<リプレイ>
●あの山の頂へ 冒険者達は酒場で聞いた山のふもとを訪れると、すぐさま山頂を目指して登山を開始した。 「紅葉には、まだ少し早いようですね」 周囲の木々を見回しながら、千夜の星灯り・キルシュ(a50984)は呟く。そよそよと吹く風が揺らす葉の色は、気持ちのいい緑色。 けれど夏に比べれば十分に暑さは和らいでいて、秋の訪れを感じさせた。 「山登りにはいい気候ですねー」 「道の方も、あんまり険しくねぇからな」 頷くのは金鵄・ギルベルト(a52326)。山登りには多少詳しい彼は、それなりに必要そうな装備を整えていたが、一般人がよく山頂まで向かうというだけあって、道はそれほど険しくない。 「が、頑張るもん」 坂道が苦手な永遠の虚無・ロザリア(a74713)は、やや緊張の面持ちだったが、思っていたよりも道は登りやすく、歩くうちに安堵する。 山頂に辿り着いてからが本番なのだ。それまでに力を使い果たしては元も子も無いと、そう気合を入れて臨んだロザリアだが、この調子なら、体力を温存しながら向かえそうだ。 「まあ、力みすぎても良くあるまい。気楽にゆくとしようかのう」 ロザリアの隣で笑うのは、雑奏・ライムント(a74576)。彼自身も初めての依頼、緊張を感じない訳ではないが、ガチガチに固くなっていても良い結果は埋めないだろうと、彼は適度にリラックスするよう心がけていた。 「なぁ〜ん♪ なぁ〜ん♪」 朗らかな様子で歩いていくのは、黒き咆哮・ルージ(a46739)。ちょっとしたピクニック気分で歩く彼からは、いつしか歌声が漏れている。 その背中では、歩くたびに大きなリュックサックが揺れる。隙間から顔を覗かせているのはお菓子の包装紙。視線に気付いたルージは、ちょっぴり慌てながら振り返る。 「こ、これは、崖から落ちた人へあげる為のものなぁ〜ん」 そう、あくまでも依頼の為。そう主張するルージだが、その量は一人分にしては多すぎる。 「そうね。疲れている時には甘い物が良いって言うし。ガウラさんを助けたら、みんなで食べましょう」 そんなルージの様子に、思わず笑みを零しつつ、エルルはそう頷き返した。 「……ガウラ様、大丈夫でしょうか……」 永遠の愛を貴方へ・キャット(a75705)は心配そうな表情で、山頂の方を見上げた。 ……クマを逃がしてあげられないのは残念だけれど、皆の為には仕方の無いこと。それよりも、早く倒してガウラを助けてあげなければと、そうキャットは歩みを進める。 それほど酷い状況ではないと、そう霊査士は言っていたが、助けるのは早ければ早い方が良いだろう。そう冒険者達が、小一時間ほど山を登った頃だった。 「そろそろかしらね」 遠眼鏡片手に歩いていた書庫の月暈・アーズ(a42310) は、上り坂の終わりを見定めて呟いた。 視線を落とせば、地面には真新しいクマの大きな足跡。冒険者達はもう、変異したクマの行動圏に入っているという事だ。 山頂までもう間近。冒険者達は気を引き締めて先へ進んだ。
●退けねばならない獣 「あれですわね」 静寂の花・アンフィーサ(a65434)は問題のクマの姿を見つけて呟いた。聞いていた通りの巨体、そして視界を遮る物などない見晴らしの良い山頂。 冒険者達が身構えるのとほぼ同時に、クマもまた冒険者達に気付いて、鋭い眼光で睨みながら身構えた。 「援護……は、任せてください……」 前衛を受け持つ者達が前に出る中、キャットは護りの天使達を呼び出した。ふわふわと漂う守護天使達が、次々と仲間の傍らに現れる。 「熊さんストープ! 止まってもらいます!」 最初に放たれたのは、ロザリアの気高き銀狼だった。勢い良く飛び出した銀狼は、クマに飛び掛ると、その巨体をそのまま組み伏せる。そこに、駆け込んだキルシュがデストロイブレードを叩き込む。 「エルルさん、動けない間はノヴァを御願いしますなの」 「分かったわ」 緑の業火を放つアーズの言葉に頷いて、紋章を描くエルル。 そんな中、ライムントは崖下に意識を向けていた。もしも戦いの余波がガウラに及ぶような事があれば、一大事だと考えたからだ。 (「あそこじゃろうか?」) それらしき崖を見つけて覗き込めば、そこには確かに1人の青年。彼こそガウラに違いない。 「あ、あなた達は……?」 ライムントにガウラは戸惑いを浮かべる。突然の物音、そして見知らぬ人の姿……驚かぬ方が無理という物だろう。 「なに、心配はいらぬ。わしらは冒険者じゃ」 ライムントは手短に説明すると、クマを何とかするまで、少しだけ待っているように伝える。 そして、そちらへ決してクマを近付けぬように位置取ると、ライムントは華麗な動作と共に偉大なる衝撃を放つ。 攻撃を重ねる冒険者達だが、クマも黙ったままではいない。やがて銀狼を振り払うと、大きく腕を振り上げる。 「それがどうしたってんだ……!」 鋭く放たれた爪の一撃を、ギルベルトは真正面から受け止めた。そう、うっすらと笑いながら攻撃を受けたギルベルトは、反対に隙のできたクマの胴体へ、デストロイブレードを叩き込む。 その強烈な一撃は、クマに多大な痛手を負わせたが、まだまだ敵が倒れる気配は無い。 「もー、タフですねっ」 見た目に違わず頑丈な様子に呟きつつ、キルシュは攻撃がギルベルトだけに集中しないよう、刀を閃かせた。 「クマの事は、お任せくださいまし」 その時、後方から伸びた鎖がクマの体に絡みついた。それは、アンフィーサによる暗黒縛鎖だ。 拘束されたクマは再び動けない。アンフィーサも反動でマヒして動けなくなるが、すかさず冒険者達はそれをフォローするように陣形を調整する。キャットがディバインヒールでギルベルトを回復すれば、攻撃態勢は万全だ。 「ですとろいなぁ〜ん」 デストロイブレードを放つルージ。その後ろでロザリアは紋章を描き、エンブレムシュートを放つ。 臨機応変にアビリティを使い分け、少しでも早く決着を……ロザリアは、そう意気込みながらクマに対峙する。 「癒し手は十分なようじゃな」 ライムントは武器に手をかけると、再び偉大なる衝撃を飛ばす。そこにアーズの緑の業火が飛来して、燃え上がる。 次々と放たれる攻撃に、クマは苦悶の声を上げる。その体は今や、数多の傷を受けて血塗れだ。 やがて、そのクマの両腕が鎖を引きちぎると、クマはその場で大きく身構えた。 「来るぞ!」 ギルベルトの警告は明瞭で、そして的確だった。ほぼ同時に地を蹴ったクマの前に、咄嗟にキルシュが身を滑らせる。 いざという時は、自分の身体を盾にしてでも、クマを食い止めてみせる。そう考えていたキルシュは、衝撃を真正面から受け止めた。そのまま、決してクマの突破を許さない。 「逃がさないなぁ〜ん!」 グランスティードに乗ったルージは素早くクマの脇に回り込むと、そこにデストロイブレードを叩き込む。脇からの衝撃には、クマも耐え切れずに体勢を崩す。 「これでどうかしら……?」 立ち上がろうとするクマの身体に、アーズの気高き銀狼が襲い掛かった。牙を突き立てられたクマは、銀狼を振り払えない。 「すぐ……癒します……」 キャットの放つ光が、クマから受けた傷を瞬く間に癒していく。傷付き、ボロボロなクマに対し、冒険者の傷は全てアビリティによって回復している。もはや勝敗は一目瞭然といっていいだろう。 「終わりにして差し上げますわ」 黒炎に身を包んだアンフィーサがブラックフレイムを飛ばし、ライムントの手元から七色の光が飛ぶ。動けないクマは、ただそれらを受け続けるしかない。 そして、度重なる攻撃に傷付いたそのクマは、冒険者達の更なる波状攻撃には耐え切れず……断末魔と共に崩れ落ちた。
●星のかけら 「獣相手じゃ、こんなもんか」 クマの亡骸を前に、そうギルベルトは呟いた。懐から取り出した煙草に火を点しながら、ふとギルベルトは自嘲する。 (「……ま、獣つったら俺も似たようなモンだが」) 吐き出された煙は、ゆっくりと山の空気に溶け込んで薄れていく。 「大丈夫、です……」 「じゃあ降りるわね」 キャットとアーズは準備を終えると、ガウラの元に降りた。アーズはガウラの怪我の様子をチェックするが、あるのは軽い打撲程度。これなら問題は無いだろう。 「痛く、ないですか……?」 「大丈夫です。お手数をお掛けします」 「気にしないで。じゃあ、引き上げるわね」 キャットがガウラの身体にロープを結び、アーズが片手を上げて合図を送る。 「力には自身があるなぁ〜ん♪」 「すぐに引き上げますから。あ、何かあったら、すぐ言って下さいね!」 ぐいぐいとロープを引くルージ。キルシュもガウラに呼びかけながら、同じようにロープを引く。 「わたくしも引きますわ。……枯れ木も山の何とやらと申しますし」 非力だという自覚はあるが、手は多い方が良いだろうとアンフィーサも加わる。すぐ近くではエルルが土塊の下僕を召喚し、それを手伝うように命じていく。 ライムントなども、手が足りないようなら加勢するつもりだったが、ガウラは彼らの手によって、あっという間にすぐ地上へと引き上げられた。 「お飲み物はいかがです?」 「……そういえば、喉がカラからだ。もうずっと何も飲んでない……」 アンフィーサが用意しておいた水を勧めると、ガウラは有難そうに口をつけた。彼が一息つく間に、アーズとキャットも崖下から戻る。 「大丈夫ですか? もう危険はありませんから、目的の物を一緒に取りに行きましょう」 彼が十分に水分を補給するのを見届けた後、ロザリアはそう語りかけた。クマは、もういない。ガウラさえ大丈夫なら、いつでも星のかけらを拾いに行けるのだ。 「はい……星のかけらは、もう少し向こうの方にあるんです」 行きましょう、とガウラは立ち上がった。
「この辺りなのですが……まだ、ちょっと明るいですね」 ガウラが立ち止まったのは、たくさんの小石が転がっている一角だった。とはいえ、こうも明るいと、普通の石との見分けがつかない。 「日が沈むのを待つのが確実ですが……」 「ならば、それまで軽く食事はどうかのう?」 その言葉に、ライムントはサンドイッチを取り出した。途端にガウラのお腹が鳴る。 「……ずっとご飯を食べて無かったのを、思い出しました」 「決まりじゃの」 頬を緩ませるライムント。その言葉にルージもリュックサックを置くと、次々とお菓子を取り出していく。そうして、冒険者達は互いに持ち寄った物を広げて、しばし小休止を取りながら夕暮れを待つ。 やがて太陽は地平線に向かい、空が藍に染まり始める。そして、足元に視線を落とせば……。 「あ……」 ぼんやりと、淡く光を放つ地面。いや、それは、小さな石が宿している光だ。 これが、星のかけら。 「素敵……」 「キラキラして、とっても綺麗なぁ〜ん」 ルージは思わず駆け出すと、かけらの1つを拾い上げた。 「秋の夜空に映えるわね」 アーズも頷くと、足元を見回して。ふと目に止まったかけらの1つを手に取る。間違いなく、この石が光っているのだ。不思議だと思いながらも、部屋に置けば、きっと秋の夜長を過ごす際の良いお供になるだろうとアーズは思う。 「そういえば、ガウラさんは何故、星のかけらを拾いに?」 「ああ、ええと……その」 ガウラはロベリアの素朴な疑問に、照れ臭そうに頭をかきながら「片思いの相手が、星のかけらを欲しがっていると聞いたから」と答えた。 「内緒で手に入れて、プレゼントしようと思いまして」 そう話すガウラに「喜んでくれるといいですね」と笑み返して、ロベリアもかけらを拾う。今子供を宿しているあの人が、無事出産できるようにと、そう願いを込めながら。 「星を持って帰るなんて、素敵ですね」 キルシュは手頃な大きさのかけらを見つけると、空を見上げて目を細めた。 ゆるゆると夜の帳が下りれば、辺りを星空が覆う。そんな空の下で、星のかけらを持って帰るだなんて、なんてロマンティックだろう。 「……綺麗……」 キャットの手の中にも、小さな星のかけらが1つ。大切に掌の中に入れて、キャットは目を細める。 その傍らではライムントが同じように、星のかけらを手に笑んでいる。……あの子はお守りを集めるのが好きだから、きっと喜んでくれるだろう。そう脳裏に浮かべれば、自然と顔が綻んだ。 「願い事が叶う……ねぇ」 星のかけらを選び、手に取っていく冒険者達。その様子を眺めつつ、ギルベルトはそう呟いた。 ギルベルトからしてみれば、何故こんな物をわざわざ欲しがるのかサッパリだが、それは人それぞれ、価値観の違いなのだろう。 「……確かに、望みは自分で叶えるものだと思いますけど」 それでも、何かに後押しされれば嬉しいものだと、そうアンフィーサは思う。 星のかけらはきっと、少しだけ心に力を与えてくれる魔法の鍵。鍵は、鍵それだけでは扉を開ける事は出来ない。あくまでも、扉を開けるのは……自分自身だ。 「そンなもんかねぇ」 ギルベルトは短くなった煙草を消し潰した。皆、それぞれかけらを拾い終わっている。そろそろ引き上げるのに良い頃合だろう。 ガウラの体調を気遣いつつ、麓への道を歩き始める冒険者達。彼らの上には、月と星の光が、柔らかくそっと降り注いでいた。
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参加者:8人
作成日:2008/09/28
得票数:冒険活劇5
戦闘1
ほのぼの6
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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