さいはて山脈を登れ!〜猿と味覚と温泉と〜



<オープニング>


「うわああああぁぁぁぁぁ!」
「どうしたんや、ダント!?」
「ただ叫んだだけだ」
「……ほぉ」
 突如始まる拳と拳のぶつかり合い。さいはて山脈の清涼な風に呷られながら、結構真剣に殴り合ってる突貫爆砕・ウィルダント(a26840)と星屑狐・シャル(a23469)。
「こんな所まで来て、なにやってんだか……」
 眉間を押さえる自由の翼・ヨウ(a30238) の背中には、少し大きめの籠が1つ。ちなみに、今殴り合ってる2人の背中にも籠がある。
 事の顛末はこうである。秋の味覚恋しさにウィルダントがヴィクトリア・ロードの食料庫を何気なく覗いたところ、大きな倉庫の中身はすっからかん。顔を真っ青にしてこのままでは飢え死にだ! と騒いでいた処で耳にした噂。
『さいはて山脈のある場所に、色んな秋の味覚が楽しめる場所があるんだって』
 これを逃す手はない、とすぐさま出立の用意をし今に至ると言うわけだが……。
「なあ、ダント団長。本当に秋の味覚なんてあるのか……?」
「さあ?」
「……ほぅ」
 拳を硬く握り締める真闇の通過者サスケ・アソート(a45042)。一名様殴り合いに追加である。吹き付ける清風に紛れて、ちょ、まて、2対1は反そぶぎゅるぁ!? といった声が聞こえる気もするが、気のせいだろう。
「でも、そろそろ見つかってくれないと、お腹ぺこぺこなんだよ」
「ボクも……ちょっとお腹すいてきましたね。――あぅ」
 まるで何事もなかったかのように、切なげな表情でお腹を押さえる鋼の戦乙女・カレン(a62590)。その隣を歩く今日も一日・ランティ(a90391)のお腹から、くぅ〜、という主張が聞こえ始める。
「皆秋の味覚目当てかな? 私はもう一つの方目当てだったんだけど……あ、あれじゃないかな?」
 ウィルダントの聞いた噂にはもう1つおまけがついていた。どうやら、その味覚を楽しめるすぐ近くには、天然の温泉があるのだとか。気儘な南風・フェリアス(a60497)が楽しみにしていたのはこちらである。そして彼女の指差す方向からは、濛々と立ち込める湯気。
「オレ、一番乗りです!」
 いつの間にか復帰していたウィルダントが、颯爽と駆け出していき――絹を切り裂くような悲鳴が辺りに響いた。
 ウィルダント自身忘れていたのだが、噂には更にまだ続きがあったのである。
「くそっ……なんだ、こいつら!」
 纏わりついてくる猿を引き剥がすウィルダント。弾き飛ばされた猿は、鼻息荒くウィルダントを見つめている。
 噂の続きとはこうである。食べ物のなってる木の傍には、大きな変異猿が3匹ほどいると。そしてその猿は……執拗に男を狙ってくるのだと。
 熱くねっとりとした視線を男陣へと奔らせる猿達。思わず鳥肌が立つのを感じた面々であるが、このままでは折角の目の前にある食べ物と温泉を楽しむことが出来ない。
「行くぞ……皆!」
 食べ物の為、温泉の為、彼等は戦うのであった。


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参加者
星屑狐・シャル(a23469)
突貫爆砕・ウィルダント(a26840)
自由の翼・ヨウ(a30238)
夢想歌の歌姫・ソレイユ(a33840)
隠れ家ヘよーこその看板盗んだ・フォッグ(a33901)
苺・アソート(a45042)
気儘な南風・フェリアス(a60497)
鋼の戦乙女・カレン(a62590)
NPC:今日も一日・ランティ(a90391)



<リプレイ>

●あいらぶゆー
「さァてめェ達……お楽しみは後にして張り切って行くぞッ!」
「ダント団長を張り切ってシメていーってことっすよね?」
「何故っ!?」
 首を軽くほぐし、手をパキリポキリと鳴らしながら近づく真闇の通過者サスケ・アソート(a45042)を前に、思わずズザザと後退っていく突貫爆砕・ウィルダント(a26840)。
「猿退治に付き合わされるこっちの身にもなってみい」
「ぐおッ!?」
 そんなウィルダントの腹を、やれやれといった様子で蹴飛ばす星屑狐・シャル(a23469)。猿退治の前に大猿(ウィルダント)退治のような雰囲気になってきている。
「畜生! オレに味方はいねぇのか!? くっ……世の中因果応報……最初ツラけりゃ後は良い事ばっかりなハズ!」
「どーでもいいけどな――」
 頭を抱え、それでも尚ポジティブ思考なウィルダントの様子に、呆れきったようなため息を洩らしながらサングラスを弄る自由の翼・ヨウ(a30238)。
「――そこ、猿のど真ん中だぞ?」
「へ……?」
 キシャー! ドンドコドンドコ! ウキャキャ、ウキャキャ!
 おとこ! オトコ! 男! とでも言わんばかりに大騒ぎの猿達。自分から突っ込んできたイケメン(自称)に、大興奮の模様である。
「ギャー! オレ、大ピンチ!」
「大変そうだねー」
「そう思うなら助けろヨ!?」
「ごめんね。私近づいてきた猿から攻撃しようと思ってるから、今はなにも出来ないかな」
 顔の前で手を合わせながら笑って誤魔化す気儘な南風・フェリアス(a60497)。実際のところ助けに入る気はゼロである。ちなみにそうしている間にも猿達の包囲網はじりじりと狭まってきている。
「そ、そうだ! きっとカレンやソレイユなら、オレのこの窮地を救ってくれると――」
「……でね、食料庫の中からいい匂いがしてきて、ついついお腹いっぱい食べちゃったんだよ」
「えー! あの食料庫……結構大きくなかったですか?」
「カレンちゃんは美味しい物には目がないからなあ。今回も美味しい物目当てで来たんやろ?」
 和気藹々と談笑している鋼の戦乙女・カレン(a62590)、今日も一日・ランティ(a90391)、そして夢想歌の歌姫・ソレイユ(a33840)の3人。残念ながらウィルダントの現状に、これっぽっちも気付いていない。
 ひどいッ! もう誰も信じられないッ! と心の中で涙するウィルダントの視界に映ったのは、鋼糸を構えながらも現在の状況を図りかねて動けずにいる業風・フォッグ(a33901)である。

 た、す、け、て!

 最早声にならない声を上げながら必死に助けを求めるウィルダント。まだ彼が居る、オレにはまだ彼が居るゼ……! そんな藁にもすがるような思いは――。
「残念だが、俺は飛ばすほうの戦闘スタイルでな……」
 間に入る気はないよ、恐ろしく遠まわしに伝え顔を逸らすフォッグ自身によって破られた。
 はは……ははは……、と乾いた笑い声を発し、呆然と血の涙を流すウィルダントの体に、3匹の猿達が飛びかかる!

●愛羅武勇
『猿に興味は無ェ!』
 大気を震わせるかのような魂の叫びに、思わずビクリッと動きを止める猿達。その叫びの中心では、男泣きに暮れるウィルダントの姿があった。
「お、止まった止まった」
「ふー……そんじゃ、いい加減始めやんなあかんね」
 そんな姿には目もくれず、蜘蛛糸を使い猿達を拘束していくアソート。射程ギリギリの位置からこそこそと矢の雨を降らしていくシャル。
「とりあえず……黒こげになってろ!」
「じゃあ俺も……よっと!」
 やや離れた位置から電撃を飛ばすヨウ。フォッグもまた、一定の距離をしっかり取りつつ、猿達を攻撃している。
 猿達が自分達に近づく恐れが無くなった途端、一切の容赦なく攻め立てる男性陣(ウィルダント除く)。
 キ……キキッイ! ムッキャー!
 避けることも出来ず、ただ只管に攻撃の雨に当てられダクダクと血を流す猿達であるが、血の気の失せてきたはずの頬は何故か赤らみ、そして気持ち、よさ……そう……?
 ウッキャキャー!
 遂に我慢できない、といった様子で1匹の猿が拘束を振り切り、全身の筋肉を震わせ疾駆する。その先に居るのは――アソートである。
「ま、待て、話せば分か――んにゅぁぁ!」
 囮がいるから自分は大丈夫、その油断ゆえか碌に抵抗も出来ず猿の餌食となるアソート。申し訳ないがちょっと見せられない光景である。
 それを見た残りの2匹も、負けてはおれぬと蜘蛛糸を引きちぎり、各々の獲物目掛けて走り出す!
「くっ……来るなっ!」
 血色を変えて気で練られた刃を飛ばすフォッグ。しかし……猿は急にピタリと歩みを止めたかと思うと『こんな攻撃で俺の動きは止めれねぇ。むしろ愛に障害は付き物であって、燃え上がれ俺のラヴハート! これぞ俺流のサ、ト、リ!』とでも言わんかのごとく、片手で胸を掻き毟りながらもう片手で額を押さえ天を仰ぐ。そしてそのポーズによってか……なんとフォッグの攻撃が、衝撃波として跳ね返ってくるではないか!
「何!?」
 体中をズタズタに引き裂かれ、思わず膝をつくフォッグ。それを見たソレイユが慌てて傷を癒すものの、一度崩れた態勢はすぐには戻せない。その間にも猿は顔に喜色を浮かべ、大地を蹴り上げ宙に舞っている。最早これまで……! 目をギュッと瞑るフォッグであったが、予想していた最悪の瞬間はなかなか訪れない。
 不審に思い目を開けたフォッグは、そこに救いの女神を見た!
「食べ物の恨みを晴らすんだよ!」
 返り血のべっとりとついた大包丁をザックリと地面に突き刺し胸を張るカレン。その傍らには血の海に沈んだ1匹の哀れな死骸が転がっている。
 よくよく周りを見てみると、まるで全力でかけっこをしたかのように汗だくになっているシャルとヨウの姿があり、その前には同じくぶった切られた猿の死骸が2つ。その近くには、すんすんと膝を抱えて泣いているアソートとウィルダントがおり、それをどう慰めるべきか、と悩みあぐねているフェリアスとソレイユが顔を突き合わせている。そして視界の端のほうでは、フレー、フレーと応援だけしていたランティが、何事もなかったかのように味覚の採集を始めていた。
 まあ要するにだ。
 何だこの状況。

●味覚と温泉と
「っしゃあ! 鳥肉ゲットや!」
「おっ……アケビか。いい感じだな――」
 狩りたての野鳥の血抜きを始めるシャル。その手つきは手馴れたもので、何の迷いもなく器用にナイフを動かしていく。その近くでは、ヨウが次から次へと様々な野草を背負っている籠へと放り込んでいる。こういった経験が豊富なのか、はたまた先ほど体を動かして腹をすかせているからかはヨウ自身にしか分かりはしないが、ちゃんと食用の物だけを選んでいる辺り、こういった状況において実に頼もしい人材である。
 ふごー、ふごー。
「……こんな、ものか」
 顔を真っ赤に染めたアソートが、満足のいく火の調節が出来たのか、やや嬉しそうに流れ出る汗を拭う。チロチロと燃える炎の上では、くつくつと音を立てる飯盒が吊るされている。
 しゃりっ。
「ん〜♪ いい感じの甘さ、だね」
 もぎたての梨を口へと運ぶフェリアス。野生の梨の割にはしっかりと大きなその果実は、噛み締める歯の間で、しゃくりしゃくりと小気味よい食感と、思わずほっとするような甘みをフェリアスへと伝えてくれる。
「あー! つまみ食いはいけないんだよ!」
 両手いっぱいに零れんばかりの果物を抱えているカレンが、採集中のフェリアスのつまみ食いに頬を膨らませて抗議する。カレン自身既にお腹ぺこぺこで、今腕の中にある食料を口にしたいのは山々なのだが、何とか理性を総動員して押さえている状態である。
「あ、その辺に置いといてくれたらいいで〜」
 ザクザク、と手際よく食材を手頃なサイズへと切っていくソレイユ。その傍らに置かれた土鍋には、出汁とり用の昆布が入れられ薄っすらと湯気を立ち上らせている。
「もうそろそろ……ですかね」
 果物の皮を剥いて皿に盛り付けていたランティは、鍋の頃合を見て一端その作業を中断する。そして昆布を鍋から引き上げると、ソレイユが煮えにくいであろう山菜を中心に鍋の中へと放り込んでいく。
 ぐつぐつ、ぐつぐつ。
 辺りに昆布と醤油出汁のなんとも言えない香りが充満し始め、お腹をすかせた各人のお腹から、大小様々な自己主張の音が聞こえ始める。
「ご飯、出来たで〜♪」

「――コレだ!」
 キラリ、と目を光らせたウィルダントが掬い上げたのは……水玉模様の見るからにやばそうなキノコである。全員が明らかに避けていたものを、ついつい引き当ててしまう男ウィルダント。もっともこのキノコを採取してきたのも彼であるが。
「一度掬ったものはちゃんと食うように」
 鍋に戻してなかったことにしようとしているウィルダントを牽制するフォッグ。無言で具材を口に運びながらも、その通りだ、とでも言うかのようにヨウが首肯する。ちなみに酒の進みは順調なようで、やや据わってきた目には何だか有無を言わせぬ迫力がある。
「まさか……男が一度決めたものを選びなおしたりはせえへんよな? ダント」
 すっかり酔いがまわってきているのか、顔を真っ赤にしたシャルがニシシと悪戯っぽく笑う。
「鍋は美味しいけど……よく見て食べないと酷い目にあいそうだね。温泉に入る前に倒れるわけには……」
 やや頬を引きつらせながら箸をすすめるフェリアス。その視界の片隅では、喉を押さえながらのた打ち回る男の姿が。出来るだけそちらの方を見ないようにしつつ、鍋はこれぐらいにしてデザートにしよう、と結論付けるのであった。
「御代わりはたっぷり用意してある」
「お代わりっ、大盛りでお願いなんだよ!」
「あっ、ボクもお代わりお願いします」
 食い気にひたすら走るカレンとランティ。特にカレンの勢いはすごいもので、差し出された茶碗に白米を盛り付けながら、よくこれだけ食べれるものだとアソートは内心舌を巻く思いである。
「そろそろ具材もなくなってきたし……あとは温泉に浸かってゆっくりするだけやね」
 かなりの量を用意してはいたのだが、やはり大人数だと減りが早いものである。残り僅かとなった具材を鍋に全て放り込んだソレイユは、お先にーと言いながら温泉へと向かっていった。

「うわははは! みんな、グッジョブ!」
 フワリンに跨ったウィルダントが、温泉へと飛び込みを敢行する。その顔色は首に巻かれたマフラー同様の、真っ赤な酔っ払いのそれである。尚、飛び込み防止としてフォッグが巻いていたまきびしは、フワリンに乗っていたため残念ながら効果を発揮することが出来なかった。
「うおっ!? ……ダント団長、飲みすぎだぞ」
 ドボンッとあがった水しぶきに、思わず手にしていた杯を取りこぼすアソート。あーあ、勿体無いと残念そうにしながら杯を拾い上げる。その隣では、頭からお湯を被る羽目になったフォッグが諦めたようにお湯に浸かっている。
「それにしても……フェリアスちゃん、大胆な水着やねー」
「えっ、そ、そうかな……? ソレイユさんこそ、すごいビキニ……」
 真っ赤なハイレグワンピースの水着を身に纏ったフェリアスを、感心したような顔で見つめるソレイユ。その視線に思わず恥ずかしそうに体を縮こまらせるフェリアス。しかし、その視線の主であるソレイユの格好もまたすごい。抜群のスタイルを誇るその体を覆う布地は極めて少なく、正直かなり目のやり場に困る。
 思わず下心が混ざった視線を送ってしまう男性陣に、ソレイユが怖〜い、怖〜い笑顔が向ける。温かいお湯の中に居るはずなのに、冷たいものが背筋を流れる感覚を覚えた男性陣は、慌てて目をそらす――のだが、逸らした先に更に問題があった。
「混浴なの忘れてたんだよ」
「わわわ……!? せ、せめてこのタオルだけでもつけてくださいっ」
 生まれたままの姿といいますか、すっぽんぽんといいますか、そんな感じのカレンが温泉の中でお湯を撒き散らしながらはしゃいでいる。自らの現状を全くといっていいほど気にしておらず、近くに居るランティがタオル片手にわたわたと慌てている姿が滑稽にすら思えるほどである。
「……グッジョブ!」
 先ほどとはまた違う赤みを乗せた顔で、にまーっと笑うウィルダント。勿論、頬を引きつらせた女性陣(カレン除く)に、その後血祭りに上げられたのは言うまでもない。
「皆がんばるなー」
 そんな様子を1人ゆっくりと眺め寛いでいるヨウ。アソートにわけてもらった酒で手酌をしつつ、騒ぎに巻き込まれないぐらいの位置を陣取りのんびりとした時間を過ごしていた。
 本日もまた、平穏なり。

「へーっくしっ! こ、コレぐらいでへこたれるワイヤな……」
 褌一丁の姿で簀巻きにされ木に吊るされているのはシャルである。温泉タイムへと移行しようとしたとき、女性陣に紐としか形容できないようなビキニを勧めたため、ただ1人お仕置きとして放置されてしまったのである。
「あっ……ああっ、こ、心が……寒……」
 合掌。


マスター:原人 紹介ページ
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作成日:2008/11/23
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