翼を得て宙に舞う



<オープニング>


 がしゃり、がしゃり。
 軽石でも踏むような音が、足元から聞こえる。
 お世辞にも心地よいとは言い難い骨の山を進み、どの位経ったか。
 脆く崩れ易い斜面にて一度足を止め、吟遊詩人・アカネ(a43373)は進む先をふいと見上げ……幾度かの瞬きを繰り返す。
 そして、気が付く。
 傾いた道程の途中、ぽつりと見える岩のような影が、動いている事に。

 がしゃり。
 骨の大地を蹴る音だけが響き――大きさを増した影が、斜面に身体を投げ出した。
 否、大きくなったのではない。
 左右に張り出したのは、腕――無数に散る肉片から皮膜を継ぎ接ぎして形作られた、歪な翼。
 辛うじて人型と判る胴に纏わりついた襤褸切れが、風を受けてはためく。
 見る間に。
 斜面に沿って急降下するその姿が、大きさを増し……俄に掻き開いた口腔に、光が灯った。
 擦れ違い様に。真横から打ち出された光の玉。
 散開しかわした初撃に……だが、着弾したそこで、不安定な斜面の骨は、瓦礫同然にぼろぼろと雪崩を起こす。
 転ぶや転ばぬや。ぐらつく身体を支えようと足を踏み締め――その隙を狙うかのように、異形の死者が今度は斜面を風と共に舞い登る。
 しかし、無造作に継ぎ接ぎされた翼は、それほど優れているわけではないらしく。精々が背丈の二倍か三倍か……浮かぶ事ができるのは、その程度。しかも、はばたいてに宙に留まることも出来ぬのか、身構える一行の真横を、真上を、行過ぎては戻り、戻っては行き。
 その度に、口腔の奥で輝く光が、玉となって降る。

 がしゃり、がしゃり。
 光に弾け崩れる足元に、体が揺らぐ。
 その視界の先に
 今一度、暗い光が灯る。


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参加者
アイギスの黒騎士・リネン(a01958)
吟遊詩人・アカネ(a43373)
踊る子馬亭の看板娘・ニケ(a55406)
時空を彷徨う・ルシファ(a59028)
剣舞二重奏・カレル(a69454)
信念を貫きし剣・アーク(a74173)
陽炎稲妻水の月・フォンゼイ(a74521)
人生を愉しむ・オーサム(a76630)


<リプレイ>

●骨
 からからと鳴る足場。
 旋回して再び向かい来る様を見上げ、宵の剣閃・カレル(a69454)は青い鎧の召喚獣と共に前へ。
「空を飛べるなんて、それだけでも強敵だけど……僕たちは1人じゃないから、負けない……!」
「みんなで力を合わせたら、きっと勝てるですよ♪ だから一緒に頑張るですよ〜♪」
 守られるようにして身構える、ちいさな勝利の女神・ニケ(a55406)の肩、ふと置かれる手の主へ。
「リネンさん、よろしくお願いしますなの〜」
 掛けられる言葉に頷き、アイギスの黒騎士・リネン(a01958)は見る間に大きさを増す死者とその翼を見据えながら、短く君を守ると誓う言葉を唱えた。
 かっと、掻き開かれた口腔に光が灯る。
 徐々に円形へと変わって行く陣の外周へ進み出る、吟遊詩人・アカネ(a43373)。
「骨の山でぇ、つよそうなぁ、アンデッドさんやぁ、わかったぁ、ゾンビジャイアントさんをぉ、見かけない気がぁ、するのですぅ」
 口にした言葉は、着弾した光に弾かれた骨の音に紛れる。
 前に骨の山で遭遇した相手を思い出し……ここまで来ると何でもありだなと内心でごちる、信念を貫きし剣・アーク(a74173)の足元、緑色の召喚獣を翻し、造作もかわしたはずの光が、足場の骨を砕き、攻撃に転じようとした手元を僅かに狂わせる。
 攻勢に転じず、踏み止まるに留めたその背で。
 内円にある三角形の陣の頂点の一つで、人生を愉しむ・オーサム(a76630)は行き掛けに飛び去っていく襤褸布を視線で追いかける。
 この敵と戦えるのも一度きり、一期一会を愉しもうではないか。長剣を握り身構える内心、過ぎる思いくらいは――少々格好つけてみるのもよし。
 そして、その視界の端に。
 背を合わせ、同じく内円の頂点に居る、陽炎稲妻水の月・フォンゼイ(a74521)の背を映し出す。
 やや単調な動き。
 だが、油断は禁物だ。注視は怠らず、旋回して再び向かい来る影に向けてフォンゼイが弓を引き絞ると、挙動に合わせて身を包みとぐろを巻く黒い蛇が、紫の吐息を吐いて零す……
 ……その矢が放たれるよりも早く。
 数歩前の外円を固める一人、時空を彷徨う・ルシファ(a59028)の腕が、くるくると小さな円を描く。
 その指先で、慣性に従い回転を始める薄手のチャクラム。風を切る程に鋭く回るそれは、敵が口腔を開く予備動作よりも尚早く、ルシファの手元を離れて行った。
 向かい来る骨へ……チャクラムは託された矢の力によって、不自然とさえいえる曲線を描き飛ぶ。
 ホーミング化した斬撃は今まさに飛び込んで来ようとする襤褸の、スカスカの横っ腹を捉え、滑空する骸の軌道に変化を生じさせる。
 あからさまにがくりと落ちた高度。
 このまま飛び続ければ追突しかねない軌道を前にもカレルは怯まず、騎上で二振りの斧を握り締める。
「始めから終わった時のことは考えない。僕らには勝利しかないんだ」
 腰に携えたカンテラが、不安定な足元を照らす。だが、今はそれよりも一瞬だけ眩い光が、両手の斧に灯る。
 目配せする隣、アークの握る二振りの刃にも、同じ色が煌く。
「我が一刀は雷の煌き……奥義、雷光一閃!」
「行こう!」
 重なる声に合わせ、四つの刃から一斉に稲妻が迸った。
 絡み合うように骸へと向かうサンダークラッシュ。青白い裁きの雷は骨しかない身体を駆け巡り、帯電する光の中にぼろぼろと白い粉を舞い散らせる。
 遂に高度を保てなくなった死者は、唐突な失速にがしゃりと骨の大地へ墜落した。

●坂
 着地の衝撃に軽い雪崩を起こす斜面。
 がらがらと落ちてくる無数の骨が……連鎖して不安定な足元を襲う。
 放とうとした光は一旦手元に留め、アカネがしゃがむように踏み止まる。
 その身体を、否、重心を落として雪崩に対抗する八名皆の身体を、たゆたう漆黒から生まれた温かい光が包み込む。
「いたいのいたいのとんでけ〜」
 両手で握り締めた槌――の形をした杖――を足元に突き立てながら、ニケが唱える。黒炎覚醒によって身を包む炎はその言葉に反応して一気に槌の先端へと集い、色を変えて弾けた光はヒーリングウェーブとなって、今しがた武骨な頭蓋によって受けたばかりの痛みを消し去っていく。
 その視線の先。
 がしゃり。
 乾いた音が、斜面の上方で鳴る。
 羽ばたきの音は重苦しく、不恰好な翼がいかにも飛ぶには適していない事を知らせるかのように。
 真っ直ぐ。輪を掛けて鈍い風切り音を乗せ、通り過ぎるように飛び上がってくるその軌道の先を読み、アカネは今度こそ、両の手に填めた術手袋を翳す。
 白葡萄の描かれた手袋に吐きかけられる、召喚獣の青いガス。
 ゆったりと、しかし、偉大なる衝撃によってもたらされる動作が、打ち捨てられた白一色の中で際立つ。
 指し示した指先から今まさに迸る、七色の衝撃。
 その背面から――フォンゼイの警告が聞こえる。
「来るぞ!」
 飛び上がる道すがらに、骸の口が蓄えた光を吐き出し――射線を塞いだはずなのに、向かって来ない光の軌道に、ルシファも咄嗟に声を上げる。
「真上から来ますよ! 内側の皆さんは気を付けて!」
 直後、光は陣の真中へ、放物線を描いてすっ飛んで来る!
 交差するように。
 フォンゼイが爪弾いた弓の弦からも、七色に彩られた矢が迸る。偉大なる衝撃を繰り出すその動作は、この不気味な骨だらけの景色の中、逆に違和感を感じる程に神々しくさえある。
 飛距離と引き換えに力を得た矢は、召喚獣の息を溶け込ませた証に紫の尾を引きながら、アカネの放った光と折り重なるようにして骸の背へ落ちていく。
 同じ頃。
 場違いに明るいファンファーレを聞きながら。
 ほぼ真上から振ってくる光の玉を見据え、オーサムは咄嗟に身を屈めていた。
 着衣は既に、リネンより賜った鎧聖降臨の力で、身軽な開襟シャツとジーンズ姿へと変わっている。
 恩恵は、今まさに。
 そしてそれは、オーサム自身が、しゃむに動くよりは耐え忍ぶことを選んだお陰でもあっただろう。
 構えた盾と剣に受ける衝撃は、まともに食えばただで済まないものだとすぐに察しがついた。けれども、ガードに徹することで発揮された鎧の加護は、その痛みをないに等しいものへと変えてくれる。
 ただ、受け止めた折の上からの衝撃は、踏み締めた両足を骨の中へと押し込む。
 姿勢を低くしたお陰でオーサム自身が転ぶことはないが……斜面になった足場は、僅かな綻びから不意に大きな流れへと転じる。
 中途に硬いくせに不安定とは、厄介な場所だと思う。
 流れてくる骨の欠片が次々足に当るのを感じながら、リネンは最後の一回である鎧聖降臨を、自身の身へと振り降ろす。
 その脇でがしゃがしゃと鳴る派手な音。
 二閃の偉大なる衝撃によって自由を奪われたが為に、自らの飛ぶ勢いによって斜面へ叩きつけられた骸の体が、崩れた骨と共に滑るように下方へ流れていく。
 図らずも離れて行く距離。
 しかし、ルシファのチャクラムならば届く。
 回転する輪の中へ、今度は薄く透ける闇色の矢を乗せて、ルシファはようやっと雪崩の収まった斜面下方へ目掛け、一撃を投じる。
 載せた貫き通す矢だけを骸へ残し、ヘアピンのような弧を描き舞い戻ってくるチャクラム。
 未だ立ち上がれぬ骸骨は、持ち上げかけた体を再び骨の地面に突っ伏し……襤褸布と皮膜が無ければ周囲の景色と見分けつかぬそこへと、皆はがらがらと鳴る足元を踏み締め、追撃を開始する。

●翼
 着地の寸前。
 ルシファが投げ放ったホーミングアローは、チャクラムの軌道を横向きの楕円へと変え、遂に骸の細い腰骨を砕き折った。
 無残に剥離した下半身はあっという間に骨の山の景色の中に紛れ、何処へ行ったのか判らなくなる。そして、足を失った骸は最早着地すら満足に出来ず、体当たりするかのように斜面へと転がり込む。
 また崩れ落ちてくる骨。
 だが、骸は皮膜のついた腕を動かし……その力で以って、再び斜面から飛び立つ。
「この軌道……頭上を通過しますよ」
 一足先に手元へ返って来たチャクラムを握り、ルシファが皆へ注意を促す。
 強引な離陸に雪崩れてくる骨……陣を移動しての回避は恐らく不利だ。皆も今は踏み止まることに気をそがれているだろう。何より、転ぶと格好悪い。ちょっぴりそんなことを考えながら、フォンゼイもまた骸の一挙一動に目を凝らす。
「流石に揚力が足りていないな。攻撃と共に突っ込んで来るかも知れん」
 その言葉に、外周を固めるリネンが深く腰を落す。それは、崩れる足場に踏み留まる為であり、そして……
 ――俄に。
 その頭上を、白く輝く光が、跳び越えた。
 渦を巻くようにして集う黒炎を慈悲の聖槍へと変え解き放ったのは、ニケ。
「いたいのいたいの、とんでっちゃうですよ〜★」
 ただでさえ、巧みに空を飛んでいたとはいえない有様だったのが、体の一部を失った骨の翼が最早ろくな回避行動を取れるはずもなかった。
 槍は吸い付けられるように襤褸布を纏う胸部へと突き刺さり、隠された骨も僅かに残った肉片すらも、粉々に砕き割る。
 ばらばらと振ってくる欠片。
 しかし、骸の口腔には変わらず光が灯り――いや、吐き出す間もなく、骸自身が失速して陣形の中に突っ込んで来る!
 ……この時の為に。
 リネンは迷わず、沈めた身体を両足で押し出す。
 追従して翻る緑色のマント。しかし、今はかわすことはせずに。両の手にした斧を構え、我が身を盾にしてニケらへと至る道を塞いだ。
 骸は光を吐き出しながら、立ち塞がるリネンへと激しく衝突する。
 光の炸裂と追突の痛みが、胴体部に重く響く。
 単調な攻撃だが、威力は中々のものだ。確かに、体力の低い者が「直撃」を食えば、不味かろう。
 だが。この程度の攻撃、重騎士にはどれ程という事もない。
 後方に控える三人を護りきった事への確信。しかし、リネンの身体は、弾けて零れた光の衝撃波による足場の崩壊と、追突の衝撃による体勢の崩れによって、斜面後方へと大きく傾く。
 そのまま、骸と共に陣形の中央へと倒れこめば、受身を取った反動も手伝って、斜面が今までにない雪崩を引起した。
「うわあっ」
「くっ」
「きゃあ〜!?」
「大丈夫か!」
 様々に上がる皆の声と共に、流されるままに崩れる陣形。
 更に、骸がひっくり返った身体を起こそうともがくたび、小さな雪崩が幾度も起こる。
 これ以上の追撃を許すまいと、ルシファは真っ先に陣形の穴を塞ぐように骨の斜面を駆けあがる。
「内側へは通しません!」
 その後方、からからと忙しなく鳴る戦場に、高らかな凱歌が響いた。
「この程度のぉ、アンデッドさんでぇ、重傷にぃ、なったらぁ、恥ずかしいのですぅ」
「ここを乗り切ればきっと……勝てるですよっ……!」
 アカネの歌声を聞きながら、ニケは未だ続く流れの中腰まで沈み込んだ骨を一緒に掻き分けるオーサムを激励する。
 そんなオーサムの視線の先に、青白い光が二つ……いや、四つ。
 猛々しく、跨る召喚獣の四足で崩れた骨を踏み締めて、白い斜面に立ち上がるカレル。その両腕に貯めた力が、稲妻となって握り締めた斧を光らせる。
 そこから少し前。
 膝まで埋まった姿勢のままで留まることを選んだアークの握る両刃に、同じ色の稲妻が灯っていた。
 その頭上を、フォンゼイの放った七色の光が飛び越える。
 片翼を圧し折るリネンの一撃を振り解き、起き上がったその身を、勝利を確信したかのようなファンファーレと共に偉大なる衝撃が撃ち据えた。
 硬直する骸。
 その瞬間を待っていたかのように、アークがオーサムへと一瞥を送る。
 応じ、オーサムはこの一瞬に、溜め込んだ野生の気の全てを、振り上げた切っ先から解き放った。
 怒号にも似たオーサムの声が、ワイルドキャノンと友に斜面を駆け上る。
 その声を合図に。
 アーク、カレルもまた、二振りずつの刃から、雷撃を放つ。
 気合と稲妻の轟きが、骨の山に交錯する。
 稲光に撃たれ、細やかにひび割れていく骸の身体。その胴を気の塊が射抜いた瞬間、骸の身体は粉々に砕け、斜面の骨の中に埋もれていった。

●山
 がしゃり、がしゃり。
 戦闘時とはまた違う音が、骨の山にこだまする。
「なんとも奇妙な敵だったな」
 皆と共に骨を粉々に砕きながら、フォンゼイがごちる。
 足場の骨も、とにかく目に付くものをできる限り粉々に。大切な後始末に黙々と従事するアーク。
 今度こそ本当に動き出さないよう、ニケも握り締めた槌の一番固い部分で、骨の節々を一つ一つ叩き割っていく。
 皮膜のついた翼も、原型がわからぬくらいに小さく分解して、カレルはふと。
「きっと、青い空を自由に飛ぶことに憧れていたんだね……」
 その言葉に、フォンゼイは来世では飛べる翼を得て平和に過ごせるようにと、静かに冥福を祈った。
 ルシファは骸が纏っていた襤褸布を拾い上げ、これでおしまいかと辺りを見回す。
 短かった遭遇と戦闘。
「愉しかったですよ」
 振り返って、笑うオーサム。
 休息を兼ねた暫しの時の合間、取り出したハーモニカで、寂寥な曲を奏で、斜面を渡る音の響きに耳を傾ける。
 やがて、八つの影は、斜面を下っていく。
 僅かに残る響きと、白い残骸だけを残して。


マスター:BOSS 紹介ページ
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参加者:8人
作成日:2008/10/27
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