<リプレイ>
● 絶対不可侵領域から戦闘艇が飛び出してくる。その光景は、あの時と同じだ。 だが、今回は頼もしい同盟の仲間たちがともにある。みなの力を合わせることで、再びここへ至るまで禁止区域のギアの群れも難なく突破してこれたのだ。あの日と違い、鋭気は十全。 向かってくる戦闘艇の一体へ向けて、チームは動いた。 星喰らう蒼き闇・ラス(a52420)が、自分らしく輝いて・ラトレイア(a63887)と手分けして仲間たちに鎧聖降臨の加護を授ける。 不羈の剣・ドライザム(a67714)は血の覚醒でおのれに眠る力を呼び起こした。 ぱん!――、と、紅炎の紋商術士・クィンクラウド(a04748)は自分の頬を両手で叩いた。ここが正念場だ。黒炎覚醒の炎を決意とともに身にまとう。 傍らでは、蒼翠弓・ハジ(a26881)が弓を手に深呼吸を。 かれらの前方より、きらめく結晶の多面体が飛来する。 宵闇月虹・シス(a10844)は大挑発を試みた。 結果、敵の狙いがシスに向くのを見越して、凪・タケル(a06416)が傍に控える。 しかし、戦闘艇が挑発されることはなかったようだ。もっともこれはバッドステータス自体が無効というわけではなく、単に回避されただけのようだ。いずれにせよ効果をあらわせなかった以上、飛来した戦闘艇は冒険者たちに向けて電撃の雨を浴びせる。 上空からもたらされる攻撃に前衛も後衛もない。不用意に前に出ないことをこころがけていた晴天陽光・メリーナ(a10320)も、自身が攻撃範囲に入っていたことを知る。 後衛よりもうしろに位置していたハジをのぞく全員が電撃を受けてしまった。 マヒして倒れていく仲間たちの姿に、息を呑んだハジだったが、魔戒の疾風・ワスプ(a08884)の尻尾がぱたぱたと揺れているのを見る。「本当はマヒしていない」の合図だ。相手の油断を誘うためにバッドステータスに陥ったフリをした。白氷の細剣・ヘルムウィーゲ(a43608)とラスも、自力ですぐにマヒから回復している。 「来ますよ!」 ハジが警告を発した。戦闘艇の前方に角のように突き出した槍が、エネルギーをおびて白熱するのに気づいたからだ。 「向かって右に避けろ! 戦闘艇の左面を叩く!」 ワスプが叫んだ。ぐん、と速度を増し、舞い降りてくる戦闘艇。シスは黒炎覚醒を行い、攻撃に身構える。だが敵の槍の穂先が狙うのは――いまだマヒしたままのドライザムだ。 「みんな立って……!」 ラトレイアの高らかな凱歌が戦場に響きわたる。 マヒとダメージが取り除かれていく……、だが寸前まで槍は迫る――、ラスが飛び出した。 翻るダークネスクロークのマント、そして漆黒のチェインコートに、突撃槍がずぶりと突き刺さる。 マヒを解かれたドライザムは、入れ違いに、咆えるような声をあげて、巨大剣を手に駆けた。かばわれた礼は自らの役割を果たすこと。地表近くまで高度を下げた戦闘艇の外壁にデストロイブレードを叩き込む。 メリーナは、ラスへヒーリングウェーブを送った。戦闘艇に乗り込むまで回復は温存するはずだったが、そうもいっていられない。 「攻撃を、重ねて――!」 ヘルムウィーゲのかかげた反り身の刀身からソニックウェーブが放たれる。狙うはドライザムが攻撃した一点。 戦闘艇のクリスタルの機体が衝撃にふるえた。そこへ食らいつくのはクィンクラウドの気高き銀狼だ。続けて飛んだシスのヴォイドスクラッチが、外壁を削っていく。さらにはワスプの飛燕連撃を受け、表面に亀裂が走った。 戦闘艇を抑える銀狼は、しかし、次の瞬間、消し飛んだ。 そのまま数メートル、浮上して、周囲に電撃をまき散らす。 ラトレイアは凱歌をうたい続ける。ひとりも倒れることなく、この先へと進むために――。 メリーナが呼び出した護りの天使たちが、雪のように舞った。その向こうに透けて、戦闘艇が再び突撃槍にエネルギーを蓄えているのが見えた。 「ここで挫けたら――今までのことが無駄になってしまう。そんなわけにはいきません」 シスの夜空の色の瞳が、敵を見据えた。激戦のさなかにあっても彼女の心は静かに冴える。だがその言葉は戦闘艇を挑発するのだ。機械にも、怒りはあるのだろうか。敵は槍にチャージをしたことも忘れたように、ただ闇雲に、シスに向かってつっこんできた。 その攻撃を、寸前で避けきれず、脇腹を大きく裂かれる。白い拘束衣に血がしぶいたが、これでいい、と思った。そのときすでに、タケルが間合いを詰めて戦闘艇の左側面――先の攻撃のダメージが残る箇所に取り付いていたのだ。 気合いの声とともに放たれた破鎧衝に、音を立てて外壁が砕けた。
● クィンクラウドのエンブレムノヴァが炸裂する。 広がった穴に飛び込んだのはラスと、ヘルムウィーゲだ。 中には、黄金のギアがかれらを待ち受けていた。 侵入者に向き直り、単眼がふたりを見返す。値踏みするように、そこに光が明滅したかと思えば、戦闘艇を操作するものらしいレバーから離れた手が、形状を変化させる。敵を斬り裂くための一対の刀が、ぎらりと輝いた。 シスとハジは、徐々に回復していく外壁の破損箇所へ攻撃を続け、侵入口が閉じてしまわないようにする。 続いてワスプとクィンクラウドが乗り込む。ワスプはすぐにギアから後続をかばえる位置に立ち、クィンクラウドは内部の様子をざっと見まわす。結晶の多面体の内部は、一見してこれといった特徴のない空間だった。障害物もなく、広さは戦うには十分。しかしそれはすなわち、敵も応戦するに差し支えない場所だということ。ここが次なる戦場となるのだ。 ドライザムに助けられ、メリーナが乗り込んできた。 彼女は、振り返って、タケルとラトレイアのほうを見る。タケルが頷いたようだ。いかに戦闘艇に広さがあっても、あまり乗り込み過ぎては戦闘もままならない。内部での戦いに参加できるのは――そしてその後、絶対不可侵領域へ進めるのは8人の冒険者だけなのである。ここに残る仲間たちのぶんも思いを預かって、今この場所に立っている。それは誇りであると、メリーナは思った。
ヘルムウィーゲがミラージュアタックで斬り込む。 きん、と甲高い金属音とともに、黄金の剣がその攻撃を受け止めた。 返す刀で放たれる反撃を受け流す。 視界の端に、仲間たちが次々に乗り込んでくる様子がかすめた。皆が搭乗し終えるまで、ギアを引きつけ、牽制しなければ。すみれの花咲く髪が風をはらみ、しなやかに、しかし全力で攻めるヘルムウィーゲ。負けじと切っ先を振るうギア。剣戟の音が戦闘艇内部に、幾重にも反響していく。両者一歩も引かない。 そのとき、最後にシスとハジが乗り込んで、8人の侵入が完了する。シスが黒炎覚醒をかけなおす一方、ハジが貫き通す矢を射かけるが、ギアの剣はそれを弾いて避ける。このギア、機敏で精緻な動きをするようだ。 単眼の機械戦士・サイクロプスは、後ろ手に、刀になった手でレバーを倒した。とたん、戦闘艇が急速に上昇をはじめた。床が傾き、体勢が崩れる。 「くそっ」 かろうじて転倒をこらえ、クィンクラウドは銀狼をけしかける。奔る銀光がギアをおさえこみ、その自由を奪った。 戦闘艇自体の動きは止まらない――この激しく震動し傾く結晶の檻の中で、冒険者は戦わなくてはならないのだ。 ドライザムが再び血の覚醒を行い、メリーナが護りの天使を呼び出す一方、ワスプがスパイラルジェイドでサイクロプスに突っ込んでいく。 銀狼に組み伏せられながらも、その突撃をガードしたサイクロプスは、その次にはもう拘束を振りほどいている。 二本の刀をはやした腕がさっと広げられる。 くるか――、敵の攻撃を察してワスプが身を反らせ、後ろへひいたのと、ギアが全身を回転させるようにして前衛の全員に斬撃を仕掛けたのはほぼ同時だった。 ドライザムは、ワスプと同じく敵のなぎはらいを察したあと、しかし逆に踏み込んでいた。 容赦なく、刃の洗礼が遅いかかる。血煙が結晶の内壁を汚したが、ドライザムは勢いを減じることなく剣を振り下ろす。 ヘルムウィーゲとラスも、斬撃の嵐に見舞われたが、怯むことなく攻撃を続けた。 「いきますよ!」 「よし!」 呼吸を合わせ、打ち出すソニックウェーブ。技巧にまかせたアビリティはあたりづらいが、ソニックウェーブはあたりさえすれば敵の装甲を透かして打撃を与える。 そして後方からシスのあやつるヴォイドスクラッチがギアに命中した。 影の爪に引き裂かれ、黄金の装甲がその硬度を失う。 ハジが弓の弦を引き絞る。 放たれるのはホーミングアローだ。避けにくいアビリティの矢が、装甲の護りを失ったギアの体躯に突き刺さる。 そしてクィンクラウドの描き出す紋章が生み出した爆発――。いつのまにか侵入してきた穴がふさがっていて、結晶内に熱風が舞った。 ギアは立て続けに浴びた攻撃に、全身のあちこちが破損している。 ぐらり、と傾いたその身が、別のレバーを押し込み、戦闘艇は、無軌道な旋回をはじめた。
● 急な旋回に、冒険者たちはまた体勢を乱されることになる。 サイクロプスは、シスのヴォイドスクラッチで装甲を剥がされており、そこにはペインヴァイパーの呪力が溶け込んでいたがゆえにいまだ無防備なままだ。しかし、機械の頭脳は戦意を失わない。単眼はしっかりと、冒険者たちをとらえ、体勢を崩したかれらへ凶刃の嵐を見舞った。 縦横無尽に切り裂かれた傷口から血を噴きながら、ラスの身体が床に倒れた。 すぐにシスが高らかな凱歌を用い、その間、ヘルムウィーゲがラスをかばう。 「まだまだ……」 ぽたぽたと血をしたたらせながら、ラスは立ち上がろうとする。ここまで誰一人欠けることなくこれたのだから。ゴールは、もう目前なのだから……。 メリーナは静謐の祈りに、すべての希望をこめる。 なぎ払いで受けた出血がとまるのを感じつつ、ドライザムが剣を振り上げた。 浮かぶのは、今までにこの地で出会ったタロスたちのこと。機械の体にやさしい心をもったかれらと、時にともに戦い、時に誼を交わしてきた。 渾身のデストロイブレードは、傷ついたことで引き出されたさらなる闘気を凝縮し、爆発的な威力を発揮する。その一撃は、サイクロプスの肩口から、胴体の一部までを吹き飛ばしていた。 支えをうしなった片腕が、硬い音を立てて床に転がる。 先の一撃がすべてだったとでもいうように、ドライザムの身体が傾いだ。 その陰から飛び出したのが、ワスプである。手甲につけたアームブレード――ブラストウィンドの刃が閃く。 サイクロスプはまだ停止したわけではなかった。残ったほうの腕に重心を移動させ、半壊した身体のバランスを巧みに維持して鋭い突きを放ってきたのだ。 「調査隊での最後の大仕事――」 ワスプはこの攻撃を予測していた。 「キッチリ片づけてやるぜ……!」 わずかに急所を避けて、しかし、切っ先が防具の隙間からその身を裂いていくのも構わず、ワスプは踏み込んで行った。すべてを注ぎ込んだかのようなスパイラルジェイドは、サイクロプスの単眼を貫く!
ギアの単眼から、光が失われ、その身が崩れる。 創世の時より、封印の守り手としてあった存在は、最後に何かを思っただろうか。 傷つきながらも、戦いに勝利した冒険者らの姿を見ただろうか。 サイクロプスがあやつっていた操作機械にとりつき、見よう見まねで戦闘艇を動かそうとする。 クリスタルの舟は、大きく旋回して、前方に絶対不可侵領域を捕捉した。 目指すはタロスのグリモア。 最後の一歩を踏み出した冒険者たちを、封印の守り手の金色の破片が、無言で見守っていた。

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参加者:8人
作成日:2008/12/12
得票数:戦闘24
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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