竜神の棲まう川



<オープニング>


●竜神の棲まう川
「頼む……娘は、娘だけは堪忍してくれ! 俺ぁの命なら幾らでもくれちゃるきに」
 必死の形相で足元に縋りつく40過ぎの男性。しがみ付かれている方はと言えば、祭事に纏うような派手な刺繍の長衣を着た30歳前後の男。神官のようなものだろう。
「ダ・メ・だ! 竜神サマの神託があったんだ。明晩、ココの娘を贄として差し出すことになった。今夜はその前の禊としてワシの元で祈りを捧げてもらう。生娘の贄は全て村の男衆で決めた『掟』じゃろうが!」
「しかし早過ぎじゃねぇがか? この前の贄から一月も経っとらんが!」
「そんな事ぁ、よう知らんわ。ワシはただ神託に従って粛々とこなしちょるだけじゃ!」
 乱暴に言い放つと、男は縋りつく父親を蹴り飛ばし、遠慮なしに奥の部屋に侵入。隅で震える18か19になろうかという娘の手を取り、立ち上がらせる。
「いやぁぁぁぁ〜っ!!」
「煩い! 大人しくせんか! 竜神サマの怒りで村が滅ぶぞ!!」
 大きな声で一喝! そして、強引に自らの住む社へと連れ去っていった。
 ――そしてその晩。
 誰もいない部屋で、観念したように一心に祈る娘。その部屋へ、先の神官然とした男がそっと侵入。
(「くっくっく……。これだから神職は辞められぬ。どうせ竜神サマは女ならば誰でも構わんのじゃろ。生娘の必要もねぇんだし、ワシが少しくらい楽しんでも……」)
 娘のすぐ後ろまで忍び寄るや、ガバッと娘の身体を抱きしめる。
「大人しくせい……声を立てればお前の両親は竜神サマの爪に引き裂かれて死んでまうぞ。黙ってワシの言うとおりに……な」
 そう言って娘を黙らせると男は、欲望の限り娘を弄んだ。
 そして翌日の夕刻。言葉も、生きる意欲も失った娘を連れ、村から半刻ほどの川へ。そして川の傍にある祠に娘を置き去りにすると、竜神に捧げる宣旨を読み上げ、そそくさと立ち去る。
「村のためじゃ……辛抱せぇよ」
 そして……夜半を過ぎて祠に現れしは、首から上が蛇で下は人間に近い姿の魔物。
 その冷たい瞳で見つめられるや、娘はあらゆる束縛から解放されたように我が身を魔物の前に差し出した。
「やはり、女は柔らかくて良い……」
 それだけ言うと、肌の感触を確かめるように全身を撫で回し、そして……一息に呑み込んだのだった。

●依頼
「またしてもドラグナーによる事件よ。村の守護たる竜神に成りすまし、神官職の男を使って生贄を集めているの」
 と言って、運命を信じてる霊査士・フォルトゥナ(a90326)は、霊査の様子を語った。
「今の事で分かる通り、ドラグナーも問題だけど、神官職の男に至っては相当に腐った魂の持ち主ね。それに……元来、生贄の習慣を持っていた村の施政の問題も。少し面倒かも知れないけど、できれば皆まとめて片付けてきて頂戴」
 頷く冒険者たちの様子を確かめると、フォルトゥナは改めてもう少しだけ詳しい説明に移る。
「まずは村の施政には触れず、村人の協力を得た方が良いわね。その上で神官職の男とどう接するかで方針が決まるんじゃないかしら。特に気をつけるべきは神官職の男をフリーにしないように、って事ね。部外者の来訪がドラグナーに知られれば、向こうは必ず逃げてしまうでしょうから。そして次の神託とやらは1週間もしないうちに出ることでしょう。ドラグナーが、覚えた味を我慢できなくなってるのね、たぶん……」
 そして肝心のドラグナーについて。
「敵はどうやら水が得意みたいだから、川に入られると厳しいと思うわ。逃げるのも容易になるし。だから必ず祠に引き込んでから戦いなさい。祠は結構大きくて、10人以上は入れそうな広さだし、近くに潜む場所も事欠かないしね。一旦、引き込めればあとは逃がさないように。敵の攻撃は空中に防御無視の渦を作る力と、瞳で射竦める超魅了。そして鋼のような身体……それなりに厳しい戦いになるかも知れないわね」
 厳しいなどと言いながらも、霊査士は彼らの勝利を微塵も疑ってない様子。

「依頼自体はドラグナーを倒すことと、神官職の男を野放しにしないこと。腐った人間はモンスター以上に性質が悪いものだから。そして……できることなら村人の考えを改めさせて、生贄なんて悪習を撤廃させてきて頂戴」
 という訳だから、後はよろしくね……そう言って、フォルトゥナは冒険者たちに背を向けたのだった。


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参加者
想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)
白陽の剣士・セラフィード(a00935)
音律神子・セイル(a11395)
白竜の語り部・ラト(a17147)
夜蝶嬢王・ペテネーラ(a41119)
駆け抜ける銀剣・バゼット(a46013)
悪滅大聖エビルベイン・ショウ(a66635)
豪火剣欄・オウル(a72556)
残燭に泥む術士・スカビオサ(a75229)
白い怪物・メルチェ(a75551)


<リプレイ>

●選ばれし生贄
「では、わたしはこの辺で皆さんとお別れして、ひと足先に祠へ向かうわね」
 村の近くまで来たとき、想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)が切り出した。生贄の儀式に使われるくらいだから、村に立ち寄ってからでは逆に祠に近付き難くなると考えたから。
「ラトも行くのなぁ〜ん。女の人食べるドラグナー、許さないのなぁん」
 白竜の語り部・ラト(a17147)が小走りにラジスラヴァを追いかける。
 そんな2人に見送りつつ豪火剣欄・オウル(a72556)は、村に向き直るや露骨に嫌悪感を窺わせた。
「……にしても、いけ好かねぇな。てめぇの立場を笠に着てやりたい放題かよ。俺もどうこう言える義理はねぇかもだけど、こういう外道は許せねぇな」
 そんなストレートな怒りに共感を覚えながらも、1人静かに胸を痛める残燭に泥む術士・スカビオサ(a75229)。その胸の痛みの原因は……。
「できれば人身御供をするような風習は辞めて頂きたいものです。そのような真似はこの上なく無益だというのに……」
 しかし瞳の曇った村人には、直接訴えて止めるしか手はあるまい。
 その一方で、夜蝶嬢王・ペテネーラ(a41119)などは、先のオウル以上にあからさま。
「下司が……! 反吐が出るってこの事だわ……! とても直視する気にもなれない」
 そこで彼女も白陽の剣士・セラフィード(a00935)、音律神子・セイル(a11395)らと共に社近くに潜む事にし、商人を名乗って村に入るのは残る5人で務める事になったのだった。

 ――村は、最近の情勢を反映し荒んだ様子が否めない。
 そこに、荷物のように纏めてるとは言え、武具を携えた者たちがが訪れたのだ。剣呑とした空気が漂うのも無理はない。
「行商人だよ。今は冒険者向けの武具を扱ってるんだ。呼ばれりゃ届けるのが信条なんだ」
 駆け抜ける銀剣・バゼット(a46013)が商人よろしく気さくに話し、数日ばかり休ませて欲しい旨を告げた。
 村人は多少訝しみつつも、違和感も見出すことは出来ず、宿に案内する。途中、幾人かの村人たちとすれ違うも、いずれも澱んだ目つきで表情もない。だが、その影で彼らの視線はたった1人に向けられていた……。

 その晩、夜が更ける少し前に神官の社を村人の1人が訪れる。
「誰か来たわ。まさか……偽装がバレたとか!?」
 その様子を双眼鏡越しに捉えたセラフィードが伝えると、セイルが万一に備え、すぐに動けるように構える。
「さすがに大丈夫だとは思いますけど……」
 さすがにそれを裏切ることはなく、村人は何事もなかったように帰ってゆく。だが、なにかしらを吹き込んだには違いない。
 冒険者たちは交代で監視の目を向けながら、夜を明かしたものの、その内容は翌朝判明する事となる。
 朝早く、正装の神官が社を出て村に向かった。
「神託? ……胡散臭い!」
 辟易とするペテネーラ。それに素直に頷きつつセラフィードが仲間への合図を送る。
「何処の家でしょうか? 神託、とやらの犠牲者は!?」
 不遜な笑みを湛え、不偏狂気・メルチェ(a75551)が宿の外に出る。『偶然』その場に居合わせるために。
 ――しかし、その期待は別な形で裏切られる。
 外に出た彼女らの目の前には、村人たちが詰め掛けていたから。
(「まさか、バレたのかよ!? こうなりゃ一気に片を付けるか!」)
 色々な憶測が脳裡を過ぎる悪滅大聖エビルベイン・ショウ(a66635)。
 しかし、彼らの目的はそうではなかった。竜神のお告げと称し、メルチェを差し出してくれという。年頃より幾分若い娘――故に生娘という条件も満たすと判断されたのだろう。ましてや見ず知らずの娘の方が村の娘を生贄にするよりも好都合だから。
 やがて神官が到着すると、形ばかりの口上で神託によって彼女が贄に選ばれた旨を告げる。
 対して、当のメルチェはただ絶句……ではなく、口を開くと場に相応しくない台詞が漏れそうで。冒険者としての誇りがそれを留まらせ、大人しく社へと連行されてゆく。
 見送るしかない4人は、突然の事態に偽りの狼狽を見せるものの、ここが勝負どころ……と頭を切り替えていた。

●神の代弁者
 こうして頭を切り替えた彼らは、村人に協力を求める。
 予定では生贄に選ばれた娘の家族をと思っていたが、急遽、先に娘が犠牲となった家族に変え、話を切り出した。その先陣を切ったのはショウ。
 神託は神官の作り話であること。そして竜神の正体がただの怪物であることなど。
 とは言え、驚くなという方が無理な相談。価値観を根底から覆す話は俄かには信じ難い。
「私たちの仲間が身を以って証明します。ですから……仇を討たせてください」
 真摯な表情で頭を垂れるスカビオサ。頑なだった村人も……その一言に、折れた。
 村の者たちは抑えておく、そう言ってくれた村人に後を託し、4人はようやく社へと急いだ。

 が、その頃――。
 社では既に、神官が淫靡な欲望をメルチェに向けていた。
 そして社の外にはセラフィード、ペテネーラが様子を探る。が、むやみに大きい社ゆえ、完全に中を探るのは困難を窮めていた。
「どうする、娘? 脱ぐか、それとも脱がして貰いたいか!?」
 言いながらも既にメルチェの衣服に手をかけている神官。サービスで上げた小さな悲鳴が更に欲望をいきり立たせる。とは言え、そんな醜いモノに瞳を合わせてやる気もなかったが。
(「もう……良いでしょうか!?」)
 機を推し量るメルチェの耳に響く、社へと入ってくる複数の足音。直後、はだけた肩もそのままに右手を翳し、あられもない格好の神官を蜘蛛糸に絡め取った。
「な、何だこれは!」
「縛られるプレイはお気に召しませんか? ククク」
 妖しい笑みを浮かべるメルチェ。答えに窮した所にペテネーラが到着。
「そうやって、今までの娘たちも全部、玩具にしてきたのね?」
 と、神職にあるまじき姿の神官に、蔑むような視線を向ける。
 さらに、後から入ってきたセラフィードが鳩尾を剣の柄で数発。『ささやかな』折檻である。
「ぐふっ! 神を畏れぬ不届き者め。代弁者たる儂に……竜神サマの怒りに触れようぞ」
「そんな格好でよく言えたものね……」
 呆れるセラフィード。視線を一瞬だけ向けはしたものの、すぐにその汚らわしいモノから目を逸らす。
 そして猿轡を噛ませ、仲間の到着を待つ。
「おい……頭と下半身直結してるのか?あんた」
 社に着くや、開口一番バゼット。なぜなら未だ神官は色々出しっ放しだったから。
 もぞもぞと体をくねらせながら何事か呟く神官を、3人の女性たちが射抜くような視線で黙らせる。
「まぁ良い……祠で儀式を行え。そうすれば無罪放免も考えてやる」
 生贄役はセラフィード。そして無論、バゼットには無罪放免にする気など微塵もありはしなかった。

●竜神あらわる
 そうと決まれば事は早い方が良い。
 生贄役は現地で代わることとし、神官がメルチェを連れて祠へと向かう。
 『行商人の一行』が縋るように付いてきている以上、生きた心地がまったくしない。
 そして祠の方では、先行したセイルの報せにより、ラトとラジスラヴァが予め祠の奥へ。勿論、その侵入が竜神ことドラグナーに伝わるといった仕掛けがないことくらいは確認済み。
 そして神官の到着と共に生贄役が代わり、薄手の毛布を羽織ったセラフィードが、1人中へと入ってゆく。
 そして、神官が川に向かって厳かに宣旨を捧げると、役目は終わったとばかりにペテネーラが蹴り上げる。
「私はね、あなたを『最後の贄』にしたら? と思ってるくらいなの。イヤだなんて言わせないわよ。犠牲になった娘たちは、それすら言えずに若い命を散らせたのだから」
 半分以上は本心だった。が、そうしなかったのは『女』じゃないという、ただそれゆえに。
 結局、祠を視界に捉え得る辺りに身を隠すと、神官もその場に拘束。
「てめぇのツケを払う時が来たんだよ。大人しくしてな。じきにお前の神サマも終わる……その前に動けば、待つのは……」
 首を掻き切る仕草のオウル。必死に頷く神官を傍目に、夜はなお更けて行った。

 ザザーッ!
 川面から、這い出るように何かが岸に上がり、そこからゆっくりと祠に向かって歩き始めた。
「来ましたね」
 セイルが緊張の面持ちでそれを見やる。
 やがて、ソレが祠へと入ったのを確かめると、退路を立つべく彼ら7人も入り口へ。
 キンッ! 金属が弾かれるような音が響く。そう、中では既に……!?

 ――少しだけ時を戻した祠内部。
 時を待ち、迫る恐怖に打ち震える贄を演ずるセラフィードの耳に、水滴の落ちる音と微かに引きずるような足音とが届いた。
(「……来たわね」)
 改めて、気を引き締めなおす。呼応するようにカンテラの灯りが僅かに揺らぐ。
 そうやって彼女の纏う雰囲気が変化したことから気付いたのは、更に奥に潜みしラジスラヴァにラト。いずれも完全に気配を断っているがゆえに、敵に気取られる心配もない。
「匂う……匂うぞ。美味そうな女の馨しき香りが」
 いかにも、という粘着質な雰囲気を醸す声が響く。その声の主は蛇の頭を持ち、チロチロと赤い舌先を見え隠れさせている。
 そして今宵の餌をその瞳に捉えると、背後に回りにじり寄ってゆく。1歩……また1歩。
 その躯が一刀の間合いに入った瞬間、セラフィードの剣が閃く。
 キンッ! 祠の内外に響く高音。しかしその切っ先は鱗に敢え無く弾かれてしまう。
「硬いばかりじゃ防げませんよっ!」
 ラジスラヴァの歌が響き渡る。眠りをもたらす優しい旋律が。それがドラグナーの元に届くや、その意識が落ちるのを感じた。
 更にそれをラトの『Kilch bluete』から解き放たれた銀の狼が飛びかかり、地に組み伏せる。
「絶対、ココで倒すのなぁん!」
 しかしドラグナーは、続く瞬間に覚醒、同時に狼をも容易く振り払う。そして鎌首をもたげ、瞼の無い瞳でセラフィードを射竦めるように見つめた。
 !!
 正常な意識が飛び、まるでドラグナーが10年来の友のような気さえしてくる。その友の気力を奮い立たせるべく歌に癒しの願いを込め、狼の爪痕を消し去った。
「いけないっ!」
 そのとき、聖なる光を携えるように姿を見せたのは、祠の外から駆けつけた仲間たち。
 まずはショウが雄叫びをあげ、立ち上がりかけたドラグナーの動きを止める。
 そしてその長い首を部分を断ち切るように、バゼットの太刀『アガートラーム』から刃の如き衝撃が飛ぶ。
 半端な体勢のまま尚も硬直している相手に、オウルは覇刀スサノオを力の限り振りおろし、硬い鱗を削り取る。
「あんたを潰させてもらうよ!」と。
 その間にセイルが脇に展開、凱歌の力でセラフィードを癒そうと試みるも、強力な魅了から解放するには至らない。
 それどころか、ドラグナーはまたしても容易く硬直を脱すると、さすがに不利を悟ったのだろう……この場を逃れるべく、セラフィードに露払いを頼み、同時に、目先の障害であるオウルに対し、横合いから腕を翳した。
 空気が歪み、彼を中心に気流が生じる。それは瞬く間に渦となり、全身を引き契らんばかりに捻る。
「ぐうぅぅっ……」
 激痛を耐え抜き太刀を地に突き立てるが、渦は消えずに彼の身体を苛む。
 そんな様子を見てもセラフィードは、何の反応も示すことなく真っ直ぐにセイルに駆け寄り、斬る!
「そんなの嫌なぁん」
 それを見たラトが叫び、すぐに凱歌を歌い始める。
「大丈夫ですよ。きっとこれで元に……」
 その声に合わせるように、ラジスラヴァも歌声を重ねる。2つの声が見事なハーモニーを為す。
 その音により渦がかき消え、セラフィードを支配する魅惑も消え去った。もちろん、セイルの身に一文字に刻まれた傷も。
「まったくもって赦し難い……」
 安心と同時に、スカビオサの胸中に同じだけの怒りが沸き上がる。それは無数の木の葉となって宙に舞い上がり、ドラグナーの全身をギュッと縛り上げた。
「よ〜し」
 軽く唇を濡らし、ペテネーラが虚無の闇を紡ぐ。それは巨大な手となりドラグナーを包むと、一息に握りつぶす。その前には硬さなど露ほどの意味もない。
 が、それでも神を詐称するドラグナーは伊達ではなかった。半ば潰された躯を捨て、まさに蛇の如き首から上だけが、這いずりながら入り口を目指す。
 だが、それすらも今となっては単なる足掻きに過ぎない。
 何の感慨も見せず、冷たい視線と共に蜘蛛糸に絡め取るメルチェ。
 そして、無様に蠢くことすらも止められたドラグナーに、ショウの闘気が爆ぜた。さらにセラフィードの雷、バゼットの残像が残るほど素早い斬撃が相次いだ。
「……神様ごっこもコレで終いだ」
 ドラグナーは文字通り灰燼の如く細かい欠片に帰したのだった。

●悪習は今日を限りに
 こうして、無事に神を騙るドラグナーを倒した冒険者たちは、終始姿を見せるのを避けたラジスラヴァを除いて、神官を連れ立った形で凱旋する。
「ただのモンスターでしたよ」
 が、そんなスカビオサの言葉も、誰も信じようとはしなかった。
 それどころか『竜神』の報告を畏れ、冒険者たちをも責めようとしたが、神官が己の非を認めて赦しを請う姿と、先に娘を失った村人の言葉により、渋々ながらも納得。
「生贄を捧げて得られたものは大きいものでしたか? 違いますよね? それなのに……まだ同じ哀しみを繰り返させますか?」
 セイルが真面目な表情で語りかけ、そして優しく微笑む。笑顔は幸せを呼び込む秘訣ですから、と。
「亡くなった人たちは帰ってこないけど、せめて、風に乗せてこの歌が届くように……」
 ラトが静かな音色を奏で始めた。

 ♪命の灯火に炎は揺られて
  優しい母の手が揺り籠を揺らす
  悲しい記憶は癒され……煌く未来へと導くよ、と。

 そうやって、皆の心に追悼の念と悔恨と念とが昂った頃……。忘れてはならない大事なことを思い出させる。
「お前はお前に相応しい罰を受けなさい」
 ペテネーラの言葉は村人に判決を委ねようという意図。
 必死になって赦しを請う神官。村人たちの心にある悔恨が、少しだけ彼を赦そうという方向に傾く。
 が、娘を失った親の心……それだけは決して揺るがなかった。
「決まり、だな……奈落で彼女達に詫び続けろ、クズが」
 即、断罪。男は苦しむ暇すらなかったことだろう。
「はい、おーしーまーい」
「因果応報。お前がした事の報いさ」
 メルチェとオウル。村人の中から無責任な安堵の息が零れる。
「ま、生贄捧げてた辺りあんたらも同類……村を滅ぼすのは幻の神様じゃない。カビ臭い因習に囚われたあんたらさ」
 神官にメルチェを売った誰かさんに視線を合わせるバゼット。そのまま身を翻し、仲間たちと共に村を後にする。
 みな一様に、やりきれない一抹の寂しさを抱きながら……。

 【終わり】


マスター:斉藤七海 紹介ページ
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参加者:10人
作成日:2008/11/27
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