夜明けの丘に咲く花



<オープニング>


「君達、マールメイアって花、知ってるかい?」
 その日、ストライダーの霊査士・キーゼルは、そんな風に、まるで雑談をするかのように依頼についての話を始めた。
「マールメイア……ええと、グリムロンデの丘に咲く花よね?」
 前に本で読んだ事があるわ、と反応したのはリボンの紋章術士・エルル(a90019)だ。今のような時期の夜明けと共に咲く、淡いピンク色の花でしょう……と。
「夜明けと同時に咲く、マールメイアの花を見ながら願い事をすると、この花に宿る妖精さんが叶えてくれるっていう言い伝えがあるのよね。特に、恋に関するお願いに効くって……」
 瞳を輝かせながら、素敵……と呟くエルル。おそらく彼女は、何かの物語にそんなシーンが出て来るのを読んだ事があるのだろう。
「僕が聞いたのとはちょっと違うけど……妖精とか出て来なかったし……でもまぁ、大体そんな感じだね。だから毎年この時期になると、何か叶えたい願いのある人達が、グリムロンデの丘に出向くんだよ」
 でも、とキーゼルは言う。そのマールメイアが咲いている一角に、異変が起きていると。
「花の咲いているすぐ近くに、カマキリが出現したんだよ。それも普通のじゃなくて、突然変異したのか1m近くまで巨大化した奴がね」
 そのカマキリが、言い伝えを信じてマールメイアが咲く瞬間を見ようと、丘に向かった人々を襲ったのだ。カマキリは前足の部分にも変化が現れているらしく、人々はまるで、鋭い刃物に切り裂かれたかのような深い傷を負っているという。
「このままじゃ危険で丘に近付けないし、いつカマキリが近くの村に現れないとも限らない。……だから、このカマキリを何とかして欲しいっていうのが、今回の依頼さ」
 キーゼルの霊視によると、巨大化したカマキリは二匹。互いに争う様子は無いが、かといって、特にこれといって協力している様子も無いらしい。二匹はマールメイアが咲く場所の東側と西側にそれぞれ一匹ずつおり、どうやら住み分けは出来ているらしい。
 注意が必要なのは、カマキリの持つ刃物のような鋭い前足。これで切り裂かれたら、冒険者といえど無事では済まないだろう。
「あと、カマキリは結構素早いようだから、その点にも注意が必要かな。攻撃しようと近付いたら、逆に獲物を狙うカマキリの前足が素早く伸びて……なんて事になりかねないからね」
「ええ、分かったわ。……ええと、マールメイアは勿論、傷付けない方が良いのよね?」
 キーゼルの助言を聞いてエルルは頷くと、最後に一つ、彼の言葉の中で触れられていなかった点について尋ねる。
「そうだね。それを楽しみにしている人も多いだろうし……あまり自然には被害が出ないようにした方が、喜ばれると思うよ」
「はい。……じゃあ、行って来ます」
 確認を取り終えたエルルは、他の冒険者達と共に酒場を出……そんな彼らに、キーゼルは「気を付けて行って来なよ」と見送りの言葉を投げるのだった。

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参加者
暁の疾風・フウガ(a03266)
海風の・イサナ(a03616)
大自然より奇跡を呼ぶ医術士・バルム(a06234)
白狼皇・サレナ(a08759)
純愛華・マユ(a09016)
煌く銀砂・グラリア(a09339)
華散落想不散落・リリエラ(a09529)
光翼纏いし気弱な天使・ミア(a09735)
夜の娘・ディディ(a09772)

NPC:リボンの紋章術士・エルル(a90019)



<リプレイ>

●花咲く丘へ
 依頼を受けた冒険者達は、カマキリを退治する為、グリムロンデの丘に向かっていた。
「今回の相手は、1m近くもある巨大カマキリとはな。ある意味、自然の驚異……か?」
 蒼穹を貫く白銀の咆哮・サレナ(a08759)は、酒場で聞いたキーゼルの言葉を思い返しながら、そう呟きを漏らした。正直な所、サレナは昆虫が苦手なのだが……けれど、被害が現実に出ている以上、そうも言っていられない。サレナは、丘へ向かう足を早める。
「カマキリは、どうして人を襲っているのでしょうね」
 その道すがら、不思議そうに口にしたのは水精歌姫・マユ(a09016)だ。カマキリは人を襲っているといっても、傷を負わせただけで相手を逃がしてしまっている。生きる為ではないのか……何か、守りたいものが、そのカマキリにはあるのだろうか……?
「まあ……どのような理由があろうとも、花が踏み躙られる事は、絶対に許せませんわ」
 マユの言葉を聞いて、強い口調で言い放ったのは、蝶の如く華の如く・リリエラ(a09529)だ。
 綺麗な物が好きなリリエラにとって、それは許せる行為では無かったし……それに。『願いが叶う』という言い伝えのあるマールメイアが踏み荒らされる事は、それに願いをかけた人々の想いさえ、踏み躙る事になるような気がして。
「そうだね……あたしも、マールメイアの花を、守りたいな」
 煌く銀砂・グラリア(a09339)は、リリエラの言葉に頷くと、そう口にしながら心の中で思う。
(「あたしも、夜明けと共に咲くマールメイアの花を見たいし……それに、お願いごとをしたいから……」)
 グラリアにとって、マールメイアにまつわる伝承は、とても魅力的だった。
 願いを叶えてくれるかもしれない、マールメイアの花。それを守りたいと、グラリアは強く、強く思う。他にマールメイアの花を楽しみにしている人たちの為にも……彼らの願いを叶える為にも、頑張るのだと。
「えっと……エルルちゃん、巨大カマキリ倒せたら……一緒にマールメイアの花が咲くところを、見に行かないかな?」
 その一方で、エルルの隣を歩きながら、そう誘いかけたのは、暁の疾風・フウガ(a03266)だった。
「そうね。折角だもの、マールメイアが咲くのを、この目で見てみたいわ」
 フウガの誘いに頷くと、見る事が出来るかしら……と、エルルは楽しげな様子で笑みを零す。だが、すぐに気を取り直した様子で小さく首を振ると、まずはカマキリ退治に専念しなくちゃねと気合を入れ直す。
「そろそろマールメイアが生えとる場所やな」
 大自然より奇跡を呼ぶ医術士・バルム(a06234)は足を止めると、マールメイアに被害が出ないようにしながら戦う為、良い場所はないかと、周囲を調べ始める。
 丘はマールメイアに限らず、多数の植物の姿が見受けられ……それら全てに被害を出さないようにする、というのは、流石に難しそうだ。だが、被害を出来るだけ最小限に抑える事ならば、出来るだろう。
「わいらは、あの辺りがエエかな。そっちはあそこの木の近くが向いとると思うわ」
 冒険者達は二体のカマキリに対して同時に対応する為、二手に分かれるという話になっている。バルムはそれを踏まえながら、場所についての目星を付け……そして冒険者達は、酒場で相談した通り二手に分かれると、それぞれカマキリを退治する為に動き始めた。

●巨大なカマキリ
 二手に分かれた冒険者のうち、東側へと回った一人であるストライダーの忍び・ディディ(a09772)は、辺りの様子を確認しながら、カマキリの様子を探っていた。
「………」
 前方には、草をカサカサと踏みながら、悠々と過ごしている大きなカマキリが一匹。ディディはカマキリとその周囲の状況を確認すると共に、他の者達の動向を確認すると……機を計って、カマキリの方へと近付きながら、弓を構える。
「――はっ!」
 カマキリからもよく見えるように姿を現しながら、その姿目がけて矢を放つディディ。その攻撃に、カマキリは怒りの色を浮かべながら振り返ると、前足を蠢かせながらディディの方へ迫る。
「来たね……」
 その動きに合わせて、ディディは後退を始める。カマキリをマールメイアから遠ざけ……そして、皆が待ち伏せている場所まで、カマキリを誘導する為に。
 そう……ディディの役目は、囮としてカマキリを惹きつける事だ。ディディはつかず離れずという距離を保ちながら、後退を続ける。
「く……」
 だが、誤算はディディの想像以上に、カマキリが素早かったという事だろう。それなりの距離を開けながら後退していたはずなのに、それはどんどん狭まっていき……カマキリはディディの眼前まで迫ると、その前足を繰り出す。
「いかん……!」
 他の冒険者達が待機していた場所まではまだ距離があるが、このままではディディが危険だと、冒険者達は潜んでいた物陰から飛び出す。駆けつけながらサレナがチェインシュートを放つ一方、エルルが気高き銀狼を飛ばし、カマキリの制止に動く。
「すぐに回復するからな」
 その間に海風・イサナ(a03616)がディディとカマキリの間に割って入ると、バルムが彼女の傷を癒しの水滴ですぐに癒す。
 カマキリの方はといえば、自分を組み伏せて来た銀狼を振り払うと、身体を起こし体勢を立て直そうとする。だが……
「――はあっ!」
 そこに、すかさずサレナが詰め寄ると、カマキリの腹に電刃衝を放つ。その一撃にカマキリは麻痺し動けなくなり……続けてイサナのチェインシュートが突き刺さり、傷の癒えたディディによる、貫き通す矢が一直線に飛ぶ。
「今や!」
 更に、バルムとエルルの手元で紋章が描かれると、エンブレムシュートが飛び……再び身構えたサレナが、電刃衝を用いてカマキリの身体を貫くと、カマキリは甲高い声を上げながら崩れ落ちていった。

 同時に、もう一体のカマキリの居場所へと向かった冒険者達も、行動を開始していた。
 こちらでは、この作戦を提案したのは自分だからと、リリエラがカマキリを誘き寄せる囮の役目を引き受けると、皆が居る場所まで誘導していく。
「ふ……わたくしを、カマキリ如きが傷付けられるとでもお思い?」
 カマキリは素早い動きでリリエラに迫ると、攻撃を繰り出していたが、それをリリエラはライクアフェザーを用いて避けながら、移動を重ねる。
 だが、リリエラには口にしているほど、余裕がある訳ではなかった。攻撃を避けているといっても、それは辛うじて、紙一重の差での事。これ以上カマキリの攻撃が続けば、それをいつまでも避け続ける事は出来ないだろう。
「大きいですね……」
 カマキリが近付いて来るのを待ち構えていたフウガは、その姿を実際に目の当たりにして呟くと、挟み込むように攻撃していきましょうとグラリアに呼びかけ、待機していた物陰から飛び出す。
「うん。……行くよ……!」
 グラリアは斧を握りながらカマキリに近付くと、電刃衝を叩き込む。その反対側にはフウガが回り込み、ツインサーベルでカマキリの背を切り裂く。
「大丈夫ですか?」
 その間にリリエラは皆の後方へと下がり……ヒトの紋章術士・ミア(a09735)は、心配げな表情で怪我は無いかと気遣う。
「ええ。この程度……ただのかすり傷ですわ。ご心配には及びませんことよ」
 そうは告げられたものの、ミアは僅かな傷であろうと、早めの回復を心がけた方が良いだろうと、リリエラに癒しの水滴を使う。
「なぜ、こんな事をしているんだ……?」
 一方マユは獣達の歌を用いながら、カマキリへと語りかける。彼らがこのような行動に出ているのは、きっと何か理由があるはず。そう考えてのマユの問いかけだったが……返事は何もなく、カマキリはただ、響く歌声に対して、チラリと視線を向けて来ただけだった。
「駄目か……」
 もしかしたら返事は返って来ないかもしれない、とは考えていたマユだったが……実際に返事が返って来なかった事に、落胆を隠せない。
 だが、いつまでもそれを気にしてはいられない。それに……人々を安心させる為にも、このカマキリを倒さなければならない。自分達と同じ生き物を倒す事は、とても辛いけれど……でも、自分は冒険者。人々の為にあるべき存在なのだから。
「――華麗なる衝撃!」
 マユはパルチザンから七色の光を放つ。それはカマキリの身体へと伸び……命中すると同時に、辺りにはファンファーレが鳴り響いた。
 その間にもグラリアとフウガの手からは幾度と攻撃が繰り出され、後方からは、カマキリの動きを抑えるべく、ミアが気高き銀狼を放つ。
「せっかく……みんな、綺麗に咲くところを見に来てるのに……!」
 フウガはミラージュアタックを使うと、銀狼によって組み伏せられたカマキリへと一気に迫り、渾身の一撃を放つ。
 その一撃は、カマキリの腹部を大きく裂き……そのまま、カマキリはグッタリとした様子で大人しくなると、もう、そのまま二度と動く事はなかった。
「終わりましたわね……。では、ゆっくり花を眺める事にでもいたしましょうかしら。きっと……格別に綺麗でしょうから、ね」
 地に伏したカマキリの姿を眺めながら、リリエラは静かに呟きを漏らすと、顔を上げて皆を振り返り……ゆっくりと、艶やかに微笑んだ。

●夜明けと共に、願いを
「マールメイアへの被害は、ほとんど無いみたいやな」
 戦闘を追え、すぐに花の様子を確認に向かったバルムは、ホッと胸を撫で下ろした。
 もし花が傷んでいたら、どう対処すべきだろうかと案じていたバルムだったが……幸いにも、さほどマールメイアには被害は出ていないようだ。
「卵の類は無いみたいね……」
 もしカマキリが卵を産み落としていたら、と危惧したディディは、辺りを丹念に探し回っていたが、それらしき物は何も見つからなかった。どうやら、この点に関しては心配する必要は無さそうだ。
「うにゃ……マールメイアの花には、そんな言い伝えがあったんだ〜」
 その間に、エルルからマールメイアにまつわる伝承を聞いたフウガは、驚きと関心の入り混じった様子で声を上げた。
 どうやら、先程エルルに声を掛けた時は、マールメイアに関する話については何も知らず……ただ、エルルと一緒に居たいという理由で、フウガは彼女を誘ったようだ。
「そろそろ夜が明けそうね。マールメイアが咲くところ、見れるか……あっ」
 白んできた空と、マールメイアを交互に見ていたグラリアは、驚いた様子で声を上げる。彼女の視線の先……そこでは、ゆっくりとマールメイアの花が、開こうとしている。
「わぁ……」
 思わず見惚れる冒険者達の前で、マールメイアはゆっくりと、淡いピンク色の花を咲かせた。
(「ずっと一緒に……。まだまだエルルちゃんを護るには、弱くて小さいですけど……必ず頼れるようになります。だから……」)
 フウガはマールメイアの花が咲く様子を見ながら、そっと心の中で願う。そして祈るように一度目を閉ざし……それを開けると、エルルの方を見る。
「フウガさん、お願いは済んだ?」
 どうやらエルルも、何か願い事をしていたようだ。彼女はフウガと視線が合うと、照れくさそうに頬を染めながら、笑みを浮かべている。
「はい……」
 そう答えながら、フウガは自分の顔も同じように、きっと照れ笑いを浮かべているのだろうなと思う。
「そうだな……」
 サレナは、自分の事は願うより、実際に行動してしまう方だから……と、皆の健康と、そして友人の恋路が上手くいくようにと、次々と花開いていくマールメイアを眺めながら願う。
(「……あの人に、会えますように……」)
 私も、とミアは両手を組みながら目を閉ざすと、そっとマールメイアの花に願い事をする。どうか、どうか会えますようにと、そう強く想いながら。
「私には、お願いするような相手はいないし……」
 そんな皆の様子を眺めながら、苦笑したのはディディだ。皆が何を願っているかは分からないけれど……ディディには願いたいと思うような事は、特にこれといって無い。
(「もし今後、縁があればお願いしに来るかもしれないけどね。……どこかに、面白い男がいないかしら」)
 いい相手が転がってないものかしら、と思いながら、ディディは咲いたマールメイアの花を見やる。
(「まだ見ぬ運命の人……素敵な王子様が、私の前に現れますように……」)
 ぎゅっと両手を握り合わせ、マールメイアの花をじっと見つめながら、そう願っているのはグラリアだ。
 周りの皆からは『恋に恋するお年頃』なんて言われたりもするけれど……グラリアにとって、素敵な王子様の存在は、やっぱり憧れだから。
(「あ、それから……」)
 そう願い事を終えたグラリアだったが……ふと思い出した様子で、もう一度真剣な眼差しを、マールメイアに向ける。
(「……皆さんの願いが、叶いますように」)
 そう祈るグラリアの前で、マールメイアの花は、朝の眩しい日差しを受けながら、そよ風に揺れた。


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