<リプレイ>
●もあー! 聞きしに勝るその叫び声! 朗々響く「もあー!」につづけ、ずんと輪っかが落ちてくる。 轟金紳士・アロイ(a68853)は盾で弾いた。勢いは強く、全身甲冑の身とて傾いでしまう。 「今回もまたいよいよ面妖、巨大な敵! まさにイメージは動く要塞と言ったところか」 されど敵、巨きければ燃えあがるのが冒険者、アロイは闘志とともに土台へ突撃する。全身鋼色の召喚獣が、白銀の光反射させ従った。 輪投げ台の登場である。重い身を引きずり土埃立て、地響きとともにやってきた。天つく高さの九本柱のうち、ひゅんひゅんうねる四本は腕、この怪物が「もあー!」なんて叫び攻めてくるのだからたまらない! 魔星猟医・ティルフィア(a69190)は目を丸くした。 「一体どういった経緯でここまで巨大になるのか気になります……」 それほどに巨大なのである。これまで登場したすべての我楽多モンスターの合計より重厚かもしれない。 水琴の波紋・アルーン(a66163)は、対我楽多戦初参戦、いざ決戦のその前に、セイレーンの重騎士・ユウキ(a90384)に会釈した。 「よろしゅう頼むのぅ」 完爾と微笑むのもなぜかユウキは、寝入りばなを起こされたネコのごとく「びくっ」という擬音の似合う反応を見せ、 「は、はい……」 そそくさと答えるや、全身甲冑のヘルムを被り先行してしまった。 そんなやりとりを見つつアドミニは思う。 (「女性が苦手な所、あまり改善していないようですね……でも、アルーンさんって……」) そう、アルーンは睫毛長く容貌美麗にして華奢――とはいえ男性だったりする。アルーンは嚆矢がわりに影縫いの矢を放つも、期待した効果は見られなかった。 本チームにおける元祖女性風男性、こと、浮世に遊ぶ麗しの・ミギワ(a36350)も戦に臨む。 「祭りで遊ぶ輪投げなれば、輪をはめたら景品が貰えるのが定石。さてこの決戦、何をいただけるんでありんしょうねぇ?」 剣刀士・ガイゼ(a19379)が呼応する。 「景品は『勝利』というのは? 今回もとっとと獲って帰れたらいいんだが」 ミギワはころころと笑って、 「うまいことを仰る」 「なに、戯れに過ぎんさ」 だがひとたび太刀、すらり鞘より抜きはなてば、敵に戯れは無い二人だ。 「さてユウキ、ガイゼ、小さい数字から輪をはめていってくんなんし」 「任せろ。……よし」 ガイゼは輪を招くように敵を攻撃する。ユウキも負けじと鎧の防護力を高めた。 煌めきを追う者・ネーヴェ(a40386)は彼らよりさらに前に出て直接攻撃に出ている。 「相変わらず重騎士が多いな……まぁ私もその一人なんだが」 アロイにネーヴェ自身、それに後方を守る未成熟な盾・アドミニ(a27994)、さらにユウキもおり、確かにヘヴィーメタリックなラインナップではある。そこで彼女は本日、装甲を軽くし髪も括ってポニーテールとし、軽戦士風の格好に身を置いてみた。若干心許ないではあるが、その分ステップが取りやすい。 閃花一竟・サガ(a41503)は側面から攻撃している。ウェポン・オーバードライブの状態から、デュエルアタックで攻めると面白いように斬撃が入った。 「効いているのかいないのか……手応えはあるので、それを信じるしかなさそうですね」 サガの白い上着が風にはためく。少々風が出てきたのだ。火照った肌に心地よい。 そんな前衛メンバーを支えるのは蒼銀の癒手・ジョゼフィーナ(a35028)である。敵は強大、かくなれば回復役の重要性はいや増す。 (「杖のカスタマイズもしましたし、今回も頑張って参ることに致しましょうか」) 銀の杖握りしめ誓いを新たにするジョゼフィーナだ。ひやりとした杖の握りは、力込めるたびに意志の力を高めるように思えた。彼女は護りの天使達を召喚する。 ジョゼフィーナを守るべく、後衛に控えるはアドミニだ。敵が大きいだけあって、ここにも余裕で攻撃は届くだろう。彼女と自分に鎧聖降臨をかけて備える。本日、チームの護りの要となるのはアドミニと断言できた。 戦場のただ中を、風の旅人・ソニア(a60222)は栗鼠のように縫っていた。 「夜店の輪投げって土台まで輪の中に入らないとNGなんだよねー……ひょっとして何か足場があれば回避可能かも?」 とはいえその厳密なルール(?)が適用されるという保証はないし、失敗しては元も子もない。やはりその策はとらないでおく。 (「そのかわり……別の奇策があるもんね」) ソニアは含み笑いする。そのチャンス、訪れるときを待つとしよう! ●もあー! 輪投げ合戦 「見事当ててみるが良ござんす。もっともイリュージョン中クロークつき翔剣士をナメてもらっては困るでありんすが」 という挑発が効いたのか偶然か、輪の一つが怒濤の勢いでミギワの頭上を掠めた。輪は地面に落ちバウンドする。落ちた輪めがけてユウキが走った。 「えいっ!」 剣盾捨てて輪を持ち上げて、気合い込め投げるユウキだが、なんというノーコン、輪は敵を遥かに超え反対側に落ちたのだ。 「……ユキ、味方に誤射しなかっただけましか……」 ネーヴェは頭を掻いた。 つづくチャンスは間もなく訪れた。 「もあー!」 と投擲された輪が、アロイの身をしたたかに打ち、跳ねてサガの足元に落ちたのである。サガはこれを取ると2番に狙いを付けた。 「サガさんっ……」 期待の眼差しでユウキが見ている。 (「そんな目で見られると……外しにくいですね」) 軽いプレッシャーではあるが、明鏡止水の心境でサガは標的に集中した。 片手で外回り、遠心力をつけるように投ず。 輪は回転しながら飛び、見事2番に落ちた! 「さすがです!」 いまやユウキは、きらきらした憧憬の眼差しだ。いささか照れくさいサガであった。 「やるな」 ガイゼも称賛を送った。なるほど確かに、怪物は激しく痙攣してガタガタ揺れたのち、2番にあたる支柱をだらりと下げたのである。かの敵が初めて見せた動揺だった。 だが見せたダメージもそこまで、すぐさま輪投げ台は前進を開始し、食いとめるべく挑んだネーヴェを押し下げた。冒険者前衛陣の攻撃も意に介せず、またもや 「もあー!」 6番の腕から輪を飛ばす。狙うは……飛燕連撃で攻めていたソニア! とっさに避けようとするも間に合わず、輪にはめられてしまう。 「あいたたた! イタイ、痛いって!」 ソニアの喉はそこまでで塞がる。青白い電光に包まれ麻痺してしまったのだ。 「いけません……っ!」 ティルフィアが駆けつけ剥がそうとするが、そんなティルフィア自身にも雷光が伝播する。 アロイは激昂し、ハルバードを台座に突き入れる! 「騎士道にもとる敵! 勝負なら我ら重騎士隊とするがいい!」 ダメージこそ負ったがまだまだこれからのアロイだ。刃は台座を大きく削った。 アルーンは水晶の弓をとり引き絞る。 「その攻撃、止めてみせようぞ」 切れ長の瞳が宝石のような光を零す。アルーンの視線はぴたりと柱の一本に止まった。 「別に本体に当てなくても効果はあるのじゃろうが……5番を狙いたくなるのは人のサガかのぅ?」 「え?」 と問いかけるような声が、すぐそばのサガから聞こえた。 「あ、お主のことではないからの?」 軽く補足してアルーン、呼吸を止めて指を放した。 それは雷光の矢、ふつと5番を射貫く。 これと同時、ソニアの意識が飛びそうになる寸前、輪からの電撃はすっと消えたのである。 「5番にも意味があったようじゃのう。攻撃の中枢神経、ということかの」 女人以上に嫣然と、アルーンは唇の端に微笑みをのぞかせた。 「すぐに癒します。お気を確かに……!」 麻痺状態のソニアには、癒しの聖女をジョゼフィーナが喚ぶ。立ち直ったティルフィアもヒーリングウェーブを発動した。 「よし!」 次に輪を得たはネーヴェだ。体全体で止めるようにしたので、打ち身も激しいが闘志は落ちない。 「縛られる趣味はないが……」 ネーヴェは全身をばねのようにして、「もあー!」の柱目がけ投じた。ターゲットは4番! 「縛る趣味なら……いやいや」 輪は4番にストンと収まり、この腕を使用不可能としたのだ!
●もあー! 決着! だが怪物、怯むどころか前進の勢いを強めたのである。 「もあー!」 大滝の瀑布みたく爆音たて、しかも輪を放り投げてくる。 「痛ったーー!」 側頭部を打たれミギワは、つい「素」(=男!)の声色で叫んでしまう。だが根性! 意地で輪を手に掴んだのである。花魁の色気かなぐり捨てて、ミギワは裾がめくれるに構わず、ぐわらと片足を大きく上げ状態を傾けた。 「お、おい……」 隣のガイゼも思わず目を逸らしてしまう! 同性なのに……同性だけど……。 「お返しにお見舞いしてあげるよ!」 行けよと叫んでミギワはシュート! 輪は6番柱に噛みつくようにはまり、ぐるぐる回って土台を打った。これで使用不可の腕は三本になったというわけだ! 「あきらかに弱体化しましたね!」 ティルフィアが指摘したように、腕が残り一本になった輪投げ台は、無性に頼りなげに見えた。攻撃も一カ所からしかできぬゆえ予想しやすい。 「これが効いたらおめでとうですわね」 と放ったティルフィアのヴォイドスクラッチ、ごっ、という音を立てて土台にはまっていた枠を落としてしまった。 「効きましておめでとうございます、といったところでしょうか」 ジョゼフィーナの表情も明るい。味方の回復もあらかた済ませている。脆くなった土台にサガが、サンダークラッシュを炸裂させていた。 そして、 「観念のしどころだな!」 7番の柱をアロイが直接攻撃し、これを叩き折ってしまう。 怪物はもう、鳴き声も情けない雰囲気だ。 「も……あ−!」 「あの掛け声は何とかならぬのかえ? 聞くと背中が緩んで狙いが甘くなりそうじゃ」 アルーンは苦笑している。 よれよれと飛んできた輪はガイゼが拾った。 「8番は戦略上残すとして、9番でも行くとするか」 ようく狙って優しく投げて、ガイゼは宣言を達成した。 つぎの輪はジョゼフィーナを狙ったようだが、アドミニが易々と叩き落としている。 「送り物は返さなくてはな!」 と彼が投げた輪は3番に落ちる。輪投げの土台がどうと崩れ右に傾いた。9番3番とつづけざまにダメージを受け、向かって右側の移動能力が消滅したらしい。 もはや「も……」くらいしか叫べなくなっている怪物は、それでも輪をぺたっと落とした。 「よしっ!」 ソニアが回収する。中枢と思われる5番に決めたいところだが、身長のこともありやや不安だ。でも大丈夫、彼女には例の「奇策」がある……! (「イカサマ上等、それが強敵との戦い方だって団長が前に言ってたんだよ!」) きらめく笑顔でソニアは呼びかけた。 「ユウキくん、そこで待機しててー!」 「はい?」 と足を止めたユウキめがけ全力疾走! 「そしてゴメンねー!」 いうが早いかユウキの胸を蹴り肩をぐいと踏んでソニア――空に舞う! はるか足元に仲間を見おろし、8番の柱すら越えて5番に粘り蜘蛛糸を放ち接触すると、 「ダンク、シュートッ!!」 がっちりとそこに輪をかけたのである。 すると怪物は青白い雷光を四方八方に放射し、土色になってガラガラと瓦解したのであった。
●もあー! 雲のかなたに 今回も全力、あまつところなくふるったアロイである。甲冑の内側に熱がこもるが、全身アーマーを極めし彼は、ヘルメットを取ろうともしない。この程度の暑さ平気だ。アドミニも同様らしい。しかし修行の足りない(?)ユウキは「ぷはー」と兜を脱ぎ、涼風に顔をさらしていた。青い髪が風になびいている。これを見てアロイは思うのである。 (「そういえば今回はセイレーンが四人か……うぅむ、種族特徴というか……やはり、皆一様に美しい。きっとユウキ君も将来は……」) と思いつつ将来のユウキに、ミギワやアルーンの姿を重ねてみたりする。ユウキには彼ら(「彼女ら」ではなく)のような方向性もありかもしれない。 「さっきは踏んじゃったけど許してねー」 ぴょん、と跳ねるようにソニアがユウキのところにやってきた。 「別に気にしてないですよ……ちょっと驚きましたが……」 女性に目線を合わせられないユウキはあらぬかたを見るが、その方向にソニアは回って、くすくす笑いながら告げた。 「わかったよ、ユウキくん。責任とってお嫁さんにしてあげる!」 「な、なぜー!」 と叫ぶやユウキは、逃げた。 「なんというか、……青春、かな」 そんなユウキにガイゼは苦笑している。それはそうとして、戻ったら、ホットのサイダーでも注文してみたい彼だった。できればジョッキで。 「回を重ねるごとに我楽多モンスターのサイズが巨大になってきているような気がします」 とティルフィアはいう。次回はさらに巨大だったりすると怖い。 さて逃げていたユウキは、アルーンにそっと受けとめられた。 「あわわ!」 これはこれで焦るユウキだ。アルーンは少し、拗ねたような口調で、 「ユウキ殿は妾がお嫌いかえ? 話しかけると妙に焦っているように見受けるのじゃが?」 「いや、そ、そういうわけでは……」 うまく理由を言えないユウキ、そして、きょとんとするばかりのアルーンであった。性別のことをいえば一発で誤解はなくなるのだが……その鍵に、お互い気づいていないのであるよ。
私の勝手な憶測ですが、と前置きしてアドミニは言う。 「これまでの我楽多モンスター、彼らはその共通性からして、同じ旅団に所属するメンバーだったのかもしれませんね。旅団で、これらの玩具で楽しく遊んでいたのかもしれない。だから彼らは、こんな姿になってからも遊び相手を探しているのでは……、と、思ったりします」 鉄仮面の下のアドミニの表情は見えないが、倒したモンスターを悼むような声である。 ジョゼフィーナも同様の考えを示す。 「確かに……あり得る話です。副業で玩具職人をしていた旅団だったのかもしれません」 なるほど、とサガが応じた。 「それが事実かどうかは、今となっては誰にもわかりませんね。ですが、そう仮定すると理解できることがあるように思えます。独特の叫び声も、彼らの呼び名だったのかもしれませんし」 束ねた髪をネーヴェは解いていた。汗に濡れた髪が陽光にきらめく。 「だとすれば我々は、遊ぶという意味で、彼らに思いを遂げさせているということか……」 いささかロマンチックすぎるかな、とネーヴェは言うものの、ミギワはその発想が気に入った。 「もしそうなら、気持ちようござんすなあ……対我楽多モンスター戦、あちきにも戦う意味や価値がわかった気がしてくるでありんすよ……」 まばゆい夕刻の陽を見つめながら、ミギワはうっすらと目を細めた。
何処より来たのか何処へ往くのか、我楽多の乱痴気噺、六度目の幕はかく下りたのだ。 次回、我楽多との対決は、いよいよ大詰めとなるやもしれぬ。
(続く)

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参加者:10人
作成日:2008/10/14
得票数:冒険活劇3
戦闘1
ほのぼの8
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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