<リプレイ>
●ケーキ屋さん 「えっと……すみませーん、ここのケーキ端から端――」 「もし、そこのあなた。何か悩みをお持ちですねぇ? ささ、私に話して御覧なさい」 「え? え、えっと……」 早速ケーキを大量に購入しようとしたランティに、体をマントで包み、水晶玉を片手に持った怪しい人物が声をかける。すごく不審者を見るような目をしていたランティだが、落ち込んでいたこともあってかついつい話に乗ってしまう。 「はぁ……実は――」 最初は乗り気でなさそうだったわりに、次から次へと出てくる愚痴の山。よくもまあこれだけ溜め込んだな、と言いたくなる量を吐き出した頃合を見計らい、マントの人が口元をニヤリと笑みの形に変え、ずずいっと両手を前に差し出してくる。 「そんな時はこの石を身につけておくといいですよ――象徴する言葉は友情、希望、幸運です♪」 「えっ……」 殆ど押し付けるかのように強引に何かを握らせるマントの人。その際にチラチラと着物のようなものが見えたような気もするが……マントの下に着物? 「え? あ、ありがとうござ――あれ?」 押し付けられたもの――黄玉の宝石、トパーズであった――を確認していたランティが顔を上げたそこには、既に誰も居らず。狐につままれたような奇妙な表情をしていたランティだが、あまり気にしない方がいいと結論付けたのか、ポケットに黄玉を放り込む。 「このケーキを――」 「ランティさん、誕生日おめでとうございます!」 「うわあっ!? ――あぅ」 唐突に後ろから加わる圧力。何だかふにょふにょ柔らかい感触。満面の笑みを湛え、エッセンが抱きついたのだと気付いたランティであるが、驚かされた心臓はいまだにバクバクと激しい鼓動を打っている。ついでに、背中の感触により内心一層打ちのめされたりもしているが、それはそれである。 「実はケーキを用意したんです。改めて、誕生日おめでとうございます」 「わぁ……ありがとうございます♪」 なんというか現金なもので、落ち込んでいたと思ったらケーキを貰った途端に喜色いっぱいのランティ。そんなランティに、野太い『な゛ぁ〜ん』という声が投げかけられる。 「このケーキも持っていくといいな゛ぁ〜ん。これだけでかければ食いごたえもあるはずじゃな゛ぁ〜ん!」 振り返ったランティが見たものは、喋るケーキ! ではなく、山のようなケーキ――まるでウェディングケーキである――と、背後からクリーム塗れの顔を出すナムールである。 「丘の方に運んでおくから、ランティ嬢ちゃんはいろいろ周っていくといいぞいな゛ぁ〜ん」 「ありがとうございます……って、あれ?」 なんで丘に行く事知ってるんだろう、と不思議そうなランティ。がははは、な゛ぁ〜ん! と遠ざかっていく背中は何も答えてくれなかった。 「ま、まあ……とりあえず次はパン屋さんに……ん? 何だか荷物が少し増えてるような……」 ランティは気付いていないが、彼女の道具袋の中にいつの間にか小さなお菓子が混入されている。 (「ふふふ……ふふふ」) 店の隅のほうから不穏なオーラを撒き散らしている男が居たのだが、幸か不幸かランティはそれに気付くことが出来なかった。
●パン屋さん 「待ってましたよぉ〜、ランティさんお誕生日おめでとうですぅ〜!」 「あ、チユさん。ありがとうございます……って待ってた?」 それはどういう事……と追求しようとするランティの言葉にまったく耳を貸さず、どんどんとヒートアップしていくチユ。 「よく分からないのですが汗と涙の滲むような一年間だったそうですねぇ〜。頑張り屋さんのランティさん、エライですぅ〜! ささ、もぉ今日は楽しく沢山やけ食いしちゃってください! わたしもやけ食いお手伝いしますよぉ〜」 「え、あの、……えっ?」 「さぁ、行きましょうかぁ〜! 荷物はわたし達が持つのでまだまだ買い込んじゃってくださいねぇ〜!」 「あ、あの〜……」 「それでは、また後でですぅ〜!」 香ばしい匂いを漂わせるパンを大量に運んでいくチユ。その後ろにつき従うかのように、ライナとアオイもまた両手いっぱいにパンを抱え後を追う。 「な、何がどうなってる、の……?」 1人ぽつーんと残されたランティは、先ほどの騒ぎの間にまたもやパン屋の隅のほうに居た男が、道具袋に何かを放り込んだことに気付くことが出来なかった。 (「これは運命だったのだよ……ふふふ」)
●ノソミルク屋さん 「ランティさんの一部分が大きくせいちょーしますよ〜に……むにゃむにゃぐー」 「――――」
ゴスッ!
「ぐっ!? ……寝、寝てなんていないのですよ?」 「…………落ち着け、落ち着けボク。これはきっと寝言、寝言だから」 ランティ、無言でボディーブロー。かなり力を込めた拳が、気持ちよさそうに眠っていたティセの腹部に吸い込まれていった……はずなのだが、ダメージの後など殆どなく、目覚まし程度にしかなっていない。 最近寒いからホットノソミルクが美味しいのです、といいながら大量のノソミルクを押し付けてくる寒そうな格好――薄着にミニスカート――をしたティセ。寒いのならもっと厚着をすればいいのに、という周囲の視線は彼女には届かない。 「お〜! お誕生日おめでとうな、ランティさん♪」 のんびりとした声をあげて近くへやって来るのはルジットである。手には小さな百合の意匠が為されたリボンが握られており、プレゼント、どうぞだよ〜、と見るものをほっとさせる様な人懐っこい笑みを浮かべる。 「ありがとうございます。大事に使わせてもらいますね」 「しっかし、ランティさんも大変だなあ。(背が)小さくて悩んでるんかなー……?」 「えぅっ!? ……あーえー、ま、まあ、その(ごく一部が)小さくて、悩んで、ます……」 「ふむー、ノソミルクいっぱい飲んで、頑張るだよ! おらも応援してるだ!」 「あ、あはははは……ありがとう……ござい……ます……」 湯気が出そうなほどに顔を真っ赤にして縮こまるランティ。返答の声も恐ろしく小さく、語尾の方など、か細くて聞き取れないほどである。 荷物、おらが持って行っとくよーというルジットの背を見送るランティ。だが、もう少々ミルクが欲しかったのか、店の人に向き直ると――。 「すみません、ミルク下さい……量は、あるだけ」 「え、ちょ、……ボクのミルクが!?」 小さな荷車いっぱいに買い占めたバザーのミルクを移していくのはグリフォスである。最早何かの陰謀ですか! とこっそり涙するランティに笑いかけながら、丘で待っていますね、と残し去っていくグリフォス。よくよく考えてみれば、今日何も自分で買えていないランティである。 「あ、居た居た! ランティさんみっけ!」 バザーの人ごみを掻き分けてくるのはイルガである。元気いっぱいに駆けてきたイルガは、軽く息をはずませながら売り切れたノソミルクを見て、ありゃりゃと頬をかく。 「売り切れか〜……、ノソミルクってさ、体の成長に良いって言うよね。あたしもたくさん飲んどけば成長した時に一気に背が伸びたりするかなー? って思って」 「そういえば身長にも良いらしいですね。あとは……まあ……その……」 ごにょごにょと言葉を濁すランティに首をかしげながらも、気にしないことにしたのか、それじゃあ、後でねー! あと、誕生日おめでとー! と走り去っていくイルガ。 「……ん? 後で?」 その言葉の不審さに首を傾げていたランティは、またもや残念ながらバザーの人ごみに紛れて道具袋に何かを放り込んだ男に気付くことが出来なかった。 (「これでよし、と……ふふふ」) 「とりあえず……何も持ってませんが、丘に行くとしましょ――ん?」 くいくいっ。 誰かが袖を引くような感覚。振り返ったランティに、これ以上ないであろう極上の笑みを浮かべたティセがこうのたもうた。 「胸、あげるから、身長、ちょーだい?」 「――――ッ!」
ドゴスッ!!
●丘 それはある種の異様な光景であった。 山のようなケーキの周りに大量のパンが設置されており、更にこれだけで1か月分はあるだろうという量のノソミルクが配置されている。 先ほどまでに出会った冒険者達も何故かみな丘に集結しており、今にも宴会が始まってもおかしくない様な雰囲気である。 「えへへ、ランティさん誕生日おめでとうございますですよ!」 大量のドーナツやら駄菓子やらを抱えたウサギが、嬉しそうに駆けてくる。 「落ち込んじゃったときは美味しいものいーっぱい食べると元気になりますです。大好きな皆さんと食べれば、きっと元気になるだけじゃなくて、幸せだと思いますです〜♪ だから、ランティさんもっ!」 はいっ、と手渡されるチョコのた〜っぷり乗ったドーナツ。あう、美味しいのですよ! と自分の分を齧るウサギの姿を見、手渡されたドーナツを齧るランティ。 「ん……甘くて、美味しいです」 その言葉を皮切りに、突発的ランティのやけ食い誕生パーティは幕を開けた。 次から次へとケーキを食べ進めるランティに付き合うように、ナムールが手当たり次第に口に食べ物を放り込み、イルガが持参したマシュマロを集まった全員に配って歩き、ランティの飲み干したコップにチユがノソミルクを注ぎ足していく。 「こんにちは、ご同席してもよろしいでしょうか?」 白装束を着、いつもとはガラッと雰囲気を変えたアークが、梨のパイを片手にランティの隣を陣取る。ちなみに、内心では変装がバレやしないかとヒヤヒヤしていたりする。 「あれ……ん、でも……やっぱり、違う、かな?」 ビクッ! 「な、何がでしょうか?」 嫌な汗をだらだら流しているアーク。気付かれたか!? と焦ったものの、ランティの方は首を傾げつつも、梨パイの制覇へと取り掛かりめ、ほっと安堵の息を洩らすアーク。 「ランティさん、お誕生日おめでとー!」 花びらを振りまきながら登場するピアニー。食べるのに夢中であったランティは、頭上から振ってきた花びらの山に目を白黒させている。 「直接会うのは初めてだけど……あたし、すっごく分かるわ……!」 「もしや……貴女も、ですか!」 自嘲の笑いを浮かべるピアニーも……そう、ないのだ。 「ふふ……よく分かりますよぉ、その気持ちぃ。だってわたしもぉ……」 ゆらりとサンドイッチ片手に登場するペルレ。悲壮感を漂わせた二十歳という乙女のある一部は、非情にも……そう、非情にも……ない。 ひしっ! と涙すら浮かべ手を取り合うペルレ、ピアニー、そしてランティ。多くの言葉を交わさずとも分かる、一目見れば分かるのだ。お互いに……欲しくても手に入らないものを持つ者同士! 有るものには分からないのだ、この辛さが、この声無き慟哭が。 「ふふふ、何やら体のことを気になさっている様子……しっかり食べて沢山運動すればそのうちなんとかなるなぁ〜ん!」 胸(有る)を張りながら鶏肉と豆のハンバーグを運んでくるエミルリィル。顔を上げたランティ達が一瞬眩しいものを見るように目を細めたような気もするが、気にしてはいけない。 「エミルリィルさん……もしかして今日もつまみ食いしてました?」 「んぐっ!? きょ、今日はつまみ食いなんかしてないなぁ〜んよ!?」 言ってる傍から溢れてくる涎を嚥下しつつ、目をハートの形に変えて熱い視線をハンバーグへと送るエミルリィル。思わずその様子に苦笑するランティは、どうやら以前のつまみ食いの様子を見ていたらしい。な、なぁ〜ん! と笑って誤魔化すエミルリィルからハンバーグを受け取り、大きな口を開けて頬張る。 「胸は……彼氏を作るといいかもですね。彼氏に揉――」 直球に言っちゃったグリフォスの側頭部に高速で飛来するタライが突き刺さる! 身長が、身長があと少しだけ欲しいです、先生ーッ! と叫びながら吹き飛んでいくグリフォス。誰だ先生。 「ククク……はーっはっはっは! オレの計画、カンペキ! これでお前もボインボインだー!!」 ビシィッ! と唐突に現れたウィルダントが、ランティを指差し高らかに笑う。不審気に見つめながら、手元のお菓子をもふもふと食べるランティ。 「今お前が食べているそのお菓子……それはオレがこっそりと忍ばせておいた『豊乳』食ばっかりなの――」 「…………」 無言で吹っ飛ばされるウィルダント。今回は顎を見事に打ち抜くアッパーカットでした。やっぱりアレなんです、出来れば伏せておきたいそんな微妙な乙女心。オレの南瓜料理も食っていけよー! と言いながら視界から消えるウィルダントを尻目に、とりあえずお菓子だけはもふもふと食べ続けるランティ。これもまた乙女心である。 「はっぴばーすでーとゅーゆー!」 全身に木の枝や葉っぱを装着し、『伝説の木』と書かれた板を首に掲げ、近くに居た子供達から『おじさんなにやってるのー?』と木の枝で突かれても動かなかったレーニッシュが今、遂に動き出す……! 『ギャー! 動いたー!』という子供達の泣き声をBGMに、ランティの前まで来たレーニッシュは、ぽっと顔を赤らめる。 「今日という日に感謝を! それにしてもこの丘の伝説の木へ訪れるとはランティ嬢ったら……!」 断っておくが、この丘にそんな伝説はないし、『伝説の木』は自分からやってきた。 「そうだ! 心ばかりであるがこれを差し上げようッ!」 そうして差し出されるメロンパン2つ。 「これ……は?」 「我輩は分かっておる……ランティ嬢の魅力をな!」 メロンパンを胸元に仕込むジェスチャーをするレーニッシュ。ああ、つまりは胸に詰めも――。 「吹っ飛べー!!」 「今、無理する事はない。だからその時期までは、そっと懐に忍ばせておくのであるー――!」 本日4人目の実力行使により退場していくレーニッシュ。爽やかな笑顔のまま、大量の血をばら撒きつつ、彼は星になった。 「もー! やけ食いなのに蒸し返さないでくださいよー!」 こうしてより一層食に走ったランティは、後日増えた体重に泣いたとかどうとか。 人生、ままならないものである。

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参加者:17人
作成日:2008/11/17
得票数:ほのぼの17
コメディ7
えっち1
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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