冬空の下に火を灯して



<オープニング>


「来年も冬空祭に誘おうかな、とも思ったんだけど……」
 冒険者の酒場の片隅。
 護りの幻影姫・キラ(a90153)が、花車の霊査士・ヴァルナ(a90183)と向かい合わせにテーブルにつき、紅茶を手に話し込んでいる。
「キャンドルの灯りに照らされた雪景色の中、まったりお散歩とか、お話とかしながら年を越すのはどうかな、なんて思うんだよ」
「素敵な雰囲気の中だと思うけれど……何処で?」
 キラの言葉に、ヴァルナが冷静に突っ込む。
 雰囲気が良くても場所がなければ、意味がない。
「場所はもちろん、チェック済み。いつかのヴァルナの誕生日に、滝壺の傍の紅茶とケーキのお店……その周りが、すっごい雪景色がきれいなんだって。もちろん、お店の主人にも話してあるから、お話のお供に、お茶やケーキも楽しめるんだよ」
 キラの説明に、ヴァルナは「それなら、行くのもいいかも……」と呟く。
「それじゃあ、早速みんなに声をかけに行こうか」
 そう言ってキラとヴァルナは手分けして、冒険者たちへ誘いの言葉をかけに行くのであった。


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参加者
NPC:護りの幻影姫・キラ(a90153)



<リプレイ>

●冬空の下に火を灯して
 蒼き激流の舞闘士・ニルギン(a55447)は、レイメイ(a90306)を誘い、散歩コースをゆっくりと歩いていた。
「今年も、色々ありましたね」
 少し頬を赤らめながらニルギンは言う。そっと寄り添う彼に、寄り添い返しながらレイメイも1年を振り返った。特に、まだ記憶に新しいフォーナの夜のことを思い出し、彼女もまた、頬を赤らめる。
「貴女とこうして新年を迎えられて、私は幸せ者です」
 言いながらニルギンは己の首元に巻いていたマフラーをレイメイのそれへと巻きつける。
「私も、ニルギンさんと一緒に新年を迎えることが出来て、嬉しいのなぁ〜んよ」
 レイメイもそう応えれば一層、彼へと寄り添う。そんな彼女の肩をニルギンは抱き寄せた。
「少し冷えてきましたね。お店に戻って何か飲みますか?」
「そうなぁ〜んね。ちょっと寒いから、飲み物で温まろうかなぁん?」
 ニルギンの問いかけにレイメイはそう応え、2人はお店へと戻り、温かいミルクティーを飲むことにした。
 袖やフードの淵に真っ白なふわふわのファーがついた防寒着とマフラー、手袋を身に着けた天壌の桜姫・オウカ(a24167)はヴァルナ(a90183)を散歩コースへと誘った。
「はにゃー……綺麗ですー……」
 キャンドルの灯りが照らし出す雪景色。その幻想さにうっとりとした表情でオウカは呟いた。
「本当に、素敵だねー」
 負けじとうっとりとした様子のヴァルナも頷きながら、応える。
「しばらくここで眺めてましょうか」
 オウカの言葉に、ヴァルナは頷いて、暫く散歩コースの端で佇み、幻想的なその景色を楽しんだ。
(「もう俺の出る幕じゃねぇな」)
 散歩コースへと出かけた初々しい2人を見届けた黒曜の邪竜導士・デスペル(a28255)は、そう思いながらお店の中でもなく、散歩コースでもない、少し離れた場所へと移動した。
「蝋燭の光って不思議だな。優しいっていうか太陽とも俺たちとも違う」
 テラスの端の方に座り、外を眺めながら呟いた。
 もちろん周りが静寂なこともあるけれど、気分的にも今宵は騒ぐ気分ではない。
 過ぎ行く1年に思いを馳せながら、いつしか彼は持っていた道具の中から2つの鍵を取り出し、指先で弄っていた。片方は銀と紅の双頭の邪竜を模した黒曜石で出来た鍵――こちらは今年の誕生日に知り合いから貰ったものだ。もう一方は蒼く透き通ったガラス製の鍵――灰色の文字で小さく言葉が並べられているものだ。
(「行く先に幸多かれ――」)
 刻まれた文字を心の中で呟いて、デスペルは1人、雪見をした。
 白水六花・ロッカ(a26514)と風の行方を知る者・セイル(a29827)は散歩コースをゆっくりと歩いていた。寒いから手を繋ごうと伸ばしたロッカの手をセイルが躊躇いもなく取って、指を絡めるように繋ぐ。
「……雪に反射した……キャンドルの淡い光を眺めていると……心が……自然と……安らぐね」
 真っ白な雪が淡い光で照らされて、キャンドルの近くだけはキラキラと光っているのが分かる。
 そんな様子に、ロッカは思ったことを口にした。勿論、大好きな人が隣に居るから余計にそう思うのだろうと感じたのだが、恥ずかしいからその一言は口にせず。
 ロッカの何気ない仕草一つ一つが愛おしく、セイルは微笑みながら彼女の言葉に頷く。
「ロッカとはずいぶんかけがえのない時間を過ごしたね。今もこうして傍にいられる事、本当に嬉しく思うよ」
 繋いだ手にセイルは一層の力を込める。
「ロッカも……。……これからも……ずっとずっと……一緒に居てほしい……。……繋いだこの手が……決して……離れませんよう……に」
 力が込められた繋がれた手をもう一方の手で、願うように包み込みながらロッカは言う。
「二人一緒なら……きっと、どんなことにも……負けない、と思うから」
 言いながらセイルの顔を見て微笑むロッカに、セイルは笑み返して。
「僕は永久に君の傍にいる事を誓うよ」
 呟くようにそう告げた。
「これだけの雪だととても幻想的ね」
 2人で出かけてみようと隣を歩く彼女を誘った風雨の貴婦人・ウィンディ(a60643)は、散歩コースを店の方に向かって歩きながらそう口にした。
「うわぁ、綺麗だね」
 誘われた突風の愛し子・サフィア(a68507)は頷きながら、足元を照らしているキャンドルに見とれて声を上げる。
「サフィは昔っから雪は大好きだったものね?」
「うん、雪は大好き。このキャンドルも可愛くて幻想的よね?」
 笑顔で答えたサフィアに、ウィンディは微笑み返す。
 2人きりでのんびりと散歩するように歩くのは久しぶり。昔の話や恋人の話など、自然と話題は溢れるように出てきて、話に花を咲かせる。
 そうしているうちに店に辿り着くと、席に着いてそれぞれ紅茶とケーキを頼んだ。
「ウィンってショコラが好きだよね? 甘い物はてっきり駄目なのかなって思ってた」
 首を傾げながら問いかけるサフィアにウィンディは口を開く。
「ショコラは私が食べやすい甘さなの」
 そうなんだ、と納得するように頷くサフィアの様子に、ウィンディはくすっと小さく笑みを漏らした。
 暫く待っていると注文したものが運ばれてくる。
「一年間お疲れ様。また来年も頑張りましょうね?」
「お疲れ様。うん、お互いにね」
 互いに声を掛け合って、紅茶とケーキを食べながら、2人は年を越した。
 ヴァルナと共に散歩コースに出かけていたオウカは店へと帰り着くなりカウンターに突っ伏した。気づけば、笑顔のまま、寝息を立てている。
「……今年もよろしくです……むにゃむにゃ……」
 そんな様子にヴァルナは笑みを零しながら、店の主人から借りた毛布を彼女の身体にかける。
「ヴァルナお姉ちゃん!」
 もう一度雪景色を楽しもうかと店の外に出たヴァルナに、子犬忍者・アイテル(a74017)が声をかけた。
「お散歩、行く?」
 訊ねれば笑顔で頷いて、2人は手を繋いで歩き出す。
「綺麗だけど……、ちょっと寒いね」
 大分夜も更けて来たため、気温が下がってきている。
「こうすれば、あったかいんだよ」
 身震いをしたヴァルナに、アイテルはぎゅっと抱きついた。
「そうだね。ありがとう、アイテルくん」
 笑顔を向けながらアイテルは、ヴァルナの頬にそっと口付ける。ヴァルナは吃驚しながら頬を赤く染めた。
「もう、アイテルくんったら……」
 頬を染めたまま、困ったような笑みを向けて、そう口にする。
 散歩コースから店へと帰ると疲れてしまったのかアイテルはヴァルナの膝を枕にすっかり寝入ってしまった。
「お姉ちゃんってこんな感じなのかな?」
 安心しきって寝入っている弟分の寝顔を眺め、ヴァルナはふっと義姉の顔を思い浮かべるのであった。
「キラさん、ちょっと付き合ってもらってもいい? ちょっと行ってみたい所があるんだけど」
 すっかり夜も更け、散歩コースに出ていた者たちも店へと帰ってきて紅茶などで暖を取っていた頃、深緑の枝を撫でるそよ風・ミユリ(a74301)は護りの幻影姫・キラ(a90153)へと声をかけた。
「良いよ。何処へ行くのかな?」
 キラは頷いた後、訊ねながら首を傾げる。
「今年最初の綺麗なものを見にね」
 ミユリはそう返して、キラの手を取って、2人、店を出た。
 日が昇る前に辿り着いたのは滝壺だ。
「ここ?」
「うん」
 訊ねるキラに、ミユリは頷いて、やがて昇り始めた日を見て、ほら、と滝を指差した。
 日の光を浴びて滝を流れる水が輝く。辺りは一面の雪景色、それも日の光にキラキラと輝いて、先ほどまで雪を照らしていたキャンドルの火は蝋が尽きたのか、日の光を邪魔しまいと消えていた。
 その大自然の光景に圧倒され、暫し魅入っていたミユリはそっと瞳を閉じる。
(「沢山の幸せと喜びを有難う。これからもボク達を見守っていて下さいね」)
 心の中で、その大自然へと感謝を告げると、瞳を開けて、キラへと笑顔を向ける。
「明けましておめでとう。今年も宜しくね」
「うん、よろしくなんだよ」
 キラも笑顔を返しながら、ミユリへそう告げた。

 終。


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