悪の三叉路



<オープニング>


 森奥の谷には、1つの三叉路があった。それぞれが、先にある村への唯一の道。運命の別れ道は、必ずいつかは誰かが通ることになる危険性をはらんでいた。異変に気付くはずもなく、その場へと辿り着いてしまった商人。その生を終えてしまう未来が、迫っていた。

「と言うことで今回は、該当の谷に出現したキマイラらしき者の討伐をお願いしたいのじゃ」
 集まる冒険者達を見回して、月空に唄う霊査士・フェリセス(a90374)は告げる。努めて冷静を装う表情も、声音からは怒りに似た情が感じられた。
「今の話は、これより後に起こること。急行するならば、この悲劇を食い止められるであろう。敵は鋭く尖った、槍の先のような両腕を持っておる。硬質な腕を用いて、突き刺しは勿論のこと打ちのめす攻撃なども行ってくるようじゃ。身体能力が高く、瞬発力がある。不意の攻撃には充分な注意が必要じゃの。また敵は、レイジングサイクロンのような範囲攻撃も使用する。皆とは違い、マヒにはならぬのが惜しいところじゃ」
 面倒な相手だが、さらに厄介なのは変異した猪を連れていることだ。少々大きく、結構凶暴になった猪が3体。キマイラらしき者を慕い、行動をともにしているのだという。
「しかしながら、所詮は猪。繰り返してくる猛烈な突進にさえ耐えられれば、大丈夫じゃろうて。では、皆の無事と依頼の成功を祈っておるの」
 口を閉ざしてフェリセスは、口許だけで微笑いを創る。扇をたたみ、冒険者達を送り出すのだった。


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参加者
求道者・ギー(a00041)
漢・アナボリック(a00210)
決別を呼ぶ吠響・ファウ(a05055)
翠玉の残光・カイン(a07393)
愛と情熱の獅子妃・メルティナ(a08360)
緋桜の獅子・オウカ(a10970)
いつも心に太陽を・クリューガー(a11251)
種の探求者・ベアトリス(a31484)
金鵄・ギルベルト(a52326)
玉響・イルディス(a75084)


<リプレイ>

●先行隊
 冬山を駆ける、2体のグランスティード。待ち受ける運命を変えるため、ただかの地へとひた走る。
「ぜーったい商人さんを助けるの!」
 仲間達を勇気付ける、深緑が見守る夜光石・クリューガー(a11251)の元気な笑顔。操縦者の腰へしっかりと手を回し、騎上から周囲を警戒する。
「まあ、世の中そう言う事もあるか……」
 漢・アナボリック(a00210)が、静かに声を落とした。想いを振り払うように、召喚獣を全力で走らせる。後ろに乗るクリューガーを、時には確認しながら。
「追いつけるかねぇ……」
 もう1体のグランスティードを操りつつ、金鵄・ギルベルト(a52326)が呟いた。キマイラもどきよりも先に商人と接触することが出来れば、依頼成功の可能性は格段に上昇する。
「……これだけは言える……キマイラの力は無理矢理貸出された紛い物の力だ……」
 愛と情熱の獅子妃・メルティナ(a08360)は、ギルベルトの腹の前で拳を握る。原因不明の事態に、根本的な解決が望めない現状……メルティナはもどかしさを感じていた。
「む、どうやらあの者のようだ」
 しばらく走った後、アナボリックが捉えたのは1人の男性の姿。速度を抑えていったん追い抜き、くるりと転回する。冒険者達は、身構える商人の前で召喚獣を降りた。
「この先は危険だ、済まないが俺達の指示に従ってくれよな。特に、大きな音は立てないで欲しい」
 いきなり何事かと不審な表情の商人に、アナボリックが一言。若干の唐突感を、クリューガーがフォローする。自分達が冒険者であることと、三叉路にモンスターがいることを伝えて。
「へーきだよ、クーたちがばっちり倒しちゃうから」
「敵を倒したら、ちゃんとあんたを村まで送り届けるからよ」
 にこっとブイサインのクリューガーに、商人も納得したようだ。さらにギルベルトの申し出も、商人が首を縦に振る要因になり得たらしい。
「ところで、三叉路通ったことある? どれくらいの広さなのかな?」
 クリューガーの問いかけに満足のいく答えを、商人は持っていた。分かれるまで、すなわち今通っている道はずっと、グランスティードが4体並走できる幅。そして3分割された先は、普通の体格の成人3人の幅へと減少するらしい。戦うには、少し狭い感じだ。クリューガーは、丁寧に礼を述べた。
「さぁこちらへ」
 自分の乗っていたグランスティードへと、商人を促すメルティナ。他の3人は、往路の通りに騎乗する。メルティナが商人と交代し、殿を務める作戦だった。
「安全なところまで退がるから、あんたはいったん隠れていてくれ。後ろは頼むぜ、メルティナ」
 背後の商人とメルティナへ、声をかけるギルベルト。アナボリックとクリューガーも、出発可能だ。
「任された。絶対に無事に、合流するんだ」
 武器を構え、キルドレッドブルーを召喚する。メルティナの声を合図に、1人と2体は駆け出した。

●後続隊
 静寂を破る、6つの足音と息遣い。仲間達との合流を目指し、冒険者達は先を急ぐ。
「キマイラが次から次に涌いて出てきやがって……が、出てくる度に俺たち冒険者が叩き潰す!」
 見上げる『黒い太陽』を、強く睨み付けて。威勢よく、緋桜の獅子・オウカ(a10970)が叫ぶ。
「キマイラもどき発生の原因は解っているのに、現状では其れを如何にも出来ないのはもどかしいですね」
 つられて眼をやる空には、圧倒的な存在感があった。翠玉の残光・カイン(a07393)は視線を前方に向け、ぽつりと言い落とす。
「かのキマイラと化した者もどこで道を違えたのであろうものか……魔石のグリモアの影響とはいえ酷なもの。これ以上の悪行を重ねる前に、我らが手で討たねばなるまいよ」
 カインの言葉に頷き、求道者・ギー(a00041)が感嘆を漏らした。犠牲となった標的へと、想いを馳せずにはいられない。
「私には正義が何たるかは解りませんし、今回のキマイラもどきがどんな思いの果てに変異したのかも分かりませんが……彼の者が罪を犯す事を一刻も早く止めたいです」
 種の探求者・ベアトリス(a31484)も、苦しい表情を見せる。はっきりしているのは、原因は『黒い太陽』の出現であることと、眼前の敵をたおさなければならないことくらいだ。
「判らない事だらけだけど……今はやれる事をっ」
 そんな気持ちを汲み取り、決別を呼ぶ吠響・ファウ(a05055)が気合いを述べる。ねっ、と言う微笑みにベアトリスの顔も緩んだ。ちなみにファウは、ベアトリスの荷物を預かっている。剣風陣の加速も頼りに、少しでも全体の移動速度を上げるためだった。
「……最近ほんと不穏な事案が多いですよね。今後その道使う方達の為にも確実にお仕事しないと、です。あ……音がするです」
 溜息を吐いて、玉響・イルディス(a75084)は皆を見回す。灰の大きな瞳が、足下と前方を行き来する。と……遠くから聞こえる蹄の音を、イルディスは逃さなかった。
 谷も近くで、間もなく冒険者達は合流する。グランスティードから降ろした商人は、ファウの保護下へ。残る9人は、ある程度呼吸を整えてから再び走り始めた。敵を倒すため……此処にある命と、囚われの命を、救うために。

●哀しき運命
 対峙するキマイラもどきは、すでに戦闘モード。凶暴化した本能のままに、攻撃を仕掛けてきた。
「おっと、お返しだよっ!」
 ストライダーの反応力で、ひらりと身を翻すクリューガー。そのままの体勢から、粘り蜘蛛糸を放つ。
「隙だらけだぜ!」
 敵の注意がクリューガーに向いているうちに、アナボリックは敵の背後へ。ランスを自分に引き付けて、最大限の闘気でもってデストロイブレードを撃ち込んだ。
 拘束は成功、攻撃も命中したが、霊査されていた敵の数には足りていない。イルディスとベアトリスが、遠眼鏡で周囲を見回す。オウカも、変異猪の出現に備えていた。
 その間で、必要な者達は戦闘準備を整える。ミレナリィドールを戦闘状態で喚び出し、黒炎をまとうカイン。ウェポン・オーバードライブを発動し、ギーは斧を構える。ギルベルトも、自らの破壊の衝動を呼び起こした。
「キルドレッドの状態異常が効くと良いけど……」
 対斧『阿狛・吽狛』を交差させ、跳躍するメルティナ。繰り出す攻撃に、魔炎の効果が付与される。
「1頭来ます!」
「こっちの道からも来るです!」
「おいおい、ばらばらかよ!」
 待ちかねた敵の襲来に、ベアトリスが、イルディスが、そしてオウカが叫んだ。突進を避けきれず、3人ともが突き飛ばされる。猪達は、そのままキマイラもどきを取り囲んだ。
「決して近付かせないから安心して☆」
 遠眼鏡から眼を離し、ファウは商人を振り返る。敵をすべて確認したことで、商人を直接護衛する必要がなくなったから。より奥に退がって待つように頼み、ファウは茂みを飛び出した。
「最初の相手は……おまえだ!」
 戦闘開始とともに、カインの口調が変化する。猪のうち1体を定め、ヴォイドスクラッチで叩き潰した。なかなかのダメージとアーマーブレイクを喰らうも、立ち上がり首を左右に振る猪。
「叩き込む隙を伺うんじゃねぇ……連携を崩し、動きを取らせず、打開しようと無理をした時、隙は出きる! 必・殺!!」
 だが眼を開いた瞬間、オウカの指天殺が襲いかかる。強烈な連続攻撃に、早くも1体が力尽きた。
「いい調子だね、着実に押し切ってこう♪」
 カインとオウカの活躍に、ファウは笑う。フィンスライサーの投擲で、残る猪を牽制した。遠く背後に、護衛対象の隠れ場所を背負うファウ。告げた言葉を、商人の気持ちを、裏切らないように。
 と2体の奥で、キマイラもどきが雄叫びを上げる。拘束が解けた両腕を、思い切り振り下ろした。大きな竜巻のような強風に、巻き込まれる冒険者達。
「肉を切らせて骨を絶つ、ってーのが本懐なもんで。なぁ?」
「今のうちに……です」
 だがしかし、ギルベルトが風を突破して現れた。油断していた敵の胴体へ、デストロイブレードを叩き込む。こだまするのは、ギルベルトの笑い声と戦啼の風切音……竜巻が徐々に消える。
 淡雲・終漣を握り直し、眼を伏せるイルディス。発せられた淡い光波で、仲間達の傷を癒していく。
「こちらからも行こうかね、アナボリック!」
「了解だぜ、ギー!」
 Boreasを横薙いで、ギーは達人の一撃を撃ち込んだ。ギルベルトが攻撃したのとは逆の胴体を走り抜ける、重厚な衝撃。
 名を呼ばれたアナボリックは、素速く敵の死角へと回り込む。ギーの攻撃と同時に、闘気を凝縮させた突撃槍を突き刺した。
「これ以上、攻撃はさせないよ!」
 灰闇世界にさす紫光を手首に巻き付けたままで、クリューガーは再度の拘束を試みる。指先から放出された蜘蛛糸は、見事に3体の動きを絡め取った。
「抵抗なんて、するだけ無駄だよ」
 冷酷な微笑みが、メルティナの顔に浮かぶ。キマイラもどきの正面から、破鎧掌を叩き込んだ。
「これでも喰らいなさい!」
 儀杖『トリフィド』を高く掲げて、紋章を空に描く。ベアトリスが、エンブレムシャワーを撃ち出した。敵の頭上へと降り注ぐ、無数の光のライン。次々と、敵を貫き通していった。
 戦闘は、冒険者優位のままに進行する。空が茜に染まる頃、すべての敵が倒れたのであった。

●救われし命
 戦闘後しばらく、キマイラもどきの屍を見張っていた冒険者達。しかし死骸が再び動き出すことはなく、ギー、イルディス、ベアトリスの心配は杞憂に終わった。
「……このキマイラも魔物化しないタイプ? 変貌する要素は何だろうね?」
 ファウの露呈する疑問は、ここにいる皆が抱いていること。誰も、答えられはしない。
「分かりません、本当に分からないことだらけです」
 星辰七支剣を鞘に収め、カインは高らかな凱歌を歌い上げた。戦闘前に感じていた歯がゆい思いが、またカインの心にぶり返す。
「私たちは聖人君子ではありません……この体に流れる力はいつかドラゴンの心に飲まれることがあるかもしれないですね……私たちも破壊に酔うことが無いよう心に刻んでおかないと……」
 原因不明な事態の連続に、ベアトリスは不安を感じていた。眼前に倒れる、『黒い太陽』の犠牲者のようにならない保証などどこにもない。自分に言い聞かせる意味も込めた、ベアトリスの言葉だ。
「心配しなくても、その気持ちがあれば大丈夫じゃん?」
 思い詰めたところで、何も始まりはしない。ギルベルトはベアトリスを励ますように、肩をぽんっと叩く。複雑な表情を見せるも、笑顔を取り戻したベアトリス。ギルベルトも笑み、煙草に点火した。
「では、避難させた商人を村まで送り届けよう」
 言って、ギーは商人の方へと歩を進める。皆も、後ろをついていくのだが。
「あ……ついでにキマイラっぽい者達の遺骸、どこかに埋葬したいかも、です」
「私も、この事件で失われた魂のために小さいながらもお墓を作ってあげるつもりです……」
 イルディスとメルティナの提案に、はたと立ち止まる。そのまま放ってもおくわけにもいかず思案した結果、班を分けることとなった。提案者とプラス、ギルベルトが墓を担当する。
「それじゃ、行ってくるな」
 出来るだけ死体を見せないように、道の端に運んで。前後左右を固めるようにして、商人の送達が始まった。笑顔で手を振る居残り組に、オウカがいったんの別れを告げる。
「いやいや、とんでもないぜ。当然のことをしたまでだ」
 商人からの謝礼に照れつつ、言葉を返したアナボリック。双方からは、安心の笑みが零れる。
「ねぇ、どんな商品扱ってるのー?」
 わくわくを抑えきれずに、クリューガーは訊ねた。この辺りでは入手困難な食材や、農業の道具なんかだよと言う、商人の返答。頷き頷き、クリューガーは別の質問を発していく。
 そうこうしているうちに、目的の村まで辿り着いた。村へは寄らずに、商人と別れる冒険者達。残してきた仲間達のもとへ、少しでも早く戻りたかった。
「悪は人の心を魅了する……願わくば心鎮めて来世では良き友になれること……願ってます」
 戦場を包み込む、メルティナの祈り。いつか必ず、この現象の大本を断ちきることを心に誓う。
 すべてを終えた後に、冒険者達は合流した。1人ひとりが出来ることを、最大限の力で。そうしていくことがこの問題の解決に対する近道だと、信じているから。


マスター:穿音春都 紹介ページ
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参加者:10人
作成日:2009/02/11
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