禁じられた森



<オープニング>


 晩御飯の時間だというのに、子どもたちが帰ってこない。
 親たちは心配になって、村の周りを探したけれど、子どもたちの姿は見えなかった。
 村の北には森が広がっており、その奥には更に深い森が広がっている。
 もしかしたら、その森の奥へと入っていったのだろうかと、心配は募った――。

「モンスターの巣食う森に、子どもたちが迷い込んでしまったみたいなの」
 花車の霊査士・ヴァルナ(a90183)は集まった冒険者たちに、手元の羊皮紙を見ながら話し始めた。
「ある村の北に広がる森は、その更に北に深い深い森が広がっているの。その深さ故に何が住んでいるか分からないから、大人たちは子どもたちに森へと入っていかないよう、厳しく言いつけてきたの。でも……子どもの好奇心には勝てないのかな? 子どもたちは足を踏み入れてしまったのよ」
 地図を広げ、ヴァルナは森の位置を示す。
「森に入った子どもたちは、巨漢のモンスターに追われ、今は岩陰に隠れてる……モンスターは子どもたちを捜して、森を徘徊してるみたいね。見つかってしまわないうちに退治してきてくれる……?」
 ヴァルナは冒険者たちにお願いね、と告げて一礼した。


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参加者
壊れた弱者・リューディム(a00279)
天黎月蒼・ラピスラズリ(a23356)
言いくるめのペ天使・ヨウリ(a45541)
幻葬舞踏・エミリオ(a48690)
闇夜に咲き狂う華・リリフィス(a57620)
剣の神に愛されし乙女・ヒカル(a62915)
月夜に咲く灯り花・ロイナ(a71554)
月明星稀・ヨミ(a73769)


<リプレイ>

●子どもたちを捜して
 森に入る前、一行は村へと立ち寄った。
 幻葬舞踏・エミリオ(a48690)は、探し回る大人たちに帰らない子どもの人数と名前を訊ねる。居なくなったのは3人――男の子2人に女の子1人だという――で、それぞれジョルジュ、ロベール、ロズリーヌという名前だと教えてもらった。
 子どもたちの名前を確認すると、予め決めてきた3つの班に分かれる前に、不思議の卵・ロイナ(a71554)が白くてふわふわした羽毛の塊――護りの天使達を呼び出して、仲間たち皆についておくようにする。それから、班ごとに別れて森の中へと入っていった。
「え、えーと。落ちないようにしっかり掴まってくださいね」
 召喚獣、グランスティードに2人で乗りながら、剣の神に愛されし乙女・ヒカル(a62915)は頬を真っ赤に染め、後方のエミリオへと声をかけた。
「ああ。じゃあ、よろしくな」
 エミリオが頷く。彼がしっかりと掴まったことを確認すれば、ヒカルは召喚獣を出発させた。彼女らは森の中の広範囲を探す手はずとなっている。
「……♪」
 子どもたちの保護は共に行動する2人に任せるとして、自分は自分の仕事をしようと壊れた弱者・リューディム(a00279)は嬉しそうに笑みながら、森の中、子どもたちとモンスターを探す。
「ジョルジュくん、ロベールくん、ロズリーヌちゃん、迎えに来ましたよ〜!」
 大きな声で、子どもたちの名を呼びながら月明星稀・ヨミ(a73769)は歩く。言いくるめのペ天使・ヨウリ(a45541)も大きめの岩が転がっていたりすれば、子どもたちが居ないか、確認して回った。
 一方、残る3人もわざと大きな音を立てたり、子どもたちの名を呼びながら探して回っていた。
 ガサリと茂みを掻き分けた先で、天黎月蒼・ラピスラズリ(a23356)は大柄な人影を視認した。相手はまだこちらに気づいていないのか、彼の方とは違う方向をやけに気にしている。
「あそこ……モンスターらしき影の先に、大きな岩があります」
 闇夜に咲き狂う華・リリフィス(a57620)が岩の存在に気づいて、小声で2人に声をかけながら指差す。もしかしたら岩の陰に子どもたちが居るのかもしれない。
 定かではないけれど、モンスターがこちらの存在に気づいていない以上、まずはこちらに注意を向けることとする。茂みから飛び出す前に、ロイナはいつの間にか消えていた護りの天使達を再び呼び出した。
 更にロイナとリリフィスは邪竜の破壊力を完全に制御し、その力の象徴でもある黒き炎を身に纏う。
 モンスターの注意を引くためにラピスラズリが茂みを飛び出したところで、ロイナは合図用に携帯していた笛を短く何度か吹いた。
 これで聞きつけた仲間たちが合流してきて早く合流してくれることを願いつつ、3人はモンスターの前に出て、注意を自分たちへと向けることとした。

●大鎌振るう巨漢
「子どもたちのところに行かせはしませんっ!」
 茂みから飛び出したラピスラズリは、黒曜石で出来た長剣を引き抜くなり、そこから神の裁きを思わせる強烈な電撃を放った。背を向けていた巨漢のモンスターは、不意を打たれて、回避することが出来ず、電撃を全身で受けた。電撃はモンスターの身体を駆け巡り、大きな痛みを与える。
「やあっ!」
 リリフィスは声と共に、宙へと蹴りを繰り出した。纏った黒き炎が蛇の形を作り、蹴り出した足の先からモンスターへ向かっていく。炎の蛇はモンスターへと喰らいつき、痛みを与えた。
「オオオォォォォォォォッ!」
 傷ついたモンスターは大きな声を上げながら、茂みから出てきた一行の方を睨みつけながら、振り返った。手にした大鎌を薙ぐように振るい、ラピスラズリへと攻撃を仕掛けてくる。その一撃はとても重く、大盾でも防ぎきれずに傷みを負った。
「捕らえます!」
 ロイナの周りに木の葉が生じる。木の葉はモンスターへ向けて飛んでいくと、痛みを与えると共に、その身体を縛り上げた。
 蹄の音が聞こえたかと思うと、近くの茂みから召喚獣に乗ったヒカルとエミリオが出てくる。
「これでも喰らえ!」
 エミリオは鋭い槍のような紋章の塊を撃ち出した。モンスターに当たった塊は深く突き刺さって痛みを与えると共に、身体に禍々しい呪痕を刻み付ける。
 続くようにモンスターに接近したラピスラズリが猛烈な勢いで長剣を振り下ろし、巨漢が纏う鎧を打ち砕くほどの力強い攻撃を仕掛けた。その一撃が入ると、先ほど受けた呪痕からも痛みが広がり、モンスターはうめき声を上げる。
「こら、子供達を怖がらせて、許さないにゃ」
 ヒカルは召喚獣に騎乗したまま捨て身で、突撃を仕掛けた。モンスターは回避するタイミングを失い、腕をクロスさせることで痛みを受けたものの完全に防ぐのは難しく、大きな痛みを受けた。制御の難しい突撃は、ヒカルにも怪我を癒せないという反動を負わせた。
 更に足音がいくつか重なり残る仲間たちも合流してくる。
「行くわよ!」
 リューディムは攻撃範囲内にモンスターを捕らえるなり、自身の両腕に収束した気を放った。続いてリリフィスも自身の熱い魂を拳に込めて、思いっきりモンスターを殴る。連射に適した短い矢をエミリオは手にした緋染めの強弓から次々と放っていった。
 それぞれの攻撃に加え、呪痕による痛みを受けて、モンスターは体力を削られていく。それでも大鎌を振り上げると、接近してきた冒険者たち皆に向かって、横薙ぎの一撃を放った。
 ロイナが仲間を励ます力強い歌を歌う。歌を聴いた仲間たちの傷が徐々に癒えていくけれど、回復を受けられないという反動を受けているヒカルだけは、その異常からも回復できず、傷を癒すことが出来なかった。
「こちらですよ!」
 そう叫ぶヨミの頭部から激しい光が放たれる。光を見たモンスターの四肢は麻痺した。
 ラピスラズリの構える長剣の先から、神の裁きを思わせる雷撃が放たれた。雷撃はモンスターの身体を巡り、痛みを与える。更に呪痕からも痛みが与えられ、モンスターはその痛みに声を上げた。
 冒険者たち一行は、モンスターへと容赦なく攻撃を仕掛けていく。時折、手数を補うためのリングスラッシャーも呼び出された。けれど、モンスターも麻痺や呪痕を振り切って反撃を試みる。その反撃でリングスラッシャーは早々に落ちてしまった。状態異常を振り切られれば、エミリオが呪痕を植え付け、モンスターが受ける痛みを増やしていく。
 ヒカルは己の力を最大限に高めた一撃をモンスターへと喰らわせた。ヨウリは後方に立ち、己の身体から淡い光の波を溢れさせて、皆を包み込み、傷を癒していく。
 やや後方に下がったリリフィスは、纏った黒き炎から炎の蛇を撃ち出す。蛇はモンスターへと喰らいついた。
 エミリオは通常の矢を放った。矢は彼の身体が纏っている召喚獣の魔炎と魔氷と共に飛来し、モンスターへ突き刺さる。モンスターの身体は魔炎と魔氷に包まれた。
 矢の刺さった痛みだけでなく、魔炎と魔氷による痛みを喰らったモンスターであったけれど、それを振り切れば、ヒカルに向かって、大鎌を振るった。
「きゃあっ!」
 回復を受けることの出来なかったヒカルは、その一撃と蓄積していた痛みでその場に膝を突く。
 モンスターの動きを止めようと、ロイナが作り出した木の葉を撃ち出した。木の葉はモンスターの身体に絡み付いて、その身を縛り上げる。ヨミは両の手にそれぞれ構えたサーベルと素早い身のこなしで、モンスターへと連続した攻撃を浴びせた。
「いや失礼、相談の纏め役なんて私には難しくて難しくて」
 極限まで凝縮させた闘気を手にした蛮刀に込める。そして、リューディムはその一撃をモンスターへ向かって、振り下ろした。口元だけに微笑を張りつけ、冷えた視線のまま打ち出したその攻撃は、モンスターに切っ先が触れるなり爆発を起こす。
「仕留める役の方が私向きだわ、やっぱり」
 爆発で巻き起こった風が止まり、ゆっくりとモンスターが地へと倒れると、リューディムは誇らしげに髪を掻き分け、呟いた。

●おうちへ帰ろう
「……倒れた、の?」
「倒れたみたいだよ。あの、お兄ちゃんたちのおかげで……」
 モンスターが向かっていた先、大きな岩の陰から小さな声がする。
「ああ、やっぱり隠れていたんですね」
 初めにモンスターと岩とを見つけたラピスラズリが岩陰を確認すれば、身を寄せ合った子どもたちの姿があった。
「わわっ!」
 急に現れた彼の姿に子どもたちは驚きの声を上げるけれど、それと同時に安心したのか泣き出した。
「ほら……皆さんが迎えに来たんですよ。泣かないで、帰りましょう?」
 ロイナは一番小さな女の子――ロズリーヌの頭を撫でながら、子どもたちに優しく語りかけた。
「うん……帰る、おうちに……っ!」
 子どもたちは泣きながらもロイナやラピスラズリに促されて、岩の陰から出てきた。彼らが落ち着いてから、元来た道を帰り始める。
「よいか、おぬし達が言いつけを守らず森に入ったことで、どれだけの人が心配したと思う? 自分勝手な行動がどれだけの人に影響を与えるか分らねばならぬぞ……」
 ヨウリは道すがら、延々懇々と諭すように説教の言葉を並べた。
「ヨウリさん、それくらいで……また子どもたちが泣き出しそうです」
 ヨミの言葉にヨウリは説教を終わらせた。
「元気なのは結構なことですが、親御さんに心配をかけたらダメですよ」
「そうだぜ。危ないところに行かないように、また今回みたいに危険な目に合うかもしれないことを忘れるな。いいか、おにーさんとの約束だぜ?」
 ヨミとエミリオの言葉に子どもたちは頷く。
「あとは親の仕事でしょう。ほら、しっかり怒られてくださいね」
 大人たちが心配そうに見守るのが見えると、ラピスラズリはそう言って、子どもたちの背中を軽く押し、家へと戻るのを促した。
「ほら、お父さんとお母さんが待ってるよ」
 少し躊躇いを見せた子どもたちであったが、ヒカルの言葉に、親たちの元へ駆け出す。
「私も早くお父さんに会いたいな」
 子どもたちの背中を見送れば、ヒカルはぽつりと呟くのであった。

 終。


マスター:暁ゆか 紹介ページ
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