【伝説の……】青い薔薇は秘密のシルシ



<オープニング>


●青い薔薇は秘密のシルシ
 ――肩を越え、背中に掛かるくらいのそこそこ長い髪。自然にウェーブが掛かった青に近い紫の髪は、まるでお伽話の妖精のよう。 少しだけ勝ち気な自信家で、だけどそれに見合った気品もあって、それでいて分け隔てない思いやりも持っていて。
 小さな村だったけれど、彼女に追いつける娘なんて唯の1人もいやしなかった。皆、最初に出会ったその時に、コロッとまいってしまうから。
 でも、完璧に見えた彼女にも、たった1つだけ得られなかった物がある。それは……愛。
 いや、正しく言うならば誰からも愛されてはいた。でも、それはいずれも彼女の求めるものじゃなく、憧憬に似た愛。彼女が欲しかったのは……たった1人からの愛。村で薔薇を栽培しているだけの見目も平凡な青年。美しい薔薇を求め一途な情熱を燃やす彼の心が欲しかった。
 でも、彼女にはそれを口にすることは出来なかった。だって彼女は……ある種、女神にも似た存在だったから。
 だから彼女はたった1人で薔薇を育てた。まだ誰も作ったことのない青い薔薇を。来る日も来る日も、寝る間も惜しんで研究と世話を繰り返し、ついにたった1輪、幻と言われた薔薇の花を咲かせることが出来たのだった。
(「きっと彼も一緒に喜んでくれる……」)
 でも、それを目にした彼の言葉は決して喜びなんかじゃなくて。
「貴女はボクを蔑みに来たのかい? それとも嘲り、笑いにでも? そりゃぁ天才の貴女なら何でも作れるだろうさ。ボクのような凡人が一生懸けたって作れない幻の青い薔薇だって!!」
 ――その夜、彼女は村から姿を消した。彼の薔薇園の片隅に、たった一輪だけ咲いた青い薔薇の花を残して。

●薔薇園の魔物
「お疲れ様……。今回、集まってもらったのは新たなモンスターによる被害が報告されたからなの。すぐに向かって、モンスターを討伐してもらえるかしら」
 運命を信じてる霊査士・フォルトゥナ(a90326)が、冒険者たちに尋ねた。
「モンスターが現れたのは、とある村のはずれ。かつては庭園か何かだったようだけど、いつの頃か、主が亡くなってからは誰も暮らす人もなく、やがては荒れ果ててしまったみたいね。そして今回、その土地に買い手が付いたことで事件がおきたようなの」
 霊査士は、地図を片手にこう告げた。
「モンスターは例によって綺麗な女性の姿なのだけれど、薔薇の棘のようなものが無数についた鞭を以て、被害者の全身を引き裂いたの。そしてその土地の外に擲つように捨てた……」
 かなり無惨な光景を想像させる表情のフォルトゥナ。その上で、冒険者たちが息をのむ間に話を続ける。
「殺されたのは、土地の買い手。一般人だから、って言うのが大きいには違いないけれど、油断をすれば貴方たちですら何もできずに終わるかも知れない……まずは流れを断ち切ることが先決ね。時にはマトモじゃない手もアリかも知れないわ」
 などと、ある意味で不吉とも言えることを事も無げに告げる霊査士。あらかたの説明を終えたところで、ここまでおとなしく聞いていたユイノが手を挙げる。
「その村近辺に何か珍しいお土産はあるかしら?」
 またそれか……幾人かが呆れ果てる。
「その辺りは良い葡萄の産地みたいよ。そう言えば、昨日辺りは採れたての葡萄から作った今年最初のワインが解禁になったはず……丁度良いわ。私にも1本、お願いね♪」
 にこりと笑みを浮かべるフォルトゥナであった。


マスター:斉藤七海 紹介ページ
 お待たせしました。シリーズ外伝をお送りします。純粋なモンスターとの戦闘を手の内のさぐり合い的に楽しんでいただく当シリーズは今回で完全に終わりですので、是非ともよろしくお願いいたします。
 というわけで今回の敵についてですが、アビリティ同様のパッシブな効果が働いているため基本スペックが高めになっていますが、つけ込む隙も多いかと思われます。ただし、当然ながら一工夫は必要でしょう。あとはヒミツなのでOP全体から推測してください。
 なお、NPCとしてユイノも同行します。回復の手助けくらいにはなるかも知れませんので、よければプレイングの片隅で指示してやってください。それと、お土産のワインが欲しい方は『ワイン希望』と明記していただければ、後日アイテムとして発行させていただきます。
 それでは、よろしくお願いいたします。

参加者
白陽の剣士・セラフィード(a00935)
泰秋・ポーラリス(a11761)
紅桜の不老少女・エメロード(a12883)
夏休みは昆虫採集・チグユーノ(a27747)
戦士・アヅナ(a37202)
不浄の巫女姫・マイ(a39067)
闇夜に咲き狂う華・リリフィス(a57620)
時空を彷徨う・ルシファ(a59028)
陽だまりの花・グリュエル(a63551)
常夜をひらく鈴の音・クルシェ(a71887)
NPC:レア物ハンター・ユイノ(a90198)



<リプレイ>

●薔薇との邂逅
 庭園が視界に入るや、一気にスピードを上げる白陽の剣士・セラフィード(a00935)。不用意に敵のテリトリーに入るには余りに濃厚な危険が香っていたから。
 危険だと分かっていても、どこか甘美な気がする蠱惑の香りが。
「今はもう居ない人だと知っていても、想い続けているのでしょうか。もう静かに眠ってもいいのに……残酷ですね」
 香りにあてられたかのように、綴られていた伝説に思いを馳せる光明の詩を紡ぐ・クルシェ(a71887)。でもそれは皆も同じようなもので、ぽわぽわ製造中・チグユーノ(a27747)などは誰にも聞こえぬほど小さな声で、
「馬鹿ね……好きなら好きって言えば良いのに」
 と呟くし、秋楸・ポーラリス(a11761)と闇夜に咲き狂う華・リリフィス(a57620)も顔を見合わせる。
「……咲かせた苦労や想いを見せていれば、あるいは通じたのかも知れんが、本意ではないだろうしな……」
「世の中うまくいかないものです。思ってるだけじゃ……駄目なのですね」
 が、そんな感傷と冒険者としての務めはまったくの別物。セラフィードの調べで、荒廃が酷くない、ある程度戦いに支障のない広さを持った一角に目処を付けるや、迷わず庭園に足を踏み入れ、その付近を目指した。
「どこから来るのかな? 遠眼鏡で見た限りじゃ、敵らしい影は分からなかったけど……」
 少し落ち着きなさげに、それでいて間断なく周囲に目を配る月下の雫・グリュエル(a63551)。が、今のところは気配の欠片もない。その反応を見て不浄の巫女姫・マイ(a39067)も察したのだろう。できれば避けたいと思いつつ、敢えて声に出してみる。
「モンスターはココを守っているようにも見受けられました。このまま出てこないようなら、あるいは庭園を……」
 後に続く『破壊』の台詞は、荒れていると言えど少しだけ憚られた。代わって継いだのは戦士・アヅナ(a37202)。
「僕はもう破壊行為も迷いませんよ。思い悩むのは戦う前と後だけと決めていますから……!」
 スッと剣を抜く。しかしそれよりも時空を彷徨う・ルシファ(a59028)が弓を引き絞る方が早い。
 ナパームの炎を宿した矢が現れる。その瞬間!
 一同の目の前の空間に、ひときわ美しい女性が居た。現れたというよりも……いつの間にかそこに、居た。
(「誰もいなかったはずなのに……」)
 同じ疑問を抱きつつも、冒険者としての本能が何よりまず臨戦態勢を整えさせた。ルシファも構えていた弓から手を離し、指先を揃えて構える。闇色のカードを投じるために。
 が、それよりも早いのが青い髪の彼女。突如として空気が震え、一陣の風がその足元を吹き抜ける。そして全身から迸る気が、鋭い殺気を纏った。
「この気配……まさか、幻の青薔薇がまだあるのかも、ですねー!?」
 彼女の変化に、紅桜の不老少女・エメロード(a12883)が何かを感じ取る。が、残念ながら今それを調べている暇はない。
 さっそくポーラリスが地を蹴り、宙に身を躍らせる。全身のバネを活かした蹴り脚が、女性の死角を突くが、寸前で気付かれ袖口を擦る程度で空を切った。
 それでもなお、畏れることなく一息に間合いに踏み込むセラフィード。ルシファの放つカードの軌道を覆い隠すように、雷を纏いし切っ先を重ねる。
 が、刃が宙を薙ぐのはやむなしとしても、それにより意識から外れたはずの攻撃も軌跡が残像を揺らしただけに過ぎなかった。

●活路
「甘かったかも知れませんね。想像以上の反応と素早さです。僕もまだまだと言う事ですね」
 それ以後も誰一人として敵に触れることすら適わない様を受け、アヅナが自嘲気味に呟く。
 しかし彼女は意に介した様子も無く、黙って左手を翳し標的を見据える。そして鞭を携えし右腕は小さく円を描き始める。くるくる、くるくると高速で描く円運動はスムーズに鞭へと伝わり、鞭を1本の長槍のように変貌……ごく僅かな隙間を貫通し、寸分の狂いなくルシファの左胸を貫いた。
 噴出す鮮血。その激しさたるや、立っていられるのが不思議なほどであった。
「何なのでしょう? これは?」
 クルシェの疑問に答えられる者はなく。それほど予想を大きく上回る強力無比なものだった。ゆえに黒炎を纏ったチグユーノとクルシェはその力を攻撃ではなく、回復へと注がざるを得ず、それでも完治に至らぬが故にユイノも癒しの矢を射ねばならぬほど。
 無論、その間も隙を見せぬようグリュエルが禍々しき牙を射かけ、アヅナも敵の速さに翻弄されつつも刃の先から雷を解き放つ。しかし、いずれも虚しく空を切り、庭園の更なる荒廃が進むのみ。
「たぶん回避を高める能力だね。本当なら切れ目を狙って足止め、と言いたい所だけど……」
 ルシファの的確な分析。しかしそれでは犠牲が避け得ない事は、喰らった自分が一番良く分かっていた。
 ならば運に縋ろうとも、当たるまで全力を尽くすのみ。セラフィードが渾身の思いで雷纏いし刃を振るうも、その努力をあざ笑うかのように無力感が彼女らを襲う。
 そんな中、魔物の次なるターゲットはアヅナ。再び長槍と化した鞭が彼を貫き、その勢いのまま後ろに倒れこむ。
「………!?」
 言葉もなく、急ぎ治癒に走るエメロード。彼女の歌が身体の隅々にまで深く響きわたり、運よく彼の全ての傷を癒した。そして幸運は正の連鎖を紡ぎ、マイのステップに釣られ、女性が踊り始める。
「このまま一気に……」
 幸運の副作用で手数が増えたチグユーノ。その黒炎とクルシェの銀狼。2つの色が絡み合い青い髪の女性を包む。が、それすらも釣られたダンスのままで躱してのける。
「ん!? あれは?」
 影に潜みながら確実な機を窺っていたリリフィス。そんな彼女ですらも諦めかけたその時、ふと、ある事に気付く。
 ――攻撃を躱した敵が黒炎と銀狼の墜ちる先を追っていたことに。
 その瞬間、リリフィスのしなやかな身体は考えるより先に動いた。
「油断……大敵だよ」
 クスクスと微笑むリリフィスの攻撃は不吉を呼ぶカード。それが見事に女性の背に突き立ち、小さな傷口から不運の担い手となり、吸い込まれてゆく。
 が、勿論その程度で倒れる筈もなく、女性は手にした鞭を振るう。が、先ほどまでの攻撃ではなく、風を切るような乱打。それがリリフィスの全身を無数に切り刻み、赤い飛沫を迸らせる。
 飛散した飛沫は鞭が起こす風でさらに細かく散り、何故か赤から青に変わる。まるで宙に幻の薔薇を描くかのように。
「これ以上血に塗れん様、伝説に終焉を!」
 しかし、その攻撃には先ほどまでの攻撃ほどには力がないのを見抜いたポーラリスは、後背から呪痕を放つ。不運より更に禍々しき紋様が女性の躯に浮かび上がった。
「ココが勝負どころですよー」
 このヒットにエメロードが確信。治癒の歌に織り交ぜて、回避力の落ちている事を伝える。
 幸い、同じことを考えていたセラフィードとアヅナにはロスなく伝わり、2人の戦士の雷撃がちょうど女性の胸元で交錯する。
 さらにチグユーノの魔を模りし炎。その3つの頭がしっかりと女性を捉える。そしてルシファとグリュエル、2人の追尾の矢が着実に女性を射抜き、クルシェとマイによる2つの黒炎がその身を灼いた。
 身を焦がす痛みか、妖しく輝く紋様の呪いか、更なる痛みに耐え難い様子を見せる敵――それでもここで手を緩める訳には行かぬと、リリフィスが力のままに掴み、一息に投げ落とす。
 一気に押し寄せた凄まじい消耗に、かつての美しく見えた姿も無惨に変わり果ててきていた。

●青い薔薇は秘密のシルシ
 だが、ここまで一気に攻撃しても未だ倒れない。既に朽ちかけているようにも見えるのに、それでも何かに支えられているかのように。
 それが何なのか……冒険者たちに察せられぬはずがない。
 しかし瀕死ながらも女性の全身に輝きが宿る。再び回避力があがった証である。
「さすがに、これ以上はキビしいよね」
 リリフィスが零した。同じ認識が皆の胸にもありながらも、今は付け入る手立てがある。

 でも……。

「……それがあの子の弱点であったとしても、私には踏み躙る事は出来ない……」
 雷撃を躊躇うセラフィード。
「そうだな。私も出来ることなら撃ちたくないな……」
 グリュエルも同調。敵が姿を見せないならばいざ知らず、こうなってまで無闇に傷つけたくはない
「そんなこと、僕には言ってられませんよ。魔物が居て、被害者がいる。そして僕たちは冒険者なんだから!」
 すいません、と叫びながらアヅナが雷撃を放つ。
「まだまだ……わたくしも、あなたの大切なモノ、燃やしましてよ?」
 チグユーノの魔炎が飛ぶ。
 女性はそれら全ての攻撃を、迷うことなく自らの躯を盾にして受け止める。そこには回避も何もなく。モンスターである以上、感傷でも知性でもなく、ただの本能に過ぎないはずなのだけど。
 本能ゆえに、すべての計算を凌駕した行為と言えようか……。
「これで終わりよ! 可哀想だけど、もう散りなさい!!」
 リリフィスが再び力のままに投げ落とす。が、女性は既に朽ち果てていたのだろう。大地に墜ちるその前に、無数の青い薔薇の花びらとなって、吹き抜ける風と共に消えていったのだった……。

●想いの残照
「モンスターと荒廃した庭園……一体、どこで道を違えてしまったのかしらね」
 消えてゆく花びらを見つめ、マイがそっと呟く。
「青い薔薇……それはかつて『不可能』とまで呼ばれた花。不器用な恋によって生まれた『奇跡』の青い薔薇……でも……」
 エメロードが言いかけた言葉を止めた。
(「青薔薇は実っても、恋は実らなかった……」)と。
「気持ちって、ささいな事でこじれてしまうものだよな……怒ったって事は、きっと青年も彼女が好きだったんだ。でも、彼女には伝わってなかった。好きなら好きって、互いに言い合えば良かっただけなのにな」
 寂しそうに笑うグリュエル。片付いたとは言え11人の胸に一抹の寂しさが去来する。悲しい伝説の終わりに。
 庭園の片隅に残されたのは、まだ生命を宿し続けていた小さな苗木。育ったときに咲くのがどんな花かは分からないけれど。
「きっと、青い薔薇ですよ。いつか、見てみたいものですね」
 愛でるように呟くルシファ。
「でも……これは伝説の彼女が遺したもの。此処で一緒に葬って差し上げるのが良いでしょう」
 欲しいと思う者もいたが、最後にはクルシェのこの意見が通った。幻は幻のままで……。

 そうして、帰路につく冒険者たちは、近くの村で今年最初のワインや絞りたてのジュースを買い求める。もちろん酒場で報告を待つどこかの霊査士の分も。
「そういえば私、この間、二十歳になったんだ!」
「おめでとう♪ やっとオトナの仲間入りね♪」
 なんて言う、グリュエルとユイノの軽い会話も聞こえている。そんな仲間たちのずっと後ろを歩きながら、ポーラリスはそっと天を仰いだ。
「……伝説の其々の色が、次の生では翳り無く輝くと良いな」と。

 【終わり】


マスター:斉藤七海 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
冒険活劇 戦闘 ミステリー 恋愛
ダーク ほのぼの コメディ えっち
わからない
参加者:10人
作成日:2008/12/05
得票数:冒険活劇4  戦闘4  ダーク2  ほのぼの3 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。