【フラウウインド見聞録】窮鼠は冒険者を噛むか?



<オープニング>


「チャオ、フラウウインド♪」
 頭上に広げた両手を指先まで伸ばし、楽しそうにくるくる回る少年。
 言わずと知れたランドアースの暴れん坊少年、プーカの忍び・ポルック(a90353)である。
「うわー、すっごい森。いかにも何か出そうな雰囲気だよねぇ。おおっ、あのでっかいのが壱の剣? 倒れてこないのかな? やぁやぁ、はじめましてっ♪ キミも初めてなの? ボクと一緒だねっ。あ、ねぇねぇ、キミは――」
「オホン!」
 先程からポルックのせいで話し出すタイミングを逃し続けていたフラウウインドの霊査士・フライド(a90396)だったが、10分待ったところで流石にしびれを切らしたようだ。
「……説明を始めていいか?」
「もっちろん! ついに新たな冒険が幕を開けるんだねっ。さ、どんどん始めちゃってよ♪」
 素早く駆け寄ってきたポルックが、フライドの前にちょこんと座る。
「うむ、今回また未知の生物が発見されてな。お前達にはその討伐を依頼したい」
「ってことは、危ない生き物なんだ?」
 頷くフライド。彼の霊視によると、その生物はこんな特徴を持っているらしい。
 外見はネズミに近く、体長はしっぽを除いて1m前後。動きは素早く、主な攻撃方法は鋭い前歯による噛みつきと、先の尖ったしっぽによる突き刺し。しっぽには毒。常に群れで行動。
「危険を感じると仲間を呼び集めるから、手早く倒してしまわないと、いつの間にかとんでもない大群を相手にするはめになる……と、まぁ、こんなところか」
 一通りの説明を終え、残るはいつもの決まり文句。
「首尾良くいけば、この生物も博物誌を飾る事になる。特徴をしっかり確認して、それに相応しい名前をつけてやってくれ。よろしく頼むぞ」
「任せてよ。プーカ一の名付け名人と言われたこのボクがいれば、どんな未知の生物だってたちどころに――」
 再び騒ぎ出したポルックから視線を移し、フライドは8人の冒険者に念を押した。
「よろしく、頼むぞ」


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参加者
書庫の月暈・アーズ(a42310)
刻の白露・セッカ(a45448)
緑馬ドリ忍びの小僧・アキラ(a47202)
ペトルーシュカと三つの断章・ラグゼルヴ(a51704)
必殺格闘ウサギ美少女・ユリア(a67628)
好奇心の徒・コーマ(a74434)
獣哭の弦音・シバ(a74900)
春告げの風・リト(a75409)
NPC:トリックオア・ポルック(a90353)



<リプレイ>


 冬の足音が近づく11月某日。白虎帝城の地上出口付近では、出発前の冒険者達の体を、外のひんやりとした空気が包み込んでいた。
「へぇ、気候はランドアースと似てる感じだね」
 出発までの間、なんやかんやと忙しなく動き回っていたプーカの忍び・ポルック(a90353)は、そんな寒々しさなどものともせず、森の様子を伺っている。今日ここに集まった冒険者の中には、既にこの地を訪れた経験のある者も居れば、ポルック同様、初めての者も居る。
「……違う世界みたい」
 数歩進んだ所で、物珍しげに辺りを見回している刻の白露・セッカ(a45448)も、フラウウインド初体験組の一人だ。
 次々と発見される未知の生物や、並の建造物より遙かに巨大な剣がそびえ立つ光景は、ランドアース大陸には無いものだ。
「やっぱり未知なる大陸は何度来ても飽きませんね」
 大きな尻尾を揺らしながら、経験者組の一人、春告げの風・リト(a75409)が森の木々を仰ぎ見る。彼にとってはそれなりに見慣れた景色だったが、未知の生物との出会いが近づくこのひと時は、いやが上にも好奇心がかき立てられる至福の時だ。
「あ、でも倒さなきゃいけないんですよね。気を引き締めていかないと……!」
 そう、今回彼らを待っているのは無害で愛らしい生物でもなければ、美味しい食料となる生物でもない。鋭い前歯と毒のしっぽを持つ危険生物だ。これから先の冒険のためにも、未だ名称不明であるそのネズミ共の生態をしっかり掴み、得た情報を同盟の皆と共有していかなければならない。
「頑張って博物誌に貢献出来るようにするねー」
 緑馬ドリ忍びの小僧・アキラ(a47202)もやる気に溢れた声を張り上げる。
「鼠に齧られないように、出来るだけ露出を抑えた方が良いと思うの」
 そう提案した書庫の月暈・アーズ(a42310)は、必殺格闘ウサギ美少女・ユリア(a67628)の姿を見るなりしばし言葉を失った。バトルコスチュームと名付けられたユリアの防具は、露出を抑えるどころか、間違えてワイルドファイアにでも来てしまったのかと錯覚させるほどの高露出。攻撃に対する防御力よりもむしろ寒さに対する防御力が心配だったが、ユリアの瑞々しい肢体には鳥肌一つ立っておらず、アーズはただただ感心するばかりであった。
「召喚獣……待機させる?」
 続くセッカの提案には特に反対の声も無く、冒険者達は各々の召喚獣に待機命令を出していく。
 9人の冒険者が召喚獣を出したままでいれば、実際に目に付く影は単純計算で倍になる。念には念を、というわけだ。次々と召喚獣が姿を消す中、獣哭の弦音・シバ(a74900)の視線は森を飛び越え、そびえ立つ壱の剣へと向かっていた。
「この大陸は自分達に何を齎すかな……」
 冒険者達は常に何かを追い求め、様々な発見と共に歩んできた。新たな大陸、新たな冒険、新たな力、新たな知識――。
「僕の好奇心と求知心が満たされる場所であれば……良いな」
 シバの言葉を受ける様に、ペトルーシュカと三つの断章・ラグゼルヴ(a51704)が独りごちる。フラウウインドを家に喩えれば、同盟の冒険者が切り開いた範囲はまだ玄関程度のもの。だが、そこは彼らを惹き付けるに十分な魅力を持った玄関だ。
「そろそろ出発しましょうか」
 装備その他の最終チェックを終えた冒険者達に、好奇心の徒・コーマ(a74434)の声が掛かる。
 武器を手に立ち上がり、深呼吸をひとつ。
 そして、冒険が始まる。


 木々が鬱蒼と生い茂る森の中、冒険者達はフライドに指示された方角に向かって進みながら、鼠の群れが通った痕跡を探していた。
「ネズミなら、木……噛むかな……」
 膝を突き、木の表面をまじまじと見つめるセッカ。今回の獲物である鼠のような生物が肉食なのか草食なのか、はたまた雑食なのかはまだ分からない。しかし、前歯が発達しているのであれば、堅い物を囓って歯を研いでいる可能性もある。
 一方、アキラは群れが食事をした痕跡を探していた。木の実などの食べ滓、鋭い歯にやられた動物の死骸、糞、どれも辺りには見当たらない。
 と、その時。頭上で甲高い鳴き声。即座に武器を構え、戦闘態勢。しかし――、
「……鳥なのね」
 あれも未知の生物なのだろうか。見たことも無い形状の鳥が、大きな羽音を立てて空へと飛び立っていった。現時点で博物誌に記載されている生物達は、おそらくこの大陸に棲息する中のごく一部に過ぎないのだろう。相当な分厚さになりそうなフラウウインド博物誌完全版を想像しつつ、アキラは再び群れの痕跡を探し始める。
 そうして仲間が捜索に力を割く中、ユリアとポルックは先程から2人で何やら話し込んでいる様子。
「……でもさ、あんまり迂闊な事は言わない方が良いと思うなーボク」
「え、何のこと?」
 きょとんとした表情を返すポルック。
「ほら、さっき言ってたアレ。壱の剣が『倒れてこないのかな?』ってやつ。あれが倒れて来たら冒険を楽しむどころじゃなくなる気がするし、もしほんとにそうなったら気まずくならない?」
「えー、そうかなぁ? ボクが何かやって倒したんなら気まずいだろうけど……、それ以外ならただの偶然だよね」
 お気楽モード全開のポルックは、あまりそういう事を気にしないらしい。
 その後も捜索そっちのけで雑談に励む2人であった。
「ちょっと待った」
 シバの声。さぼっているのを怒られるのかと思いきや、どうやら声は全員に向けられている。
「足跡だ」
 シバが指差す地面には、そうと言われなければ気付かない程の小さなへこみが幾つも付いていた。それほど古いものではないと言うシバに従い、冒険者達は森を奥へ奥へと進んでいく。
「これ……」
 一本の木の前でリトが足を止めた。地面から顔を覗かせている根の部分が、何かで削り取られたように傷だらけになっている。新しい傷。近づいている。慎重に、着実に、歩を進める。
「居た」
 周囲への警戒の為、外側に向いていたラグゼルヴの視線が、木々の間を通り抜けていく灰色の塊を捉えた。其方へ向けて、コーマが遠眼鏡を構える。居る。体長約1メートル。さほど大きくはないが、それが数十匹集まった群れが蠢く様は、苦手な人ならば瞬時に卒倒しそうな不気味な光景だった。
「それじゃ早速戦闘開始ねー」
「ちょ、ちょっと待って下さい……!」
 アキラが出ていこうとするのをリトが制止する。まずは観察タイム。それが彼を始めとした数名の希望であった。
「はっきりと分かる上下関係などは確認出来ませんね。少なくともあの群れには」
 遠眼鏡を覗きながら、器用にメモを取っていくコーマ。鼠たちはまだこちらに気付いていない。他の冒険者達もそれぞれに博物誌に載せる情報を集め始める。
 そして数分後、突如として鼠たちの様子が一変した。気付けば、いつのまにか風が後ろから吹いている。風上から流れ行く匂いが、鼠たちに冒険者達の存在を伝えていたのだ。
「残念だけど、観察はここまでだわ。あとは打ち合わせ通りに……なの」
 アーズが立ち上がり、冒険者達は瞬く間に半円形の隊列を完成させる。その間にもじりじりと躙り寄る鼠たち。逃げる様子は全く無く、どうやら非常に好戦的な性格であるらしかった。


 一斉に飛びかかってくる鼠たちに、最前列から放たれたアキラのジャスティスレインが降り注ぐ。丸々とした体に叩き付けるような衝撃が走るも、流石に一発では終わらない。耳障りな鳴き声を上げながら、鋭い前歯を光らせて突進してくる鼠たち。
「噛まれる……やだ」
 傍目からはほぼ無表情に見えるセッカだが、その指先から撃ち出される容赦の無いエンブレムシャワーを見るにつけ、どうやら本気で嫌がっているようだ。
 逆に、果敢に前に出るユリア。わらわらと群がってくる鼠たちにも怯まず、屈んだ体勢で闘気を練り上げる。飛びついてきた1匹が、鋭い前歯を柔らかな肌に食い込ませる。直後、もう1匹。今度はしっぽを刺し込まれた。いかに強靱な肉体を持っているとはいえ、噛みつかれれば痛い。毒が回れば体力を消耗する。しかしユリアは歯を食いしばって耐え、鼠たちを十分に引き付けたところで、ジャンプ一番、思い切り伸ばした手足から生み出される闘気の嵐。吹き荒れるデンジャラスタイフーンが鼠たちを次々と巻き込み、
「っとと」
 ――着地。大きく揺れる豊かな胸に、幾筋かの痛々しい傷が浮かび上がっている。
 数の暴力とはよく言ったもので、目の前の3匹を倒したかと思えば、すぐさまその後ろから別の3匹が襲いかかってくる。積極的に前に出る者達は全員、体中に傷を作っていた。
「見た目は愛嬌がある……んですが」
 噛みつきから身を退いたリトの頬に、一瞬遅れて滲み出る真っ赤な血。
 ふさふさの体毛に、くりくりの目。鼠がアリな人ならばペットにも出来そうな外見ではある。しかし、やはりこの生物は危険だ。血を拭い、デンジャラスタイフーンを放つリトの前に、また何匹か、動かなくなった鼠が骸を晒していった。
 森に、一際大きな鳴き声が響き渡る。事前情報を持つ冒険者達は、その鳴き声の意味するところを正確に把握していた。仲間を呼んだのだ。
 直後、ラグゼルヴの暗黒縛鎖に締め上げられ、鳴き声は途中でかき消えた。が、群れからは次の声、また次の声が上がり始める。
「やっぱりこうなるよね……」
 反動で動けない体を強ばらせ、苦笑するラグゼルヴ。そののど元を目がけて飛び込んできた鼠をアーズの突風が押し返し、ポルックの飛燕連撃がとどめを刺した。
「……何か、いやーな音が聞こえてくるんだけど」
 そう言って伝声管をすました途端、茂みから飛び出した鼠のタックルがポルックのみぞおちにクリーンヒット。続々と集結し始める鼠の増援。早速仲間を呼んでいる鼠もいる。まさに鼠算だ。
 現れた端からニードルスピアを撃ち込んでいくコーマを、ジャスティスレインを被せて放つシバが援護。散々鳴かれて、仲間を呼ぶ声の特徴は十分把握出来た。あとすべき事は、なるべく早く倒しきり、この戦闘を終わらせることだ。
「セッカさん、フォローお願いしますなの」
 言うが早いか、背中合わせに立つアーズとラグゼルヴから放出される無数の鎖。
「……情報だけ置いて、おやすみ」
 広範囲に伸びる鎖は多くの鼠を絡め取り、一呼吸置いて行われたセッカの祈りは2人の麻痺を取り払う。続いて、ジャスティスレインを撃ち尽くしたアキラが蜘蛛糸を放てば、動けなくなった鼠の群れにリトが飛び込み、そこを中心に巻き起こるデンジャラスタイフーン。
 広範囲をカバーするアビリティで攻め続ける冒険者達の前に、鼠の群れは徐々にその数を減らし、数分後、大量の死骸の山を築き上げたところで、ようやく終結と相成った。


「ふぅ……、まぁ、こんなものかな」
 額に滲む汗を拭い、シバは森の木に寄りかかる。観察用に残した一部以外を埋葬し終わり、次に冒険者達を待つのは、実際に鼠の死骸を手にとって行う詳細な生態調査。
 アーズが観察しているのは鼠の手足。びろんと伸びた細い手の先には、前歯ほどではないがかなり鋭そうな爪が生えていた。
「引っ掻かれた時は痛かったわ……」
 既に傷は消えているものの、思い出して思わず腕をさすってしまう。
「歯……すごい」
 セッカは図解入りのメモを取る。その図を採用するかどうかで冒険者達が大いに盛り上がるのは、もう少し後の話。
 一方、ラグゼルヴはランドアースでよく見かける普通の鼠との違いを見出そうと、死骸を色々な向きから眺めていた。
「大きさと尻尾以外は……、凶暴性?」
 あるいは、自分より強い相手にも逃げずに向かってくる無謀さ。
「しかし、やはり一番の注目点は尻尾でしょう」
 手に持った尻尾に興味深げな視線を投げかけるコーマ。見た所、何の変哲も無い尻尾に見えるが、これがどの様にして相手に突き刺せるほどの硬度を持つのか。その先から注入される毒はどこで生み出されているのか。残念ながらそれらの謎は謎のまま残る事となったが、胃袋の中身から雑食である事が分かったのは僥倖であった。

 調査も一段落した夕暮れ時。火を囲んで座る冒険者達の間では、フラウウインドの依頼の醍醐味とも言える未知の生物への命名について、活発な意見が交わされていた。
 アキラ曰く、
「とりあえず、ツナミネズミというのはどうかな?」
 アーズ曰く、
「尖った尾を見た時の気持ちと、どんどん増える様子を掛けて、ぞくぞく鼠はどうかしら……?」
 セッカ曰く、
「ん……群れる……たかる……うっとうしい。チンピラネズミ」
 ネズミっぽい生物という事で、名前にもネズミを入れておくのは分かり易く、悪くない案だ。
 続いてユリア。
「毒の尻尾をサソリと結びつけて、スコーピオラットなんてどうかな? かっこよくない?」
 格好良さ重視でありがら、毒を持っている事が一目で伺える名前と言える。
「シンプルに、ニードルテールというのはどうでしょうか?」
 これがコーマ案。しっぽを突き刺してくる生物であろう事が伝わりやすいのは良い。
「鼠(チュウ)と毒……でチュウドク」
 これは、ユーモアと実益が合わさったリトのアイデア。
 そして回ってきたポルックのターン。
「ずっと楽しみにしてた。プーカ一の名付け名人、お手並み拝見……」
 セッカの過大な期待に応えるべく、ポルックは胸を張って発表を開始した。
「戦ってるとさ、わらわら沸いて出てくるよね。わらわら、わらわらと……ワラワラット!」
「…………」
「何かみんなの案をちょっとずつパクったっぽい雰囲気がするねー」
「ち、違うって、パクリじゃないよ! インスピレーションを貰っただけさっ」
 その後、喧喧囂囂のポルック糾弾会を終えた冒険者達の再度の話し合いの末、博物誌に載せる名前として選ばれたのは、リトの『チュウドク』であった。


マスター:東川岳人 紹介ページ
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参加者:8人
作成日:2008/11/19
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ペトルーシュカと三つの断章・ラグゼルヴ(a51704)  2011年03月20日 21時  通報
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