ぷかふよ



<オープニング>


 半透明のお椀型の物体が水に浮いていた。
 それを見つけた原住民の男は始めのうちはそれを訝しげに見つめるだけだったが、ぷかぷかと水に浮かぶ大きな姿に徐々に好奇心を擽られ……ふよふよと心地良さそうなその表面を触りたい気分になって来た。
 そして終いには好奇心を抑えきれなくなる……あれを触りたいと……突付きたいと! もふもふしたいと!!
「うほっ!」
 原住民の男は堪らず湖へと飛び込むと、ぷかふよするその大きな物体へ向かって全力で泳ぐ。ざっばざっばと普段ではありえないくらいの速度で泳ぐ。一秒でも早くぷかふよに届けとばかりに泳ぐ!
 全力で泳いだ甲斐があってか、あっという間にぷかふよに接近した原住民の男は迷うことなく、それに抱きついて――
「うほぅっ♪」
 すべすべな肌心地と水風船のような柔らかい弾力……そして軽く意識が飛びそうなビリビリに恍惚とした表情を浮かべながら湖面を漂うのだった。

「という訳で、その原住民さんは二三日寝込んだらしいんだけど……復帰するな否やまたそのぷかふよに抱きついて寝込むのを繰り返してるらしいんだ」
 しかも、その原住民以外の村の男達もぷかふよにぞっこんらしいと、ワイルドファイアの霊査士・キャロット(a90211)はそう言うとやれやれと肩を竦める。
「そんなに気持ち良いのなぁ〜ん?」
 数日寝込んででも抱きつきたいほどの魅力があるのなぁ〜ん? と小首を傾げる、赤い実の・ペルシャナ(a90148)に、
「さぁ? あ、で、そのぷかふよの正体はミズクラゲの怪獣なんだよ」
 良く解らないとキャロットも小首を傾げるが……水の母とかいてクラゲ、母に抱きつこうとするのは原点回帰、ノスタルジア、あるいは母川回帰みたいなものである……違う気もするけど。まぁ、つまりはそう言う事である。
「……なぁ〜ん? ……それってもしかしておっ――」
「色んな意味で彼らの生活を護るためにも、頑張ってミズクラゲ怪獣を倒してきてね!」
 何かを思いついたらしいペルシャナの言葉をさえぎるように、ぐっ! と親指を突き出すとキャロットは爽やかな笑顔で冒険者達を送り出したのだった。


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参加者
猪突妄進・スズ(a02822)
黎明を待つ夢・ユーセシル(a38825)
銀炎の黒獅子・アルセリアス(a61944)
綾なす火炎の小獅子・スゥベル(a64211)
柳閃・チキチキータ(a64276)
桜花爛漫・アンジェリカ(a67754)
ワイルドファーマー・ビュネル(a73520)
南の星・エラセド(a74579)
NPC:赤い実の・ペルシャナ(a90148)



<リプレイ>

 空は高く晴れ渡り、真夏の太陽が相も変わらず燦々と輝く。
 地表を走る風は道程にある湖を渡り幾許かの水気を含み、日に照らされて熱くなった肌に心地よい。
 そんな太陽に向かって、猪突妄進・スズ(a02822)は左手を高々と突き上げては、鞭のように腹の下まで振り下ろす動作を繰り返していた。何かを主張するように……そう、男なら決して譲れない何かを主張するように!
 何時しかスズの心が通じたのか、後ろに居た原住民の野郎どももその熱い魂の主張を真似し始めたのを見つめ、黎明を待つ夢・ユーセシル(a38825)は考える。
 ここはワイルドファイアだ、当然色々なものがビッグサイズであることが多い……だが、何でもかんでもビッグサイズでは風情が無いのではなかろうか。いや、実際は本当にビッグサイズと言うわけではなくミズクラゲ怪獣なだけだけど、しかしやはり大きすぎると言うのは風情が無い。
 振り下ろされるスズと原住民たちの一糸乱れぬ動きで腕が風を切る音と、青々とした空を漂う白い雲を暫しの間見つめながら考え込んでいたユーセシルは一つの結論に至る。
「やっぱり手のひらに収まるサイズがいいかな」
 と……そう、はやりこの手に収まる程度が丁度良い、全てを包み込んであげられる的な感じが好ましい……とユーセシルは己が掌を見つめる。だが、サイズだけでは完全ではない程よい弾力と柔らかさを兼ね備え心地よい手触りも当然必要だ。
 綾なす火炎の小獅子・スゥベル(a64211)は不穏な発言を残して再び深い思考の海へ沈むユーセシルに剣呑な眼差しを向けた後、そのままの目つきで湖に浮かぶミズクラゲ怪獣を見つめる。
 湖にふよふよを浮かぶそのお椀型の物体は、いかにも自分柔らかいっすよ! 触り心地いいっすよ! と言わんばかりにぷるるんとしている。
(「今更、体型のコトを嘆く気は無いけど……」)
 その綺麗な曲線を描くミズクラゲから自分の胸元に視線を落としたスゥベルは小さく溜息を吐く……が、
(「でもミズクラゲにすら負けるわけ!?」)
 次の瞬間、得も言われぬ憤怒が心の中より湧き上がる。確かに自分は無いさ、嗚呼無いさ、ぺッタンさ、嗚呼ぺッタンさ、ぺったんぺったん。しかし人間はともかく、クラゲ相手に負ける事は許せないのだと!
「ぺったん――ぶべっ!」
 何か思考がシンクロしたらしいユーセシルが唐突に言い始めた台詞が終わる前に、術扇を一閃して黙らせると、
「人に害為す怪獣は討つべし!」
 びしっ! と赤いものが突いた術扇をふよふよと漂うミズクラゲ怪獣に向かって突きつけたのだった。

 ふと、気がつくと、南の星・エラセド(a74579)が何やらサムズアップしていた。
 そして皆水着になっていた……あれ? と首を傾げるユーセシルであったが、ワイルドファイアだし一瞬目を離した隙に皆が水着になっていたとしてもなんら不思議な事は無い。微妙に鼻血が出てる気がするのも気のせいだ。多分。
「さぁ! 気合い入れて泳ぐぜ!」
 ――ザワ
 さぁ、行くか! ミズクラゲ怪獣を倒しに! とエラセドが肩を回して湖に飛び込もうとした時、その姿を見た原住民の男達に動揺ともどよめきとも判断しかねる何かが走る。
 行くのか? 行っちゃうのか? 俺達のクラゲ怪獣を倒してしまうのかい!? と、悲痛な表情を浮かべているものすら居るが……そんな男達に振り向かずスズが両手を高々と天へ掲げるとそのまま腹の辺りまで振り下ろす。ただ、ただ、振り下ろす。
 なぁ、兄弟……いやブラザー。
 お前達の気持ちは痛いほど分かる……だが、あれも怪獣、このまま放っておくのは色んな意味で危険だ。
 だから、ブラザーたちの代わりに、俺がたっぷりまんき――けじめをつけに行ってくるから……待っていてくれよな!
 そんな思いを込めて、スズは腕を振る。
 そして男達は物言わぬスズの背中からそれを感じとり、泣いた。男泣きに泣いた。そして、ただ、ただ、腕を振るのだった。

「……ばか?」
「んー、きっとね。悪いことじゃないと思うにゃあよ。男だからこそ退けない時がある!」
 妙に盛り上がっちゃってるスズとブラザーたちを半眼で見つめるスゥベルの横で、柳葉の・チキチキータ(a64276)がフォローを入れる。チキチキータとて男である、ブラザーたちの気持ちは痛いほど良く分かる……かもしれない。
 チキチキータは、ふ〜んと腑に落ちない様子のスゥベルを見ないように見える……いや、実際には横目で凝視だが。
(「黒ビキニ、だって……!?」)
 スゥベルの水着は美しい光沢のある黒ビキニだ。黒……それは小さな起伏を際立てる色。痩せがちでスレンダーな体型の胸部に浮かぶ、魅惑の――
「ん?」
 とか考えて居たところで、チキチキータの視線に気付いたのかスゥベルが彼を見上げる……チキチキータは慌てて視線を逸らすが、そこには白地に黒のぶち柄がちりばめられたビキニと言う姿の、ワイルドファーマー・ビュネル(a73520)が居た。ビュネルはスゥベルと違ってぽゆんぽゆんである。そして、そのぽゆんぽゆんが強調されていたから大変だ。慌てて視線をスゥベルに戻すチキチキータだが。
「ヤツと見比べないで! 不憫な子を見るような目をしないでぇー!」
 うわーん! とスゥベルはいるかの浮き輪を抱えて湖へ飛び込んでいってしまった。
「なぁ〜ん?」
 早速湖に飛び込んだスゥベルと、それを呆然と見送るチキチキータを見て、ビュネルは不思議そうに首を傾げるばかりであった。

「とぉりゃぁぁ!」
 先日傷を負ったばかりらしいエラセドがとても怪我人とは思えない泳ぎっぷりで、ミズクラゲ怪獣へと接近してゆく。
 そしてスズやチキチキータももそれに追随するよう……迅速に行動できる位置に移動できるような無駄に完璧なフォーメーションで。
「クラゲに抱きつくか……普通に考えれば刺されるのがわかるものだがな」
 そんなエラセドたちとは何処か一線を画して、銀炎の黒獅子・アルセリアス(a61944)はウレタンノソリンを両手に泳ぎながら朗らかに笑う。
「でもでも、それでも村人さんが心を奪われるクラゲさん、気になるです〜!」
 刺されるのが判っていてもやってしまう、それほどまでに魅力的だと言うのだ……ぴらーはにゃんこなのです・アンジェリカ(a67754)が興味を示してもなんら不思議は無い。
 ちなみに、ビスチェタイプの白いワンピースの水着を着て、ぺんぎんうきわに捉まりながら泳ぐアンジェリカは水着を着るのは始めてらしい……とっても可愛かったなぁ〜んとは、赤い実の・ペルシャナ(a90148)の談であるが、現場の男達はクラゲに夢中だったようだ。
「ぷるんぷるんで美味しそうなぁ〜ん」
 よいしょよいしょと泳ぐアンジェリカの横で、ビュネルが言うように倒した後の楽しみもある。触ってよし、食べてよし、何てお得な食材! ……何か本来の目的を忘れているような気もするが、気にしたら負けだろう。

 そうこうしている内に、エラセドたちはミズクラゲ怪獣に接近する。
「「うおぉぉぉ!」」
 接近するや否や迅速な動きで、エラセドとスズがミズクラゲ怪獣の体をよじ登りその頂を目指す! ミズクラゲの体は濡れていて足がすべるとか、なだらかな球体は登り辛いとか、そういったことを全て無視する情熱と信念で持ってミズクラゲの体を登る! そうして頂上付近まで来ると二人はそれぞれミズクラゲの上に横たわり――
「こ、これは!?」
「……包み込まれる!!」
 決め細やかなミズクラゲの肌はすべすべつやつや、そして体を受け止めるミズクラゲの表面は、彼らの体を包み込まんとするほどに柔らかく……それでいて完全には埋もれてしまわないほどには弾力がある……! 正に理想的な固さ、理想的な触り心地……なんてこったい、クラゲにしておくには勿体無いスペックだ!
 エラセドとスズの体に、何かビリビリしたものが走るがそれすらもちょっと心地よいほどだ。
 あ〜、もう良いや、明日……明日になったら本気出すから! このままにして置いて! とお母さんにお願いしたい程の素晴らしさ。
「……どうなったのなぁ〜ん?」
 頂上付近で寝転んだっきり動かなくなった二人に首をかしげるビュネルは、何故かこっちに全力のバタフライで向かってくるチキチキータの姿を発見した。
 男子たるもの、やるときはやらねばならぬ。それがヒエラルキーの上位に挑むような事であっても……男子にはやらねばならぬときがあるのだ!
「もーまんたいスゥベルッ! 世の中には数少ない需要もあっ――」
 何か叫んでいたチキチキータにたまたまスゥベルが放った、大火球がたまたま命中した。たまたま命中しただけなのでスゥベルに悪気は無い。不埒な敵への攻撃に巻き込まれただけなのだからしょうがない。
 そしてチキチキータはおぼぉあ! と奇妙な声を上げると、そのまま湖の底へと沈んでゆく……やはりヒエラルキーに挑戦するのはまだ早かったのだろうか、何処で道を誤ったのだろうか……いや、もう何もかもが遅いのだ、今更結果は変えられないのだから。
 薄れ行く意識の中、チキチキータの脳裏に過去の記憶がよみがえって来る……釣りをしたらオヤジのカツラを釣った事があった……釣った事があったなぁ……あったなぁ……。
「男ならやっぱりモノホン狙いでー!」
 そんなろくな事を思い出さない魂が肉体の限界を凌駕する! 危なかった、危うくおっさんの思い出だけで散ってゆくところだった! ああ、空が青い、生きてるって素晴らしい。
 ぜはーぜはーと荒い息を吐くチキチキータを他所に、アンジェリカとビュネルがミズクラゲ怪獣に接近していた。
「お〜! 凄いです〜!」
「しびれるなぁ〜ん。やわっこいなぁ〜ん」
 ぷにっと押し込んだ指を離すとぷるるんっ! とクラゲの体が元に戻る。形の崩れないゼリーで遊ぶような感じだ。触っていると何か微妙にビリビリしたりもするが、冒険者にとってはたいした事ではない。
「どうだ? 何か至福になれるクラゲらしいが?」
 ふよふよ〜! と歓声を上げるアンジェリカとビュネルにアルセリアスが問いかけると、二人揃ってぶんぶんと首を縦に振る。
 そんな二人の横で、親の敵を見るような目でミズクラゲ怪獣を見ていたスゥベルもワナワナと震える手で表面に触れると、おもむろにもみしだく。
「ううっ、この感触か! この感触が野郎どもを惑わせるのかーッ!!」
「楽しんでるようだなによりだ」
 もにゅもにゅと擬音が聞こえてきそうなほどにもみしだきながら、色んなノスタルジーに浸っているっぽいアンジェリカたちにアルセリアスは微笑んだ。
 アンジェリカたちから少しはなれたところで、ユーセシルも微笑む。
 両手でクラゲの感触を楽しみながら、見目麗しいアンジェリカやビュネルの姿を眺め……一見すると只の危ない人に見えなくも無いが、本人には何の下心も無い、一切無い。
 皆可愛いなぁと思っているだけで、邪まな考えなど無いのだ。
 鼻から流れる赤いものはさっきの後遺症だから、一切関係ないのだ。

 そうして、なんやかんやでミズクラゲ怪獣を堪能したアルセリアスたちは、なんやかんやで目的を思い出す。
 悲しい事だが出会いがあれば別れがあるのだ、この感触を何時までも味わっているわけにはいかない、そういかないのだ! 名残惜しいけど!
「……はっ、いかんいかん」
 ふと我に返ったスズは、全身の神経を極限まで指先に集中させると先程まで自分が寝転んでいた場所へ向かって鋭く突き刺す。突き刺された指はミズクラゲ怪獣の内部にめり込み、得も言われぬ感触を伝えてくる。
「何か気持ち悪いなぁ〜ん……」
 同じく指天殺でミズクラゲの体に指を突っ込んだビュネルが顔をしかめるが……クラゲはそういう生物なので仕方が無い。
 続いて、スゥベルが巨大な火球を練り上げてミズクラゲの体に叩き込み、あわせるようにチキチキータとアルセリアスが両腕に収束させた気を野獣のような叫びと共に放つと――ミズクラゲの体はあっさりと飛び散ったのだった。

 飛び散ったミズクラゲ怪獣の一部を料理用に持ち帰った一行は、早速それらを使って色々な物を作ってみる。
 アンジェリカは飛び散ったクラゲの欠片から比較的大きな塊を使い、それを食べやすい大きさに切るとお皿に盛ってアルセリアスに差し出す。
「アンジェが作ったです〜、……切っただけですけれど〜……」
 切っただけでも料理は料理、素材の味を最大限に活かす料理である。多分。
「すまないな、ありがたく頂くぞ」
 アルセリアスはそれを調味料につけてから口に運ぶと……美味いなと微笑んだ。
 そして、ビュネルは潰れた身なんかがあれば、大きなボウルに入れて固めてその半円状に固まったものを、大きなお皿に並べて盛りつける。そして、それに糖蜜を掛けて周りにカットした蜜柑やパインを飾り付け、さらに頂点に桜桃や苺を飾ってアクセントをつける。
 エラセドは野草をさっとゆでクラゲとあえたり、サイコロ状に切って果物ジュースに漬けるしたものを作る。次々と作られるクラゲ料理の数々だが……、
「ほらチッキー、あーん♪」
 と、スゥベルが良く分からないクラゲの内臓っぽいものをチキチキータの口の中に大量に押し込んでいたりもしたが多分気のせいだ。
 そんなこんなでクラゲ料理を囲みながら一行は、満足ゆくまでクラゲを堪能したのだった。

 【おしまい】


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作成日:2008/10/17
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