石翼の堕龍



<オープニング>


「新たに視えた遺跡の地下に、広大な空間を確認した。その場の主は強化型のドラグナーのようだ」
 霊査士フライドは、やや険しい表情でそう告げた。
「このドラグナーはドラゴンのような外見に巨大な石の翼を持ち、それで全身を覆い隠す事で高い防御力を誇るようだ。口と目は空洞になっており、紫色の光が漏れている。主な攻撃手段はここから打ち出される光線……」
 敵は巨大であり、状態異常は通用しない。
 だが相手が相手である為、こちらもドラゴンウォリアーの力を使って戦う事が可能だ。
 敵の戦闘力を鑑みて、ドラゴンウォリアーが6人もいれば対等以上に戦う事が出来るだろう。
 だがそれはあくまで、万全の状態であればこその話。
「地下空間までに至る道には、多数のフォビアが居ついている。これをなんとかせねば、まず敵の元へも辿り着けない」
 フォビアの戦闘力こそは、今の冒険者にとってすればそこまで警戒するべきものではない。
 だが、数が数だ。
 飲み込まれれば、熟練の冒険者でも最悪の事態がありえる。
 フォビアが巣食う通路もそれなりに広い。
 が、囮などを用いねば見つからずに通過するのは至難だ。
「依頼は強化型ドラグナーの討伐。作戦は任せる……厳しい戦いになるやもしれんが、よろしく頼むぞ」


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参加者
業の刻印・ヴァイス(a06493)
玄鱗屠竜道士・バジヤベル(a08014)
博愛の道化師・ナイアス(a12569)
雷獣・テルル(a24625)
黒鴉韻帝・ルワ(a37117)
哲学する弓手・バスマティ(a43726)
黒影の聖騎士・ジョルディ(a58611)
荒野の血風・ピオトル(a61132)
紅炎炎舞・エル(a69304)
星空渡る風の翅・レティリウス(a72807)


<リプレイ>

●闇の中へ
「フォビアが生息する地下通路を突破して、その奥に鎮座している強化ドラグナーの討伐、か……」
 目の前に拓いた地下への通路を前に、荒野の血風・ピオトル(a61132)が依頼内容を再確認する。
 住居遺跡の外れ、瓦礫の下から姿を現した戦地への入り口。
「不思議な事には事欠かないフラウウインドだが……まさかドラグナーとフォビアまでついて来るとはな」
 苦い表情を浮かべるのは哲学する弓手・バスマティ(a43726)。
 その隣で業の刻印・ヴァイス(a06493)が頷く。
「そして奴等がいるという事はドラゴン、そしてドラゴンロードがいる可能性がある。と、いうことだな」
「まだそっちの姿は見えないけどな。調査不足なのか……」
 考える素振りを見せる雷獣・テルル(a24625)だが、続く星空渡る風の翅・レティリウス(a72807)の言葉がそれを中断させた。
「何れにせよ、今回の敵は確実にこの世界へと災いを招く存在だ。何としてでも殲滅せねば成るまい」
 他の冒険者を促しながら、地下への階段へ足を踏み出す。
「……そう、今は考える時ではないのだ」

 紅炎炎舞・エル(a69304)や黒影の聖騎士・ジョルディ(a58611)ら前衛が術士を中心に円陣を組む。
 ヴァイスから暗色のマントが配られ、迷彩の目的でそれを纏った。
 持ち込んだカンテラやランタンが先を照らし進むうち、いつしか階段は終りを迎える。
「この先に強化型ドラグナーか……」
 玄鱗屠竜道士・バジヤベル(a08014)の呟きが闇に響く。
「そしてフォビアですね。結局何者なんでしょうか……強化型と共に現れるようですが、正体は今だ不明ですし」
「確かなのは我等を脅かす者であり、我等には必要ない存在だという事だ。在るべき場所へ還してやろう」
 博愛の道化師・ナイアス(a12569)の疑問も闇に解け答えはなく、ただ黒鴉韻帝・ルワ(a37117)の告げる確かな使命を果すため、冒険者は歩き出した。

●フォビア湧く
 どれだけ闇の中を進んだだろう。
 警戒を維持しているため精神の疲労は大きい。
 途中、幾度か見張りを立てて小休止を取り、ヴァイスの持参した水と菓子を口にする。
 そして行き着いた幾度かの曲がり角。
「レティリウス、頼む」
「承知した」
 ジョルディの要請に頷き、レティリウスは土塊の下僕を作り出す。
 指示は「先に進め」だ。
 今までの警戒は全て取り越し苦労に終った。さて、今回は?
 下僕が一歩一歩、子供の歩幅で淀まず進む。角を出て、曲がろうと横を見て……砕けた。
 エルが咄嗟にヘブンズフィールドを展開した刹那、角から姿を現す異形。
「こんなグロい生物、地獄以外にも居たんだな……さっさと片付けるか」
 この世に存在する事を否定したくなるような醜悪な怪物――フォビア。
 苦虫を噛んだ様な表情でピオトルは血の覚醒を発動する。
 近くで突如燃え盛る黒炎はレティリウスとルワがその身に邪竜を招いた証。
「仕掛けるぞ!」
「おう!」
 こちらに気付いた様子の無いフォビアへ叩き込まれるジョルディとテルルの一撃。
 悲鳴も無く倒れるフォビア。だが仲間の危機を察したか、奥からは次々とフォビアが現れる。
 数は……数えるのも億劫だ。
 本命との戦いまで戦力は温存しておきたかったが、その結果手間取ったのでは目も当てられない。
「仕方がない、か!」
 ヴァイスが一歩を踏み込み両腕を振りぬく。その指先から放たれるのは無数の粘り蜘蛛の糸。
 視界内の約半数が囚われもがく中、バジヤベルとナイアスのニードルスピアが一挙に多数を打ち落とす。
「テメェらはお呼びじゃねぇんだよ」
 迫り来る敵の前に自ら躍り出て、練り込んだ闘気を開放するエル。
 気は荒れ狂う竜巻となり、敵を引き裂き塵と化す。
 だが更に湧き出るフォビア。
 距離を詰めようとする冒険者から距離を取り、目より一筋の光線を放つ。
 一匹が一筋、十数匹が回避を絶望させるような密度の光線を放つ。
「なるほど、これがフォビア……だが例え汝等の元が何であろうと……打ち滅ぼすだけだ」
 返礼とばかりにレティリウスが中空に描く紋章。それは力を織り成し、数多の光条を撃ち出す。
「……! 壁際に動くぞ! 回りこみをかけられる!!」
 ジャスティスレインを放ちながら、バスマティが警告の声を響かせた。
 敵が距離を取ったのはこの伏線か。いつの間にか上空、横手に敵の影が見えていた。
「数の暴力というのもバカに出来んか……」
 ガッツソングで仲間を支えるルワの表情が険しいものになる。
 フォビア単体の戦闘力はそれほど恐れるものではない。だが何よりこの数が脅威。
 数体のフォビアが全身に節操なく配された瞳をギラつかせる。
 途端、前衛を蝕む麻痺と魔炎。それを足元より戦場を照らす幸運の結界で跳ね除けながら、冒険者と異形は力を振るい続けた。

●石翼の堕龍
 力を求め、それを得て。しかし満たされる事は無く。ただ石翼の堕龍は本能的に体をよじらせた。
 石翼が広大な空間の岩壁を削る。壁はすでに無数の傷で埋め尽くされていた。
 その位しかする事がなかったのだ。だがその状況に変化が訪れようとしている。
 遠く聞こえる喧騒。徐々に近付く破壊音。小さな通路の口からフォビアが飛び出し、それを追うように一〇の小さきものが飛び出して来たのを見て、堕龍は頭を上げた。
 得た力を示す時。怠惰を戦闘意欲が押しやり、空虚な頭蓋に光が宿る!

「クッ……油断したわけでは、無かったが……」
 熱を持った盾を下ろし、ジョルディは唸り声を上げた。
 敵が放った先制の一撃は、その脅威により本能的に展開された擬似ドラゴン空間の中、彼の盾に激突した。
 ドラゴンウォリアーの力が無ければ即死だろう。力があってもこの痛みなのだから。
 ここに逃げ込んだフォビアはこの展開を読んでいたのだろうか。だとすれば侮れぬ知恵だ。
「ですが耐え切りました、ならば……」
 黒炎覚醒を発動したナイアスの言葉を、ガッツソングを歌い終えたルワが継ぐ。
「幾度目かの舞台……此処からは我等の手番だ」
 レティリウスもさきに発動していた黒炎覚醒がドラグンウォリアー化と共に己が内で強化されたのを認め、吠える。
「ドラゴンの出来損ないが……俺達に敵うと思うな!」
 さらに打ち出されるヴォイドスクラッチ。
 伸ばされた虚無の手を堕龍は見た目に似合わぬ動きで避け、再び極太の光線を打ち出す。
「なら、そこを撃つ!」
 光の流れに逆らうように、迸るはテルルのサンダークラッシュ。黄金色の闘気が轟音と共に堕龍の頭部を穿ち、同時テルルは光に呑まれる。
「あまり無茶はせぬようにな」
 バジヤベルの声が届く。直前に彼が展開した護りの天使達がダメージを軽減していた。
 さらにジョルディの鎧聖降臨も間に合った。ダメージは限りなく抑えられ、しかし軽くは無い。
「チッ、出番のようだし……今回もオマエの体、貸してもらうぜ」
 先ほどまでの無邪気さを潜めたエルがヘブンズフィールドを発動。
 淡く輝く巨大な紋章が台地に描かれ、地下空間を照らし出す。
 浮かび上がる巨大な堕龍を前に、冒険者は散開。
 前衛、中衛、後衛に分かれ、己が得意とする技を持って戦いに挑んだ。

「いくら地下や石翼で身を隠そうと……もはや無意味と知れ!」
 バジヤベル、次いでレティリウスがヴォイドスクラッチを打ち込む。
 強固な石翼を容易く貫き侵食する一撃。だが堕龍もそれを意にも介さず攻撃を続ける。
 光線だけは無い。石翼はその質量と硬度ゆえ武器にもなる。
 ヴァイスの放った飛燕連撃を追うように迫ったピオトルが巨大剣を高々と掲げ、力任せに振り下ろした。
「うぉぁぁぁぁぁ!!」
 飛燕連撃は突き刺さった石翼への大岩斬。一撃に石翼が揺れ僅かに欠ける。
「破断!」
 その傷目掛け、さらにジョルディの大岩斬。
 再びの衝撃に石翼は弾き飛ばされ堕龍の姿が露になる!
 そこ目掛け飛び込むナイアスの黒炎弾。石翼が閉じられるが時遅く、炎弾は内部で炸裂した。
「硬い翼……貫いてやらぁ」
 また石翼があれば防御が完璧というわけではない。
 エルの破鎧掌は石翼の守りを抜け内で響き、バスマティの貫き通す矢も石翼に風穴を開け撃ち貫く。
 堕龍はすでに傷だらけだ。だが、それは冒険者にとっても同じ事。
「まだ……まだ持つ」
 凱歌を歌い上げたルワが呟く。回復は有限。フォビア戦の消耗も少なくなかった。
 思案する間にまた仲間が撃たれた。敵の狙いは正確で、光線の発射は間隔が短く、太い故に避けづらい。
 それでも向かっていく仲間へ、ルワは迷いを断ち再び支えの歌を紡ぐ。必要あらば、何度でも。

 一際巨大な禍々しい光が地下空間を駆けぬけた。
 巻き込まれたのはジョルディ。その視線は虚ろになりながら、しかししっかり敵を見据える。
 今まさに、ピオトルの一撃で片翼が半壊した敵を。
「重騎士の本分は守りにあり!」
 叫ぶ。
 ここでの奮迅が、敵の討伐が、守るべき民を護る未来へ繋がるならば、引き事など出来る筈もないと。
 そんな意思に呼応したか、ルワの高らかなる凱歌も熱を帯びる。
 その歌に触発されたか、冒険者の闘志は滾るばかりだ。
 石翼を壊された堕龍の雄叫びも、彼らを挫くことは出来ない。
 何人かはすでに攻撃アビリティを撃ちつくしていたが、ならば手数と連携で不利を埋める。
 ヴァイスの飛燕連撃が敵の頭部を打った。
 目標をヴァイスに定めた堕龍の死角から距離を詰めたジョルディとピオトルが更に頭部にダメージを与える。
 バジヤベル、ナイアス、レティリウスの黒炎弾も執拗に頭部を焼いた。
 衝撃に頭部を左右へ揺らしながらも、堕龍は再び紫色の光を溜める。
 発射の直前、眉間に貫いたのはバスマティの矢。
 僅かに仰け反り、しかし即座に頭部を戻した堕龍の目前には――剣を振りかざしたテルル。
「潰す!」
 一閃。
 遂に壊れた頭部で、集約していた紫の光が暴走する。
 地下空間を溢れた細い光線が貫いていく。
 その中、冒険者は誰も引かない。滅び行くだけの堕龍に焦点を合わせ、それぞれが最後の一撃を繰り出した。
(「オレが出て来たのは戦いが近いから……かねぇ。おもしれぇ。どうやら、オマエの身体……また借りる事になりそうだ」)
 刃の先の手応えが、崩れていくのを感じながらエルは口元を笑みに歪める。
 空中に浮かぶ一〇の冒険者。その視線を浴びながら、堕龍は轟音と共に倒れ伏した。

●年月の傷痕
「酷い有様だな」
「これじゃ探索もなにもないぜ」
 地下空間の壁を見つめ、レティリウスとテルルは小さく息を吐いた。
 壁には数多の筋が引かれている。
 石翼がその翼でつけた傷痕だ。
 それだけであって、それ以上ではない。
 文字や絵といった新発見は、期待できそうも無い。
「高望みしても仕方ない。幾らか使えそうなものを持ち帰るくらいが限度だろう」
 後ろに立ったジョルディの言葉に、二人は少し残念そうに頷いた。
「しかし結局謎は残りますね。フォビアの事など、ジョルディ殿の推察が正しければ、民が化け物となる可能性があることになる……」
「この大陸で何が起きたのか、それが分かれば良いのだろうがな」
 歩み寄ってきたナイアスとヴァイス。
 真実は歴史の彼方。いまだ手が届かないのがもどかしい。
 僅かな静寂を破ったのは、別方向から戻ってきたバスマティ達だ。
「こっちも面白そうなもんはなかったぜ」
「それでも依頼は達成したのだ。報告もある、そろそろ引くか?」
 これ以上は目ぼしい発見もなさそうだ。ルワの提案に一同は頷く。
「あんな気色悪ぃのと、これ以上一緒にいるのは御免だぜ……」
 はき捨てるように言うピオトルの言葉もあり、全員が集まっているのを確認すると、一〇人は外を目指して歩き出した。
「バジヤベル大変そうだね? 手伝う〜?」
「いや、これはわしの我侭じゃからな。心配無用じゃ」
「そか♪」
 無邪気に笑うエルに、苦笑するバジヤベル。
(「もう少し砕くべきじゃったかのぉ……」)
 内心そんなことを考えながら、石翼の欠片を背負い帰り道を急ぐのだった。


マスター:皇弾 紹介ページ
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雷獣・テルル(a24625)  2009年09月12日 17時  通報
遺跡に何が書いてあったのか、すごい気になるよな。
もう必要ないのかもしれないけど、純粋に好奇心で。