<リプレイ>
● 山頂に佇むスケルトンは、黄金の色をしていた。 だが、貴婦人の白い肌を飾るが如き輝きは、そこにはない。 血と腐汁の穢れを纏う黄金は、見る者に等しく不快な印象を与えた。 生そのものを愚弄し否定するかのような禍々しさが、そこにはあった。
大小無数の骨で組み上げられた巨大なヤマアラシが、四肢をたわめつつ背中の針を逆立てようとした。長剣ほどの太さと長さを持つ針だ。材質が骨であろうとも、十分な殺傷能力を備えているに違いない。 美しい花を見守る白雲・フラレ(a42669)の対応は素早かった。芸術的ともいえる華麗な動きで槍を操り、ヤマアラシを貫こうと試みる。巨体に似合わぬ敏捷性を発揮し、アンデッドモンスターは後方へと大きく飛び退いた。独特の形状を持つ穂は届かず、命中を示すファンファーレも響かない。 「デカイからって調子こくななぁ〜ん!」 目的はあくまでも黄金のスケルトンなのだ。障害物であるヤマアラシとの対決に時間を掛けてはいられない。巨大剣の柄を両手で握り、嵐を呼ぶ風雲児・ミミュ(a42672)は数メートルの距離を埋めようとした。負荷を受けたばかりの心臓が痛みを発し、酷使する持ち主に抗議する。 「問題は……このアンデッドモンスターがどんな能力を使ってくるか、ですね」 護りの天使達を召喚する間も、小さな探究者・シルス(a38751)はヤマアラシから視線を離さない。どうやら敵は体能力に特化しているらしい。真っ先に思いついたのは、狂戦士に似た特殊能力を持っている可能性だった。こちらの主戦力が医術士である以上、殲術など用いられては苦戦を強いられる事にもなりかねない。 「ギシャァァァァ!」 鼓膜に痛みを感じるほどの雄叫びが轟いたのはこの時だった。感情も音律も伴わぬ、猛々しいだけの咆哮が大気を震わせたのは。 (「……っ! この手で来るとは予想外だったなぁん」) 唇を噛み締める事も出来ずに、謡うは聖なる伝承・エンヤ(a64562)は胸中で呻いた。全身が指先に至るまで硬直し、麻痺してしまっている。最近の戦闘では滅多に使われる事がなくなった狂戦士のアビリティに、同様の効果をもたらすものがあったのを思い出す。 「備えあれば憂いなしです」 大樹を愛でし白雪姫・モニカ(a37774)の声は落ち着いていた。タイラントピラーを伴う彼女に、状態異常を恐れる理由はない。装飾が殆ど施されていない簡素な杖を中心に、優しさを感じさせる風が広がってゆく。 「上! 危ないんだよ!」 楽しそうに踊ってる・シロップ(a52015)が警告の声を発した。身を包む闇色の炎が視界に影響を与える事はない。頭上を埋め尽くしていたのは無数の銀の輝きだった。麻痺から開放された者達は防御と回避を試み、未だ動けぬ者達は降り注ぐ矢をその身に浴びる。 「森の風さん……来て……」 一瞬の迷いの後、ちいさな勝利の女神・ニケ(a55406)はアビリティを発動させた。前衛に立つべき1人が、まだ動けずにいる。癒しが後手に回ろうとも、麻痺から解放せねばならなかった。あの巨大なヤマアラシが、次の攻撃を仕掛ける前に。 「まさかいきなりダメージを受けるとは思わなかったが……面白い、骨の山に立ち塞がる黄金を倒し、是が非でも地獄の謎に触れてみようではないか」 額を汚す血を拭い、人生を愉しむ・オーサム(a76630)はニヤリと笑った。心臓がドクンと大きく脈打ち、全身に力強く血液を送り始めた。
● 「バッドステータスを何度も使われては厄介ですからね。エンヤさん、行きますよ!」 頼もしい仲間が頷くのを確認し、フラレは動いた。ペインヴァイパーの吐くガスが不吉な絵柄のカードを包み、その効力を強化する。不運を招くカードは回避しようとしたヤマアラシの針を1本砕き、断面を黒く染め上げた。直後にファンファーレが鳴り響き、アンデッドモンスターは動きを止めた。虹色の光を命中させたエンヤが会心の笑みを浮かべる。 「わわわ、今、回復させますね」 ダメージを受けたまま果敢に戦う仲間の姿を見て、シルスは慌てて癒しの光を紡いだ。小さな体に溢れんばかりの闘気を満たし、ミミュが巨大剣を振り上げる。 「唸るなぁ〜ん! ヴォルケーノ!!」 斬撃と共に爆発が生じ、ヤマアラシの巨大な頭蓋を破砕した。オーサムが間髪をいれずに対斧を叩き付け、残った下顎を斬り砕く。 頭部を失ったにも関わらず倒れようとしないアンデッドモンスターを、モニカは後衛の位置から静かに見据えた。その右手が、白く輝く光の槍を握っている。 「その巨体であれば1本なら耐えられるでしょう。ですが、3本なら如何ですか?」 「モニカお姉ちゃん、ニケお姉ちゃん、タイミングを合わせて……今なんだよ!」 「いたいのいたいの、とんでっちゃうですよ〜★」 シロップの声を合図に、ニケは全力で聖なる槍を投げ放った。3本の白い槍を背中に受けて、ヤマアラシの巨体が遂に倒れる。 崩壊してゆく巨体を掠めるようにして、この時、桃色の矢が飛来した。
「シルスさん、危ない!」 鋭い矢音に気付いたフラレが、盾を構えて射線上に割り込む。矢そのものは盾の表面で弾けたが、生じた爆発は無情にも2人を効果範囲に飲み込んだ。少年の周囲に木の葉が渦巻き、業火となって燃え盛る。 ダークネスクロウのマントが翻り、直進する炎を打ち払った。召喚獣に守られて、エンヤは高らかに凱歌を歌う。 「♪ 眠りを知らぬ死者に安らかな休息を与えよ」 「スケルトンが逃げようとしています!」 山頂を見上げたオーサムの声が、アルトの歌声に重なった。冒険者達に背を向けて、黄金のスケルトンは今まさに走りだそうとしていた。
● 追う者と追われるモノの距離は、容易には詰まらなかった。全力で走り差を縮めても、射程で勝るスケルトンからの攻撃を受ければダメージやバッドステータスを回復せねばならず、アビリティを行使している間に再び距離が開いてしまう。その繰り返しだ。 苛立ちと焦りを覚えながらも、冒険者達は執拗にスケルトンを追った。斜面を登り、駆け下りる、そんな事がどれ程の時間続けられたであろう。両者の距離は20メートル程にまで縮んでいた。だが命を持たぬスケルトンとは異なり、冒険者達の体には疲労が確実に蓄積してゆく。 「皆、後の事は任せるなぁ〜ん!」 このままでは埒が明かないと考えたミミュは、ある決断をした。グランスティードの背に跨り、風の速さで斜面を駆ける。 早駆けするグランスティードを御するのは難しく、攻撃や防御などを行う余裕はなくなる。それでもいいと彼は思った。スケルトンの足を止める事さえ出来れば……。 蹄で骨を蹴散らしながら、グランスティードはスケルトンの前方に回り込む。足を止めたスケルトンが稲妻の如き矢を放ち、少年の胸部を射抜いた。召喚獣の背から転落したミミュは、激しい痛みに耐えながら懸命に目を凝らす。紫の瞳に映ったのは、背後からの雷撃を浴びたスケルトンの姿だった。肉を持たぬ体が、2度ばかり小さく撥ねる。 「鬼ごっこは……そろそろお終いにしましょうか」 肩で息をするオーサムの斧には、雷撃を放った余韻の薄煙が纏わり付いていた。呼吸を整える暇もなく、モニカは先行した少年を癒す為にアビリティを発動させる。 「もう走ったりなんかさせないんだよ」 可愛らしい身振りでシロップが踊ると、スケルトンの足がぎこちないステップを踏んだ。操られるスケルトンを目掛け、ニケが聖なる槍を放つ。 頭蓋に小さな穴を穿たれ、黄金のスケルトンは壊れた人形のように崩れ落ちた。
黄金色の髑髏を中心に、風が集まり始める。微風から強風への移行に要した時間はごく僅かだった。轟々と吹きすさぶ風の中、ミミュが巨大剣を杖に立ち上がる。 「どうにか倒せたのはいいけど、早く逃げないとマズそうなぁ〜ん」 「えと……押さない走らないしゃべらない……だっけ……?」 「急いで! 山が崩れます!」 おろおろと周囲を見回すニケを急かし、シルスは先頭に立って駆けだした。頭から帽子が飛び去り、気を抜くと体が風に浮きそうになる。 シルスの言葉通り、骨の山全体が鳴動を始めていた。 幾度もの転倒を強いられながら、冒険者達は全力で山を駆け下りた。
● 「これでエルヴォーグの平和に一歩でも近付いたのでしょうか。それでしたら幸いなのですけど……」 疲労しきったモニカは、冷たく乾いた地面にへたり込んでいた。髪に咲いた白椿が、微風に花弁を震わせる。花と戯れた風の行く先に、彼女は視線を向けていた。先刻まで自分達が戦っていた場所へと。 骨の山は、もはや山と呼べるような形状を残してはいない。山裾を広げる形に積みあがっていた数多の骸は、巨大な竜巻に全て呑まれてしまったようであった。山が一つ消えただけで、周囲の景色が一変して見えるのが不思議だ。 「よく判らないな……壊れているような気はするんだが」 遠眼鏡を覗いたままオーサムが唸る。円形に切り取られた風の中を、白や赤黒い色彩が流れていく。竜巻の規模が大きく、風が強すぎるのだ。辛うじて大きさ位は判るが、それがさっき通り過ぎた骸なのか全く別のアンデッドであるのかを判別する事は出来ない。竜巻の中のアンデッドが風圧で破壊されるかどうかを知るには、後日の来訪と比較が必要かも知れなかった。風圧でバラバラになるなら、日数が経過すれば大きな塊は見えなくなる筈だ。 「半日程度で結論を出すのは無理みたいね……今回は諦めるしかなさそうなぁん」 遠眼鏡を下ろし、エンヤは溜息をついた。可能であればこの地に長く留まり、経過を観察したいと思っていた。しかし、1人だけが飢えと乾きに苦しむような状況を、仲間達が容認する事は決してないだろう。幸せの運び手は、使用者には効果を発揮しないアビリティであったから。 「上空から骨が撒き散らされている様子もなし、ですか……やはりアンデッドが竜巻から脱出するのは不可能と考えても良さそうですね」 フラレは首を傾げ、右手で赤い鶏冠を撫でた。小さなクシャミをひとつして、シロップが彼に話し掛ける。 「地獄がきれいになると、きっとラウレック様が喜んでくださるんだよ。だからボクは、がんばるんだよ」 「これで周辺が安全になるといいですね」 自分のマントの留め金を外し、ふわりと少女にかけてやる。 優しい温もりに包まれて、シロップはフラレに抱き付いた。

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参加者:8人
作成日:2008/12/11
得票数:戦闘11
ミステリ5
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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