<リプレイ>
灰色の雲の下、一面に広がる毒の沼……その先に見える島。 「七大怪獣もあとはこのガルベリオンを残すのみか〜、長かったなぁ」 毒の沼にポツンと浮いているガルベリオンを見て、蒼氷の忍匠・パーク(a04979)がしみじみと呟く。思い起こせば懐かしい、あの口の中とか、あの口の中とか、あの口の中とか、色々思い出すものがあるのだろう……あれ? 「色々手探りですけど……先ずはガルベリオンへ、ですね?」 なにやら色々思い出して遠い目をしているパークに小首を傾げ、オーディーンの槍・カミュ(a49200)はガルベリオンを見やる。何はともあれ、ガルベリオンへ乗り込まなければ全ては始まらないのだ、そしてそのための準備も着々と整いつつある。 「どきどきするけど頑張るです!」 事前に沼を渡るために沼の毒に耐性のある植物を用いた筏を作ってある……そして、それらを結ぶためのロープを同じ材料で作りつつ、気ままな銀の風の術士・ユーリア(a00185)はぐっと小さく握りこぶしを作った。 ユーリアのようにロープを作る者、鎧に泥などを塗って光沢を隠そうとするもの、音を立てない筏の漕ぎ方を訓練するもの……来る夜に向けて、各々が万全を尽くす。何があるか想像も付かない以上、あらゆる場面を想定した準備をする必要があるだろう。 そんな中、不死鳳蝶・シャノ(a10846)などはガルベリオンやそこ居ると思われるドラゴンの様子を観察しようと試みるが、 「何も見えないなの……」 此処から見えるのはガルベリオンの尾にあたる部分のみ、尾は見えるがそれはガルベリオンの巨大さゆえに見えるのであって、その上に乗っているであろうドラゴンの姿などは確認できない。 ガルベリオン以外にも巡回しているドラゴンなどが居ないかを見てみるが……空にも沼にもドラゴンどころか生物の姿さえ見ることができない。 「何か情報が得られればと思いましたけど」 愛と正義と黒バニーの使者・アリス(a20132)も、シャノと同じように昼間のうちにガルベリオンなどの情報が手に入らないか? と考えていたようだが……強いて言うなら何も居ないと言うこの状況が逆に不気味といえる。 「パラダルクの置き土産もあるし、今回も気が抜けない戦いになりそうだね」 しかし、観察しただけでは完全に居ないと言い切れないところがもどかしい……気を引き締めて行こうと言うパークに頷くと、護衛士たちはそれぞれの準備に専念した。
夜が更ける。 空を覆っていた雲はいつの間にか晴れ、星々の光が天に溢れる。 月の明かりは暗闇を打ち払うほどには強くなく、そこに潜むものにとっては心地よい程度の明るさを放っていた。 毒沼は夜空が移り込み……透明でないが故に余計に鮮明に移るのか、見渡す限りに広がる毒沼と星空が交じり合い幻想的ともいえる光景を作り出している。思わず手をつけたくなるほどのそれだが……全ての生命を拒む毒の沼だ、油断はできない。 そんな夜の中、先に準備してあった筏を三艘、ユーリアたちが昼に準備したロープなどで結びつけ逸れない様にした護衛士たちは、予め決めてあった筏にそれぞれ乗り込む。 (「亀さん搭乗作戦なのです……! 頑張りますですよー!」) 皆終始無言、作戦指示などはタスクリーダーの心の声で行うなどの徹底っぷりに、星槎の航路・ウサギ(a47579)もジェスチャーだけで気合を現す。流石にないとは思うのだが、毒沼の中にドラゴンが潜んでいるかもしれないと考えると音の一つにも気を使わなければならないと言うことだろう。 何処から自分たちの存在が相手に伝わるか解らないのだと、銀花小花・リン(a50852)なども毒沼の敵を警戒して浮遊物一つにも神経を尖らせている。 ……だが、何も起こらない。 周囲は静寂に包まれ、筏が毒を弾く水の音と音が出ないように気を使っている筏を漕ぐ音が嫌に大きく聞こえる。 定期的に緩やかに聞こえるこれらの音が長時間に渡り続き……星が綺麗だなと上方を警戒していた、ツン食われ・レジィ(a18041)は空を見つめて……いけないいけないと首を振った。どれほど気を張っていても、静寂と暗闇の中で長時間となると厳しくなるものだし、精神的な磨耗は避けられない。幸いにして今回は何も起こらなかったが本気で警戒するつもりなら交代でやるべきだろう。 心の声で連絡員をやっていた、弓使い・ユリア(a41874)もレジィやリンと同じように空や毒沼を警戒する。戦闘の準備も整えてはいるが、何より大切なのは気付かれないことだ。戦闘に勝利したとしても気付かれてしまえば今後動き辛くなってしまうことも考えられるのだから。 今をやり過ごすだけで無く、二手、三手先も考えておかねばならぬだろう。 紫猫の霊査士・アムネリア(a90272)は椅子に座らされてグルグル巻きにされた上に、白銀の山嶺・フォーネ(a11250)に背負われるという格好に大変ご不満な様子だったが、注意深く行動する護衛士たちの様子には満足している様子だった。 たまにアムネリアの様子を確認するように振り返るフォーネには、寝ているようにしか見えなかったかもしれないが。
静寂の中を筏は一定の速度を保って進む。 幸いか、必然か、敵と遭遇することなく護衛士たちはガルベリオンの下へと辿り着くことができた。 沼に埋まっているガルベリオンの体に上陸し、そよ風が草原をなでるように・カヅチ(a10536)たちは筏を引き上げて島の中へと隠す。 その間も敵が居ないかどうかなどの警戒は勿論怠らないが……前来た時と違い、相手もわかっている上にパラダルクも居ないと考えれば随分気楽だなと、彷徨猟兵・ザルフィン(a12274)などは考える。 パラダルクが敗れたことによって柱を失ったドラゴンたちは散り散りになって逃げ出した。その内何体がガルベリオンに身を隠したのかは解らないが、正体不明の敵と戦うよりは遥かに気が楽だろう。 (「先ずは乗り込まないと、何も出来ませんものね」) と、異口同音のことを考えていた、夢見る箱入り狐・ネフィリム(a15256)と、紅染狂桜・イスズ(a27789)はガルベリオンの地を踏みしめると、すぐにカヅチとザルフィンを手伝って隠した筏の隠蔽を行う。 周囲は毒沼である、何かあったときの筏を破壊されていたらと思うとぞっとしない。それゆえにネフェリムたちは丁寧に筏を隠蔽する。 しかし、隠蔽するにもどうしても音は隠せない……静寂の中でやたら大きく聞こえるその音を聞きながら、綾なす火炎の小獅子・スゥベル(a64211)は毒沼の方から何かが来ないかと、警戒する。 星空を映しこんだ毒沼からは、今にも何かが出て着そうで……否、むしろ毒沼そのものが一つの生物にさえ見えて……得も言われぬ不安を掻き立てるが、深く息を吸い込んで呼吸を整えればそれが相も変らぬ沼の様子であると再認識できる。 そして、ふと、スゥベルは段々と空が白み始めてきていることに気が付いた。 思った以上に長時間筏の上に居たことになる……気を抜けば押し寄せて着そうな疲労を何とか押さえ、イスズたちは設営に適した場所を探しはじめた。
ガルベリオンの上は島そのものである。それも緑溢れる、結構な広さの島だ。 身を隠しつつこれだけの人数が野営するのに適した場所もそれなりにあるだろう。 自分が今踏みしめている地面を確認するかのようにぽんぽんと足で踏むと、闘姫・ユイリ(a20340)は少し考える。 あの毒々しい沼に浸かりっぱなしで生きているこのガルベリオンはどれだけ体力があるのだろうかと……いや、そもそもドラゴンロード同士の戦闘に巻き込まれて生きていること自体が驚愕なのだが。 うーんと顔をしかめているユイリの横で、蒼の貴剣・セレネ(a35779)は考える……この巨大な亀の頭はどれだけ大きいのだろうかと……良くはわからないが、ちょっと顔を赤らめながらそんなことを考えていた。良くはわからないが。 セレネは一人で、そんな冗談は置いておいてと言う動作をすると、空を見上げる……木々の合間から見える空は大分白み始め、そろそろ日が昇るころだろう。幸い未だにドラゴンやドラグナーガールの姿などは見えないが、なるべく急いで拠点を作って落ち着きたいところではある。 空を見上げていたセレネの視線を追うように、二振りの剣・マイシャ(a46800)も空を見上げ拠点に必要な条件を考える……周囲に敵が居ないことが大前提として、可能ならば、上空からも全員が姿を隠せそうな場所が理想だろう。 とは言え、迂闊に動き回っては何処でドラゴンと遭遇するか解ったものではない。ある程度の妥協も必要だとユイリは考える。 そうしてユイリたち先行偵察班は周囲を警戒しながら島の中に入り……上陸地点から少し入ったところに丁度良さそうな空間を見つけた。周囲に高い木が並び上空からは発見し辛く、島の上から水が近くを流れるという御誂え向きな場所だ。 アリスは念のため木に傷が付いているかどうかまで確認し、その場所に問題ないと判断すると、さっそく本隊へ合流するために来た道を引き返そうとして――
足元が揺れる。 揺れると同時に地鳴りのような音が響き、それが徐々に強くなっていくと立っていられないほど激しい揺れが護衛士たちを襲う。 「近くの木に捕まるのじゃ!」 思わず叫んだ、彩士・リィ(a31270)の声に反応するように一向はそれぞれの近くの木に、それに捕まった仲間の手を取り振動をやり過ごす。何かを振り落とそうとするように振動するガルベリオンの体だが、それも徐々に小さなものとなって―― 「空が……近い?」 閉じていた眼を開けば、先ほどまで高く高くに流れていた雲がやたら大きく見える……ガルベリオンの体から身を乗り出してみれば、眼下には七つの剣に貫かれた大陸。 そんな予感はしていたが、どうやらガルベリオンが再び飛空を開始したようだ……今度はドラゴンたちだけでなく、護衛士たちをも乗せて。 そして、これはもはや逃げ道など無い事を意味している。 護衛士たちは顔を見合わせると、マイシャたちが見つけた設営地へと向かい歩みを進め始めた。 「……この先、何が待ってるのだろう」 徐々に光が溢れてくるフラウウインド大陸を最後まで見つめていた、真夏の蒼穹・フィード(a35267)は、そう呟くと仲間たちの後を追う……体に吹き付ける風が、いつも以上に冷たく感じた。
【END】

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参加者:20人
作成日:2008/12/22
得票数:冒険活劇3
ミステリ19
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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