≪レオンハート診療所〜注射もあるよ〜≫いざ往かん、山頂温泉の旅♪



<オープニング>


「やっほー!!」
 ……やっほー……やっほー……っほー……ほー……ー……。
 山間に雪翅蝶・リゼッテ(a65202)の声が木霊する。
 まだ寒さの残る晩冬の山中、そこに彼を始めとするレオンハート診療所一行の姿があった。ついに決行された旅団設立一周年記念兼思い出作りの小旅行、今日がその当日なのだ。
 現在、一行は山道の脇に腰を下ろして休憩中。その中から一人が立ち上がり、リゼッテに並ぶ。
「んー、いい景色っ。山頂までもう少しだね」
 旅行と聞いてほいほい着いてきた、プーカの忍び・ポルック(a90353)である。
 ちなみに、目的は山登りではない。この山の頂付近にある温泉旅館こそが、今回の旅の目的地。すこぶる美味いと評判の料理、入るだけでお肌つるつると噂の美肌温泉、更にとびきりの美人女将と三拍子が揃い、地理的な不利をものともしない賑わいを見せているという。
「楽しみですね♪」
 今から顔を綻ばせているリゼッテ。その後、休憩を終えて旅館へと向かおうとすると、ポルックが何やら慌てた様子で自分の荷物を探っている。
「あ、あれ? バッグが開いてる……? あっ、おやつが無い!?」
 周囲に目をやると、お菓子を抱えた猿が数匹、ちょうど木々の向こうへと消えていく所であった。

「まぁ……、お菓子を?」
 到着した一行を部屋へ案内する途中、先ほど起きた事件の話に、女将は目を丸くする。
「お猿さん達、よく出るんですか?」
 リゼッテが聞くと、女将はのんびりとした口調で答えた。
「そうですねぇ……、最近群れで現れて色々と悪さをしているみたいです。おかげで今年はお客さんが減ってしまって大変。うふふ」
(「笑い事じゃない気が……!」)
 評判通りの美人女将だが、少々天然が入っているかもしれない。
「はい、ではこちらがお部屋になります〜……、あら?」
 部屋の中央にはみんなで囲めるくらいの大きさの机が置かれ、その上にはお茶とお茶請けが……無かった。というか、あきらかに何者かによって食い荒らされた跡がある。窓開いてるし。
「あらあら〜」
 と困った顔をしつつそこはそれ、女将はすぐに従業員を呼び寄せ、別の部屋を用意させる。
 荷物を下ろし、ようやく一息つく一行。何だか微妙にハプニングが続く予感もするが、せっかく来たのだから楽しまなければ損というものだ。団員達を前に、リゼッテは声高らかに宣言する。
「それじゃ、まずは夕飯まで自由時間なのです♪」


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参加者
黒の断章・ユズ(a25486)
白森の護人・ディッカ(a62274)
護風桂花・ティーシャ(a64602)
銀翅灯・リゼッテ(a65202)
仮面の女勇者・デアボリカ(a68150)
淡雪華・ノアゼット(a68408)
NPC:トリックオア・ポルック(a90353)



<リプレイ>

●露天風呂と金髪美女
「わぁ、先客がいる……」
 旅館から徒歩3分、露天風呂の手前に設置された簡素な脱衣所にて、風花繚乱・ユズ(a25486)の『何かに期待した声』がだだ漏れ状態にあった。
 混浴の露天風呂。脱衣所に置かれた女性ものの着衣。うきうき状態のエンジェルの少年。純真無垢と謳われたエンジェルが、ランドアースの俗世に毒された一例と言えよう。もちろん、元々の彼の気質である可能性も否めないが。
「わわ、ちょ、ちょっと待って」
 早速突撃する構えのユズを、雪翅蝶・リゼッテ(a65202)が慌てて追う。肩の上には、こっそり連れてきたオコジョのネオの姿。女将によると、この露天風呂には野生動物もよく入りに来ているようで、猿と一緒になることも日常茶飯事、ペット連れでもまったく構わないとのことだった。
「さむっ、っていうか、この脱衣所シンプルすぎるよ……」
 裸になった途端、身をちぢこませるプーカの忍び・ポルック(a90353)。脱衣所とは言うものの、実際はちょっとしっかりした造りの衝立が何枚か立てられているだけで、すきま風どころか普通に風の通り道になっている。脱いだ服も、置いてあるカゴに放り込むだけであった。

「ん……あ、あ〜ん……体に沁みるわねぇ〜」
 湯気の向こうから色っぽい声が聞こえてくる。声の艶からして、おばあさんでしたというオチは無い。3人は意を決して、声のする方へと歩み寄る。
 どうやら女性は1人で来ているようだった。もうもうと上がる湯気の合間からちらちらと見え隠れする艶めかしい肢体に思わず目がいってしまう。湯に浮かんでたぷたぷと揺れる胸、濡れて肩にかかる金色の髪、そして、透き通るような白さの――禍々しい仮面。
「なんだ、リカさんか」
「なんだとは失礼ねぇ〜。可愛くない子にはお仕置きしちゃうわよぉ〜?」
 そこに居たのは、仮面の女勇者・デアボリカ(a68150)であった。
 少しホッとしたような顔でリゼッテが聞く。
「早いですね。いつの間に?」
「部屋に案内された後ぉ、すぐにグランスティードぶっ飛ばしてきたのよぉん♪ ほんと、すっごくいいお湯だから、団長さん達も早く入るといいわぁん」
 軽く体を洗い、リゼッテ達3人も温泉につかる。最初はおっかなびっくりだったネオも、すぐに慣れて今では温泉の中をすいすいと泳いでいる。
「可愛いわねぇん」
「そ、そうですね……」
 少しそわそわした様子で、デアボリカの方を見ずに答えるリゼッテ。旅団の仲間とはいえ、全裸の女性がすぐそこに居ると思うとやはり緊張してしまうのか。
 一方、ユズとポルックは割と平然としていた。
「だってリカさん普段からほとんど裸みたいなものだし」
「今更な感があるよねっ」
「そんなものかしらぁん? ちょっとショックかもぉ〜」
 そう言ってデアボリカが両手を組むと、たわわに実った胸がむぎゅっと押し潰されて強調される。真っ赤になったリゼッテは、無言で遠ざかっていくのであった。

●お猿の群れVSドリアッド部隊
 その頃、雪薔薇の戦士・ノアゼット(a68408)は旅館の庭先に居た。それほど広くはなかったが、その分隅々にまで手が行き届いているのが伺える。
(「自然のままでも素敵だけれど、人と植物とが織り成す風景も好き、です」)
 綺麗に剪定された庭木は、遠くに見える山々がより映えるようなさり気ない配置で植えられている。庭の中だけで完成させるのではなく、風景をも庭の一部として取り込んだ構成。それは、まさに人と自然との調和であった。
 護風桂花・ティーシャ(a64602)は綺麗に形を整えられた生垣の裏へと回り、そこに何も居ないことを確かめると、ひとつ溜息をつく。
「お猿さん、居ないのです……」
 そう、彼女たちがここに居るのは、実はこちらがメインだ。最近よく現れては悪さをしていくというお猿さんたち。ティーシャは、彼らに会って何故そんなことをするのか聞いてみたかった。
 その時――、
「ん? んん……?」
 白森の護人・ディッカ(a62274)の視界の端に、露天風呂のある方向から何かをひらひらさせて走ってくる集団の姿が捉えられた。目を凝らしてみる。見間違いでなければ、あれはリゼッテやユズが来ていた服で、それを持って走っていくのは10匹ほどの猿の集団であった。
 ティーシャやノアゼットも気付いたようで、3人は互いに頷きあい、
「ドリアッド部隊、いざ出陣!」
 ノアゼットの高らかな宣言と共に、追跡を開始した。

 途中、山あり谷あり猿あり罠ありの様々なドラマが待ち受けていたが、そこはそれ、冒険者である。たかが普通の猿などに後れを取るわけはなく、楽々と追い詰めて最後はディッカの粘り蜘蛛糸一閃。今や猿たちは、きーきーと情けない声で抗議のアピールをするしか出来ない状態にあった。
 ここで余裕の一言。
「はぁ、はぁ……、いくら地元のお猿さんといえど、はぁ、はぁ……、冒険者の手にかかればこの通ごほっ、ごほっ!」
「お、お師匠様!?」
 膝をついて肩で息をするディッカ。ノアゼットの悲痛な声が山に木霊した。
 一方ティーシャは、群れのボスらしき猿に当たりをつけ、魅了の歌を使って話しかける。
「悪さをするのは、山で食べ物が取れないからでしょうか?」
「それもあるけど、むしろたのしいから?」
 猿のボスは、まったく悪びれる様子がない。
「……あまりおいたが過ぎると、旅行者さんが来なくなって、あの旅館も潰れてしまいますよ?」
「それはこまるなー。なにかうまいかいけつさくはないものか」
「とりあえず、その服を返して下さい」
「えー」
 そんなやり取りがしばらく続き、どうにか話をつけた頃には辺りはすっかり暗くなっていた。
 魅了の効果が切れた後、猿は今の話をきれいさっぱり忘れてしまうだろう。しかし、悪さをした後に人間に追い回され、捕まえられたという記憶は残るはずだ。少しは大人しくなるかもしれない。
「そろそろ夕飯の時間ですね。戻らないと……」
 そこでティーシャは気付いた。そうだ、服を取り返したはいいが、あれから相当時間が経っている。たしか、リゼッテやユズは旅館から離れた所にある露天風呂に行くと言っていたはずだ。
「…………はぅ」
 服を握り締めた手に、嫌な汗が流れた。

●戦慄の食卓
 楽しい楽しい夕飯の席。しかし、その一角にどんよりとした空気が漂っていた。
「もうお婿に行けないのです……」
 露天風呂に入っている間にすべての服を奪われ、仕方なく手ぬぐい一丁で旅館に帰る途中、地元のガールスカウトの集団に出くわしたリゼッテの言である。
「そんなに気にすることないわよぉん。減るもんじゃなしぃ」
 その言葉の通り、旅館の男衆にも裸を見られたはずのデアボリカは、そんな事など全く気していない様子で料理に箸を伸ばしている。
 出てきたのは山菜の天麩羅。アザミ、ウドの葉、さらにはレンコンや芋等々――。虚ろな目をしていたリゼッテも、次々と並べられる料理を前にして次第に瞳の輝きを取り戻していった。
 この料理を一際喜んでいたのがノアゼットだ。
(「いっぱい食べても、温泉で汗を流せば大丈夫ですよね」)
 目の前の皿に盛ってあった天麩羅がみるみる消えていく。
「ノア、そんなに食べると太るんじゃ……?」
「何か言いましたか?」
「いえ、ナンデモアリマセン」
 本能的な危機を察知し、目を反らすリゼッテ。その隙をユズがついた。
 目にも止まらぬ速さとはまさにこの事。あっという間にリゼッテの皿から天ぷらが消え去った。
「あ、あれ?」
 ユズの方を見る。
「……何にもしてないヨ?」
 証拠は既に胃の中。完全犯罪成立である。
 続いて、一人一人の前に小さな鍋が用意された。仲居によると、この辺りで捕れた猪を使ったぼたん鍋だという。猪は初めてだと、ユズが顔を綻ばせていた。
 鍋が煮えるのを待っていると、デアボリカの口からこんな台詞が。
「こうして見回すと若い子ばっかり、お肌もぴちぴちねぇ。……後で温泉行ってみんなでスキンシップしなぁい?」
 肩をすり寄せてくるデアボリカにユズが一瞬気を取られたその時、今度はリゼッテが動いた。
「え?」
 猪の肉がごっそりなくなっている。もひもひ動かされるリゼッテの口を呆然と見つめるユズの横から、ポルックがそっと箸を伸ばし、残された僅かな肉を奪い去っていった。
「あ、ちょっ!?」
「やあ〜ねぇ冗談よぉん、半分くらいは……って聞いてるぅ?」
 デアボリカの声は、もはやユズの耳には届いていなかった。
 隅の方の平和な席では、
「やっぱりみんなと食べるとおいしいね♪」
 そう言って笑うディッカに、ティーシャが楽しそうな顔をして頷いていた。

●温泉、卓球、そして
 食事後、ティーシャとノアゼットの2人が訪れたのは、旅館内にある温泉。ここは男湯と女湯が分かれており、異性の目を気にしないで良いのが利点だ。
「いいお湯です……」
 美肌効果を謳う温泉だけはあるとご満悦のノアゼット。
 もちろん、彼女自身普段からお肌のお手入れには余念がない。
「年を取ってからでは、取り返しがきかないですしね……」
 同じく湯船につかっているティーシャは、何とはなしに両手を自分の胸に当てていた。
(「……気にしてないのです。ぺたんことか気にしてないのです」)
 あきらかに気にしていた。
「身長と同じで、精神的な成長が無いと大きくならないのでしょうか……」
 思わず声が零れ出るほどに。
「ティーシャちゃん?」
「いえ、何でもありません」
 不老種族である彼女たちにも、それぞれ悩みはあるようだ。
 湯船から出て、ぬめり気のあるお湯を洗い流そうとした時、脱衣所の扉がからからと開いた。
「お背中流しましょうか?」
 女将であった。
「綺麗な肌……。やっぱり若い子は違うわ〜」
 女将は早速湯煙で曇る鏡の前にノアゼットを座らせ、その小さな背中を手ぬぐいで擦っている。
「女将さんこそ、本当にお綺麗な方です。その美しさを保つ秘訣、教えて頂けないかな……」
 そうねぇ、と少し考える仕草をして、女将は言う。
「やっぱり毎日この温泉に入っていることかしら。皆さんも、ぜひまた入りにきてね。うふふ」
 抜けている所があるように見えて、やはりこういう所はしっかりしている。
 ノアゼットは素直に感心していた。

 その後、温泉から上がった2人が遊戯室を覗きに行くと、そこではユズ、リゼッテによる激しい卓球バトルが行われていた。
「いくよっ」
 威勢の良いかけ声と共に、ユズがサーブを放つ――と同時にラケットを握っていない方の手が素早く動き、空中に紋章を描いている。
「甘いのですっ! らりらりら〜♪」
 ユズのマリオネットコンフューズを躱しつつ、リゼッテは魅了の歌を歌いながら打ち返した。
「どっちもがんばってぇ〜♪」
 台の横では、チアガール姿のデアボリカが両手のポンポンをふりふり踊っている。
「ちょ、リカさん危ないって! 色んな意味で!」
 ポルックは、デアボリカが足を上げるたびに前に飛び出し、彼女の下半身を隠していた。
「……あらららん、いつもの癖で下穿いてなかったわぁん。ん〜でも、ぱんつじゃないから恥ずかしくないのよぉん♪」
「ぱんつがないから恥ずかしいんだってばっ!」
「ふんぬー負けないのですよー!」
 何とか勝負に集中するリゼッテ――渾身のスマッシュ。
 ユズが何とか飛びついて拾う。
「ポルックさん援護お願いっ、お菓子分けるから頼むよ〜!」
「む、無理無理っ! ボクはここで守らなきゃならないものがあるのさっ」
 ある意味、ポルックの働きに全てがかかっていた。
「あうっ」
 鋭い打球を追い切れず、ユズが床に倒れ込む。その勢いで、はらりとはだける胸元。
 何故か集まっていた仲居さん達から、きゃーきゃーと黄色い声が飛んだ。
「仕事さぼってると女将さんに怒られるんじゃ……」
 よく見ると、女将さんも居た。
「……駄目だこりゃ」
 そんなこんなで、第一戦はリゼッテの勝利で幕を閉じる事となる。

「あんまりやったことないけど、今のを見て大体分かった」
 ディッカが片手に構えたラケットを何度か振ってみせた。今のを参考にするのは正直どうかと思われるが、何はともあれ第二戦リゼッテVSディッカの開始である。
「はぁっ!」
 裂帛の気合と共に、ディッカの力強いサーブが唸る。
 リゼッテはどうにかラケットに当てただけ。チャンスボールが力無く浮いた。
 ディッカのスマッシュ。決まった――かに思われたその時、リゼッテの体が宙を舞い、着地と同時にディッカの強打を打ち返していた。
 ライクアフェザーによるまさかのバック転バックハンド。ギャラリーも沸く沸く。
「やるね」
 益々本気になったディッカは、幻惑の剣舞や粘り蜘蛛糸を絡めた多彩な攻めを繰り出す。
 しかし、リゼッテの背中を守るのは何を隠そうあのタイラントピラー。生半端な攻めで彼の動きは止まらない。
「たぁっ!!」
 リゼッテのスピードドライブ。ディッカがラケットを伸ばすも届かない――誰もがそう思った。
 しかしその瞬間、ディッカのラケットに森の木を思わせる新たな外装が加えられた。圧倒的リーチがディッカの横を通り過ぎようとしていたボールを捉え、打ち返す。ウェポン・オーバードライブだ。
 かん、かん、と乾いた音を立てて床を飛び跳ねるボール。
「息が上がってるよ、リゼ」
「そう言うディッカさんこそ」
 何という真剣勝負。
「2人ともカッコイイわよぉん♪」
「だから危ないって!!」
 賑やかな笑い声と共に、温泉旅館の夜は更けていく――。

 深夜、リゼッテはふと目を覚ました。隣にはネオとぬいぐるみのりび2ごう。その隣では、ユズとディッカがすぅすぅと寝息を立てている。柔らかそうなほっぺをつついてみると、ユズは「うぅ〜ん」と声を上げて寝返りを打ち、むこうを向いてしまった。
 くすりと笑って、リゼッテは静かに窓の前まで歩み出る。そこには、すべてを包み込む満天の星空。星が近い。手を伸ばせば、届くような気がした。
「またいつか、来れるといいな……」
 願うように、祈るように、リゼッテは呟いた。


マスター:東川岳人 紹介ページ
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