セリカの誕生日



<オープニング>


●夜も長くなると
「夜も長くなると、本を読むのにも難儀するのじゃな」
 暖炉の火は暖かくて、幼い日に母の腕に抱かれて眠ったことを思い出させてくれる。
 暖かいことは大好きなのだが、それで折角の読書が邪魔されてしまい、そのまま眠りそうになることが続いた時もある。
「こういう、うららかな日にこそ……読書の秋、じゃな」
 うんうんと、自分に言い聞かせる様に言ってエルフの邪竜導士・セリカ(a90232)は数冊の本を手に散歩に出かけた。
 その行く手に、数はそう多くないが試練が待ち受けているとも知らずに……。

●目出度
「目出度いモンは、祝うのが礼儀っちゅうもんやな」
「本気ですか? 折角静かに読書を楽しもうとされているのですから……」
「そーゆーけどな? カティちゃんもお祝いしたいんとちゃうん? その手にした新しい組紐とリボンは何やっちゅうの?」
「……これは……わ、わたしがつかうんですよーほんとうですよー」
「……良いのではないですか? 無理をしないでお祝いしても。アンジーさんも、無茶だけはしない様に……と、言っても無理のようですが……」
「くっくっくっくっくー。クリは山程用意したで〜。既に砂糖漬けも満載や……あとは〜〜」
「……カティさん、お目付役お願いしますね」
「え……」
 女三人、三人寄れば姦しいとはよく言うのだが……そう言う次元とはまた、別の意味でセリカの背後で不穏な空気が蠢き始めていた。

●街の外れにある山に
 街の外れにある山に、小さな沢がある。
 秋晴れの涼しい空気と、夏程の強さはないが程良く照らす陽光。木陰で静かに読書を楽しむのには最適の一日だ。
「ん? あれは……栗ではないか。帰って蒸かすと、きっと甘いに違いないのじゃ! じゃが、面妖じゃの……これは果たして罠ではないのかや?」
 点々と、木立の中に落ちているイガの『付いていない』栗に引き寄せられる様に、林の中を進んでいくセリカ。
 いぶかしげな表情で、不可思議な状況の原因を探る為に……。
「けっけっけっけっけ……」
 林の中に、謎の笑い声がする。
 小さく、微かに……。


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参加者
NPC:エルフの邪竜導士・セリカ(a90232)



<リプレイ>

●薄く広がる鱗雲
 薄く広がる鱗雲。
 青い空にくっきり映る山の稜線は、空気の澄んだ証拠だろう。
 気候も穏やかな秋の一日を、不思議の卵・ロイナ(a71554)は深緑の枝を撫でるそよ風・ミユリ(a74301)と共に落葉の始まった山の道を歩いていた。
「プレゼント用の秋の味覚と言っても、色々ありますね……」
「でも、セリカさんだって女の子なんだし、秋の味覚と言ったらやっぱり栗も入ってると思うんだ」
 ミユリの快活な言葉に対してロイナはまだ少し考え込む様な部分がある様子だった。
 しかし、頭からミユリの意見を否定する気はないらしく、同行している彼女が提案した栗に梨、アケビ等の山で取れた物で一杯になった籠を一緒に抱えている。
「ん? 何だろう?」
 歩みを止めたミユリが聞き耳を立てると、ロイナも歩みを止めて枯れ葉を踏む音を消す。
 風だけが林の中を抜けていくのに、静かな中にも木々の枝が擦れ合う音や落葉が降り積もっていく音が聞こえてくる静けさの中を、微かに伝わってくる音がする。
「泣いてる……」
「ええ、何処かで鳴いてますね」
 顔を見合わせた二人の内、ミユリが視線を走らせる。
「こっちだ」
 彼女が僅かに聞き耳に長けたのか、ロイナを引く形で走り出したのは道から僅かに外れた落葉で満たされた林の中だった。
「……声が……」
 少し進んだ所で、ようやくロイナにもミユリが聞きつけた声を聞けるようになってくる。
 微かな鳴き声は、走る先に見える落ち葉が乱された場所から聞こえてくるらしい。
「この辺りだと思うけど……」
 声はしても姿は見えない。
 慎重に歩を進めて、一瞬足下が崩れ落ちる様に消え去ったのに、ミユリが飛び下がる。
「……わ。ここに落ちたんだ……あのわんこ」
「あらら……」
 落ち葉の絨毯の中にポカリと空いた巨大な穴を覗き込むと、そこには人が二人は余裕ではいることが出来る大きさの亀裂が地面深くまで走っていた。
「地震か、何かで出来たんだろうな……」
 穴の隅で震えてる犬を見て、ミユリは身軽に穴に降りていく。
「ん、よく知らせたな、お前。偉いぞ〜」
 そっと抱え上げてやると、地上に戻りたいのか懸命に脚でもがく子犬の動きは押さえつけようとしても厄介だった。
「降ろしますねー」
「うん。さ、これで上がろうな」
 ロイナが降ろしたロープで脇の下を通して固定してやっても、抱いていた時よりももがいてロープを嫌がっている。
「一緒に引き上げるにも、私一人では……」
 溜息をつくロイナ。
「んー。抱えて登るのもロイナさん一人に引っ張って貰うのも難しいかな?」
 自分が抱き抱えていた方が大人しいんだけれどと、上着で子犬を包んで抱き上げる。
 もう一度包んだまま繋いでみようとロープの端を握ったミユリが、手の中のロープが引き上げられたのに驚いて上を見る。
「ロイナさん?」
 頭上を見上げると何故か二人の人影がある。逆光でよく見えないのだが、ロープが引き上げられていくという事実がミユリに決意を促した。
「ん、しょっと」
 片手にロープ、片手に子犬を離さないようにと亀裂の壁に脚をかけて、自身も亀裂を登る様に駆け上がるミユリ。
「よっと、もう良いよ」
 何とか這い上がって子犬を下ろし、自分も亀裂の端に手を掛けて飛び上がる。
「ありがとう……って、え?」
 お礼を言おうとして、ミユリが呆けた様にロイナと共にロープを引き上げたらしい人物を見る。
「何じゃ?」
「え? あ、いや、なんでセリカさんがここに?」
 ミユリが内心大慌てで声を上げる。
 エルフの邪竜導士・セリカ(a90232)が何故こんな場所にいるのかは置いて、今彼女に集めている籠の中身を見られる訳にはいけないという思考がミユリを硬直させていた。
「いや、あの……」
「ん? そちらが子犬かや?」
「はい。この子を助けたかったんです」
 セリカの問いにロイナが微笑みで返した。彼女達の足下を走り回り、お礼を言いたいのか三人に短く吼えると、子犬は麓の村がある方角を目掛けて走り出した。
「ふむ……妾もそろそろ降りるとしよう」
「あ、セリカさん。助かったよ」
「ん? いや、袖すり合うも多生の縁と申すではないか。気にするでない」
「そう言う訳にも……そうだ。これをお礼に受け取って貰えませんか?」
 そう言って、ロイナが差し出すのは山に入って二人で集めた秋の味覚が一杯になった籠だった。
「いや、しかしじゃな……これはそなた達が苦労して集めた物であろ? いくらお礼とは言っても……」
 断ろうとするセリカにミユリが大丈夫と請け合った。
「実はプレゼントとして用意してたもの……」
「わ、わ、わ!」
「ん?」
 もがもがと、口の中で何かを言うミユリの口をロイナが手で押さえて乾いた笑みで何でもありませんわと、ミユリに念を押しながら振り向くと、セリカに見えない様に、聞こえない様に注意しながら……。
「ほら、今回のパーティの事は秘密秘密!」
「……ふが」
 小声でミユリに言うと、ミユリもああと相づちを打って返してきた。
「どうしたのじゃ?」
 不思議そうに覗き込んでくるセリカに、二人は距離を取って後ずさる。
「あ、ボク実は急いで行かなきゃいけないんだった。うん」
「そうですよミユリさん……それでは、失礼します!」
「ちょ、ちょっと……」
 待てと言う隙も与えずに、ロイナ達はセリカの前から走り去っていく。
 後に残されたのは、二人を止める為に伸ばされた手を呆然としながら降ろすセリカと、背負い籠と、籠一杯の味覚だった。
「……邪険にする謂われもないしのぉ……」
 溜息を吐きながら、自分と同じかどうか思える重さの荷を背負おうと四苦八苦するセリカであった。

●誕生日
「誕生日を迎える事、祝える事。どちらも素晴らしい事ですね」
「そうかや? ……ああ、いやリメ殿の言われることは正しいのじゃが……」
 ミナモのおだやかおばあちゃん・リメ(a37894)に深々と頭を下げられて、慌てるセリカ。
「セリカ様、お誕生日おめでとうございます。今年一年が、幸せに満ちた年でありますよう」
「ありがとう。同郷の者と異国の地で会えることは嬉しいものじゃが、今日はリメ殿の壮健な姿をこうして見られて、何よりじゃ」
「まぁ。さ、ヤチヨさん」
「?」
 にこやかに、笑みを絶やさずに自身の背に隠れていた人物を前に進めさせるリメ。
 先程からリメの背中で長い耳だけが見え隠れしていたのだ。それが気になっていたセリカの前で、年格好もよく似たエルフの少女が挨拶をする。
「セリカ様、お誕生日おめでとうございます。お会いできて光栄です」
「初めまして、じゃな。嬉しいぞ。そんな、畏まることもなかろう? 妾はこの口調故に気分を害した時は言ってくれると嬉しいのじゃがな?」
「いえ、そんな……」
 恋路十六夜・ヤチヨ(a41187)の物腰が、同年代同士の会話でないことを自分の口調が原因ではないかと察したセリカであったが……。
「私、セリカ様のこと、本当に尊敬申し上げております。……ですから……」
「う……そ、そうかや?」
 勢い込んで顔を寄せるヤチヨの表情は、本当にセリカに会えたことに興奮しているのか頬を上気させて瞳を輝かせている。
 だが、彼女の勢いに負けそうなセリカは視線を泳がせて、照れた瞳はリメに助けを求めるように辿り着いたのだが……。
「この子はセリカ様のことを、ずっと尊敬しておりますわ。ですから、セリカ様も深くお考えにならずに。ね?」
「しかしじゃ……」
 リメに宥められても、まだ何か言いたげなセリカに助け船を出す様に真情なる放蕩・ヴェスパ(a46178)が花束を両手に掲げ持って進み出た。
「誕生日おめでとうございます。今日この日を迎えられた幸いに感謝致しましょう」
「ヴェスパ殿か。その後ご健勝かな?」
 セイレーンの青年の姿を見てホッとした表情になるセリカ。
「ささやかではありますが、祝いの品に……」
「綺麗じゃな……有り難く頂戴するぞ……」
 両手で受け取った花に顔を寄せ、しばらく薫りと咲き誇る花を見ていた笑顔のセリカが、乾いた笑みを浮かべる。
「……じゃが、妾には似合わぬであろ」
 自嘲気味の笑みに、ヴェスパはいいえと首を横に振る。
「セリカ君の御気に召すと嬉しいです。ただそれだけしか私には思い浮かびませんでしたが?」
 有無を言わせない笑顔で、セリカを見返すヴェスパ。セイレーンの能力……という訳ではないのであろうが、女性を扱うのは得意分野としか思えない余裕の表情だ。
「さ、ヤチヨ」
「はい」
 セリカの機微を読み取って、リメがヤチヨと共に進み出る。
「セリカ様、お誕生日おめでとうございます。ヤチヨと一緒に、二人で手作りしました。わたくしからは、巾着を贈らせて頂きます」
「私は、簪を作ってみました。気に入っていただけると良いのですが……」
 差し出された品を壊れ物を扱う様に手を添えながら受け取ると、セリカは愛おしそうに胸に抱きしめてリメ、ヤチヨに顔を向ける。
「着物の余った布で作ったもので、紫色です。お気に召されると良いのですが……」
「私も、着物地で作った花飾を付けてみました」
 金木犀の枝を添えて、ヤチヨの出した簪をセリカは長い髪にそっと挿して笑う。
「似合うかや? 似合うと良いのじゃが……」
 恥じらう様にして祝福に訪れてくれていた人物に顔を巡らせると、
「勿論ですよ。お二人とも趣向を凝らしていらっしゃる。……伝え聞いた楓華列島での祝いの席とはかなり趣の異なる物でしょうが、セリカ君の誕生日を祝福しようとする人々の気持ちはここでも変わり無い筈」
「うむ……」
 ヴェスパの言に、頷いたセリカが視線を動かした先には、楽しそうに踊ってる・シロップ(a52015)が彼女と視線を合わせたことに気が付いて嬉しそうに笑っている。
「セリカお姉ちゃんに美味しい焼き栗を食べてもらうために、みんなに手伝ってもらって作るんだよ」
「栗……おぉ、先程のかや? あ、ちょっと待つのじゃ!」
「焚き火の中にいっぱいクリを入れるね」
 せぇのと、かけ声でザルに一杯の栗をざらざらざら〜と景気よく入れていくシロップに、慌ててセリカが駆け寄っていく。
「セリカお姉ちゃん、そこは危ないから、こっちこっち♪ みんなも立ってると危ないんだよぉ」
「いや、確かに爆ぜると危険……」
 しっかりと距離を取って衝立まで準備しているシロップだが、周囲のリメやロイナ達は一考に気にしていない様子で、ミユリやヤチヨは手際よく下ごしらえをしているヴェスパ達の手元を見て『おぉ』と感嘆の溜息を漏らしているばかりだ。
「それでは私も、準備してきましょうか」
 そそくさと、席を立つリメがセリカの耳元で何事か囁くと、安堵の溜息を吐いたセリカがヴェスパやヤチヨを見てほんの少し恨めしい表情になる。
「先に爆ぜない様にしてあるのであれば……言ってくれればいいのじゃ……」
 ぶつぶつと、まだ何事か呟いているセリカに首を傾げてこっちこっちと手招きしてみせるシロップが掲げ持つ衝立の陰にセリカもしゃがみ込む。
「爆ぜるとこわいから、ちゃんと衝立を立てて、こっち側に座るんだよ。ごめんね? でも、びっくりしたけど、焼き栗とっても美味しいよね、セリカお姉ちゃん」
「うむ、そうじゃな」
 完成が待ち遠しいねと、シロップ共々焚き火の様子を伺いながら、時折薪の爆ぜる音に驚きつつも、栗とは違ったと笑いあうエルフとエンジェルを見ながらヴェスパはリメ共々準備の手を休めずに話し合う。
「異国の地での初めての誕生日、楽しんで頂きたいものですね」
「そうですね。下ごしらえは家で済ませていますけれど、足りない位になればいいですね」
「ええ……ヤチヨ君……と言いましたか? ヤチヨ君も一緒に栗の焼け具合を見てきてくれませんか?」
「……妾が、かえ?」
 一瞬、自分のことを言われているのとは判らなかったヤチヨがヴェスパを見上げて目を丸くする。
「蒸し栗に、栗ごはんも後は出来上がりを待つだけですしね。お芋や人参の煮物にホウレン草のゴマ和えも準備出来ましたから。お茶はもう準備出来たのでしょう?」
 リメが尋ねると、ヤチヨは側の七輪に乗せたヤカンに目をやった。
「はい」
 丁度ヤカンはお湯が沸き始めていて、お茶を淹れる準備も万端だった。
「それでは、お願い出来ますか? そろそろこちらの準備も終わりますから、伝言をセリカ君達に」
「……判ったのじゃ」
 ヤチヨが同年代のセリカやシロップが焚き火をじっと見守りながら談笑している様に目を奪われているのが判ったのか、ヴェスパとリメが気を回したのだ。
 二人に小さく頭を下げると、ヤシロがシロップ達の背に向けて走っていくのをロイナやミユリもリメ達に混じって微笑ましげに見送っている。
「良いよね、こういう時間ってさ……」
「そうですね……のんびりと、時間を取ってお料理して、皆でそれを食べて……」
 ミユリが摘み食いをしそうに料理に目を走らせるのを、ロイナが軽く窘める様にして目で制している。
「贅沢……なのかも知れませんね。ゆっくりと流れる時間を、何時も出来ないことに使えると言うことは……」
 ヴェスパはケトルの一つからカップの上に準備したこし器の中へとお湯を注いでいく。
 途端に、周囲に紅くて丸い茶葉の薫りが満ちていく。
「……あ」
 焚き火の中で焼き上がった栗を籠の中に竹の火箸で入れながら、ヤシロは嗅ぎ慣れた茶葉の薫りに小鼻をひくつかせる。
「セリカ様、そろそろ準備が出来ましたから」
「シロップ。そろそろ行くのじゃ。皆お腹をすかせて待っておるぞ」
「ウン。セリカお姉ちゃん」
 一番遅れているのは自分達の筈だが、焼き上がった栗を一杯に入れた籠を持ってシロップは得意げだった。
「あ、そうだ。もみじの葉っぱをつなげて作った栞だよ、セリカお姉ちゃん。良ければ使って欲しいんだよ」
 籠をセリカ、ヤチヨと共に持っていたシロップが突然歩を止めて衣装の中から大切に取りだしたのは、確かに紅葉の色も鮮やかな栞だった。
「ん。大切に使わせて貰うことにするのじゃ……」
 シロップが差し出した栞を、袂に忍ばせていた本の間に滑り込ませるセリカ。
「秋の音がするのじゃ」
 カサコソと、落ち葉の擦れる乾いた、それでいて暖かい音色に笑顔が柔らかくなる。
「秋の匂いもするよね!」
 シロップの楽しそうな声がする。
「暖かいですね……」
「そうじゃな……」
 ヤチヨがシロップの明るい笑顔と皆の優しい笑顔を見て漏らすのを聞いて、目を閉じて頷いたセリカがヤチヨに微笑んだ。
「この良き日……妾はきっと忘れない……忘れぬのじゃ……」
 暖かい、柔らかな日差しのもとに笑顔が溢れる、そんな秋の日だった。


マスター:IGO 紹介ページ
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作成日:2008/10/19
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