<リプレイ>
●誕生日だから特別な装い 「お、お姫様!?」 約束のお屋敷に到着したエルルは、ピエロ姿に扮して出迎えたノエルから詳しい話を聞いて、目を丸くした。 「というわけで、案内するのですよ〜♪」 驚いたままのエルルを連れて、ノエルが向かったのは衣装室。ドアを開ければ、数えきれない程の衣装が並ぶ。 「……すごい」 「着替えは奥にそういう場所があるそうですよ。他の人も来てますから、ごゆっくり〜なのです〜♪」 思わず、声を失うエルルに満足そうに笑って。ノエルはエルルの背を部屋の中へと押し込むと、ドアを閉めた。 「あ、エルルさん」 彼女が来たのに気付いて、アルティメットヘタレカイザー・ロスト(a18816)は衣装の向こうから顔を出した。 どれにするのかと尋ねるロストに、エルルは真剣に難しげな顔をして。どれも素敵で目移りして困る、という顔でドレスを見比べる。 「……ロストさんは、何を着るの?」 「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれました。見ててください、私の……変身ッッ!」 声と共に脱いだマントの下から現れたのは純白の礼服。豪奢に装飾が施されたそれは、まるで王子様のようだ。 「うわぁ、格好いい」 「ありがとうございます」 照れ臭そうに笑いながら、マントを畳んでいくロスト。一方エルルは近くのドレスとにらめっこ。 「どれで悩んでるの?」 「あ、エステルさん」 声の主は、蒼き鳥姫・エステル(a00181)だ。彼女らしく青いドレスに身を包んだその姿に、エルルは2着のドレスを交互に指差す。 片方は淡い桃色のドレス。もう片方は黒レースをアクセントに使った赤いドレス。どちらも可愛いデザインなのがエルルらしい。 「そうね……両方とも素敵だけど、私はこっちの方が似合うと思うわ」 エステルは赤いドレスを取る。可愛らしさに大人びた雰囲気を加えたドレスは、きっと誕生日の装いにぴったりだと、そう考えて。 「じゃあ、こっちにしてみようかしら」 なら、と奥へ着替えに向かうエルル。その背を見送りながら、エステルはほんの少しだけ、感慨深そうに目を細めた。 ――お姫様、という言葉は幼い頃の……少し、複雑な記憶を呼び覚ます。 でも、とエステルは思う。同時に浮かび上がるのは、大切な記憶のかけら。姉との楽しかった記憶が鮮やかに思い返されるからこそ……今度は自分が、あの時の姉と同じように、エルルに何かしてあげたいと思うのかもしれない。 「どうかしら?」 「良く似合ってるわよ。アクセサリーも合わせましょうか?」 着替えたエルルに微笑みかけて、エステルはその手を引くのだった。
●今だけはお姫様 「エルルおねーさんが来たですよ〜」 「よーし、最後の仕上げ仕上げっと☆」 ノエルが顔を出した厨房では、パーティに向けて大忙しで準備が進められていた。衛四葉・センキ(a04531)は知らせを聞くと、最後の仕上げに取り掛かる。 この日の為に食材を手配し、十分な下拵えを済ませておいたセンキの後ろでは、腕によりをかけたポタージュスープが鍋の中で美味しそうな香りを漂わせている。あとは茹でたてのパスタにソースを絡めて、それから下味を済ませた肉と野菜を焼いて……手順を頭の中で計算し、センキは手際よく調理を進めていく。 「外は寒いですし、じっくり煮込んでおきましょう」 白薔薇の紋章術士・ベルローズ(a64429)が用意した鍋の中身は、じゃがいもやブロッコリー、それにロールキャベツをじっくり煮込んだシチューとカレー。焦がさないよう気を配りながら、弱火でじっくりと煮込めば、食欲をそそる香りが漂ってくる。じっくり煮込まれたそれらは、体をほかほかに温めながら舌を楽しませてくれることだろう。 合間に準備するのはカナッペ。チーズにトマト、アンチョビにレモン。生クリームを泡立てて苺とデザート風にした物も用意して。ベルローズはそれをトレイに並べていく。 「こっちは、これでええな」 クッキーをオーブンから取り出したレディ・リーガル(a01921)は、次にドーナツを揚げ始める。メイン用にこしらえたポトフは、後ろの鍋で待機中。後はデザートを揃えるだけだ。 「あ、キーゼルはん」 何? と振り返ったのは、給仕に向かおうとしていたキーゼルだ。リーガルはちょいと手招きすると、その口にできたてのドーナツを放り込む。 「試食や。どう?」 「甘さも揚げ具合も、丁度良いんじゃない?」 その返事にリーガルは満足げに頷くと、「じゃ、出来たのから持ってってーな」と皿を渡すのだった。
「お帰りなさいませ、エルル姫様」 着替えを終えたエルルをホールで出迎えたのは、メイド服の裾をつまんでお辞儀する、猫にゃん・イオン(a02329)だった。 「イオンさん。可愛い〜、似合ってる〜」 「にゅっふっふ〜♪」 フリルがたっぷり使われたブラウスとエプロン、頭にはネコミミ帽子。ポーズを決めれば、そりゃもうキュートな萌え萌えにゃんこの出来上がり。 「まずはティータイムにしませんかにゃ?」 「うん、お願いするわね」 オーダーを受けて、早速ハーブティを持って戻るイオンだが……。 「にゃっ!?」 何も無い通路で、不意に躓くイオン。手から離れそうになったトレイを危ういバランスで支え、何とか転ぶのを回避する。 「お、お待たせしましたにゃ。お砂糖は……」 「イオンさんイオンさんっ」 かぱっと砂糖のポットを開けたイオンに慌てて駆け寄るのは、同じくメイド服姿の天真爛漫な牙狩人・アーリン(a76581)。こちらはクラシックな正統派メイドさんだ。 そして、その手にはイオンが持つのと同じ、小さな陶器のポットが1つ。 「それ、お塩です……」 「にゃにゃっ!?」 確かに中身をぺろっと舐めれば……塩辛い。 ああきっと、心の涙の味なのだ。 「ふにゃあ……」 がくっと肩を落とすイオン。何回目かのエルルの誕生日、久しぶりのお祝いだからと張り切ったのに、これではドジっこメイドもいいところ。でも、エルルはくすっと笑って。 「あ、ごめんなさい。でもイオンさんっぽくて、何だか安心しちゃった」 お姫様姿に少し緊張していたのも、すっかり解れたようだとエルルは笑う。 「お茶はジャスミンですから、きっとリラックスできますよ」 他にも香りのいいお茶を揃えてあるから、リクエストがあったら言って下さいね、とアーリンは笑う。なんたって、今日はエルルの誕生日なのだから。 おめでとうございます、と言葉を添えながら紅茶を注ぐと、アーリンはお手製のバニラクッキーを載せた、可愛い陶器のお皿を置いた。 「お姫様、どうぞ召し上がれ☆」 「ありがとう、アーリンさん」 カップを手に取ったエルルは、クッキーをつまむと「とっても美味しいわ」と笑う。 「エルルさん、おめでとうございます」 そこに近付いたのは、紅い魔女・ババロア(a09938)だ。今日の装いは赤いイブニングドレス。傍らに立つのは、エスコート役を引き受け、タキシードに着替えたノエルだ。 近頃ノエルの背が伸びたからだろうか。視線の高さが変わったな、とババロアは思う。こうして並んで歩いていても、違和感は無いだろうし、それに……こういうのは雰囲気。細かい事は気にしたら負けだとババロアは思う。……胸とか胸とか胸とか。 「ありがとう。ババロアさんも一緒にどう?」 じゃあ、と頷き返すババロアを見て、ノエルが隣のテーブルを寄せて椅子を引く。 その様子にアーリンは「新しいお茶をお持ちしますね」と、菊のお茶と追加のカップを運ぶのだった。
「ミオナさん、とても素敵ですわ……」 想いを紡ぎ奏でるモノ・コチョウ(a41285)は、青色のドレスに着替えた蒼き水の煌き・ミオナ(a38150)の姿に、思わず感嘆の息をついた。 「コチョウさんのメイド服も素敵ですよ」 そんな彼女に、少し照れ恥ずかしそうに微笑み返すミオナ。髪を編み、柔和な表情で立つコチョウのメイド姿こそ、彼女の雰囲気にピッタリだとミオナは思う。 先程まで厨房にいた2人は、エルルが着いたと聞いて、パーティ用の装いに着替えて来た所だった。空いている席につけば、通りすがりのキーゼルが恭しく頭を下げて。 「料理で疲れただろう? 何か持ってくるよ」 デザート作りで奮闘していたのを労うように、オーダーを取るキーゼル。じゃあ、と2人は、その言葉に甘えて。 「すぐに支度致しますので、お待ちください。お姫様方」 一礼して厨房に戻るキーゼルを見送りつつ、ミオナは思わず呟いた。 「……憧れのお姫様になれるなんて、素敵ですわね」 「ええ」 たまにはこんな風に過ごすのも悪くないかもしれない。そう2人は視線を交わすと、どちらからともなく笑い合う。 「あ……」 厨房の近くでキーゼルとすれ違った、微笑みの風を歌う者・メルヴィル(a02418)は、その姿を目で追いながら、ほんの少しだけ頬を赤く染めた。 執事姿に思わず見惚れてしまうのを、ハッと慌てて振り払って。でも、そこから視線を外す事が出来なくて……。 「どうかした?」 「あ、えと、その……いえ」 結局キーゼルが戻って来るまでそのまま過ごしたメルヴィルは、あたふたと首を振る。 「ところで……」 そのキーゼルの視線が、メルヴィルの頭の上を向いた。 「あ、えと……変、でしょうか……?」 思わず触れたのは、頭に付けた白兎の耳。メイドはこういうのを付けるものだと聞いて、とあたふた言うメルヴィルに、キーゼルは少しだけ複雑な顔をする。 「……まあ、君の雰囲気には合ってると思うけどね、それ」 誰にどう騙されたのやら、と言わんばかりに苦笑しながらも、そうトレイを運ぶキーゼルの様子に、とりあえず、このまま付けたままにしておこうかと思うメルヴィルだった。
●いつもと同じで大切なもの 「ティーさん!」 新しいグラスを運んできた相手を見て、エルルは思わず声を上げた。それは、想い紡ぐ者・ティー(a35847)だったから。 「エルルさん、お誕生日おめでとう……本当にお久しぶり♪」 少しはにかみながらお祝いの言葉を贈ると、ティーはエルルの前にりんごジュースを置いた。 久しぶりだからか、会う前はちょっぴり気後れしてしまう所もあったけれど……嬉しそうにありがとう、と笑うエルルを見ていると、フィーの顔にも自ずと笑みが広がった。 「エルルお嬢様、とってもお似合いですよ。お誕生日おめでとうございます」 彼女と入れ替わりで料理を運んできたシェフは、そう恭しく一礼した。パリッとしたコック帽を被ったシェフの正体は、ヒトのヒトノソリン・リル(a49244)だ。 「リルさんも……ありがとう。それは?」 「白身魚のワイン蒸しですなぁ〜ん」 蓋を開ければ、湯気と共にふんわり広がるワインの香り。美味しそうね、と料理を見つめるその姿を、リルは見つめて。 (「振袖のときも思ったけど、こんなに可愛いなら今だけ……なんて言わずにずっと着てて欲しいのなぁ〜ん!」) くぅ、と心の中で叫ぶリル。たまにだからこそ良いのかもしれない。そうは思うけど、でも、でも……とジレンマだ。 「エルルさん、おめでとうございます」 改めてお祝いを告げたコチョウが運んできたのは、ミオナと協力して作ったデザート。バニラビーンズを多めに用いたシュークリームに、林檎をたっぷり詰めたアップルパイ。それから、ホワイトチョコの装飾が彩りを添える、リボン状のチョコレートを利用して作ったオペラ。 「うわぁ、どれも美味しそう……!」 「イオンからは、これをプレゼントにゃ♪」 「えええっ。ど、どれから食べよう……?」 さっきのドジを返上すべく、運ばれてきたのはエルルの瞳の色をイメージして作られたブルーベリーケーキ。デザートだけでも数えきれないくらいなのに、料理も加えればもっとたくさん。本当に色々なメニューが揃っているから、次は何を食べたものやら。エルルは思わず嬉しい悲鳴をあげる。 「では、私からはこれを……」 そんなエルルに、想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)は、お祝いの言葉と共にプレゼントを贈った。踊り子衣装で現れた彼女からのプレゼント。それは、誕生日を祝う音楽と歌だ。 それに乗せて、皆がお祝いを歌う。一曲終えたところで拍手が広がれば、エルルは本当に、思わず泣きそうなくらい嬉しそうに「ありがとう」と笑った。 そこへ、ラジスラヴァが更に奏でるのは、一転してワルツのメロディ。 「エルルさん、一曲どうですか?」 「まあ。ふふふ、王子様とだなんて素敵ね。喜んで」 進み出たロストの誘いを受けて、エルルはワルツのステップを踏み始める。ホールの開けた場所へ移動して、まるで舞踏会のよう。 「……気になる?」 「あ、えと」 その様子を見つめていたメルヴィルは、キーゼルの言葉に頬を赤く染めた。そう、思わないでもないけれど、でも。 「あまり上手くないけど、それでも良ければ……いかがですか? うさぎのお姫様?」 そんな彼女に、キーゼルが手を差し伸べる。メルヴィルはそっと微笑んで、その手に自らの手を重ねた。
「にゃにゃっ!?」 演奏が続く中、ふと落ちていたカードを拾ったイオンが叫びを上げた。 「? なになに……予告状?」 エルルから注いで貰ったワインを味わっていたセンキも、覗き込むと目を丸くする。ひっくり返せばそこには、こう書かれていた。 『今宵、姫君を頂きに参上する』 「姫君って、それって……?」 ざわざわと冒険者達が騒ぎ出した、その時。 どこからか悲鳴が響いた! 「ははは! 会場の諸君、君たちの姫君は俺が頂いた!」 振り返ればそこには、仮面をつけた黒衣の男。その腕の中に抱きすくめられるようにしてエルルがいる。 「だ、誰だ!?」 ダンスを終えたばかりで、すぐ隣にいたロストが問い質すが、仮面の男は笑うだけ。 颯爽とエルルを抱きかかえて、庭の向こう側へ姿を消す! 「姫ー! 姫様ー!」 「大変です〜!!」 「い、急いで追いかけるのです〜!」 さあ舞踏会は大騒ぎ。王子様は姫を攫われた事を悔いながら衛兵を呼び、使用人達は慌てふためき……ぷっ、と誰からともなく笑い出す。 だってその頃には、攫われたエルルが庭から戻って来ていたから。 そう、これは誰かの余興。ノリ良くそれに便乗していた者達は、一体の誰の仕業だったのかとエルルを問い質す。 「ふふ……怪盗さんの正体は、内緒の方が面白いでしょ?」 その問いに、くすくす笑って人差し指を立てるエルル。その頬は今の出来事に興奮したからなのか、ちょっぴり赤くなっていた。
そうして再開されるパーティ。でも、楽しい時間には、やがて終わりがやって来る。 お屋敷を片付けて、脱いだドレスをしまって。 「ちょっぴり惜しい気もするけど……」 いつもの服に戻ったエルルは、明かりの消えたお屋敷を振り返りながら呟いて。 「でも、とっても楽しかったわ。ありがとう」 皆の方に向き直ると、そう笑うのだった。

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参加者:15人
作成日:2008/12/19
得票数:ほのぼの14
コメディ1
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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