≪月兎≫ゆけゆけ! 冒険者達!〜秘境へGO〜



<オープニング>


●どこかにあるアレ
 今年もあとわずか。大きな戦いがあり、それに負ければヒトの世は終わりを告げていたかもしれないが……それでも世の中はせわしなく動いている。
「秘境に行きたいなぁ〜」
 蒼水流転の翔剣士・タルウィス(a90273)は月兎の真新しい小屋の一室でぼんやりとつぶやいた。旅団員が創意工夫を凝らして作り上げた小屋の内装は『落ち着いた』とか『上品な』とか『統一された』などという形容詞に当てはまらないところもあるが、タルウィスは十分くつろいでいる様に見える。
「秘められた空間……きっとめくるめく素晴らしい世界なんじゃないかぁ〜妄想するだけで時間が過ぎちゃうよね」
 ニヤニヤと楽しそうに笑いながら、3人掛けの洒落たソファの上にタルウィスはダラリと横になった。

 タルウィスの戯れ言は置いておくとしても……そう、この月兎の施設内に秘境はある、らしい。そこがどのような場所なのか、どこにあるのか。月兎の旅団長、月のラメント・レム(a35189)は明言を避けている。
「でも、新小屋の中とか近くにはありませんわ。これ、絶対です」
 せっかく新築したばかりの小屋を壊されてはたまらない。レムはそこを強調した。
「まぁあるとすれば他の場所、一本木のある丘、周囲の林、旧小屋である金色堂でしょうね。あ、あるとすれば、ですわよ!」
 少し早口でレムは言った。


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参加者
墓標の剣・アコナイト(a03039)
ミラクルエルフの・リュティ(a20431)
迅なる風・ニイネ(a26127)
銀蒼の癒し手・セリア(a28813)
白き金剛石のヒト・ミヤクサ(a33619)
月のラメント・レム(a35189)
コンコン・リオ(a35446)
薄靄の白夜・ヴェオーリオ(a40090)
漆黒の鎮圧者・クウェル(a46073)
星喰らう蒼き闇・ラス(a52420)
NPC:蒼水流転の翔剣士・タルウィス(a90273)



<リプレイ>

●秘境はどこに!
 旅団月兎……ごく普通の旅団にみえて実際は恐ろしい秘密を抱えている旅団であった。
「月兎の大いなる謎……『どこかにある秘境』は108の秘密のうちのたった1つでしかなかった………………だったりしてね〜」
「はいはい、秘境は浪漫ですよね。タルウィスさんの気持ちはよくわかります。ではお弁当をお配りしますね」
「セリアったら全然信じてない……って、わー美味しそうだね、このサンドイッチ!」
 蒼水流転の翔剣士・タルウィス(a90273)は探求する銀蒼の癒し手・セリア(a28813)から手渡された包みを早くも広げ、嬉しそうに叫んだ。
「秘境探しもお腹が空いてしまっては困るかもしれないって思いました。皆さんもどうぞお持ちになって下さい」
 大いなる使命と野望に目をキラキラさせた月兎のメンバー達はセリアの心づくしを受け取り、勇んで外へと飛び出していく。
「あ、ラスさん。こちらもどうぞ」
 真っ先に弁当を手にした星喰らう蒼き闇・ラス(a52420)にセリアは水筒も手渡す。
「ありがとう、セリア。助かるよ」
「いいえ。どうぞお気をつけて」
 なぜだか申し訳なさそうな表情でセリアは大きく手を振って出かけていくラスを見送った。
「では私も出かけて参りますわ。秘境というのですからきっと密林の様な場所にあるのです。ですから私は林の方を探してみます。タルウィスさん、お留守番をお願いしますね。こちらの水筒を置いておきますから……」
「了解〜ありがとうね、セリア」
 だらだらと長椅子に寝そべったままのタルウィスは身を起こす事もなくセリアへと片手を振った。

●禁断の場所で
 コンコン・リオ(a35446)は禁断の地にいた。そこで自らに課した過酷な作業を続けている。遅々として進まないけれど、リオの心が折れる様子は少しもない。
「やっぱり冬ですから寒いですね。でもこうして身体を動かしていれば暖かくなるし、湯たんぽも持ってきていますから問題はないです」
 誰に言うでもなくリオは小さくつぶやく。小さな温石はやはり小さな羊をかたどった入れ物で包まれ、リオの懐を暖めている。それでも一人で単調な作業を続けることは辛いのだろう。リオの独語はどんどん増えていく。
「こんな時は楽しい事を考えればいいんです。そういえば、カレーって家によって作り方かわるんですよ? りんごを入れる家とか蜂蜜を入れる家とか。私の家はチョコをいれて、少しコクを出したりします。甘くなるといいますが、実はそんなことはないんですよね。もしかして、チョコとりんごと蜂蜜を入れたらめちゃくちゃうまいのではないかということです。あ、ちなみに隠し味はソースですね。これが味わい深くなるので好きなのです。しょうゆをいれるのもいいらしいですが、うちはソース派ですね。で話を戻しますが、チョコでは甘くなりませんでしたが、蜂蜜いれたらカレー甘くなると思うんですよね。そこんとこみんなどう思いますか?」
 リオの脳裏には誰かが映っているのか、楽しそうに会話らしきつぶやきが続いていく。

●林の中で
「ひきょーってどんなところなのでしょう、かねぇ〜」
 丁寧に、でものんびりと錦上添花・ヴェオーリオ(a40090)は言った。出来れば冬でも暖かくて花が咲き蝶が舞うすてきな場所だったらいい……と、思う。間違っても寒かったり暗かったり、怖かったりするところは勘弁してもらいたい。
「月兎命名の謎こそが秘境を探す手がかりになるんだわさ。つまり、可愛い兎の楽園にお宝はあるんだわさ」
 少しばかり胸を反らしみらくるがーるプリティ・リュティ(a20431)は持論を展開する。随分と広い林の中を3人の冒険者達はゆっくりと歩いていた。ちなみにリュティとヴェオーリオが手をつないでいるのは大事な理由がある。
「どんな危険があるかわかりません。お2人とも足下にも背後にも頭上にも、勿論前後左右にも気を付けてください」
 まるでドラゴンロードの統べるドラゴン界の中を行軍するかのような慎重さをもって、月のラメント・レム(a35189)は歩いている。レム自身が旅団長を勤める月兎の敷地内であることを考えれば不思議な位の警戒ぶりであった。普段であれば歴戦の冒険者であるレムがそこまで気を張りつめる必要はない。けれど歴戦の勇者がひるむ対象もまた歴戦の古強者なのだ。ヒト族の敵はヒト……連綿と続くヒト族の歴史もそれを示している。
「それにしてもこの林は広いですね。ひきょーってのを探すのもたいへんそーです、だね。もっと奥なのでしょーかね?」
 命綱かのようにリュティの手を両手で握りしめながらヴェオーリオは右へ左へと視線を向ける。真冬のせいか小さな動物たちの姿もない。
「私の予想では大きな穴があって、そこからホワイトガーデンや地獄も真っ青なすっごい不思議世界が待っている筈……です」
「きれい?」
「勿論ですわ、ヴェオ様」
「よかった」
 ニコニコと楽しげな会話を続けるレムとヴェオーリオの傍らでリュティは厳しい表情になる。
「レムッコは団長だし一番財宝の事を知っているわさ。だからきっと言っていることは本当だから、一人歩きは危ないって思って金色堂はやめてついてきたけわさ。でも……あの怯えようは……はっ、もしかして月兎の秘密を知った者は……消される!?」
 こんな展開になる筈ではなかったのだが、緊迫した空気が場を支配する。

●金色堂の一室で
 建材を豪華な金で飾った通称金色堂。その一室で芽吹き咲かせる・ミヤクサ(a33619)は地下倉庫の整理をしていた。普段から物置代わりに使われているからか、倉庫には実に雑多な物がこれでもかと乱雑に置きっぱなしにされている。
「やっぱりありましたか」
 何故こんな場所にあるのか、ミヤクサが予想した通り地下倉庫には大量の服があった。上着もあれば下着もある。さすがに使用済みでそのまま放置とかの恐ろしい物はなかったが、どれも埃まみれで薄汚れている。
「このまま捨ててしまうのは忍びないですね。まだ洗えば使えそうな物が沢山あります」
 真新しい物もあるし、古着をもらってくれる人もいるかもしれない。
「高価そうな服地のものが沢山ありますけれど、虫食いの穴があいてしまっている服も随分ありますね。まずはそれを仕分けして……それからお洗濯でしょうか?」
 見つけてしまった以上放置も出来ず、ミヤクサは午前中は大量の衣類の処理を手がける事にした。
「あっちは午後からにしましょう。何か見つかるかもしれませんし……」
 半身をひねりミヤクサは高く積み上げられた紙の束、そして大きな茶色い袋詰めにされた粉の山へと視線を投げた。

●金色堂の下へ
「絶対に秘境はあるんだよ」
 言葉通り絶対の自信に満ちた余裕の笑みを浮かべ、迅なる風・ニイネ(a26127)はつぶやいた。その言葉が終わらないうちにあでやかな薔薇の花びらが舞い踊り、金色堂のつるつるの床は圧倒的な力でぶち抜かれた。そして基礎工事部分までもあっさり破壊され真っ暗な大穴が露出する。
「ほらね……やっぱり地下に通じる穴があったよ」
 ニイネはニコニコしながらラスへと振り返った。
「そ、そうだな」
 深く物思いにふけっていたラスはもの凄く可愛いニイネの声に自分だけの世界から急速に浮上した。そう、毎年色々な事が起こるなぁと思うのだが今年も本当に色々と事件が多かった。倒したはずの大神やドラゴンロードが蘇り、その元凶であるドラゴンロードを倒した。それに氷の大陸で冒険で色んな事を体験し、ドラゴンロード同士が戦い、同盟はそのロードも倒して……あぁ、そういや俺が冒険者になったキッカケも………どこまでもさかのぼって行こうとする意識が現実に戻ってくる。ふと自分の死期が近づいたのではないかと寒気がして小さく魔除けの印を切る。その時、はじめてラスは金色堂の現状に気がついた。
「って、こんだけ穴あけたらなんかしら見えるよ!」
 ニイネとラスが立つ僅かな床を残し、その他は全て大穴があいていた。もはや床と言える程の安定した平面は……ない。
「細かい事は気にしない事だよ、其れ行けラスたん!」
「ぎゃああああぁぁぁ」
 ぽんとニイネに背中を押されたラスは、そのまま大きな穴へと吸い込まれるように落ちていった。悲鳴が長く響いていく。
「……あれ、結構遠くまで続いてるみたい」
 穴の周囲、ほんの僅かな床にしゃがみ込み、ニイネは真っ暗な穴をのぞき込んだ。
「……っこの! 王族の末裔めっ!!」
 大量の布団が金色堂の穴だらけの室内を飛ぶ。真っ白なシーツにくるまれた敷き布団、羽根をふんだんに入れた掛け布団、暖かい毛布、枕まで! 空飛ぶ寝具一式が大挙してニイネの頭上を覆い尽くし……落下した。
「あああああっ」
「にーねさん! おーちた!」
 布団と共に地下へと落下していくニイネが今までいた場所に、別の人物がいた。漆黒の長い髪に夏の海の様に青い澄んだ瞳、白磁の肌の中には狂喜がつまっている。月紅風穢・アコナイト(a03039)だ。
「痛くない割りに人をなぎ払うのに向いている、布団って素敵……って、ここがにーねさんが知っていた秘境の入り口ってわけですね。うん、きっと高価な物を集めたり、子供をおびき寄せて食べたり、幻覚を見せて人を惨殺するモンスターの巣ですね。わかります! とってもわかります! そして危険を顧みずレムちゃんが助けに来てくれるんです」
 何をどうすれば囚われの姫と素敵な王子的展開が成立するのかはわからないが、ともあれ屈託のなさそうな無垢な笑みを浮かべ、アコナイトはラスとニイネを飲み込んだ穴へと身を躍らせた。

●林の奥深くには
 普段は足を踏み入れることのない林の奥を漆黒の鎮圧・クウェル(a46073)はゆっくりと歩いていた。もう随分と歩いているつもりなのだが、周りの風景は一向に変化しない。
「……林を……探索……と思ったけれど……この広さでも……林?」
 クウェルの関心は『林の定義』に変わっている様だった。どこからが林でそれほどからが森なのか。広さだけなのか、それとも木々の種類や住む動物たちによるものか。考えながらも歩くクウェルの前で視界が大きくひらけた。
「……ぉ」
 小さな小さな感嘆の声がクウェルの唇から漏れる。そこには小さな、でも綺麗な泉があった。冬の柔らかい木漏れ日が幾つもの光の筋となって差し込み、こんこんと湧く清水は泉を満たし溢れ小さな水の流れとなって森の奥へと消えていく。
「……綺麗……だ」
 ぼんやりと、いやうっとりとした様子でクウェルは泉に近づき、それからなんとなく流れ出る水の向かう森の奥へと進み始めた。

 水はどんどん地面を走り細い水の筋はいつしか小川となった。
「……あ」
 そして岩と岩の隙間から遙か地中へと注がれていく。冷たい水に濡れる岩に手を掛け、クウェルは岩の隙間を覗いてみた。
「何も……見えない……でも、これは?」
 諦めて身を起こしたクウェルは岩の隙間を埋める様に配置されている小さめの石に気がついた。石には大きく『押すな、危険』と文字が彫り込まれている。
「…………押す……な?」
 押してはいけないのだと思った瞬間、ぬれていた手元がスルッと滑った。このままでは岩に顔をぶつけてしまうと伸ばしたクウェルの手が文字の彫られた石に当たった。その石は全く手応え無くぐらりと揺れ、更には大きな岩さえもが崩れクウェルはまっさかさまに落ちていった。

 ざっぱ〜〜ん
 大きな水音、そして大きな水の柱が立ち上がった。上から何かが落ちてきたのだ。
「「きゃああ!」」
「「わあああぁぁ!」」
「「溺れる〜〜〜!」」
「だきゅ〜」
「「こ、こらーーーー!」」
 水の音にかき消される事なく悲鳴やらなにやらが辺りの岩に反響しこだまする。体勢を崩すことなく着地したクウェルは、地面の底で見慣れた人々を発見し小首を傾げた。
「みんな? どうして……ここに?」
 水は少しぬるめのお風呂ぐらい温かくて、皆タオルを巻いた入浴モードになっている。
「部屋干しの場所を探していたら、地下への階段があったんです」
 きっちりとタオルを巻き頭の上に小さなタオルを載せたミヤクサは地底に広がる空間の端を指さす。そこには燭台やランタンが置かれ上へと続く階段の端が見えている。
「温泉はあったかいの。リュティ様がぞうさんのまねをしたら、ここに着いたんだよ、ぱおーん」
「ま、まぁね。私とヴェオが象の物まねをしたから地下への隠し通路が現れたんだわさ! きっとそれに間違いないだわさ! パオーンパオーン」
 唯一温泉に入っていないリュティだが、今もヴェオーリオとは手をつなぎ仲良く話しのつじつまを合わせている。
「ようするに、秘境はレムちんの金色堂の地下水脈で洞窟なんだよ! で、一番奥には大きなスペースに温泉が湧いてるんだよ! 私の予測通りなんだよ!」
 タオル姿のニイネがビシッと決めポーズをする。本人が言うようにおおむね予想は的中している。
「やーん、怖い〜レムちゃん〜」
「こ、こらーー! アコナ様! どさくさにまぎれてどこをどう触ってるんですか?」
「えー言うの? もぅレムちゃんのえっち!」
「誰がえっちですか、誰が!」
 月兎名物、アコナイトとレムのちょっぴりおませなどつき漫才、肉体の限界へ挑戦編がこの地下温泉でも繰り広げられている。ほんのり濁った湯の中では…………これ以上は描けません。
「名案があります! せっかくですからこの温泉の名前はヒキョウにすれば良いのではありませんか? そうすれば皆さんでヒキョウを発見したことになりますね」
 ある意味冷静に色々とぶった切りセリアが言った。

 その時、遠くで轟音が響いた。続いて地面を揺らす振動が再度辺りの地下温泉の壁である岩盤を振るわせ空気揺らす。
「まさか!」
 レムが、そしてアコナイトが走る。リュティとヴェオーリオはまたしても手をつないで走り、ニイネとラス、セリアとミヤクサ、最後にクウェルが続く。
「……遅かったよ」
 食べかけのサンドイッチを手にしたタルウィスがのたうちながら言う。その派手な格好の向こうにあったのは、金とも銀ともつかない泥まみれで大破した建材の山とその上にちょこんと乗った金色のオブジェを背にしたリオだった。新築したばかりの新しい小屋……そのなれの果てであった。辺りは少しずつ水がしみだし建材の山が沈んでいく。
「……ごめん。温泉、掘り当てちゃった」
 リオは……頭から湯をかぶり泥まみれのリオは『いい仕事をした』とばかりに輝くような笑顔で集まってきた者達に報告をした。
「秘境は俺たちの中にあったんだな……」
 哀愁を漂わせる微笑を浮かべたラスはサンドイッチを喰らい……壮絶な悲鳴と共に震えながら地面に倒れる。
「大成功、ですね」
 セリアは嬉しそうにニッコリ笑った。


マスター:蒼紅深 紹介ページ
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エルフの・リュティ(a20431)  2009年09月01日 17時  通報
温泉……?

何か誰かの誤字のせいで秘境を探す事になったわさ。私は何かアホな事やってる気するけど、これは論理的な思考の結果であって、アホな事ではないわさ。惜しい行動であったことは間違いないはずだわよ。

温泉って儲かるのかしらさね。人と入るのは苦手だけど、たまに入りに行こうっと。