カリコリポッキン



<オープニング>


「よく来てくれました。皆様にお願いしたいことがあるのです」
 集まった冒険者達に微笑みかける女神フォーナ。だが、すぐさまその表情を引き締め真面目な雰囲気を作ると、今回の要件を伝え始める。
「とある森で凶暴で大きな鼠が暴れまわっています。このままでは森の木々は枯れ、食料を失った動物たちが飢えて死んでしまいます。どうか力を貸してはくれませんか?」
 
 カリカリカリ。
 コリコリコリ。
 宵を迎えた森の静寂を、奇妙な音がかき乱す。
 カリカリカリ。
 コリコリコリ。
 強く、強く、何かをひっかくかのようなその音の発生源では、1匹の野鼠が伸びた前歯を削るために、大木を齧っているのだ。
 カリカリカリ。
 コリコリコリ。
 それは一見ありふれた光景のようではあるが……。
 カリカリ――ペキリ。
 軽い破裂音を鳴らし、削り取られた大木がゆっくりと傾いでいく。無数の木屑を巻き散らかし、轟音と共に大地へと横たわる大木。
 きゅい? と何が起こったのか分からない様子で眺めていた野鼠は、興味を無くしたかのように踵を返すと、また別の大木へと駆け寄り前歯を削っていく。
 カリカリカリ。
 コリコリコリ。
 削る音だけが響き渡る。ただただその音だけが森のすべてを支配しているかのように。
 カリカリカリ。
 コリコリ――ペキン。
 また1本、この熊ほど大きさの野鼠が持つ巨大な前歯に、無残に削り取られた亡骸を晒すこととなった。それだけの犠牲を出してなお、幅広の刀身であるかのようなその前歯は、一向に削れたような形跡もなく残酷なまでに鋭いその切っ先を光らせている。
 きゅい?
 
「この種を使ってください」
 フォーナから1人の冒険者に、手のひらにおさまるか、というほどの大粒の種が手渡される。見る者を魅了するかのように神々しい光で周囲を照らす種を、大事そうに冒険者が胸に掻き抱く。
「すべてを終えた後に植えてください。そして皆様で祈ってもらいたいのです。どうか森が再びその息吹を取り戻しますようにと。よろしくお願いしますね」


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参加者
休まない翼・シルヴィア(a07172)
ノソ・リン(a50852)
火炎六花・ルーシェン(a61735)
綾なす火炎の小獅子・スゥベル(a64211)
始まりはいつも突然・ヤミー(a66309)
久遠なる湖晶・ジリアン(a69406)
向日葵の唄・ソロネ(a74227)



<リプレイ>

●横たわる樹木
「木々の墓場……という感じですね」
 あたり一面の木々が倒れているという惨状を目の当たりにした綾なす火炎の小獅子・スゥベル(a64211)が、顔をしかめ呻くような声をあげる。
 森の中を探索すること少し、どこに野鼠が居るのだろうと進む冒険者達の前に出現したのが、この倒木地帯――スゥベルの言葉を借りるならば、木々の墓場であった。どの木々も長い年月を生きてきたのか、その幹は大人2人が手を繋いでようやく足りるかというほどの太さがある。しかしそれだけの時を刻んできた大木たちも、今は無残にも大地にひれ伏し、歪な削り後の残った切り株と共に骸を晒している。
「この先はずっとこのような場所になっていますね」
 遠眼鏡を覗く始まりはいつも突然・ヤミー(a66309)。レンズ越しのヤミーの視界には、今現在目の前に広がっているのと同じ光景が続いている。
「木の切断面は、先に進めば進むほど新しいのになってるね」
 近くの切り株や木々を調べていた銀花小花・リン(a50852)は、要するにこの先に野鼠が居るよ、と結論付ける。この状況を見た時点である程度の警戒はしていた冒険者達に、このリンの判断に異を唱えるものは居らず、より一層警戒を強めていく。
「それにしても……気をつけないとこけちゃいそうですの」
 そろそろと足元を気にしながら進む向日葵の唄・ソロネ(a74227)。滑りにくい靴を選んできたつもりではあるのだが、辺りに散らばるおが屑に何度か足を取られそうになる。
「あまり慎重に歩きすぎてもかえって危な――うわっ!?」
 苦笑しながらソロネの様子を見ていた休まない翼・シルヴィア(a07172)であったが、足を滑らせ派手におが屑を巻き上げながらすっ転んでしまう。それもそのはずで、シルヴィアのはいている靴は市街を歩くには適していても、倒木やおが屑の散らばるこの森を歩くにはお世辞にも適しているとはいえない。おかげで、他の滑りにくい靴を選んできた仲間達に比べ、より足元に注意を払う必要が出てきてしまったのである。
「だ、大丈夫ですか?」
 倒木を跨いでいた久遠なる湖晶・ジリアン(a69406)が、慌ててシルヴィアに駆け寄り手を差し伸べる。おが屑だけならばまだこけるだけで済むのだが、大量の倒木があるために、こけ方によっては非常に危ない場合があるのだ。
 どうやら尻餅をついただけのようで、よいしょ、とジリアンが引っ張り上げる横で、火炎六花・ルーシェン(a61735)が緊張した様子で、遠眼鏡を外す。
「不味いです……きましたよ」
 弾かれるように前方を見やった冒険者達が目にしたのは、倒木を器用に乗り越えて迫り来る巨大な影。体中をおが屑まみれにし、口に収まりきらない歯をだらしなく露出させた野鼠の姿であった。

●鋭い歯
「来るよ! 気をつけて!」
 叫びながら、自身も銀狼を打ち放つスゥベル。迫り来る野鼠の喉笛に喰らいつかんとする銀狼であったが――。
 きゅい、きゅい。
 急に旋回してその一撃をかわす野鼠。長く伸びた前歯を倒木に突き刺し、それを軸にしてかわして見せたのだ。矛先を見失った銀狼は、そのままかけ去るようにして虚空に消える。
 きゅい、きゅい、きゅ――ぎゅう!
「一撃をかわしたぐらいで……調子に乗らないで欲しいですわ」
 嘲笑うかのように鳴く野鼠の横っ腹に、全身の毛を逆立たせるほどに強烈な雷撃が加えられる。その雷の放射路をたどって見れば、足を必死に踏ん張りながら力の限り剣を振り下ろしたヤミーの姿があった。
 だがその不意をつくような攻撃も、熊ほどの体躯を持つこの野鼠を仕留めるにはまだまだ足りない。追撃というように間合いを詰めてきていたリンの姿を認めると、その鋭利な前歯を剣を薙ぐようにして斜め上から振り下ろす。
「いったぁ……ネズ公の割にはやってくれるね!」
 後ろに身を引いて直撃はかわすことが出来たリンだが、元々足場が悪いため満足に下がりきることが出来ず、肩口から大量の血が噴出する。一瞬顔を苦痛に歪ませるリンであったが、奥歯をかみ締めるようにして堪え、仕返しとばかりに指先に全神経を集中させ突き出す。
 ぎゅ、ぎゅー!
 リンの指先がその体に突き刺さった途端、周りの大気を震わせるかのような大きな悲鳴をあげる野鼠。その様子を確認したリンは、毒がまわり青くなった顔に満足気な表情を乗せ、そろそろと間合いを開けていく。
「刃物できられたような傷ですの……すぐに治しますの!」
 まるで自分が怪我をしたかのように痛そうな表情を浮かべたソロネは、一度大きく深呼吸をして心を落ち着け、澄んだソプラノの歌声に癒しの力を乗せ振りまいていく。
 傷が癒え顔色が薄桃色に戻っていくリンの横を、一本の矢が飛び去っていく。ただただ一直線に飛来する矢は、少しの狂いもなく野鼠の体を貫いていく。
「木々への報い……受けてもらうから」
 直接的な傷こそ殆どなかったものの、シルヴィアの放った影縫いの矢は確かにその効果を遺憾なく発揮し、ちょろちょろと動き回っていた野鼠の動きを止めることに成功したのだ。
「毒なら、こちらも負けていません」
 ルーシェンの突き出した両腕から、3つ首の炎がゆっくりと顔を出し、今度こその鼠の喉笛へと喰らいつく。獅子と山羊と蛇の頭を形どった炎が、野鼠の体を焼き、そして爆散していく。残された野鼠の体を魔炎が這いずり回り、全身から血は流れ出し、そしてその傷口の一つ一つが毒のせいもあってか、化膿したように腫れてしまっている。
 じゅう、じゅー!
「そんなに鳴かれても僕達にはどうすることも出来ません」
 怒りの篭った野鼠の鳴き声に、困ったような笑顔を浮かべるジリアン。そんなジリアンの肩に、ふわりと柔らかな羽毛のようなものが舞い降りる。羽毛はジリアンだけではなく他の仲間達の元にも舞い降りているようで、それぞれ肩などといった場所で冒険者達を見守るようにふわふわと浮いている。
「唸るものいいけど、さっさと動き回れるように頑張った方がいいんじゃない?」
 炎に包まれた木の葉が、野鼠の全身を包み込む。既に魔炎に蝕まれている身でありながら、更に魔炎に襲われる苦痛に思わずその長い前歯を大地に突き刺し耐える野鼠。
 だがそうやって痛みを堪えている間にも、冒険者達の攻撃の手が休まることはない。
「もう一撃いきますわ!」
 ヤミーの剣から雷光が迸り、先ほどと同じく野鼠の体を這い回る。血に濡れた毛がボサボサに逆立ち、毛で隠れていた傷口が現れる。全身を毒に苛まれているせいもあるのだろう、傷口から今もなお流れる血はどす黒く染まっている。
「今のうちに邪魔な木を取り払お……っと!」
 周囲に散らばる木にリンの拳が突き刺さり、それらを真っ二つに破壊していく。そのお陰というべきか、冒険者達と野鼠の間にあった倒木がドンドンと排除されていき、最早弱った野鼠を守る遮蔽物は完全になくなった。
 きゅ〜……きゅいっ!
 自らのみを守ることが出来るものが無くなったことを悟ったのだろうか。大きくひと鳴きした野鼠は、死に体の身に鞭打って駆け出す。体中の毛は逆立ち、抜け落ち、足の爪は何枚も割れてしまっている。頬で風を受けて波打っていた髭も、最早1本とて健在なものはない。それだけの状態の中で尚もまったくの無傷を誇る前歯を、力の限り振るう野鼠。その先に居るのは――ヤミーである。
「くっ……きゃあぁぁ!」
 何とか剣で受け止めたヤミーであったが、生きる力の最後の一滴まで注がれているのではないかと思わせるほどの一撃を完全に受け止めることは出来ず、弾き飛ばされるかのように後退させられる。
 その威力に焦りの表情を浮かべる冒険者達。だが……、先ほどの攻撃で全ての力を使い果たしたというのだろうか、それとも完全に毒が体中をまわった結果なのであろうか、フラフラとしながらも立ち上がろうとして……結局立ち上がれずにへばってしまう野鼠。
「だったら……これで終わらせます。これ以上の被害を出さない為にも」
 ルーシェンの両手から3つ首の炎が這い出してくる。3つの獣を模した炎は、野鼠の全身を舐めるかのように這い回り、体に喰らいつき、野鼠の命を道ずれに華々しく散っていった。

●大地への祈り
「うううぅぅぅ!」
 唸り声のようなものを洩らしながら一心に祈るスゥベル。気合を込めているその様は、頑張れー! と種へと語りかけるかのようである。
「森が再びその息吹を取り戻しますように……」
 そんなスゥベルの隣で静かに祈りを捧げるヤミー。多くの木々が切り倒されてしまったことは悲しいことであるが、この地に緑が戻ることがそう遠いことではないと信じて。
「次は普通のネズ公に生まれて来るんだよ」
 種の植えられた横に作られた野鼠の墓。泥まみれの手の中から、小さな木の実を取り出して置くリン。あの鼠とて悪気があったわけではないのだろう、ただただ共存が出来なかったというだけなのだ。
「ごめんなさい……あなたの生きる場所を、この世界のどこにも見つけてあげられなくて」
 顔を伏せながら呟くソロネ。どうか、どうか安らかに眠って欲しいと思う。泥まみれの手を合わせ、そう願うことしかソロネには出来なかった。
「これが新たな森の礎となる様に……」
 種にどれだけの力があるのかは分からない。ただシルヴィアが望むのは、この森の悲劇を浄化し、新たな生命の育みを取り戻して欲しいということだけだ。
「……森が緑に覆われますように」
 小さな声で呟くように祈るルーシェン。種の植えられた周辺は、野鼠によって木々が完全に奪われてしまっていた。どうかこの森が蘇りますように、と。
「この森が元の美しい姿を取り戻したとき、生まれ変わった野鼠が今度は幸せに過ごせますように……」
 胸の前で手を合わせ祈るジリアン。勿論、野鼠が生まれ変わるかどうかなど分かりはしない。だが、もし生まれ変わることが出来るのならば……今度こそ幸せに過ごして欲しいと思うのだった。
 全ての騒動を終えた森を、緩やかな風が包み込む。それはまるで新しい生命の息吹を呼び覚ますかのような、優しい、優しい風であった。


マスター:原人 紹介ページ
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