星のかけら



<オープニング>


 きらきら輝く「星のかけら」。
 お守りにして大切にすれば、きっと願い事は叶うはずだから。

「星のかけら?」
「そう。陽の光の下では何の変哲も無い石ころに過ぎないけど、暗闇の中でだと、ぼんやりと淡く光るんだよ。だから『星のかけら』って呼ばれてる」
 首を傾げたリボンの紋章術士・エルル(a90019)に、そうストライダーの霊査士・キーゼル(a90046)は説明した。
 大きさはこのくらいかな、と指先でくるくると円を描くキーゼル。それはちょうど握り締めた拳の中にぴったり隠れてしまうくらい。小さな石で、道端に転がっていたら、多分ただの石と見分けが付かないだろう。

「この星のかけらは、とある山の山頂付近で取れるんだけど、その近くで最近、突然変異して凶暴化したクマが目撃されたんだよ」
 なんでも星のかけらは、その少し神秘的な雰囲気から、大切に持っていると願いが叶うお守りとして扱われることがあるのだという。自分のため、あるいは誰かに贈るため、たびたび山頂まで星のかけらを拾いに行く人がいるのだ。
 ところが、その山頂付近でクマに襲われる村人が出てしまい、今回こうしてクマ退治が冒険者に依頼されたという訳だ。
「クマは体長3mくらい。毛の色は黒。大きいから、山頂付近まで行けば、すぐに居場所は判ると思う。……あんまり障害物が無いから、同時に君達もクマに見つかるって事なんだけど」
 クマは鍛え上げられた豪腕を振り上げ、鋭い爪での引き裂き攻撃を得意としている。危険を感じると、敵にタックルしてそのまま逃走を図るようだが、決して逃がさないようにとキーゼルは釘を刺す。
「もし逃がせば、この一帯は危険なままになってしまうからね。多少可哀想かもしれないけど、残念ながら、放っておく訳にはいかないから」
「そうね……星のかけらを欲しがっている人達のためにも、何とかしてあげなくちゃ」
 キーゼルの言葉に頷いて、早速出発の準備を整えようとするエルル。だが、話にはまだ続きがあると、それをキーゼルが押し留める。
「実は、クマから逃げようとして、山頂から足を踏み外して落ちた人がいるんだよ」
「え。……それって、一大事じゃない!」
「いや、落ちたといっても5mくらいで、ちょっとした段差の下に落ちてしまっただけだから、怪我らしい怪我はしていないんだけどね。クマも、そこまで降りて追いかける気にはならなかったみたいで、今のところ無事だけど……クマがいる限り崖上には登れないから、身動きが取れない状態になってるのさ」
 なので、クマを倒したら、彼を崖の上に引き上げて欲しいのだとキーゼルは言う。
「名前はガウラ。プレゼントの為に星のかけらを拾いに来た青年だよ。まだ星のかけらは拾っていないようだから、拾うのに付き合ってやって、村まで送っていってあげて欲しい。……ついでに、君達も拾ってみたらどうだい? 星のかけら」
「そうね……せっかくだし、私もお守りにしてみようかしら。……でも」
 まずはクマを何とかして、ガウラさんを助けてあげなくちゃ――と、そうエルルは意気込むのだった。


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参加者
書庫の月暈・アーズ(a42310)
黒き咆哮・ルージ(a46739)
千夜の星灯り・キルシュ(a50984)
金鵄・ギルベルト(a52326)
静寂の花・アンフィーサ(a65434)
雑奏・ライムント(a74576)
永遠の虚無・ロザリア(a74713)
永遠の愛を貴方へ・キャット(a75705)
NPC:リボンの紋章術士・エルル(a90019)



<リプレイ>

●あの山の頂へ
 冒険者達は酒場で聞いた山のふもとを訪れると、すぐさま山頂を目指して登山を開始した。
「紅葉には、まだ少し早いようですね」
 周囲の木々を見回しながら、千夜の星灯り・キルシュ(a50984)は呟く。そよそよと吹く風が揺らす葉の色は、気持ちのいい緑色。
 けれど夏に比べれば十分に暑さは和らいでいて、秋の訪れを感じさせた。
「山登りにはいい気候ですねー」
「道の方も、あんまり険しくねぇからな」
 頷くのは金鵄・ギルベルト(a52326)。山登りには多少詳しい彼は、それなりに必要そうな装備を整えていたが、一般人がよく山頂まで向かうというだけあって、道はそれほど険しくない。
「が、頑張るもん」
 坂道が苦手な永遠の虚無・ロザリア(a74713)は、やや緊張の面持ちだったが、思っていたよりも道は登りやすく、歩くうちに安堵する。
 山頂に辿り着いてからが本番なのだ。それまでに力を使い果たしては元も子も無いと、そう気合を入れて臨んだロザリアだが、この調子なら、体力を温存しながら向かえそうだ。
「まあ、力みすぎても良くあるまい。気楽にゆくとしようかのう」
 ロザリアの隣で笑うのは、雑奏・ライムント(a74576)。彼自身も初めての依頼、緊張を感じない訳ではないが、ガチガチに固くなっていても良い結果は埋めないだろうと、彼は適度にリラックスするよう心がけていた。
「なぁ〜ん♪ なぁ〜ん♪」
 朗らかな様子で歩いていくのは、黒き咆哮・ルージ(a46739)。ちょっとしたピクニック気分で歩く彼からは、いつしか歌声が漏れている。
 その背中では、歩くたびに大きなリュックサックが揺れる。隙間から顔を覗かせているのはお菓子の包装紙。視線に気付いたルージは、ちょっぴり慌てながら振り返る。
「こ、これは、崖から落ちた人へあげる為のものなぁ〜ん」
 そう、あくまでも依頼の為。そう主張するルージだが、その量は一人分にしては多すぎる。
「そうね。疲れている時には甘い物が良いって言うし。ガウラさんを助けたら、みんなで食べましょう」
 そんなルージの様子に、思わず笑みを零しつつ、エルルはそう頷き返した。
「……ガウラ様、大丈夫でしょうか……」
 永遠の愛を貴方へ・キャット(a75705)は心配そうな表情で、山頂の方を見上げた。
 ……クマを逃がしてあげられないのは残念だけれど、皆の為には仕方の無いこと。それよりも、早く倒してガウラを助けてあげなければと、そうキャットは歩みを進める。
 それほど酷い状況ではないと、そう霊査士は言っていたが、助けるのは早ければ早い方が良いだろう。そう冒険者達が、小一時間ほど山を登った頃だった。
「そろそろかしらね」
 遠眼鏡片手に歩いていた書庫の月暈・アーズ(a42310) は、上り坂の終わりを見定めて呟いた。
 視線を落とせば、地面には真新しいクマの大きな足跡。冒険者達はもう、変異したクマの行動圏に入っているという事だ。
 山頂までもう間近。冒険者達は気を引き締めて先へ進んだ。

●退けねばならない獣
「あれですわね」
 静寂の花・アンフィーサ(a65434)は問題のクマの姿を見つけて呟いた。聞いていた通りの巨体、そして視界を遮る物などない見晴らしの良い山頂。
 冒険者達が身構えるのとほぼ同時に、クマもまた冒険者達に気付いて、鋭い眼光で睨みながら身構えた。
「援護……は、任せてください……」
 前衛を受け持つ者達が前に出る中、キャットは護りの天使達を呼び出した。ふわふわと漂う守護天使達が、次々と仲間の傍らに現れる。
「熊さんストープ! 止まってもらいます!」
 最初に放たれたのは、ロザリアの気高き銀狼だった。勢い良く飛び出した銀狼は、クマに飛び掛ると、その巨体をそのまま組み伏せる。そこに、駆け込んだキルシュがデストロイブレードを叩き込む。
「エルルさん、動けない間はノヴァを御願いしますなの」
「分かったわ」
 緑の業火を放つアーズの言葉に頷いて、紋章を描くエルル。
 そんな中、ライムントは崖下に意識を向けていた。もしも戦いの余波がガウラに及ぶような事があれば、一大事だと考えたからだ。
(「あそこじゃろうか?」)
 それらしき崖を見つけて覗き込めば、そこには確かに1人の青年。彼こそガウラに違いない。
「あ、あなた達は……?」
 ライムントにガウラは戸惑いを浮かべる。突然の物音、そして見知らぬ人の姿……驚かぬ方が無理という物だろう。
「なに、心配はいらぬ。わしらは冒険者じゃ」
 ライムントは手短に説明すると、クマを何とかするまで、少しだけ待っているように伝える。
 そして、そちらへ決してクマを近付けぬように位置取ると、ライムントは華麗な動作と共に偉大なる衝撃を放つ。
 攻撃を重ねる冒険者達だが、クマも黙ったままではいない。やがて銀狼を振り払うと、大きく腕を振り上げる。
「それがどうしたってんだ……!」
 鋭く放たれた爪の一撃を、ギルベルトは真正面から受け止めた。そう、うっすらと笑いながら攻撃を受けたギルベルトは、反対に隙のできたクマの胴体へ、デストロイブレードを叩き込む。
 その強烈な一撃は、クマに多大な痛手を負わせたが、まだまだ敵が倒れる気配は無い。
「もー、タフですねっ」
 見た目に違わず頑丈な様子に呟きつつ、キルシュは攻撃がギルベルトだけに集中しないよう、刀を閃かせた。
「クマの事は、お任せくださいまし」
 その時、後方から伸びた鎖がクマの体に絡みついた。それは、アンフィーサによる暗黒縛鎖だ。
 拘束されたクマは再び動けない。アンフィーサも反動でマヒして動けなくなるが、すかさず冒険者達はそれをフォローするように陣形を調整する。キャットがディバインヒールでギルベルトを回復すれば、攻撃態勢は万全だ。
「ですとろいなぁ〜ん」
 デストロイブレードを放つルージ。その後ろでロザリアは紋章を描き、エンブレムシュートを放つ。
 臨機応変にアビリティを使い分け、少しでも早く決着を……ロザリアは、そう意気込みながらクマに対峙する。
「癒し手は十分なようじゃな」
 ライムントは武器に手をかけると、再び偉大なる衝撃を飛ばす。そこにアーズの緑の業火が飛来して、燃え上がる。
 次々と放たれる攻撃に、クマは苦悶の声を上げる。その体は今や、数多の傷を受けて血塗れだ。
 やがて、そのクマの両腕が鎖を引きちぎると、クマはその場で大きく身構えた。
「来るぞ!」
 ギルベルトの警告は明瞭で、そして的確だった。ほぼ同時に地を蹴ったクマの前に、咄嗟にキルシュが身を滑らせる。
 いざという時は、自分の身体を盾にしてでも、クマを食い止めてみせる。そう考えていたキルシュは、衝撃を真正面から受け止めた。そのまま、決してクマの突破を許さない。
「逃がさないなぁ〜ん!」
 グランスティードに乗ったルージは素早くクマの脇に回り込むと、そこにデストロイブレードを叩き込む。脇からの衝撃には、クマも耐え切れずに体勢を崩す。
「これでどうかしら……?」
 立ち上がろうとするクマの身体に、アーズの気高き銀狼が襲い掛かった。牙を突き立てられたクマは、銀狼を振り払えない。
「すぐ……癒します……」
 キャットの放つ光が、クマから受けた傷を瞬く間に癒していく。傷付き、ボロボロなクマに対し、冒険者の傷は全てアビリティによって回復している。もはや勝敗は一目瞭然といっていいだろう。
「終わりにして差し上げますわ」
 黒炎に身を包んだアンフィーサがブラックフレイムを飛ばし、ライムントの手元から七色の光が飛ぶ。動けないクマは、ただそれらを受け続けるしかない。
 そして、度重なる攻撃に傷付いたそのクマは、冒険者達の更なる波状攻撃には耐え切れず……断末魔と共に崩れ落ちた。

●星のかけら
「獣相手じゃ、こんなもんか」
 クマの亡骸を前に、そうギルベルトは呟いた。懐から取り出した煙草に火を点しながら、ふとギルベルトは自嘲する。
(「……ま、獣つったら俺も似たようなモンだが」)
 吐き出された煙は、ゆっくりと山の空気に溶け込んで薄れていく。
「大丈夫、です……」
「じゃあ降りるわね」
 キャットとアーズは準備を終えると、ガウラの元に降りた。アーズはガウラの怪我の様子をチェックするが、あるのは軽い打撲程度。これなら問題は無いだろう。
「痛く、ないですか……?」
「大丈夫です。お手数をお掛けします」
「気にしないで。じゃあ、引き上げるわね」
 キャットがガウラの身体にロープを結び、アーズが片手を上げて合図を送る。
「力には自身があるなぁ〜ん♪」
「すぐに引き上げますから。あ、何かあったら、すぐ言って下さいね!」
 ぐいぐいとロープを引くルージ。キルシュもガウラに呼びかけながら、同じようにロープを引く。
「わたくしも引きますわ。……枯れ木も山の何とやらと申しますし」
 非力だという自覚はあるが、手は多い方が良いだろうとアンフィーサも加わる。すぐ近くではエルルが土塊の下僕を召喚し、それを手伝うように命じていく。
 ライムントなども、手が足りないようなら加勢するつもりだったが、ガウラは彼らの手によって、あっという間にすぐ地上へと引き上げられた。
「お飲み物はいかがです?」
「……そういえば、喉がカラからだ。もうずっと何も飲んでない……」
 アンフィーサが用意しておいた水を勧めると、ガウラは有難そうに口をつけた。彼が一息つく間に、アーズとキャットも崖下から戻る。
「大丈夫ですか? もう危険はありませんから、目的の物を一緒に取りに行きましょう」
 彼が十分に水分を補給するのを見届けた後、ロザリアはそう語りかけた。クマは、もういない。ガウラさえ大丈夫なら、いつでも星のかけらを拾いに行けるのだ。
「はい……星のかけらは、もう少し向こうの方にあるんです」
 行きましょう、とガウラは立ち上がった。

「この辺りなのですが……まだ、ちょっと明るいですね」
 ガウラが立ち止まったのは、たくさんの小石が転がっている一角だった。とはいえ、こうも明るいと、普通の石との見分けがつかない。
「日が沈むのを待つのが確実ですが……」
「ならば、それまで軽く食事はどうかのう?」
 その言葉に、ライムントはサンドイッチを取り出した。途端にガウラのお腹が鳴る。
「……ずっとご飯を食べて無かったのを、思い出しました」
「決まりじゃの」
 頬を緩ませるライムント。その言葉にルージもリュックサックを置くと、次々とお菓子を取り出していく。そうして、冒険者達は互いに持ち寄った物を広げて、しばし小休止を取りながら夕暮れを待つ。
 やがて太陽は地平線に向かい、空が藍に染まり始める。そして、足元に視線を落とせば……。
「あ……」
 ぼんやりと、淡く光を放つ地面。いや、それは、小さな石が宿している光だ。
 これが、星のかけら。
「素敵……」
「キラキラして、とっても綺麗なぁ〜ん」
 ルージは思わず駆け出すと、かけらの1つを拾い上げた。
「秋の夜空に映えるわね」
 アーズも頷くと、足元を見回して。ふと目に止まったかけらの1つを手に取る。間違いなく、この石が光っているのだ。不思議だと思いながらも、部屋に置けば、きっと秋の夜長を過ごす際の良いお供になるだろうとアーズは思う。
「そういえば、ガウラさんは何故、星のかけらを拾いに?」
「ああ、ええと……その」
 ガウラはロベリアの素朴な疑問に、照れ臭そうに頭をかきながら「片思いの相手が、星のかけらを欲しがっていると聞いたから」と答えた。
「内緒で手に入れて、プレゼントしようと思いまして」
 そう話すガウラに「喜んでくれるといいですね」と笑み返して、ロベリアもかけらを拾う。今子供を宿しているあの人が、無事出産できるようにと、そう願いを込めながら。
「星を持って帰るなんて、素敵ですね」
 キルシュは手頃な大きさのかけらを見つけると、空を見上げて目を細めた。
 ゆるゆると夜の帳が下りれば、辺りを星空が覆う。そんな空の下で、星のかけらを持って帰るだなんて、なんてロマンティックだろう。
「……綺麗……」
 キャットの手の中にも、小さな星のかけらが1つ。大切に掌の中に入れて、キャットは目を細める。
 その傍らではライムントが同じように、星のかけらを手に笑んでいる。……あの子はお守りを集めるのが好きだから、きっと喜んでくれるだろう。そう脳裏に浮かべれば、自然と顔が綻んだ。
「願い事が叶う……ねぇ」
 星のかけらを選び、手に取っていく冒険者達。その様子を眺めつつ、ギルベルトはそう呟いた。
 ギルベルトからしてみれば、何故こんな物をわざわざ欲しがるのかサッパリだが、それは人それぞれ、価値観の違いなのだろう。
「……確かに、望みは自分で叶えるものだと思いますけど」
 それでも、何かに後押しされれば嬉しいものだと、そうアンフィーサは思う。
 星のかけらはきっと、少しだけ心に力を与えてくれる魔法の鍵。鍵は、鍵それだけでは扉を開ける事は出来ない。あくまでも、扉を開けるのは……自分自身だ。
「そンなもんかねぇ」
 ギルベルトは短くなった煙草を消し潰した。皆、それぞれかけらを拾い終わっている。そろそろ引き上げるのに良い頃合だろう。
 ガウラの体調を気遣いつつ、麓への道を歩き始める冒険者達。彼らの上には、月と星の光が、柔らかくそっと降り注いでいた。


マスター:七海真砂 紹介ページ
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