抽選会は嫉妬を招く



<オープニング>


 男は壇上からその品を受け取った。
 その背に満場からの呻りを受けつつ、男は両手で挟み込んだその品の感触を感じ取り、変な表情を顔に浮かべた。
 喜んで受け取るべきか、恭しく返すべきか――そんな逡巡の表情だった。
 そして、男は、そんな表情のまま、村への途上で姿を消した。


 冒険者の前に顔を出し、ヒトの霊査士・エイベアー(a90292)は、どっこいしょなどと口走りながら腰を下ろす。
「今日の依頼はイタチグドンの退治と、奪われたタペストリーと、持ち主の遺体の確認じゃ」
「グドン退治――、それに、奪回と遺体の確認ですか」
 エイベアーは静かに頷くと、続けていく。
「しばらく前にのぅ、絵の愛好家の集まりがあったそうでのぅ。そこで抽選会があり、ゲストの一人が値の張るタペストリーを当てたそうなのじゃ。ちなみに、それが抽選会一番の景品じゃったそうじゃが」
「ゲストが当てたんですか……」
 指摘にエイベアーは鷹揚にうなずいてみせる。
「やっかみをおそれたそのゲストは、一人で村に帰ることにしたそうじゃ。グドンが出ると噂されているとしても、何度か歩いたことのある林道――」
「やっかみを恐れるあまり、グドンを恐れないんですか」
 エイベアーは苦笑いを浮かべた。
「『げに恐ろしきは嫉妬なり』とかいう言葉があるくらいじゃからのぅ。
 さて、しばらくして、村からゲストが帰ってこないとの連絡があり、その失踪が発覚したというわけじゃ」

「失踪、ということは急げば……」
 老霊査士は厳しい表情で頭を振る。
「――青白くなった姿をすでに視ておる、残念じゃが」
「そ、そう……ですか」
「そして、グドンが残していった布の筒を木の虚(うろ)に隠す狩人の姿が視えたのじゃ」
「すると、グドンを倒して、村の狩人からタペストリーの隠し場所を聞き出して回収すればいいんですね」
「ゲストの亡骸回収も忘れぬように頼むぞ」
 エイベアーは念を押した後、敵の情報を告げる。
「ちなみに、グドンはイタチの頭を持っており、ゴリラのような太い腕を持っているピルグリムグドン3体に率いられており、従うイタチグドン30体とともに林を徘徊と聞いておる。
 ぬしらならば後れをとることはあるまいと思うが、気をつけるのじゃよ」


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参加者
雷刃・レオナルド(a06084)
寝惚け眼のナイフ使い・パラノイア(a07036)
守護者・ガルスタ(a32308)
未来の豪商・ナルヤ(a37402)
言いくるめのペ天使・ヨウリ(a45541)
聖痕少女・イコン(a45744)
幻葬舞踏・エミリオ(a48690)
綾なす火炎の小獅子・スゥベル(a64211)
晦・エステル(a73227)
白雲の弦雨雲の弓・ヴァイヤ(a74605)


<リプレイ>

●狩/村
 案内された家は小さく、粗末なものだった。
 礼に恐縮し立ち去る村人の後ろ姿を見送ったあと、色白の手で扉を叩く。
 不機嫌そうな男の唸りとともに、扉が内側に引かれた。
「うう……ぐすっ、お願いします、林の中で見つけていませんか? 何かが落ちていたってだけでもよいんです、些細なことで構わないので教えてください!」
 開口一番の、綾なす火炎の小獅子・スゥベル(a64211)の言葉に、男は返事をすぐには返さなかった。
「狩人さんが……、あなたなら何か知っているはずって聞いたんです!」
 胸元にすがりつくスゥベルの力に違和感を感じつつ、男は玄関から周囲を見渡し、一言吐いた。普通の娘とは思えない力だったからだ。
「中に入れ、立ったままでは落ち着いて話もできまい。その体つきでは疲れているだろう? ここで倒れられて外聞が悪いからな」
 狩人はスゥベルの痩せた体を栄養失調と見なしたのか、なんとなく気遣う様子だ。スゥベルは狩人に従い、疲れたかのように足を引きって入った。

 スゥベルの狐の尻尾が家に消えていくのが、寝惚け眼のナイフ使い・パラノイア(a07036)の青い瞳に映った。少し離れたところから覗いていた冒険者一行の間にわずかに反応が走る。
「入っちゃい……、ましたね」
「なに、ここはスゥベルにまずは任せておこう」
 雷刃・レオナルド(a06084)の落ち着いた雰囲気にパラノイアは茶々を入れた。
「でも、うら若き女性が筋骨隆々の山男の家にたった一人ですよ」
「大丈夫だよ。スゥベルも冒険者だしね」
 聖痕少女・イコン(a45744)の突っ込みに、パラノイアは曖昧に微笑んでみせた。
「それくらいわかってます。えーと、そう、ただ一般論として、ですね」
「冗談はそれくらいにしておいてもらおうか。どうやら動きがあったようだ」

 狩人の家の扉が景気よい音を立てる。その音とともに転がり出てきたスゥベルを、狩人がゆっくり追ってくる。
「勘違いするな。その体で林に行くのを止めたかっただけだ。疲れ切った体ではグドンに殺されに行くようなもんだからな」
「だからって……、あの人が最期の場所を内緒にするんですか」
「……ふぅむ、あの男の名前を未だに口にしないか。おまえ、何を企む?」
「スゥの村では……、故人の名を口にしないことになっているん、……です」
 スゥベルはそこまで口にしたところで、言葉を続けられずに、肩を振るわせ、頭を下げた。やがて、地面に水滴が落ちる。
 狩人は困ったように頭をかいた。

「う〜む、もう少しなのじゃが、どうしたものやら」
 数軒先の家の陰から、言いくるめのペ天使・ヨウリ(a45541)はこう言い切り、投網を手に取る。
「ん? 俺らの出番か……、いや、拳に頼らなくてももう一押しでどうにかなるんじゃないか」
 幻葬舞踏・エミリオ(a48690)はヨウリを止める。
「村で聞き込んだんやけど、どうやら狩人はんはゲストさんの当てたタペストリーを目当てに抽選会に出席していたそうなんや。その辺りをうまくつけば、落とせるやろ?」
 こういって合流したのは、未来の豪商・ナルヤ(a37402)だ。
「うむ、その方向で迫ってみるのがよかろう。これでダメだったのならば、そのときはそのときだ」
 ソルレオンの牙狩人・ヴァイヤ(a74605)が言葉を継いだ。互いに同意を確かめ合うと、一行は狩人邸へ迫るのだった。

 外から響く足音を気づき、スゥベルは涙を拭い、狩人を暫時凝視する。
「お騒がせしてしまい、失礼いたしました。
 あの伯父のことをお教えいただけなかったのはとても残念ですが、狩人さんにはあなた様自身のお考えがあるのでしょうから、仕方ないことと諦めます。短い時間でしたが、お会いくださってありがとうございました」
 ここまで丁寧に述べ、頭を下げるとスゥベルは出ていった。

 彼女と入れ違うように、残りの冒険者が入ってきた。狩人は新たな客人の出で立ちに眉を寄せる。
「自分が当たらなかったものは仕方があるまい。運がなかったと思い諦めるのが当然だと思うな」
 銀のスーツアーマーに身を包んだ守護者・ガルスタ(a32308)に、狩人は言葉を詰まらせる。
「これ以上の偽りを聞くつもりはない、グドンの歩き回る林に直接来るか、教えるか、とっとと選べ」
「意地を張っても、黒焦げの死体が増えるだけですがのう。グドンの哀れな犠牲者が」
 さらに、ヴァイヤ、ヨウリが放った言葉が決め手だった。
 怯えきった狩人は林でグドンをよく見かけるポイント、タペストリーの隠し場所を告げる。
「よく無事でいられたね……、色んな意味で」
 イコンの一言に、狩人はうなだれる。
「あいつはグドンから逃げるときにタペストリーを落としたようなんだ。俺がタペストリーを拾った近くにはあいつの……」
「死体でしょう?」
 パラノイアの確認に、狩人は頷く。
 タペストリー拾得地付近には死体はなかった。ただ引きずっていった痕があったから、グドンが運んだのかもしれない。
 茫然自失となった狩人を残し、必要な情報を聞き出した冒険者は、林へと急ぐのだった。

●焼/林
「……少し匂うね?」
 臭いの発生源は、呟きの主のイコンその人である。彼女の抱える焼き肉を一欠片掴み取られた。
「食べすぎには注意だな」
 ガルスタは神妙な顔でこう口にすると、大雑把に噛み砕き、飲みこむ。イコンの無言の抗議なんてへっちゃらな顔である。
「立食はそれくらいにしておいたほうがいい。
 さてグドンだが、リスの話によれば、もっとあちらのほうだそうだ」
 レオナルドのどこか呆れた声が響く。『魅了の歌改』で聞き込んできた報告である。
 一行は林の奥へと更に踏み込んでいく。
「この辺り……、確かに足跡が新しい。そして、数多い」
「見るんや! この木、古びてるけど……」
 足跡を見ていたヴァイヤが、ナルヤの呼びかけに応じる。
「む……、これは確かに血だ。この辺りで流血の事態が起こったことは間違いない」
 白の鬣をわずかに振るわせ、ヴァイヤが判じた。
「ここに立ち寄った実績があるなら、ここで肉を焼けば誘き出しやすいな。イコン、ガンガン燃やすぞ」
 ガルスタがイコンの抱える七輪に肉を追加で載せまくる。
(「臭くなりそうだ……」)
 イコンの不安の一方、臭いは彼女を起点に風に乗り、獣たちの鼻孔を刺激していくのだった。

●鼬/林
「来たなっ」
 ガルスタの体が光る。『スーパースポットライト改』が木陰から覗くグドンの瞳を叩く。ほとんどのグドンが硬直し、残ったグドンもワイのワイのとガルスタの色黒の体に視線を移していく。
「後が詰まってるし、早めに決めるぜ」
 エミリオの放った紋章がイタチピルグリムグドンの一体に突き刺さる。
「弔いにもなりゃしないけど、せめてきっちりグドンどもは殲滅する!」
 その脇でスゥベルが数歩踏みだし、虚空に紋章を描き出す。紋章から無数の光が、脇から回ろうとしていたイタチグドンに降り注ぐ。6体が倒れ込み、流す血が大地を染める。
 『エンブレムシャワー奥義』に驚くグドンに、続いてイコンの『ニードルスピア奥義』が放たれる。
「ちょっと消えてもらおうか……」
 闇のような色合いの針が次々と突き刺さり、さらに6体のグドンが苦痛の中、命を失う。
 グ、グゥ!
 イタチピルグリムグドンの口から異様な叫びが漏れる。手勢のグドンらが次々と倒れていくのが口惜しいのか、冒険者を見つめる瞳に不穏な色が増していく。
 ピルグリムグドンのゴリラのような腕が大きくふくれあがった。ピルグリムグドンは腕を派手に振り回しながらまっすぐ駆け出す。目指す標的めがけ、途中の樹木を倒しながら進んでいく。
「ずいぶんと派手なこった。だが隙だらけだ」
 ガルスタが脇に避ける。その避ける前の位置をピルグリムグドンの腕が通り過ぎ、風がガルスタの白髪を揺らした。
「ほんとに派手な一撃だね。あれは当たりたくはないね」
 パラノイアがぼやき、『イリュージョンステップ奥義』をはじめる。そうしならがも、ガルスタの代わりに犠牲となった大木の幹から拳を抜くピルグリムグドンを見ていた。
 続いて、残り2体のピルグリムグドンが動く。再度狙われたガルスタは、召喚獣ダークネスクロークのおかげでどうにか難を逃れた。だが、スゥベルはそうはいかなかった。
「くっ、冗談ぬかすんじゃないよ……」
 力任せに叩き込まれた拳の衝撃は、スゥベルの体を叩きとばすに十分だった。低木による茂みを直線上に押し潰し、衝撃はようやくかき消える。
「大丈夫か、スゥベル」
 すかさずヴァイヤの矢が突き刺さる。『ヒーリングアロー奥義』が傷を和らがせる。
「光を見てなかったヤツの注意を、シャワーのおかげで招いてしまったようだな」
 レオナルドが彼女らを守るように前に立つ。『流水撃奥義』でグドンの群れを切り開き、ここまでたどり着いたのだ。
「これでもくらいなっ」
 晦・エステル(a73227)の『ニードルスピア奥義』がさらにグドンの群れを減らす。
「次はてめぇの番だから覚悟しとけ。その前にもう少し回復しておかねぇとな」
 ピルグリムグドンを一喝後、ヨウリは柔らかな光を放つ。『ヒーリングウェーブ奥義』がスゥベルの全身の痛みを更に弱める。
 スゥベルは感謝を口にするのだが、未だに苦痛のせいか、顔がわずかに歪んでいる。とどめを狙い、グドンの群れが迫る――、そこにナルヤの『ニードルスピア奥義』が降り注ぐ。
「これで残すはピルグリムグドンだけやな」
 ナルヤが言い終わるのに前後して、最後のグドンが力尽きた。

 ガルスタの刀が銀色に輝く。刀身が羽根の塊状の『護りの天使』を映し出している。その刀はピルグリムグドンの体に振り下ろされた。『ホーリースマッシュ改』は咄嗟にかばおうと差し出されたゴリラ状の腕を斬りつける。傷口から血が滴り落ちるが、この様子では大した傷ではないのかもしれない。だが、ガルスタの一撃にあわせ、先のエミリオの『呪痕撃奥義』の紋章がピルグリムグドンの体を蝕む。その痛みに、イタチの顔が奇妙に歪む。
「この程度の傷でも、呪痕はうずくってか」
 ガルスタは笑みを浮かべ、刀を構えなおした。
「もう1回くらい回復しておかねぇとまずいな」
 エミリオの『ヒーリングアロー奥義』がスゥベルの痛みを減らす。
「ありがとよ。これでなんとかなれそうさ。というわけで、食らえッ。光に焼かれろッ!」
 スゥベルは血に飢えた表情で、ピルグリムグドンを睨みつける。頭上に極大の炎球を生み出し、放った。『エンブレムノヴァ奥義』が先ほど彼女を傷つけたピルグリムグドンを焼いていく。グドン一掃のために放たれていた技により傷ついていたこともあり、この火球がとどめとなり、ピルグリムグドンは力尽きた。
「っと、仲間が倒れたからって見てる暇はないよ」
 イコンの影が大きく伸びる。大きく伸びた影の手がピルグリムグドンを握りつぶす。『ヴォイドスクラッチ奥義』の一撃に、イタチ状の口から苦痛の叫びが漏れだした。直後、埋まっていた紋章が蠢き、苦痛の声は断末魔へと変わっていった。
「残りはあんただけだよ」
 表情をまじめなものにあらため、パラノイアは一気にピルグリムグドンに迫る。縦横無尽に動き回るその体捌きは、彼女の姿を3つに見せるほどのもの――『ミラージュアタック奥義』だ。その体捌きから繰り出された二丁のナイフがピルグリムグドンの急所のいくつかをえぐっていく。
 その痛みに耐え、ピルグリムグドンは最期の力を腕に注ぎ込み、目前のパラノイアに叩きつける。
「その腕はこわいですね〜。まぁ、当たれば、ですけど」
 まるで羽根の如く押しのけられ、パラノイアの体は腕の一撃を避ける。
「最後まで油断はできんな」
 ヴァイヤが大弓から次々と矢を放つ。『ガトリングアロー奥義』がピルグリムグドンの体に何本も刺さる。全身から血の流れが何本も滴る。
「これで仕舞にさせてもらう」
 レオナルドの愛剣『ワルーンソード』が闘気を帯びる。稲妻を立てながら振り下ろされたその『電刃衝奥義』が、イタチピルグリムグドン最後の一体を葬るのだった。

●織/林〜村
 グドンを倒した冒険者一行は、狩人の隠したという木の虚へ向かった。タペストリーの入った布筒を回収後、そこからグドンの引きずった痕をたどっていく。
 そこには、無惨に荒らされた痕の死体があった。
「これは、遺族には見せがたい」
 ガルスタが呟く脇から花が手向けられる。
「……恐ろしかっただろうね……。お休み」
 イコンは無惨な箇所を覆い隠そうと、花をどんどんと載せていく。
 その作業の意味に気づいたエミリオらも手伝い、やがて死体のグロテスクなところはすぐには見えないようになっていた。

 パラノイアの奏でる音色のなか、虚にあった死体はレオナルドの即席タンカに載せられた。
「結局、亡くなったのは、人のせいなのかグドンのせいなのか。どっちもどっちって感じもしますけどね。 済んだ事な以上、どーでもいいでしょうか」
「ハッキリと誰かが悪いわけじゃない、だが、グドンすらほしがらない物が、そんなに欲しかったのか?」
 パラノイア、ヴァイヤの自問にも似た言葉に、スゥベルは反応を示すこともなく、無造作に虚でともに眠っていたタペストリーをタンカに載せた。
 載せる前に泥を払うついでに広げられたタペストリーには、可愛らしい少女の無垢な微笑みが描かれていた。
「まったく、この微笑みで何人の運命が変わったんじゃろうのう……」
 ヨウリが溜息をつく前で、タペストリーは丸められ、再び筒へと戻されるのだった。


マスター:珠沙命蓮 紹介ページ
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参加者:10人
作成日:2008/09/20
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