シーアの輝く琥珀糖



<オープニング>


 シーア村は、冬は一面銀世界の小さな村。近くに砂糖カエデの森があり、砂糖作りが盛んだ。
 シーア村のカエデ糖は輝くような琥珀色。それで『琥珀糖』とも呼ばれている。
 砂糖カエデの森と琥珀糖を作るシュガーシャック(砂糖小屋)は、村のシンボルとして大切にされていた。

「そのシュガーシャックは、砂糖カエデの森の中にあるんやけど」
 明朗鑑定の霊査士・ララン(a90125)は、集まった冒険者達を見回した。
「最近、この砂糖カエデの森に、変異した熊が出没するようになったんや」
「なるほど……では、熊退治が今回の依頼ですか」
 放浪する地図士・ネイネージュ(a90191)の言葉に、ラランが頷く。
「大きさは普通の熊と変わらんのやけど、後ろ足で立っとるさかい、結構でかく見えるかなぁ。で、前足が4本に増えとる」
 この4本の前足で周囲を薙ぎ払い、又は集中攻撃で1体に大ダメージを与えるという。
「今回は変異動物1頭が相手やけど、雪の対策もしとかんと意外に苦戦するかもなぁ」
 カエデ糖作りは雪解け間近の早春に始まる。故に、人の入らない今の季節の森はかなり雪深い。
 地形的には、シュガーシャック周辺が開けている分、雪深い森の中より戦い易いだろうか。
「砂糖カエデの森もシュガーシャックも村の宝物や。両方とも出来るだけ傷つけんように頼むわな」
 ちなみに、熊は甘い物が好きらしい。そこを上手く利用すれば、戦う場所も選べそうだ。
「変異熊を何とか出来たら、カエデ糖を使ってお菓子作りとかどうやろか? ランララ聖花祭も近いし……村長さん家の台所を貸してくれるそうやで」
 オーソドックスなシロップだけでなく、少し煮詰めてクリーム状になったメープルバターや水分を飛ばしたパウダータイプのメープルシュガーもあるそうだ。
「シーア村の琥珀糖やったら、きっと美味しいお菓子が作れるんやないかな」
「メープルスイーツですか……お菓子作りも楽しそうですが、メープルシュガーはお茶に入れても美味なんですよね」
 そう呟いて、藤色の髪のエンジェルは依頼の後に楽しみが出来たと微笑みを浮かべたのだった。


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参加者
琥珀の狐月・ミルッヒ(a10018)
赤色十字を纏う医術師・エストリア(a26560)
月のラメント・レム(a35189)
木立を揺らす風・ソナ(a37045)
幻紫水の青薔薇・マリンローズ(a37119)
風に流れる詩・フィーリア(a64073)
蒼嵐の・アス(a70540)
氷嵐・レノイ(a74024)
NPC:放浪する地図士・ネイネージュ(a90191)



<リプレイ>

 外は一面の銀世界。朝から快晴で、雪の照り返しが眩しい程。
「メープル死守、頑張りましょうっ!」
「うん。悪い熊さんにはおやすみしてもらう!」
 シーア村の宝を護るべく、ベテランの月のラメント・レム(a35189)も初依頼の氷嵐・レノイ(a74024)もやる気満々だ。
「そうね。最近は暗い話題も多いから、村の人達が少しでも安心出来るようにしないとね」
 やはり同意した赤色十字を纏う医術師・エストリア(a26560)は、やや困惑顔だろうか。
「折角の琥珀糖の収穫前に変異熊が現れるなんて……」
 砂糖カエデの森はなかなか広く、外から生き物の気配は窺えない。でも、異形の熊は確実にいるのだ。
「変異しなければ森と共存出来たのに……」
 風に流れる詩・フィーリア(a64073)の呟きは溜息交じりだった。ドリアッドの彼女は、たとえ元は野生でも森を傷付けるものが許せないのだろう。
「では、被害が出る前に何とかしましょう」
 静かに微笑む幻紫水の青薔薇・マリンローズ(a37119)。
「そして、ランララ聖花祭に向けて美味しいお菓子を作りたいと思います」
「確かに美味しいお菓子が作れそうやね。労働意欲も湧くってもんや」
 付け加えられた楽しげな言葉に、蒼嵐・アス(a70540)もカラリと笑う。
「皆メープル大好きだもん。変異熊になんか渡さないよ〜!」
 琥珀の狐月・ミルッヒ(a10018)の快活な声が冬の青空に響く。
「宜しかったら、どうぞ」
「ありがとうございます」
 笑顔の木立を揺らす風・ソナ(a37045)が差し出したマフラーを、しっかり着膨れた放浪する地図士・ネイネージュ(a90191)も笑顔で受け取った。
 雪深い中に立てば寒さもひとしおで、皆支度に余念がない。靴に滑り止めの縄を巻く者、雪上仕様のブーツを履く者、マントを羽織る者……かんじきも準備している。
 特にソナは鎧の隙間に布を詰め、装備の反射はマントで覆う念の入れよう。まずシュガーシャックまで変異熊に気付かれないように……尤も得物は突撃槍だし、仲間の武器も大きな物ばかり。速やかに移動すれば大丈夫だろうか?
「召喚獣は待機ですね?」
「そのつもりですが」
 そんな彼の確認にレムは頷いたが、アスとレノイは首を傾げる。
「グランスティードに、荷物乗せて行こうかて思ってたんやけど」
「うん、俺も」
 確かに村で除雪道具も借りているし、誘き寄せの菓子や防寒の装備もある。それなりの量だが……召喚獣のグランスティードは荷物のみは運べない。騎乗すればかなり目立つ訳で、結局、召喚獣は待機させ分担で荷物を運ぶ事に。
 冒険者達は、まずシュガーシャックを目指して砂糖カエデの森に足を踏み入れた。

 森に入ったからには、いつ変異熊と遭遇するか知れない。戦闘の余波が砂糖カエデに及ぶのを避けたい冒険者達は、一路シュガーシャックへ急いだ。
 幸いシュガーシャックまでの道のりは雪かきの跡が残っており、雪をかき分けずに済みそうだが、フィーリアとレノイが聞いた話では、年明けて変異熊が出現してからは森の手入れもままならず。
「ついでに除雪して貰えるなら助かるって、言ってたわね」
 思わず嘆息するエストリア。
 唐突に開けた空き地に、こぢんまりとした丸太小屋。その周辺は、確かに戦闘に不自由ない空間があったが……一面の積雪は、一歩足を踏み出せばズッポリ填る程。
「では迅速に、ですね」
 やはり苦笑を浮かべるマリンローズの言葉に、冒険者達が動き出す。
「よろしくね、土塊さん」
 まずレノイとアス、フィーリアが土塊の下僕でせっせと人海戦術。
「小屋の周辺に、ですか?」
「そうだよー。雪の壁を作るんだって」
 ミルッヒ達が掘り返した雪を、ネイネージュは小屋の周りに集めた。運搬はエストリアが用意したスノーダンプが重宝したようだ。
「やっぱりありましたね」
 ソナはシュガーシャックの道具箱からシャベルを拝借し、土塊の下僕達に交じって小屋の周囲に雪の壁を積み上げていく。
 雪かきの跡をレムが踏み均せば、除雪完了。土塊の下僕でかなり人手を増やした分、作業も早く終わる。
 後は小屋や雪の壁に冒険者達が隠れ、変異熊を待つばかり。少し離れた所に菓子を置き、更にフィーリアが残りの蜂蜜を掛けた土塊の下僕をうろつかせる。
「色々置きましたけど……来ますかね?」
「多分きっと大丈夫! プリンはグドンにも効いたし!」
 雪上に並べられた菓子を遠目に、ソナがポソリ。耳聡く聞き付けたのはメロンとプリンを持参したミルッヒだ。
「チョコケーキなら、熊もきっと好きだよね」
 他にもケーキやらタルトやら焼き菓子やら、蜂蜜の壺まで並んでいる。レノイの言う通り、甘い物好きには堪らないだろうが。
「……来ないわね」
 眉を顰めるエストリア。やがて土塊の下僕も土に戻ってしまったが、熊の気配はない。
「音沙汰なしですね」
 雪の壁に隠れていたマリンローズは小首を傾げた。
「風向きの所為でしょうか……」
 ネイネージュの呟きに、顔を見合わせる冒険者達。
 確かに今の風は森の奥から吹いており、こちらまで甘い香りが漂ってくる。風上の森の奥にいるだろう熊に匂いが届いてないのは明白だ。
「じゃあ、行ってくるさかい」
 風向きが変わるのを待つよりも、と菓子袋を背負いグランスティードに跨るアス。同じく蜂蜜の壺を小脇に召喚獣に乗るレノイに、レムが君を守ると誓うを掛ける。フィーリアは鎧聖降臨を掛けた。
 狂戦士2人を見送り、残りの7人は再び身を潜めた。

「……っ!?」
 レムが身を竦めたのは、それから暫くして――理由を察したエストリアが、彼女に癒しの水滴を施す。
「大丈夫?」
「ええ……」
 レムが痛みを覚えたという事は……フィーリアがパイクを構えるソナに鎧聖降臨を掛け、マリンローズが黒炎を身に纏う。
「……時間切れですか」
 3度目の痛みは唐突に消えた。狂戦士達を護っていたアビリティが切れたのだろう。
 顔を顰めながら、レムは護りの天使達を使う。
「来たよ!」
 遠眼鏡を覗いていたミルッヒが小屋の陰から飛び出す。果たして、森の奥から殺気立った気配が迫る。
 ウオォォンッ!
 シュガーシャックを護るように迎え立つ冒険者達の前に、変異熊を引き連れたアスとレノイが駆け込んで来た。

 変異熊が森の奥に引籠っていたのは、寧ろ幸運だっただろう。お陰で冒険者達は万全の態勢で戦闘に臨めたのだから。
 ウオォォンッ!
 新手に構わず、変異熊は4本の前足でレノイに打ち掛かる。
「くっ!」
 振り向き様に避けようとしたが、間に合わない。重い攻撃に少年の身体が震える。
「うちが相手やゆぅとるやろ!」
 破壊衝動に身を任せたアスの叫びが響き渡る。負傷の具合からして、レノイの方に攻撃が偏っているようだ。
「しっかりして。すぐ回復するわ!」
 静謐の祈りを使おうとしたエストリアだが、その効果はバッドステータスを払うのみ。癒しの水滴を使うにもまだ遠く、やむを得ず鎧聖降臨を掛け直す。代わって、レムの癒しの聖女がレノイに優しく接吻した。
 フィーリアもアスに2度目の鎧聖光臨を施す。
「十分引き寄せてからお願いします!」
「了解!」
 ソナの言葉に頷くミルッヒだが、放った粘り蜘蛛糸は振り払われる。
 変異熊は見た目通りのパワーファイターらしい。力自慢や素早い攻撃にはそれなりに強い様子。
 ソナのサンダークラッシュは太い前足に阻まれ、ネイネージュの鮫牙の矢も出血に至らない。
 オォォォンッ!
 だが、マリンローズが撃った黒の炎蛇が弾けた時、変異熊は明らかに苦悶の叫び声を上げた。
「効いています……フィーリアさん!」
「はい!」
 息を合わせたフィーリアの緑の縛撃が変異熊を縛り上げ、マリンローズのブラックフレイムが毛皮を焦がす。続いてミルッヒのバッドラックシュートが不幸の刻印を刻み、ネイネージュのホーミングアローがあり得ぬ軌道を描いて突き刺さった。
 ウオォォンッ!
 何とか木の葉の鎖を振り払おうとする変異熊。術士達の方へ向かおうともがくが、前衛3人はそれさえも許さない。
「今だ!」
「これ以上は行かさへんで!」
 デストロイブレードを叩き付けるレノイ。アスのパワーブレードとソナのサンダークラッシュも次々と浴びせられる。
「申し訳ありませんが……退治されて貰いましょう」
 ウオォォンッ!
 尚も戦意の衰えない変異熊だが、拘束された身に前衛の壁は厚く後方の攻撃は容赦ない。回復役のレムとエストリアにもまだ余裕がある。
 冒険者の勝利は時間の問題だった。

 雪が蹴散らされた戦闘の跡は、黒々と地面が覗く程。だが、戦う場所に注意していたので、砂糖カエデにもシュガーシャックにも目立った被害はなかった。
 大熊の遺骸の移動は難しい。それで、マリンローズが弔いの祈りを捧げた後、粛々とその場に埋葬する。
 シュガーシャック周辺の雪の壁を片付ければ、いよいよお楽しみの時間。
 雪まみれになって戻ってきた冒険者達を、シーア村の村長は笑顔で迎えた。
「お土産、俺は琥珀糖そのままがいいなぁ」
「では、家内が作った飴を差し上げましょう」
「わぁ、綺麗だし美味しそうだね♪」
 村長から小瓶一杯の飴玉を貰い、レノイは大喜び。
 他の面々は村長宅の台所を借り、早速お菓子作りを開始する。
「やっぱり好きな人に贈る物やと、いつもより緊張するもんやね」
 村長夫人にコツを教わりながら、クッキーを焼くアス。琥珀糖の程好い甘さと肉桂の香りに、大好きの想いをたっぷり込めて……美味しくなる為のお呪い。
 やはりクッキーを焼いたマリンローズは、薔薇を象った焼き菓子に思わず目を細めた。
(「喜んでくれるかしら?」)
 彼と過ごす時間に負けないくらい、甘くなるように……愛情込めて焼き上げたクッキーの優しい香りに笑みが浮かぶ。
 フィーリアは梨のコンポートを使ったタルトに挑戦。生地に琥珀糖のシロップをたっぷり練り込む。
(「贈った時、笑顔になってくれるといいな♪」)
 冒険者になって知り合った大好きな友達に。沢山の感謝の気持ちを込めて……。
(「物作りは得手ではありませんが、折角の贈り物ですもの。丁寧に、丁寧に……」)
 レシピと首っ引きのレムが作るのはシフォンケーキ。生地にパウダーシュガー、胡桃のキャラメリゼにシロップと、琥珀糖をふんだんに使った贅沢な一品だ。
「……味見は程々に、ですわね」
 思わず自戒の呟きが漏れる程、焼き上がったケーキはいい匂いだ。
 エストリアもシフォンケーキに挑戦。こちらはロールケーキにするようだ。
(「長い間会えなかった兄さん……1度は私の作った物を食べて貰いたいの」)
 ずっと生き別れだった双子の兄の為に一生懸命だ。
(「森に積もる雪は綺麗でしたね。森の恵みと、それを守る村の方々に感謝です」)
 依頼もお菓子作りも久々だったソナは、感謝の気持ちを込めてムース作り。カラメルが沈む琥珀糖のムースは、口に入れるとホロリと溶ける雪のよう。
「甘い物は優しい気持ちになりますね。私、作るのも食べるのも大好きです」
「うん、僕も♪」
 終始上機嫌のミルッヒは、台所に漂う匂いに幸せそう。
(「ふふー……カエデ糖って、優しい甘さが美味しいよね」)
 しっとりふわふわに焼き上がったシフォンケーキに満足げに頷き、周りを見渡せば……藤色の髪のエンジェルがノンビリお茶の用意をしている。
「ネイネちゃんは、琥珀糖をお茶のお供にするの?」
「そうですね……ランララ聖花祭の為、というのもありませんし」
「あー、まあ、僕もランララは置いといてだけど」
 ミルッヒは出来立てのケーキを差し出した。
「お茶請けに……ていうか、お久しぶりのご挨拶、かな」
 また一緒に冒険出来て嬉しいと言う彼女に、ネイネージュも穏やかに笑む。
「ありがとうございます……私もお返ししませんと」
 折角なので、ケーキは皆さんと戴きましょうか――やがて始まるティータイムは、琥珀糖の優しい香りに包まれて。
 外は厳寒、けれど台所の中は温かな笑顔が溢れていた。


マスター:柊透胡 紹介ページ
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