飛べない鳥もやっぱり鳥



<オープニング>


●クックドゥドゥルドゥ
 ある朝、目を覚ますと、聞き慣れない鳴き声が聞こえた。
 人によってやかましさを感じるそれは、地域によっては朝を報せるものであった。
「その鳥は普通、空なんて飛ばない。だが、ある条件をクリアしたことによって、飛べるようになっちまった奴が現れた」
 飛べない鳥が飛べるようになったのは、驚くべきことだ。
 だが、それだけでヒトの霊査士・ファーシル(a90379)が冒険者を募る理由には当然なり得ない。
「一般的な体格より数倍デカくなった体躯と、飛べることを利用して、村中の畑を荒らしてはどこかへ消えてっちまう」
 つまり、今回の依頼は変異動物の掃討である。
 ターゲットは4匹。畑を襲うときは一緒に現れ、十分大きな畑ならば、同じ場所で食事をする。もちろん、食事は地面を歩きながらだ。
 既に襲われた畑は、村の南西部。次の狙いは、北西か南東のどちらか。
 体長は3mあり、大人の男が少し見上げたところに顔が位置している。頭頂部には、毛ではないが、たてがみのようなものが付いている。
「くちばしと、足の爪による攻撃が主な攻撃手段だ」
 どうやら、くちばしには相手の身体の自由を奪う力があるようだ。
「空飛ぶ敵を逃がさずに仕留めるのは難しいかもしれない」
 だが、飛ぶと言っても、元々飛べなかった鳥である。
 一度着地してから再び飛行するには、かなりの助走を要する。
 しかも、飛行高度も最大で10m未満。
「戦術によってかなり難易度が上下するだろう。新たな被害を出さないために、今回で4匹全てを始末して欲しい。健闘を祈る」


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参加者
仄かなる星音・カズ(a28347)
紫燕奏魅・レイ(a61133)
翠蓮の雷光・カミュ(a62297)
真夏の夜の夢・ティターニア(a64330)
水琴の波紋・アルーン(a66163)
森緑の癒し手・ミラリビィ(a66983)
黒翼の邪竜導士・ミーナ(a67471)
向日葵の唄・ソロネ(a74227)


<リプレイ>

●東から昇った太陽
 村全体に朝もやが広がり、冬の足音がもうそこまで聞こえてきている。そんな季節。
 例年ならば静かな朝を繰り返すだけの村で、冒険者たちは息を潜め、始まりの刻を待っていた。
 東から昇り始めた太陽の光を受け、眼前に広がる畑は真っ白な絹のカーテンで覆われているかのうようだった。
 その畑の中心に、良く見ると佇んでいる影が浮かんでいる。
 今回の標的ではない。逆。
 畑を守る者だ。
「見づらいな……」
 冒険者の一人、翠蓮の雷光・カミュ(a62297)は武器も持たずに畑の真ん中で空だけを注視していた。
「まるでカカシさんなの」
 同じく畑の守り手である向日葵の唄・ソロネ(a74227)は、仲間と共に物陰に隠れながら、カミュを見てそんなことを言った。隣にいたエルフの邪竜導士・ミーナ(a67471)もそれに同意する。
 ソロネの腰には、まず振るうことのない紅蓮の長剣が差してあった。真夏の夜の夢・ティターニア(a64330)の愛剣である。この剣が消えたとき、ソロネたちはその場を一斉に離れ、南東の方向へ駆けだすことになるのだ。
 カミュが武器を持っていないのも、実はそれと同じ理由である。彼の手に槍が現れれば、仲間がこちらへ向かってくる手はずになっている。
 カミュやソロネたちがいるのは、村の北西に位置する畑だ。おおよそ太陽を背負う形になっている。冒険者は班を二つに分け、北西と南東に分かれて敵を待っていた。
 南東には、ティターニアの他に3人、こちらは皆畑から少し離れた場所にいる。
 ティターニアは、積まれたわらの中で待ち伏せしていた。その腰に、いつもいる相方はいない。
(「くー、わらがこんなにぬくいとはー」)
 今はマントで身体を包み、その外をわらで囲んでいた。まるで、ふとんの中にいるかのような状態だ。若干、まぶたが下がる。
「(あかん、あかん!)」
 ティターニアの顔が左右に振れるのに合わせて、わらも振動した。
「……ッ」
 柵の近くで、土と草を混ぜた色の迷彩服を着た紫燕奏魅・レイ(a61133)が、敏感に反応する。
 しかし、その後動かないわらの塊は、敵襲が来たわけではないことを物語っていた。
 気を取り直して、西から南にかけて視線を巡らせる。変化はない。
 追跡に慣れたレイにとって、身体をほとんど動かしてはならない現状も苦ではなかった。
 少なくとも、イレギュラーなことさえ起きなければ、気付かれることはないと確信している。
(「あなたたちの翼は、今日ついえる」)
 空を飛ぶことを望み手に入れたものは、同時に、落ちる運命にもあるのかもしれない。
 レイが知るとある物語の中で、空を飛んだ主人公は太陽によってその翼を折られた。
 今、自分たちがその太陽となろうとしているのだ。
 レイの視界を奪っていた白いカーテンは、序々にその姿を薄くしつつあった。

●飛ぶ鳥落とす
 太陽が東の空にその姿をくっきりと見せる。
 水琴の波紋・アルーン(a66163)の手には、未だカミュの大槍があった。
 手に余るほどの大槍。
 その重量が、突如として霧散する。
(「北西じゃ」)
 瞬時に、タスクリーダーで南東班全員に敵の来襲を伝える。
 いの一番に動きだしたレイに続き、全身を覆っていたマントを解いて森緑の癒し手・ミラリビィ(a66983)も駆けだす。
「ミラリビィはん乗りぃやー!」
「ティターニアさん!」
 ティターニアの伸ばした腕につかまり、ミラリビィはグランスティードに飛び乗った。
「頼んだぞえ」
 安全マージンを取るならば、早掛けの同乗者は当然回復を担当する者である。
 畑の面積から考えて、ターゲットが二手に分かれる可能性は低い。
 頭上を気にしつつ、アルーンもまた、大槍の重みを失くした身体で軽やかに駆けた。
 ミラリビィを後ろに乗せたグランスティードはその速度を上げ、後ろの二人がみるみる遠ざかっていく。
 戦場はもうすぐだ。
 その北西の畑では、既に4対4の戦いが始まっていた。
「はぁッ!」
 仄かなる星音・カズ(a28347)の放った粘り蜘蛛糸は、1匹の変異鳥を拘束した。
 しかし、カズの蜘蛛糸をすり抜けた3匹が、最前列に位置したカミュに襲い掛かる。
 左、右。
「チィ……」
 一匹目、二匹目をやり過ごしたものの、最後の攻撃を避け切れず、くちばしの先が腕にめり込んだ。
 途端、身体の自由が利かなくなる。召喚獣の上で、なんとかバランスを保つのがやっとだ。
 拘束を優先したソロネは、眠りの歌を奏でた。
 地に突っ伏す2匹の変異鳥。
「狙いは決まりましたね」
 エルフの邪竜導士・ミーナ(a67471)の口が弧を描く。黒炎を纏ったその姿は、敵を見上げる形になっているにも関わらず、力という意味では見下ろしているかのようだった。
 唯一攻撃しても動くことのない敵は、1匹だけカズの蜘蛛糸に捕らわれた変異鳥だ。
 その敵にミーナの魔の手、もとい影の手が襲いかかる。攻撃に融け込む一瞬、ドールの口にも笑みが浮かんで見えた。
 召喚獣の力を得て威力を増幅させたヴォイドスクラッチは、対象を内から破壊し、無防備にする。
 原初の恐怖をかきたてられ、変異動物は悲鳴に似た鳴き声を上げた。

●チキンハート
「大丈夫なの!」
 ソロネは毒消しの風を起こし、くちばしによる攻撃を受けてしまったカミュの回復を助ける。
 風がカミュの身体を撫でると、痺れが消えた。
「ありがとうございます」
 跨るだけだった状態から態勢を立て直し、カミュは手綱を握りなおす。
 敵の身動きを止めることは、他の仲間に任せている。受けた少量のダメージを無視して、ミーナが標的にした敵に追撃を加えるため、カミュは召喚獣を疾走させた。
 手にした緑色の大槍を高々と掲げると、その先端から雷神の一撃を放つ。
 変異鳥の体躯が一瞬飛び上がった。
 その後、2度震えたかと思うと、突如沈黙する。
「やった?」
 カズがその様子を見て、ほんの少し身体から力を抜いた。
 まるでそれを見計らっていたかのように、変異鳥は脇目も振らず一目散に駆けだした。
「なッ」
 逃走。
 先ほどの攻撃から成功確率を考えれば、蜘蛛糸での拘束に失敗する可能性は高い。
 倒すしかない。
 引き絞った矢は、光を凝縮したような稲妻。
 氷と炎の間から放たれた雷光は、逃げだした変異鳥の背中に深々と突き刺さる。
 それでも、わずかに体力が残ったのか、動きを止めずに速度を上げる。
 カズが小さな呻きを吐いたとき、敵の進路を大きな影が遮った。
 それを避けようと、無理やり短い助走で翼を広げた敵に、横一閃の一撃が絶望的な傷を刻み込んだ。
「逃げたらあかんよー」
 返り血を浴びて白い面が笑う。
 いや、その表情は元から。
 剣を振ったのは、血狂道化師の面を被ったティターニアだった。
「皆さんお怪我は」
 ティターニアと共に先行して駆けつけたミラリビィは、ヒーリングウェーブで北西班の回復を行う。
「様子が変です」
 拘束を免れた者と、自由になった1匹の変異鳥の動きに、ミーナが声を上げた。
 なんと、どちらも冒険者たちがいない方向へ向かって走りだしたのだ。
 ミーナは、およそ南東の方角に向かった敵を無視して、もう一匹の方に集中する。
 逃走か、あるいは単に空から様子を見るつもりか。いずれにしろ、空へ上げるのはやっかいだ。
 ここで、北西の畑にいる冒険者は複数に分かれた。
 一匹をミーナと共にカミュ、ティターニアが追いかけ、ソロネがサポートできる位置に立つ。未だ眠った状態の変異鳥には、カズが蜘蛛糸で更なる拘束を付加し、そのまま監視する。そしてミラリビィが南東のサポートに回った。
「あれ、敵がこっちに来るみたいですよ」
 レイは速度を若干緩めると、後ろのアルーンに確認を取る。
 低空ではあるが地面から身体を浮かせ、こちらに向かってきている変異鳥が視界に入った。
「そのようじゃの」
 流れるようなアルーンの動きに召喚獣が同調する。
 状況を即理解したアルーンが、影縫いの矢を放ったのだ。
 不意を突かれた変異鳥に、それを避けることは不可能だった。ペインヴァイパーのガスと融合したことで、その拘束力は格段に上昇している。
 射抜かれた態勢のまま、鈍い音を立てて地面に落下する。
「集中攻撃するほど味方がいませんし」
 そう言うと、レイはナギナタを鋭く振り払った。
 空間を切る音とともに、リングスラッシャーが召喚される。
「……あれは、ミラリビィ殿かのぅ」
「一人、みたいですね」
 残りの一匹が逃げてきたわけではないようだ。
「こやつは、妾たちに任されたということかえ」
「それなら」
 一歩、二歩と歩きだしたレイの姿が、一瞬のうちに二つに分かれた。かと思ったときには、既に変異鳥の左右から血しぶきがあがっていた。
 ほとんど不可避に近い超高速の斬撃。
 時間差で、鳴き声が響く。
「翼、溶けちゃったね」
 攻撃、拘束、回復の3役をそれぞれが受け持った3人に、この敵は余りにも非力だった。
 なけなしの抵抗を見せるも、所詮は一匹の一撃。
「癒しの光を」
 すぐさま、ミラリビィによって傷は癒される。
 哀れなる変異鳥は、再び飛びたつことなく地面に伏してもう動かなくなった。

●太陽は南にさしかかる
 ミラリビィたちが北西の畑に戻ったときには、3匹の亡骸ができあがっていた。
 2体のグランスティードとミーナに追い込まれた鳥は、一端は空へ上がったものの、カミュのサンダークラッシュと、ミーナのブラックフレイムによって、地面へ強制送還された。
 残りの一匹に逃げ道などなく、一度たりとも冒険者の囲いを抜けることはなかった。
「南東に向かった変異鳥は、こちらで処理しました」
「これで任務完了やねー」
「けど、畑がけっこう荒れちゃったの」
 冒険者が各々の方に視線を巡らせると、北西の畑の半分ほどは、原型を留めていなかった。
 しかし、南東の畑は一切荒らされず、敵を一匹も逃がすことなく退治した。
 もうこれ以上の被害は、今後起こらないのだ。
「できるだけ修復しましょうか」
「わたしもお手伝いしますの」
 レイの提案に、ソロネも同意する。
「では、妾は村の者に伝えに行こうかのぅ」
「じゃあ、俺も」
 アルーンとカズは畑から離れ、敵の掃討が完了したことと、畑の修繕を一緒にしたいということを手分けして伝えに行く。
「……なぁ、この鳥食べられへんかなー」
 動かない変異鳥を横目で見て、ティターニアが言った。
「俺も調理できないかなと思ってました」
「わ、わたしも」
 カミュとミラリビィが手を挙げる。
 じっと死骸を見つめる3人。
 見た目はどこからどう見ても、アレだ。ただ大きさが普通と違うだけ。
 むしろ、これだけ大きければかなりの量の肉が取れるのではないか。
「止めた方が良いかと」
 ぽつりと零した声の主はミーナだ。
 どんな見た目であれ、変異動物は変異動物。どれほど危険なものか、判断しようがない。食べてみてからでは遅いし、すぐに症状が現れなくとも、後々どうなるかわらかない。
「そう、だな……」
 畑の被害と相殺できないかと考えていたカミュだが、村人に振舞って、全員が死んでしまったなんてことになっては冗談では済まされない。
「そかー」
 頭と肩を落とすティターニア。その肩を、ミラリビィが軽く叩いた。
「修復手伝いましょう」
「そやなー」
 沈んだ顔を元に戻すと、ミラリビィと共にティターニアは作業に移った。
 カズたちから報告を受けた村人たちが北西の畑に集まり、畑の修繕作業が村人総出で行われた。
 敵をせん滅してからそれなりの時間が経ち、畑の様子は収穫物以外ほとんど元通りになっていた。
 ふと、作業をしていた魔女の腹で虫が鳴いた。
 故郷を思い出し、あぁ、怪鳥だったら食べられたな。なんて、思ったり思わなかったり。
 太陽の位置は南の空。もうすぐお昼だ。


マスター:詩賦 紹介ページ
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