テフィンの誕生日 〜天空薫る温泉の里〜



<オープニング>


●天空薫る温泉の里
 陽に透ける青藤の花を咲き誇らせたような青空は穏やかに澄み渡っている。
 透きとおるような青空が時折薄ら蘇芳の色に霞んで見えるのは、赤茶けた荒野を渡る乾いた風による現象だ。水の匂いすら知らぬかのような風は荒野の細かな砂塵を舞い上げて、限りなく淡い蘇芳色の霞を作り出す。硬く乾いた赤茶の大地が連なる地平の彼方を見遣れば、澄んだ蒼穹と大地の境界に桜と菫を溶け込ませたような不思議な色合いをした砂塵の霞が揺蕩っていた。
 赤茶けた荒野の片隅には、塔のように細長い形状をした岩が幾つも立ち並ぶ奇妙な光景がある。
 陽光の加減で薔薇色にも赤銅色にも見えるその岩は、ひとつひとつが見上げる程に大きなもので、遥か昔にこの地にあった巨大な岩盤が長い年月の間に風に削られて出来たものだとも、神々がまるで遊戯の駒を並べるようにして何処かから岩を運んできたのだとも言われている。無論――後者は辺りを流離う遊牧民達がよく口にする他愛ない冗談のひとつなのだけれど。
 けれど、風の気紛れにしろ神々の戯れにしろ、ひとの手で作り出せぬ光景であることは確か。
 天頂に陽がかかれば鮮麗な薔薇色を帯び、地平に沈みゆく黄昏の光を受けては赤銅色と葡萄色の深い陰影を生み出す巨大岩が林立する光景は圧巻で、恐らくひとは自分達の手の及ばぬ自然の絶景には畏怖を覚えずにはいられないのだろう。神々がこの地に岩を並べた――というのが冗談交じりの言い伝えであるにも関わらず、この地で一番大きな岩の頂上には、岩そのものを削り出した神殿が設えられていた。
 林立する岩々のほぼ中央にあり辺りの光景を見渡せる場所だというのが、その岩が神殿として選ばれた理由のひとつ。そしてもうひとつの理由が――。

●テフィンの誕生日
「温泉ですの」
 苺の炭酸水で割った白葡萄酒をかき混ぜながら、藍深き霊査士・テフィン(a90155)は酒場に居合わせた冒険者達にそう語った。神殿を持つその巨岩の頂からは、数ヶ月に一度の割合で間欠泉が噴き出すのだという。数多の巨岩が立ち並ぶその地で、この巨岩だけに――だ。
「辺りの絶景を一望できる場所に噴き出す温泉ゆえに造られた神殿ですから……神殿といっても温泉を楽しむための造りになっていますの。塔のような岩の天辺を抉って……そう、一番近い形を言うなら……円形劇場のような、形?」
 言いながら微かに首を傾げ、テフィンはもう少し詳しい言葉を連ねていく。
 要は塔のような岩の頂をすり鉢状に削り、内側を階段状に刻んでいるということらしい。中央には間欠泉の噴出孔があり、噴き出した湯をすり鉢状になった神殿内部に溜められるようになっているということだ。この地を訪れるひとびとは階段状に刻まれた岩に腰掛け温泉に浸かり、透きとおる蒼穹や風と砂塵の生み出す霞、そして林立する巨岩が織り成す不思議な光景を楽しむのだとか。
「間欠泉が噴き出すのは決まって太陽が天頂に差し掛かった頃。一度天にまで届くかのように高く噴き上げて、その後は夕刻まで静かに泉が湧くようにゆっくり噴き出して来るのですって。神殿からは少しずつ外へ湯を流せるようになっているそうですから、神殿内の湯は常に一定の量で保たれるようになっているという……話」
 大地の奥深く眠れる地の恵みが天空近くまで噴き上がる不思議な日。
 もし良ければ御一緒しません? と楽しげな光を瞳に湛えたテフィンが誘いを紡ぐ。
 数ヶ月に一度めぐってくるというその恵みの日が近いのだ。
「荒野にいらっしゃる遊牧民の方々には、その恵みの日に葡萄酒を捧げるという慣わしがあるそうですの。その時一番近い場所に居る部族の方が担当されるのだそうですけれど……今回は遊牧地の関係でどの部族の方も『その日』に間に合わないらしくて、冒険者様方にそれをお願いできないかというお話しがありましたの」
 葡萄酒を捧げるといっても何か厳格な儀式があるわけではなく、温泉に白葡萄酒を混ぜ、薫り立ちのぼる天と湯が溢れ滴る地に恵みの象徴のひとつである葡萄酒を還す――という名目でワイン風呂を楽しむ、ということなのだが。
「……巨岩の頂にある神殿まで至るのが面倒ですの。塔のような岩の表面に刻まれた長い螺旋階段を登っていくのですけれど、敬虔な気持ちで赴かれる遊牧民の方々だからこそ登れる場所で、一般の方々に『ちょっと行ってきて』と気軽に頼める場所ではないのですって」
 だが冒険者ならそのような階段を登るのも容易いこと。
 皆で一本ずつ葡萄酒のボトルを持って巨岩の頂へ向かい、葡萄酒を捧げてワイン風呂を満喫するひとときはきっと楽しいものになるはず、とテフィンは声を弾ませた。
「折角岩そのものが美しい色をしていますから、捧げる葡萄酒は白で。けれど呑んで楽しむ分には赤も白もロゼも持って行くつもりですの。林檎やオレンジをその場で絞って呑むのも良いと思いますし、柘榴のコーディアルと冷たい炭酸水を用意するのも素敵」
 春の緑を湛えた菜の花と蜂蜜を塗って炙った七面鳥のキッシュ、からりと揚げた鶏と新鮮な玉葱のオレンジマリネ、白葡萄酒でふんわり蒸しあげたムール貝をバジルたっぷりのオリーブオイルに漬けたものなど、摘みの類も確り運んでいくつもりなのが温泉も酒も料理も好きな彼女らしいといえば彼女らしい。
 流石に当日ではないが、誕生日に程近いこの恵みの日を――テフィンはテフィンなりに満喫する気であった。


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参加者
NPC:藍深き霊査士・テフィン(a90155)



<リプレイ>

●深緋
 咲き初める勿忘草を透かし見るような蒼穹に、手が届いてしまいそう。
 凄いなと零れた声は、荒野に聳え立つ巨岩の頂を擂鉢状にくりぬき造られた、まるで円形劇場の様な神殿の内に深く反響していく。だが足元からは別の震動が伝わってきた。
 固唾を呑んで見守っていると、中央に佇む岩柱の頂から勢いよく間欠泉が噴き上がる。
 蒼穹を貫かんと迸った湯柱は、天頂に輝く太陽の光を反射しながら温かな雨となって降り注いだ。
「実際に見るとやはり違うよなぁ」
「壮観ですよね!」
 慈雨と呼ぶには些か強すぎるそれに感嘆しつつ料理を庇うシュウとボギーの傍で、グレイが早速葡萄酒の栓を抜く。大きめのボトルから勢いよく注げば、既に膝辺りまで溜まり始めた湯から温かな酒香が立ちのぼった。
 呑む分のもホットワインにならないかなと呟けば、冬は外気が冷たすぎますからこれ位の方が呑み頃温度に調え易いですよとグレイが返す。成る程ねと破顔して、シュウは乾杯の音頭を取った。
「今年もテフィンにとって素敵な一年であると共に、皆でその素敵な一年を共有出来る喜びを祝って、――乾杯!」
「ありがとうございますの。命の喜びを分かち合えるのが、とても、幸せ」
 杯を掲げれば藍深き霊査士・テフィン(a90155)が嬉しげに声を弾ませた。
 二日違いの誕生日を祝いあうグレイとテフィンの杯に揺れるのは、彼女と同じ二十五年の時を経た葡萄酒だ。私は七つ年上ですからとグレイは更に七年物の葡萄酒を開け、これでどちらも同じ年のお酒ですと杯を合わせる。虹が出たんよというカガリの声に振り仰げば、飛沫と湯煙に彩られた空には七色の光の橋が幾重にもかかっていた。
 誕生花の黄梅やカルミアを模したカクテルゼリーを差し入れ、花言葉ちょっと笑ってしもたんよと悪戯っぽく瞳を煌かせる。何せテフィンは温泉と美味しいお酒と食事とに――
「野望野心に満ち溢れた大志を抱いとるもんな♪」
「いやだ、バレバレですの!?」
 驚いた様に瞳を瞠る彼女にほんまはストックも作りたかったんやけどとカガリが笑うから、紫羅欄花なら此方にと口元を綻ばせ、ヒヅキは紫水晶の小花揺れる簪をそっとテフィンの髪に挿し入れる。
 紫羅欄花――つまりストックの花。
 貴女が貴女らしくいられますようと言祝げば、私らしい楽しみにまたお付き合い下さいます? と笑み返されたから、乾いた荒野に溢るる大地の恵みに瞳を細めた。
 こんな場所へ来られることもきっと、冒険者への御褒美のひとつ。
「だーれだ?」
「課題が続いてらっしゃる方?」
 背後から忍び寄って目隠しすればさくっと正体を看破され、ファリアスはぶはっと噴き出した。
 誕生日おめでとうございますと言いつつ年上かぁと呟き鼻を摘まれた彼の様子にイーグルも噴き出しながら、祝意と感謝を篭めて仄かに桜が香るソープをテフィンへ贈る。
 彼女に誘われ赴いた地で恋人と想いを深めたように、彼女からも愛を貰ったと思うから。
 仰ぎ見る大空みたいな心を持つ彼女に、沢山の幸せが訪れるよう。
 願いを乗せて辺りに葡萄酒を振りまけば、柔らかに温められた酒香が立ち上る。
 大地に抱かれてるみたいだと笑い合い、恋人達は戯れのように抱きしめ合った。
 場所こそ違えど暖かに満ちていく湯に象徴される雰囲気は同じ。
 おめでとうございますと彼女を言祝ぐ気持ちも変わらなくて、変わらないままでも良いことはあるんだなとクローは淡く葡萄酒香る湯に身を沈めて空を仰ぐ。
 蒼穹を潤すように噴き上がる湯を眺めれば心までもが晴れやかに澄み渡る。
 お互いの弓束巻く時間が縮まったみたいと報告すれば、御二人で空と大地の狭間を何処までも行けるようと微笑まれたから、うんと笑みを咲かせてグリュエルは白葡萄酒を振りまいた。
 砂塵の匂いに水と葡萄酒の香を乗せて、荒野の空を渡る風は何処までも翔けていく。
 それはきっと、彼女も同じ。

●蘇芳
 言祝ぎと共に贈ったのは木天蓼を漬け込んだ果実酒だ。
 テフィンは世界に焦がれる心を持った鳥みたいだと思うから、今年も『また旅』ができるよう。
 喜んでた? と訊ねるアデイラに抱きしめられて、凄くねと笑ってハルトは彼女の背に腕を回す。
 乾杯と鳴らした杯には柔らかな波紋が広がって、優しい波に満たされていく様な心地になった。
 誰もが何処かで繋がって、互いに支え合っていて。
 その結びつきを改めて意識すれば、心は淡やかに光る絆で織り成された紗に包まれていく。
「ね、祝いたい人がいるって良いことだよね」
 暖かな心地で囁けば、凄く幸せやと思うんよと頬に温もりを寄せられた。
 深い碧を湛えたボトルから、淡い陽射しを溶かし込んだような白葡萄酒を注ぐ。
 足元に寄せてくる湯からはたちまち華やかな葡萄酒の香が立ち上り、気持ちよさそうと顔を綻ばせたミレイナは、巨岩の頂という高所に怯えた様子のエルスの手を取り温かな湯に満ちた神殿の中へと降りていった。
 心地好く薫る湯に並んで浸かればすぐにエルスの機嫌も上向いたから、二人は淡い蘇芳の霞がかかる空へ鮮やかな薔薇色をした柘榴コーディアルの杯を掲げて乾杯する。卵と菜の花の色合いが綺麗なキッシュを頬張れば菜の花のほろ苦さと蜂蜜を塗って炙った七面鳥の甘さが楽しくて、乙女達は顔を見合わせ笑い合った。
 瑞々しい果実を搾れば、湯から立ち上る葡萄酒の香と果実の香が溶けひときわ甘やかに香る。
 以前は友達として、けれど今は恋人として彼の隣に在れるのが何だか不思議で、フルーレットはどぎまぎしながら林檎果汁を選び取った。オレンジ果汁を手にしたゼパルパがどんな温泉が好きなんだと訊いてくるけれど、思えば温泉に出かけるのは初めてと言ってもいいくらい。
「あんまりこういうの知る機会が無かったんだ。これから沢山一緒に知っていけたら……いいなぁ」
「そうだな、これから沢山の思い出を共有していこう」
 言葉を紡ぐうち少女の頬がみるみる薔薇色に染まっていったから、ゼパルパは相好を崩して空を振り仰いだ。二人共に歩む未来を思えば胸の裡が明るい光に満ちていく。
 硝子杯を合わせれば、杯の葡萄酒と同じように紅の瞳が揺らいだ気がした。
 ならば自分の瞳も同じかもしれないと気付いたから、レインは募る寂しさを見せぬよう胸に感謝を満たして微笑んだ。強く在ろうとする彼女の心に潜む優しさと脆さを知る故に隠された想いすら察してしまえるけれど、気付かぬ振りでビャクヤは必ず帰るよと約束を紡ぐ。
 秘めた想いを抱えているのは自分も同じ。
 暫しの別れを前に、いつでも愛してるのを忘れないでとレインは弟の頬に唇を寄せた。
「ずっと想って待ってるから……いってらっしゃい」
「……いってきます」
 頬に触れた温もりを胸に留めるよう瞳を伏せて、ビャクヤは吐息めいた囁きを返す。
 甘やかに香る湯煙に透かし見る天使の翼は、羽毛の隅々まで細かな水滴を含み柔らかに煌いた。
 羽繕いを手伝ってみたくてスノーに背を向けて貰えば翼だけでなく肌までもがほんのり輝くようで、思わずヨルは息を呑む。伸ばした指先に触れる羽の柔らかさは胸の裡すらも優しく擽って、意識の芯を甘く痺れさせた。
 珠になって伝い落ちる水滴を追う様に、白い肌を唇で辿って。
 背を辿る感触に華奢な肢体を仰け反らせ、唇から零れそうになる嬌声を堪えてスノーは後ろ手に細い手首をきゅっと掴んだ。息を詰まらせたまま振り返れば我に返った様子のヨルがたちまち淡い淡い葡萄酒色に染まる。抱き寄せれば腕に縋られて、きつくきつく目蓋を閉じた。

●薔薇
 繊細な花葉模様を綴るレースを蒼穹に透かし、とても綺麗とテフィンが顔を綻ばせた。
 嬉しげに礼を紡ぐ彼女に二人で選んだ贈り物だと語り、シーナはちらりとエフェメラを見遣る。
「選ぶ時になー、俺が一生懸命になりすぎて焼餅妬かれたりしてなー」
「や、妬いてなんかいないっ!」
 頬に朱を上らせ彼を肘で突付けば「でもちょっとくらいなら、妬くのも楽しくありません?」とテフィンが悪戯っぽく笑って言ったから、エフェメラも釣られて笑みを零した。俺達が結婚する時にはとシーナが伝えた言葉には、私からも是非と言い添えて。
 そう出来たら素敵と声を弾ませた彼女に発泡米酒を酌んで、気泡弾ける杯を三人で合わせた。
 地の恵み薫る湯には澄んだ空が映り込む。
 振り仰けば荒野の風が吹き、棚引く砂煙が蒼穹を淡やかな薔薇色に霞ませた。
 何て贅沢と顔を見合わせ笑みを交わし、シファとラティメリアは機を計ってテフィンに祝福を向ける。
「誕生日おめでとう! テフィンさんにとって、恵みに満ちた幸せな日々であります様に」
 殻を剥く音が楽しいからとシファが差し入れたピスタチオに手先で何かを弄るのが好きな彼女はきゃあと瞳を輝かせ、ラティメリアがチーズを盛り合わせた小舟の器を浮かべれば、チーズも綺麗な器も好きな彼女は嬉しげに器の舟縁に指を滑らせた。
「去年は結局誘えなかったから、今年こそ誘えるようになるといいなぁ」
 約束の延長を口にすれば、楽しみにしてますのと笑みが返る。
 ちょっとどきどきなのですよーとこっそり彼女の手荷物に近寄れば、
「……アッシュ様?」
「んぎゃっ!?」
 当のテフィンに声を掛けられた。
 おめでとですっと手荷物に忍ばせるはずだった贈り物を差し出して、アッシュは慌ててその場から逃げていく。素肌にバスタオル一枚巻いただけのおねーさんには何だかやっぱり近寄り難い。
「おっやぶーん! 誕生日おめでとなんだぞっ」
 その辺り気にならないらしいクリスが満面の笑みと共に差し出したのは、頭にちょこんと乗った手拭いが愛らしい温泉仕様のアイガモぬいぐるみ。可愛いとはしゃいだ彼女が掌のアイガモを空に掲げれば手拭いが風に揺れ、気持ちよさそーだなと満足気にクリスも頷いた。
 時折覗くお転婆振りも彼女の本質だと思うから、ウィスキーをローズヒップティーで割ったカクテルを渡しながらリラはふふと笑みを零す。これ入れると綺麗だよとマーガレットが杯に落とすのは、山から切り出してきた氷柱のかけら。華やかな香りと氷の煌きに、テフィンは「幸せ」と瞳を細めた。
 もう少しで私も二十歳なんだけどなーとマーガレットが搾った果汁も取り混ぜ、この地の温泉の如く湧き上がる幸せを沢山感じられるよう、幸せが一杯降るようにと杯を合わせる。
「テフィン、お誕生日おめでとう。いつも綺麗なところを教えてくれてありがとう」
「いつもどうやってこういう素敵な場所を見つけるんです?」
 破顔した彼女が「……本能?」と応えたから、思いきり声をあげて笑い合った。
 折角だから今日は白葡萄酒を杯に注ぐ。
 彼女が選び取ったバジルの香るムール貝を摘み、昨日までの一年は如何だったと訊けば「たくさん心が震えたけれど、一番大切なものは揺るがなかった」と返された。
 昨日までの一年と今日からの一年にと乾杯し、お酒を頂くには超素敵環境ですと瞳を細め「最高の肴もあるし?」と藍の瞳を覗き込む。瞳を瞬かせたテフィンをメロスは飛びきりの笑顔で抱き寄せた。
「キミの事さ」
「……もう!」
 誰かの直伝撫でぎゅーで抱きしめれば強く抱き返されて。
 貴女がとても、とても好きよと囁かれ、うんと小さく頷いた。

●葡萄
 頂の端から見渡せば、赤茶けた荒野に幾つも林立する巨大岩が薔薇色や葡萄色した深い陰影を描き出す世界が一望できる。
 圧倒されるような光景と湯の香にほろ酔い気分になりながら、アーケィはハーブソルトを塗し香ばしく炙った猪肉を差し入れた。シルヴィアと楽しげに頬をむにむにしあっていたテフィンが「美味しそう」と顔を輝かせたから、猪肉は『肌膚を補い、五臓を益す』んだってと薀蓄も披露する。
「今年もまたテフィンさんの命の輝きに磨きがかかりますように〜」
「ふふ、嬉しい」
 猪に合わせ赤葡萄酒で盛大に乾杯をした。
 美味しい料理もたらふく食べて幸せと吐息を零し、シルヴィアも烏賊と玉葱とチーズを焼いた摘みを差し入れ、おめでとうと再び彼女の頬をむにっと摘む。お返しですのとむにむにし返すテフィンの姿に小さくモニカは噴き出した。湯浴み中の彼女は色っぽかろうと思っていたけど、そうでもない感じ。
 今までの分もと目一杯言祝いで、はにかみながら言を継ぐ。
「テフィンの語る世界はとてもきらきらしてて、そして自分で見に行った世界も本当にきらきらしてて、大好きなんさ」
 これからも沢山素敵な物と出逢って教えてくれると嬉しいと口の端を擡げれば、勿論、と幸せ一杯の笑みが返った。
 天に一番近い場所には神が降りるという話が付き物だ。
「今日の女神はテフィンさん、という事になるのかしら」
「きゃー!?」
 こういう時の照れ方は誰かにそっくりと思いつつ、テルミエールは女神様に供物ですとシャーベットを差し出した。洋梨と林檎に柚子のワインコンポートを凍らせた物とくれば喜ばれないはずがない。
 次いでテフィンは林檎のシブーストに手を伸ばし、再び「きゃー!」と声をあげた。
 だが今度の「きゃー」は、甘くて幸せ、の「きゃー」だ。
 濃厚なカスタードに潜む林檎はバターでソテーした後にキャラメルを絡めたもの。
 美味しいと至福の表情で頬へ手を遣る彼女の様子が嬉しくて、カナエも口元を綻ばせた。
 お互いがおばあさんになるまでこんな風に過ごせる友人であれれば、きっと、幸せ。
 けれど遥か彼方まで広がる空のした、楽しく笑い合える日々は永遠に続くものではない。
 ふとそれに気付いてしまったから、もっともっと思い出を重ねたいという気持ちが胸に溢れた。
 貴女のために唄を捧げるわとテフィンの手を取り、私達ずっと親友だからねとメビウスは囁く。
「来年も、再来年も、貴女の誕生日を祝ってあげる」
「……楽しみにしてる」
 傍で聴かせてと彼女は親友を抱きしめた。
 優しい唄は岩に水に響き空へと還る。地上にいるよりも近い空を仰ぎ、天地の恵みや人々の歓びと悲しみ、そして懸命に生きる命達にアスティアは想いを馳せた。
 世界に素敵なものが溢れているのは、命の営みがあるからこそ。
 そしてそれこそが、テフィンと出逢って知ったことだ。
 お誕生日おめでとうございますと紡いで、更なる言祝ぎを向ける。
「どうか幸せでありますように。これからの一年も、そして、これからもずっと」

 荒野育ちの夫直伝の山羊チーズのケーキを振舞えば、優しい命の味と彼女が口元を綻ばせる。
 そっと隣に腰を下ろし、ずっとお礼が言いたかったんですとフェアは微笑んだ。
 様々な思い出を重ねて世界を愛し、護っていこうと思えるようになったのは、きっと貴女のおかげ。
「天と、地と、その間の世界の愛し方を見せてくれて――教えてくれて、ありがとう」
 お誕生日おめでとうございます、テフィンさま。
 真直ぐ瞳を見て紡げば、こんなに嬉しいことってない、と藍の瞳に歓びが溢れた。


マスター:藍鳶カナン 紹介ページ
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作成日:2009/03/11
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