地獄温泉で極楽気分



<オープニング>


「ミュントスには温泉村というのがあるんだが……君達は興味があるかな?」
 幻奏猟兵・ギャロの誘いに興味を持ったのか、何人かの冒険者達が集まってくる。
「今回紹介する村には、露天風呂やサウナは勿論、その他温泉地にあると思われる施設はほぼ揃っている。気楽に観光でもしてきたらどうだろう」
 毎日暑い日々が続く中、さっぱりと汗を流すことが出来ればそれはそれは気持ちのいいことだろう。
「美味い料理や美女によるもてなしなどもあるし、軽い運動施設もあるから、一汗かいてから温泉を楽しむことも出来る。帰るときには温泉饅頭などをお土産にするといい」
 どうだろう? と再度誘うギャロ。
「霊査をしたけど特に危険そうなことはないようだし、楽しんできたらどうかしら?」
 ストライダーの霊査士・レピアも、これが何の危険も無い観光であることを保証している。
 それならば断る理由などないし、ゆっくりと骨休めをするとしようではないか。冒険者達は、各々楽しそうにしながら温泉村へと向かうのであった。


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参加者
翡翠色のレスキュー戦乙女・ナタク(a00229)
想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)
聖砂の銀獅子・オーエン(a00660)
月下に咲く花・エルシー(a10291)
儚幻の対旋律・ゼナン(a54056)
紅の蒼眼剣士・ラスト(a64093)
月夜に咲く灯り花・ロイナ(a71554)
雪豹の魔女・カアラ(a74740)


<リプレイ>

●温泉! 温泉♪
「やっぱりまずは温泉だよね♪」
 手拭をちょこんと頭に乗せながら、極楽極楽ーとくつろいでいるのは翡翠色のレスキュー戦乙女・ナタク(a00229)である。
 現在ナタクが居るのは、温泉村でも一押しであると村人に案内された岩作りの露天風呂である。
「眺めは……ちょっと残念だけど、それはそれで」
 残念ながら場所が地獄であるため、空はちょっと紫がかっているものの、岩風呂の周りに植えられた竹林などがなんとも言えない趣を醸し出している。
「目標は、全温泉制覇ー! ……かな?」
 拳を振り上げながらも、何故か首を傾げるナタク。だが、一度言ったからには実行に移さねば、といそいそと次の温泉へと移動するのであった。

「ぅっ……ああっ、そこ、そこです……」
 どこか艶かしい声をあげる想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)の指示に、温泉村でも人気のマッサージ師が存分にその腕を振るう。最近肩こりが気になるラジスラヴァ、肩を重点的にほぐされついついその口から熱い吐息が洩れる。
「これが終わったら……温泉、ですね……あ、そこです、そこ」
 蕩けた声をあげながら、温泉はどんなものがあるんでしょうか、とか、おもてなしって何をしてもらえるんでしょうか、などとつらつらと思案するのであった。

「ふふ……ふふふ……ちょーっと冗談半分であるかなー、なんて探してみたら、本当にあるんですね。ふふ……」
 頬を引きつらせながら、いやーな汗をだらだらと流す野に咲く花・エルシー(a10291)。温泉にきてどうして嫌な汗を? と普通は思うかもしれないが、それもそのはず、エルシーの目の前には煮えたぎる巨大な鉄の釜。そう、その名も『地獄の釜温泉』である。中のお湯も心なしか赤い。
「ふふ……あ、あるからには、見つけたからには入らないといけませんね……ぐつぐつと完全に沸騰しているような音がしているけど、多分気のせいです、多分。ではいざ……って、無理、無理ですってこれ、無理、あ、ちょ、押さないで押さないで――」
 早く入れとでも言うように、エルシーの背中を押す温泉村スタッフのお姉さん。そして抵抗もむなしくエルシーは温泉へダイブ!
「――あちっ、あちち! 限界、限界ですぅ!」
 涙目で飛び上がるエルシー。少なくとも人間が入って楽しめるレベルではないことは確かなようだ。いったい誰がこんなものを作ったのだろうか……。

「温泉か……いつ以来だろうな。ゆっくりと楽しむとしよう。だが、その前に……」
 そう言いながら儚幻の対旋律・ゼナン(a54056)が入ったのは、木造の小さな部屋である。一歩足を踏み入れた瞬間、噎せるほどの乾いた熱気がゼナンの体を包む。既に先客が何人かおり、その全員が備え付けの木造の長椅子に腰掛け、体中を汗まみれにしている。
 そう、ゼナンが入ったその部屋こそ、温泉にはつきものといってもいいサウナであった。室温はかなり高いらしく、早くもゼナンの体からは大粒の汗が流れ出している。
「あまり長時間は無理そうだな……ほどほどにしてゆっくりと露天風呂でも楽しむか」
 露天風呂から見える景色はどうだろうか、温泉に酒は持ち込んでもいいだろうか、などなど、熱に耐えながら思案するゼナン。汗が流れ落ちるその顔には、存分に羽を伸ばすとしよう、という楽しげな笑みが浮かんでいた。

「温泉に入りつつ酒。そして傍らには美女……なかなか、なかなかいいじゃないか」
 満足気に頷きながら、杯を傾ける聖砂の銀獅子・オーエン(a00660)。空になった杯に、接待をしてくれている温泉村のスタッフである美女が酒を注いでいく。
 オーエンが入っているのは混浴風呂である。それも温泉村のスタッフの方々がお客であるオーエン達をお世話してくれるため、混浴風呂に入ったけど誰も居なかった、とか、居たけどお爺さんお婆さんしか居なかった、というガッカリを味わう心配も無い。
 上機嫌でお姉さんの肩を抱き寄せるオーエン。こういったお客さんにもなれているのか、お姉さんも、あらあら、と笑っているだけで拒む気配は全く無い。
「風景も期待はしていなかったが……結構楽しめるものだな」

「どんなお風呂があるんでしょう……変わったお風呂に行ってみたいんですけど……」
「……それならジャングル風呂なんてどうだ」
 スタッフの方に貰った、温泉村案内マップを片手に悩んでいる不思議の卵・ロイナ(a71554)に、雪豹の魔女・カアラ(a74740)が示したのは、カアラの故郷であるワイルドファイアの密林を模した空間の中に設けられた温泉である。
 確かに一風変わった温泉であり、既に向かおうとしていたカアラの後を、頭に小さな手拭を乗せたアヒルちゃんを抱きしめながら追うロイナ。
 そしてジャングル風呂に入りやっと一息ついたという体の2人。温泉自体は室内に設けられた岩風呂であり、その周りには多くの木々が植えられあたかもこの場所が密林の中であるかのような錯覚すら感じる。
 嬉しそうにアヒルちゃんを湯船に浮かべるロイナ。片やカアラはといえば、湯船に肩まで浸かりながら、あたりの木々をぼーっと見つめ故郷であるワイルドファイアのことを思い出していた。勿論ジャングル風呂とはいえ、ワイルドファイアの密林とは似て非なるものである。だがそれでも少しの間ノスタルジィに浸る手助けにはなった。

「俺のサーブを打てますか!」
「うおっ……くっ、久しぶりだとだめだな」
「勝者、ラストさんです!」
 紅の蒼眼剣士・ラスト(a64093)の打った強烈な打球が、弛んだネットを越えゼナンのコートに突き刺さる。必死に打ち返そうとラケットを振るうゼナンであったが、回転の加えられた球は、ラケットにぶつかりあらぬ方向へと飛んでいってしまう。
 温泉の前に軽く卓球でも、と考えたラストは、仲間達を誘い卓球に興じていた。利用客も多いのか、はたまた単に古いだけか、台はボロボロでネットは弛み、挙句にラケットはラバーが所々剥げているような有様ではあったが、それでも手軽なこの手のスポーツには、人を熱中させる楽しさがあるように思える。
「次はボクの番だね、ふふふ、ボクの温泉卓球の実力を見せてあげるよ♪」
「じゃあ私がお相手させて頂くですぅ!」
 自信ありげに軽く素振りをするナタクに、フルーツヤギ乳を一気飲みしたエルシーが挑戦する。
「では、審判は続けてわたしことラジスラヴァが務めさせてもらいますね」
 始め、という合図で、球がコートを行き来する音が響き始める。2人ともなかなかの実力を持っていたようで、激しいラリーは段々とスピードを加速させていく。それを面白そうに見つめるカアラ。点を取られた側に声援を送るオーエン。
「必殺、ツキユーラブアタックですぅ!」
「あ、やったなー! こっちもお返しだよ!」
 わいわいと楽しげに、そして必死に卓球を楽しむナタクとエルシー。
「次は私もやりたいです、あ、でもそんなに強くないので手加減してくださいね」
「いいですよ。でも、負けるつもりはありませんからね」
 あの2人の次は自分の番である、と主張するロイナ。どうやらその相手は、先ほどゼナンを破ったラストに決まったらしい。
 こうして、食事の時間が来るまで、冒険者達は卓球を思う存分楽しんだのであった。

「これは……また変わった料理だな」
 ぴちぴちと跳ねる刺身を恐る恐るといった様子で口にするゼナン。ただの魚の生け作りならば、ランドアースでも食べようと思えば食べれるだろうが……そこは地獄の温泉村、生け作りにされた魚が動いているのである。刺身の他にも動く鍋用の肉等も用意されており、そんな光景に慣れていない冒険者達にとって、見た目のインパクトはかなりのものであった。
「だが、味の方はなかなか悪くない。そういうものだと考えて食えばいい」
「確かに見たときはびっくりしましたけど、すっごく美味しいです♪」
「……」
 相変わらず温泉村の女性スタッフの方を傍においているオーエン。今もあ〜ん、と言いながら刺身を食べさせてもらっていたりする。その隣では、ロイナが用意された料理に嬉しそうな笑みを浮かべながら舌鼓を打っている。そんな2人の言葉に首肯で同意するカアラ。無言ではあるものの、箸の動きが止まらないことから、どうやら満足のいくものであったことが分かる。
「ええ……はい、そうです。そこでぐるっとまわって……」
 踊りのおもてなしをしていた女性に、ランドアースの踊りを教授し始めるラジスラヴァ。後で地獄の歌や踊りを教えてもらう約束を取り付けたため、その教え方にも気合が入っている。
「う〜ん、温泉饅頭おいしー♪」
「あ、私にもください。いえいえいえ、その中身が真っ赤なやつではなく普通ので」
 既に食事を終えお土産にする温泉饅頭のつまみ食い、もとい試食をし始めるナタクとエルシー。美味しい美味しいといいながらいろんな種類の温泉饅頭に手を出すナタク。そんなナタクとは違い、エルシーは安全牌である普通の餡子入りの饅頭を食べている。
「あ、俺にも1つください」
 ナタクから饅頭を受け取るラスト。そして大きく口を開け勢いよく頬張り――悶えながらのた打ち回り始めた。
「ど、どうしたんですか!?」
「こ、これ……饅頭じゃ、な……み、水……」
 慌てて水を持って駆け寄るロイナ。その水を一気に嚥下していくラスト。
 ラストの食べた温泉饅頭。それは生地の中に餡の代わりにた〜っぷりと入った山葵が売りの山葵饅頭であった。というか、これ食べて喜ぶ人なんて居るのだろうか。
「こんなことだろうと思ったんです……」
 しみじみと呟くエルシー。ああ、普通って美味しいなあ。
「俺も普通の饅頭にしておくとするか……」
「……」
 酒を飲んでいたのか、顔を少し赤くしてほろ酔い気分のゼナンが、あからさまに危険な色をした饅頭達を避け、普通の饅頭を受け取る。無言でカスタード味とチョコ味の饅頭を選ぶカアラ。
「あえて……あえて俺はお任せで持ち帰るとしよう」
 ラストの惨状を見た後にもかかわらず、お任せという選択肢を選ぶオーエン。そして彼用のお土産袋に投入されていく、赤やら青やら緑やらの色とりどりの饅頭達。
 ――オーエンは静かに涙した。

 ギリギリまで温泉を楽しむ者。美容を目的にマッサージを受けるもの。1人のんびりと湯船に浸かりながらオカリナを吹く者。各人が思い思いに過ごし、温泉村での骨休めは、こうして無事終了したのだった。


マスター:原人 紹介ページ
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月下に咲く花・エルシー(a10291)  2009年10月10日 08時  通報
いやぁ……楽しかったですね!!
旅団で「地獄に温泉はあるか?」「いやないでしょ〜」みたいな話したことがあったのですが本当にあってビックリです。(『地獄の釜温泉』も(汗))

この依頼で地獄への興味も高まったんですが……
……もうこの温泉村にも行けないんですねぇ(しみじみ)