<リプレイ>
●大事業 「おぉ〜、やってるな! なかなか壮観じゃないか!」 高台に立った白き雷光の虎・ライホウ(a01741)は、手をかざして眼下……働く人々で溢れる河岸を見て、感嘆の声を漏らした。 「ふむ……これは、大工事だな」 灰刻跡・ジョスラン(a06073)もまた、驚きを隠さなかった。前に村を訪れたときは、むしろ人気のない……寄りつかない場所だったのだが。 「でも、みんなあんまり元気がないわね」 「うん、そうだなぁ」 眉を寄せる想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)の言葉に、忌避すべき破片・サキ(a06791)も肯いた。 マクボォヴの部下、官吏らしい男が「堤が出来れば、これからの大雨も怖くないぞ!」と声を張り上げ、工事を監督している。が、村人のそれに対する反応は鈍い。黙々ともっこを担ぎ、土を運んでいる。 「それは……おっしゃるとおりです。なにせ、この大工事ですから……」 サキに視線を向けられた娘は、俯きがちに答えた。 「加えて、今は農繁期だ。見たところ、畑を駄目にするほどの労働はさせていないようだが‥‥それにしても、いつも以上の労働を強いられていることには違いあるまい」 放浪の志士・ゼンガルト(a06299)は、寒村に育ったという。土に生きる者の悲しみを代弁するような言葉は、呟きに変わる。 「ふ……柄ではないな」 彼は仲間達に背を向け、村へと降りていった。 「難しいですよね。もし、その『行商人』が入り込もうとしてるんだったら。……まさか、誰も入れないとも言えないでしょうし」 『見慣れないよそ者』を村から追い出すのだとしたら、自分たちもその中に入る。間違いなく。命を奏でる気高き石の華・マユ(a09016)はため息をついた。 「どうしても受け身になっちゃいます……よね? 仕方ないですし、マクボォヴさんをいつも、護衛してましょう」 「そう……だな」 柘榴の暁闇・ウル(a08180)は、曖昧に肯いた。実は、仲間と依頼にあたることに慣れていないのだ。
●村人達の心 「まぁ、あの町長のやることも、もっともなんじゃない?」 その言葉は、妙に大きく聞こえた。突然に静まりかえった酒場の様子に、蒼穹に舞う微風・アルタミラ(a06423)はたじろいだ。慌てて、言葉を繋ぐ。 「ほら、わたしなんかいろいろ旅してるけど……そうして豊かになった村とか、見たわよ? いまじゃあ、その近辺でいちばん裕福になったとか……!」 「そ、そうよ? わたしもその村は行ったことがあるけど……!」 ラジスラヴァもすぐさま、助け船を出した。 小さな村のことである。酒場と言っても近くの婆さんが小屋でやっているような貧相な物でしかない。給仕なんていう上等な代物などお呼びではなく……「旅の吟遊詩人」、ラジスラヴァと共に、流れの歌い手というふれこみで入り込んでいた。 彼女らも「胡散臭いよそ者」ではあるが、村には少ない娯楽を提供してくれるということで、一応は相手にされていたのだが……。 それが、町長の肩を持ったとたん、村人の表情が暗く沈んだ。 「ま、まぁまぁ。難しい話はよく分からないですから〜」 マユがにこやかに、話を断ち切る。 「どうですか、この髪飾り? 素敵じゃありません?」 彼女こそ、行商人に化けていた。彼女には商才がある。が、大抵のことは自給自足でまかなってしまう農村のこと。幼い彼女1人で持ち運べるような物となると、かさばらない……例えば装飾品のような物しかない。 そんなものを買う余裕などないにせよ、愛らしい少女が愛嬌を振りまいて売り口上を述べる様を、村人はそれなりに微笑ましく見てくれたようだった。 うまく、話が逸れたみたい……。
●深夜に及ぶ問答 「どうしたもんかなぁ」 ライホウは首を傾げた。 今の彼は、鎧を脱いで粗衣を身につけている。村人に交じって、働いているのだ。 工事を手伝うにせよ何にせよ、まずはマクボォヴと話をしなくてはならない。村に着いた彼は、さっそくマクボォヴの元に赴いた。 『久しぶりだな、町長』 ジョスランは以前も、この村に来たことがある。ジョスランから事情を聞いたマクボォヴは、深々と頭を下げた。 『お心遣い、まことに痛み入ります。心配をおかけし、自らの不才を嘆くばかりです』 『そもそもの原因は、村人の夫役が増したことにある。どうにかならないものか?』 『無理ですね』 マクボォヴは丁重ながらも、はっきりと答える。 『やはりそうか』 『ことさら過酷な労働を強いているわけではないのです。河を治めるということが、そうなのですよ。難行苦行と言ってもいい』 『夫役を減らせとは言わんが……説明不足なのではないか? もっと、この工事がどれほど必要で、かつ有益なものであるかを知らせれば……』 『知らせていないわけでは、ないのですが』 マクボォヴは苦笑しつつ、肩をすくめた。確かに、工事現場でも官吏が口にしていた。 『ですが、わからないのでしょう。あるいは、わかっていても今日の苦難を先ず忌む。……民とは、そういうものです』 マクボォヴは、ジョスランを真っ向から見据えた。 『ならば、町長というものは皆に反対され、危難に晒されたとしても、町のためになるならば決然として行う。そういうものではありませんか?』 『殺されてもか?』 『私を殺せば、自ら豊かさを捨てるだけのことです。……もっとも、私はそうなって欲しくない。よろしくお願いします』 そのやりとりを思い出したライホウは、今度は大きく首を回した。 「やれやれ、政治ってのは難しいな」 ●暗躍する者達 ならば、マクボォヴを裏に表に支えてやるしかあるまい。冒険者達は、ある者は工事を手伝い、またある者は側につき、彼を護衛することにした。 これで、あとは長老の息子の尻尾さえつかめればいいのだが……しかし、情報集めは、遅々として進まなかった。 サキが酒をおごろうとしても、快くそれを受けてくれる者はいない。警戒されているのだ。 仕方なく、工事を監督していた官吏に話を聞いてみたサキだったが、官吏もお手上げと言うことだった。余談ながら、場所も村の酒場ではなく、官舎である。酒場は居心地が悪い。 『……せっかく、生け贄を出さずにすむようになったと、思ったのにのう……』 そんな声は誰からともなく漏れ聞こえる。しかし、『誰』と特定することはできなかった。それは、周りの者が慌てて口元を抑えたからかもしれないが。むしろ、誰の声か聞き取れなかったということは、そこにいる皆の声なき声と言えるのかもしれない。 無論、彼らにも感情の温度差、感情の差異はあるに違いないが、彼らは身内である。外の者に対しては、むしろかばい合う。 「う〜ん、困ったなぁ」 サキは大きなため息をついて、杯を飲み干した。 ちょうど、そのころ。長老の息子は密かに村に戻り、ある村人の家を訪れていたのである。そこにはすでに、十数人の村人が集まっている。いずれも、今の政策に不満を持つ者達である。 かつて甘い汁を吸っていた連中ばかりかというと、違う。そういった連中には、町長の苛烈な仕打ちを見て、恐れをなした者も多い。 集まっているのは「少しばかり血の気の多い」連中や、あるいは長老の息子にそそのかされた……脅された者達である。 「いいか、お前らはな……」 話を聞いた村人の顔が、みるみる蒼白になっていく。そんな恐ろしいという、あるいはついに、という顔だ。 「どう話を聞いても、その町長ってのはおかしいぜ。なに、これならしくじることはねぇ。怖じ気づくな! お前ぇが、村の英雄になれるんだよ!」 散々に町長をなじった行商人姿の男が、村人の肩を叩く。その村人は、震えながらも肯いた。 長老の息子は、にやりと笑った。
●わき起こる瘴毒 長老は処罰され、阿漕に稼いだ財産は没収された。とはいえ、全てを奪われて無一文となったわけではない。それは、粛正が相次ぐことをさけたせいもあるが……長老の家も、貧しいこの村においては未だに、裕福な部類に入る。 財産もそうだが、心理的なものとして、長年続いた力関係というのはなかなか逆転しないものだ。 「……どうした?」 「あ、ウルさん。いえ、村の人がお酒を持ってきてくれたので、町長様にお出ししようかと……」 娘の答えを聞いたウルは、目を細めた。 「待て。なぜ、わざわざ。そんなゆとりがあるのか?」 娘の手から瓶を奪い取ったウルは、見つけた野良犬の口に、それを流し込んだ。 果たして、野良犬はやがて苦しみはじめ、泡を吹いて、死んだ。 「そ、そんな……!」 顔色を失う娘を置いて、ウルは駆けだした。 まだ、それほど時間は経っていないはずだ。まだ探し出せる! 「盗賊から買ったのか」 だが、村人の姿を探し求めたウルは、殺気立った集団を見つけた。 鍬や鋤などを手にした村人達だ。よく見れば殺気の中にも怯えが感じ取れるが、それでも彼らは屋敷を目指して歩き、そこを取り囲もうとしていた。長老の息子に迫られて毒を盛るという凶行に走ったとはいえ、それで町長を殺めることが出来たかどうか、不安でたまらないらしい。 「誰だ!?」 ウルの姿を認めた長老の息子が、叫ぶ。集まっているのを知られた焦りか、村人は一気に駆け出した。 「なんだ!?」 騒ぎを聞いたジョスランが、飛び出してきた。状況を悟ったジョスランは、マクボォヴを中に押し戻す。だが、思い詰めた村人たちは、屋敷を守るジョスランに殺到する。今さら逃げ出すわけにはいかない。 「そうだ! 町長を殺さないと、俺もお前等もみんな、皆殺しにされるぞ!!」 長老の息子が、村人の恐れをさらに煽る。 「どうするよ!?」 上半身はシャツ1枚という姿で工事を手伝っていたライホウが、騒ぎを聞きつけすぐさま駆けつけた。当然、屋敷を背に立ちはだかる。 「『ニードルスピア改』でも撃ち込んでやりましょうか? 悪事を企む人のせいで村人が苦しむのなら、情けは無用ですよね」 「よせって」 真顔で問いかけるマユを、ライホウは押しとどめる。 ライホウは村人を傷つけることのないよう、振り下ろされる鍬を受け止め、懸命に押し返した。しかし、いかにもこれは苦しい。 そこに。 『紅蓮の咆哮奥義』が轟いた。
●政とは。 「町長よ、問おう!」 村人がびくりと体を震わせて動きを止める中、ゼンガルトは声を張り上げた。 「政に必要なのは、義である。為政者の行いに義があるからこそ、人民はそれに従うのだ。今、村人は貴殿を恨んでいる。その義を信じず、仁を知らないからである。町長よ。貴殿が誠に義を重んじ、仁を尊ぶならば、ここでそれを示すがよろしい!」 ゼンガルトの芝居がかった口振りを人々が呆然と聞き入っているうちに、いつの間にかマクボォヴは門前現れ、ゼンガルトに深々と頭を垂れていた。 「町長よ、問おう。人民に苦役を与えるのは、己の利のためか。それとも……!」 「お答えしましょう。無論、村のためでございます」 ゼンガルトに合わせるように、いつの間にか礼服に着替えていたマクボォヴも、畏まった丁重な口振りで答える。 「この村が本当に恐れる蛇神こそ、この河水です。が、河水は神ではない。人の叡智と努力で、治めることはできます。今は苦しくとも、子、孫の代には河水の溢れを恐れることもなく、実りを得られるでしょう」 「そ……そうだぜ! 目先の損得だけじゃなく、自分の子供達のことも考えてみろ!」 「町長はお前達を案じて、長老を処断した。意味もなく苛烈な労苦を強いる男か?」 今、村人は2人の問答に気圧されている。ライホウとジョスランは口々に、マクボォヴを庇う。 村人は、見る見る意気消沈していった。どのみち、冒険者が立ちはだかっていたのでは、この決起が成功するはずがない。
長老の息子は捕らえられ、追放された。これ以上の血なまぐささを嫌ったためでもある。この男さえいなければ、村人も暴挙には出ないだろう。 「わからないならば、わからなくともよい。ただ、お前達の子、孫の代になればわかるであろう」 マクボォヴはそう言って、工事を続行した。 「ひとつだけ、言っておきたいんですけど」 別れ際、ラジスラヴァが唇をとがらせてマクボォヴに詰め寄る。 「仕事もいいですけど。今回は、彼女の献身的な想いがあったからこそ……!」 だがその口を、娘が顔を真っ赤にして慌ててふさぐ。 工事を進める一方で、マクボォヴはめぼしい財産の一切合切を売り払わせた。その金で人を雇い、工事の手助けをさせたのだ。 小さな町の町長である。得られる給与とて大きなものではないが……マクボォヴはその大半さえ雇い賃にあて、貧しい村人と変わらぬ物を食べて暮らし始めた。もちろん、使用人の多くには暇を出す事になってしまった。 マクボォヴと、少ない給金であえて屋敷に残った娘とに見送られながら、冒険者達は村を後にした。 いつか、この村の豊かさを讃える声が必ず、聞こえてくるに違いない。

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参加者:8人
作成日:2004/06/27
得票数:冒険活劇23
ダーク3
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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