【注意報発令!】キノコのこのこ注意報



<オープニング>


「長雨の季節は嫌ですよねぇ。洗濯物は乾きませんし、食べ物は腐りやすいですし。何だか外に出るのも億劫になって、本ばかり読んでしまいますよ」
 冒険者の酒場にて。
 香草茶の湯気を顎に当てながら、霊査士がひとり言のように愚痴っている。
 外は相変わらずの雨。
「おらは雨も暑いのも好きだけどなぁ。外に綺麗な花も咲いてただよ。今度一緒に見に行くべ」
 珍しくなだめ役になったゴタックの言葉に、ヴェインもようやく微笑を浮かべた。
「……そうですね。こういう季節があってこそ実る作物もある事ですし」
 読みかけの本を手に取って。そこで何かを思い出したような顔つきになった。
「あ、作物と言えば……この季節らしい依頼があるんですが」
 それを早く言わんかい、という突っ込みはごもっともですが……話を要約しますと。

 ある村に、酷く不精な男がいる。まだ若いのに日がな一日何をするでもなくブラブラだらだら。家も畑も荒れ放題。昔は働き者だったそうなのだが、1年前に妻を亡くしてからすっかり塞ぎこんでしまったらしい。
 村の人間も何くれとなく面倒を見、何とか立ち直って欲しいものだと話し合っていた。その矢先。
 長雨の始まったある日を境に、男の姿をパッタリと見なくなった。さてはまた家に閉じ篭っているのだろうとある村人が様子を見に行くと……

「キノコがあったんです」
「きのこ?」
「ええ、大きな家を覆い尽くす程の大量のキノコがわんさかと。しかもそのキノコは人が近付くと胞子を撒き散らして……」
「ど、毒キノコなんだべか?!」
 驚くゴタックに、ヴェインはさらりと言った。
「はい。まぁ、一種の魔物ですね。その胞子に触れた人間の頭には何故か一瞬でキノコが生え、前後不覚の混乱状態に陥ってしまいます。幻覚も見えるようですね。キノコを抜けば元に戻りますが」
「なんだ、じゃぁ平気だべな」
「抜くときに、変な声を上げますけれど」
「………」
 何だか、ものすごく嫌なキノコだ。ゴタックはともかく、周囲で話をなんとなしに聞いていた冒険者達は思った。
「村人への被害は今のところ少ないんですが、家主のドーリンさんが家に閉じ込められているので、早急に助け出して頂きたいんです」
 霊査の結果、ドーリンは家の奥、窓も無い狭い部屋で身動きが取れない状態に陥っている事が分かった。さらにそこには、キノコ魔物の親玉がいるようだ。
「キノコそのものはそれ程強くはありませんが、胞子と親玉が厄介ですね。どうか、お気を付けて」
「判ったべ! み、みんなも来てくれるよな?」
 頭を下げたヴェインに頼もしく返事をすると、ゴタックは周囲にいた冒険者達を縋るような目で見たのだった。

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参加者
明告の風・ヒース(a00692)
柳緑花紅・セイガ(a01345)
星刻の牙狩人・セイナ(a01373)
深森の弓猟犬・ドラート(a01440)
雪舞小笑・エレアノーラ(a01907)
ニュー・ダグラス(a02103)
剣舞姫・カチェア(a02558)
無垢なる闇払う白雷・リンディ(a06704)
NPC:深緑蒼海の武人・ゴタック(a90107)



<リプレイ>

●キノコ海峡
 小雨のそぼ降る中。
 村に到着した冒険者達は一通りの情報収集を終えると、ドーリンの家に向かった。
「これは……」
 一目見て、剣舞姫・カチェア(a02558)は絶句する。想像を超えた茸の海が眼前に広がっていた。家らしき部分は全て茸に侵食され、屋根の先だけが辛うじて判別できるだけだ。
「ファンシーで能天気な水玉ですね。もしやこれは伝説の……」
 明告の風・ヒース(a00692)が目を輝かせて一言。確かに家を覆う茸は全て赤地に黄色の水玉模様で、幻想的と言えなくもない。因みに踏んでも巨大化はしません。残念。
「ロッシュを連れて来なくて良かった…… じゃなくて、早くドーリンさんを助けないと!」
 愛猫効果で気を取り直した深森の弓猟犬・ドラート(a01440)が呆然としている仲間を促すと、慌しく準備が始まった。
「えーと、耳栓…… って、ゴタックの耳はどこだ?」
 柳緑花紅・セイガ(a01345)は持参した耳栓を片手に、深緑蒼海の武人・ゴタック(a90107)の耳探しを担当。それは茸の叫び声を怖がったゴタックへの、彼なりの友情だったのだが。
「多分、この辺りだな」
「多分?!」
「ゴタックさん、私の声は聞こえていますか?」
 見かねた微笑媛・エレアノーラ(a01907)が手伝って何とか問題も解決。身支度も万全に整った冒険者達は霊査内容と村人から聞いた情報を元に、救出最短ルートを話し合った。
「玄関から行くしかねぇな♪」
 キラリと漢笑いでニュー・ダグラス(a02103)が結論を下す。ええと、楽しそうなのはナゼでしょう。
「流石に壁を壊して強襲って訳にも行かないしね」
「では行くぞ!」
 魔笑白雷・リンディ(a06704)も笑って頷き、先ずはカチェアがリングスラッシャーを召還した。衝撃波は弧を描いて庭の茸を刈り取りに掛かる。攻撃を受けたファンシィ茸は一斉に胞子を撒き散らした。それを見たリンディが試しにストリームフィールドを発動したのだが、胞子はそれをものともせず漂ってくる。どうやら、効果は無いらしい。
「茸の海にダイブしたくねぇなら、コレを渡れ!」
 土塊の下僕を並べて寝かせ、玄関までの道を作ったダグラスが先行して『下僕橋』を渡って見せる。それに習って後続も渡りきり、何とか全員が家への侵入を果たした。

●キノコ屋敷
 内部はさらに酷い状況だった。床にも壁にも天井にも、ファンシィ茸がびっしり生息している。廊下は人が進める隙間も無い。
「採っても、採っても追いつかないぜ!」
 胞子対策にマスクで顔を覆い、籠を背負ったドラートは、通り道を作る為に必死の茸狩りを決行。抜かれる度に『きゃーきゃー』と悲鳴を上げる茸たち。
「……救出したら、お掃除も兼ねて怠け癖の再教育だね」
 綺麗好きのエレアノーラにとってコレは許容範囲を大幅に超えている。怒りは自然と不精な家主に向けられた。決意を胸に、浮かんだ笑顔はちょっぴり怖いです。
「俺って綺麗♪」
「ダ、ダグラスさん?!」
 突然、手鏡を取り出したダグラスが漢照れ笑いで呟き始めた。その頭にはファンシィな茸がぴょこんと生えている。
「えいっ!」
「がふっ」
 驚く仲間を余所に、エレアノーラの対応は素早かった。オーブをダグラスの後頭部に投げ付け、彼が昏倒した所で一気に茸を引き抜く。
『漢――!!』
 そんな叫び声を上げて、茸はきゅぽっと引き抜かれた。
「うう…… 頭が割れそうだぜ」
「ダグラスさん! しっかりして下さい!」
 まだ朦朧としている彼をヒースが助け起こす。エレアノーラがヒーリングウェーブで癒すと、意識もハッキリしてきたようだ。
「早く通り抜けないと危ないぞ」
 その合間にもドラートは茸狩りを急ピッチで進めた。背負った籠はたちまち茸で一杯になる。セイガも刀で次々と茸を薙ぎ払い、カチェアのリングスラッシャーも限界まで召還されフル稼働だ。そんな中。
「うにッ!! 必殺の『ゴタック尻尾旋風』で回避ですね!!」
「こうだべか〜?」
 星刻の牙狩人・セイナ(a01373)がゴタックに尻尾を振って胞子から身を守るよう、身振り手振りの指導中。素直に尾を振るゴタックを見てカチェアはどっと力が抜けた。
「何をやっておるのだ……」
「道が出来たぞ!」
 次の間への突貫を終えたセイガの言葉に全員が素早く廊下を抜ける。ボヤボヤしていては生え続ける茸に道が塞がれてしまう。
「ここよ!」
 リンディが奥への扉らしき場所を指し示した。
「よし! こーなったら派手に行くぜ!」
 カットラスを構えたセイガが怒涛の斬撃、ソードラッシュで茸ごと扉を破った。その途端、茸が雪崩のように部屋から転がり出てくる。
「きゃあぁぁ!!」
 あまりの不潔さに、エレアノーラは悲鳴を上げた。
「もう、絶対に許さないからね! ドーリンさん!」
 え! そっち?!
「どうやら、当たりだな」
 雪崩が収まり、室内を一瞥したセイガは不敵に笑った。狭い部屋の中央に、体長2メートル程の巨大茸が濃厚な胞子を振り撒いて鎮座している。
「煮ても焼いても食えない奴っていうのはこう言うのを指すのね」
 奏杖・星無月無を構えたリンディが茸親玉を睨み付ける。狭い部屋が厄介だった。これでは複数で同時に攻撃する事が難しい。さらに、問題のドーリンがこの部屋の何処にいるかも判らない。
「とにかく、動きを止めます!」
「援護するぜ!」
 ヒースとドラートが入り口の隙間から影縫いの矢を射た。行動を封じた所で、太刀を抜き放ったカチェアが一気に間合いを詰める。
「待て! 俺が相手だぜ!」
「何?!」
 だが間にファンシィ茸を生やしたダグラスが立ち塞がった。再び混乱に陥ってしまった彼には、仲間が茸に、茸が仲間に見えるらしい。
「バカ!」
 バシーン!!
「ぐはっ」
 そんな相棒にヒースが平手打ちをかます。バックに夕日の幻影を背負って。
「あの日誓った友情を忘れてしまったんですか!」
「……ヒース」
 嗚呼、漢友情物語。そこにハイドインシャドウで忍び寄ったセイガがダグラスの頭から茸を引っこ抜いた。
『友情――!』
「は! 俺はいったい何を?!」
「……あのなぁ」
 我に返ったダグラスを生温かい目で見るセイガ。その視線で彼は全てを悟る。
「畜生! 漢の純情、踏みにじりやがって!」
 怒りに燃えたダグラスが意味不明な漢怒声を上げ空中に紋章を描くと、輝く銀狼が茸親玉に猛然と襲い掛かった。
「今ですね! チェーンジ☆ 鬼セイナ!」
 好機と見たセイナの表情がガラリと変わった。結わえた髪を振り解くと、金糸が彼女をふわりと取り巻く。素早い動作で弓を構えたセイナは、茸親玉の胴体付近から人の手が垂れ下がっているのに気付いた。
「成る程……ドーリンを宿主にしてるのね? でもオイタはそこまでよ!」
 妖艶に笑った鬼セイナから、ホーミングアローが放たれた。矢は狭い隙間を縫って茸親玉に命中する。
『シャー!』
「っと、させるかよ! 俺は負けてないんだ―――!!」
 銀狼を撥ね退け、鋭い牙を剥き出した茸親玉の攻撃はセイガの『紅蓮の咆哮』が阻み。
「これで終わりにする!」
 カチェアの連続攻撃、スピードラッシュが炸裂!
『レイナ―――!!』
 絶叫を最後に、巨大茸は倒れた。その衝撃で囚われていた青年が床に投げ出される。
「ドーリンさん!? しっかり!」
 生気の無い彼の顔色を見て、直にエレアノーラは癒しの力を使った。
「レイナ……奥方の名前だろうか」
 カチェアがぽつりと呟いた。

●雨後、晴れ
 屋外にドーリンを運び出した冒険者達は彼が目覚めるのを待った。その間にもリンディは茸屋敷の掃除を開始している。
「事後処理の方が大変よ……」
 親玉が倒され大人しくなった茸たちだったが、これを全て片付けるのには相当の根気が必要に思えた。やがてドーリンが意識を回復し、冒険者達は事の顛末を手短に伝える。
「そんな事が……申し訳ない。ご迷惑をお掛けして。……ありがとう」
 俯いて礼を述べたドーリンだったが、声に生気がなかった。それを感じたカチェアがゆっくりと口を開く。
「悲しみに暮れていたお前をどうにかしたくて、奥方が、あの魔物と私達を呼んだのかも知れぬな。……多少は、荒療治だが」
「!」
 ぎくりと、青年の痩せ衰えた肩が震えた。
「篭っていては駄目なのですね。別れは悲しいけど、じっと沈んでいたら、お嫁さんが可哀相なのです」
 セイナも顔を覗きこみ、視線を合わせて懸命に言葉を紡いだ。真直ぐに見てくる青い瞳が眩しいのか。灰色に曇った瞳が泳ぐ。
 そのやり取りを見ていたヒースが突然、茸を掴み採ると胞子を吸い込んだ。
「ヒース?!」
「きゅ〜ん♪ 遊んでコン♪」
 セイガが止める間もなく。頭に茸を生やしたヒースがドーリンに纏わり付いて前後不覚の可愛いペットに。
「止めろって!」
 きゅぽん。
 セイガが急いで茸を抜くと、ヒースは我に返って赤くなる。始めは驚いたドーリンだったが、その様子を見て思わず笑った。
「アハハハハ…… あ、すまん、つい」
「いいえ、こちらこそ。あの……笑ったら、お腹が空きませんか?」
「……ああ、そうだな」
 久し振りに笑った事で何かが吹っ切れたのか、ドーリンは素直に頷いた。顔色も先程より大分良い。
(「ちょっとした事がキッカケで、人というのは力が湧いたりするものです」)
 そのきっかけになれたのなら、ヒースは満足だった。
 タイミング良く、庭から香ばしい匂いが漂ってくる。リンディが茸を焼いているのだ。
「この茸、食べましょう!」
「マジか?!」
 ある意味勇者なヒースの宣言はセイガを驚愕させた。
「でも、美味そうな匂いだべ」
 ぐう〜〜〜。ゴタックのお腹が鳴って、今度は皆が笑う。
「うに〜♪ いつかは晴れるのですね♪」
 晴れ間に虹が架かるように。そう願うセイナの瞳には雲間から差す日差しが映って、キラキラと輝いていた。

 雲は、いつか晴れるから。

 その後元気を取り戻したドーリンさんは、エレアノーラに厳しく怠け癖を矯正され、立ち直ったらしい。


マスター:有馬悠 紹介ページ
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参加者:8人
作成日:2004/06/21
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