ふっさふっさにしてやんよ!



<オープニング>


 季節は冬。寒さが身に沁みる季節である。
 様々な種族が同盟の冒険者となったことで、チキンレッグやソルレオンは何だか温かそうだとか、エンジェルの羽は羽毛100%だから温かそうだとか、逆にリザードマンは何だか寒そうだとか、時々噂されたりされなかったりするのかもしれない。
 そんな様々な容姿を持った冒険者たちを前に、真実求む霊査士・ゼロ(a90250)は依頼について話を始めた。
「とある村の近くの森に、ふさふさの毛並みをした狐が現れたそうです」
 話が始まったちょうどその時、無双華・リョウコ(a90264)が席についた。ふさりとストライダーの狐尻尾が椅子の背もたれの間からはみ出している。
「その狐はどうやら突然変異体だったらしく、尻尾からキラキラ光る粉のようなものを振り撒いてきたといいます。そしてその粉に触れるや否や、ふっさふさの毛が生えてくるではありませんか!」
 突然変異の狐の毛並みと同じ、金色のふさふさした毛が生えてくるのだという。なんだか薄げに悩む人には嬉しい能力ねとリョウコはあきれたように呟いた。
「その毛は払えばすぐに落ちてしまうようなのですが、森の動物や植物が軒並み毛だらけになり悪影響が出始めています。これ以上の被害が出る前に、退治をお願いしたいと思います」
 しかしながら変異狐を探すのは少々骨かもしれないとゼロは言う。
「森の中の動物達は軒並み毛だらけですので、一見しただけでは金色ふさふさの塊が動いているようにしか見えないのです。そして変異狐自身も既に毛だらけになっているらしく、同じような外見をしています」
 つまりは、森の中で動くものは全て金色の毛のふさふさで、どれが普通の狐や犬、ウサギなんかの動物で、どれが目標の変異狐か分からないのだ。
「変異狐の影響で生えた毛は払えばすぐに落ちますので、一匹一匹捕まえて毛を払えば、いずれ変異狐に辿り着くはずなのですが……あとは不自然に毛が発生した近くを重点的に探す、などですかね」
 難しい顔をしつつ、ゼロは冒険者たちの方に向き直る。
「方法は他にもあるかもしれませんから、検討してみてください。それと……手が空いていたら森の中の毛を掃除してあげるといいかもしれませんね」
 その毛を利用して、何か作れるかもしれませんしと付け加え、ゼロは冒険者たちに一礼を送るのだった。
 


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参加者
想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)
緑星の戦士・アリュナス(a05791)
白銀の山嶺・フォーネ(a11250)
隠れ家ヘよーこその看板盗んだ・フォッグ(a33901)
光纏う白金の刃・プラチナ(a41265)
狂風乱舞・マム(a60001)
約束の場所・レイザス(a66308)
桜花爛漫・アンジェリカ(a67754)
超攻剣士・アストレイヤー(a72515)

NPC:無双華・リョウコ(a90264)



<リプレイ>

 ふさふさと、金色の毛が風に舞う。
「ありがた迷惑と言った所か、眩し過ぎて目に悪い」
 至る所が金色の毛だらけとなった森に足を踏み入れ、業風・フォッグ(a33901)は小さく息を吐く。何でも突然変異の狐の能力のせいでこの有様なのだという。
「変わった狐を見なかったか?」
 まずはその変異狐を見つけなければならない。フォッグは魅了の歌を用いて近くを歩いていた野犬に問いかけてみる。ちなみにこの野犬も顔だけ出ていたが、体は金色のふさふさに包まれていた。
「不自然に……植物に大量のふさふさが生えている場所を知らないか?」
 一緒にいた別の野犬に約束の場所・レイザス(a66308)も歌いかける。しかし野犬たちは首をかしげ、心当たりは無いと去って行ってしまった。
「狐の毛……毛並みは綺麗なんですけどね」
 白銀の山嶺・フォーネ(a11250)も異常な光景を目の当たりにし、何とか頑張って成功させたいと意気込んでいた。レイザスと共に少しでも毛のふさふさが多い方向を目指して捜索を進めてゆく。
「世の中には不思議な生き物がいる物で……」
 がさがさと生えている毛の回収を始めているのは初級店長・アリュナス(a05791)だ。まだまだ森がすっかり綺麗になるには遠い道のりだが、少しでも作業を進めておいた方がいいだろう。それに毛を回収した場所に再び毛が出現するようなことがあれば、変異狐が近くに居るということになる。
「ふさふさ〜……ていっ!」
 狂風乱舞・マム(a60001)はとりあえず動いていたふさふさの物体を捕獲する! そして毛を払い落としてみるが、それは普通の狸であった。
「ハズレかぁ……次ね」
 ぷるぷると身を震わせる狸を逃がし、マムは次の獲物を探す。地道な作業だが、運が良ければ見つかるかもしれない。
「狐の痕跡があればいいのですけれど……」
 地面を調べて足跡や糞などの痕跡を探す想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)だが、なかなか見つからない。それに仮に見つかったとしても、それが変異狐の残した痕跡なのか、普通の狐が残した痕跡なのかどうかを判別する術はあるのだろうか?
 それでも当てなく探すよりは良いだろう。ラジスラヴァは地面に散らばる毛を払い、調査を続けていった。
「やれやれ、よくもまぁ散らかしてくれたものね」
 無双華・リョウコ(a90264)もふぅと呟き、がさがさと毛を回収してゆく。その近くでは光纏う白金の刃・プラチナ(a41265)が魅了の歌で小鳥に話を聞いていた。
「光る粉が出ているキツネを見なかったかのぅ」
 プラチナの問いに小鳥はちちちと鳴いて去ってゆく。狐かどうか不明だが、なんだかキラキラしたものを見たような気がするそうだ。さっそく仲間たちと共にそちらの方向を目指して探索を開始する。
「ふっさふさですか? ふっさふさの狐ですか?」
 木に生えた毛を払いのけて超攻剣士・アストレイヤー(a72515)は進み、ぴらーはにゃんこなのです・アンジェリカ(a67754)も進む度に毛を回収していた。
「頑張って退治するですよ」
 いつでも戦闘に入れるようにと黒炎覚醒を発動させるアンジェリカだが、今回活性化している回数は2回。これが切れたらすぐにかけ直すべきか、少し考えているようだ。まだまだ毛だらけの森の中、変異狐の手がかりは少ない。

「そこっ!」
 紅蓮の雄叫びを響かせるフォーネ! そうしてマヒした幾つかの毛塊に近づき、一つ一つ毛を払ってゆく。
「……毛の感触は気持ちいいですが、中の動物が何か不明なのが怖いですね」
 それでも少しずつ動物達のふさふさを解除し、捜索の範囲を狭めてゆく。
「ふむ……あちらの方角かな」
 その動物達からフォッグは魅了の歌で話を聞き、方向を修正してゆく。ちょうど最近ふさふさになった普通の狐が居て、その時の方向を教えてくれたらしいのだ。
「とにかく毛を払い落として回るわ」
 マムがころころと移動してゆく毛塊を捕まえ、その毛を落とす。ただの山猫だったようだ。
「む、あれは……」
 フォッグが何かに気付いた。キラキラと光る粉と、直後にぼふっと増える金色の毛。
「ちょっとちょっと、あれじゃないの!?」
 声を上げながら血の覚醒を発動させ、マムがふっさふっさ移動する毛の塊を追い始める。確かにその中から光る粉が振り撒かれているようだ。
「集めますね」
 ラジスラヴァが笛を鳴らし、仲間に発見の合図を送る。ちょうど近くに居たアリュナスが毛塊に横手から迫るが、粉を浴びてぼふっと毛だらけになってしまった。
「これは……」
 アリュナスが一瞬だけ面食らった瞬間に毛塊は走り去ってゆく。フォッグも体の毛を払いながら飛燕連撃を投げ付けた。
 かかっ!
 毛を払ってから攻撃したので狙いが定まらず、毛塊には命中しなかったが、何とかその逃げる方向を制限することに成功する。
「見失わないように! あれですね!」
 フォーネは他の動物たちが入っている毛塊と混ざらないよう、間違えないように注意しながら他の動物達を追い払ってゆく。
「紛らわしいから眠らせる……見失うなよ」
 そこにレイザスが眠りの歌を奏で立て、他の毛塊の動きを止めていった。これでしばらくは変異狐らしき毛塊に集中することができるだろう。
「くっ……ゆくぞっ」
 プラチナは黒炎覚醒を発動させつつ変異狐の前に立つ。ざざっとリョウコもそれに並んだ。
「逃がさないわよ!」
 冒険者たちは捜索する間も複数の班に分かれ、広い範囲をカバーできるように距離を取っていたのである。それによって発見から素早く回り込み、三方向から変異狐を包囲するように展開することが出来ていた。
「迷惑な狐は早く退治しましょう」
 アストレイヤーは素早くサーベルを振り抜き、包囲の穴を埋めるようにリングスラッシャーを召喚する。
「この時期はふさふさしたものが恋しくなるです。……でも!」
 アンジェリカは温存しておいた黒炎覚醒を発動させ、黒き炎によって自らの力を高めてゆく。周囲を見回すようにじりじり動く目標の毛塊に向けてすっと杖を突き出して構えた。
 ざっ!
 踏み込んで拳を突き出すアリュナス! 一撃が毛塊を捉える……が、どうやら拳があたった部分は毛だけだったらしい、ばさりと長い毛が散り、中から狐の顔が現れた。慌てて変異狐はそこから飛び退く。
 フォッグも粘り蜘蛛糸を投げ付けて捕獲を狙うが、変異狐は糸を逃れる。――いや、逃れさせられる。
「そこです!」
 逃げた方向にはフォーネが踏み込み、突撃槍『菊理媛神』を振りかぶっていた。守護天使の力を宿したホーリースマッシュが思い切り叩き付けられる!
 ギャウンと悲鳴交じりの鳴き声を上げ、変異狐の体に付いていた毛の増量分が散り落ちた。だが変異狐は攻撃を受けながらも地面を踏み締め、尻尾から光る粉を振り撒いてくる!
「こ、これは……」
 フォーネの体にふっさふっさと金の毛が生える。ちょっとしたストライダー気分? だが、腰の辺り一周全部がふっさふさなのは如何なものだろうか。
「顔に生えたりしたら視界や呼吸の妨げになる。地味で厄介な攻撃だな」
 レイザスが高らかな凱歌を奏で、毛だらけになったフォーネや他の仲間たちの毛を払い落としてゆく。
 その間に包囲の隙を付いて逃げようとする変異狐だが、マムとプラチナが退路を塞ぐように回り込み立ち塞がる。前にマム、後ろにプラチナと二段構えの布陣だ。
 そこにラジスラヴァが魅了の歌を唄い掛ける。魅惑の音色によって変異狐は逃げるのを止めてラジスラヴァを見つめ始める。無防備になったその背にリングスラッシャーが切り掛かった。
「いくら寒い時期とはいえ、ふっさふっさにも程があります」
 続いてアストレイヤーが素早く間合いを詰め、ミラージュアタックの残像と共に駆け抜ける! ぶしゅっと変異狐の脇腹が切り裂かれた。
「一気に退治するです〜」
 アンジェリカがブラックフレイムを放ち、リョウコが剛鬼投げで投げ落とす。ぴくぴくと身を震わせる変異狐にトドメを刺すべく、プラチナは儀礼用長剣を向けてブラックフレイムを撃ち出した。
 ごっ!
「逃がさないわよ!」
 黒き炎を追ってマムが走る。着弾して燃え上がるその背に、思い切り蛮刀を振り下ろした!
 ざっ……。
 パワーブレードによって体を断たれ、変異狐が地面に倒れる。こうして毛だらけ事件の犯人は、無事に退治されたのであった。

「さて……果てしない作業になりそうじゃが……」
 苦笑を浮かべるプラチナ。多少なら自然に舞い散るだろうが、これだけ大量の毛が残っていては森の動植物に迷惑だろう。
「集めて持ち帰るついでに……掃除だな」
 やれやれと言いながらレイザスは金の毛の回収を始める。続いて他の冒険者たちも作業を開始していた。
「ん〜ふさふさですね〜」
 綺麗な毛を判別できるように分けておけば、後で利用できるかもしれないと期待を膨らませるアンジェリカ。確かにこれだけの量の毛があれば、何か衣服や防寒グッズが作れるかもしれない。
「こんなに散らかしちゃって……たくさん編み物できそうね」
 マムもリョウコもその為にも頑張ろうと手を動かしながら仲間たちを励ます。こうして森は何事も無かったように綺麗になり、冒険者たちは沢山の毛を近くの村へと持ち帰ることができたのだった。

「上手く加工すれば、尻尾付きのふさふさ毛皮帽子とか出来るでしょうか?」
 村の洋服屋が首を傾げるのに対し、あーゆーのがくっついている帽子だと密かにリョウコを指差すフォーネ。
「これだけあれば……じゅうたんでも作れそうですね」
 沢山作れば村の人たちにも分けることが出来るかもしれないとアリュナスは村人と相談を進めていた。冒険者も村人達も、思わぬ収穫――毛糸製品にそれぞれ思いを巡らせているようだ。
 ラジスラヴァが暖かそうな衣服を作っているかと思えば、一方ではレイザスがマフラーを編み始めた村人を眺めている。
「二人で巻けるような長いものがあれば、ふさふさ以外の温もりが……」
 フォーナ祭の時期も近いことだしな、とレイザスはマフラーを探し始めた。
「綺麗なセーターが作れそうですね」
 アストレイヤーは武器を編み棒に持ち替えてセーターを編んでいた。
「ま、頑張ってやがるからな……」
 幾つか完成した毛糸製品を眺めながら、フォッグは贈り物として選び始めていた。帽子やマフラー、何人かが協力して早いところではコートといったものも完成し始めているようだ。
「これだけ良い物ができて皆さんに喜んでいただけるなら、頑張った甲斐がありますです〜」
 依頼の成果に笑顔を見せるアンジェリカ。こうして冒険者たちは森を騒がせた変異狐を見事に退治し、ふっさふさのお土産と共に帰路に着くのであった。

 (おわり)


マスター:零風堂 紹介ページ
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作成日:2008/12/13
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