実を付けた――エルの杖。
 右に左に揺さぶれば、明るく空中に光る紋章の雨雲。途端に銀から虹色へと色を変える、少女の形の召喚獣。
 一人一人の威力は低くても、この波状攻撃を凌ぐ事はそうできはしない!
 かっと。
 虹色に染まった光が、途切れかけた雨の続きを降らせる。
 そこにもう一つ重なる虹色。
 金の次は漆黒。
 肘までを覆う術手袋は、蒼穹に開いた虚無のように深く黒く。
 漆黒色に暗く沈むゼナンの腕が、常夏の空に虹色に染まる紋章を描き出す。
 背に繋がる召喚獣の黒い髪もまた、虹色に。
 連動して明滅する紋章が光を吐けば、エルのものと重なってきのこを撃ち据える虹色の集中豪雨と化す。
 ある物は千切れたようにぼろぼろに、ある物は丸々とした元の形のまま、倒れて果てていくきのこ。
 しかし、中には。
 ただで倒れてなるものかとでも言うように、最後の一命を賭して、或いは、元気なうちにと有毒な胞子を撒き散らしてくる。
 ……風向きに逆らって噴射される胞子。
 こちらが届けばあちらも届く。
 それを体現するかのように、バンダナを物ともせず入り込んだ胞子に、グレイは弓を引き絞る指先にぴりりと走る痺れを感じる。
 ――今、切り裂いたのは本物のきのこか?
 胞子に閉ざされた視界、トビーは自分が一人きりになったような錯覚に囚われていた。
 仲間の姿は等身大のきのこに変わり――これがきのこの報復に遭い、混乱をきたしているのだと、理解だけはできた。
 ただ……
 隣の、きのこに乗った背の高いきのこが、別のきのこを枝で切り裂いているのを見るに、どちらかは仲間に違いない。
 ――奇しくも、同じ光景を見るオウル。
 もっとも、それも長くは続かない。
 すかさずに流れ込むのは、爽やかな風。
「気を抜けないな」
 大振りの弓の弦は今は引かず。フォンゼイから放たれたのは、矢ではなく胞子を洗い流す毒消しの風。
 お互いが敵きのこだと思い、対峙しそうになった瞬間に解ける幻覚。
 その頭上を、ようやっと痺れの消えたグレイの一矢が、風を切って飛来する。
 ふっと。緑の蛇から吹き付けられる青い息。
 その軌跡を棚引かせ飛ぶ、対照的な色彩の赤い矢。
「……焼ききのこ」
 誰が言ったのやら。
 燃え上がるナパームアローの爆炎に、微妙に漂う香ばしいきのこ臭。
 その奥で。
『突撃!』
 中央に居る踊り子が、大袈裟な身振りできのこ達をこちらへと扇動する!
 全周囲に散らばっていたきのこが、一斉にこちらへと動き出す。
 あれが道を塞ぐ前に!
 再び、幾重もの雨雲――紋章の光と正義の矢が、空に踊った。

●DANCER
 シフィルの歌声は、沐浴のような清々しさを備える。
 それは術手袋に秘められた森の魔力か、本人の資質か。歌い上げられる高らかな凱歌が、きのこの群れを裂いて進む皆を、胞子の毒牙から救い出す。
 消え去っていく、喉を焼く様な痛み。
 健勝さを取り戻したエルの両手が、今一度金の枝を揺する。
 かっ、と開き降る、虹色の光。
 ぽろぽろころころ。
 何処か玩具じみた動きで進路から取り除かれるきのこ――の、その更に向こうへ。
 ゼナンの腕が閃き、空にまた黒い穴を開ける。
「横からもくるぞ」
 軽く、同じ後衛の皆へと注意を促して。しかし、描き出した紋章が真に狙うのは、活路を見出す為の正面!
 ――この瞬間を待っていた。
 素早く大振りの弓に番えた矢を、フォンゼイが射ることはなかった。
 代わりに仲間へと飛んだのは。
『今だ!』
 遂に開いた舞台中央までの花道。
 それを駆け抜けろと告げる、仲間へのタスクリーダー。
 折角開いた道を塞がせはしない。
 グレイの弓から居放たれた赤い矢が今まさに駆け出そうという四騎をも越えて、活路の先へと鋭く突き立つ。
 爆音を上げ、直撃したきのこを粉々に吹き飛ばすナパームアロー。
『存分に懲らしめて来てくれ、頼んだぞ』
 声援には応えず。いや、むしろ行動で応える為に。
 爆炎を、オウルの赤い鎧纏う召喚獣が跳び越える。
「わりぃな。お前らには用はねぇんだ」
 障害物走のように、右へ左へ合間を縫い……だが。
 むぎゅ、むぎゅ。
 脇から押し潰すかのように迫るきのこと……そのきのこ同士の接触によって、突然撒き散らされる妙な色!
 いかにも毒素であるといった様相の胞子に曇る視界。
 ぺったりと張り付くような不快感と、それを上回る火傷のような痛み。同時に、急激に沸き上がる得体の知れない倦怠感が、追撃を敢行しようとする四人の騎手を襲う。
 その上でなお、迫りくるきのこの枝分かれした傘が、召喚獣ごと身体を絡め取る!
 ――が。
 グレッグストンの跨る黒い召喚獣は、それを軽やかに跳び越えた。
 同じように、先へと至ろうとする、青い鎧の召喚獣の主――ひりつくような痛みだけで胞子を耐え抜いたオーエンが、俄に喉を振るわせる。
 響き渡るガッツソングが、胞子の影響を受けた追撃者達を包み、その傷を瞬く間に消し去って行く。
 その同じ範囲を、グレッグストンから解き放たれた爽やかな風が吹き抜ける。
 ひりついた痛みまで消し去って――しかし、そんな目の前に、一際に大きな丸いきのこが押し迫る!
 そこへ届いたのは――光の矢でも、癒しの矢でもなく……桃色の。
「さて……どっちの魅了が勝るかね……?」
 ごちるティキの視線の先、きのこの毒胞子に負けないくらいの色彩で撒き散らされる、ハートクエイクナパームの爆煙。
 そしてきのこは。
 奇妙な動きをしながら、道を塞ぐほかのきのこを体当たりで吹き飛ばし始めたではないか!
 いや、これはある種道理でもある。
 紅蓮の雄叫びで動きを止めることができるのなら、同じバッドステータスの魅了が効果を及ぼすのは当然のこと。
 行ける!
 僅かに開いた道へ目掛け、トビーが痛みの消えた腕で召喚獣の手綱を繰る。
 金の髪を靡かせ、一目散に駆け出すグランスティード。
 射程に捉えた、その瞬間。
 空気を震わすトビーの紅蓮の雄叫びが、周囲のきのこ諸共に、踊り子の身体を射竦めた。
 萎縮して、動きを止めるドラグナーガール。
 しかし……
 一際大きなそのきのこの動きは、後方より追い縋る後衛陣にはよく見えていた。
『連れて行く気だ、きのこを狙って!』
 すかさずにグレイから届けられるタスクリーダー。
 構わず、きのこは逃げ出そうとうにうに……
 ……いつ、辿り着いたのか。
「そこのお嬢さん、俺とお茶せぇへんー?」
 大きのこの間合いに、グレッグストンの身体は無作為に、躊躇無く踏み込んでいた。
 達人のみぞ成しえる体捌き。
 騎上で揺らめく鎌の緋色もまた、その動きと同様何処か無造作に。突然の事に戦意を喪失したきのこの軸を、掬い上げるようにして深く切り裂く。
 その脇で。
 変わらず押し寄せる小物きのこ――といっても、背丈くらいはあるのだが――諸共に、オーエンが流れを描く。
 四足の獣を巧みに繰り、魔剣に秘められた何かをもきのこに刻み付けるようにして、穏やかに見えて鋭く放たれる流水撃。
 とあるきのこは傘と軸を真っ二つに。
 とあるきのこは雑草が刈り取られたかのようにばらばらに。
 そして、最大の標的たる大きのこは。
 ぼてーん! と、横倒しになり、踊り子は地面へと投げ出される。
 ……その方向は、計算尽く。
 投げ出された事で近付いた距離。
 ――届く。
 僅かに動く唇を見た時。いや、既にその前から。
 エルの頭上には、紋章から変化した巨大な火炎の玉が、明々と燃え盛っていた。
「あなたの言葉なんて聞くつもりありませんから」
 少女の髪は銀から虹へ。炎は赤から虹色へ。
 色を変えたエンブレムノヴァが、真っ向、ドラグナーガールへと飛来、衝突と同時に弾け、辺りに火の粉を散らす。
 焼け焦げた体。踊り子は必死に手招きをし、新しいきのこを――
 ――それが、横からすっ飛んで来たホーミングアローに射られ、千切れ飛ぶ。
「……植物のダンパとは面白いもん見せて貰ったが……逃がしてはやらんよ」
 矢を放った余韻に震える弓の弦を摘み直すティキ。
 その通りだ、と。
 今一度ゼナンの黒く沈む腕が翻り……紋章から生み出されるのは、虹色に輝く気高き銀狼。
「……残念だが、逃がす訳にはいかん」
 頷くようにして。
 フォンゼイもまた、背丈に合わせ大きく作られた弓の弦を、目一杯に引き絞る。
「何を為すべきか位は弁えているつもりだ」
 狙いは一つ。
 それは、まごう事無く。
 ――俄に。
 近くにいた小きのこを抱きしめて、踊り子は震えながら瞳を潤ませた。
 慰めるように一斉に動き出すきのこ――を、眩く輝く森の気配が撃ち据える。
 秋の味覚の独占ゆるすまじと言った様相で、シフィルからひたすらに打ち出されるのはエンブレムシャワー。
 遂に零れる大粒の涙。
 その身体を、千切れたきのこを踏み越えてきたグレッグストンが、ひょいっと小脇に抱え上げる。
 ……やましい気持ちはない。多分。
「チェックメイトや、別嬪さん」
 言うや否や。
 救世主かと思われたその腕は、集う仲間の前へと、踊り子を投げ寄越す。
 そこにもう、退路は、ない。
 か細い悲鳴と――
 ――燃え盛る、炎。
「聞えません!」
 言葉を掻き消すように、容赦なくエルが再びに虹色の火球を解き放つ。 衝突音に掻き消える言葉。
 ――僅かな音を聞き取って、オウルはそれをはははと笑い飛ばす。
「可愛い子にそんなこと言われるなんて、嬉しいねぇ。けどわりぃな。あんたは好みじゃねぇんだ」
 途端に。
 ぐっと沈む召喚獣の身体。
 騎乗するその腕で、荒ぶる武神の力を宿すという太刀が、青白い光を放つ。
 その脇、トビーは魔獣の牙から生み出された魔剣を、大岩斬の構えで頭上へとゆっくり掲げ上げる。
「悪いがそっちは間に合っているんでな」
 注ぎ込まれて行く、突撃の力。
 そしてもう一人。
 納めた剣の鞘が、激しい稲光を纏う。
 オーエンの手で鞘走る、電刃居合い斬り。
 その光を合図にして。
 三振りの魔剣と神剣が、邪悪な竜の眷属を貫いた。

●CREDIT
 踊り子が息絶えた途端。
 きのこ達は冒険者らに向かい来るのをやめ……むしろ、己の本分を思い出したかのように、一目散に散っていった。
 ……どうやら、間違いなく倒せたようだ。
 ゼナンは動くきのこの居なくなった景色をぐるりと見回す。
 落ちているのは、破れたり焦げたり千切れたり……動かなくなったきのこ怪獣達。
 その残骸を……至極うきうきと回収する人影!
「えりんぎ、まいたけ、しめじ。大漁大漁でございますわ」
 ほくほくと集め回っているのはシフィル。食う気満々というか、蓄える気満々というか。
「あらあら珍しい、まつたけもございますね」
「さて、きのこ焼きだねぇ」
 グレイもニコニコしながら、たんまりとある各種きのこをそれはもうシフィルに負けないくらいに集めていた。それはもう、実はこれが目当てだったということが滲み出るくらいにニコニコしながら!
 フォンゼイはそんな残骸を一つ拾ってしげしげと。
「また生えてきたりしないだろうな」
 むしろ生えればきっと誰かが食べるから無問題。これぞワイルドファイア。
 そんなきのこの処理は回収組若干二名に任せ。
 ドラグナーガールの遺体は、一応埋葬される事になった。
 土を掛け、見えなくなっていく姿を何処か淡々と眺め、オーエンはふと。
「ロードのパラダルクとやらもピンチにはそう命乞いをするのかね?」
 だとするととても楽しみだが、さてはて。
「それにしても……竜を避ける為に、竜討伐された大陸から移住して、『享楽』の竜に遭う、か」
 ……さて、どうなるやら……
 なんとも数奇な巡りあわせだと、ティキは溜息混じりに……
 ……あの儀式が純粋な祭であったら、楽しげな光景だったのだろうな。
 そんな事を考えつつ、ゼナンもまた、ばっちり始まっている、焼ききのこパーティーを見つめるのであった。


マスター:BOSS 紹介ページ
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