<リプレイ>
●虹色の花 10月17日、それはノエルの誕生日。 集まった冒険者達からのお祝いに、嬉しそうに笑うノエル。やがて、彼らは出発の時刻を迎えると、虹色の花が咲くという高原を目指して歩き始めた。 「虹色に咲く花なんて珍しいね……皆で眺めに行くのが楽しみだ」 「はいなのです〜。お花のところまで、きっとあっという間なのですよ〜」 エルフの翔剣士・シェルト(a11554)の言葉に、こくこくと頷き返すノエル。 「空でなくて高原にある虹……すごいですの♪」 その隣で、にっこり微笑むのは空舞う暁菫の剣・セフィン(a18332)だ。 地面に咲く虹色の花。一体、どんな姿なのだろう? わくわく歩くノエルと一緒に胸を膨らませて、高原までの道を進んでいく。 よく晴れた空の下を歩けば、心地よい風が吹いてきて。それは彼らに、今日が素敵な一日になることを予感させた。 「あともう少しかしら?」 やがて目的地らしき場所が見えてくる。ここまでお弁当を運んできたエルルは、ふぅと一息ついた。 「エルルおねーさん、持つですよ?」 「あ、ノエル君。今日は貴方が主役よ?」 手を差し伸べようとしたノエルを、そう紅い魔女・ババロア(a09938)が遮る。主役にそんな事はさせられないとばかりに、自分がお弁当運びを交代する。 「それよりノエル君は……ほら」 そして、ババロアは前を指差した。 「うわぁ……!」 そこに広がっていたのは、おひさまの光を受けて、キラキラきらめいている花々だった。それは赤、あるいは青、緑に黄色に紫に……風に揺れて、七色に咲き誇る虹色の花。 「すっごいなぁ〜ん! おにぃちゃん、ほらほらっ」 思わず駆け出すのは、真白の歌い手・クィリム(a62068)。振り向いた彼女の視線の先では、コンフィデンシャルボーダー・ジィル(a39272)が感嘆の息を漏らす。 「すげぇ……虹色の花、ってだけでも、そうねぇのに。それが一面となると……夢みてぇな感じだ」 クィリムを追いかけながら、ジィルは驚きを隠せない。 風が吹いて揺れるたび、きらめくグラデーション。ほんの僅かな角度の違いなのに、虹の花は違う姿を覗かせる。その光景は、本当に見事の一言だった。 「とりあえず、あそこ座って茶にしよう」 「クィリム、お茶用意してきたなぁんよ!」 木陰を指差すジィルに、ポットを取り出すクィリム。その瞳は、虹色の花を見た感動に輝いていた。 「見事なもんだな」 南の星・エラセド(a74579)は大きく頷くと、この花で染物をしたら、何色になるのだろうかと考えた。 もし、それが虹色に染まるのだとしたら。 (「フォーナ祭で、虹色の布で作ったドレスとかプレゼントできたら、最高だよな」) きっと、素晴らしい贈り物となるだろう。けれど、摘めばする色が失われて白くなってしまうという虹色の花だ。だとしたら、布を染めるのも難しいだろうか。 「時間と共に変化したら面白いのだが」 同じような事は、砂漠の民〜風砂に煌く蒼星の刃・デューン(a34979)も考えていた。ただし彼が思案していたのはハーブティ。この花弁を浮かべたら、お茶も虹色になったりするのだろうか? 香りと共に虹色の変化を楽しめたなら。さぞ素晴らしいティータイムとなるだろう。 「そういえば、マルガレッテ殿下は今頃どうなさっているだろうか」 考えつつ、ふとデューンが呟いたのはマルガレッテのこと。今頃、ワイルドファイアでどうしているのだろうか。新しい街や宮殿は完成したのだろうか……。 「マルガレッテちゃん?」 「ああ。後で挨拶にも行きたいと思っているのだが……」 聞き覚えのある名に首を傾げたエルルは、その返事に「やっぱり、いろいろ大変みたいね」と応じた。聞けば、新しい家で快適に過ごしているようだが、移住直後なのもあり、それなりに慌しくもあるようだ。 「不思議ですね〜」 そんな中、くるっくると虹色の花の周囲を回っているのは、うっかり医師・フィー(a05298)だ。見る場所を変えれば、虹色のグラデーションもまた別のものに変わる。だから花の周囲を回りながら、色々な角度から花を観賞しているのだ。 でも、どうしてこんな風になっているのか、本当に不思議だった。 「……きっとこの環境が、お花の色を産み出してるのですね〜♪」 「この場所でしか咲かない花ですからね〜」 真似をして、くるっくる回るノエルが頷くと、それを見てフィーは言い放った。 「だからノエルさんが可愛いのも、周りの人達の影響に違いないのです〜♪」 「ボクですか? ……そうですね〜。今ボクがこうしているのは、皆さんのお陰なのですよ〜」 その言葉を受け止めて、ノエルはにっこりと、いつものように笑い返した。
●青空のランチパーティ 「ところで、お弁当は〜……」 太陽はそろそろ頭の上。フィーはふと、エルルを振り返った。 それはもう、とびきり期待の眼差しと共に。 「ああ、お弁当はババロアさ……ババロアさん?」 さっき荷物を預けたババロアの姿を探すが、見渡す限りどこにも姿は見当たらない。こんなに見晴らしのいい高原なのに……? 怪訝に首を傾げて、何かあったのだろうかと探しに行こうとするエルルやノエル。だがそれを、想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)が引き止めた。 「これを。……開けてみてください」 「なんですか?」 差し出したのはバスケット。ノエルが怪訝そうに蓋を開ければ、中身はサンドイッチと、それから。 クレヨンで書かれたノエルの絵。 「実は、リベルダさんの所に寄って来たんです」 ラジスラヴァはここに来る前、ノエルもよく知る孤児院に立ち寄り、プレゼントを預かってきたのだ。 「次に来た時は、みんなでお祝いしてやるからな〜って言ってましたよ」 「そうでしたか〜……」 本当は、彼らを一緒に連れて来れれば良かったのだが、孤児院からこの高原は遠すぎて、それは難しかったのだけれど。 でも、目を丸くしているノエルを見ていたら、誕生日のいいプレゼントになってくれて良かったと、ラジスラヴァは微笑む。 「あ、ババロアさん」 そこにそろ〜っと戻って来るババロア。彼女はサプライズの演出の為、あえてお弁当を持ち去って隠れていたのだ。 プレゼントを終えたのを見て、お弁当を置くババロア。エルルがそれを広げる間に、デューンも持参したオードブルを取り出す。更に、セフィンのバスケットから現れたのは、サツマイモと栗がたっぷり使われたパイだ。 「どれも美味そうだな」 言いながら、エラセドが出したのはバーレルから運んできたカレーだ。その香りに、ノエルのお腹が小さく鳴る。 「ノエルには、バースデーケーキも進呈するぜ」 その様子に応えるかのように、エラセドはワイルドファイアの木の実を飾ったケーキをノエルの前に置いた。添えられたキラキラ星の貝殻が『特別』な気分を盛り立てている。 「考える事は同じみたいだね」 一方、シェルトと微笑みの風を歌う者・メルヴィル(a02418)は顔を見合わせて笑う。何故なら、どちらの手にも、誕生日を祝うまんまるケーキがあったから。 「こんなにあるなんて、すごいのです〜!」 何個も集まったお祝いのケーキに、ノエルは歓声をあげた。みんなで一緒に囲んで食べられるだけでも嬉しいのに、それが何個もあるなんて。まるで、嬉しさが2倍3倍に膨れあがるかのように、ノエルの顔には満面の笑顔が満ちている。 (「……やっぱりノエル殿は可愛いのなぁ〜ん」) その様子に、ヒトのヒトノソリン・リル(a49244)はノエルこそが『弟にしたい冒険者同盟ナンバー1』じゃなかろうかと思いつつ、持参した料理を並べる。 今年勉強したパスタ料理と、それから、エルルが好きだというハンバーグ。 ……ハンバーグを見て、エルルが顔を輝かせたように見えたのは気のせいだろうか? 「全部美味しそうで、どれから食べるか悩むのです〜」 嬉しい悩みに唸るノエルだが、とにかく食べましょうですよ〜! と皆に呼びかけて。虹色の花を眺めながらのパーティが始まる。 わいわいと、賑やかに交わされる皆の声。みんなで一緒に過ごしながら、みんながくれた『おめでとう』の言葉を噛み締めて。 ノエルは本当に、幸せそうに笑うのだった。
●虹色を、抱きしめて 「カツミレのお茶ですの。ノエル様もどうぞ……ですの」 食事を終えて、セフィンが用意したカップを受け取ると、ふんわりと香りが広がった。 「……今年も、ノエル様が年を重ねられる事が嬉しいですの。冒険者はとても大変な場所に行かなければならない事が、たくさんありますの。でも……」 お茶を飲みながら、セフィンは言う。重騎士だからこそ、時には誰かを守る為、前に出る事もあるだろうけど……でも、その時には、ノエル自身も大切にして欲しい。 「また来年も、この先ずっと、きれいなお花を見に行くために……ですの♪」 「……はい」 そうですね、とノエルは頷く。 理由は、いくつかある。でも一番大きいのは……こうやって過ごす時間が、とってもとっても好きだから。 誰もいなくならないように、だから誰かを護れるように。……そうして、こんな風に、いつまでも過ごしていけるように。 「これからも、いろんなことが出来たらいいですね〜」 「あ。そういえば、こんな物を用意してありますの」 セフィンはバスケットから、タオルケットを取り出した。 虹の中で眠ることが出来たなら、きっと、とっても素敵なはず。そう思ってお昼寝用に準備しておいたのだ。 「今日はいいお天気だから、気持ち良さそうですね〜」 ならボクも、というノエルの他にも何人か加わって、虹色の花の傍でお昼寝タイム。 この陽気なら、きっといい夢が見られるだろう。 「ノエル、背、伸びたのなぁ〜ん?」 「そうなのです。この1年で大きくなったのですよ〜」 ふと目線の違いに気付いたリルの言葉に、ちょっと誇らしげな口調で答えるノエル。そのまま、更に何か問いかけようとしたリルだが、その前に、自ら首を振って止める。 この虹色の花を前に、それはなんだか無粋なような気がしたから。 (「皆の事を考えてるノエル殿とかエルルとか、もっと見習わないとなぁ〜ん」) 小さく苦笑いして、リルは野原の上に転がる。 「あの、えと……」 メルヴィルは草の上に座るキーゼルの元へ向かうと、ご一緒しても良いでしょうかと尋ねかけた。その言葉に、キーゼルは隣に置いていた鞄を退けて応じる。 そこに座ったメルヴィルは、キーゼルの横顔と、それから虹色の花を見つめて……そっと、花へ指先を伸ばす。 「……あ」 触れても、良いのだろうか? でも、そう思ったのは一瞬で。 「……えと、膝枕は、いかがでしょう?」 「そうだねぇ……たまには、子供達の真似でも、してみようかなぁ」 微笑みながら振り返るメルヴィルに、キーゼルはそう笑いながら、寝転んだ。 「クィリム?」 「え、あ、ごめんなぁん。ちょっとボーっとしてたなぁん……」 ジィルは、ふとクィリムの様子が普段と少し違うような気がして、その顔を覗き込んだ。慌てて首を振ったクィリムは、けれど視線を花に向けたまま呟く。 「おにぃちゃん……すっごく好きなもの、欲しがって手を伸ばしたら何かが変わっちゃうって解ったとき、おにぃちゃんならどうするなぁん……?」 あの花も、欲しがって摘んでしまえば、ただ白くなってしまう。 そっと、眺めてるだけなら、花も幸せなのだろうか? 「ク……」 「あ、ご、ごめんなぁん! なんでもないなぁ〜ん。それよりも、硝子の方の花を見に行こうなぁん」 口を開きかけたジィルに、クィリムは両手を振って立ち上がる。そのまま歩き出す彼女に、ジィルは答える機会を失った。
「むにゅ……んん〜、よく寝たのですよ〜」 ノエルは身体を起こすと、大きく背中を伸ばした。 気付けば空には、ほのかに茜色が広がり始めている。日没には、まだ時間がありそうだが、近くの工房に立ち寄ってから帰るのなら、そろそろいい時間だろう。 「ガラスの花も楽しみだね」 「はいっ」 帰り支度を済ませて、そう微笑むシェルトにノエルは大きく頷く。そうして冒険者達は虹色の花を見納めると、工房に向けて歩き出す。 「あ、ノエルくん」 そこに声をかけたのはババロアだ。振り返ったノエルに差し出されたのは一枚の紙。そこには、ババロアが描いた虹色の花があった。 「ノエルくんに、プレゼント」 「ありがとうなのです〜。とっても、素敵なのです」 今日の思い出を形にして残してあげたいと、そう考えたババロアからの贈り物を、ノエルは両手で大切そうに受け取った。 この絵を見たら、きっといつでも、今日の事を思い出せるだろう。
「……虹色の花が、いっぱいなのですね〜」 最後に、高原を振り返って、ノエルはそう呟いた。 きらきら揺れる虹色の花。まるであの花のように、自分の胸の中には、大切な大切な宝物が、いっぱいきらきらと輝いている。 (「これからも、素敵な出来事がたくさん訪れますように。――みんなに」) 自分、じゃなくて。誰かに、じゃなくて。みんなに、それが降り注ぐように。 そうノエルはくすっと笑うと、前を歩きながら早くおいでと振り返る皆を、追いかけて走り出した。
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参加者:11人
作成日:2008/10/25
得票数:ほのぼの12
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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