アネット舞踏団指導員募集中



<オープニング>


「良く来て下さいました」
 フォーナ女神は神殿を訪れた冒険者たちを優しく出迎えた。
 冒険者たちがフォーナ女神の元を訪れたのは、女神から頼みごとがあるという話を聞いたからである。
「フォーナ様、今日はどのようなご依頼でしょうか」
 神殿を訪れた冒険者たちの一人、一輪の花・オリヒメ(a90193)が頼みごとの内容を尋ねると、女神はやや沈んだ口調で冒険者たちに語った。
「自然の実りを絶たれたために悪の道に入ってしまった人たちが見つかりました。皆様、どうかその人たちを助けてあげて下さい」

 とある鉱山の町の広場で舞い踊るうら若き女性たち。だが、どうも客足はいま一つ。
 原因はいくつかある。
 まず踊り。上手いのだがいわゆる盆踊りで客層も何も絞れていないこと。
 また彼女たちの服装がいわゆる見世物向けのものではないこと。
 他にも探せば原因は見つかるかもしれない。
 何はともあれ、彼女たちは売れてなかった。

 アネット舞踏団。彼女たちは本来薬草栽培を生業とする山岳民の女性たち。
 畑が去年から花を咲かさなくなったため、村伝来の踊りを踊る舞踏団を結成して町を巡っているのだが実入りはさっぱり。
 そのため彼女たちは仕方なしに、踊りながら裕福な人を調べ、皆が寝静まる頃に蔵に忍び込んで盗みを働いているのだという。
 女性たちの犯罪を止めることは簡単だろう。
 だがまず必要なのは一族を養うに足る実入りなのである。

「改心した人々と共に、この種を荒れ果てた大地に埋めて祈って下さい。荒れ果てた大地にすぐに緑が芽吹くことでしょう」
 フォーナは手のひら程の大きさの光の種を冒険者たちに渡す。
 だが、オリヒメはひとつ、気にかかることがあった。
(「緑が芽吹く……ということはすぐに収穫ができる状態ではないということですよね。
 収穫できるようになるまで、山岳民の女性たちが自力で凌げるように、また今後何かあっても大丈夫なように立派な舞踏団になってもらう必要があるのではないでしょうか」)
 フォーナ神殿から出たのち、オリヒメはともに冒険へと向かう仲間にそのことを話そうと考えるのだった。


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参加者
想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)
半分幻の辻斬り・ジョセフ(a28557)
駆け廻るような雲水の奏者・デュアル(a64123)
綾なす火炎の小獅子・スゥベル(a64211)
仮面の女勇者・デアボリカ(a68150)
花信風・ルネシア(a71879)
信念を貫きし剣・アーク(a74173)
花唄テンポ・レッティ(a76328)
NPC:一輪の花・オリヒメ(a90193)



<リプレイ>

●アネット盗賊団
「はい、そこまでです」
 綾なす火炎の小獅子・スゥベル(a64211)は、舞踏団の踊り子3人が金持ちの家へと侵入する直前に静止の声をかけた。
 驚き振り向く踊り子たち。急ぎ逃げ場を探すが、他の道も既に仲間の冒険者が立ちはだかり、逃げ場を塞いでいた。それでも突破を試みるべく3人一丸となって、信念を貫きし剣・アーク(a74173)が塞ぐ通路に駆け込むが、力量の差は歴然としており容易く2人を捕まえ、手が足りないもう一人もすぐに他の仲間がとらえた。
「……あなたたち、冒険者ね」
 捕えられ落胆し、観念した口調で踊り子の一人が確認する。
 質問の形をとっているが確信しているようだ。全力で逃走する相手を瞬く間に無傷で捕える、一般人では訓練しても及ばない程の体捌きを見せられたのだから。
 確認について冒険者たちは答えない。踊り子たちも2度聞くことはしなかった。
「こんな事やって良いなんてホントは思ってないんでしょ? あなた達が盗みをしてるなんて知ったら子供達だって悲しむわぁ」
 仮面の女勇者・デアボリカ(a68150)が胸を持ち上げるように腕を組み、座り込む3人に憐みと悲しみが混ざった口調で訴える。
「転がり落ちたら……戻って来れませんよ。子供達のコトを考えてあげてください」
 スゥベルもまた、堕ちた人がそこから抜け出すことの大変さを説く。彼女自身、その手の誘惑と隣り合わせだった生活経験がある。
 裏方のメンバーが侵入の下調べを行っていたのは、半分幻の辻斬り・ジョセフ(a28557)や花唄テンポ・レッティ(a76328)の日中の調べで掴んでいるが、おひねりを集める子供たちまで何らかの形で加担しているかまではわかっていない。だがこのまま進めばやがては子供たちも盗賊になってしまうだろう。
「でも今の私たちが暮らしていくには、これしかないの」
 踊り子は正論をいう冒険者たちに現実を語る。交易の薬草が枯れ、村の祭礼の踊りを見せても振り向かれず、生活に追われる様を。
 荒む踊り子たちの言葉を、デアボリカは次の言葉で優しく遮った。
「あたし達が舞踏団を売れるようにしたげるから、もう一度真面目にがんばってみなぁい?」

●舞踏団更生計画
「あなた方が私たちの一団を?」
 3人の踊り子と共に舞踏団員が寝泊まりする天幕を訪れた冒険者たちは、団長のアネットに会い、踊り子たちに提案したことと同じことを申し出る。
 アネットは貴金属や焼き物の価値を見定める鋭い眼で一同をしばらく見つめた後、一言、好きにおしと言った。
 アネットから許可を得た一同は一度舞台を見た後に一室に集まり、舞踏団をどのように更生させるかを話し合う。
「舞台はどうでした?」
 一輪の花・オリヒメ(a90193)が仲間に舞台の感想を求めた。
「うーん、確かに上手いですが……服装含めて季節限定民族舞踊の発表会みたいといいますか」
 スゥベルが率直に例えを示す。
「舞曲の数が少ないと思いますの。同じ曲をずっと続けていたらすぐに飽きられてしまいますわ」
 花信風・ルネシア(a71879)が公演された舞台曲を指折り数える。カウントは片手で済んだ。
「いろいろあるのだけど、自分たちが村で楽しんだものをそのまま見せていることが問題ね」
 生活感などの感覚を共有していない別の町の住民に、何も考えずに芸を見せても共感は得られない。想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)は舞踏団が抱える問題はそこから始まっていると主張した。そしてその考えは大なり小なり差はあれど、他の仲間たちもそこはかとなく感じていたことであった。
 その考えを元に舞踏団に対する改善点や有効性を話し合い、話し合いは活動の分担に入った。
「わたしはまだ決めていないのですが、皆さんどのように活動するかもう決めているようですね」
「なら……そうね、お客さんとの接し方を見てもらえるかしら」
 思案気に首をかしげるオリヒメにデアボリカが提案する。
「わかりました。デュアルさんもお悩みのようですし、一緒に見てもらえませんか?」
「ああわかった。俺に万事任しといてや」
 駆け廻るような雲水の奏者・デュアル(a64123)はにっかりと笑って引き受けた。

 鉱山の町。山から鉄鉱石を採掘し純度の高い鉄を作り出すことで商人から糧を得る町。
 体力を要する仕事のためか住民の7割を男性が占め、それ故に独身男性の数も多い。
「……と、この町の特徴は簡単にはこんな感じですわね。これだけの情報でも住民の嗜好はおぼろげに見えてくるものですの」
「身も蓋もなく言うと、男性が好む女性らしさを前面に出せば客の心は掴めやすいということねん」
 レッティは町についての調査結果を舞踏団員に話した。傍で聞いていたデアボリカが、まるで紐にしか見えない装束を広げてみせる。
「子供もいますし、紐の服はちょっと極端すぎませんか?」
 スゥベルのつっこみに、そりゃそうよねぇとあっさり装束を仕舞う。
「リカ、何もそこまで女の魔性を磨くこともあるまい。それに俺が指導する踊りに対して必要なアレンジが多すぎる」
 白の舞装束に扇を携えたアークが、そう言いながら自身の舞を披露する。春夏秋冬を表現した静かな舞だ。
「実際好まれるのは動きが激しい舞だろうが、バリエーションを増やすためにも両方修得してもらおう」
「あとお化粧ですわ。化粧は踊り子さんが自分で行うことが多いので、踊りの練習の後で説明しますの」
「わたしもこれからアネットさんと一緒に装身具を見て回るわ」
「あたしも裏方さんと一緒に服を縫ってくるわん」
 レッティとスゥベル、デアボリカも担当することを詰める為に天幕を出た。

「曲目のことなのですが……」
 ルネシアはラジスラヴァ、ジョセフと共に演奏を担うおじさんに話しかけた。
 今現在の曲は村に伝わる祭りの曲。それのみで今後厳しいため、曲を増やす必要がある。ルネシアはそのための手伝いを申し出た。
「横笛であれば、自分も心得がある……。何か力になれるだろう……」
 ジョセフが袖から笛を取り出し、音を紡ぐ。
「打楽器も増やして演奏のバリエーションを広げるべきね。
 欲を言えば太鼓なのだけど楽器の入手も考えるとタンブリンが妥当かも。裏方から演奏に回ってもらえそうな人はいないのかしら」
 ラジスラヴァがジョセフの笛に合わせて手のひらを叩き、曲に色を付ける。
「そうだなぁ……好きそうな奴が一人いるから相談してみるよ。元々請け負っている作業の分担もあるしな」
「奏者のほうはお願いしますわ。楽器も決まったことですし、まず今の舞台曲の編曲を考えてみましょうか」
 ルネシアの手にペンが握られ、羊皮紙に五線譜が刻まれていく。

 数日の厳しい練習を終え、舞踏団は夕日に染まる町の広場へと再び舞い降りた。
 初めてここで踊りを披露したときとは異なる、幾多の布を織りこんだ衣装。裾を高めにしたスカートの下から覗く足には磨いた金属のアンクレットがはめられており、輪から出る金属片が歩くたびに地面や他の金属片を叩き音を出している。
 冒険者たちは広場の脇で舞台を見守っていた。
「踊りのほうはどうだ」
 ジョセフの問いかけに、アークは自信ありげにうなずく。
「問題ない。軽業のように体を動かせる3人だけあって、俺やラジスラヴァの踊りをどんどん覚えていったよ」
 ピッコロの笛の音がタンブリンの軽快なリズムに合わせて通りすがる人々の耳を打ち、何事かと振り返る人の目を踊り子たちのステップが惹きつける。
 肌色のファンデーション、赤い頬紅、優美な曲線を描いた口紅と眉墨。美しく彩られた彼女たちが顔を観客に向けると、男たちは彼女たちを間近で見ようと詰め寄った。
 曲目も初舞台のものとはがらりと印象が変わり、主旋律をそのままにテンポを変えたもの、冒険者たちが伝授した見知らぬ土地の音楽と種類も豊富になり、またそれに見合う踊りで観客を飽きさせない。
 おお、と観客がどよめく。
 演目は大地の娘の帰還。冥府の神に囚われた豊穣の女神の娘が解放され地上に春が訪れるというある地方の伝承を舞曲にしたもの。
 踊り子が腕を大きく振り上げると、袖から白、赤、紫とカラフルに彩られた細かな紙辺が、春の突風に巻き上げられた花びらのように空を舞う。紙吹雪の中で舞う踊り子たちは、まるで舞踏を司る女神の如き美しさだった。
 曲が終り、スカートの裾を摘み足を交差させて頭を垂れる踊り子。
 子供たちと一緒にお代を集めて回る彼女たちの帽子の中は、すぐに輝くもので一杯となった。
「ありがとうございます!」
 踊り子、子どもたち、奏者、裏方。みな一斉に観客にお礼を言って回った。

●豊穣の祈り
 舞踏団は練習と公演を繰り返しながら街道を戻り、冒険者たちと故郷の村に戻った。村をなんとか一季支えられるだけの見込みがついたためである。
 デュアルが薬草園に拳大の穴を掘り、フォーナ女神から賜った光の種を置いて土をかぶせる。
(「沢山薬草が採れますように、どうか皆様が幸せになれますように」)
 瞳を閉じてレッティが祈る。ほかの冒険者も、舞踏団の皆も、豊穣を願って祈る。
 しばらくの間祈りを捧げて目を開けた時、レッティの足元に小指程の高さの小さなクローバーが数本生えていた。祈りを捧げる前にはなかったものだ。
「これからどうするのだ?」
 アークが踊り子に問いかける。
「実りが得られるまでまだまだ時間がかかるから、当分は踊り子生活ね。でも収穫ができるようになっても、できるなら踊り子として続けていきたいわ。折角皆さんにたくさんの踊りと曲と喜びをもらったんですもの」
 踊りのの一人が、幸せそうに笑みを浮かべて答える。
 冒険者たちは悪の道から人生を取り戻した証として、その笑顔に至上の価値を見出したのだった。


マスター:falcon 紹介ページ
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作成日:2008/10/11
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