ノエルの誕生日〜虹色の花



<オープニング>


「そういえば、そろそろノエル君の誕生日ね」
 ふと、そう切り出したリボンの紋章術士・エルル(a90019)の言葉に、エルフの重騎士・ノエル(a90260)はこくりと頷き返した。
「はい、もうちょっとなのです〜」
「じゃあプレゼントを用意しなくちゃいけないわね。今年は何がいいかしら?」
 問いかけるエルルに、ノエルは少し考え込んで。それなら、と口を開いた。
「なら、虹色の花を見に行ってみたいのです〜」
「虹色の花?」
「んーと、花びらが虹色になってるお花なのです。グラデーション、みたいな感じらしいすよ」
 ノエルの説明に、そんな不思議な花があるのね、と目を丸くするエルル。でも虹色だなんて素敵ね、とエルルが微笑むと、ノエルはにっこり笑い返して。
「エルルおねーさんなら、きっとそう言うと思ったのですよ。それで、その虹色の花を見に行ってみたいと思ってたところだったのです」
 虹色の花は、とある高原に咲いている。座るためのシートやお弁当を持っていけば、ピクニックのようになるだろう。近くには木でできたテーブルや椅子もあるようだから、それを使ってもいいかもしれない。
 おひさまの下、草の上や木の椅子に座って、不思議な虹色の花を眺める。それはきっと、とても素敵なひとときになるだろう。

「この虹色の花は、この場所でしか咲かないのです。摘んでしまうと、何故かただの白いお花になってしまうそうですよ。不思議ですね」
 だから、できるのはただ、花を見ることだけ。
 摘むとすぐに色褪せてしまうので、何かに加工する事もできない。鉢植えなどにしようとしても、やはりすぐに虹色は消え去ってしまうのだ。
「でもですね、かわり……かどうかは分からないですけど、その高原では、ガラスのお花を売っているのだそうです」
 それは、虹色の花を模して作られたガラスの花。きらきらと陽の光を受けて、虹色にきらめく花が、そこにある。
「だから、虹色のお花を見た後は、そっちをお土産にするといいと思うのですよ」
「そうなんだ……。2つのお花を楽しめるなんて、ふふふ、なんだか素敵ね」
 今から見るのが楽しみだわ、と呟いて。エルルは折角だから、他のみんなも誘ってみましょうと提案する。
「そうですね〜。たくさんでお出かけする方が、きっと楽しいのです」
「じゃあ決まり。あとは……あ、お弁当は私に任せておいて。ノエル君の誕生日なんだし、腕によりをかけて頑張ってたくさん作っちゃうんだから。あ、何か食べたい物はある?」
「ボクは、みんなでお弁当が食べられたら、それでいいのですよ〜」
 みんなでいっしょに。それが一番楽しいのだから。
 そう言うかのような満面の笑顔で、ノエルは笑うのだった。


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参加者
NPC:エルフの重騎士・ノエル(a90260)



<リプレイ>

●虹色の花
 10月17日、それはノエルの誕生日。
 集まった冒険者達からのお祝いに、嬉しそうに笑うノエル。やがて、彼らは出発の時刻を迎えると、虹色の花が咲くという高原を目指して歩き始めた。
「虹色に咲く花なんて珍しいね……皆で眺めに行くのが楽しみだ」
「はいなのです〜。お花のところまで、きっとあっという間なのですよ〜」
 エルフの翔剣士・シェルト(a11554)の言葉に、こくこくと頷き返すノエル。
「空でなくて高原にある虹……すごいですの♪」
 その隣で、にっこり微笑むのは空舞う暁菫の剣・セフィン(a18332)だ。
 地面に咲く虹色の花。一体、どんな姿なのだろう?
 わくわく歩くノエルと一緒に胸を膨らませて、高原までの道を進んでいく。
 よく晴れた空の下を歩けば、心地よい風が吹いてきて。それは彼らに、今日が素敵な一日になることを予感させた。
「あともう少しかしら?」
 やがて目的地らしき場所が見えてくる。ここまでお弁当を運んできたエルルは、ふぅと一息ついた。
「エルルおねーさん、持つですよ?」
「あ、ノエル君。今日は貴方が主役よ?」
 手を差し伸べようとしたノエルを、そう紅い魔女・ババロア(a09938)が遮る。主役にそんな事はさせられないとばかりに、自分がお弁当運びを交代する。
「それよりノエル君は……ほら」
 そして、ババロアは前を指差した。
「うわぁ……!」
 そこに広がっていたのは、おひさまの光を受けて、キラキラきらめいている花々だった。それは赤、あるいは青、緑に黄色に紫に……風に揺れて、七色に咲き誇る虹色の花。
「すっごいなぁ〜ん! おにぃちゃん、ほらほらっ」
 思わず駆け出すのは、真白の歌い手・クィリム(a62068)。振り向いた彼女の視線の先では、コンフィデンシャルボーダー・ジィル(a39272)が感嘆の息を漏らす。
「すげぇ……虹色の花、ってだけでも、そうねぇのに。それが一面となると……夢みてぇな感じだ」
 クィリムを追いかけながら、ジィルは驚きを隠せない。
 風が吹いて揺れるたび、きらめくグラデーション。ほんの僅かな角度の違いなのに、虹の花は違う姿を覗かせる。その光景は、本当に見事の一言だった。
「とりあえず、あそこ座って茶にしよう」
「クィリム、お茶用意してきたなぁんよ!」
 木陰を指差すジィルに、ポットを取り出すクィリム。その瞳は、虹色の花を見た感動に輝いていた。
「見事なもんだな」
 南の星・エラセド(a74579)は大きく頷くと、この花で染物をしたら、何色になるのだろうかと考えた。
 もし、それが虹色に染まるのだとしたら。
(「フォーナ祭で、虹色の布で作ったドレスとかプレゼントできたら、最高だよな」)
 きっと、素晴らしい贈り物となるだろう。けれど、摘めばする色が失われて白くなってしまうという虹色の花だ。だとしたら、布を染めるのも難しいだろうか。
「時間と共に変化したら面白いのだが」
 同じような事は、砂漠の民〜風砂に煌く蒼星の刃・デューン(a34979)も考えていた。ただし彼が思案していたのはハーブティ。この花弁を浮かべたら、お茶も虹色になったりするのだろうか?
 香りと共に虹色の変化を楽しめたなら。さぞ素晴らしいティータイムとなるだろう。
「そういえば、マルガレッテ殿下は今頃どうなさっているだろうか」
 考えつつ、ふとデューンが呟いたのはマルガレッテのこと。今頃、ワイルドファイアでどうしているのだろうか。新しい街や宮殿は完成したのだろうか……。
「マルガレッテちゃん?」
「ああ。後で挨拶にも行きたいと思っているのだが……」
 聞き覚えのある名に首を傾げたエルルは、その返事に「やっぱり、いろいろ大変みたいね」と応じた。聞けば、新しい家で快適に過ごしているようだが、移住直後なのもあり、それなりに慌しくもあるようだ。
「不思議ですね〜」
 そんな中、くるっくると虹色の花の周囲を回っているのは、うっかり医師・フィー(a05298)だ。見る場所を変えれば、虹色のグラデーションもまた別のものに変わる。だから花の周囲を回りながら、色々な角度から花を観賞しているのだ。
 でも、どうしてこんな風になっているのか、本当に不思議だった。
「……きっとこの環境が、お花の色を産み出してるのですね〜♪」
「この場所でしか咲かない花ですからね〜」
 真似をして、くるっくる回るノエルが頷くと、それを見てフィーは言い放った。
「だからノエルさんが可愛いのも、周りの人達の影響に違いないのです〜♪」
「ボクですか? ……そうですね〜。今ボクがこうしているのは、皆さんのお陰なのですよ〜」
 その言葉を受け止めて、ノエルはにっこりと、いつものように笑い返した。

●青空のランチパーティ
「ところで、お弁当は〜……」
 太陽はそろそろ頭の上。フィーはふと、エルルを振り返った。
 それはもう、とびきり期待の眼差しと共に。
「ああ、お弁当はババロアさ……ババロアさん?」
 さっき荷物を預けたババロアの姿を探すが、見渡す限りどこにも姿は見当たらない。こんなに見晴らしのいい高原なのに……?
 怪訝に首を傾げて、何かあったのだろうかと探しに行こうとするエルルやノエル。だがそれを、想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)が引き止めた。
「これを。……開けてみてください」
「なんですか?」
 差し出したのはバスケット。ノエルが怪訝そうに蓋を開ければ、中身はサンドイッチと、それから。
 クレヨンで書かれたノエルの絵。
「実は、リベルダさんの所に寄って来たんです」
 ラジスラヴァはここに来る前、ノエルもよく知る孤児院に立ち寄り、プレゼントを預かってきたのだ。
「次に来た時は、みんなでお祝いしてやるからな〜って言ってましたよ」
「そうでしたか〜……」
 本当は、彼らを一緒に連れて来れれば良かったのだが、孤児院からこの高原は遠すぎて、それは難しかったのだけれど。
 でも、目を丸くしているノエルを見ていたら、誕生日のいいプレゼントになってくれて良かったと、ラジスラヴァは微笑む。
「あ、ババロアさん」
 そこにそろ〜っと戻って来るババロア。彼女はサプライズの演出の為、あえてお弁当を持ち去って隠れていたのだ。
 プレゼントを終えたのを見て、お弁当を置くババロア。エルルがそれを広げる間に、デューンも持参したオードブルを取り出す。更に、セフィンのバスケットから現れたのは、サツマイモと栗がたっぷり使われたパイだ。
「どれも美味そうだな」
 言いながら、エラセドが出したのはバーレルから運んできたカレーだ。その香りに、ノエルのお腹が小さく鳴る。
「ノエルには、バースデーケーキも進呈するぜ」
 その様子に応えるかのように、エラセドはワイルドファイアの木の実を飾ったケーキをノエルの前に置いた。添えられたキラキラ星の貝殻が『特別』な気分を盛り立てている。
「考える事は同じみたいだね」
 一方、シェルトと微笑みの風を歌う者・メルヴィル(a02418)は顔を見合わせて笑う。何故なら、どちらの手にも、誕生日を祝うまんまるケーキがあったから。
「こんなにあるなんて、すごいのです〜!」
 何個も集まったお祝いのケーキに、ノエルは歓声をあげた。みんなで一緒に囲んで食べられるだけでも嬉しいのに、それが何個もあるなんて。まるで、嬉しさが2倍3倍に膨れあがるかのように、ノエルの顔には満面の笑顔が満ちている。
(「……やっぱりノエル殿は可愛いのなぁ〜ん」)
 その様子に、ヒトのヒトノソリン・リル(a49244)はノエルこそが『弟にしたい冒険者同盟ナンバー1』じゃなかろうかと思いつつ、持参した料理を並べる。
 今年勉強したパスタ料理と、それから、エルルが好きだというハンバーグ。
 ……ハンバーグを見て、エルルが顔を輝かせたように見えたのは気のせいだろうか?
「全部美味しそうで、どれから食べるか悩むのです〜」
 嬉しい悩みに唸るノエルだが、とにかく食べましょうですよ〜! と皆に呼びかけて。虹色の花を眺めながらのパーティが始まる。
 わいわいと、賑やかに交わされる皆の声。みんなで一緒に過ごしながら、みんながくれた『おめでとう』の言葉を噛み締めて。
 ノエルは本当に、幸せそうに笑うのだった。

●虹色を、抱きしめて
「カツミレのお茶ですの。ノエル様もどうぞ……ですの」
 食事を終えて、セフィンが用意したカップを受け取ると、ふんわりと香りが広がった。
「……今年も、ノエル様が年を重ねられる事が嬉しいですの。冒険者はとても大変な場所に行かなければならない事が、たくさんありますの。でも……」
 お茶を飲みながら、セフィンは言う。重騎士だからこそ、時には誰かを守る為、前に出る事もあるだろうけど……でも、その時には、ノエル自身も大切にして欲しい。
「また来年も、この先ずっと、きれいなお花を見に行くために……ですの♪」
「……はい」
 そうですね、とノエルは頷く。
 理由は、いくつかある。でも一番大きいのは……こうやって過ごす時間が、とってもとっても好きだから。
 誰もいなくならないように、だから誰かを護れるように。……そうして、こんな風に、いつまでも過ごしていけるように。
「これからも、いろんなことが出来たらいいですね〜」
「あ。そういえば、こんな物を用意してありますの」
 セフィンはバスケットから、タオルケットを取り出した。
 虹の中で眠ることが出来たなら、きっと、とっても素敵なはず。そう思ってお昼寝用に準備しておいたのだ。
「今日はいいお天気だから、気持ち良さそうですね〜」
 ならボクも、というノエルの他にも何人か加わって、虹色の花の傍でお昼寝タイム。
 この陽気なら、きっといい夢が見られるだろう。
「ノエル、背、伸びたのなぁ〜ん?」
「そうなのです。この1年で大きくなったのですよ〜」
 ふと目線の違いに気付いたリルの言葉に、ちょっと誇らしげな口調で答えるノエル。そのまま、更に何か問いかけようとしたリルだが、その前に、自ら首を振って止める。
 この虹色の花を前に、それはなんだか無粋なような気がしたから。
(「皆の事を考えてるノエル殿とかエルルとか、もっと見習わないとなぁ〜ん」)
 小さく苦笑いして、リルは野原の上に転がる。
「あの、えと……」
 メルヴィルは草の上に座るキーゼルの元へ向かうと、ご一緒しても良いでしょうかと尋ねかけた。その言葉に、キーゼルは隣に置いていた鞄を退けて応じる。
 そこに座ったメルヴィルは、キーゼルの横顔と、それから虹色の花を見つめて……そっと、花へ指先を伸ばす。
「……あ」
 触れても、良いのだろうか?
 でも、そう思ったのは一瞬で。
「……えと、膝枕は、いかがでしょう?」
「そうだねぇ……たまには、子供達の真似でも、してみようかなぁ」
 微笑みながら振り返るメルヴィルに、キーゼルはそう笑いながら、寝転んだ。
「クィリム?」
「え、あ、ごめんなぁん。ちょっとボーっとしてたなぁん……」
 ジィルは、ふとクィリムの様子が普段と少し違うような気がして、その顔を覗き込んだ。慌てて首を振ったクィリムは、けれど視線を花に向けたまま呟く。
「おにぃちゃん……すっごく好きなもの、欲しがって手を伸ばしたら何かが変わっちゃうって解ったとき、おにぃちゃんならどうするなぁん……?」
 あの花も、欲しがって摘んでしまえば、ただ白くなってしまう。
 そっと、眺めてるだけなら、花も幸せなのだろうか?
「ク……」
「あ、ご、ごめんなぁん! なんでもないなぁ〜ん。それよりも、硝子の方の花を見に行こうなぁん」
 口を開きかけたジィルに、クィリムは両手を振って立ち上がる。そのまま歩き出す彼女に、ジィルは答える機会を失った。

「むにゅ……んん〜、よく寝たのですよ〜」
 ノエルは身体を起こすと、大きく背中を伸ばした。
 気付けば空には、ほのかに茜色が広がり始めている。日没には、まだ時間がありそうだが、近くの工房に立ち寄ってから帰るのなら、そろそろいい時間だろう。
「ガラスの花も楽しみだね」
「はいっ」
 帰り支度を済ませて、そう微笑むシェルトにノエルは大きく頷く。そうして冒険者達は虹色の花を見納めると、工房に向けて歩き出す。
「あ、ノエルくん」
 そこに声をかけたのはババロアだ。振り返ったノエルに差し出されたのは一枚の紙。そこには、ババロアが描いた虹色の花があった。
「ノエルくんに、プレゼント」
「ありがとうなのです〜。とっても、素敵なのです」
 今日の思い出を形にして残してあげたいと、そう考えたババロアからの贈り物を、ノエルは両手で大切そうに受け取った。
 この絵を見たら、きっといつでも、今日の事を思い出せるだろう。

「……虹色の花が、いっぱいなのですね〜」
 最後に、高原を振り返って、ノエルはそう呟いた。
 きらきら揺れる虹色の花。まるであの花のように、自分の胸の中には、大切な大切な宝物が、いっぱいきらきらと輝いている。
(「これからも、素敵な出来事がたくさん訪れますように。――みんなに」)
 自分、じゃなくて。誰かに、じゃなくて。みんなに、それが降り注ぐように。
 そうノエルはくすっと笑うと、前を歩きながら早くおいでと振り返る皆を、追いかけて走り出した。


マスター:七海真砂 紹介ページ
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作成日:2008/10/25
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