万剣の簒奪者



<オープニング>


 大地に無数の傷跡が刻まれていた。
 数多の刃で尽きられたようなまっすぐな傷。
 その傷跡を辿れば――いびつな人型の姿があった。
 体表は灰色で、石のような質感を感じる。
 そして何より異常なのは、その右腕。
 多数の剣。いや、斧も槍もある。数多の武具がまるで引き寄せられているかのように右腕に集まっているのだ。
 さながら磁石に引き寄せられた釘の様に。数多の刃が寄り集まって歪な剣となっている。
 異形は長大に過ぎる剣を引きずり荒野を行く。
 数多の犠牲を後に置き、数多の得物を奪いつつ、数多の獲物を追い求め。

「依頼よ。内容はモンスターの討伐。手が空いている人は話を聞いて」
 冒険者の酒場で霊査士リィーンは声を上げた。
 幾つかの視線がこちらに向き、そうでなくとも耳を澄ませる気配を察し、リィーンは話を続ける。
「敵は人型のモンスター。荒野を闊歩し、武器を持った人間を襲う性質があるようね」
 その腕に集まった武器を見れば、一体どれだけの人が犠牲になったのか。
 万、は言い過ぎとはいえ、相当多くの者が不幸にも命を落としただろう。
 敵は奪った多数の刃を用いて挑んでくる。
 数多の刃による剣は出血の状態異常を付与する危険を孕む。
 剣の一部を切り離すことによる遠距離攻撃も可能なようだ。
 加えて近接範囲攻撃の手段も持ち合わせる強敵。
 だが放置すれば、彼の得物はさらに刃を増やすであろう。
「だから倒して。移動ルートはある程度特定できているから待ち伏せも出来るはずよ。戦場は障害物のない荒野。時刻は昼。モンスターに振るわれ続ける数多の刃を開放してあげて」


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参加者
狩人・ルスト(a10900)
花柩・セラト(a37358)
叫鴉・エドワード(a48491)
幽玄華・シュレイナ(a49108)
凍刻・ヴァイス(a50698)
倖せ空色・ハーシェル(a52972)
深緑の枝を撫でるそよ風・ミユリ(a74301)
緋色の娘・ルビィ(a74469)


<リプレイ>

●荒野にて
 天気は晴天。
 秋の高い青空の下、冷たい空気の流れる荒野に八人の冒険者の姿があった。
 皆が皆、言葉を発することなく別々に遠くを見ている。
 ある者は遠眼鏡を目に当て、ある者は片手で陽光を遮りつつ、ある者はグランスティードの上から、
「隠れる気なんて、更々なさそうだねぇ」
 緋色の娘・ルビィ(a74469)が発した声で、彼女に視線の先に一六の目が向くことになる。
 その姿を認め、一同は居住まいを直し、索敵用の道具をしまう。
「武器は使い込むほど主の心を宿すもの……ああいうの、好きになれないな」
 黒炎を身に宿しながら雪鳳・ヴァイス(a50698)が呟く。
 今、目に写した敵の姿と、その右腕に引き摺られる数多の刃を思いながら。
「あの右腕が死者の数……まるで墓標のようだね」
 得物の弓を手にしながら呟く花柩・セラト(a37358)に、深緑の枝を撫でるそよ風・ミユリ(a74301)が頷く。
「本来の持ち手が散った後にその敵に振るわれ続け同胞を増やしていくのは、きっと苦痛以外の何者でもないよね」
「酷く悲しい話だね……あのモンスターの右手には、いろんな人の無念があるんだ」
 身軽にステップを踏みながら、体を温める幽玄華・シュレイナ(a49108)。
「その手にある幾多の刃よりも遥かに貴いものを奪ってきたその歩み、此処で止めましょう。私たちに出来るのは、それだけですから」
 狩人・ルスト(a10900)が投げた視線の先、敵が動きを変えた。
 目的のない徘徊ではなく、目的を得た加速。
「おう、やってやるぜ!」
 抜剣。敵に見せ付けるように両手剣『宗州草薙』掲げ、叫鴉・エドワード(a48491)はウェポン・オーバードライブの力を重ねる。
「わたしの武器は先輩から引き継いだ大事な相棒だもん。あげるわけにはいきませんなぁ〜んっ」
 言いながら倖せ空色・ハーシェル(a52972)はヴァイス、続いてルビィへと鎧聖降臨を施していく。
「ありがとよ!」
 礼を言い、黒炎をルビィが黒炎を纏う頃には敵の低い唸り声が耳に届くほど近くなる。
 陣形は前衛四人、後衛四人。敵を受け止めるように展開した半円陣。
 ミユリが手にした『緑の守護槍「新緑」』の石突が地面を打ち、それを中心に淡く輝く紋章が大地に描かれる。
 舞台は整った。
「さあ、始めようか!」
 光に踏み込んだ敵に対し、セラトの矢が風を切り突き進む。

●万剣の簒奪者
 鞭のように無数の刃はうねる。
 矢を、刃を、術すらも飲み込み砕き、それは来た。
「バランスタイプ……弱点はなし、かな?」
「そのようです」
 試しに数発を放ったセラトが至った結論に、ルストが賛同した。
 彼が放つホーミングアローは、時折放つライトニングアローと同率の命中率。多くのものを屠っただけの事はある、敵に弱点といえる隙などなかった。
 ならば常に、手加減なく全力を放つだけだ。
 ルストが放つのは矢だけではない。
 腕に浮かぶ黒き紋章。それは集いて漆黒の槍となり、呪いの一撃となりて放たれる。
「こっちも!」
 ミユリもまた、呪痕撃を撃ち放つ。
 右翼と左翼、双方からの挟撃となるこの呪いは開戦から低くない確立で敵を穿ち、呪痕を纏わせた。
 今も紋章が元の形に戻り敵を覆う。
「仕掛ける」
「チャンスだね!」
 エドワードの刃が、シュレイナの切っ先が。双方、風を切る音を響かせながら振るう攻撃はしかし敵が薙ぐ右腕に阻まれる。
 刃は無数の刃の圧力に、切っ先は刃の表面に威力を流され減衰。
 不利を悟って引く二人と入れ替わり、駆け込んだハーシェルに横に薙いだ刃の鞭が、大上段から振り下ろされる。
「な、なぁ〜ん!?」
 掲げた盾に刃が滝のごとき勢いで降り注ぎ、衝撃を与えていく。
 僅かに態勢を崩し、しかし強引に突き進んで大岩斬の一撃を叩き込んだ。だが代償に付けられた腕に傷からは血が止まらない。
「回復、こっちで行くぜ!」
「任せる」
 ルビィの高らかな凱歌が響く中、ヴァイスは黒炎弾で敵の動きを止めにかかる。
 当たらなくてもいい、これが他の攻撃の起点になるならそれば。
 僅かな時間差でセラトの貫き通す矢が放たれる。炎弾を止める軌道に入っていた敵の右腕は僅かに遅れた。
 矢は右腕を形成する刃に僅か掠め、しかし砕き敵を射抜く。
 冒険者の息を合わせた波状攻撃に、対する敵は徐々に傷ついていく。
 冒険者側も無傷ではないが、ヴァイスとルビィが回復支援に徹しているため怪我は即座に癒される。
 出血したとしても元々の幸運と、ミユリのヘブンズフィールドの補佐で長引く事は無い。

●刃の意思
 接近戦を挑む冒険者を今までどおりに右の薙ぎ払いで捌こうとする敵。だがこれを凌いだとて、続く冒険者の攻撃で削られるのが今までのパターンだ。
 冒険者優位に推移する戦況は、敵にとっては不利でしかない。
 それを打開すべき一撃を、敵は放った。
「な……に!?」
 打ち付けた刃の手ごたえにエドワードは疑問符を浮かべた。
 彼とて実力者だ、がむしゃらに斬りつけていた訳ではない。そんな彼が気付いた微かな違和感。
 横では時間差でミラージュアタックを決めるシュレイナ。そのシュレイナも妙は手応えに表情を険を浮かべ、
『来る!』
 二人は瞬時顔を見合わせると、後方に引いた。
 声に事態は理解できずとも身構える。その刹那の間にそれは来た。
 キンッ、という澄んだ金属音。続くのは、空を断ち切る数多の音色。
 あるものは切っ先を真っ直ぐに、あるものは回転しながら、刃が来る。
 前衛も後衛も関係なく、刃は冒険者の陣を襲った。
「クッ……なぁ〜ん!」
 その横殴りの雨の中をハーシェルが駆けた。盾と剣、双方を用いて力技で刃を砕き、叩き落す。
 背後には後衛、怯めばそちらに被害が及ぶ。守る為に重騎士となった彼女が、それを許容出来るはずもない。
 砕けた剣の欠片が周囲に舞い、陽光を受けて輝く。幾らかを剥き出しの肌に受け焼けるような痛みを感じながらも、彼女は一撃を叩き込んだ。
 ほんの僅かな時であった。刃は止む。
 浅くはない傷を負った冒険者達は即座に態勢を立て直した。
 ヴァイスとルビィ、二人で高らかな凱歌を紡ぐ。
 痛みが引くのを感じながら、ミユリは呪痕撃を撃ち放つ。
 着弾し、呪痕を受ける敵は、しかし構いもせず再び右腕を振りかぶる。
「どうやら、これからはあの雨を耐えないと攻撃も出来ないみたいだね」
 闇色の矢を番えながら苦笑するセラトにルストは真剣な表情で頷く。
「厳しいですね。ですが、まだ勝敗は決していません。ですから」
 金色の闘気を宿した矢を番えながら、その切っ先と同じくらい鋭い視線を敵に向ける。
 駆け出したエドワードを追うように、闇色と金色が舞う。
 ライトニングアローが直撃し、怯んだ右腕を掻い潜りエドワードの刃が一閃する。
 確かな手応えに口元に笑み。そんな彼の左でシュレイナが、右ではセラトの矢が敵の肩を穿つ。
 再び響く数多の刃の音も、戦場に響く歌声と光を浴び背中を押され、冒険者は攻める。

 幾度に渡る剣の投射で敵の右腕は幾分か細くなっていた。
 とはいえ、その存在が脅威である事に変わりはないが。それでも、
「これでどう!?」
 飛燕連撃を仕掛けるミユリ。
 闘気の刃は幾つかを防がれ砕かれながらも、二つが敵を捉えた。二撃分、敵に刻まれた呪痕が反応し敵を削ぐ。
 敵の態勢が、ぐらりと揺らいだ。
「テメェは欲張りすぎ、潮時だぜ!」
 痛み始めた喉に鞭を撃ち、ルビィは声を、ガッツソングを紡ぐ。
 前衛で切り結ぶエドワード、シュレイナ、ハーシェル。三人の刃がそれぞれに傷を刻み、呪痕は疼く。
 と、敵が今までにない挙動を見せた。右腕を掲げたのだ。
 一件無防備な挙動に冒険者の警戒は強まる。そして異変は、背後から。
 放たれ周囲に散らばった刃が、主の下に戻ろうとしている!
 まるで磁石に引き寄せられるかのように、冒険者の背後から飛来する刃。とっさに反応は出来た、だが傷は浅くない。
「大丈夫……かな?」
 それでも、ヒーリングウェーブを放ちながらのヴァイスの問いに、首を振るものは居なかった。
 ルストのライトニングアローが穿ち、セラトはガトリングアローの連射をもって攻める。
「もう十分たくさんの命を奪ってきた……これ以上はもう、やらせない!」
 薙ぎ払われた敵の右腕を潜り抜け、シュレイナが刃を振り上げる。
 一閃は敵も右肩に。深い、刃は肉を三分の二ほど切り裂いた。
 敵の動きが鈍る。それを見逃す冒険者ではない。
「願わくば……輪廻の先に安らぎの生を」
 シュレイナの願いに呼応するように、冒険者が総撃を仕掛ける。
 砕ける音がする。
 幾つもの刃が砕け、呪縛から開放される音が。
「ガァ……ゴォァ!?」
 仰向けに倒れた敵の体に、砕け、それでも残った数多の切っ先が降り注ぎ穿った。
「……なんか、哀れだね」
 剣を収め、敵だったものを見下ろしながらヴァイスが呟く。
 初めて露になった敵の本当の右腕は、まるで小枝のように細かった。

●全てに安らぎを
「俺が勝ったんだから、てめぇの得物は俺の物で文句は無ぇだろうな? ……もっとも、まともなもんなんて一つも残ってねぇみてぇだけどよ」
 言ってエドワードが引き抜いた剣には切っ先がなかった。
 まるで役目を終えたかのように、数多の刃はその存在を放棄したのだ。
「本来の主の下にでも、帰ったのでしょうかね……」
 ルストは呟く。
 真相など分かりようもなかったが、そうであればいいとは思った。
「ここで葬ってあげるよ、彼らも……お前も」
 セラトが一歩を踏み出し、皆がそれに続いた。
 数多の刃と、モンスターの亡骸を埋葬する。ただし、双方は別々の場所だ。
 ミユリの提案した配慮だった。
 散らばった武器の残骸を集め、埋葬する。上にかぶせた土を叩いて固め、シュレイナは立ち上がった。
「……これで無念も晴れるかな」
 小さな金属の欠片を拾い、目を瞑るヴァイス。
「そうだといいなぁ〜ん。武器を取られたいっぱいの人もみんなゆっくり眠れるといいですなぁ〜ん」
 ハーシェルはが言う。出来る事はやった。そんな自分達にかけられる言葉は、
「もう望まぬ戦いを繰り返さなくていいんだよ。今まで苦しんだ分ゆっくり休んでね。おやすみなさい」
 いま安らぎに帰る者たちに労いを。ミユリの言葉に冒険者はそれぞれに、万剣へ別れを告げた。

 帰り際。刃とは離れた場所に埋められた、モンスターの簡素な墓が視界に入る。
「アイツも最後まで剣交わせて満足かもな……お休み」
 なんとなく呟いたルビィは、いつの間にかこちらを見ていた仲間達に気付き頬を掻く。
「……あーあ、しっかし良い武器もあったのに勿体無ぇ」
 視線から逃れるように伸びをする。
 天気は晴天。雲ひとつない。
 上がっていった刃の魂を、遮るものは何もないだろう。


マスター:皇弾 紹介ページ
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作成日:2008/11/07
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