やんわりとここちよい



     


<オープニング>


 令法の白花を軽く揺らす山風に乗り、大瑠璃のさえずりが響く。
 今年も夏の暑気を避け、寝具職人・マク達は、山の避暑地に仕事場を移していた。
「へえ。それじゃ親方、この夏も冒険者さん達を呼ぶんすか?」
 丁寧に巻かれた長い長いタオル生地を両手に、若弟子が問う。マク爺は手慣れた様子で裁ち鋏を繰り、生地を切りながら頷いた。
「うむん、村や町はまだ暑いみたいだしのう……楽しく涼んで貰えりゃ幸いじゃ」
「やあ、そりゃ楽しみだ」
「冒険者って個性的な人が多いからなあ」
 声を弾ませる若弟子達の様子に目を細め、マクはやがて厨の方を見遣る。愛する老妻・ランは、そろそろ昼餉の準備を始めた頃合だろうか。
「ランさんも彼らの為に料理を頑張りたい言うてござったわい」
 小気味良く響く包丁の音と、ふわりと爽やかに香る香草が食欲を誘った。

「今回の寝具作り体験学習会で作る品は……名付けて『タオルきゅっと』だそうです」
「タオルきゅっと。……きゅっと」
「……毎度たおやかな命名ですこと」
 祈らない霊査士・エリソン(a90312)の言葉に、ヨハナ・ユディト(a90346)と、パレトラ・キリオ(a90362)は顔を見合わせる。二人共似た感想を持った様子だ。
「親しみ易さが信条だそうですよ」
 霊査士曰く、件の最新作『タオルきゅっと』とは、マクの村で採れる名産品『モチリ実』の繊維と綿で織った、軽やかなタオルケットの事らしい。
 薄手だが通気性と吸水性に富んだ一品で、ぐにぐにと楽しげな独特の手触りも相変わらず健在だ。更に今回は旅先でも気軽に携帯出来る様、収納用の木筒付きだと言う。伸縮性に優れた生地は、木筒にきゅっと押し込めても柔らかさが損なわれる事がない。筒から取り出して拡げ、軽くはたけばすぐに心地良い肌触りが取り戻せるだろう。

 作り方は、以下の通りだ。
 まず、巻物状の長い『タオルきゅっと』生地から、身の丈に合った長さを裁断する。
 次に、布端がほつれない様、三つ折りにして縫い止める。
 そして、それを木筒に詰める。
「……単純に言うと、その三工程になりますね。不器用な方にも安心仕様です」
 それでも手元が不安な者には、職人達が手助けをしてくれるので、余り身構えなくても良い様だ。
「例えば裁断した布を好みの形に切り抜いたり刺繍をしたり……木筒に彫刻を施す創意工夫も良さそうですね」
 製作に必要な道具・材料類は、余程特殊なものでない限りは概ね工房に用意してあるから、別段の準備は要らないと言う。

 作業の後には、近くを流れる清い小川で戯れるも良し、付近を散策するも良し。或いは午睡や談笑の一時を過ごすのも良いだろう。
 一頻り寛いだ後には、少し早い夕餉が待っている。マクの妻・ランが腕を奮い、素朴ながらに暖かな家庭料理を振る舞ってくれるそうだ。蕗の煮物に三つ葉のひたし、蕨飯などの山菜料理。若弟子達が小川で獲った鮎は塩焼き、鰍は天麩羅にどうかと、老妻は気合い充分だ。

「それでは一緒に来て下さる皆さんは、今回も宜しくお願いします」
 そう言って霊査士は頭を下げた。


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参加者
NPC:祈りはじめた霊査士・エリソン(a90312)



<リプレイ>

●薄明に集いて
 何処迄も高い処暑の空を、疎らな雲が淡く彩る。
 薄明の香を肺に満たし、エルスは寝具職人・マク爺達にぺこりと礼をした。
「今回も頑張って作りますね♪」
 寝具作りも三度目となれば、上手に作れる――だろうか。少々の不安が胸を過ぎた。だがマクに『今回も一緒に頑張ろうぞい』と気さくな声をかけられれば、心も軽くなる。翁に礼を述べ、彼女は通りかかった霊査士と辞儀を交わした。
「今回も宜しくお願いね」
 レインはたおやかに頭を下げ、宜しくとベルカンが呟いた。オリーブブレッドとオリーブ油、そして赤ワインを詰めた差入れの籠を手に、ハルトが歩み出る。
「作業の後に皆さんでどうぞ」
「おうおう、すまんのう」
「やあ、お酒だあ」
 職人達の歓声を背に、彼は工房へ入る。信条は『何事も形から』だ。長い髪が邪魔にならぬ様、頭の鉢周りをタオルで巻いた。
「おぉっ!?」
 逸る足で転びかけたノリスが、工房の戸口に捕まって体勢を持ち直す。うっかり出遅れたが、中を見れば何とか間に合った様だ。胸を撫で下ろし、呼吸を整えて隅の空席に着く。

 鋏や鑿の取り扱い・糸や待針の補充について説明が終わると、生地の裁断に入る。
「今度は『タオルきゅっと』ですかー」
 ずらりと並べられた、色とりどりの生地を見渡すセリア。携帯用の木筒付きとは、冒険者に嬉しい配慮だ。カナエの指先が、生地に触れる。しっとりとした弾力とさらりとした肌触りが、安眠を喚起させた。
「あ。この生地、良いなぁ」
 ファンバスは爽やかな白と青の格子柄を手に取る。運搬が容易なら、屋外の昼寝にも使えそうだ。木筒には今夜の夕餉・鮎と鰍を彫ろうか。あれこれ思い浮かべ生地の弾力を掌でぐにぐにと味わえば、口元もほわりと綻ぶ。
「特っ別に妾がそちのを作ってやるわっ」
 蓮模様の白生地にくるまって長さを定め、ヴェルはくるりとミシャに向き直る。気品と愛嬌に満ちた友に、ミシャも親愛の笑みを返した。
「ひめさまと作り合いっこだね」
 自らの丈に合わせ、セリハは生地に鋏を入れる。ご自宅用で? と若弟子に問われると、彼は穏やかに首を横に振った。
「野宿が多いだろう知人の為に」
 携帯性に優れた柔らかな寝具は、旅の疲れも解してくれるだろう。けれど受け取った相手の少し複雑そうな表情も見てみたいから、敢えて相手より五・六センチ程背が高い、己に合わせて作ってみよう。
 ベルカンは自らより頭一つ分身長が高い職人を捕まえ、贈る相手と背格好が似ているから、裁断のモデルになって欲しいと頼む。
「いつも世話になってる……友達? 同僚? ……みてえな相手に上げる用」
「おう。良いのが出来ると良いっすね」
 打切棒に友愛を語る彼に、職人は笑顔で裁ち鋏を渡す。
 昨年作った『まるこざ』と同じ青布を選び、仮止めも万端。
「今年の俺はひと味違うぜ! ……おりゃーー!!」
 針と布を諸手に、スズは気合いを入れた。
 待針で止めた布を、レインが縫う。長さの見積もりも職人のお墨付きだ。百八十センチという高身長の彼にも、良く合うだろう。柔らかな質感が好みな人だから、きっとこの手触りを喜んで貰える筈だ。
 ――深い海の様な眠りが、彼を優しく包み込んでくれる事を祈って。

●「きゅっと」
 窓から入る森の風が、細かな作業に勤しむ者達を心地良く撫でる。
 アイスは無言の侭唯気怠そうに、器用な指で縫い進めている。夏ばて気味の身で根を詰めたせいか、リオンは少々疲れた様子だ。ユディトは彼女を慮り、共に風通しの良い席へ移る。
 綺麗な青い糸はあるかしら。カナエが職人に問う。花模様の刺繍をしたいと説けば、濃淡様々な藍染めの糸が渡された。セリアが縫い終えた生地を広げて見渡せば、ほつれもなく良い仕上がりだった。後はひよこの刺繍を施すのみ。セリハは、布の一端に芍薬模様を入れている。ベルカンは瑠璃青の生地に椿を縫う。知人によると、自分は色彩以外は良いセンスをしているらしい。確かに手先を使う華やかな作業は好みだ。微妙な旋律の鼻歌に合わせつつ、手首を返して糸を引き締めた。

 『作る』という事。その上達は、唯経験を積み続けた者だけが得ると聞く。だから自分は、今回も翁の教えを素直に聞き、ひとつひとつを学ぼう。手指の何処に力が入り、どの様に動かすのか。ラグゼルヴは見本を示すマク爺の手をじっと見つめた。
(「良い出来なら……今回も、有難うって……伝えられたら良いな」)
「ボク、身体を動かすのは得意だけど、指先はどうも……」
 切抜き等の細かさを排しすっぱりと裁断した生地を手に、チアキは頭を掻く。だがマクはその手元を見て、嬉しげな面に変わる。
「いんやいんや、心の籠もった縫目じゃよ」
 自分の身長よりも長い生地に埋もれ、ミシェルは懸命に薔薇の刺繍をする。健気さの余り職人が助力の要不要を問うが、彼女はふるふると首を振る。以前義母に貰った『ふわんケット』がとても嬉しかったから、今度は自らがお返しをする番だ。
「ままにあげるかりゃ、へたっぴでもジブンのチカラでちゅくりゅのっ」

 縫製・刺繍が終われば、木筒の彫刻だ。ここ迄来れば完成も近い――のだが。
「……」
 がっくりと項垂れ、地に膝をつくスズ。その手元には、返し縫いで始まった筈が、何故かまつり縫いで終わっている代物があった。
「おおう……。でもこれ位ならここんとこだけちょっと切って……あれ? 糸切り鋏何処だ」
 跪く青年をフォローした若職人が手元を探っていると、近くで作業をしていたアイスが『そこに』と呟いて彼の死角を示した。
「おう、あったあった。有難さん」
 炭火で炙って変わり色を着けた木筒に、流水紋と花弁を黙々彫り描くリン。カロアはすっくと立ち上がり、漆黒の生地をぐぐと広げた。
「引けば伸び、伸びれば戻る……これぞモチリ実の真髄、つまり」
「無駄話は厳禁なんだよ……!」
 真髄はユユに遮られた。浮き彫り・普通彫り・透かし彫りという三大難関に挑む彼女は、真剣そのものだ。
「これをこうぴっちりと身に纏い……ほら! 海苔巻!」
 がり、がり、ごり。
「あれ? スルー? (ていうか端っこ絡まっ――)」
「……案外難しいなぁ……ちょっと疲れちゃったんだよ」
 ユユは溜息を吐く。足元にあった黒くて暖かいぐにょりとした長椅子に腰を下ろすと、再び作業に専念した。

 スウは白地に兎柄、ルルナはベージュ地に肉球柄。布地は中々可愛いが、問題は彫刻だ。
「ルルナお姉さん……で、出来る!」
「スウさん……やりますね!」
 『兎風のまりもみたいな毛玉』と『猫風の潰れた何か』が彫られた木筒を手に、二人は火花を散らした。
「………きゅっと。きゅきゅっと」
 蝶の刺繍をした生地を木筒にきゅっと押し込め、取り出してふわりと広げ、また詰めてみる。フィズは一連の動作を繰り返しながら、手触りの虜――もとい、贈物の出来を確認していた。
「……きゅっと」
「「きゅっきゅっ」」
「きゅ」
 ――『タオルきゅっと』という語感が印象強いせいか、よくよく耳を澄ませば、そこら中きゅっきゅ呟いてる人だらけだった。

●風の馨
 大気が昼の熱を含む頃には、皆作業を終えて三々五々休憩に散り始める。
 ミシェルは縁側に腰掛け、完成したばかりの軽やかな寝具をきゅっと抱き締めた。義母は、喜んでくれるだろうか。愛しい者の笑顔を思い浮かべれば、胸が暖かい。柔らかなタオル地の感触も相俟って、彼女はやがて穏やかな午睡へと誘われた。
 中庭に面した風通し良い特等席を見付け、エルスは早速寝具を広げて包まる。
「……ふわふわで、寝心地いいで……す……♪」
 柔らかな感触の中、至福の眠りが訪れた。
 空部屋に座したノリスは、ラベンダーコーディアルで喉を潤すと、手製寝具をずらりと並べる。ハンモック・ござ・膝掛け・小型枕、そしてタオルきゅっと。どの組合せが最高の寝心地か――それは悩めど正解のない『好みの問題』だ。
「……うむむ」
 試行錯誤を繰り返し、彼は唸り続ける。
「何処に行きたいとか何をしたいとか……余り主張するのは贅沢みたいな気がしてたの」
 だが、意を委ねてばかりでは相互理解も進まない。最近はそう思う様になったと言い、女重騎士は面を上げる。選んで良いなら川辺を歩いてみたいと控えめに告げると、スズはいつも通り屈託ない笑顔を見せた。
「ユディトと一緒なら、どんな場所でも俺は楽しめるんで問題なしだ」
 戸外に赴く友を見送り、リオンはタオル生地を手指で弄ぶ。制作中に汗でくたくたになるのではと懸念したが、中々の仕上がりだ。ふわふさとした感触に、気分も落ち着き癒される。
「……耐えろ、耐えるんだ自分」
 込み上げる睡魔に、彼女は戦いを挑んでみる。

 森の散策に友との談話、或は川辺で涼を取る者。野外の者達も、皆長閑に過ごしていた。
 川面に爪先を浸し、歩み行けば水の清さが染み渡る。
「ひめさま〜」
「妾は入らぬっ。濡れるのは好かぬと言……」
 振り向いたヴェルの頬に、ぱしゃりと水滴が跳ねる。数度瞬いて頬を擦り川面を見れば、踝を浸したミシャが掌に水を掬って笑んでいた。
「む、むきー!」
 小さな素足が川へと駆け出し、跳ねる水が陽を受けて虹の小宝珠を成す。
「ま、負けない!」
 ――後は済し崩し。少女達の戯れな声と、水飛沫の音が暫し川辺を彩った。
 庭先でエリソンを見付けたファンバスが、木筒を開いて見せる。丸い筒からふるりとはみ出た丸い生地に、霊査士が見入った。
「(顔を)これはまろやかな。(書いたら)……併し貴方もお元気そうで何よりです(可愛いかも)」
「うん、久し振りだよねえ。誕生日もおめでとう」
「……誕……生日?」
 こうして霊査士は、大分前に過ぎた己の誕生日を漸く思い出した。

 お久し振りですと前置き、フィズは厨で茶器の手入れに区切りを付けたキリオを呼ぶ。
「彼女がいたら、きっと物凄く来たかったと思うんですよ。……だから、今回のはお土産です」
 千振模様の木筒を傾けて見せると、小娘は己の唇を撫でる。
「『彼女と仰っても何方の事か解りませんわ』……なんて、言えない自分が滑稽」
 だって、すぐに解ってしまったんですもの。等と言った彼女は独りごちる様に、きっと無事よと付け足した。
「キリオさん! どっちがぶさ可愛いと思うですか?」
「……突然申し訳ない気がしますが、判定お願いします」
 彼が去ると、入れ替わりスウとルルナが訪れた。不思議生物が彫刻された木筒二本を目前に示され、彼女は僅か悩む。そして、猫の方が好きだからルルナさんに軍配――と趣味的な判定を下し、ふと二人の顔を見る。
「……猫、よね? スウさんの筒は兎……ですわよね? 違ったらご免あそばし」
 陽が西に向かい始めると、ガルスタは散策の足を止める。厨の方を見遣れば、窓辺から暖かな湯気が立ち始めていた。

●薄暮に憩いて
 厨ではマクの妻・ランと数名の冒険者達が、夕餉の支度に勤しんでいた。
「皆疲れてないかしら? 心配だわ」
 不安げに問うランに、山葵菜を刻むセリアが柔らかく答えた。
「此処では、私はマク爺さんやランさんと過ごすのが、一番落ち着く気がしますので」
「うん。私も故郷で良く手伝っていたし、簡単なお手伝いは出来ると思う」
 蒸し終えた蕨飯を杉の櫃に移し、リンも素朴な笑みを見せる。ランの料理は何処か故郷の料理に似た赴きがあり、食べるのがとても楽しみだ。そう述べれば、皺深い掌が彼女の頭を撫でた。
「まあまあ……沢山食べていって頂戴ね」
 盛皿に葉蘭を飾り終え、カナエは土産の梨籠を開く。皮を剥き等分に切って大皿に並べていると、小鉢の盛付けを終えたキリオが手伝いを添える。
「お一つ如何ですか? 甘いかどうか味見です」
 カナエの言葉に小娘は暫し案じ、貴女も一緒に召し上がるならと答えた。擂身にした川海老の吸物は、椀に実山椒を一粒入れれば清冽な香が漂う。レインは香の名残を惜しみつつ、手早く蓋を閉めた。焼魚は串ごと、天麩羅は菜箸で。主菜を盛れば、いよいよ夕餉となる。

 午睡にまどろんでいた者達も目覚め、冒険者達は食卓へと集う。
「だ、誰かー! 誰かー!」
「カ、カロアちゃーん!」
 工房の片隅で海苔巻状態の侭ぴちぴちしていたカロアも、運良くユユに回収された。
 快眠に心身を癒し、欠伸と伸びを一つ。大広間の暖簾をくぐったチアキは、リオンを伴った女重騎士を見付けて隣に座す。
「久し振りっ! 元気?」
 冬以来の再会だが、会話は滑らかに弾む。以前着ていた浴衣が似合いだと突付くと、女重騎士は貰い物だと言ってはにかむ。旅の思い出を語らえば、じきに全員が揃う。手を合わせ辞儀をし、箸を取ったチアキが馳走の山に目を光らせた。
 炊き立ての蕨飯はその侭でも美味だが、山葵菜の漬物を乗せるとまた味わいが増す。
「ふむ……良い香だ」
 三つ葉のひたしの爽やかな香味に、ガルスタが舌鼓を打つ。随分と酒が進みそうな味だ。大勢で押しかけた上馳走に与るのは気が引けるが、手の込んだ料理の数々に有り付けるのは、やはり有難い。蕗の煮物も味醂醤油がじっくりと染み、柔らかだが程合いの歯応えもある。下拵えの手間を考えると、頭が下がるばかりだった。
 からりと揚がった鰍の天麩羅が、さくと小気味良い音を立てる。つゆも美味、塩もまた美味。油の旨味を吸った衣の中から、淡泊な白身の味がふわりと広がった。此方の皿にある天麩羅迄も狙い始めるヴェルを、好き嫌いがなくなると大きくなれるらしい、と諭してみるミシャ。
「何だか、郷里を思い出しますね」
 塩を振って直火で焼いた鮎をぱりと箸で解し、セリハは懐かしそうに瞳を細めた。
「遠い遠い何処かにも似たお料理があると思うと、何だか不思議で素敵ね」
 そう言って木の芽味噌を絡めた千切り蒟蒻を勧める老婆に、彼は頭を下げる。自分へのお土産は、この一日の思い出だけで充分だと素直に思えた。

 食後には梨と共に、蒸した山芋と黒糖を練った金時が振る舞われた。向かいの小娘に冷たい麦茶を勧めると、ラグゼルヴはほっくりとした甘い菓子を口に運ぶ。一匙一匙味わえば、滑らかな舌触りもしとやかな甘味も、全てが丁寧で暖かだ。ランの料理は、マクの寝具と同じで人を惹き付けてやまない。それが偶に酷く羨ましくなり、自分は本当にまだまだだと思わされた。
(「……なんて、少しの弱音」)
 上達を望む余り、急いているのかも知れない。彼は面を上げ、老婆の優しげな瞳を見る。
「ランさん、ご馳走様。美味しかった、とても」
 ミシェルも花の様な笑顔で手を合わせ、老夫妻に礼を述べた。

 空の食器を重ね、厨に運ぶ者達。ハルトはトレイを置くと、窓辺から流れる夕時の気配を帯びた風に気付く。ふと見上げた空は、今や珊瑚の色をしていた。
「――」
 いつも人の幸せを想ってくれているから、あの人の幸せを自分が想っても良いだろうか。

 ――夢の中でも、幸せでいてくれます様に。


マスター:神坂晶 紹介ページ
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作成日:2008/09/05
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