【COLORS】よりどりみどり



<オープニング>


 光の切れ目、闇の隙間、そこに浮かぶ瞳。
 その肌理細かい宍色に伝う、汗の一滴たりとも見逃すまいとでもするかのように。
 しなやかな曲線を描く、その肢体の輪郭を脳裏に焼き付けるように。
 見開かれた双眸は、本人にだけ聴こえる大きな音を立てて、唾を飲み下した。

●ドリアッドの四姉妹
「――とにかく、困るんです。うら若き乙女が住む家に覗きなんて!」
「……あー」
 いきなり冒険者達に食い入るように詰め寄ったドリアッドの少女。
 差し置かれた斜陽の霊査士・モルテは、開きかけた口をぱくぱくさせている。
「ミトン姉さんがとっかえひっかえ男の人を連れ込んでるものだから……今回の犯人は、きっと姉さんの連れ込んだ男の誰かに違いないんです!」
「失礼ね。私はいつも真剣に一人の男と付き合ってるわよ」
 少女が現れたテーブルから、更に三人のドリアッドの女性が立ち上がった。
 その内の一人が、心外だとばかりに少女を睨みつけると、フンッとふんぞり返る。
「続かないだけよねぇ」
 語尾に色香を漂わせる次女・ナン。
「今の彼氏は何してる人だっけ〜?」
 ほえっと無邪気な四女・ペイオース。
「他の女のヒモ」
 ぶっきらぼうに答える長女・ミトン。
「……ろくでもない」
 そして深く深くため息をつく三女・シャリオ。彼女達姉妹が今回の依頼者だった。
 愛多き長女は、自身が二股をかけたりはしないが、相手一人一人との交際期間が短い上に途切れることがない。
「そういうシャリオのカレシは、あんたに似て堅物でつまらなそうだしぃ」
「彼は将来有望な画家なんですから、変なコトしないでくださいね!」
「とてもそんな大層なものとは思えないわ、私には」
「そ、そんなことないです!」
 姉の乱暴な物言いにむきになって反論する三女。その態度が、彼女の胸の内を物語っている。実際のところ、パトロンとなっているのは三女本人だけだった。
「でも、最近アトリエに篭りっきりで、あんまり会えないのがね……」
 創作活動がはかどっているようなのは喜ばしいのだが、ちょっと寂しい。
 ごく自然に惚気る姿に、呆れる長女だった。
「……いつもペイオースが遊んでる悪ガキどもっていう線も十分ありうるわよね」
「え〜。みんなそんなことしないよ〜」
「あの年頃に『何かをしない』なんてこと、無理に決まってるの」
 抗議もむなしく一蹴され、膨れっ面になる四女。
 彼女のボーイフレンド。青年になりきれない少年達は、確かに悪戯と犯罪が紙一重な面がある。それは彼女にも言えることなのだが……。
「あたしは別に見られても構わないけどぉ。あたしの美しい体を見たい気持ち……分かるわぁ。健康な男なら仕方ないわよねぇ」
 明後日の方向を見ながら、次女はうっとりとしている。
「ナンもそれがなければね」
「男の人にもモテるのにね〜」
 いつもの次女の横には大概、しなだれる女性の姿がある。本人の意向に反して、同性に縁が深いようだ。

 喧々囂々。
 まったくもって、姦しいどころの騒ぎではなかった。

 昼過ぎに始まったはずだというのに、彼女達の話が一段落した頃には、もう日が落ち始めている。
 さすがに冒険者達も、一様にぐったりとしていた。
「……終わったかね?」
 う〜んと体を伸ばすと、気だるそうにモルテは目を開く。どうやら早々に諦めて指定席へと戻っていたらしい。
「大まかな話は分かってくれたかな?」
 手間が省けたとばかりに本題を切り出した。
「しかし、覗き程度で私達が出て行く必要が?」
「実は最近、覗きとは別に、彼女達の住む町で若い女性ばかりが誘拐されている事件が起こっていてね」
 姉妹の協力で霊査を続けたところ、どうやら彼女達も誘拐犯に狙われていることが分かったというのだ。
「だから君らの仕事は、まずは彼女達を無事に守りきることだ」
 覗きはともかく、危害が加えられることは避けなければならない。
「その上で、覗き魔を捕まえること。こちらが本来の依頼だからね」
 だが、話を聞く限りでは、依頼者の三女を除いて、姉妹は覗きをほとんど気にしていないようだった。奔放なのか、無頓着なのか、自己陶酔なのか、姉妹それぞれの性格もあるようだが……
「覗き魔は証拠らしいものは何も残していない」
 さも当たり前のように言うモルテに、冒険者達は嘆息を漏らす。まあ、犯人が判っていれば苦労はないのだが。
 彼女達の屋敷は敷地も広く、取り囲むように塀がそびえ立っている。ただし、見張りがいるわけではないので、侵入は難しくはなさそうだ。
 ちなみに次女と四女は湯浴み中、三女は着替え中、長女は……月夜の寝室を、ドアや窓の隙間から覗かれていたことがあるという。当然と言えば当然なのか、とにかく彼女達が衣服を脱いだ時を狙っているようだった。
「犯人の詳細は?」
「化物の類でもなければ、もちろん冒険者でもない。戦闘面では何ら問題ないだろう」
 だからあまり無茶はしないように、とモルテは釘をさした。
「君らの聡明な判断に期待しているよ」

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参加者
美獣・ミリファ(a00259)
想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)
緑薔薇さま・エレナ(a06559)
輝夜・クウェルタ(a06683)
自称美少年女翔剣士・キーア(a08864)



<リプレイ>

●ごっこ遊び
「いらっしゃいましたー♪」
「い、いらっしゃいませ」
 屋敷を訪れた黒旋風・ミリファ(a00259)の挨拶に、ちょっと面食らって出迎えたシャリオ。玄関先に現れたのは、彼女一人だった。
「オジャマしますね?」
「ええ、どうぞ」
「いらっしゃ〜い」
 ぱたぱたと階段を降りてきたペイオースは、軽い会釈と共に冒険者達を通り過ぎて外へ出て行った。
「どちらへ?」
 振り返って見送った想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)がシャリオに尋ねる。
「さっき、庭で男友達と遊ぶと言ってました」
「そういえば……約束、守ってくれてるかい?」
「ええ」
 事前に自称美少年女翔剣士・キーア(a08864)達に言いつけられていた通り、姉妹は誰にも詳しいことは話していないという。

 リビングではミトンとナン、そして一人の優男がお茶を飲んでいた。
「いらっしゃい……その方達が?」
「ええ、私達のお友達。みんな旅の途中に寄ってくれたんです」
 しばらく百奇繚乱・クウェルタ(a06683)達が館に滞在することを告げたシャリオは、お互いの簡単な自己紹介を済ます。どうやら彼がシャリオの彼氏の絵描きのようだ。
「……ごゆっくり」
 会釈と共に、絵描きはリビングを立ち去った。
「視線が痛かったですの」
 ドリアッドの舞踏家・エレナ(a06559)はそれを敏感に感じ取っていた。
 不自然さは隠しきれていない。これはある意味、仕方のないところだ。他はともかく、クウェルタやキーアなどはいかにも物々しい出で立ちだったので。
「どこへ行かれたんですか?」
「またアトリエに向かったんだと思います」
「アトリエね……」

●出来事めいた
 館での話もそこそこに、街に出ていたラジスラヴァは、四姉妹について住民に聞き込みを行っていた。
「ああ、お嬢さん方のことか」
「両親が冒険者でな。彼女達が遊んで暮らせるくらいの財は遺しているそうだ」
 ほどなく、何人かの街の男が話を聞いてくれた。男性を惹き付ける
「ご両親は?」
「先の戦で命を落としておる」
「そうでしたか……」
 そんな境遇に同情もあるのか、姉妹への評判は特に悪いものはないようだった。

 緑髪に富む部屋の中で、彼女達は護衛するに当たっての注意事項を並べていた。
「可能な限り、四人とも一緒にいるようにしてくださいね」
「そうですね。私も出来ればそうさせたいんですが……」
「出来ればリビングに集まるようにしましょう」
「暇な時はいいけどねぇ」
「なるべく個人行動を取らないようにね」
「はいはい」
 言うだけならば簡単なのだが。はいそうですかと素直に従ってくれたならば、何も苦労はなかった。
 お茶を煎れてくるとシャリオがリビングを離れた機会に、エレナは思い切って疑問をぶつけてみた。
「皆さん、ちょっと覗きに無頓着すぎませんか?」
「別に実害がある訳じゃないしねぇ」
「でも、覗き魔が誘拐魔だという可能性だってあると思いますの」
 だから、彼女達がここまで落ち着き払っているのは、犯人に何か心当たりがあるのではないかとエレナは思っているのだ。
「なるほどぉ、エレナちゃんって頭良い〜」
「確かに、誘拐犯からは守ってくれないと困るわね」
 だが、返ってきた答えは期待外れだった。確かに怪しい点もあるが、これではまだエレナには断定はしかねる。

 その後は女性らしい世間話に花を咲かせていた一同だったが、
「ちょっと眠くなってきたかなぁ」
 うーんと唸って、ミリファが大きく伸びをする。
「お部屋を用意していますから、ご案内します」
「ああ、いいよここで」
 そう言うと、ソファーに深くもたれた。
 その豊かな胸が幾度か浮き沈みしたかと思うと、そこにはくうくうと寝息を立てるミリファがいた。

●無造作に愛しなさい
「わたくしのお付き合いしている方も女性なんですけど」
「……いや、だからぁ」
「お願いです、いろいろ教えてくださいませ」
「あたしにその気(け)はないんだってばぁ」
 何をどう勘違いされたか、クウェルタから女性同士の恋愛についての相談を持ちかけられ、ナンが困り果てていた。
 周りがどう見ていようとも、ナン本人にはその気は全くないのだから答えようがない。
 だが、捨てる神あれば拾う神あり。
 ナンにいつでも一人はくっついている取り巻き達が、クウェルタの相談に乗ってくれた。
「どっちがタチで、どっちがネコかによるわね」
「男は排除よ、排除。近寄らせちゃダメ!」
「ゆっくり囲い込んで、『あなたしかいない』と思わせるのよ!」
「自信を持って! あなたなら出来るわ!」
 ……えーと。
 とにかく、クウェルタがかなり偏った知識を植え込まれていたのは間違いない。
 そのやりとりを真横で聞いていたナンは、心底うんざりした顔をしていた。髪に咲く百合の花も、心なしか萎えて見える。
「勘弁してぇ……」

 それからも、ラジスラヴァの聞き込みを続けていた。
「誘拐団?」
 男達は顔を見合わせる。
「集団なのか?」
「確かに若い娘ばかり拐かされておるがの」
 要するに、犯人が単独犯なのか複数犯なのかも分かっていないようだ。
「拐かしの現場を見た者は誰もおらんからなぁ」
「化け物にでも襲われたとか……」
 だが、モルテの霊査が間違っていなければ、それはないはずだった。
「……そうだ、関係があるかはわからんのだが」
 日も沈み、辺りが暗闇に包まれる頃。闇に紛れるような黒装束の人影が、最近になって姿を見せるようになったという。
「黒装束……」
 あからさまに怪しい。何らかの関係があるに違いないが、それが何者なのか、ラジスラヴァには思い当たるところはなかった。

●私の秘密
 夜になって現れたミトンの彼氏には、冒険者達はあからさまに不審がられた。
「剣士……ねぇ」
 自らを剣士と名乗ったクウェルタにも、男は態度を崩さない。
 『剣士』では職業とは言えないからだ。それで食べていくには、一般的には街の衛兵、有力者の私兵などの雇われ人。そうでなければ冒険者か、あるいは賊の類ということになる。
「旅をしてると、多少の護身の術は必要でね」
 ぎこちない笑みを浮かべるキーア。
 その後、ミトンからも助け船が出されて、何とか解放された。

「やれやれ、助かったよ」
 ミトンに近付いたキーアは、気障な仕草で彼女に礼を言う。
「俺はキミに着かせて貰うからね」
「……好きにして」
「姉さん……」
「馬鹿ね」
 また新しい男が姉の毒牙にかかるのではないか、というシャリオの懸念を平然と否定すると、
「……貴方、女の子でしょう」
「――!」
 ミトンは誰にも聞こえない声で、そっとキーアに囁いた。
 勿論、驚いたのはキーアである。
「どうして……」
「わかるわよ。『匂い』で」
 フフンと鼻を鳴らすミトン。
 どうやら比喩などではなく、文字通りの意味らしい。
 その言葉にたじろいで一歩退いたキーアは、思わず確認するかのように鼻を二の腕あたりに近づける。
「変な意味じゃないわ。貴方から男の匂いがしなかっただけ」
 ミトンはくすくすと笑いながら、
「どこへ着いてきてもいいけど、邪魔はしないでね」
『何を』かは聞くなという顔をキーアに向ける。
「まいったな……」
 物分かりがいいのは助かるが、やりにくい相手を選んでしまった。などとキーアは思うのだった。

●瞳は遠くかわされて
 夜半より吹き続ける風に雲も散り、翳ることない弓月の白さが夜空に冴える。
「乙女の恥じらいをこっそり覗くなんて無粋なマネ……」
 月光に照らされた黒髪が艶々しいミリファは、屋敷の屋根の上にいた。
「例えお月サマが許してもこのボクがゼッタイに許さないんだからねっ」
「そうですよね」
 姿を見せない何者かに向けられた言葉に、屋根の反対側から夜風に揺れる金髪のラジスラヴァが顔を出した。
 初めは庭のどこかに潜んで、犯人を待ち伏せるつもりでいたラジスラヴァだったが、如何せんこの屋敷は広い。
 どうせ屋外で腰を据えて警戒するなら、ばらばらよりは二人で一緒に当たった方がより確実だ。ということで、ミリファに同席させて貰うことにした。
「何か見つかりましたか?」
「うぅん、全然」
 かぶりを振るミリファ。
 地上にいるよりましだとはいえ、死角は広い。また、不安定な足場で屋根から落ちないよう注意しながら巡回することになるため、とにかく時間もかかる。
「よいしょ……」
 そんな理由で、間違いなく監視の穴は存在するが、そこは割り切るしかなかった。
「保険はかけておくに越したことはないですから」
「――だね」
 屋根の上に犯人が現れるとしたら、屋敷に隣接している樹を伝って昇ってくる可能性が高い。窓から覗かれたり、侵入されるおそれもある。
 白煙と湯煙が上る南端まで来て下を覗き込むと、楽しげな声が聞こえてきた。
「お風呂……いいなぁ……」
 ミリファはぽつりと呟いた。

 その風呂場には、エレナの提案で順番に二人ずつ入っていた。
「本当はこんな姿、無防備極まりないんですけれど……」
「姉さん達を説得するのは難しいでしょうから」
 体を清めるのは乙女の嗜み。できれば欠かしたくないのは、エレナも同じだった。

「あら、一緒に入らないの?」
「俺は外回りをしてくるからいいよ」
 いざ誘われてみると妙に照れくさい。ミトンの誘いを断り、キーアは風呂場の周囲の警戒に当たった。

「ナン様ってスタイルいいですわね」
「ひゃあっ」
 そっと肌に触れたクウェルタの指に、ナンはびくっと体を震わす。
「やっぱり、同性でもスタイルがいい方が……」
「だからそれはもういいって」
 ぺしっと頭をはたかれた。

●あなたの隠しごと
 それは、ある意味必然的だった。
 唯一、専属の護衛を受けていなかった彼女が狙われるのは、である。

 館へ来てから、三度目の夜。
 風呂上がりに偶然、廊下を通りがかったエレナが、四女・ペイオースの部屋を覗く人影を見つけたのだ。
「覗き魔ですわ!」
 館全体に聞こえるようにと、出来る限りの大声で叫んでみたが、果たして聞こえているだろうか。
 人影は慌てて手前の部屋のドアを開き、中へ逃げ込もうとする。その直前――
「な、なんでこんな……」
 その人影は、ダンスを踊り始めた。勿論、エレナのフールダンス♪の影響である。
「一体何なの〜?」
 部屋から顔を出したペイオースは、廊下で踊る二人を見て理解に苦しんだ。効果を知らない一般人にとっては、何とも珍妙な構図だった。
「どうして……」
 駆けつけた冒険者に縛られる覗き魔を見て、沈痛な面持ちのシャリオを、踊りを止めたエレナが優しく慰めた。

 その監視の穴は、覗き魔にとって幸運でもあり、不幸でもあった。隙無く姉妹全員を護衛してしまったら、覗きを行わなかった可能性もあったからだ。
 意図したものではなかったが、結果的には覗き魔が懲りずに現れたお陰で、捕まえることが出来た。

 その騒ぎの中、堂々と玄関から現れた人影があった。取り巻きの女性一人と、彼女に負ぶわれたナンだ。だが、屋敷の門へ辿り着く前に、膝ががくっと折れて彼女はその場で倒れ込んだ。
 上空から聞こえてきた歌の音に、眠気を抑えることができなかったのだ。
 屋根の上には、勿論二人の女性の姿がある。
「どういうことなのかな……」
「話は後でゆっくり聞きましょう」
 だがその時、ラジスラヴァの視界に何か見慣れないものが入った。
「あれは……!」
 暗闇の中、黒装束に顔をも隠したその影は、ラジスラヴァの視線に敏感に反応して屋敷の外壁の上から身を翻した。
「くっ……遠い」
 目標までは投射武器でも届くか届かないかの距離がある。
「追ってください、ミリファさん!」
「分かった、先行くね!」
 ミリファのチェインシュートで撃ち出された短剣は、近くの木の太い枝に勢いよく突き刺さった。そのまま屋根の上から枝へと一直線に引き寄せられる。何とか地上へ降りることは成功したが、ミリファが考えていたようには上手くいかなかった。
「ちょっ……とおっかなかったかな」
 遅れてラジスラヴァも屋根から降りて、走り出す。
 そうまでして黒装束を追いかけたミリファ達だったが、しかしその素顔を見ることは叶わなかった。

●欲しいものは
「エンブレムブロウと刀でばっさり……どちらがお好みです?」
 縛り上げられた絵描きを見下ろして、笑みを浮かべるクウェルタ。
「え、えんぶれむぶろうって……?」
「結果は同じだろう、それは」
 キーアが呆れるように言う。それは、剣で殴りつけるか斬りつけるかの違いである。
「ひええっ」
「虐めるのはそのくらいにしておきましょう」
 エレナに諫められ、クウェルタが小さく舌を出す。

 アトリエの中からは、数多くの人物画、裸婦画が見つかった。その中には、明らかに四姉妹をモデルにしているであろうものもある。
「やっぱり、絵のためだったんだね」
 一つ一つのデッサン画を確認するミリファ。それらは素人目に見ても、下手ではないものだ。
「初めは、偶然だったんだ」
 シャリオの部屋を訪ねた時、偶然、彼女の着替えを目撃してしまった。だがその後、不調に悩んでいた筆の進みが、開眼したかのように良くなった。
 そこからはもう、衝動のままだった。
 抗うことも出来ずに、ただ描くために覗いた。
「……姉さん達、知ってたんですか?」
「知らないわよ」
 後でエレナが聞いたところ、確かにミトンとペイオースは覗き魔の正体に薄々気がついていたという。ただ、口にしなかった理由は、面倒臭いからとかそんなものだったようだが……。
 ともかく、ミトン達がしらを切り通したお陰で、エレナが危惧していた事態は避けられたようだ。
 しかし、それでもシャリオの傷は深い。
「ショックなのは分かりますわ。でも、好きだからこそ彼氏の気持ちを察してあげるべきですわ」
 その言葉は、彼女の心に届いたのだろうか。

「……それで、仲裁は出来たのかい?」
「まあ、なんとか……」
 酒場に戻った冒険者達は、モルテに出迎えられていた。
「彼は誘拐とは関係ありませんでしたし」
 エレナの気遣いもあり、シャリオも落ち着きを取り戻したようだった。絵描きも反省しているようだったから、後は彼女達でどうにかするだろう。
「問題は、誘拐騒ぎの方ですか」
 取り巻きの女性が酒か何かで深い眠りについたナンを屋敷から連れ出したのは、黒装束の手引きで駆け落ちする手筈になっていたからだった。
「コワイなぁ……」
「上手く利用されただけというようでもありましたが」
 誘拐されたのは全てナンの取り巻きだった。その理由は、ライバルを減らすためだったという。連れ出したのはその女性だったが、最終的にどこかへ拐かしたのは黒装束だった。
「黒装束か……」
 何か思うところがあるらしい。モルテはむぅと一つ唸ると、しばらく考え込む。
「何か?」
「うん、いや……誘拐については引き続き調査して貰っているから、また何かあったらよろしく頼むよ」
 改めて労いの言葉をかけると、再び考え込んだモルテは、そのまま眠りに落ちていった。


マスター:和好 紹介ページ
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