冬のサニーベリーへようこそ! 〜花咲きのシープベル



<オープニング>


●泉のほとりサニーベリー
 勿忘草の花の色は透きとおる水に溶けて、遥かな空へと広がっていく。
 冬めいた空を流れる雲は淡く白く、今にもふんわりちぎれそうな風情で柔らかに空を彩っていた。
 澄んだ冷たさを纏う風は清冽な水と緑の香を孕み、けれど淡く花の香すら抱いて吹き渡る。
 遥か眼下に広がる地には淡い柳色とほのかな枯草色に染まる草原が柔らかに波打って、秋の名残を思わせる優しいペールオレンジのコスモスたちが楚々と咲いていた。限りなく柔らかな色彩に覆われた大地に弧を描くのは、澄んだ水を湛えきらきらと輝きながら草原をゆく清流だ。水のほとりで真白に煌いているのは、雪ではなくてスノードロップの花。
 雪の雫で飾られた水の流れの内側には、明るい杏色の屋根が並ぶ小さな村がある。
 世界の優しさに抱かれたようなこの地の冬は、大地に穏やかな休息を齎す季節だ。
 春の彩りに満ちた花々が咲き綻ぶまでの、短い短いひとやすみ。
 秋よりほんのり寒くなっただけという暖かなこの地の冬に、天から雪が降りてくることはない。
 けれど村には雪色のスノードロップやエリカに冬薔薇が咲き零れ、村に生まれた子供達はこの花の色で雪のことを学んでいく。雪の降らない村だけど、雪の降る寒い冬を学ぶことは、この村に生まれた者にとってはとてもとても大切なことのひとつだった。
 清らな水の流れと肥沃な大地に抱かれた村の名は、泉のほとりサニーベリー。
 癒しの力を持つ泉が湧くと言い伝えられている、命の息吹に満ちた祝福の地。

●冬のサニーベリーへようこそ!
 明るい杏色の屋根を持つ家々が立ち並び、眩い程清麗な雪色の花が咲き零れるサニーベリーは、まるで絵本に描かれた童話の村をそのまま取り出したように可愛らしい。
 清流にかかる橋を越え、淡雪が降るように咲き零れる花々に包まれた家の間を通る道を行けば、村の奥に聳える立派な春楡の樹が見えてくる。
 今はすっかり葉を落とし、美しい樹形を存分に眺められる春楡の樹。その木陰に湧き出ているのが『癒しの力を持つ』と言い伝えられる泉だけれど、それは本当にただの言い伝え。冷たく澄んだ水に僅かな炭酸が含まれているのが不思議と言えば不思議だが、本当に『癒しの力を持つ』と言えるのは、山の滋養に満ちた水や肥沃な大地に育まれた作物と、サニーベリーの温暖な気候の方だろう。
 けれどそれを理解した上でなおサニーベリーの人々は春楡の泉を愛しているし、温暖な気候や穏やかな村人達の気質を愛し長期の滞在や療養に訪れる人々も泉を慈しんでいる。
 泉のほとりサニーベリーは、そんな優しさと温もりに満ちた祝福の地なのだ。

「冬のサニーベリーに遊びに行くんやけど、一緒してくれる子はおるかなぁ?」
 湖畔のマダム・アデイラ(a90274)は何かを慈しむような笑みを浮かべ、霞のように細やかな気泡を立ち上らせる炭酸水に林檎のジャムをひと匙落とす。炭酸水に果実ジャムを加えるのはサニーベリー独特の飲み方だ。何やめちゃめちゃサニーベリーの食べ物が恋しいんよねとくすくす笑みを零しながら、アデイラは炭酸水をかきまぜた。
 温暖な気候に恵まれたサニーベリーの冬は比較的過ごし易く、晴れた日なら薄手の外套を羽織るだけでも冬空の下で過ごすことができる。秋ほどではないけれど作物も確りと実り、朝夕の冷たさで引き締まるのか「秋よりも味わい深い」と評する者もあるほど美味な物を食べることができる。
 林檎をたっぷり使った焼きたてのパイに、暖かに蕩けるほうれん草のポタージュ。蕪と鶏をとろとろになるまで煮込んだシチューには香ばしくローストした胡桃を散らし、黒豆を練り込んで焼いたパンには林檎の樹で燻製したベーコンに黄身の色濃い艶々たまごで焼いたベーコンエッグを乗せて。
「も、色々食べたいんやけど……一番の目当てはチーズフォンデュなんよね」
 甘やかな吐息を洩らしたアデイラは、瞳を緩めてサニーベリーの冬のチーズについて語り始めた。
 早春から熟成され冬に完成するというそのチーズは、少しばかり変わったチーズだ。
 大きく平たい円筒形、つまりよくある形に作られるサニーベリーの冬のチーズは、硬い外皮の天辺の縁にくるりとナイフを入れ外皮を取り除いてみると、中はまるでカスタードクリームのようにとろりとした柔らかなチーズになっているのだという。
「濃厚なカスタードクリームそのまんまみたいな艶々の金色で、も、めちゃめちゃ香りがええんやって。で、こんくらいの大きさらしいんやけど……」
 言いつつアデイラは両腕で円を作ってみせる。
 ぎりぎり抱きかかえられるかな、くらいの大きさだ。
「天辺の皮を取って、暖めた白葡萄酒かミルクで少し伸ばして……そのままそれを熱々のソーセージとかに絡めて食べるチーズフォンデュなんやって」
 チーズそのものはほんのり温かい程度だけれど、具の方が焼きたて茹でたて熱々のチーズフォンデュというわけだ。広場にある大きな窯から取り出したばかりのパンに、ぐらぐら煮立ったお湯で茹で上げたばかりのソーセージ。そして熱々ほくほくに蒸しあげた温野菜たち。
 村人たちも集まるその広場で皆と一緒に食べるなら、きっととても楽しいはず。

「そしてね、後はシープベルに花の絵を描いて楽しもうかなぁって」
 この冬サニーベリーで流行っているのが、シープベルに花の絵付けをすることだ。
 羊達の首につけられるこのベルは、少し平たい形をしていて可愛らしい音が鳴る。大きさごとに音が異なるから、大きさの違うベルを並べ使い分けることによって、曲を演奏することもできるのだとか。
「黄銅製やから優しい金色してるのも可愛いし、ハンドベルより手軽で音も素朴なんがええみたい」
 大きな牧場主の奥方がサニーベリーへ療養に訪れ流行らせたもので、最近は村のあちこちで皆がシープベルの演奏を楽しんでいるらしい。そこに混ざって皆と一緒に演奏してみるんもええんちゃうかな、とアデイラは微笑んだ。
「で、花でも描いたらもっと可愛いやんね、って話になったらしいんよ」
 但し、今は冬だから、描くのは雪の色をした花だけと決まっているという。
「サニーベリーの村のひと達のご先祖様は……辛い境遇から逃れて、遠いところから旅を続けて、ようやくのことであの祝福の大地にたどりついたんやって」

 彼らが祝福の地サニーベリーへ辿りついたのは春のこと。
 代を重ねた今でもサニーベリーの人々は雪の冬を語り継ぐ。
 命の息吹に満ちた春を迎える歓びを、決して忘れることのないように。


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参加者
NPC:湖畔のマダム・アデイラ(a90274)



<リプレイ>

●冬のサニーベリーへようこそ!
 清冽な水のほとりに咲く勿忘草の色をほんのり映しとり、空は淡やかに清らかに透きとおる。
 冬空のもと広がる柔らかな柳色とほのかな枯草色の草原は、大地が春までのひととき眠りの中にある証。けれど穏やかに安らぐ大地に綺麗な弧を描く清流のほとりには、凛とした光を孕む真珠をも思わせる花々が咲き零れていた。
 真白に煌く花はスノードロップ。
 温暖なこの地には縁遠い、雪の色を宿した花。
 歌うようにせせらぎを響かせる清流にかかる橋を越えればそこがサニーベリー。
 村人たちの集う暖かな広場へ足を向ければ、焼きたての黒豆パンにクリームシチューの香りがふんわり辺りへ漂っていた。淡く混じる冬薔薇の香りに瞳を緩めたセラは、村人たちと笑顔で挨拶を交わしつつ、花梨の木をくりぬいた器に夫の分のシチューをよそう。君のが先だよと笑いながらヨハンも妻のためにシチューをよそい、火傷に気をつけてと二人声を重ねて互いに温かな器を手渡した。
 蕩ける蕪も柔らかな鶏も、温かなクリームを纏い優しい幸せを齎してくれる。
 身体も心も温めながら、きっと村人たちの優しさもこの味に含まれてるよねと笑みを交わし、後で泉の水を飲ませてもらおうかと幸せな予定を囁きあった。
 春楡のパドルをえいと引き出せば、大きな石窯の中からこんがり狐色に焼きあがったアップルパイが顔を出す。これはいい出来だ〜と顔を綻ばせたアーケィがナイフを入れれば、星や月の形の生地で飾られたパイの中から芳醇なバターと甘酸っぱい林檎の香りが立ちのぼった。冷たいバニラのクリームを添えればきっと無敵の組み合わせ。
 蜂蜜とシナモンをたっぷり使った林檎のフィリングは、明るい金色の光を抱いて木皿にとろりと蕩けていく。ボギーはもうめろめろですと尻尾を揺らす彼にやっぱり淡い金に透きとおる温かなレモネードを渡してやって、バーミリオンも焼きたて熱々のアップルパイをさくりと齧る。バターの風味豊かなパイ生地も、程好い甘味と爽やかな酸味が心地好いフィリングも、ただひたすらに幸せだ。
 香ばしい胡桃の粉をかけるのも美味しいのですと語るボギーと笑いあい、優しい空気に心を浸した。
 村人たちが焼いたアップルパイをギルバートに切り分けて、彼が幸せそうにパイを頬張る様にシエラも思わず笑みを零す。彼女が作ってくれた物なら天上に昇る心地にもなれたのだろうけど、それでもやっぱり好物は好物だから、ギルバートは弾むような気分でベルの絵付けを再開した。
 柔らかな金色に輝くベルに描くのは、優しい白に透ける林檎の花だ。
 最も優しき女性に、最も美しい人へという言葉を抱く――春の花。
 黒豆の甘味が優しいパンにベーコンエッグを乗せ、エストラゴンが柔らかに香るカリフラワーのポタージュと食べてみる。温かに蕩ける優しい味わいにニンフはふるふると尾を揺らしたが、やはり先程食べた柚子チーズケーキの鮮烈さには敵わない。甘さ控えめの焼きたてチーズケーキにとろとろの柚子マーマレードを垂らし、熱い珈琲と食べるのは、思わず全身を震わせてしまう程の至福だった。
 香りが深まる程度に温めた白葡萄酒で伸ばせば、金に蕩けるチーズがひときわ艶を増す。
 熟したチーズの香が更に花開く様にコウは瞳を緩め、幸せと囁く湖畔のマダム・アデイラ(a90274)に、なら、もっともっと幸せになって欲しいですと笑みを返した。己は剣を手にしなければ何も始まらないのだと悟ったし、それで良いのだと思うと淡い苦笑を浮かべてみせる。
「……甘ったれ」
「師匠も」
 何時かよりも優しい声音と抱擁を受けとめて、くすぐったい心地で笑みを深めた。
 硬めに焼いた胡桃パンをくりぬいて、蕩ける冬のチーズとブロッコリーを詰め、カトレアの花弁にも似た生ハムを飾る。明るい杏色をした小さ目の琺瑯鍋には熱々の人参ポタージュをたっぷりと。
 手料理いっぱいのバスケットに笑みを零し、カルストさんの手料理も楽しみだけど、シープベルの演奏もしてみたいんだよねとウィズは声を弾ませた。冬に奏でる曲ってのもあるんですよと楽しげに笑みを零すチェルダと曲を教わる約束を紡ぎ、高く聳える春楡の木陰目指して村の中を行く。
 咲き零れる真白なスノードロップはまさに雪。
 辛い冬の記憶も大切にできる、この地の人々の強さを知りたくて。
「チェルダちゃーん! 感謝祭ラブラブだった? らぶり?」
「私の大切な子を悲しませたら許さないわよ、カルスト?」
 きゃーミルッヒさん直球すぎ、と乙女は彼女の抱擁を思い切り受けとめて、ふふ、と何だか凄みのきいた微笑を浮かべて迫るラシェットに、乙女の恋人は盛大にたじろぎこくこくと頷いた。
 相変わらず手厳しいとくつくつ笑うクリフも二人も愛しくて、ただいま、と自然に言葉が滑りでる。
 おかえりなさいと返る言葉も、流れた時間を感じさせないほどに自然で。
 葉を落とした春楡のもと、泉のほとりから眺める村は雪の色の花に満ちていた。
 けれど大地のひとやすみが終われば、この地が春の花の優しい色に満ちることを知っている。
 実はおれずっと前から『ヤボー』があるんだと胸を張るミンツの顔を、皆が何なにと覗き込んだ。
「それは……ぽっかぽかの日にココで皆で昼寝することッ!」
 木陰での昼寝が気持ちいいと春乙女が教えてくれたから、それは素敵だと相好を崩した彼らと何時か一緒にと約束を結ぶ。命の息吹満ちる春を迎える喜びを思い、ミルッヒも満面に笑みを咲かせた。
 来たる春の日にも、皆でこの言葉が言えたら幸せ。
「ただいま、サニーベリー!」

●泉のほとりサニーベリー
 葉を落とした枝葉で冬空に緻密な模様を描く春楡も、気泡揺らめき美しい樹形を映す澄んだ泉も。
 在るがままなら酷く寒々しいはずなのに、この地では何処かあたたかで。
 暖かさには慣れないのにと目元が熱を帯びる様を笑って歩けば、暖かさに慣れないのは人肌を覚えないくらい直ぐ離れるからよ、と仕様がないわねといった風情のシャクティナに腕を取られた。普段ならするりと紡げるはずの軽口も出てこずに、テオドーラは柔らかな土が彼女の踵を取ることのないよう、温もりに満ちた身体を引き寄せる。
 それきり言葉も生まず二人春楡の幹に耳を寄せれば、樹の奥から優しい水音が伝わってきた。
 嗚呼と洩らせば水の響きと重なる様に彼の心は震え、彼の顔が綻ぶ様に彼女は不可思議な想いを募らせる。甘やかな色を湛えた彼の瞳は世界を見ていて、己は彼を通して世界を見ている。
 だから聴かせてと囁けば、彼の口元が優しく笑んだ。
 ――君に伝えたいんだ、愛を。
 硝子杯に泉の水を汲み、林檎のジャムをひと匙落とす。
 細やかな気泡の昇る水は淡い金を帯び、冬の陽射しを透かして手元に光を散らした。セリハちゃんと水飲むんが好きと嬉しげに笑うアデイラに教わりながら、ひとつひとつベルに花を咲かせていく。
 雪の雫を咲かせ春を告げる、スノードロップの花。
 薄く白を敷けば柔らかな黄銅の輝きが透け、雪の奥に眠る春の光を心にきっと齎してくれるはず。
 掌におさまるベルを手にすれば、優しい音が掌にも伝わってきた。
 触れるのは初めてと金色のベルを鳴らし合い、イザとフィルフィスは顔を見合わせ微笑みを交わす。
 桜は目の前にあるから上手く書ける気がします、と気合を入れて筆を握る少年の姿に更に笑みを和らげて、イザは見易いようにと桜咲く自身の髪を摘まんでみせた。花言葉は、優れた美人。
「イザさん……ですね……♪」
「おや、まあ」
 思わず零れた笑みとともに紡げば、桜の青年が楽しげに瞳を瞠る。これが私からあなたに捧げる気持ちです、と彼がフィルフィスの耳元で優しく鳴らしたベルに咲くのは、白を連ねたルピナスの花。
 抱く言葉は、あなたは私の安らぎ。
 そして――いつも、幸せ。
 雪玉を花開かせたような白薔薇の下には、新雪を積もらせたように白のビオラが咲き乱れている。
 清楚な花々に目移りはするけれど、今日はスイカズラを描くのですよとハルカは金色のベルを手に意気込みを新たにした。金銀花とも呼ばれ生薬としても使われる白の花は、何処かイルディスによく似てる。小さく笑みを零す彼に少しばかり首を傾げ、イルディスは金銀花を咲かせていくハルカの手元を窺いながら、金色のベルへ丁寧に筆を乗せていった。絵心がないのは自覚しているから、形が簡単で可愛い花を。
 淡い冬の陽射しに優しく煌きながら、釣鐘草の花が咲く。
 幾つも咲き零れる愛らしいプリムラを描きたくて、プレストは花にあう軽やかな音のベルを探しひとつひとつの響きを丁寧に確かめた。丸みを帯びた平たいベルの形も、雪国の話をねだる村の子供たちも可愛くて、ベルの音をひとつ鳴らすたびに胸に花が咲く心地で笑みを零す。
 朗らかに笑うひとに、雪色を咲かせる蘭を気取らず飾らずに。
 花咲くベルをそんな風に彩りたかったから、イエンシェンも理想の音を求め耳元で軽くベルを鳴らしてみる。どんなベルがええんかなとアデイラに訊かれ、響きの柔らかな、よく眠れそうな音を出すベルをと紡げば、自然に口元が綻んだ。
「ほら、眠るのを手伝って下さるのも羊でしょう?」
 黄銅のベルに咲く雪色の鈴蘭は、柔らかな金の輝きを透かし真珠の色を帯びていく。
 遠い日の辛い記憶はきっと今の幸せの拠り所。遥かな想いを花に篭め、幸せの鐘を鳴らす村人達の心を暖かに感じ取る。貴女のベルも鳴らせてみせてと囁けば、甘えっ子、と囁き返した唇がハルトの唇へ柔らかに触れた。優しく響くベルに咲くのは真珠色の鈴の花。
 抱く言葉は――幸福が帰る。
 おかえりなさいと抱きしめられて、何時かの秋と同じ言葉に目元を和ませた。
 ずっと伝えられなかった分も篭めて。
「――ただいま」

●祝福の地サニーベリー
 思わず顔が綻ぶくらい優しく温めたミルクで伸ばせば、金のチーズはひときわ柔らかな色を帯びた。
 鶏のユキちゃんにベルをつけたいと語るユユを何とか思いとどまらせて、カルアはフォンデュを堪能しつつ花に纏わる逸話を語る。どんな辛い道程も必ず終わり、歓びに満ちた春が来る――それが雪の雫ことスノードロップの抱く意味だ。
 希望と慰め。
 語られた花言葉に瞬きをして、ユユはグリモアと同じ言葉なんて何だか嬉しいな、と明るい笑みを咲き綻ばせる。そんな花を描いたベルで皆と演奏できれば、きっと幸せが訪れるはず。
「ところでカルアちゃん……そんなにチーズ食べると、頭のお花がチーズ色になっちゃうよ?」
「……良いんだよ。俺、将来の夢はチーズになる事だったんだから」
 紡がれた言葉に知らず頬が緩む。
 他愛のない言葉を交わし君と和める今この時が。
 きっと、春。
 ふわりと広がるチーズの香りはミルクと合わさり深みと芳醇さを増し、ほくほくに蒸しあげられた人参に絡めればその甘い香りと溶け合って、心震わせずにはおれない至福の調和を生み出した。
 お野菜もどうぞもこーとイーシアが差し出す人参を頬張れば自然と笑みが零れ、その様にくうと可愛らしく鳴った彼女のおなかの音にユーティスは更に頬を緩めた。えへへと笑う姿に元気になって良かったーと笑って、彼女にも「あーん」とチーズを絡めたブロッコリーを差し出してみる。
 濃厚で、けれどまろやかなチーズとほくほくブロッコリーを堪能し、イーシアは後でベルの絵付けに行くんだようと幸せな心地のままに顔を綻ばせた。祝福の地に民を導いた乙女はきっとあなたみたいなひとだったんだろうねーなんて言われれば、何だかとても嬉しくて。
 訪れるひとびとを持て成すことが好きでたまらない村人たちは、手伝いよりも冒険の話を望む。
 淡いカモミールの香りがうっとりするほど素敵な蜂蜜酒を譲り受け、アキュティリスは氷の大陸に纏わる話や、風の名を冠された大陸に棲む不思議な生物たちの話を村人たちに語って聞かせた。深い琥珀色に揺れるアンバーエールを楓のジョッキで呷りつつ、カインも蕩けるチーズを絡めた熱々の香草ソーセージに舌鼓を打つ。
「互いに送り合うのが礼儀というものですからね。これは私からのお返しです」
 柑橘を思わす香りと瑞々しい酸味を孕んだ葡萄酒を譲り受けたグレイは、葡萄酒と明るい金色に透きとおるホワイトエールをその場でステアし、サニーベリー産100%のビア・スプリッツァですと皆に振舞って回る。何事かを囁いてきたテフィンには、三対二ですよと笑んで杯を手渡してやった。
 暖かな金色に蕩けるチーズを焼きたて黒豆パンにくるりと絡め、そのままぱくりと口の中。
 ほんのり温かなチーズと熱々のパンの風味、そしてほくほくした黒豆の甘味に、テルミエールはくうと目を瞑って至福の味わいに浸った。甘味と溶け合うチーズの塩味が幸せで、これならマンゴーみたいな濃厚な甘さのフルーツもいけるんじゃ、とこっそり拳を握る。
「……美味し〜っ!」
 早生り艶々、茹でたてほくほくのスナップエンドウに金のチーズを絡めて頬張れば、シファの唇からは感極まったような声音が洩れた。豊かに熟したチーズの風味も豆の莢から弾ける命の息吹も春の陽射しのように胸を弾ませてくれる。もっと冷たいフォンデュが花と煉瓦の街にあるんよとこめかみに口づけられ、らぶ、と破顔してアデイラと抱きしめあった。
 大好きもおめでとうもいっぱい詰め込んで、ユイリンも思い切りすぺしゃるな抱擁をアデイラと交わす。いっぱい支えてもらったからと囁けば、幸せそうなんがすごく嬉しいんよと眦に口づけられた。
 幸せが溢れてきそうだから、今日はひたすら皆と笑い合いつつ美味しいものを。
 金色マーマレードを落とした炭酸水も、チーズを絡めた熱々ソーセージとおいもを乗せたバゲットも、皆で分け合いながら食べればきっともっと幸せが膨らんでいく。
 軽く温めたミルクで伸ばしたチーズフォンデュで幾つもの野菜を試したアテカが最も気に入ったのは、素揚げされた小たまねぎだ。甘味ととろとろ感が幸せで、油で味が濃い分、瑞々しいクレソンをついついたくさん食べてしまうところがいい感じ。
 ベルには苺の花を描いたんだよと満面の笑顔で語る少女にローズマリーソースたっぷりの鶏の蒸し煮を取り分けながら、オルーガはエーデルワイスを咲かせたシープベルをサニーベリーへ贈りたいと村人に語る。辛い道程を越えてきた人々の末裔が住む村に、気高く毅然とした勇気という言葉を抱く花を。
 穏やかな気候に抱かれた肥沃な大地はきっと、長い旅をしてきた人々への贈り物。
 そんな希望に満ちているからこそこの村に惚れちゃったんだけどね、と悪戯っぽくヴェルーガが笑えば、朗らかな村人たちにも更なる笑顔が生まれた。

 長く辛い旅路と旅の果てに得た春の歓びを語り継ぐ村。
 何だか本当に絵本の世界に入ったみたいと思えば、胸にはたとえようもない幸せが咲き綻んだ。


マスター:藍鳶カナン 紹介ページ
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