【キーゼルの誕生日】いばらの城



<オープニング>


「宝探し?」
「そう」
 リボンの紋章術士・エルル(a90019)に、ストライダーの霊査士・キーゼル(a90046)は、そう頷き返した。
「面白そうな場所があるんだよ。生い茂った植物と、たくさんの茨に覆われた、城の廃墟」

 それは昔、ずっと昔のこと。
 滅びてしまった城の中。
 最後に1人残されたお姫さまは、ベッドで永遠の眠りについて。
 あとは、そのまま。
 静まり返った城を茨だけが覆い尽くして、長い、長い時が過ぎ……全ては廃墟に成り果てた。

「お姫さま……!」
「……そういう反応すると思ったよ」
 話を聞いたエルルがきらきらと瞳を輝かせる様子に、キーゼルは実に予想通りだという顔をした。
 エルルが好きそうな要素だらけだ。当たり前である。
「お城だから、宝物があるってことですか?」
 どこかにトリップしたエルルのかわりに、首をかしげたのはエルフの重騎士・ノエル(a90260)。その問いに、まあそういう事だね、とキーゼルは頷き返した。

 茨に覆われて、廃墟と化した城の中の様子は分からない。もうずっと、誰も立ち入っていない場所だから、何かあるかもしれないし……何も無い可能性の方が、ぐんと高いかもしれない。

「でも、そういう場所だからこそ、面白そうだと思って」
 宝探しは、中に何があるのか分からなければ分からないほど、きっと楽しい。
 覆っている茨は、少しずつ掻き分けていけばいい。中に入れば、その先がどうなっているのかは分からないが……そうそう危険も無いはずだから。
「久しぶりに、ね」
 たまには、そういうのも悪くないだろうと呟いて、宝探しに必要そうな物を探すキーゼル。
「……エルルおねーさんは、行くですか?」
「……お姫様のベッド、まだ残ってるかしらね?」
「そうですね〜。あるかもしれないですよ」
 その後ろで顔を見合わせた2人は、くすくす笑ってキーゼルの背中を追いかけると、その宝探しの準備に加わって……。

 かくして。
 彼らと、その誘いで集まった冒険者達の手によって、茨に覆われて眠る、忘れ去られた城の探検が始まるのだった。


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参加者
NPC:ストライダーの霊査士・キーゼル(a90046)



<リプレイ>

●いざ行かん宝探し
「ここが……!」
 茨に覆われた城を前に、砂の孤城の・リオン(a59027)はたまらず声を上げた。
「廃墟、お宝……たまらない響きだネ……!」
 何かあるかもしれない。その期待感だけでわくわくできると語るリオンの隣で、大きく頷く男が1人。
「宝探しよいよね〜。こう、わくわく出来るよね」
 声の主は蒼の閃剣・シュウ(a00014)だ。その顔は、まるで幼い子供か少年のように輝いている。
「そうだね。未だ見ぬ財宝を追い求める浪漫。……ま、本当に宝があるかどうかは分からないけど」
 キーゼルもまた、胸躍らせた様子で頷いている。年甲斐も無くわくわくしている三十路2人の姿は、リオンとほとんど同レベル。でも、男というのはいくつになっても、こういうものなのかもしれない。
「キーゼル様、34歳おめでとう。誕生日に宝探しなんて、貴方らしくて素敵ですね」
「ありがと。ま、何が出るかは僕にも分からないけどね」
 彼らの様子を眺めつつ、タイミングを見計らってお祝いを告げたのは紅い魔女・ババロア(a09938)。そう応じながらも、その顔に期待を隠せずにいるその姿に、ババロアは隣のノエルとそっと笑い合う。
「はじめまして。それから、おめでとうございます」
 にこ、と微笑みかけたのは、ヒトの医術士・オーネ(a78033)。少しだけそれが硬く見えるのは、初対面なのに混ざってしまって大丈夫だろうかと、そんな危惧があったから。
「霊査士さんはなかなか冒険出来ないと聞いて……お役にたてれば、と」
「そう、悪いね。でもありがとう。君にも楽しめる1日になると良いんだけど」
 だがそれはオーネの杞憂だったようだ。キーゼルはオーネの厚意に感謝すると、まだ駆け出し冒険者らしい様子に気づいて、宝探しの事を簡単にガイドしようとする。
「ならうよりなれろ、ですよ〜。まずは入ってみるのです〜♪」
「……ま、それもそうか」
 だが、実際に体験してみるのが一番だと言うノエルに頷き返して……こうして一行は、城の内部に乗り込むのだった。

●いばらの城
 茨を払い除けて、冒険者達は城に入る。建物は痛んでいる場所や壊れている場所などが見られたが、慎重に進めば、探索に支障は無さそうだ。
「みなさん、怪我をしたら言ってくださいね」
 このような場所だ。慎重を期しても怪我をしてしまう事があるかもしれないと、そう皆に告げたオーネは、ふと、キーゼルを見る。
「回復アビリティでも、使わない方が良いのでしょうか?」
「ん? ああ、それは大丈夫。平気だよ」
 気絶する可能性を考慮しての気遣いだと気付き、キーゼルはそう答えた。戦闘にならない限りは大丈夫だと。
「エルルはやっぱり、お姫様の部屋から探してみたいなぁ〜ん?」
「そうね。そこが見てみたい」
 ヒトのヒトノソリン・リル(a49244)の問いに、エルルはこくりと頷いた。果たして一体どこにあるのか……素敵な話なぁ〜んと呟いて。
(「宝探し……でも、本当の宝は……」)
 ちらっと隣に目をやって、少し恥ずかしそうに頬をかいて……そんな様子を怪訝そうに見ているエルルに「な、なんでもないなぁ〜ん」と慌てて首を振る。
「興味深い話ではあるよねぇ。はとこの子は?」
「ま、確かに、他に探し物のアテがある訳でも無いし」
 その部屋から一体どんな景色が見えるか、ちょっと興味があると言うシュウに、キーゼルも、とりあえずの目標として悪くないと頷く。
「今の所おかしい所は無いみたいだから……奥に行くか、上に行くかだネー」
 周囲を見、特に不自然な場所は無さそうだと判断したリオンは、正面の階段と奥に続く廊下を見比べる。
「部屋は上にありそうな気がするなぁ〜ん。それに、もしかしたら3階とかが隠されてて、そこにあるかもしれないなぁ〜ん」
 リルの推理には一理あるような気がした。王様などの部屋は、城の上階にある……事が多いような気がする。今回も、その可能性はあるかもしれない。
「じゃあ、行ってみようか」

 2階に上がった冒険者達は、手分けして部屋の中を覗き込んだ。
(「廊下も調べておいた方がいいでしょうか……?」)
 微笑みの風を歌う者・メルヴィル(a02418)は探索の仕方について考えながら歩く。それとも、部屋の物陰や棚の裏側などの方が……?
「………」
 2階は日当たりが良く、今日は2月にしては暖かい、春のような日差しが差し込んでいた。考えているうちに、その陽気に誘われて瞼が重くなる。朝方近くまで、頑張りすぎたせいだろうか……?
 目をこするメルヴィルだが、睡魔には抗えない。やがて一瞬意識が遠のいて……。
 脆くなっていた床を踏んでしまい、バランスを崩して倒れそうになるのと、その腕を慌ててキーゼルが掴んで、引き寄せて支えるのは同時だった。
「おおー。さすが」
 ぱちぱちと感心するシュウ。助けようとしたのは彼も同じだが、キーゼルの方が早かったのはストライダーの反応力のせいか、それとも。
「……気をつけないと。危ないよ」
「す、すみません」
 大きく安堵の息をつくキーゼルに、俯きながら答えるメルヴィル。目はすっかり覚めた。むしろ……。
「……え、と……」
 ぎゅっと、メルヴィルはキーゼルの腕を掴む手に、ほんの少しだけ力をこめる。
(「あと、ほんの少しだけ……」)
 このままで。
「……さあってー。先に危険が無いか見て来ようかねー」
 シュウが1人先に進んで、2人はもう少しだけそのままで……宝物はきっと、ここにあるのだと、そうメルヴィルは噛み締めた。

「あ」
 それを最初に発見したのは、持参した棒を使って念入りに室内をチェックしていたリルとエルルだった。注意していなければ見落としてしまいそうな場所に、上に繋がる入口と壊れたはしご。持ち合わせていたロープを使って登れば、屋上に出た。
「わぁ」
「いい景色だね」
 小高い丘の上にある、この城の屋上からは周囲を一望できた。太陽の陽射しと、微かな風が気持ちいい。
「3階とか、屋根裏とかは無さそうなぁ〜ん」
 屋上までは穴が1つ。余分な空間などは無さそうだ。この間に部屋を隠すのは不可能だろう。
 そう結論を出した冒険者達は、もうしばらく風に吹かれた後、再び探索に戻っていった。

●いばらに眠り続けるは……
 2階にあった部屋は、会議の間やホール、それに王様などが使っていたと思われる広く豪奢な部屋だった。
 だが、お姫様の物らしき部屋は無い。残されていた品から、私室や寝室らしき場所の主は、男性のように思えたからだ。
「じゃあ、次は1階かな」
 最初のホールに戻ると、彼らは奥の廊下を調べ始める。
「お宝はネー。なんとなく、地下にあるんじゃないカナって思うのネ」
 そう考えていたリオンは床を重点的にチェックする。カーペットは1度全部剥がして、何か無いか調べて。更には足元の方から壁や家具の陰を確認していく。
「下の方は茨が多いね」
 1階は隙間から入り込んだ茨が壁に絡み付いており、シュウは進路を妨げる茨を払いながら進む。彼の手で、キーゼルが無事に通れる程度のスペースが確保されており、それに続く他の面々は、更に余裕を持って通ることが出来た。
「ここは食堂みたいなぁ〜ん」
 入った部屋の棚に食器を見つけて、それを手に取るリル。財宝、と呼べるほど高価な品では無さそうだが、でも、それは当時の記憶を良く知る大切な品。それはきっと、十分すぎるほどの宝のはずだ。
「そういえばエルル、こんな話知ってるなぁ〜ん?」
 リルが口にしたのは小さな頃に聞いた御伽噺。今回と似た話で、眠りについたお姫様が、王子様のキスによって目覚めるのだ。
「それ、私も知ってるわ。悪い魔女の魔法のせいなのよね。……すごく可哀想、って思ったけど、でも……」
「王子様が迎えに来てくれるなんて、ロマンティックなぁ〜ん?」
「そうそう!」
 熱が篭るエルルの口調に微笑ましげに笑うと、リル達はお城を舞台にした童話や伝承について盛り上がりながら探索を続ける。
「丈夫な家具なのですね。すごいのです」
 ノエルが入った部屋は書庫だったようだ。本が残っている棚も多く、それを眺めて感心している。
 それに続いて入ったリオンは、ふと違和感を感じた。その正体は壁の一角にあるのだと気付く。本棚が並んでいるこの部屋で、1ヶ所だけそれが無い。そこにあるのはただの壁だけど……。
「あ」
 近付いたリオンは、すぐに気付いた。その隣の本棚の背には、壁が無いことに。
「みんな、ちょっとこっち来てヨー!」
 呼びかけて、何人かで協力すれば本棚はすぐに動いた。そこに隠されていたのは、奥へと繋がる入口だ。
 その先には、小部屋がひとつ。
 城の入口とは、ちょうど反対側。今は茨が生い茂る、おそらくは庭であっただろう場所に面した窓は大きく、空を見上げられるよう角度が工夫されていた。
 そして、その窓の下には、1つのベッド。
「もしかして……?」
 置かれた家具はどこか煌びやかで、装飾が女性の部屋である事を思わせる。ベッドの上には、誰もいない。でも……そこに1人のお姫様が眠る姿が、イメージできるような気がした。
「お姫様の物、何か見つかるかなぁ〜ん?」
「ん……でも、そっとしておいてあげたい、かな」
 クローゼットに手をかけようとしたリルに、エルルはそう言った。元々エルルは宝の類が欲しい訳ではないのだ。それよりも、そっとしておいてあげたいし、それに。
 このままにしておいた方が、きっと……素敵だと思うから。
「エルルがそう言うなら」
 本当は、お姫様の服でも見つけてあげたかったけど。真実を知るより、夢を夢のままにしておきたいというエルルの言葉に、リルは頷いた。
「……ここがどんな場所だったのか、想像すると面白いね」
 キーゼルは茨に覆われた庭を眺めて呟く。
 城の中の人々、彼らの暮らし。この部屋の主の事に……ここからの景色が、一体どれだけ素晴らしい物だったのか。
 失われた遠い過去に触れ、思いを馳せることは、宝探しの楽しさの1つに違いない。
「あ」
 そんな彼らの上から、茜色が差し込む。色を変えたその部屋の眺めは、彼らにまた違った顔を見せてくれて。
 さて、戻ろうか、と、彼らは小部屋を後にした。

●『たからもの』は、きっと
 結局、目ぼしい財宝の類は見つからなかった。城の様子を見るに、どうやら金目の品は既に誰かが持ち去った後のようだ。
 見つかった物といえば、壊れた花瓶や中身の無い額縁、埃を被った本に錆びた食器程度のものだった。
「……面白いよね」
 でも、キーゼルはそれらを手に取って、うっすらと笑みを浮かべた。それは、過去の人々の在りし日が刻まれた物だから……彼のがらくたコレクションは、きっと、こうして増えていくのだろう。

「かんぱーい!」
 城を引き上げた冒険者達は、すっかり日の暮れた酒場でテーブルを囲んでいた。次々と運ばれてくるのは、メルヴィルが昨夜せっせと用意しておいた料理の数々だ。
 それらと一緒に広げられているのは一枚の地図。城の間取りが記されたそれに、ああでもないこうでもないと、賑やかに言い合いながらあれこれと書き加えていく。
 やがて完成した地図は、人数分だけ模写されて。……その役を引き受けたシュウが手を攣りそうになる一幕もあったけれど、それはそれ。
 出来上がった地図を眺めて、今日の思い出を肴に、冒険者達はグラスを空けていく。
「みなさん、おかわりが欲しくなったら言ってくださいね。キーゼルさん、いかがですか?」
「ありがと」
 差し出されたグラスに瓶の中身を注ぎながら、オーネは少しだけ申し訳無さそうな顔をする。
「折角のお誕生日なのに、お祝いの品を用意できなくて……」
「いいよ、そんなの。そりゃ貰えれば嬉しいけどさ」
 今日はこれがあるんだし、と笑いながら地図に視線をやる。この地図と、それに込められた思い出は、何物にも代えがたいプレゼントだ。
「楽しかったよ。ありがとう」
 皆に礼を言うキーゼルだが、リオンは「まだまだっ」と首を振る。
「せっかくの誕生日なんだから、お祝いしないとネー」
 そうリオンは得意なシタールを奏でていく。最初の曲は、バースデーソング。いつしかそれに、皆が歌声を乗せて。
 ――誕生日、おめでとう。
 宴は、それからもう少しだけ、続くのだった。


マスター:七海真砂 紹介ページ
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作成日:2009/02/26
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