花工房



<オープニング>


「ふらわーれんじべんとう?」
 舌足らずに繰り返そうとするアルエットに、リゼルは笑いながら首を振る。
「惜しいですけど、ちょっと間違ってます」
 リゼルの手元にある羊皮紙には、フラワーアレンジメント教室のお知らせ、と書かれていた。
「知り合いのお花屋さんが、うっかり花を仕入れすぎてしまったそうなんです。このまま花を無駄にするのももったいないので、それを使って教室を開くことにしたんですよ」
「お花がもったいないからおべんとーつくるの?」
「お弁当じゃなくて、ブーケとかを作るんですよ」
「ににょ? ブーケを食べるの?」
「……え〜っと……食べる話からちょっと離れてもらえます?」
「?」
 全然わかっていない様子のアルエットに、リゼルは説明を試みる。
「お花を束ねたり挿したりして、きれいに飾れるようにすることなんです」
 これが見本、とリゼルは花工房の店主が宣伝に置いていったフラワーケーキを見せた。丸く形作られたアレンジメントは、白を基調に色とりどりの花がさされ、本物のケーキに負けない華やかさだ。
「にょあっ☆ おいしそうなの〜」
「……これは食べられませんけど」
「うにょ?」
「う〜ん。教室に行けばきっとわかりますよ。ほら、初心者でもお気軽にって書いてありますし」
 リゼルは説明を諦め、ね、とお知らせの羊皮紙を指差した。


 〜フラワーアレンジメント教室のお知らせ〜

 季節の花々を使って、ブーケやアレンジメントを作りませんか?
 日々の心のうるおいに、あるいは大切な方へのプレゼントに。

 花と道具はこちらでご用意いたしておりますので、初心者の方もお気軽にご参加ください。

                            花工房 フローレン

マスターからのコメントを見る

参加者
NPC:九里香・アルエット(a90070)



<リプレイ>

●花の風景
 明るい工房の中には、華やかな色彩とほのかに甘い香り、そしていつもよりもっと優しさを増した皆の顔があった。

 白詰草と赤詰草。温・ファオは白と赤の配分を考えながらリースを作ってゆく。
 あまりきつく編んでしまうとリースを丸く形作れない。緩いと弱くなってしまう。1本1本丹念に編んで、ファオは丸い花の輪を作った。中に風鈴をつるせば、涼しげな夏のリースの出来上がり。ほっと息をついた後、ファオは他の皆が作っているのを見て回った。
「アヤメさんのブーケは華やかですね」
 小ぶりのひまわりをラウンドブーケの形に組み合わせ。綺麗な形になるように花の高さを調整し。
「あと一月もすれば、故郷はひまわりでいっぱい。強い日差しにひまわりの花が競うように顔を向けて……懐かしいな」
 星海の夜想曲・アヤメは、故郷を思い出しながら太陽に似た花のブーケを整える。
「ブーケの花ってどのくらいの長さに切ったらいいんでしょう?」
 神緑の祈り子・アイリアに聞かれ、たゆたう木漏れ日・レジスも首を傾げ。
「育てるのは好きだけど、僕も花で何かを作るのは初めてなんです」
 周囲を見渡すと、レジスは講師であるフローレンの店主を呼んできた。
「お花の種類やブーケの大きさによって変わってきますけれど……色とりどりのお花を使うなら小さめに纏めるのも可愛いですよ」
 アイリアの作るブーケは赤青黄色、色とりどり。
「色々な種類があって、色々な特徴があるのが素敵ですよね♪」
 対照的にレジスの作るリースは白一色。白百合の艶のある白、かすみ草のふわふわした白、レースフラワーの繊細な白。
「百合が足りないかな」
 ちょきんっ。自分の髪に咲く百合も入れて。水色のリボンで飾り付けて出来上がり。
 空牙の娘・オリエはスターチスとかすみ草でコサージュを。永久不変の花言葉通りに保ちの良いスターチスに、かすみ草で優しさの表情をプラス。こんな感じかなと、くるりと回して眺めてから、花束作製途中の真珠星・ベルに微笑みかける。
「付き合ってくれてありがとう。めったに外に出ないから、こういう機会は嬉しいものだね」
「私こそ、誘ってもらって嬉しかったです」
 勿忘草は、いつもお世話になっているお姉さんが好きな花。それと鈴蘭を合わせ。幅広のレースのリボンを結び小さな花束に。
 大好きな人の元を飛び出して行き場を失ったあの日……何も訊かずに側にいてくれたお姉さん。感謝の気持ちを花束にして届けたい。
「オリエさんは誰に差し上げるのですか?」
 聞かれたオリエは、誰にあげようかな、と世話になっている人の顔を思い浮かべ。だけど今は自分で持っている事にする。いつかきっと……の願いをこめて。

●花の祝福
「オレンジの花は忘れず加えてくれよ…」
「判ってるって。あ、オーちゃん、ここ押さえててくれる?」
 夜空海月・オワゾーにオレンジの花を押さえててもらい、金色海風・サリカはそれを柔らかな薄布の上に丁寧に縫い止める。花を傷めないようにと気遣うサリカの手つきは慎重だ。
 花嫁の喜びという花言葉を持つ白いオレンジの花。清楚なその花をメインにした花のショールはきっと、花嫁となるクウリッシュを一層幸せに飾ってくれるだろう。
「あとは鈴蘭と白詰草を……う〜ん、どう置いたらいいかな?」
 テーブルに広げたショールにサリカは花を配置してみる。
「えっと……こんな感じにしたら可愛いと思うよ〜」
 天真爛漫颱風・シャルムが鈴蘭で風を表すようなラインを作ってみせる。
「トウキが風だからな…」
「それならこっちには星をちりばめて……っと」
 白詰草の花を配置して、サリカはまたそれを縫い止める作業に入る。
「お花が少し余ってるね〜。じゃあこれで私は髪飾りを作るよ。お揃いのお花の髪飾り! きっとリシュちゃんに似合うハズ」
 うきうきと髪飾りを作り出したシャルムの手元を眺め、オワゾーは少しの間考え。
「俺にも花を分けてくれるか…?」
 シャルムの髪飾りを参考にしながらタイピンに花を留めつける。
 お揃いの花が2人をずっと幸せに結びつけてくれるようにとの祈りを込めて。

 生命に溢れるこの季節。季節の祝福を受けるかのように、この時季に晴れの日を迎えるカップルは多い。
 幻想旅団『朱月の宴』では、団長であるオラトリオとナナイの結婚式を控え、連日その用意がなされている。
 ドレスにケーキ、会場や出し物の劇、ブーケをはじめとした花飾り。
「ブーケ作るのなんて初めてなのです〜」
 緊張しつつも心弾ませ。何の花を使おうかと、工房に溢れる花を前に夢幻の歌姫・ミユは考える。
「トスブーケは百合とミニ薔薇で作りますの〜♪」
 花冠の戦姫・ティアイエルは結婚式に新婦が投げるトスブーケをリースの形で作ることに決めた。輪はRING=永遠の象徴。
「幸せのおすそ分けも永遠ですのね♪」
 白百合の間に赤いミニ薔薇を可愛く挿して。
「トスブーケに百合を使うなら別のお花にしましょうか」
 使う花を決めかねてミユは迷う。その横で遊風の愛し児・ヒカトは白い星のような花を編んでいる。
「マダガスカルジャスミンの花言葉、愛される花嫁、って言うんだって……ヒュレイさんが、教えて、くれたの」
 漂う香りに嬉しそうな笑顔を向け、ヒカトは花嫁の髪を飾る花冠を作る。
 緑の葉と白花の対比も瑞々しい花冠。どうか幸せに。いつまでも愛される花嫁でありますように。
「ブーケの花はクレマチスはどう? 心の美、っていう花言葉がナナイさんにぴったりよ」
 まだ迷っているミユに、幻燐の剣姫・アルヴィスがクレマチスを見せる。
「素敵な花ですね〜。じゃあそれで作りましょう」
 クレマチスの蔓をいかしたセミキャスケードブーケ。皆でお喋りしながらブーケの花を挿してゆく。アルヴィスはブーケと同じ花を使い、新郎の胸を飾るブートニアを作る。
「幸せ一杯の結婚式に使うんだから、心をこめて作らないとね♪」
「幸せ一杯……いいですね〜。ティアもいつか素敵なお嫁さんになりたいですの〜♪」
 まだ見ぬ幸せと、そしてこうして皆と一緒に過ごせる時間に、ティアイエルはうっとりと幸せな笑みを浮かべるのだった。

●花の集い
 花がすぐに枯れてしまわないよう、霧吹きでしゅっしゅと煎じ薬を吹きかけて。トルコ桔梗のカップ状に開く花びらは繊細だから、天紫蝶・リゼンは大切に大切に、紫と白とを組み合わせてコサージュを作った。
「トルコ桔梗は花言葉がいいんだよね〜」
 永遠の友情・愛情。口に出して言うのが照れてしまう言葉でも、花に託せば素直に渡せる。
「リゼンおねーちゃん、お花作り、おわった〜?」
「うん、今終わった処だけど」
「じゃあ手伝ってなの〜」
 アルエットに連れられて行った処では、片腕に花を抱えた笑顔の約束・ソレイユが首を長くして待っていた。
「ありがとうですの〜。では、こんな感じに腕を伸ばして……反対の腕はこう曲げて……」
「?」
 事情も分からずポーズをとるリゼンに、ソレイユはどんどん花を挿してゆく。
「な、な、な、なになにっ?」
「リゼンおねーちゃん、きれい〜♪ アルエット知ってる〜。こういうのってぼんさいって言うんだよね〜」
「同じ東方から伝わったものですけれど、少々違いますの。これは生け花ですのよ」
 リゼンの上は花盛り。
「東方には楽しいアレンジメントがあるんですね!」
 素直に感心しながら、森の医術士見習い・シュシュは小さ目の薔薇を手に取る。
 何を作ろうか。ブーケ、コサージュ、リース……どれも魅力的だけど。悩んだ末にシュシュは髪飾りを作り出した。
 白、ベビーピンク、クリーム。淡い色合いの薔薇を束ねた中に、森で採取した木の実も入れて。自然の優しさたっぷりに作られた髪飾りの仕上げは手編みレースの白いリボン。
「あ、それ可愛いねー♪ 出来たならひと休憩してチェリーパイを食べない?」
 パイを切り分けて誘う煌く銀砂・グラリアの服が、急にひしっと重くなる。何かと思えば、そこには服の裾を握り、じいっと見上げるアルエット。
「たくさん買ってきたからいっしょに食べよ」
「うんっ」
 食べ物を前にしたお子ちゃまは良い返事。
「グラリアおねーちゃんはもうお花作ったの?」
「あたしのはこれ」
 髪留めに小さな花を飾り付けた髪飾りを見せると、グラリアはアルエットの髪にそれを当て。
「うん、似合う似合う」
「わ〜い♪」
 花飾りとパイのどちらも喜びながら、アルエットはあむあむとパイに齧り付いた。


 流るる蒼碧と射干玉の雫・メイファは、今は亡き主の為の弔い花を選ぶ。
「アルエット様、ご一緒に花を選んでくださいますか?」
 言われたアルエットは迷いもせずに白百合を手に取った。慎ましやかに野に咲いているような花。
「お母さんの髪のお花は百合だったの……。だからこのお花が一番好き」
「そうでしたの。ではこのお花と青い花を組み合わせて作ることに致しますわ」
 竜胆と桔梗を取り合わせた花束は、華やかさを抑えたしっとりとした風情。強い香りは放たずその身のうちにそっと抱え。
 残った花とリボンでメイファは小さな花飾りを作り、アルエットに渡す。
「花を選んでくださってありがとうございます」
「にょ。ありがとうなの〜」
 はしゃぐアルエットに、花を選んでいた宵闇の黒豹・ケイが呼びかける。
「アルエットも一緒に作ってみないかい?」
「うん、作る〜」
 ケイはチューリップ程の大きさの小さな山百合の白に、黄色やオレンジの花の元気を加え。包み込むように緑の葉物をあしらって。
 アルエットは好きな花を全部入れるつもりらしく、色も種類も雑多すぎる花をわしわしと束ねる。
 自分のブーケ作りが遅れるのも気にせずに、ケイはアルエットに根気よく付き合い、時間をかけてブーケを作り上げた。仕上げに若草色のリボンを結んでアルエットにプレゼント。
「にょ? いいの? じゃあアルエットのお花、ケイおねーちゃんにあげる〜」
 これを花束と呼んで良いものか。無理矢理ひっくくった花の束を渡されたケイは、にこりと笑ってそれを抱える。
「ありがとうね」
「似合ってるの〜♪」
 喜ぶべきか、それとも……。

 アレンジメント初挑戦の微笑媛・エレアノーラは、講師に教えられながら花束作りに懸命だ。
 向日葵にカーネーション、周りにかすみ草をふんわりと。考えながら作っていると、花を束ねている左手がつりそうになる。
 少しのバランスが花束全体の印象を左右する。考え考え花の位置を調整し。出来上がりのリボンを結ぶと、ほっと息が漏れた。
「お疲れさまでした」
 笑顔でねぎらう講師に、エレアノーラは花束を指して訊いてみる。
「向日葵の花言葉って何でしょう?」
「『光輝』とか『私はあなただけを見つめる』です。花の特徴から来ているんでしょうね」
「あなただけを見つめる……」
 エレアノーラは繰り返した後、花束を抱えたまま隣でフラワーケーキを作っている朽澄楔・ティキの手元を覗き込む。
 白い紫陽花をこんもりとケーキ台に見立て。その上にアイビーの葉とミニ薔薇を苺のように飾り付け。
 ティキにとっては、花の美しさよりも、その扱いが関心の中心だ。植物知識に関することを吸収する為に参加したのだから。
 だが出来あがったものを見れば、やはりそちらに関心は移り。
「…結構美味そうにできるもんだな…」
 花びらのひらひらは、まるでクリームをパレットナイフでぺたぺたと叩いたよう。赤と緑の飾りは食欲を刺激する。
「…普通にケーキ食いたくなってきたな、誰かさんじゃないが」
 帰りにケーキを買って帰ろうか、というティキに、エレアノーラはにこにこと、賛成、と手を挙げてみせた。

●花の笑み
 仲間と一緒に参加すれば、楽しみは何倍にもなる。花を選ぶ表情も相談する声も弾み。
「リューシャはどんなのを作るの?」
 紅き剣閃・ルティスに聞かれ、軽やかに跳ねる靴音・リューシャはう〜んと頬に指をあてて考える。
「クローバーが大好きなので、それを使って何か作ろうと思うのですけれど」
 リューシャは同じテーブルの皆の手元を眺めた。
 万寿菊の絆・リツはオブジェのためのフレームを作っている。しなやかな身体からすんなり伸びた尻尾を伸ばし。その上に苔を巻き付け。
 リューシャの視線に気づくと、リツははにかんだ微笑を浮かべる。
「蜥蜴のオブジェを作ろうかと思って」
「す、すごい……大作ですね。エイルさんのは?」
「鈴蘭の花冠を作っているんですの」
 虚像の神月・エイルは鈴蘭を編んでいた手を止め、リューシャに見せる。
「花冠……いいですねー。私もご一緒していいですか? 作り方とか教えて欲しいですー」
「もちろんです〜。一緒に作りましょう。…リューシャさんとルティスさんは作ったのを何方かに差し上げる予定なのかしら?」
「好きな人に贈ることが出来たら、いいなぁ……」
 白詰草を手にリューシャは視線をふわり夢にさまよわせ。
「私は器用じゃないから、まず、あげられるものが出来るのか、が問題。エイルはこういうの上手そうよね。手伝ってくれる?」
「私でお役に立てるなら喜んで手伝いますよ〜」
「ありがと。そういうエイルは誰かにあげるの?」
「え? 私ですか……? わ、私のは一応自分用の……です……よ?」
 耳まで赤くなってエイルは花冠作りに戻った。花冠に可愛らしい白のレースをつけたベール。何時かこれをつけられる機会が訪れることを祈りつつ。
 ルティスはエイルの助けを借りながら、赤薔薇白薔薇を中心にした花束を作る。薔薇を囲むようにブローディアとベルフラワー。一番外側はアイビーで囲み。
 出来上がった花束を両腕の中に抱いてみる。大事な人への感謝を込めて……。
 リツは出来あがったフレームに色とりどりの花を挿して、蜥蜴を華やかな色彩で飾る。ボリュームが出過ぎないように小さめの花をたくさんたくさん。彩りを考えながら挿し。
「ネフェルさんは完成しました?」
 ひょいとリツに覗き込まれ、銀麗月華・ネフェルは反射的に髪飾りを両手で覆い。
「あら、秘密ですか?」
 リツににこにこと問われ、ネフェルは微苦笑を浮かべながら覆っていた両手をどける。
「どうも不器用なものだから……」
 手の下から現れたのは、白薔薇とブルーのミニ薔薇と鈴蘭で作られた涼しげな髪飾りだった。
「上品な髪飾りですね。とても素敵です」
「……ありがとう」
 自分でも出来の良さを嬉しくは思っていたのだが、それでも気恥ずかしい。リツに褒められたネフェルは頬を上気させながらポニーテイルの付け根に花飾りをつけた。
 銀の髪に爽やかな花飾り。あの人は……綺麗だと言ってくれるだろうか。
 花にさまざまな想いを込めて手を動かした後は、紅茶とスコーンとお喋りで、口もたくさん動かして。賑やかな時間はまだまだ続く……。

 どうか……教室で作られたさまざまな花飾りが、参加者とその周囲に幸せと笑顔を運びますように☆


マスター:香月深里 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
冒険活劇 戦闘 ミステリー 恋愛
ダーク ほのぼの コメディ えっち
わからない
参加者:26人
作成日:2004/07/01
得票数:ほのぼの19 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。