【春の谷のリップルクラット】やわらかぬのえほん



<オープニング>


●春の谷のリップルクラット
 薄らと氷の張った湖みたいな色をしていた冬の空も、少しずつ少しずつ、ふんわりネモフィラの花が咲いたかのような優しい青の色に変わってきました。
 谷を冷たく吹き抜ける風にもほんのり微かにおひさまの匂い。
 日毎に明るくなっていく陽射しを浴びて、リップルクラットの谷は柔らかな白練色に照り映えます。
 白練色の崖に挟まれた谷の奥へと進んでいけば、そこにあるのはやっぱり白練色した崖がぐるりと周りを囲む広い場所。空飛ぶ鳥が見下ろせばきっと、山の一部をスプーンで掬い取ったように見える、そんな場所に小さな村がありました。
 村の名前はリップルクラット。
 近くにある街や他の村では、春の谷のリップルクラットと呼ばれています。
 胡桃色した屋根が目印の大きな館に住んでいるのが、村長のサイラス・リップルクラット。くすんだ金髪に葡萄色の瞳、そして眼鏡がトレードマークの彼は、まだ三十歳にもならない青年です。村長としての威厳を備えるにはまだまだ時間がかかりそうですが、誠実で勉強家な彼を村のひと達はとても信頼しています。
 彼の仕事は文字を綴ること。字を書くのが苦手な鍛冶屋さんが遠い村の親戚に送る手紙を代筆したり、街の学者さんに頼まれて貴重な学術書の写本を作ったりといったお仕事です。秋の終わりにはある貴族から「我が家の年代記を編纂して欲しい」と系図やご先祖の日記をどっさり渡されて、この冬いっぱいかけてその仕事に取り組んでいました。
 本を読み始めると夢中になってしまって、他のことをみんな忘れてしまう――そんなちょっと悪い癖のあるサイラスですが、実は彼にも、昨年の春に結婚した綺麗な奥様がいます。桜色の髪と菫色の瞳をした奥様の名前はジュディ。けれど年代記の仕事に熱中してしまったサイラスは冬の間ほとんどジュディの相手ができませんでした。
 若奥様はさぞかし退屈だっただろうと思うでしょうが、ところがどっこい、ジュディはジュディでこの冬はとても忙しかったのです。
 春の谷のリップルクラットには小さな子供がたくさんいます。
 村の兄弟と結婚した双子の姉妹がそれぞれ双子を産んだりだとか、四人の子供がいる家族が越してきたりだとか、男やもめになってしまった五人の子持ちの兎飼いが三人の子持ちの未亡人と再婚したりだとか、そんな偶然が幾つも重なったためなのですが――それはともかく。
 手芸の得意なジュディはこの冬ずっと、子供たちのために布絵本を作っていました。
 紙ではなく布で作られた絵本、それが布絵本です。
 子供たちはジュディの布絵本に大喜びで、もっとたくさん欲しいと彼女にせがみます。
 任せて、と張り切ったジュディは街に布の注文を出しましたが、困ったことに、頼んだ布が街から届かなくなってしまったのです。それと言うのも――。

●やわらかぬのえほん
「谷の入口に、何処からかやってきたグドンの群れが居座ってしまったからですの」
 藍深き霊査士・テフィン(a90155)はそう言って、酒場の冒険者達に詳しい説明を始めました。
 谷の手前には草原が広がり、綺麗な川が流れています。グドン達は今その川の魚を食べることに夢中になっているので、幸いなことにまだ街や村が襲われたという話はないようです。しかし今は大丈夫でもいつグドン達が気を変えるかわかりませんし、このままでは誰もリップルクラットへ行けません。そのため、街からグドン退治の依頼が来たのです。
「グドン達の数は三十ほど。リーダーは長い腕に針のような硬い毛を生やしたピルグリムグドンで、戦いになれば周囲にこの毛針を飛ばして攻撃してきますの。針には毒があるようですから……充分に御注意下さいませ」
 今の冒険者にとって最早グドンは怖い敵ではありません。
 ですがピルグリムグドンはまだまだ手強い相手。油断せず戦いに臨む必要があるでしょう。
 また、もしグドンが逃げ出せば谷の奥のリップルクラットに向かうかもしれません。
 冒険者には怖い相手ではなくても、一般人にとってはグドンも恐ろしい脅威ですから、一匹も逃がすことなく退治して欲しいと霊査士は言いました。
「そして、退治を終えた後は……リップルクラットのジュディ様へ布を届けて頂きますよう、お願い致しますの。もし布絵本に興味をお持ちなら、これまでに作られた布絵本に触れてみたり、ジュディ様の布絵本作りを手伝ったりするのも……楽しいかと」
 彼女の作る布絵本は、遊び心がいっぱいに詰まったとてもとても素敵なもの。
 鮮やかな色や綺麗な模様の布で作られた布絵本は、見た目も可愛い上に手触りが柔らかで、紙の様に簡単に傷んだりすることもありません。そして、森の木に実った真っ赤な林檎も、空の雲みたいに切り抜かれた真白なフェルトで出来た羊の毛も、みんな小さなボタンで留められていますから、子供達は自由にそれらを外して、林檎狩りや羊の毛刈りを楽しむことが出来るのです。
 館に集まっていることが多いという村の子供達も、冒険者が一緒に布絵本で遊んでくれたり、布絵本作りに関わってくれるなら――とてもとても喜んでくれることでしょう。


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参加者
緋色の花・ジェネシス(a18131)
奏す灰白・ツェツィーリア(a20211)
悠揚灯・スウ(a22471)
空言の紅・ヨル(a31238)
白雪・スノー(a43210)
刻の白露・セッカ(a45448)
風車の唄・アテカ(a58345)
獣哭の弦音・シバ(a74900)


<リプレイ>

●はるのたにのリップルクラット
 深い山の奥から溢れだす綺麗な綺麗な水の流れは、きっとこんな素敵な色をしているはず。
 見上げる空には透きとおるような優しい水の青が広がっていて、ふんわりと咲いた白い花の花弁を風に預けたかのような、薄らと淡い雲が流れて行きます。空言の紅・ヨル(a31238)は小さく唇を綻ばせ、ほんの少しだけ目蓋を伏せました。胸に描き出されるのは、白練色をした崖に挟まれた谷の奥にあるという、春の谷と呼ばれる村の風景です。
 話を聞いただけでも浮かぶ優しい姿。
 その優しい風景を背負い護るのは、自分達冒険者。
 決してグドン達を逃がすわけにはいきません。
「少し回り込んで、川の下流から近づくべきかと思ったよ」
 陽の光を反射しないよう気をつけて遠眼鏡を覗いていた獣哭の弦音・シバ(a74900)が、皆へ囁くように言いました。そちらなら身を隠せそうな茂みも幾つかありますし、春草がそよぐ様を見れば、そちらが風下だということもわかったからです。
 緋色の花・ジェネシス(a18131)が皆で準備を確認しましょうと提案しました。草をすりつけて匂いを消したり、目立ちそうなものはマントで隠したり、此方が近づく前にグドン達に気付かれて逃げられたりしないよう注意します。勿論召喚獣もまだお留守番です。
「さて、確実に逃さぬよう参りましょうか」
 彼の言葉にこくりと頷き、刻の白露・セッカ(a45448)は身を屈めて手近な茂みに移動しました。
 春の谷の手前に居座っているグドン達を退治し、春の谷に布絵本の材料を届けるのが仕事です。
 温もりがある絵本なのかなと思えば、瞳が合った奏す灰白・ツェツィーリア(a20211)がまるで心を読み取ったかのように淡く微笑んでくれました。
 暖かに降る陽の光のしたで読む布絵本からは、きっととても暖かで幸せな香りがするのでしょう。
 穏やかな時間の流れる、春の陽だまりのような。
 岩や茂みに身を隠しながら、少しずつ、少しずつ、冒険者達はグドンの群れへと近づいていきます。
 グドン達は綺麗な水の流れる川へと入り、手づかみで魚をとっているよう。
 銀色をした魚や水飛沫がきらきらと光を弾く様子が、はっきり見えてきました。
 一度くらいなら術を使っても大丈夫そうと考えて、ツェツィーリアは真珠の色と地平の空の色で彩られた悠揚灯・スウ(a22471)の聖衣に護りの力を注ぎます。お礼代わりににこりと笑って、スウは鈴蘭咲く術手袋に包まれた手をきゅっと握り込みました。
 もうすぐ、もうすぐシバから「せーの」の合図があるはずです。
 皆が其々良い位置についたのを確認し、シバは心の声で攻撃の合図を送りました。
 一斉に飛び出した冒険者達の中で最も速く自分の立ち位置を整えたのはジェネシスです。
 蒼く清冽な水晶の輝き持つ剣で溢れる魔力を制御すれば、まるで心の片隅に潜む影だけで作り上げたみたいな暗い暗い色をした鎖が幾本も弾けるように飛び出しました。握り締めた手を胸に当て強い意志を篭めたなら、スウの魔力も同じ鎖となって宙を翔けます。
 ふたりの鎖は川の中や岸にいたグドン達を次々に貫き、彼らをばたばたと薙ぎ倒していきました。
 群れの中でひときわ目立つ存在――ピルグリムグドンは、硬そうな毛に覆われた腕で鎖を払い除けましたが、両方の鎖から身を護ることまでは出来ません。ペインヴァイパーの息吹を乗せた鎖が強く強くピルグリムグドンを縛めると同時、紅いベルトの軌跡で風を切ったヨルの手から不吉な模様が描かれたカードが放たれました。
 薄く鋭いカードがピルグリムグドンに黒い烙印を刻みます。その様子に思わず見惚れそうになりながら、雪結晶煌く宝玉を戴く杖を揮った白雪・スノー(a43210)が皆の傍に護りの天使を呼びました。
 仲間を、春の谷のひとびとを護りたいと思う心。
 護りたいという願いを携え、信頼できる仲間達と肩を並べるなら――久し振りの戦いも怖くない。
 眼の前には大好きなひと。
 前に立てるひとが少ないからと吟遊詩人ながらに駆けてくれた、ヨルの背中が見えています。
 ――貴女が、私を再びこの場所へ連れてきてくれた。
「術が効きにくい……ってほどでもないかな」
「ん。力任せに行くのが一番良さそうだけど、全然当たらないって程じゃない」
 牙狩人ながら前に出たシバは身動きできずにいるピルグリムグドンの様子をちらりと見てから、遠く離れた場所にいたグドン達目掛けて桃色の矢を放ちます。予想していたとおりピルグリムグドンは心の術に強そうな様子ですが、心配するほどでもないようです。
 紋章術士ながらやはり前へ出たセッカにも遠くのグドン達が同士討ちを始める様子が見えましたが、そちらではなくまず自分の力が届くところを狙って、宙に紋章陣を描きます。雪模様を綴る術手袋に覆われた手がとんと紋章を突けば、力に満ちた光の雨がグドン達に降り注ぎました。
 視界の端っこに、陽射しで白練色に照り映える崖に挟まれた谷が見えています。
 あの谷の奥に素敵な絵本を作るひとがいると思えば、風車の唄・アテカ(a58345)は心に羽が生えたかのような気持ちになりました。そのひとの役に立ちたいという思いで胸がいっぱいになります。
「だからアテカ、頑張るよ!」
 花が舞う可愛らしい術手袋に包まれた指先で紋章陣を描き出し、虹色煌く力を紡ぎあげました。

●はるのしあわせ
 陽の光に溶けていくようなツェツィーリアの歌声に包まれて、鎖の反動の消えたジェネシスが地を蹴りました。油断なく敵の様子を見ながらヨルが皆に声をかけます。
「今のうちに谷を背に!!」
「この機がチャンス、ですね」
 素敵な感じにふかふかしてるらしいシバのベストに護りを注いで、スノーもヨルの示した方角へ瞳を向けます。ピルグリムグドンが動けない今が確かに移動のチャンス。冒険者達は万一グドンに逃げられた場合でも彼らが春の谷に入り込んだりしないよう、谷を背に護れる位置へと動きました。
 皆で慎重に作戦を立てた甲斐あって、冒険者達は一匹たりとも取り逃がすことなくグドン達を退治することができました。残っているのは、身動きできないピルグリムグドンだけ。
 しかし、不幸とペインヴァイパーの息吹を重ねた拘束も絶対のものではありません。
 傷だらけになったピルグリムグドンが、ようやくのことで鎖から逃れました。長い腕がぐるんぐるんと振り回された瞬間、その腕を覆っていた毛が針のようになり、数え切れないくらい飛んできます。
 じん、と心を痺れさせるような痛みを感じさせるその毛針には、毒があると霊査士は言っていました。
 ですが、盾を構えて毛針を凌いだセッカには、痛みも毒も感じられません。
「キミのために残しておいたんだ……しっかり、受け取って」
 語りかけるように呟き、セッカは流れる光で描きあげたみたいな紋章陣を織り成します。そこから生まれてくるのは、まるで真夏の太陽を小さく小さく凝縮したかのような、熱く燃え盛る火の球です。
 眩い焔の塊が爆ぜる様に瞳を細め、シバも黒鉄の弓から桃色の矢を放ちました。咄嗟の防御とスノーがくれた鎧聖降臨で毛針を弾いた彼も、動きに躊躇いがありません。
 二人以外は皆血を流していましたが、護りの天使のお陰で深い傷にはならなかったようです。
「痛みも毒も、すぐに消しますから」
「うん、お願いツェツィーリア!」
 毒を払うための風を呼ぶべきか少し迷ったアテカは、ツェツィーリアの言葉に元気よく頷きます。風も心も震わせる彼女の歌が皆を包み込むのと同時に、アテカは輝く毛並みの狼を放ちました。
 短い口笛にも似た音をつれ、今度はジェネシスとヨルの手から不吉な絵柄のカードが飛びます。
 黒い烙印が再びピルグリムグドンに刻まれる様子に背を押されるような心地になって、スウは光り輝く紋章陣を宙に刻みました。
 遊び心たっぷりの布絵本の材料をお届けできるなんて、きっととてもとても幸せなこと。
「至福の邪魔をする輩は、がつんと退治です!」
 スウの声と同時に弾けるような勢いで紋章陣から木の葉が噴き出して、ペインヴァイパーの赤い息吹を抱きながらピルグリムグドンの身体を絡め取ります。
 続けて皆で攻撃していけば、身動きできないままのピルグリムグドンは、どんどん、どんどん力を失っていきました。ヨルが影から奔らせた、心を冷たくするような魔力の手に爪を立てられれば――最早ピルグリムグドンには毛や皮膚の護りもありません。
 ツェツィーリアは漆黒の針の群れを呼び、その鋭い煌きでピルグリムグドンの命を断ち切りました。
 春の幸せに影が落ちることのないよう。
 決して憂いが残ることのないように。 

●やわらかぬのえほん
 不思議で、けれど何処か優しい色の崖に挟まれた谷を、陽と草と、水の香りを抱いた風がゆっくりと流れて行きます。衣服についてしまった血の汚れを川の水で綺麗にしてきた冒険者達に、その風は少し冷たく感じられました。けれど陽の匂いの風が水の名残を払っていくのは、とても気持ちいいことでもあります。風に誘われるように前へ前へと瞳を向ければ、すぐに視界がぱぁっと開けました。
 そこは柔らかな春草に覆われて、素朴で暖かな色合いをした屋根の家が点々と建つのどかな村。
 おひさまの雫を集めたような優しく眩い黄色の花をちらほら咲かせているのはミモザアカシアの樹でしょうか。見回せば同じ樹が幾つもあります。もうしばらくすればきっと、光の雫の花が谷いっぱいに咲き零れることでしょう。
 浮き立つ心と大切な荷物を胸に抱いて、ツェツィーリアは春草の中を伸びていく道の上を歩きます。
 布絵本の材料達は汚れたり傷んだりしないよう確りと包んできましたから、お届けすればすぐにも使える状態です。道の先には胡桃色の屋根を持つ大きな館が見えています。きっとあそこが村長の館。布絵本を作るジュディのいるところです。
「こんにちはー! ご注文の布をお届けに上がりましたー!」
 思い切りよく開かれた大きな玄関扉を覗き込み、スウが明るい声で呼びかけます。
 すると、奥の方から「きゃー!」という歓声が幾つも聴こえてきました。
 いらっしゃい、ありがとうとぱたぱた奥から駆けて来たのは、桜色の髪をした若奥様。
 彼女がきっとジュディです。
 現れたジュディは、髪に花を咲かせたり、背に翼を持っていたり、獅子の頭を持っていたりという見知らぬ種族ばかりの彼らに少し驚いたようでしたが、冒険者様ですか、とすぐに顔を綻ばせました。
「初めまして! アテカだよ!」
「はい、初めまして、ジュディです」
 元気なアテカに挨拶を返し、皆とも挨拶を交わしながら、ジュディは奥へと案内してくれます。奥には午後の暖かな陽射しが射し込む大きな居間があり、たくさんの子供達が思い思いに遊んでいました。
 冒険者さん達よとジュディが紹介すれば、子供達は一斉に瞳を輝かせます。
 冒険者もドリアッドもエンジェルも、ソルレオンだって子供達にとって初めての存在なのです。
「ねぇねぇ、その花本物ー?」
「その羽も本物ー?」
「そのぽふぽふも本物ー?」
「ぽ、ぽふぽふ?」
 どうやらぽふぽふとはシバの鬣のことのよう。
 さわるー、と小さな手を差し出してきた男の子を彼が肩車してやれば、恐る恐る鬣をぽふぽふしてみた子供は、その手触りに嬉しそうな声を上げ、シバの頭にしがみつきました。
 比較的年が近いせいか、あっと言う間にアテカは子供達に溶け込んで、これまでに自分がお出かけした色々な場所の話をしながら、子供達に布絵本を見せてもらっています。その様子を見れば何だかとても微笑ましくて、ツェツィーリアもそこに混ぜてもらいました。子供達と一緒に開いてみるのは、夜の秘密を閉じ込めた森の絵本。柔らかなフェルトで作られた樹の扉を開いてみれば、そこにはリス達のオーケストラが揃っていて、秘密の音楽会が開かれています。
 可愛らしいリス達の様子に瞳を緩めれば、すぐ傍からスウの感嘆の声が聴こえてきました。
「こ、このもふもふ犬さん絵本素敵……!」
 スウが手に取ったその絵本では、なんと主人公のもふもふ犬が確りとしたぬいぐるみに作られています。鳥の巣のある茂みを潜ったり、いい匂いのするお菓子屋さんを覗いたりといった冒険の末、もふもふ犬は最後にちゃんとおうちへ帰るのです。
「これ、全部手で作れるの……? 触れてもいい……?」
「ええ、勿論」
 早速新しい布絵本を作り始めたジュディの手許を覗き込み、セッカが遠慮がちに訊ねれば、彼女は微笑みを返してくれました。目が冴えるような青空にぽっかり浮かぶ白い雲。
 触れてみれば、雲だけでなく青空までもが柔らかです。
 雪色の布や糸をあつめてヨルが作った女の子は、何だかスノーに似ています。春空のしたの大地にそっと縫い付ければ、隣に紅菫の花咲くドリアッドのお嬢さんをスノーが並べました。肩を寄せ合えば柔らかな頬が触れ合って、スノーの翼が優しくヨルをくすぐります。
 大好き。
 零れた呟きにスノーは口元を綻ばせました。
 羽の女の子が、大好きな紅菫のお嬢さんに会いに行く。二人でそんな絵本を綴ります。
 桃色をしたまぁるい蕾を指で触って花を咲かせる布絵本でたっぷり遊んでから、アテカは「こんなステキな絵本が作れるジュディはきっと魔法使いさんだよね」と嬉しそうに顔を綻ばせました。
「魔法使いさん、ありがとう! 」
 飛びきりの笑顔で言えば、そんなこと初めて言われた、とジュディも幸せそうに笑ってくれました。
 ほんのちょっぴり緊張しながらも、シバも「ありがとう」と伝えます。
 自分達の存在は、こんなひとびとの笑顔に支えられているのだと思いました。
 皆様へ春の訪れを綴る曲を贈らせて下さいと申し出たのはジェネシスです。
「実は今日ここに、吟遊詩人が三人もいるのです」
 続けてそう言えば、皆はわぁっと手を打って喜びました。
 暖かな陽射しのなか、鯨の骨で作られたジェネシスの胡琴が明るい音色を奏でます。添えられるのは硝子のクラリネットから紡がれるヨルの音色。重なる音色が春の歓びを歌い始めれば、ツェツィーリアが柔らかな絹にも似た優しい歌声で音を包み込んでいきました。ヨルもクラリネットから歌へと移り、ふたりは互いに声を溶け合わせて幸せなハーモニーを作り出します。
 優しい気持ちを貰ったから、それを返したくて。
 暖かな春が皆のもとにあるように。
 楽しげなコーラスでスウが賑わいを添え、セッカも子供達と一緒に手拍子であわせます。
 即興で生み出された曲が少しずつ少しずつ膨らんで、優しく皆を包んで行く。そんな様子がとても素敵で、そっとヴァイオリンの音色を添えていたスノーは音の海に揺蕩うように目蓋を伏せました。

 空を見上げなくても、風を感じなくても。
 リップルクラットの春が聴こえてくるみたい。


マスター:藍鳶カナン 紹介ページ
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参加者:8人
作成日:2009/03/23
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