<リプレイ>
●待機 闇は深く、冷えた空気は静かだった。 風薫る桜の精・ケラソス(a21325)の手の中にある地図を頼りに、かれらは慎重かつすみやかに、その場所へ赴く。移動の痕跡は、黄色の羽毛・ピヨピヨ(a57902)が消して歩いた。 そして今、かれらは待機し、その時がくるのを待っているのだ。 灯りは小窓から漏れる光のみ。宵闇月虹・シス(a10844)は耳を澄まし、息を殺して、かれらの隠れ場所へ近づくものの気配を探る。傍らで無垢いし・ウズラ(a21300)も警戒を解かない。 蒼翠弓・ハジ(a26881)と白氷の細剣・ヘルムウィーゲ(a43608)はドラグナーたちのもとへつながる扉に注意し、敵がそこからあらわれる場合に備えた。 「見て下さい。あの壁を」 ふいに、小窓からドラグナーたちの拠点の様子を見ていた大天使長・ホカゲ(a18714)が囁く。 「ふむ」 不羈の剣・ドライザム(a67714)が顎をなでた。 「あの壇状の部分、飛行遺跡の中の設備と似ている気はするな。といって、このトンネルはどこもそうだが……、しかしあの壁の溝にそって、あれが動いても驚かん」 「近くに待機しているドラグナーたちがいるね」 と星喰らう蒼き闇・ラス(a52420)。 ドラゴンのもとへかれらを運んでくれるという移動機械は、今、かれらが注目しているそれなのだろうか。 そのときだった。 目に見えて、ざわめきが、たむろするドラグナーたちの間に伝わってゆく。 ドライザムの手の中には、陽動班に同行した仲間の剣があったのだ。それが、忽然と消えうせるのに気付き、かはたれのひかり・オーロラ(a34370)は短く告げる。 「合図ですわ」 「動きましたね。行きましょう」 ホカゲは、冷徹にさえ聞こえるほど、落ち着いた声音で言った。 ヘルムウィーゲが扉にふれると、音もなくそれは開き、冒険者たちの前に道をあらわした。この道が勝利へ通じるか、それともそうでないかは、これから起こる戦いにかかっていた。
●突入、バリケードの向こうへ 「オオオオオオオオオオオ!!」 紅蓮の雄叫びが響き渡る。 ホカゲをはじめ、ピヨピヨ、ドライザムと、グランスティードに騎乗した冒険者が先陣を切った。 扉の先、階段を駆け降りると、そこは大トンネルの本道――ドラグナーたちがたむろする空間へ通ずる。 その中を今、冒険者たちは一丸となって突破していこうとしているのだ。 紅蓮の雄叫びに体の自由を奪われ、棒立ちになったドラグナーへ、ピヨピヨとドライザムから同時に破鎧掌がうちこまれた。どう、と吹き飛ぶドラグナーを捨て置き、かれらはその場所を目指した。 ドラグナーたちはバリケードと逆の方向へ動き出していたが、別の場所からあらわれた冒険者に気付くと、おっとり刀で取って返してくるものもいる。だがその前に、降り注ぐ光の雨はケラソスのエンブレムシャワーだ。シスにオーロラ、他の術士とともに内側に守られつつも、アビリティの弾幕を張る。 陣形の両サイドに立つハジもまた、ジャスティスレインで敵の接近を牽制し、それでも果敢に接近してくる敵へはヘルムウィーゲが粘り蜘蛛糸で絡めとる。 しんがりを務めるのはラスとウズラ。ラスの砂礫衝が、追いすがるドラグナーの眼前で炸裂し、もうもうと土煙があがった。 「あれを!」 ハジが叫びながら、大弓の弦を引き絞る。 目星は正解だったようだ。 壁際にある機械の台座と見えたものが、ゆっくりと、地面を離れ、上昇していくのが見えた。その上に、何体かのドラグナーたちが乗っている。 ひゅん――、とハジの矢が敵のひとりを射た。 だが機械の上昇が止まることはなかった。手の届かぬ高さへ行ってしまえば失敗だ。 「っ!」 ドライザムが飛び出した。そして、そのまま跳躍して、機械にしがみついたのである! ドラグナーたちが驚いて引き離しにかかるが、ドライザムは食らいつく。彼のグランスティードの蹄が宙をかいたが、ピヨピヨががっしりとそれを掴んだ。 「ぬ」 上下にひっぱられて、ドライザムが妙な声を出す。 「ケラソスさん!」 ラスが後ろへ叫ぶ。まずホカゲが躊躇なくピヨピヨとドライザムをはしごにして機械に登り、そのあとにケラソスが続いた。ホカゲが巨大剣で機械上の敵をなぎはらい、ヘルムウィーゲの蜘蛛糸の援護が飛ぶ中、ケラソスは操作盤らしき部分に身を屈めた。 紋章術士だからといってすべてが解明できるわけではない。しかしここまで見てきたタロスの遺跡や、ホワイトガーデンのドラゴンズゲートのことなどを思い出す。最後は直感しかない。 冒険者の狙いが機械の奪取と知って、集まってくるドラグナーたち。 機械上からはすべて追い落とされたものの、新たにやってくる敵へウズラは魅了の歌を響かせた。何体かが見当を失って立ち止まる。魅了されなかった1体の攻撃を、ウズラは儀礼用盾で受け止めた。 意を決してケラソスがボタンのひとつを押す。すると、がくん、と揺れて機械が止まり、下降を始めた。 仲間たちが次々に機械に飛び乗ってくる。10人だとぎりぎりという広さだが、なんとか乗れる。ケラソスが別のボタンを押せば、再び上昇が始まった。 「……」 なにかが閃いた、気がした。 さらにもうひとつ、彼女はボタンを押したのだ。 すると機械は急に速度を速めたではないか。みるみるうちに遠ざかる地上、そしてドラグナーたち。 一定位置まで上昇すると、機械は横へと滑るように移動を始めた。 すなわち、バリケードを越えた先の空間へ――。 それまでにオーロラのヒーリングウェーブが仲間たちの傷を癒している。 新たな緊張が沸き起こってきた。 なぜならば、この先には…… 「来たか。冒険者ども。……わが王国を、滅ぼしに来たのだな」 低い声が、かれらを出迎えた。
●銀鱗の僭王 瞬間―― そこはコルドフリードの大トンネルであってそうではない場所になる。 シスの瞳は月光を映したような淡い色に変じ、硬質の翼のような器官を背負っていた。その身が黒炎覚醒の力をまとい、戦闘態勢へ移行する。彼女だけではない。10人の冒険者はそれぞれにドラゴンウォリアーの姿となり、大トンネルの空間内へ飛翔していた。 その前に、巨大な影が茫洋と姿を見せる。 昏い光が、トンネルの先に降っていた。それを背景に、ドラゴンの巨大なシルエットが、冒険者たちの眼前に迫った。 先手必勝、とばかりにラスが宙を翔ける。流星のような軌跡を描き、スピードラッシュの初撃が放たれた。キィン、と硬質な音を立てて竜の鱗の一部が欠け、弾け飛ぶ。それは銀色のきらめきだった。 「ここは通してもらいます」 間髪入れずハジが貫きとおす矢を射かける。 かれらを含む5人のドラゴンウォリアーが前へ出て前衛を形作る。 その後方よりケラソスが紋章を描き出した。エンブレムノヴァの爆発が、ドラゴンの姿を照らし出した。これが行方を阻む敵――銀鱗の僭王・シュリヴァザードか。 そのケラソスの身を包みこむ鎧聖降臨は、ぐっと幼い姿に変じたピヨピヨがもたらしたもの。 ライクアフェザーの構えをとったヘルムウィーゲが、後衛を守るように位置を確かめた。 続いて攻撃に転じたのはウズラだ。 初発の気力に満ちた無傷の今なら、スパイラルジェイドの攻撃は最大の威力を発揮する。 それは鋭くドラゴンの巨体にきまった。 地面がぼうっと淡い光を発したのは、オーロラの展開するヘブンズフィールド。 「小癪な」 ドラゴンの声が朗々と氷の隧道に響く。 「わが氷を砕けると思うか!」 氷の嵐が、冒険者たちを呑み込んだ。 すさまじい圧力の、竜の冷たい吐息――風圧にまじる細かい氷が冒険者の身を裂き、そして魔力の氷がその動きを封じようとする。しかもその吐息は、最後衛まで届くほど射程の長いものだったのだ。 シス、ケラソス、オーロラ、ヘルムウィーゲ、ハジ――半数の冒険者が魔氷にとらわれる。だが次の瞬間、オーロラとハジだけは氷を脱していた。その身に融合したタイラントピラーの加護が効いた。ヘブンズフィールドの後押しがあれば、他の仲間たちも助かるだろうが、それより先に敵の第2撃がきてはいけない。 ラスは身動きできない仲間をかばうように動き、ハジは緊急の毒消しの風を吹かせる。この風によってヘルムウィーゲが魔氷を解かれたのがさいわいした。 獰猛な竜の咆哮。 氷の吐息を、傷つきながらも耐えしのいだ前衛陣が攻撃に向かう。 ホカゲのデストロイブレードに、ドライザムのパワーブレード。そしてピヨピヨが渾身のホーリースマッシュを打ち込む。 羽毛のように護りの天使が舞う中、ピヨピヨは、銀の鱗がきわめて硬いのを知る。巨体の身じろぎに巻き込まれぬよう、ウズラの飛燕連撃が空を裂くなか、ぱっと飛び退った。 ヘルムウィーゲが静謐の祈りをささげた。 同時に、オーロラはヒーリングウェーブで負傷の回復を担う。 凍らされていた仲間たちも次々に解き放たれていく。 ごう――、と地下の空気が震えた。 ドラゴンがわが身を反転させ、その尾を振るったのである。 それは重い一撃となって、前衛陣を跳ね飛ばした。 全身が軋みをあげるようなダメージに耐えながら――しかしすぐにくるはずの仲間からの癒しを信じて、陣型に復帰しようとする。そんな冒険者たちが見たのは、しかし、その身を翻すシュリヴァザードの姿だった。 まさか逃げるのか。 いや、それはない。疑似ドラゴン界から逃亡することができないのは、ドラゴンも知っているはずだ。 冒険者たちが追撃の姿勢に入る。 ラスが繰り出すソニックウェーブは分厚い鱗を越えてダメージを与え、シスのヴォイドスクラッチが影の爪で鱗を剥がすような攻撃を加える。 ふっ、と、ドラゴンが視界から消えた。 「上だ!」 誰かが叫んだ。 反射的に、冒険者は敵を追う。その間も攻撃はやむことはない。だがそれは向こうも同じ。凍れるブレスが荒れ狂い、爪や尾の攻撃が追いすがる冒険者を振り払おうとしてくる。 かれらはもつれあうようにして上昇していく。周囲は氷の壁になっていた。 山脈にできた亀裂――ドラゴンはここからトンネルに入り込んだのであろう。だとすればこの先は。 周囲の風景と状況を写し取る疑似ドラゴン界にあって、そこは吹雪舞うコルドフリードの空であった。 足もとに横たわる氷山の稜線。 どこまでも広がる曇天を背景に、竜の翼が広げられた。 「この大陸を――私はわが版図とするのだ」 ドラゴンは吠え、襲いかかってきた。 眼前まで間合いを詰め、そして反転して尾でなぎはらおうとする。 「僕らをバラバラにしようとしているんだ!」 大岩斬を振り下ろしながら、敵の意図に気付いて、ピヨピヨが叫んだ。ずっと敵の攻撃のクセを読み取ろうとしていたのである。シュリヴァザードに限らず、ドラゴンが苦手とするもののひとつが冒険者たちの連携による連続攻撃・集中攻撃なのだから。 前衛陣を吹き飛ばし、陣型に隙をつくる。しかし、シュリヴァザードは長距離射程の氷のブレスがある。まとめて一網打尽にしたほうがよさそうなものだが、それでも冒険者の密集を厭うたのは……後衛の術士たちを確実にしとめるためだ。 突っ込んでくる銀色の巨体。 だがウズラが、ヘルムウィーゲが、そうはさせない。進路にわりこんで、吐き出されたブレスを受け止める。 オーロラが回復を送った。 怒りの咆哮――だがそれが途切れるは、ハジの矢に射られたからか。鱗を貫き通す一撃や、ラスが踏み込んで放ったスピードラッシュのような、技巧による攻撃をドラゴンは避けかねて多く受けている。 この空では、ドラゴンの体がどんどん傷ついていっているのがよくわかった。 むろん、冒険者たちも決して無傷ではない――いや、無視できない負傷は重ねているのだ。絶え間ない回復がなければ、もっと早くに前衛陣は落とされていたのかもしれない。
●氷空の果て 戦いは、続いた――。 冒険者は短期決戦を企図したが、さすがにドラゴンは強敵であった。 敵の情報が不足する中、事前に練れた策にも限りがある。 それでも、限りある範囲でのぞんだ冒険者の奮戦ぶりは讃えられてよいものであったはずだ。 氷のブレスの猛攻は、こちらの陣型を乱す尾によるなぎはらいと合わせて、何度も冒険者を汲々とさせた。 しかしはるか眼下に広がる氷の山脈の地下では、仲間たちがかれらの帰還を信じて戦い続けているのだ。 負けられる、はずがない。 白い息を弾ませ、オーロラは回復アビリティを使い続けた。 できるだけ視界を広くもち、仲間たちを気に掛ける。 ――と、そのとき、彼女の視野に飛び込んだものは何だったか。 吹雪の、一瞬、途切れた向こう。 氷の山脈の向こう側に見えたあれは何だ。 自然の山などではありえない四角錐の――建造物。その表面が階段状になっているのが見える。それではあれが―― 竜の巨大な影が、その風景を遮った。 「なぜ…………跪かぬ!」 ドラゴンは苦しい息であえいだ。 「私はいずれ……王になってみせるぞ――新たなドラゴンロードとして、この世界を――」 「笑止だな」 ドライザムだ。ドラゴンの目の前に飛び出し、視線を邪魔した。 蠅を払うように爪がふるわれた。それはドライザムをかすり、しかしかすっただけでもかなりのダメージを与えたが……それはむしろ、反撃のデストロイブレードにさらなる威力を与えた。 剣がもたらす爆発に眼を閉じたドラゴンに、別方向から襲いかかるホカゲの一閃。 ぐらり、と巨体が傾ぐ。 冒険者の集中攻撃。 竜は瀕死だ。それでも反撃はくる。 ドライザムが、ラスが、血しぶきとともに吹き飛ばされた。 最後のブレスが、ホカゲを巻き込んだ。 それを避けて、ウズラが躍動する。 「迷惑なドラゴン――……ぶっとばす!!」 吹雪舞う空に架かる黒い虹のように、スパイラルジェイドが突っ込んできたドラゴンの鼻先に痛烈な打撃を見舞った。
墜ちる。 墜ちていく。 幾人かの冒険者を巻き込みながら、竜の巨体が――。 氷山の亀裂を転がり落ち、新たな竜王の座を欲してかなえられることのなかった僭王は、ついに息絶えた。 大トンネルをふるわす振動。 気がつくと冒険者たちは、その床に放り出されていた。 バリケードの向こうから怒号と悲鳴と戦闘音。 互いの無事を呼び合って、倒れたものたちを助けに走る。 仲間に、そしてまだ残る敵たちにも報せなくてはならないだろう。 冒険者の勝利と、邪悪の王国に終焉が訪れたことを。

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参加者:10人
作成日:2008/10/22
得票数:冒険活劇3
戦闘34
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冒険結果:成功!
重傷者:大天使長・ホカゲ(a18714)
星喰らう蒼き闇・ラス(a52420)
黄色の羽毛・ピヨピヨ(a57902)
不羈の剣・ドライザム(a67714)
死亡者:なし
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