芸術は言葉よりも……



<オープニング>


●芸術は言葉よりも……
「今回皆には、地獄に行って貰うわ」
 ヒトの霊査士・リゼル(a90007)が、君達を見渡しながらそう告げる。
 唐突に語られる言葉……何も知らない人が聞いたら変な誤解を受けそうではあるが……それはさておきとして。
「地獄のとある街なんだけど、ここでアンデッドが出現したという話が私の所に来たの。アンデッドについては、余り詳しい情報は無くて伝聞情報なんだけど……それを倒して欲しい、って依頼ね」
 そういいながら、リゼルは懐から、羊皮紙に書き連ねた伝聞情報を告げる。
「えっと……まずはその身体の大きさだけど、人の二倍位っていう巨大なアンデッド。その数は六体という事だわ」
「アンデッド一体毎に、それぞれ左右にそれぞれの属性を持った武器を持っているみたいなのよ。例えば体だったら剣、技だったら短剣、そして心だったら宝玉……といった風にね」
「そしてそれぞれの属性の組み合わせを持った敵がそれぞれ二体ずついるみたい。勿論相手はみんなの不利な属性を見つければその属性をつついてくるでしょうから、作戦はしっかり立てた方がいいと思う。多分……その体力も一般的なアンデッドに比べれば豊富に持っていると思うから、皆注意してね」
 そこまで言うと、リゼルはその羊皮紙から顔を上げる。
「……ここまでは戦闘の依頼なんだけど、後もう一つ、皆にお願いがあるの」
 にっこり微笑むリゼル。そして……取り出したるは、羊皮紙を何枚か重ねて、紐で縛り付けた物。
「せっかく地獄に行くんだから、街の人達と交流をしてきて欲しいと思ったの。それで、この羊皮紙に、地獄の子供達に絵を描いてきて欲しいと思ったの」
 リゼルの言う事を簡単に言えば……スケッチブックである。
「地獄の子供達がどんな事を思って生活しているのか、不安に思うところは無いか……きっとこの絵に現れると思うのよ。だから……皆、宜しく頼むわね!」
 そういいながらスケッチブックを押しつけるように渡し、リゼルは皆を元気よく送り出すのであった。


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参加者
想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)
聖骸探索者・ルミリア(a18506)
永遠の飛鳥・ポム(a19507)
黒猫の花嫁・ユリーシャ(a26814)
愚者・アスタルテ(a28034)
ほぇほぇ姫・サホ(a43941)
忍び・ユーセ(a46288)
剣舞二重奏・カレル(a69454)


<リプレイ>

●蹂躙者の痕跡
「……ふぅ、ここは相変わらず陰気な所ですわねぇ……」
 地獄。ランドアースの地下に存在するこの大陸は、どこか薄暗さを感じさせる。
 アンデッド達の徘徊の話も多く、依然としてまだ危険が残る地である。
 この地を訪れたのは、光の海に眠れるもの・ルミリア(a18506)を初めとした8人の冒険者達。
 彼女達がこの地を訪れたのは、一つの依頼を受けてのこと。
 6体の巨大なアンデッド達の討伐と、村人達との交流……である。
「アンデッドさんは、人の二倍の大きさですかぁ……? ちょっと怖いですねぇ……」
 迷子の癒やし鳥・ポム(a19507)がぽつり呟く。
 今回相手にしなければ成らないアンデッドは人の二倍、つまり4m近い大きさのアンデッド達。
 当然戦う力が無い一般人達にとっては大変な驚異であるし、それに……このまま放って置けば、いつ町村が襲われるかもしれない訳で。
「本当に……地獄も不穏だね……だからこそ、交流で、不安を和らげたいですね……」
 愚者・アスタルテ(a28034)の言葉に、雲童・ユーセ(a46288)も頷く。
「そうだね……でも、アンデッド達を倒さないと、子供達もきっと安心して暮らせない。だから、お茶会の前の一仕事、だね」
「お茶会……か。地獄の街の人達と交流出来るのは、何だか嬉しいな」
 宵の剣閃・カレル(a69454)が僅かに微笑む。
「そうですね……こういう機会でも無ければ、余り地獄に住む方達とは交流する事も出来ませんし」
「どういう方達なのかしらね。よそ者とかで、拒否されなければいいんだけれど……」
 無垢なる茉莉花・ユリーシャ(a26814)の言葉に、想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)が不安げに……。
「きっと大丈夫ですの。リゼル様から預かってきた物も一杯ありますし……」
 にこり、と微笑むほぇほぇ姫・サホ(a43941)。傍らの鞄の中には、リゼルから預かってきたスケッチブックと色とりどりのクレヨンが。
「絵で思いを通わせる……私も昔聞いたことがありますのよ。絵を通じて交流する、素晴らしいと想いますわ」
「それにしても、6体のアンデッドか……弱点を突くような攻撃をしてくるなんて、アンデッドにしては強敵だな〜」
 空気を変えるが如くカレルがそう言うと、頷くルミリア。
「そうですね……ここからはさすがに見えませんが、やっぱり魔石のグリモアが何らかの影響を及しているのでしょうかねぇ……?」
「うーん、どうなんだろう。そもそもランドアースと地獄がどう関係しているのか分からないし……」
「少なくとも……この地獄にはアンデッドは昔からいた訳ですし……順当な成長をしてそうなったのかもしれないわね」
 アスタルテがうーんと頭を悩ませ、ラジスラヴァも顎に手を当てて考える。
 そんな事を考えていると、その視界の中に村の影が見えてくる。
「……考えていても始まりませんわね。ともかく……地獄の皆様が気持ちよく新年を迎えられるように、お手伝いをしますの」
「そうですぅ、怖いなんて言ってられません、頑張りますぅ〜! 誰も大怪我なんてさせないように、気を抜かずにですぅ〜!!」
 ルミリアの言葉にポムがぐっと拳を握りしめて精一杯ジャンプするのであった。

 そして冒険者達は、村の中へ。
 殆どが閉まっている扉……その扉をコンコン、と叩き、中に居る村人達へ話を聞いていく。
「私達は、ランドアースからやって来た冒険者、アンデッド退治の依頼を聞いて、やって来ました」
 アスタルテ、そしてラジスラヴァの二人を中心にして、一人一人に話を尋ねる。
 アンデッド達の出現方向や移動ルート、襲われた時の周囲の光景……そして、この辺りにおける、比較的足場の良い所等。
「流石に足場の悪い所で戦うとなると不利ですし……ね」
 色々と話を聞き、それを一つ一つメモしていく。
 一方残るメンバーは、話を聞いて判明した村長の所に向かい。
「アンデッド退治の他に……村の皆様と交流をしたい……と。宜しいでしょうか?」
 サホが尋ねるも、勿論それを否定する事はせず。更に。
「……持って来たクッキーや割れ物が一杯ありますの。こちらに置いていっても宜しいですの?」
 と、ユリーシャが荷物の交渉も行い、戦う為の準備を全て整えていった。

 そして……冒険者達は、村人達から尋ねた情報を頼りに村を発つ。
「流石に身体が大きいから、遠くからでも見つける事は出来るでしょう」
 ユーセの言葉に頷き……まず最初の目撃情報のあったポイントへ。
 周囲を見渡すが……何も無い。勿論足下はぬかるみ、かなり悪い。
「……あ、皆さんの靴も用意してきました。勿論……このような場所で戦いたくはありませんけど、ね……」
 アスタルテが全員分の滑り止め付きブーツを配る。そして改めて地面を確認。
 程なくして、大きな足跡が見つかる。
「足跡、発見ですぅ〜」
 にこっと微笑むポム。その足跡を追いかけるように、冒険者達は足場の悪い中を進んでいく。
 ……一時間程が経過し、足跡を追い続けた冒険者達の視線の先に、巨大な姿が見え始める。
「あれが、アンデッド達ですの……?」
 ユリーシャが指を差し、その影をアスタルテが遠眼鏡で確認。
「……間違いありません、ね……片手に宝玉、片手に剣……」
 リゼルの言う特徴と合致し、更に村人達からの話にも一致する。
 しかし……まだこの場は足場が悪い。
「少々手間にはなりますけれど、大回りして先回りしましょう。後は……私とアスタルテ様の土塊の下僕で、足場の良い所まで誘導致しますわ」
「了解……奴らが匂いをかぎ取って、近づいてくるかもしれないからな……良し、こっちだ」
 サホの言葉に頷き、カレルが風向きを確認。
 風下の方から大きく回り込み、村人に聞いた足場の良い戦闘場所へと移動。傍らには少し大きめの岩もある。
「それでは、行きますわ」
 ユーセとアスタルテの二人で、土塊の下僕を合計6体召喚。
 視界の中にアンデッド達の姿を捉え、間合いが近づいた所で……放つ。
 ……目前の土塊の下僕の姿に気づき、アンデッド達は……ぶち壊そうと動き始める。
 引きつけるように、土塊の下僕を引き上げる二人……ついていくアンデッド達は、かなり動きが遅い。
「……もう少し、もう少しよ」
 射程に入るまで岩陰に身を隠し、戦いの準備を整える。
 ……射程の範囲に入ると同時に、アンデッド達の前に飛び出した。

●命無き者
「さてと……大きいから手間が掛りそうですが、しっかりやらないと……」
 アンデッド達の目の前にはユリーシャ、アスタルテ、ユーセ、カレルの四人が立ちふさがる。
 後衛のラジスラヴァ、ルミリア、ポム、サホの四人には決して攻撃を通さないよう……六体のアンデッドの姿を全て視界に入れ、武器を構える。
 事前に鎧聖降臨や鎧進化、無風の構えなどを掛けていて、準備は万端。
「まずは……心弱点から行きますわよ」
 サホが指さしたのは、剣と短剣を持つ2匹の敵。
 黒炎覚醒やで強化したルミリアの慈悲の聖槍を基軸に、ポムのニードルスピア、サホのエンブレムノヴァ、そしてラジスラヴァのニードルスピアの一斉攻撃が放たれる。
 次々と突き刺さっていく攻撃……心弱点の敵は一気に体力を削らされていく。
 当然アンデッド達も、ただやられるだけではない……宝玉を持つ四体のアンデッド達が、一斉に冒険者達に攻撃を仕掛ける。
「……相手の弱点を突く程度の知識は持っているようですが、私に弱点はありません、覚悟なさいな」
 ユリーシャが冷静にいい放つと共に、逆に相手の弱点を突いた攻撃を仕掛ける。
 技が弱点の敵には疾風斬奥義、体が弱点の敵には剛鬼投げ。
 一方カレルとアスタルテは相手の攻撃を防御に終始し……ユーセは
「……片方には効かないだろうけど……その動きを止めてあげるよ」
 と、粘り蜘蛛糸による拘束を放つ。
 ……四体の内、短剣を持たぬ二体の動きが止まる。
「弱点を確実に突けば、そこまで苦戦はしないで済みそうですねぇ……」
 ほんわかとポムが呟く……そして次のターン。
 後衛の四人が再び心攻撃の一斉射撃で……二体のアンデッドを確実にダメージを喰らわせて行くと共に、前衛も未だ動ける残り二体……体弱点の敵に集中して攻撃を仕掛ける。
 ……その巨体、彼らの持つ体力も強大。
 しかし弱点を確実に突いた攻撃は、それを凌駕する程に、一気に体力を削り去っていく。
 ……程なくして、まずは心を弱点としたアンデッド二体が地に臥せる。
「まずは二匹……後は四匹。回復は心配せず、速攻で倒しますわよ!」
 ユリーシャの言葉に頷き、前衛四人が防御を解いて一斉に攻撃を開始。
 喰らうダメージは大きくなるが……ルミリアとポムの二人のヒーリングウェーブの中に包まれ、殆ど消耗する事は無くなった。
 体弱点の敵をまた一匹、もう一匹……確実に仕留めた後、残るは技を弱点とした二匹のみ。
「さぁ……後はお前だけだぜ?」
 にやり笑みを浮かべるカレル。
 対してのアンデッドは……どうにか粘り蜘蛛糸の拘束を振り解き、攻撃を仕掛けようとするが……。
「……残念、逃しはしないよ」
 再び放たれるユーセの粘り蜘蛛糸に拘束されるアンデッド。
「良し……行くぞ!」
「ええ……これでおしまいよ」
 ユリーシャの剛鬼投げに、カレルのサンダークラッシュが決まり、一匹目、二匹目……と、その留めを刺したのである。

●芸術の語る事
 そしてアンデッド達を倒した冒険者達は、村へと戻る。
 無事に村を襲う脅威が取り除かれた事を伝えられると……村人達は喜ぶ。
 そして冒険者達が交流を深めたい……と言う事で、村長の家に集められた子供達。
 ……見慣れない冒険者達の姿に、子供達は少々……まだ恐がっているようで。
「えっと……こんにちはぁ〜」
 にこっとポムが挨拶するが、子供達はあの、えっと……と言葉に詰まる。
「……流石に出会ってすぐじゃ難しいかなぁ」
「そうですね……リゼル様からはスケッチブックを預かってきましたが、いきなり絵を描いて欲しいと言われても困るでしょうし……」
 カレル、そしてルミリアの言葉。
「お茶会……やっぱり必要ね。準備に時間が掛るでしょうし、わたしが子供達の気を引いてみるわ」
 ラジスラヴァがにっこり微笑むと共に、子供達の前で。
「みんな、わたし達はランドアースの冒険者なの。せっかくこの地に来たから、皆と仲良くなって帰りたいと思ったの……ねぇ、みんな一緒に遊びましょう?」
 ラジスラヴァの言葉。そして彼女は歌を歌いながら踊り始める。
 感情をそのままに表現した素朴な踊り……子供達の心を開き、手を取る切っ掛けになれば……と。
 美しい旋律の歌に、次第に聴き惚れる子供達……そして一曲を終えると共に。
「……皆さん、一緒に踊りましょう? 大丈夫、形なんてないの。みんなの思い思いに踊って貰って構わないからね」
 続けてラジスラヴァは、少しアップテンポな歌を口ずさむ。
 その歌声に……おずおずながらも踊り始める子供達。
 ランドアースにはない面白い踊り方をする子供達に、自然と微笑みが零れた。

 ひとしきり踊った後……続けて子供達の前に広げられるのは沢山のお菓子と、いろんな香りの紅茶、そして……お豆腐。
「これならすぐに淹れられますし、たくさん作れますからね……皆様、ご自由にどうぞです♪」
 子供達一人一人に紅茶を入れ、そして……。
「これ、うちの旅団で作ったお豆腐なんだ〜。みんな、食べてみて」
 カレルがお豆腐を勧めてみたり。
「このクッキーは、私が心を込めて焼いたクッキーですの。冷めてしまってますけれど、味は保証致しますわ」
 と、ユリーシャが笑顔でクッキーを進めてみたり……。
 勿論そのお茶会の輪の中には、村長の姿もあって……まだ少し怖がっている子供達を宥め、膝の上にのせたりしながら打ち解けさせようと……。
 ……その甲斐もあってか、時間が経過するに従い、段々と子供達も冒険者達に自然な笑顔を見せ始めるようになった。

 そして……打ち解け合ってから暫く時間が経過した頃。
「……そろそろ良いかな?」
 カレルの言葉に、膝の上に子供を乗せたサホが。
「ええ、もう大丈夫だと想いますわ」
 と頷くのを確認する。そして子供達の注目を集めるように手を叩き。
「な、みんなで一緒に絵でも描かないか?」
『絵……?』
 ちょっときょとんとした風の子供達に、頷くカレル。
「うん、みんなが想ってること何でもいいんだ。せっかくこうして皆と仲良くなった記念に、絵を描いて交換し合わないか?」
『……面白そう、僕やる〜!』
 すっかり打ち解けている子供達。次々とその手を挙げて参加していく。
 そして……スケッチブックの紐を解き一枚ずつ紙とクレヨンを渡していく。勿論……冒険者の皆も一枚ずつ……。
「器用じゃないので、余り上手く描けないかもしれないですけどぉ……でも、子供達が喜んでくれる絵を描くですぅ♪」
 ポムがにっこり微笑み、子供達の輪の中に入って絵を描く。その絵は彼女のわんこ、モコの絵。
『……この絵なぁ〜に?』
「モコですぅ、かわいいワンコなんですぅ〜」
 と……ささやかな会話を楽しんでいる彼女。
 他にも色々な絵を描く冒険者達……対しての子供達は……。
「……絵、上手ですわね?」
 サホがにっこり微笑みながら告げた男の子の絵。
 山や海……明るく陽射しが照りつける海岸だろうか。
 ただ、心なしか……使っている色が暗めの色ばかり。
『うん……少し前にお話を聞いたんだ。大きな海があって、凄く楽しいんだ〜って。いつかは行きたいなぁ〜って想ってるんだ〜』
 そう語る男の子は楽しそうだ。
 いつか、きっと……。
「絵には、本当に現状が浮かび上がってくるんだね……」
 ぽつりカレルは呟いた。
 そして時間は早く流れ、お別れの時。
「本当は全員にあげたいですけどぉ……皆で仲良く使ってくださいねぇ〜?」
 お土産という事で、持って来たクレヨンをプレゼントするポムとユーセ。
 色とりどりのクレヨンを貰った子供達の顔は……とても輝いていた。


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