全ての人に愛の手を〜秋祭りの食材を守ろう〜



<オープニング>


●来訪者 
 それはとある秋の日の出来事だった。
 風雨の貴婦人・ウィンディ(a60643)が、旅団本拠地の裏に当たる森を散策していると、街道の向こうからやってくる二つの人影を見つける。
「確かあの道の向こうは……」
 街道は近くの山裾までの伸びており、そのふもとには小さな村があったはず。
「なにかあったのでしょうか?」
 小首を傾げながら、ウィンディはその場で足を止め、二人がこちらにやってくるのを待つ。
 やがて二人は、ウィンディの前までやってくる。
 二人はウィンディの予想通り、山裾の村の住人だった。
 中年の男が村長と名乗り、老人は長老と名乗る。
 よほどせっぱ詰まっているのか、二人は自己紹介を終えるやいなや、すぐに本題を切り出す。
「ここに冒険者の旅団があると噂で聞きましてな。お願いに参ったのですじゃ」
 切実な訴え。よく見れば二人とも、靴も服もくたびれている。いくら街道が通っているとはいえ、一般人にここまでの道のりは十分な負担だったのだろう。まして、村長はともかく長老は、見た目の通り、かなりの老齢だ。
 無論、ウィンディが彼らの声に耳を貸さないはずがない。
「お話を伺いましょう」
 ウィンディがそう答えると、二人は堰を切ったように村の状況を話し始める。
 それは、客観的に見れば、小さな村を襲った小さな悲劇。
 だが、当人達の取ってはまさに死活問題といってもいい難題。
 話を聞き終えたウィンディは、二人を安心させるように笑顔を浮かべ、
「解りました。皆さんの期待に応えるよう対処致しましょう」
 小さく一つ頷くのだった。

●夜のリビング 
「実は、昼にちょっと来客があったのですが」
 その日の夜、旅団のリビングで皆がくつろいでいるところに、ウィンディは昼の話を始めた。
「彼らの村が、定期的にピルグリムグドンに率いられた、犬グドンの群に襲われているのだそうです」
 幸い、村人の死傷者は出ていないが、グドン達は、村人達が『秋祭り』の為に丹誠込めて育てていた家畜を、次々とさらっていくのだという。
 おかげで村人達はすっかり意気消沈している。
 残った秋祭り用の家畜は15頭。最悪、5頭もいれば、秋祭りは開催可能だが、かなり寂しいものになる。
「というわけで、私たちの手で、家畜を守り、グドンを退治しましょう。無事、家畜を守り切れれば、『秋祭り』に私たちも招待してくれるそうですよ」
 無論、否と言う者はいなかった。


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参加者
風雨の貴婦人・ウィンディ(a60643)
旋風の狂戦士・フウマ(a63527)
銀色の突風の乙女・サフィア(a68507)
闇風の魔導師・ルシフィ(a69843)
黎明の大地・ヒィユ(a70456)
緋炎の獅子・コウヤ(a74971)
蘭の愛し子・フウラン(a75362)
漆黒の薬師・カーミラ(a76163)


<リプレイ>

●小さな村
 小さな村の秋祭り。それは、大陸全体から見れば、取るに足らない小さな行事に過ぎないのかも知れない。だが、その村にすむ者達にとっては、一年の苦労を忘れるための、大事な晴の日なのである。
 だから、その大切な秋祭りの為の家畜が、度重なるグドンの襲撃によって全滅しようとしているというのは、大げさではなく村の存続に関わる大問題なのであった。

「また、グドンか。生きるのに必死なのだろうが、他者のものを力で奪う行為……許せるものではないな」
 黎明の大地・ヒィユ(a70456)が、そう小さく呟く。
 それに答えたのは隣を歩く、闇風の貴公子・ルシフィ(a69843)だ。
「ああ。全く行儀の悪いグドンどもだ。その身をもって反省してもらわないとな……」
 そう言いながら、確認するように白い長杖を握り直す。
 一行が向かっているのは、村の共有家畜小屋だ。
 他の家屋から若干離れたところに立っているその建物からは、家畜達の鳴き声が聞こえてきている。
 冒険者達は早速、家畜小屋やその中の家畜の状態を調べ始めた。
 小屋は以外と頑丈そうな作りをしている。これならば、北と南の入り口以外からグドンが入ってくることはないだろう。
 突風の愛し子・サフィア(a68507)は家畜小屋のドアを開け、中の家畜達に声をかける。
「安心してね。私達が必ず守るから」
 サフィアはそう微笑みかけると、家畜小屋の戸を閉めた。

 冒険者達は、当初の予定通り4人ずつ二つの班に分かれる。
 1班の4人が主戦場となる南の広場に陣取り、2班の4人が2人ずつ二手に分かれ、小屋の北と南の入り口を守る算段だ。
「ねぇさま……いってきますの……お約束守るですの」
 蘭の愛し子・フウラン(a75362)は、実戦を前にした不安を押し殺し、姉と慕う、風雨の貴婦人・ウィンディ(a60643)にそう告げる。
「ええ」
 ウィンディは、小さく笑うとフウランを勇気づけるように、その頭を優しく撫でた。

●警備、配置
 グドンの襲撃に備え、冒険者達は二手に分かれ待ち受ける。
 小屋を直接守るのは4人だ。小屋北の入り口を、ウィンディとサフィアが、南の入り口をルシフィとヒィユが固める。
 小屋を挟んで背中合わせになっているので、お互いの姿は見えないが、大声を出せば十分に会話が出来るくらいの距離だ。
 残る4人、旋風の狂戦士・フウマ(a63527)、太陽の剣・コウヤ(a74971)、フウラン、闇を纏う魔女・カーミラ(a76163)は、小屋南の広間で待機している。
「通常なら即南側だけど……ボスに少しでも知恵があればわからないものね」
 北側の警備についたサフィアは、そうウィンディに話しかける。
「そうね、ピルグリムグドンだから侮れないわよ」
 ウィンディはそう頷き返すと、油断無く辺りの気配を伺う。
 今までもグドンの襲撃は常に南の広間から、南側の入り口に対し行われていたそうだ。
 北側の入り口にやってくる可能性は低いが、だからといって無視はできない。
 ウィンディの言うとおり、グドンの中にもまれにある程度知恵が回るヤツいることもあるからだ。
 とはいえ、やはり頭の回るグドンは少ないのが現実だ。
「来たっ!」
 南の広間から、そんな声が聞こえてきたかと思うと、次の瞬間には大地を蹴る複数の音と、獣じみた雄叫びが響きわたる。
 グドンの襲撃だ。
「グラウル、お前の力を借りるよっ」
 サフィアは自分の召還獣にそう声をかけると、融合を果たし、戦闘状態に移行する。
 すぐに南の広間に駆けつけたいところだが、広間の戦線が突破されてこちらまでやってこないとも限らない。
 ウィンディとサフィアは、南から聞こえてくる仲間達がグドンと戦う音を耳にしながら、その場の守りから外れなかった。

●グドンの襲撃
 グドン達の襲撃は、気が抜けるくらいに単純なものだった。
「ガアア!」
 単純明快に、30匹のグドンの群が、南からまっすぐ冒険者達が待ちかまえる広場へのと走ってくる。
 度重なる襲撃の成功に、すっかり警戒心を無くしているのだろう。
「ピンイン……おいで……人の楽しみを奪う物達には寝て戴きましょうね」
 フウランはそう言うと、カメオに指で触れながら、自らの召還獣に声をかける。
 その声に答えるように、ミレナリィドールは、フウランが守っている白いローブの裾をそっと掴んだ。
 グドン達は「俺達は無敵だ」、と言わんばかりの勢いでまっすぐこちらに駆け来る。
 最初に攻撃に出たのはカーミラだった。
「……すみませんが……消えて……貰います……わ……」
 カーミラはそう言うと、紫の宝石の付いた杖を迫り来るグドンの群に向ける。
「……食らいなさい」
 杖に導かれ放たれる無数の黒針が、勢いよく迫り来るグドンの群に突き刺さる。
「ギャッ!?」
 数匹のグドンが絶命し、その場に崩れ落ちた。さらに何匹かのグドンが、その死体に足を取られその場で転倒する。
 続いて攻撃を加えたのは、フウランだった。
「いきますの」
 シャンと鈴の音色を響かせ、踊るように霊布を振るい、エンブレムシャワーを放つ。
「ギャワッ!」
 無数の光線が、複数のグドンを撃ち貫いた。
 予想外の攻撃に、グドン達は完全に浮き足立っている。
「キミ達にやる食料は無いなぁん! 楽して食料を得るのは許さないなぁん!」
 そう宣言する声に乗せ、フウマが紅蓮の雄叫びを放つ。
 裂帛の怒声をくらい一匹にグドンが凍り付いたように、その足を止める。
 そこに今時に輝く両手剣を掲げ、突撃を敢行したのが、コウヤだった。
「大切に育てたヤツを強奪とはいただけないぜ?」
 青いグランスティードに跨ったまま、コウヤは両手でもつ大剣を流麗に振るう。
「ピギィ!」
 切り裂かれたグドンがバタバタと倒れていった。

 その戦闘の様子を、小屋の南側の入り口を守るルシフィとヒィユは、黙ってみていた。
 今回の依頼の最重要ポイントは「家畜を守りきること」、である。グドン達がフウマ達の防衛ラインを抜いて小屋にやってこない保証がない限り、ここを動くわけには行かない。
 しかし、実際にはグドンの足は止まっていた。
 完全に浮き足立っており、こちらにやってくる気配は全くない。
 これならば、自分たちも加勢してすぐに殲滅した方がいいだろう。
「グドン達は全部、広間に集まっている。そっちも来い」
 ルシフィは、小屋の北側の入り口を守っているウィンディとサフィアに大きな声でそう告げると、南の広間へと駆け出した。
 ヒィユもすぐにそれに続く。
 戦闘はすぐそこの広場で行われているのだ。冒険者が一寸全力疾走すればすぐに、戦闘領域に到達する。
 走りながら、ヒィユは骨製の杖を構える。
「貴様らに恨みはないが、村人達の想い……報いを受けてもらうぞ」
 そう言って、杖を一振りし、ニードルスピアを放つ。
「ギャウ!?」
 浮き足立っているグドン達がまた、数匹纏めてバタバタと落ちる。
 一瞬遅れて、戦闘領域にやってきたルシフィは、その灰色の双眼で戦場を見渡し、ボスであるピルグリムグドンを探す。
 いた。
 グドンの群の一番後方で、粗末な木製の杖を振りかざし、しきりにグドン達を鼓舞している。
「ギャッ、ギャッ!」
 さらにグドンは杖の先から黒い炎を飛ばす。
 炎は最前線で剣を振るうコウヤの肩を焼いた。
「クッ」
 コウヤが苦痛に顔をしかめる。やはり、他のグドンのちんけな攻撃とは違い、ピルグリムグドンの攻撃は、侮れない。
「……頑張って……ください」
 カーミラが後方からヒーリングウェーブでコウヤの傷を癒している間にルシフィは、ピルグリムグドンに、ターゲットを絞る。
「雑魚に用はない。ボスが消えればただの化け犬だからな」
 ルシフィは口の両端を持ち上げ、笑みの形を作りながら、スキュラフレイムを撃ち放つ。
「ギャッ!」
 三頭魔獣型の炎を食らったピルグリムグドンは、大ダメージ受け、その場に蹲る。
 丁度その時だった。
「ごめんなさい、一寸遅れたわ」
「参戦させて貰うわ」
 小屋の北の守りについていたウィンディとサフィアが合流を果たしたのだった。

●殲滅、後始末
 ウィンディとサフィアがやってきたときには、既にグドンの半数近くが物言わぬ肉塊と化していた。
 それでも、逃げ出すものがいないのは、勇気があるわけではなく、あまりに予想外の展開に、思考が停止しているだけだろう。
 出来るならば、グドンは殲滅が望ましい。
「はっ!」
 サフィアは、両手で持つナギタナを勢いよく振るい、リングスラッシャーを生む。
 リングスラッシャーはモンスターや冒険者の相手としては心許ないが、グドンが相手ならば十分な戦力となる。
 一方ウィンディは、ボスであるピルグリムグドンを見据え、杖を構えていた。
「消えなさい! ここはアナタの縄張りではないわ!」
 振り下ろす杖に導かれるようにして、燃えさかる木の葉がピルグリムグドンに襲いかかる。
「ピギャアア!」
 炎にまかれたピルグリムグドンは、耳障りな悲鳴を残し、絶命した。
 これで残るは、10匹前後の犬グドンのみ。
「ガウ……?」
 ただでさえ混乱していたグドン達は、頼みの綱のボスがやられ、完全にパニックを起こしている。
「ギャワッ!」
「ギャギャッ!」
 グドン達は地面を転がるようにして逃げ出した。
 だが、その短い足で同盟冒険者から逃げ切るというのは、不可能に近いのが今の現実である。
「僕達から逃げるとは、生意気な犬だなぁん!」
 フウマはあっいう間に追いすがり、一気にいぬグドン達の前に込む。
 そして、うろたえる犬グドンの頭上に力一杯、巨大剣を振り下ろす。
「ギッ……」
 グドンは悲鳴を上げる間もなく、絶命した。
 退路まで断たれた残りのグドンに抵抗するすべは無い。
 そこから先の戦いは、殲滅と言う名の作業でしかなかった。
 程なくして、30匹のグドンは全て葬られるのだった。

 30体のグドンの死体をこんな村のすぐ側に放置しておく訳にはいかない。
 冒険者達は、広場の片隅を大きく掘り返し、そこにグドンの死体を埋葬する。
「29、30……よし、打ちもらしはないな」
 死体を放り込みながら、ヒィユはその数を丁寧に数える。
 そうして全ての死体を投げ入れた後、土をかぶせ、埋葬を済ませる。
「……君達の次の生に、幸多からん事を」
 最後にヒィユはそう言って、グドンの鎮魂を祈るように、しばし黙祷を捧げるのだった。

●秋祭り
 冒険者達から、無事グドンを退治したという報告を受け、村は大歓声に包まれる。
「ありがとうございます。大したおもてなしもできませんが、冒険者の皆様も今宵の秋祭りに参加してください」
 目尻に涙を浮かべて、村長がそう言ってくる。
 無論、冒険者達にそれを断る理由はどこにもなかった。

 夜になり、秋祭りは始まる。祭りと言っても特別な催し物があるわけでは無い。
 ただ、たき火を焚き、肉を焼き、一晩中食べ明かし、飲み明かすだけだ。
 だが、こんな小さな農村では、眠らない夜と言う物自体が、特別なのである。
 住みきった秋の夜空に、パチパチと火の粉が舞い上がる。
「美味しそうだなぁ〜ん♪」
 早速、フウマはジュージューと音を立てて焼ける肉の臭いに、嬉しそうな声を上げている。
 そのまま、ものすごい勢いで食べ始める。
 わんこそばでも食べるようなスピードで空の皿を重ねていく、フウマに、フウランがおずおずと声をかける。
「フウマ様……皆様の分が……もう……」
 無論、祭りの料理は1人や2人で食べきれるほど少なくないのだが、あまりのフウマの食べっぷりに、思わずフウランはそう言ってしまった。
 急ぎ、別な皿に仲間の分を取り分ける。
 一方別なところでは、カーミラが、ルシフィに村の地酒を勧めている。
「どうですか? 少しだけでも……」
「ありがとう、やはり祭りには食事と酒がたくさんないとな」
 ルシフィはカーミラから地酒の入った木製のジョッキを受け取ると、それを一口口に含む。
 強い香りと、ほのかな苦みが口に広がる。
 洗練された味ではないが、悪くない。
 夜が更けるにつれて、村人達の笑い声も段々大きくなっていく。
 それを見てると、コウヤの表情も自然とほころぶ。やはり、こうして喜ぶ村人達の笑顔が、何よりの収穫だ。
 思い思いに踊り、歌う村人達に誘われ、サフィアもたき火の前で剣舞を披露することになる。
「あまり上手ではないけれど……」
 そう言いながら、サフィアはナギナタを振るい、剣舞を舞う。
 村人も冒険者も、それぞれがそれぞれのやり方で祭りの夜を楽しんでいる。
 その喧噪を心地よく耳に感じながら、ウィンディは満天の星ぞれを見上げる。
「まだまだ私たちの出来ることは多いわね、頑張らないとだわ」
 呟く言葉は、自らに言い聞かせる誓いの言葉でもあった。


マスター:赤津詩乃 紹介ページ
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作成日:2008/11/09
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