キマイラの闇、盗賊の御手



<オープニング>


「おいお前、俺の財布を取っただろ!」
「な、何言ってるんだよ……知らねぇって」
 街の通りで男二人が言い争いを始め、人々が何事かと足を止める。何やらスリが捕まったようだ。
「だったらその手を出してみろ……ほら、俺の財布じゃねぇか!」
「何言ってんだよ、これは俺のだって。お前のだって証拠はあるのかよ?」
 どうやら捕まったスリは言い逃れをしようとしているらしい。
「なら言ってやる! それには母さんから貰ったお守りが入ってるんだ、ちゃんと俺の名前入りだぞ! ほら…………これだ!」
 男が言うように、スリとおぼしき男の持つ財布にはお守りが入っていた。これは動かぬ証拠だ、そしてこの場に居合わせた人々が証人になる。
「チッ! かっぱらわれるようなマヌケが悪ぃんだよっ!」
 居直り、言い放つスリ。その雰囲気が若干変化したことに、男も通行人達も気付かなかった。
「だったら……お前のもっと大事なモン、かっぱらってやるよっ!」
 スリの手が動いた。――いや、動いたのだろう。その場に居合わせた者のうち誰も、その手の動きを見切ることは出来なかった。
 びちゃ……。
 スリの手には赤い塊が握られており、ぼたぼたと液体が滴り落ちていた。
「う、うわぁぁぁぁー!?」
 キマイラと化したスリは目にも止まらぬ速さで、男の心臓を盗み出していたのである。

●盗賊の御手
「キマイラの出現が感知されました。すぐに向かって下さい」
 真実求む霊査士・ゼロ(a90250)の言葉に、即座に動ける冒険者たちが席に付いた。その真剣な表情を確認し、ゼロも詳細について語り始める。
「キマイラとなった男はとある街でスリを働いていましたが、捕まると同時にキマイラ化してその場に居合わせた目撃者たちを殺害しました。それからは往来をぶらぶらし、通行人達を次々に殺害しています」
 住民達の中でも噂が広がり、家でじっとしていて生き残っている者たちも居るらしい。だが、このままではいずれ殺されてしまうだろう。
「これ以上犠牲者が出ないように……急行してキマイラを討ち取って頂くようにお願いします」
 ゼロはそう言って、キマイラの特徴について説明を始めた。
「キマイラの右手は赤黒く染まり、無機質な質感をしているようです。その腕は目にも止まらぬ程のスピードで動き……一般人が相手なら、その心臓を容易くえぐり出してしまうほどの威力を持っています」
 右手そのものが、鋭利な刃と思っていいだろう。
「冒険者ならば一撃で心臓を奪われるようなことは無いでしょうが、それでも並外れたスピードで急所が狙える攻撃を繰り出してきます。十分に注意してください」
 そしてキマイラは倒してもモンスター化する。ゼロは静かに目を閉じた。
「モンスター化した能力は……正確には視えないのですが、赤黒く染まる部位が増えるようです。そしてその能力が強化されると思われます」
 力不足で申し訳ない言いながら、ゼロは再び目を開いた。
「キマイラ、それが変じたモンスターを倒せば依頼は成功です。住民たちは家に隠れていますが、いつキマイラに見つかるとも知れません。犠牲者もなるべく出さないよう、注意して頂ければと思います」
 ゼロはそう言って、冒険者たちに一礼を送るのだった。


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参加者
雪舞小笑・エレアノーラ(a01907)
子煩悩な愛妻家・クルド(a11701)
黒焔の執行者・レグルス(a20725)
赤黒眼の狂戦士・マサト(a28804)
哲学する弓手・バスマティ(a43726)
眩き銀の月の巫女・マリス(a46003)
氷剣探求者・ニール(a66528)
汚れた手のひら・レイ(a69323)
赤眼の紋章術剣士・アセルス(a74501)



<リプレイ>

「……」
 子煩悩な愛妻家・クルド(a11701)は無言で黒炎覚醒を発動させた。
 冒険者たちの訪れた街は静かで、人の気配が無かった。時折道に血の跡も見て取れる。
「隠れている皆様、危険なので合図するまで、その場に留まっていてください」
 陽春の微笑媛・エレアノーラ(a01907)は大きな声で呼びかけるようにそう告げていった。この街に現れたキマイラを倒し、身を潜め生き延びている人々を救うべく冒険者たちはこの地を訪れたのである。
「騒げば向こうから見つけてくれそうだが」
 道に残った血の跡を調べながら汚れた手のひら・レイ(a69323)が呟く。氷剣探求者・ニール(a66528)も「早めにキマイラの居場所を突き止めましょう」と捜索を始めていた。
「出て来い小悪党! ボクたちが相手だ!」
 言い放つ赤眼の探求者・アセルス(a74501)。その声が届いたか、程なくして一人の男が通りに姿を現した。よく見れば右腕がおかしい、キマイラに間違いないだろう。
「下手っぴスリ野郎が!」
 赤黒眼の狂戦士・マサト(a28804)が大挑発を発動させるが、射程外なので効果は無い。しかしキマイラは冒険者たちに気付いたらしく、アビリティとは関係無しに近づいてきた。
「随分と騒がしい連中だな」
 キマイラはそのまま距離を詰め、アセルスへと腕を突き出す。瞬時に肉が裂け、アセルスの腹部から血があふれ出した。
 哲学する弓手・バスマティ(a43726)がマサトへと君を守ると誓うを発動させる。マサトは接近してきたキマイラに向けて、再び大挑発を行った。
「心臓、取れるものならとってみな!」
 ぞぶっ!
 挑発に応えるように、キマイラの手がマサトの胸に突き刺さる。ダメージ共有でバスマティの体にも痛みが広がった。
「く……ぅ……」
 アセルスがヒーリングウェーブを発動させて自分とマサトの傷を癒し、バスマティを回復させる。それからキマイラの誘導を開始する一行だが、キマイラの執拗な追撃に晒されることになった。
「ハハハッ! 逃げるだけかよっ」
 黒い腕がマサトの背を穿ち、その度にバスマティにもダメージが伝わる。大挑発を射程内で発動させ、かつ距離を保とうとするマサトだが、それではどうしても相手に攻撃のチャンスを与えてしまう。大挑発が成功しない時もあり、待機している仲間達の元へ辿り着く頃にはマサトもバスマティも満身創痍となってしまった。

「スリをした上に逆切れでキマイラ化か、同情の余地はないな」
 ここまで来れば戦闘開始かと、レイがイリュージョンステップの構えを取る。バスマティはヒーリングアローで自身のダメージを回復させていった。
「こうなっちまったもんは仕方ねぇ、やるしかねえよな」
 黒焔の執行者・レグルス(a20725)は黒炎覚醒を発動させる。その直後に追いついたキマイラが、マサトの胸を貫いた!
 ぎり、と歯を食い縛って耐え、マサトは血の覚醒を発動させた。
「キマイラになる時……それを拒めば、ならずに済んだということはありませんか」
 ウェポン・オーバードライブを発動させつつ、キマイラに問うニールだが返事は無い。キマイラもマサトから腕を引き抜き間合いを取り直す所だったので構わなかっただけかもしれないが。
 眩き銀の月の巫女・マリス(a46003)は、自分が前衛か後衛かちょっと考えて、近接攻撃を仕掛けるなら前衛かと間合いを詰める。しかしキマイラはそんなマリスの間に体勢を整えたか、攻撃から身をかわした。
 街に到着した時に黒炎覚醒を発動させたクルドであったが、キマイラを探して誘導する間に効果が切れてしまったのでここで発動し直している。
 エレアノーラはマサトへ鎧聖降臨を発動させ、アセルスはヒーリングウェーブでその傷口を塞いでいった。アセルスの用意したヒーリングウェーブの回数も、誘導中の使用で残り少なくなってきている。気をつけなければいけないだろう。
「ボロボロじゃねぇか、今楽にしてやるよ」
 攻撃の機を伺うマサトにキマイラが襲い掛かる。何度目か、その腕が胸に突き刺さり、ぶちぶちとマサトの中身を引き裂いた。
「……」
 これまでのダメージもあり、マサトはその場に崩れ落ちる。キマイラを包囲しようと展開し始めた冒険者の一角は、早くも崩れた。
 何とか相手の動きを制限しようとレイは呪痕撃を放つ。紋章の槍はキマイラの肩口に突き刺さり、呪いの紋様を刻みつけた。
「キマイラめ……」
 バスマティの矢が突き刺さる。続いてレグルスが暗黒縛鎖を発動させるが、迫る鎖からキマイラはギリギリで身をかわす。反動でレグルスはマヒしてしまった。
 しかしそこにニールが踏み込む! 鎧砕きを叩き込み、びしっと黒い腕に僅かに亀裂を刻みつけた。
「ってぇな!」
 吠えるキマイラだがマリスは怯まず短剣を突き出した。キルドレッドブルーの力が伝わり、魔炎と魔氷が広がってゆく。
「お前に酌量の余地はない、大人しく裁きを受けるんだ!」
 アセルスのエンブレムノヴァが炸裂する! 着弾して燃え上がる一撃に続き、クルドは杖を突き出し術手袋をかざした。
「面白くない、何故君はその力を手に入れることができたのだ」
 解き放たれる緑の業火。炎に包まれるキマイラに向けて、エレアノーラもニールへと鎧聖降臨を発動させてから問いかける。
「その力は何処で手に入れたの」
 ……ばきんっ。
 キマイラはもがき、魔氷を振り解いて言う。
「知りたいか? なら教えてやる」
 そのまま冒険者たちの包囲を突破し、キマイラはエレアノーラに詰め寄った。陣形が乱れたことが災いし、間を抜かれてしまったのだ。
「体にな!」
 ぞぶっ!
 黒い腕が掻き消え、次の瞬間にはエレアノーラの胸にめり込んでいた。ぽたぽたと血が伝わり滴り落ちる。
「この……!」
 レイが割り込むようにミラージュアタックで斬り付け、エレアノーラからキマイラを引き剥がす。ずぼっと腕が抜けて崩れ落ちそうになる所を、バスマティのヒーリングアローが何とか支えた。
「ひゃははっ!」
 嘲笑を上げながら下がるキマイラ。だがそこに飛び込んだニールの鎧砕きが命中し、叩き落とす。
 ごっ!
 地面に倒れたキマイラ目掛け、クルドは緑の業火を解き放った! 燃え上がる炎の中でばきん、と何かがはじけるような音が響く。

 バキ、バキンと炎の中で硬い音が鳴り、キマイラが身を起こす。その間にエレアノーラはレイへ鎧聖降臨を施し、レイはイリュージョンステップの構えを取り直した。
 そして炎の中から現れたキマイラは左足が赤黒くなり、硬質化させているようだった。モンスター化したのである。
 だんっ!
 その左足で踏み切り、猛スピードでニールへ詰め寄り腕を突き立てた!
「くっ!?」
 衝撃と痛みが伝わってくる。だがニールはそれに耐え、至近距離から鎧砕きを叩き込む! ビキッと敵の体に亀裂が走った。
 バックステップで下がり体勢を立て直すニール。その時、モンスターの脇腹にホーミングアローが突き刺さっているのが見て取れた。バスマティが援護に射掛けてくれていたのである。
「光掲げし者の名において、我が命ず、我が手に宿れ癒しの波」
 マヒから回復したレグルスがヒーリングウェーブを発動させ、仲間達の傷を癒してゆく。モンスターから距離を取っていたマリスはバッドラックシュートを投げ付けた!
 しかしモンスターは飛来する不幸のカードを身を屈めて避ける。
「モンスターとなった君に興味は無い、とっとと消えろ」
 続けてクルドが無数の木の葉を解き放つ。炎を纏い業火となって、モンスターの体で燃え上がる!
 その間にエレアノーラはマリスへと鎧聖降臨を発動させる。アセルスは気高き銀狼を解き放ち、喰らい付く牙でモンスターの動きを止めた。
「散れ」
 レイが紋章の槍を生み出し、放つ。呪痕撃はモンスターの体に突き刺さり、ぶわりと紋様を展開した。
「我が元に来たれ、凍てつく気よ満ちよ、漆黒束ね其の敵を打ち砕け!」
 レグルスが両手杖を振り下ろすと同時に、現れた虚無の腕がモンスターの体を引き裂いた。無言で仰け反るモンスターだが……すぐにマリスへと向き直り、硬質化した左足で蹴り上げる!
 ぶづっ!
「……なっ……」
 深々とマリスの身に、縦の切れ目が刻みつけられた。胸の辺りがぱっくりと開き、一瞬遅れて血が噴き出す。鎧聖降臨とシャドウロックで身を固めている筈なのに、それを問題にしていないかのような傷の深さだ。
「なんと……」
 踏み込み長剣を振り下ろすニール。電刃衝の闘気が刃から伝わり、モンスターの動きをマヒさせていった。
 敵の動きが止まっている間にエレアノーラはヒーリングウェーブを発動させ、倒れたマリスの体を支えて下がらせる。
 クルドが緑の業火を放ち、そこにアセルスがエンブレムノヴァを撃ち込む。ダメージが大きいのか、何とか動こうともがくモンスターだが……まだ動きを取り戻すことは出来ていないようだ。
 両手に鋼糸を伸ばし、残像と共にレイが斬り付ける。ざくっとモンスターの肩口を薙ぎ、すぐに向き直って睨み付ける。包囲は最早崩れたに等しい。しかし少しでも相手の動きを牽制するように、即座に対応できるようにと構えているのだ。
「正直反吐が出る、さっさと消えろ」
 バスマティが強弓を引き絞る。解き放たれるライトニングアローがモンスターの胸に突き刺さった。レグルスとクルドは黒炎覚醒の力を集め、ブラックフレイムを撃ち出す。二条の黒炎がモンスターの体に着弾し、ぶわりと炎を伝えていった。
「もう……ひとつ!」
 ニールが電刃衝を振り下ろすが、モンスターはギリギリで右腕を突き出して防御する。がきんと硬い音が響き渡った。だがニールは即座に刃をずらし、すれ違うようにして位置を変える。
「哀れだね……、そしてサヨナラ」
 ニールの背を追うようにアセルスがエンブレムノヴァを放っていたのだ。ミレナリィドールの力を宿した火球がモンスターを呑みこむ……。
 ごっ!
 しかし炎に包まれながらもモンスターは左足で踏み切り、ダッシュをかけてアセルスに詰め寄っていた。そのままぐさりと胸に腕を突き刺す。魔物と化し、もう言葉を紡ぐことの無い口元がニヤリと歪んだように見えた。
 ぶちぶちぶちっ、とアセルスの体の中で何かが引き千切られる。だがその直後、無数の鎖がモンスターの動きを拘束していた。暗黒縛鎖を放ったのはレグルス!
「その罪、償ってもらう」
 バスマティのライトニングアローが雷光と共にモンスターの右腕を貫く。ばきんと黒い腕がはぜ割れた。
 ざんっ!
 一瞬遅れてレイがミラージュアタックでその体を断ち切る。ぐらりと力を無くして倒れた魔物は、二度と動き出すことはなかった。

「このまま放置するわけにもいかんだろ」
 それから冒険者たちはモンスターの残骸を街の外へ埋め、生き残った人々に終わったことを告げる。
「片付いたことを伝えて安心してもらいましょう」
 ニールは生き残りの人たちを探そうと街を巡り、エレアノーラも声をあげて呼びかけてゆく。
「怖い思いをさせてごめんね。もう大丈夫ですよ」
 それから弱っていた人の手当てなども行ってゆき、何とか無事な人々も現状を確認することができたようだった。
「……最後に、死者を……」
 冒険者たちが到着する前、キマイラによって殺害された村人達も居る。その人たちの弔いを終え、冒険者たちは帰路につくのだった。

 (おわり)


マスター:零風堂 紹介ページ
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参加者:9人
作成日:2008/11/23
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重傷者:赤黒眼の狂戦士・マサト(a28804)  眩き銀の月の巫女・マリス(a46003)  赤眼の紋章術剣士・アセルス(a74501) 
死亡者:なし
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